救世主・アインシュタイン

シロいクマ

救世主・アインシュタイン

人類が地球を出て、他の恒星系の惑星に移住するためには幾つかの技術革新が必要だった。


1つは光の速度を超えた航法、ジャンプだ。

他の恒星系にある惑星に行こうとすると、距離が邪魔をする。

単位が光年だから、時速やマッハじゃ桁が足りない。


それとビッグバンも邪魔をする。

ビッグバンのせいで宇宙は膨張し続けている、今この瞬間も。


他の恒星系にある惑星へ行くのは、川を流れるボートとボートを移動するのに似ている。

川の流れは速くて、幅がドンドン広くなるイメージだ。

隣のボートは、最初は手が届きそうなんだが、気が付けば遙か彼方に去っている。

そんな感じだ。


数光年、数十光年離れた惑星に到達するのには、光速を越える移動手段が必須だった。



1つは通常空間での高速移動手段。


ジャンプが発明され、現実として光速を超えることが可能になった。

しかし、大質量( 例えば恒星とかブラックホールとか )付近では使えない事が判明。

同じ恒星系の隣の惑星に行くのに、何ヶ月も掛かってるんじゃ話にならない。

ジャンプが使える外宇宙に行くのに、何年かかるんだって話だ。



最後は通信手段。

これはジャンプより簡単だったらしい。

超空間に物質を通せるなら、信号だって通せるってことだ。




モンステラ級 一番艦 戦艦アインシュタイン。

人類が初めて手に入れたジャンプ機関を備えた戦艦、その一番艦だ。

艦歴は既に70年を超えている、本来なら廃艦になるべき古い艦だ。


光速の数10%での航宙に必須な、最新式のシールドを装備していないため物理装甲は最新艦より厚い。

そして物理装甲が厚いがゆえに、速度は70年前のまま遅い。


人類が3番目の惑星に移住を開始した頃、ヤツらと遭遇した。

人類が初めて遭遇した異星人である。


幸いさいわいだったのは言葉が通じたこと、不幸だったのは言葉が通じたこと。


『 お前達は我々の食料でしかない 』 ヤツらは、地球人に対してそう言い放った。

当初は全く違う意味なのかと思われた、異星人の言葉なのだから。

しかし、その後のヤツらの行動で、その言葉は全くの真実だと誰もが理解した。


更に不幸だったのは、ヤツらは10数個の植民星を保有していたこと。

人類は地球を除けば2つ、生産能力が段違いだった。

唯一の救いは、科学技術がほぼ同じだったこと位か。




戦艦 アインシュタイン、艦橋。

その指揮官席に私は座っている。

メインモニタには戦術マップ、敵艦隊の推定位置・・・・が表示されている。


通常空間で光速を越える移動手段は確立されていない。

こちらもヤツら・・・もだ。


通信手段は光速を越えられるが、観測手段の主力の電磁波等、光に基づく観測手段は光速を越えられない。

電磁波が、宇宙空間ではほぼ・・光速であってもだ。


光速の50%で移動する敵艦を、電磁波で探知したとする。

その反射波・・・・・が自分の元に帰ってくる間も、敵艦は進んでる。

10秒掛かれば敵艦隊は5光秒進むから150万km、60秒掛かれば30光秒進むから約900万km移動している。


だから敵艦隊の位置は推定になる、目に見える位置の敵艦は数十秒前の敵艦だ。

今は・・そこに居ない。

観測された位置は判る、そこに様々なデータ掛け合わせて、敵艦の現在・・の位置を推定する。


地表における、天気図の台風の現在地と数時間後の予測円と思えば良いだろう。

敵艦の観測空間と光が届く時間を元に、移動可能な範囲を絞り込む。


真っ直ぐ進んでくれるとありがたいが、それは軍人のやる事じゃない。

イノシシにでもやらせておけば良い。


逆噴射で停止して、全く異なる方向に進むのもあまり考慮されない。

亜光速で移動していて逆噴射で減速する、亜光速を出せる機関で停止するまで逆噴射。

そんな加速度に耐えられる生命体は確認されていない。

慣性制御の技術は、こちらもヤツら・・・も保有していない。



「 司令、失礼します 」


「 どうした艦長 」


「 統合宇宙軍司令部より入電です 」


「 読んでくれ 」


「 ・・・・・・ 」


艦長が司令室内を見る。

