第23話

~少し時は遡る~


「お前……北国出身なのか」


「ああ、そうだが」


そう答えると、男はガシッと手を握ってきた。動きが早く、反応できなかった。

この瞬間、俺の直感が「こいつは普通の人間じゃない」と感じた。


「おお、良かった!仲間がいた!!」


「仲間……?」


でも、心底嬉しそうな表情を浮かべる男。

……まだ警戒する必要はないだろう。

まぁ、反射で少し半歩下がってしまったのだが。


「実は俺も北国出身なんだよ」


「そ、そうなのか?髪の色が違う気がするが」


俺がそう問うと、男は髪を少し持ち上げる。


「白髪だと目立つから髪を染めてるんだよ、ほら」


確かに外の髪の表面は赤色に染められていたが内側は白色だった。


「へえ……」


「まぁ、こんなところで立ち話もなんだ。1杯付き合ってくれよ」


そういうと肩をガシッと組まれて、街に入ろうとする男。


「ちょ……俺は今、人を探してるから……後にしてくれ」


俺は何とか踏ん張ってその場に留まろうとするも、少しだけズルズル引きずられた。

男は俺の言葉を聞くと歩くのをやめて、こちらを振り返る。


「人?」


「ああ。だから、悪いな」


「なら俺も手伝うぜ?」


「え?」


「せっかく同じ国出身の奴に会えたんだ。ここで別れるなんて勿体無いだろ?」


そう言ってニッと笑う男。

……何となく、罪悪感があるが……。まぁ、ここまで言ってくれるなら、言葉に甘えるとするか。


「じゃあ、頼む」


「おう、任せとけ。……そうだ、名前言わないとな。俺はテオだ」


そう言うとスっと右手を差し出される。

俺は左手でその手を掴み、握手する。


「ベラだ」


一応偽名を名乗っておく。まだ信用出来ると決まったわけではないからな。


--------------------

~エルフの里付近~


「おい、準備はできたのか?」


レノウスが数人の魔術師を連れて鬱蒼とした森に身を潜めていた。高い木によりできた影が周囲を薄暗くしていた。


レノウスの問いに1人の魔術師が頷く。


「それにしても、まさかゴルゴスが殺られるなんてな。まぁ、ゴルゴスを殺ったって言う魔法使いの連れは拘束しておいた。これで多少は殺しやすくなるだろ」


あの方が目指す独占王国計画を邪魔するやつは殺す。殺して殺して殺しまくる。反対したやつも皆殺しだ。これで何人もの一般人を殺すことになってしまったが、構わない。


全てはあのお方のために。


「さて……殺戮パーティーの始まりだぁ……!」


────────────────────


気配探知を周囲にかけるも、やはり森の中ではアーシャとリディの反応がない。俺が「豪水」の魔王のところにいる間にエルフの里に着いていると思ったんだが……一体どこに?


「やっぱりいないか?」


テオがそう聞きながらこちらに戻ってくる。

俺は首を縦に振り肯定する。


「んー、ここら辺もいないとなると一体どこにいるんだ……?」


「でも、エルフの里に行くならここのルートが1番通る可能性が高いんだ。どこかにいるとは思うんだが……」


そうして辺りを見回す。

改めて見ると、随分鬱蒼としている森だ。静かで、薄気味が悪い。風も冷たく、寒気がする。


この感じ、この雰囲気はどこかで感じたことがある。そう、まるで俺の村が破壊される前みたく……。


「っ!?おい、後ろ!!」


咄嗟に殺気を感じ、テオを見ると後ろに巨大な剣を構えた、ゴブリンの魔物が立っていた。まずい、魔法の発動が間に合わない。


「■■■■■■!!」


グオン、と剣が振りかぶられる。





だが、それはテオに当たることは無かった。






「そんな殺気出したらよ、不意打ちも意味がないだろ?」


テオは片手で、ゴブリンの攻撃を軽く受け止めていた。表情は、笑っている。


「剣を素手で……!?」


そして、ビキバキ……と音がしたと思うといかにも硬そうだった剣が、派手な音を立てて砕け散った。


「■■■■■!」


動揺した様子を見せるゴブリンは、テオに向かって拳を振り上げる。だが、そこには既にテオの姿はなかった。ゴブリンの頭の真後ろに回り込んだのだ。


轟速脚ごうそくきゃく


体を宙でひねったかと思うと、技名通りの轟速で、蹴りを頭に直撃させた。

クリティカルヒットした蹴りは、ゴブリンの頭をいとも容易く吹き飛ばし、その頭は木に直撃し鈍い音を立てて潰れた。


「………強い」


大きな音を立てて倒れるゴブリン。その上にテオは軽々着地する。


「こう見えても、結構強いんだぜ」


ニッ、と笑うテオ。俺は「結構どころじゃないけどな」と苦笑いを浮かべた。


「ま、俺がいる限りはお前は死なねえよ」


「それはありがたいけどな」


ほんとうにありがたい。もしテオが敵として登場していたならば俺は勝てるかは分からない。正直、五分五分といったところだろう。


「……まだ来るな」


気配探知に魔物が引っかかった。それも、大量に。というか、湧いてきてないか?どんどんその数が膨れ上がっていく。


「まじかよ……」


テオも動揺した様子を見せる。


「この先にはエルフの里がある……死守しないとな」


リディアの故郷であるエルフの里。絶対に破壊させる訳にはいかない。


俺は雷装エレキウォームを発動させ、テオも魔力を身に纏い、迎撃体勢をとる。


「行こう」


「ああ」




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