第19話

「で?その後どうなの?」


 俺はオカンに詰め寄る。場所は応接間だ。今後の事もあり、最近は俺の部屋で会うのは止める事にした。

 両親もその方が良いと言う。あらぬ誤解を招かない為に、と。俺もそう思う。


「順調よ~。前世と現世で医療を学んだ私の腕を信用しなさい」

 オカンはソファに脚を投げ出し、大あくびをしている。

「ゴロゴロしてんなよ。だらしないなぁ」

「こちとら、朝早くから夕方まで、コスに猫被って付き合ってんのよ。あんたの前でくらい好きにさせてよ」


 それを言われると、ぐうの音も出ない。いつまで経ってもオカンには勝てそうにない。


 コスタンツァ嬢が城に運び込まれて3日間は、不安で仕方なかった。オカンが昼夜問わず付きっきりで治療をする中、何も出来ず部屋で祈る日々。辛かった。

 その時に比べれば、今の空気は悪くない。


 だが、安心したと同時に考える。

 コスタンツァ嬢は麗なのか?

 俺達と同じ日に産まれたと言う事は、麗もあの日に死んだのか。


 いつか話せる時が来ると良いけど。


「コスはね。今、成長痛で熱が出て関節が軋んでるわ」

「え?俺も経験あるけど、結構辛いよね?」

「普通は辛いし痛いわよ。でもコスはそれを分かってないの。長年の虐待のせいね。体の感覚が鈍くなってる。良くないわ」


 長く接しているオカンには、彼女の状態が良く見えているのだろう。辛そうな表情をする。彼女の代わりに。


 コスタンツァ嬢を虐めてたあいつらを酷い目に遭わせてやりたい!それこそ生きてきたことを後悔するくらいに!

 

 そんな俺の様子に気付いたのか、オカンが俺に近づきデコピンした。

「昔の事を無かった事にはできないわ。それはとても残念だけど、仕方ない事よ。でも彼女は生きてる。これから彼女に素敵な思い出は作れるわ。私達がね」

 頷いて、オカンと視線を合わせる。生きる事が大事だと、オカンは良く言ってた。その通りだと思う。


「とりあえず、成長痛が落ち着けば、体の治療は終わり。ウルティモを抜く試練を受けてもらって、それからはあんたに任せるわ」


「ウルティモの方が先なの?」

「あんたとヴィアラッテアを見てると、ヴィアラッテアが、どれだけあんたを支えていたか分かるわ。今の彼女に必要なのは、絶対に裏切らないと思える相手なの」


「分かったよ。エスコートはどうする?」

「あんたで良いでしょう。ウルティモの主人を、ヴィアラッテアの主人が、エスコートするのはおかしくないでしょ」

「分かった。じゃあタイミングはオカンに任せるから、時期が来たら言って」

「了解。じゃあ今日は帰るわね」


 スッと立ち上がる。その顔はもう公爵令嬢だ。相変わらずだな。感心する。


 まだ婚約者だ。エスコートは必須だ。






◇◇◇◇◇◇◇◇





「ヴィアラッテア?安心した?」

[はい!良かったです]


 オカンを送り届けた俺は、自室でヴィアラッテアに話しかけた。ヴィアラッテアとは、あれ以来更に話すようになった。





 コスタンツァ嬢を救出した夜。俺はヴィアラッテアと話し合った。


 場所は俺のベッドの上。ヴィアラッテアを横に置き、寝転びながら話す。

 子供の頃は、良くこうやって話をした。


「じゃあ、コスタンツァ嬢の事をヴィアラッテアは知っていたって事?」

[はい。ご主人様とウルティモのご主人様がお産まれになった際に、私とウルティモにはそれぞれ神より神託が下されました。お前の主人が産まれたと]


「そうなの?じゃあ今までの、ヴィアラッテアの主人の時も、神託が降りたの?」


 ヴィアラッテアとウルティモが、神託を受ける事は有名だ。なぜならこの二振の剣は、神の啓示により勇者に仕えたのだから。


[いいえ?来てませんよ?]

「え?どう言う事!?」

[台座にいるだけだと退屈ですし、おしゃべりもしたいから、ある程度の魔力を持っている子供がきた頃に、自分から抜けてました]

「え?自分で抜けれるの?」

[はい!相手の魔力を利用すれば!でも私のそういう所が嫌だって、ウルティモに嫌われてしまって]


 予想外の答えに少し動揺する。どう考えてもヴィアラッテアが聖剣の割に奔放な気がするけど。


「だからウルティモの事は話さなかったんだ」

 気を取り直して話かける。最近はヴィアラッテアの違う姿が見れて、嬉しくもある。


[はい。嫌われてて、話しかけても無視されるばかりなんで]

「じゃあ俺はちゃんと#主__あるじ__#なんだね。良かったよ」

[はい、ちゃんとご主人様です。だから私の力を100%引き出せます!]