聞かせたくない内容も入ってるって事だろうが、今更だ。


「 読みます! 発 統合宇宙軍司令部  宛 114艦隊司令  フェニックス計画のタイムスケジュールに遅れ無し。 貴艦隊は現宙域を死守せよ 」


「 ・・・・・・それだけか? 」


”死守せよ” なんて、最近じゃ当たり前になってるセリフだ。

連戦連敗、それが地球の現状だ。

艦船の数が何時も10倍以上じゃ、戦う以前の話だ。


「 それと、統合宇宙軍司令長官より個人的なメッセージがあります 」


俺は艦長を促す、隠し事なんかしている場合じゃ無い。


「 ”頼む” と 」


「 よろしい。 頼まれようではないか 」


どのみち後は無いのだから。




参謀と作戦の最終確認と準備中、艦橋への出入り口付近騒がしくなった。

艦内における最高責任者は艦長だ、従って対応するのは艦長で司令部の仕事ではない。


「 戦闘行動中である! 何事か! 」


「 は! この男が 『 上申しま~す! 』 」


警備兵のスキをつき、近付いてきた男が叫ぶ。

階級証は少尉だが見覚えがない。

今回の作戦に合わせて、急遽配属された新人だろう。


『 上申 』 もっと良い作戦案があるから訊いてね、って事だ。

つまり、今の作戦案に不備があるって言ってる事になる。

作戦行動中に上層部批判、本来なら厳罰である。


「 話を聞こう 」

「 司令!! 」


「 現状を打開できる可能性があるのなら、聞く価値はあるだろう。 違うかな? 」


参謀と艦長を見る。

反対意見は無いようだ、少尉の言動を見る限りさほど意味も無さそうだが。




「 つまり君は、現宙域を放棄して転進しろと言いたいのか? 」


「 その通りです。 敵との艦船数は約10倍、更に敵艦隊は最新鋭艦を揃えてきています 」


「 ・・・・・・ 」


戦術モニタを見れば、誰でも判ることだ。

最新鋭艦は大型で判別は容易だ。


「 敵最新鋭艦のエネルギー砲は、射程と装甲貫通力はこちらと大差無いものの、毎分2発こちらの2倍撃てます。 従って、実質的な戦力差は20倍になります 」


最新の、戦況報告書に目を通していれば判ることだ。


「 転進後は、フェニックス計画の護衛艦隊と合流し 『 どこへ転進すると言うのかね? 』・・・ 」


若さ故の過ちなら経験として将来役にたつ、本気で反省してくれたらだが。

だが、バカさ故の過ちは何ともしがたい。


「 ですから、フェニックス計画の艦隊と合流し 『 君は、自分が何を言っているのか理解できているのか? 』 」


「 もちろん理解しています。 このままでは無駄死にです、ですから・・・ 」


これまでだな。


「 艦長 」


「 は! 少尉を拘束しろ 」


頭が痛い、あんなバカが少尉とはな。

宇宙軍の損害が大きいとはいえ、これでは勝てるはずもない。

『 無駄死にだ! 』  『 他に手は無いですよ! 』  騒ぎながら連行される元少尉。


「 司令、失礼しました。 彼は・・・ 」


「 お坊ちゃまなのだろう? 」


「 はい、川立重工の長男だそうです。 会社は次男が継ぐそうで 」


出来の悪い長男か。


「 地球に送り返せ、脱出ポッドで充分だろう。 ああ、司令部には連絡しておいてくれ 」


「 了解しました 」




フェニックス計画。

無作為に選出された者達を載せた移民船団に護衛をつけ、どこかの居住可能な惑星を目指す。

人類の存続をかけた計画で、人類の再生を賭けてるからフェニックスなんだとか。

居住可能な惑星が有るかどうかは運任せ、と言う何とも雑な計画だ。


ちなみに、人類の90%以上は船に乗れない。


フェニックス計画は現在最終段階にきているが、敵の進出速度が想定よりやや速かった。

このままでは、予定していた移民船の23%が乗船できない。


我が艦隊の使命は、火星近傍の宙域にて敵を撃破、あるいは足止め。

連戦連敗が続く現状では、残りが脱出するまでの時間稼ぎすら出来るか判らない。


こちらの最新鋭艦は、全てフェニックス計画の護衛に回っている。

退役しているはずの戦艦アインシュタインが旗艦になっているのは、そういう訳だ。

乗員も殆どが年寄り、退役軍人の寄せ集めだ。


