第17話

「か、体が……動かねえ……」


斧の勇者は何が起こったか分からず、混乱しているようだ。


『さて、どうやって殺されたい?』


そう問うたが


「俺を殺しても無駄だぜ……何せあのお方の力を貰ってるんだからな……」


勝ち誇ったような気持ち悪い笑みを浮かべてきた。でも、残念なことにこちらは既にそのことは把握しているし、対策も練ってある。


『フルヴィオのことか?』


「は……?なぜお前がそれを……?」


『不死の力で何度でも蘇るんだろう?だとしたら、それは無意味だ』


斧の勇者は顔がみるみる青くなっていく。

どうやらようやく自分の置かれた状況に気づいたらしい。


『さて、もう一度問おう。どうやって殺されたい?』


「はっ……お前が俺を殺す……?舐めるんじゃねえぞ」


言葉とは裏腹に表情はかなり焦っているように思える。


『そうか』


指をシュッと動かし、雷の槍を突き立てる。


「ぐああああああああっ!?」


『お前の声を聞くと腸が煮えくり返る。……もう、消えろ』


普通に殺しては無駄だ。完全回復し、何度でも甦る。それが不死の魔王の力。だが、我の魔剣「グラム」でとどめを刺せば話は別だ。この剣は時空を操る。故に、刺した相手の時を戻すこと、不死の魔王の力を得る前に戻すことが可能なのだ。


ドスン


心臓を貫く。斧の勇者の時が、戻る。


「ぐ、ぐぉぉぉぉぉァァァァァ!!」


斧の勇者の体が禍々しい瘴気に変わり、一気に噴出する。これが不死の魔王の力の源か。


『貰うぞ、その力』


手をかざし、瘴気を吸収する。


ズズズズズズ………


『……これでベルももう死なずに済むだろう』


1つ目の問題は解決した。あとは、フルヴィオに対抗できる力をつけるため、各地の魔王から力を授かればいい。そして、同時並行で勇者を殺す。


パキキ……、と結界が解ける。


さて、そろそろ元に戻るとするか。


ゆっくりと目を閉じる。


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「おい……リディア……?……アーシャ?」


血の海がある。


そこには、二つの死体が浮かんでいる。


「あ、ああ……」


ズブブ……と死体が沈んでいく。


「待て、いかないでくれ……!」


完全に、沈む。


俺は力が抜けたように、その場に膝をつく。


「ぁぁ……ああ……うああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


ただひたすら、自分の無力さに泣き叫ぶ。


涙が溢れて止まらない。


大切な人を次々に奪われた……。もう、絶対に許さない……勇者レオノス……絶対に許さない、絶対に許さない、許さない許さない許さない……!


「殺してやる……、絶対に」








「っ!?」


ハッと目を覚ます。


「何だ……今の。夢……?」


だとしたら、あまりにも鮮明すぎる。なんだったんだ一体。


「だ、大丈夫?」


声が聞こえた方向に目を向けると、斧の勇者の傍にいたエルフの少女だった。心配そうな顔をしている。


「ああ。……というか、どうして君がここに?俺は確か、斧の勇者と戦ってたはずが……」


俺がそう問うと、エルフの少女は首を傾げる。


「斧の勇者様ならベルお兄ちゃんに倒されたよ?覚えてないの?」


「……そうなのか」


正直、全く覚えていない。この子を庇って意識を失った所までは覚えているが。というかなんだ。ベルお兄ちゃんって。


『我が殺しておいた』


(お前が……?)


『全く、お前がこのエルフの少女を庇って倒れてくれたおかげで手間がかかったぞ』


クロノスは呆れた声を出す。


(それは、悪かった。反射的に体が動いていた)


そうクロノスと会話していると、エルフの少女が再び不思議そうにする。


「どうしたの?」


「あ、ああ。何でもない。……というか、ここは?」


俺が問うと、少女はすぐに答えた。


「地下街の上にある街。あの後、地下街から沢山の人が出てきたからおっきい騒ぎになってた」


「は、はぁ……」


まぁ、あれだけ派手に暴れたからな。騒ぎになっていないとおかしいが。


ドアがガチャりと開き、アーシャが部屋に入ってくる。


「目が覚めましたか?」


「……ああ。どのくらい寝てた?」


「半日くらいでしょうか」


傷の割に案外長くは眠ってなかったんだな。


「それでアーシャ、この子はどうしてここに」


「パベル様に頼みたいことがあるそうですよ」


「頼みごと……?」


少女はコクンと頷く。


「その、奴隷として斧の勇者様に連れて行かれる前、ここから南西にあるエルフの里に住んでたの。だから、そこまで連れて行って欲しい……」


俺(正確にはクロノス)が斧の勇者を殺した今、少女が奴隷として仕える相手はいなくなった。なので、故郷に戻って親と再会したい。そういうことだろう。


「わかった、そうしよう」


「うん!」


パァァ、と顔を輝かせる。だが、彼女には奴隷として扱いが酷かった過去があるのだ。あまりそういうことを思い出させないようにしよう。


「そういえば、名前まだ聞いてなかったな」


「えっとね……リディア。リディ、って呼んで」


リディアという名前を聞いた時、何故だかは分からないが、何だか懐かしく感じたような、そんな気がした。


「どうしたの?」


「何でもない。とりあえず、明日はアーシャと一緒に服とか、道具とかを買いに行ってくれ」


「パベル様は来ないのですか?」


「ちょっと野暮用を思い出したんだ。終わったらすぐに合流するよ」


「分かりました」


リディアは何かを理解していない様子だが、アーシャは目的を察したらしく、すぐに頷いてくれた。さて、明日に備えて準備を進めるとしよう。













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