第13話

 母上に話した翌日。天気は生憎の雨だった。

 その為母上とオカンは、雨の滴り落ちるクリスタルドームでのお茶会となった。このクリスタルドームは俺の出産祝いとして俺のお爺様、先代の王に母上が賜ったと聞いた。

 薄い透明なガラスに囲まれた温室で、むせかえる様に咲き乱れる薔薇。クリスタルドームは徹底的な温度管理がされ、常に薔薇が咲いている。薔薇は母が好きな花だ。

 

 その中央にあるテーブルに、母上とオカンと俺がいる。


 母上はゆったりとした水色のドレス。胸元からレースが流れ、母上の華奢な体を飾る。

 オカンはスレンダーラインの黒いドレス。右肩から、足元にかけて銀色の刺繍が豪華に施されてる。もうドレスに俺の色は使用していない。分かってくれたのかと思い、ホッとする。

 俺はこの後に出席する王侯会議のために騎士服の正装で挑む。


 薔薇の香り、良い香り。

 温度、ちょっと暑い。

 湿度、ちょっと蒸す。

 紅茶、フレバーティーで美味しい。

 ケーキ、甘さ抑え目で良い感じ。

 居心地……最悪。


 そう、居心地は最悪。

 だってこの二人。俺の子育の話ばっかりしてるんだもん。子供の頃の話なんて覚えてないよ。居た堪れない。


 ちなみにこの世界の貴族は自分で子育てをする。だから俺は母上に育てられた。だから話に花が咲くのは当然かも知れないんだけど、赤ちゃん頃の話なんて赤面もので聞いてられない。


 オカンも自が出てきて、ほぼタメ語だし、母上もそれに合わせてきてる。

 母上、お願いだからオカンに影響されないで!俺の癒やしが消えちゃうから‼︎

 辛い。誰か助けて。


「アダル」

 渋い声で呼ばれ、その方向を向く

「父上」

 立ち上がり軽くお辞儀をする。オカンと母上も立ち上がり、カーテシーを繰り広げる。


「楽しんでいるところをすまんな。アダル、神託の事を先に話しておきたい。教皇も到着した所だ」

「承知しました。ではここで」

 オカンと母上に、軽く礼をし、父上に続く。


 後ろで再び盛り上がる声が聞こえる。

「父上、助かりました。あの空間には居づらかったです」

「だろうな」

 笑う父。父上とは今朝話をした。

 頑張ったな、と頭を撫でられた。この年で撫でられるのはちょっと恥ずかしいけど、でも嬉しかった。


 移動した先は、城内にある祭壇の間だった。狭い部屋だ。

 神々の名の神聖文字が4文字彫られた彫刻の前にある丸テーブルに着座する。質素な椅子が4つ。座るのは3人。俺と王と教皇だ。


「大丈夫ですか?お体に問題は?」

 俺は教皇に尋ねた。俺でさえ2日も寝込んだんだ。途中までとは言え、一緒に神託を受けたのだ。辛かったに違いない。


「ありがとうございます。アダルベルト王太子様のお陰様でなんとか」

 疲労の色は隠せない。まだあまり無理をさせない方が良い様だ。

 教皇は40歳。まだまだ男盛りだ。神託を受ける立場にあるので身体も鍛えてる。魔力量も多い方だ。それでも今回の神託には、耐えられなかった。


 いつも受ける神託は簡単な物だった。

(どこどこ地方で、地震による被害がある)とか。

(どこどこが、洪水により被害がでる)とか。

 今回の神託は二つ。やはり内容は良くない。


「教皇、あなたの受けた神託が聞きたい」

 父王が会話を切り出す。


「はい、王よ。ご存知の通り私が受けた神託は途中までです。そして私が受けた限りでは、一言です。つまり、(魔王が復活する)と」

「アダルは?」

 さすが王だ。顔色一つ変えず、俺を向く。


「少し違いますね。私が受けた神託では(魔王は復活している)でした。そして、(聖剣ウルティモの持ち主を探せ)と。この二つの神託に関係あるのかは不明です」

「聖剣ウルティモと魔王ですか。この二つに関係がないとは思えません。そして、私は神託が途中までですので、アダルベルト王太子様の神託が正しいでしょう」

 教皇がアゴを触る。不安なのだろう。


 魔王と言う者が存在していた、と歴史書にはある。魔王と俺の先祖である勇者が闘い、勇者が勝ったと。

 王家に存在する歴史書にも、これだけしか載っていないのは周知の事実だ。どう言った存在なのか。なぜ魔王と名乗るのか。どこにいたのか。容姿は?能力は?出生は?名前は?全ては闇に包まれている。

 オカンが信じていない気持ちも分かる。俺もヴィアラッテアがいなければ、神託を受けなければ、信じていなかっただろう。


「聖剣ヴィアラッテアは、その事についてはなんと?」

 父が俺の腰にあるヴィアラッテアを見ながら聞いてきた。

「ヴィアラッテアは魔王の事については一切語ってくれません。ウルティモについても教えてくれません」

 昔からそうだ。色々教えてくれるヴィアラッテアだが、この二つに関しては頑として口を割らない。


「父上、神託には続きがあります。聖剣ウルティモの持ち主は、私と同じ日に産まれた者です」

「なんと!ウルティモを扱える者がいるのか!と言う事は、魔力量も多いはず。なぜ今まで見つけられずいたのか」

「全ての国民に目が届いている訳ではありませんから、仕方ない事です」

 そう、あの時会えた、あの子の様に。


「ではアダルベルト王太子様と同じ日に産まれた者を集めて、聖剣を抜く試練を受けて頂きましょう。大聖堂には全ての国民の戸籍がありますから、これについてはこちらへお任せ下さい。アダルベルト王太子様。神託では男女まで分かりませんでしたか?」

「申し訳ない。そこまでは」

「いえいえ、私など最初の段階で気を失ってしまいました。それほどまでに、今回の神託は強烈でした。アダルベルト王太子様がおられて、本当に良かったです」


 確かにいつもキツイ神託だけど、今回は特にヤバかった。仕方ない事だ。神と人間では次元が違う。


 これから王侯会議でこの事を議論するのだろう。だが答えはここで決まった様なものだ。

 全国から集まる俺と同じ誕生日の人間。

 つまりオヤジである可能性のある人間とも言える。

 なんとかして、オカンを同席させてやろうと心に決めた。

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