「 転進すると言ってもな 」


艦隊の後方を写してるモニタを見る、青い地球が映し出されている。

地表からは次々とシャトルが飛び立ち、衛星軌道上の移民船に向かっている。

計画通りであるなら、あと12時間は必要となる。


敵の位置は木星近傍、ココを抜かれたら地球までは10分だ。

状況は絶望的と言っていい。

『 可能な限り耐久 』 して、後は司令部に任せるしか無い。 

転進なんて出来るわけが無い、後が無いのだから。



『 木星近傍にて敵艦隊発見! 数は約200、マーク25にて航行中。 監視衛星からの情報です! 』

『 戦術マップを更新しました。 現速度で会敵まで2時間 』

『 統合宇宙軍司令部に情報を転送しました 』


「 司令! 」


「 予想通りだな 」


敵艦隊はマーク25、すなわち光速の25%で航行している。

距離は約30光分、真っ直ぐ地球に向かっているから到達まで2時間。


最新鋭艦を揃えてきたようだ、こちらの母星を攻撃するのだから当然か。

こちらは旧式艦のみ20隻、別働隊と補給艦を含めても30隻だ。

戦力比を考慮すれば余計な作戦は不要だろう。

敵は真正面からぶつかるつもりの様だ、私でもそうするだろう。


「 作戦開始だ。 第2艦隊に指令、敵艦隊の頭を抑えさせろ 」

『 第2艦隊に指令を送信 』


宇宙空間には様々なモノが浮遊している。

光速に近い速度で航宙すると、それらのモノで船体にダメージを受ける事がある。

速度が速ければ速いほどダメージは大きくなる。


最近では艦首にフィールドを発生し、これらのモノから船体を防御する。

艦隊で行動する場合は最も強力な艦が先頭となり、何隻かの艦と共同で艦隊の前方にフィールドを形成する。

側面までカバーできれば良いんだが、エネルギーが有り余ってる訳じゃ無い。


つまり、側面と少なくとも背面はガラ空きだ。

第2艦隊に頭を抑えられるのを嫌って変針してくれれば、第1艦隊が側面を撃てる。

もう1つ秘策も用意してるが、上手くいくかは神頼みだな。


「 第2艦隊データリンク完了! 」

「 第2艦隊加速を開始! 」


加速特性は、艦種や機関の調子で大きく異なる。

艦隊陣形を保ったまま、亜光速まで加速するためには、艦隊全艦の同調加速が必須となる。


被弾したり、機関の調子が悪い艦は戦列を離れる。

速やかに戦列を離れないと味方同士で衝突する事になる、亜光速での衝突は艦にとって致命的だ。


「 第2艦隊変針を開始、敵艦隊側面後方より接近します! 」

「 第2艦隊 マーク65に到達。 敵艦隊との距離約20光分、有効射程まで約30分! 」


敵艦後方にはフィールドは無い、こちらの攻撃は通るだろう。

このままいけば、ちょうど第1艦隊の有効射程で挟み撃ちできる。

数が少ないから、そのまま突破されるだろうが。


「 敵艦隊増速を開始しました! マーク51・53・56 加速早い! 」


「 指令! 」


「 流石に最新鋭艦だな、見事なものだ 」


敵艦隊は、陣形を保ったまま加速を続けている。


「 敵艦隊マーク75に到達、更に加速を継続 」

「 第2艦隊遅れています! 第2艦隊追いつけません! 」


「 司令! 」

「 まだだ 」


使えるのは一度だけ。

第1艦隊に有利な状況に持って行く必要がある、私は司令官席の戦術モニタを操作する。

最適なタイミングを見計らう、最後はカンになるんだが。


「 敵艦隊マーク80! 速度を保って直進してきます! 」


「 第2艦隊に指令、 魔道ブースターの使用を許可する 」


「 はっ。 第2艦隊に指令、魔道ブースターを使用。 敵艦隊を追いかけさせろ 」


「 第2艦隊データリンク良し、魔道ブースター点火を確認 」

「 第2艦隊加速開始 」

「 第2艦隊、マーク81・84・87・・・ 」


魔道ブースタ-は、魔力を使っているらしい。

今までに無い、強大な推力を得る使い捨ての推進機関だ。

何度か試験に立ち会ったが、原理がサッパリ理解出来無かった代物だ。


原理はオッサンには理解出来無かったが、使えるのは判った。

今はソレで充分だ。

今回の作戦のために、魔道ブースターを第2艦隊の全艦に仮設で取り付けた。