「あの小鳥も?」


[あれは申し訳ございません。ご主人様の力をお借りしてます。ウルティモのご主人様が、全く現れないので、どうしても探したくて、小鳥の姿で王都中を飛び回ったのです]

「彼女は魔力を感じないね。それが原因?」

[はい。見つけられたのも偶然です]


 小鳥の姿で王都を飛び回っている時に、虐待を受け、泣いている女の子を見つけた。かわいそうにと思って近付いた。見えないはずの自分の姿が見えたので、ウルティモの主だと分かったそうだ。

 それでも初めは遠くから見守るだけにしていたらしい。でも我慢できず近付いた。時には回復し、時には友として心を通わす日々を過ごしたと、ヴィアラッテアは話す。



[ここ最近はご主人様のお供でずっと一緒にいましたので、ウルティモのご主人様の所には行けませんでした。まさかあそこまで悪化してるとは]

「そうなんだ。あれ?じゃあなんでコスタンツァ嬢の事を知ったの?」

[それに関しては、ご主人様に謝らなきゃ行けないんです。許してくれますか?]

 まだあるのか……。剣なのに何故か上目遣いでおねだりしてる様に見える。仕方ない。ここは折れよう。


「別に大丈夫だよ?どうしたの?俺はヴィアラッテアを信じてる。だから何があろうと大丈夫だよ」


[実はウルティモが自分のご主人様の事を心配してまして、でも自力では動けませんから、私がご主人様の力を拝借してウルティモに渡していたんです。その力を借りて、ウルティモは自分のご主人様の様子を見に行って、木の実を届けたりしてたそうです。あの日はウルティモのご主人様の妹がいましたので、ご主人様の力を使って、妹の魂から波動を辿って自分のご主人様の様子を知ったそうです]


「え?そうなの。なんか疲れやすいなぁって思ってたけど」

 思い起こせば、俺だけやたら休憩を取っていた。体も怠かった。納得!


[はい、ご主人様と契約してる私は僅かな力で鳥になれますが、ウルティモとご主人様は契約していないので、かなりの力を頂きました]

「へーー。ちなみにどれくらい?」


[王都全体に8重結界を張るくらいでしょうか]

「………」


 王都全体に結界を張るには、聖魔法士が10人必要だ。8重結界だから80人分と言う事になる。

 莫大な魔法量を持っている俺は、一人で聖魔法士500人分の力を持っているとは言われてる。言われてるけど………!


 子供の頃から信じていた相棒を見る。ヴィアラッテアは無邪気な様子で胸を張る(様に見える)

[もちろん合間に癒しましたよ!]


「うん、、まぁ、そんな事は良いよ。コスタンツァ令嬢を助けられたなら安いもんだ」

 結果良ければ全て良し!だ。良い事にしよう‼︎


[以前にも助けて頂こうとしたんですが、あの時は上手くいかず]

「そうなの?」

[はい、ご主人様とウルティモのご主人様が会える様に誘導したんですが、ウルティモのご主人様が逃げ出してしまって]


「もしかして、東の1区で会った時?」

[はい]

「言ってよ!一言言ってくれれば、すぐ助けたのに!」

[鳥になって、ウルティモのご主人様に会いに行ってるのを秘密にしてましたし……]

 ヴィアラッテアが言い淀んどむ。まだ何かあるな?


「ヴィアラッテア」

 優しい声で笑顔で話しかけよう。ヴィアラッテアが言いやすい様に。


「秘密は、なしだよね?言って?」

[あの、怒りませんか?]

「怒らないよ。だから言って?」

 笑顔を作って見せる。


[ご主人様が変な術にかかっている間、これ幸いとウルティモのご主人様の元にずーっと行ってました!]


(やっぱり・・・)


 おかしいと思ってたんだよね。ヴィアラッテアがいるのに、原因は薬とはいえど、ずっと術にかかるなんて、おかしいなぁって思ってたんですよ。納得!


「じゃあ、その間はコスタンツァ嬢に回復魔法かけてたの?」

[はい、申し訳ありません]

「良いよ。だからコスタンツァ嬢に会えたんでしょ。逆にお礼を言うね。ありがとう。ヴィアラッテア」

[ご主人様!これからはずっとご主人様を守ります!]


 (うん、そうしてね!!)

 ヴィアラッテアの意外な一面が知れた日だった。

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