強烈な加速度が掛かるため、第2艦隊は遠隔操縦とAI操縦による無人艦隊となっている。



「 敵艦隊、更に加速しました! 」

「 第2艦隊加速を継続中、ブースター燃焼終了まで180秒 」


「 司令、敵艦隊との距離はそれほど縮まりませんな 」


「 想定内だが、敵の最新鋭艦の情報を修正すべきだな 」


「 手配します 」


敵艦隊の加速が、事前情報より20%ほど早い。

戦術リンクを使用した同調加速だろうから、単艦ならもう少し早くなるはずだ。

今後のため、司令部に情報を送信して情報を共有しておくべきだろう。

地球に、今後が在ればだが。


「 敵艦隊、加速を継続! 現在マーク90・91・・・92・・・9・・・3 」

「 第2艦隊遅れています! 」


「 司令! 」


食い入る様にモニタを見ていた参謀が、笑顔で振り返る。

ヤツらにはアインシュタインは居なかったようだ。


「 艦長。 初手はこちらが頂こう 」


「 はっ! 全艦砲撃開始! 」


有効射程は約10光分だ、最初の攻撃で出来るだけ敵を減らしたい。

地球に近い分、こちらの衛星による監視網は充実している。

そのお陰で敵艦隊の位置情報はかなり正確なはずだ、後は砲術士官の腕に期待するとしよう。


「 敵艦隊フィールドを解除 」

「 砲撃が来るぞ! 衝撃に備えろ! 戦術機動開始! 」

「 敵艦発砲! 衛星情報です! 」


距離は11光分まで詰まっている。

敵のエネルギー弾到達まで11分、こちらは何隻残れるか。

地球の運命を握る11分だ。



宇宙での戦いにミサイルは使用されない。


大気圏内であれば有効なミサイルも、宇宙空間では軌道を変えるのに苦労するからだ。

僅かばかりのスラスターでミサイルの向きを変えても、向きが変わるだけ。

そのまま直進してしまう。


向きを変えるためには、ミサイルの重心を通る直線上に配置したスラスターを噴射する必要がある。

噴射している間は継続して向きを変えられるが、噴射を止めればそのまま直進だ。

ターゲットに誘導し続ける為には、スラスター用の燃料が大量に必要になる。


大気圏内で使用されるミサイルは、ブースターとサステナー・誘導部・弾頭で構成されている。

弾薬でターゲットを破壊するのだが、ミサイル全質量の内で弾頭は20~30%程度しかない。

スラスターを大量に搭載すれば、弾頭は更に少なくなる。


そして、航宙艦は艦内の空間に制限がある乗り物だ、ミサイルが使われなくなるのは当然だろう。

誘導部が無い物も在るが、それはミサイルではなくロケット弾になる。


「 司令 」


「 どうした艦長 」


「 敵の第2射が来ません。 何かの策でしょうか? 」


「 いや。 敵は全力で砲撃しているさ 」


「 しかし、敵最新鋭艦は毎分2発の砲撃が可能なはずです 」


戦術モニタを見る、敵艦隊速度はマーク97と少しで揺れている。


全力・・で砲撃しているさ、彼らの時間・・で、だがね 」


「 どう言う事でしょうか? 」


「 アインシュタインだよ 」


敵艦隊はマーク97で航行している、光速の97%だ。

そこまで加速してしまうと、空間における時間経過が遅くなる。

毎分2発、30秒で1発撃てるエネルギー砲も、マーク97では2.05分で1発しか撃てない。


「 それにだ。 ヤツらの砲撃は当たらない 」


第1艦隊はデーリンクを駆使して、スラスターのみで移動してる。

地球とヤツらの間で、ほぼ静止している。


距離はまだ8光分有る。

ヤツらが、こちらが移動したのに気が付くのには8分以上掛かる。


気が付いてから、判断し、命令し、命令が実行されるだろう。

だが、再照準にも時間が必要で、進路変更はもっと時間が必要になる、ヤツらの・・・・時間でだ。


「 彼らは我々の過去に向かって射撃している、今の我々には当たらないさ 」



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「 ・・・このあと、輸送艦で運んできた宇宙機雷を、敵艦隊の前方に大量に散布したの。 突っ込んだ敵艦は全滅、そして地球は救われたのよ 」


私の前には士官候補生51期の第4班の子供達が居る、まだ12歳になったばかり。

戦場に出るには、あと5年ほど教育が必要でしょうね。


「 教官! 」


「 なにかしら? 」


「 早く動いちゃダメなんでしょうか? 例えば、目見も止まらない早さで敵の後ろに回り込むとか! 」


「 そうね~。 目にもとまらない速度って、どの位なのかしら? 」


「 消えたように見る位の早さです! 」


「 それは、止めた方が良いわね~ 」


子供達が騒ぎ出す。


「 はいはい、静かに! いいですか~、昔、まだ大気圏内で航空機同士の戦闘があった時代の話です・・・ 」


亜音速でのドッグファイトでは、時速700~800kmで戦闘機動を行っていた。

相対速度は、ヘッドオンなら時速1400~1600kmはマッハ1.2程度になる。


テールチェイスなら、相対速度は極端に遅くなるけれど。

それでも、肉眼で追いかけて戦闘していた。


「 だから、目に見えない速度って言うとね~、音速の10倍以上は必要でしょうね~。 もっとかもしれないわね~ 」


「 じゃあ、その速度で! 」


子供は純粋ね、微笑んでしまう。


「 もしそれが出来たら、武器は要らないでしょうね~。 ソニックブームがあるから 」


音速を超える際には必ず発生する衝撃波だけで、ターゲットに充分な損害を与えられるから、武器は必要無いでしょう。


「 え~~~。 じゃあもっと早く、ソニックブームが来る前に後ろに回り込んで、こう一撃で・・・ 」


1人が立ち上がって、剣を振る真似をする。

近代戦でも、近接戦闘は身につけるべき技術では在るけど。


「 それも止めた方が良いわね~。 その時の衝撃に耐えられる物質は、まだ見つかっていないもの~ 」


そのうち見つかるかも知れないけど、それでもやらない方が良いでしょう。


高速移動中に剣で攻撃すれば、剣を振るだけで衝撃が発生する。

剣がターゲットに当たったら、もっと凄い衝撃波が発生する。


仮に剣は耐えられても、人間の肉体ではその衝撃に耐えられない。

自爆覚悟の特攻なら別だけど、子供達にやらせたいとは思わない。


「 はい! 」


「 なに? 」


「 戦艦アインシュタインって、そんなに強かったんでしょうか? 改造して、秘密兵器を搭載してたりしたんでしょうか? 」


「 いいえ~。 戦艦アインシュタインは旧式よ~ 」


「 でも当時のニュースで司令官が、『 我々にはアインシュタインが居たから勝てた 』 って言ってました 」


「 アインシュタインは、有名な科学者の名前よ~。 戦艦は彼から名前を貰ったの~ 」


当時、敵側の残骸は徹底的に調べられた。

戦略上や戦術的に重要な情報は、全て破棄されていたけれど、個人のメモリはそれなりに残ってた。


読書用の本、ゲームソフト、漫画やアニメを調べて奇妙な事が判明した。

ヤツらの世界には、アインシュタインの提唱した理論が存在していない可能性があると。


それに気付いた司令官は、理論が無いものとして作戦を立案した。

誰もが、そんなハズは無いと思っていたけれど、それに賭けるしかなかった。

賭けの結果は人類の勝ち。


「 アインシュタインの理論は~、戦闘に対する影響が大きかったの 」


軍部はもちろん、全ての政府機関と民間企業が協力して、アインシュタインの理論を秘匿した。

学べるのは士官候補生以上の幹部だけ。


「 あなたたちは~、今回の実習でその理論を学ぶことになるわ。 楽しみにしててね~ 」


ちょっと前までは、理論を学んだ者には自爆装置が埋め込まれた。

ヤツらに情報を渡す位なら、ってヤツね。


非人道的だと誰もが判って居た。

でも、そうまでして秘匿しないと、人類がヤツらの食料になってしまう。

そして当時、その可能性はとても高かった。


「 だから、それじゃダメだって! 」

「 何でだよ?! 」

「 高速で移動してるんだから、剣を振り下ろす速度は遅くしないと! 」

「 何でだよ! 高速で振り下ろせるだろ! 」


「 あなたは何を聞いてたの? 早くなればなるほど、時間経過が遅くなるのよ! 剣を振る速度も遅くなるの! 」

「 いつもと同じだろ! 」

「 あなたはね! 止まってる方からみたら遅くなるの! 」


数人の子供達は、まだ近接戦闘の議論をしている。

ターゲットの後ろに、高速で回り込んで一撃で倒すつもりみたい。

移動速度が早ければ早いほど、剣がターゲットに当たるまでの時間は遅くなるのに。


電子音。


『 アテンション。 本船は、あと30分ほどでマーズポートに到着致します。 どなた様も、忘れ物の無いようご準備下さい。 当地の天候は晴れ・・・ 』


柔らかい女性の声。


「 は~い皆さん注目~。 まもなく卒業試験の火星に到着します、10分以内に荷物を持ってラウンジに集合。 いいですね~ 」


自分の部屋に戻っていく子供達。

ラウンジのモニタでは、5回目の宙戦に勝利したと報道している。

決戦となった戦闘に勝利したことで、ヤツらの植民星を8個まで開放できたみたい。


「 残り2つ。 あの子達の出番は無いかも知れないわね~。 その方が良いんだけど 」


わたしも、そろそろ下船の準備をしないと。




-------end

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