第16話

「あの子を隙を見て無理矢理にでも俺の後ろに持ってきてくれ。あのままじゃ、斧の攻撃に巻き込まれる」


「了解しました」


私はそう返事をすると、地を強く蹴り地下街に紛れ込む。どうやら勇者はベルだけに気を取られているようで、気づいてはいないようだった。


私の目的は、エルフの少女の動きを封じること。おそらく彼女は自身の思いを抑えつけ、今まで戦闘奴隷として使われてきたのだろう。


家の外壁を蹴って、屋根に着地し、彼女の元へ急ぐ。


「!」


斧の勇者の範囲攻撃だろうか。衝撃波が飛んできたので、ギリギリのところで回避する。後ろの建物が音を立てて崩壊する。


(この距離でこの威力………!……あの子は!?)


砂埃が舞ってよく見えない。彼女は、無事だろうか。


そして、砂埃が収まった時。私の目に映ったのは。


「……パベル様!」


エルフの少女を庇って、攻撃をもろに受けた……パベル様だった。


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私は戦闘奴隷として酷い扱いを受けてきた。

今まで、ずっと斧の勇者様の言いなりだった。私はことある事に斧の勇者様を護ってきた。私が嫌だと言っても殴られ、蹴られ、結局は従わせられてる。


「あの人たち……強い」


今もそうだ。謎の2人組が斧の勇者様を

殺そうとしてきた。


でも、あの二人は何かが違う。今までの人たちとは、何かが違う。


男の人は斧の勇者の攻撃をもろに受けたのに今も立ち上がって戦ってる。あの人なら、もしかしたら。でも。


「ボケッとすんじゃねえぞ!戦え!」


心の中に斧の勇者の声がズキン、と響く。実際には何も発していないのに、本能がそう感じている。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


私は男の人に向かって手を向ける。魔法を発動しなきゃ。斧の勇者様を守らなきゃ。そうしないと、また殴られる。痛いのはもう嫌だ。


「あれ……?」


なんだろう、魔力が。斧の勇者様の所に集まってる?


「っ!お前、あの子も巻き込む気か!!」


男の人が叫ぶ。


巻き込む?


あの子って……私?


私は巻き込まれるの?何に?


斧の勇者様の……攻撃に?


何で?どうして?


殺されないために必死にやってきたのに。


頑張ったら村に返してあげるって言われたから、頑張ってたのに。


ここで私、死んじゃうの?


斧が振り上げられる。


この瞬間私は、自分の死を覚悟した。


ドゴォォォォォン!!!


………?


音が鳴ったのに、攻撃が来ない。


「へ?」


気づけば、温もりに包まれていた。


……私の目の前には、あの、男の人がいた。


「どうして……?」


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「ごはっ……」


気がつけば、体が動いていた。


彼女を、守っていた。


どうしてかは分からない。


「どうして……?」


エルフの少女が俺に問いかける。


「何で……だろうな。気づいたら……体が動いていた」


体が熱い。おそらく、出血しているのだろう。


「私、貴方を殺そうとしてたんだよ……?何で、守るの?」


俺はその問いに、ゆっくりと答える。


「君には、もう、辛い思いをして欲しくは……ないからだ」


自分でも何を言っているのか、分からない。


でも、村のみんなとは違って、この子は生きている。まだ、希望がある。だから、助けたのかもしれない。


「パベル様……!」


アーシャが駆け寄ってくる。


「アーシャ……悪い。この子を……頼む」


意識が遠のく。


手先の感覚が無くなる。




けど、意識が無くなる直前。




『後は任せろ』




クロノスの声が、はっきりと聞こえた。


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『全く、こいつは……』


どこまでお人好しなんだ。


結局はこのエルフの少女を守るのか。まぁ、そういうところは、我と似てるな。


『後は任せろ』


そう言って、ベルの意識が途切れる寸前、体の主導権を自分に移した。


ゆっくりと目を開く。目の前にはエルフの少女。隣にはアーシャがいた。


「クロノス……様?」


さすがはアーシャだ。我の気配にすぐ気づくとは。


俺はゆっくりと立ち上がり、斧の勇者に向き直る。


「お前……どうして傷が治ってやがる?重症なはずだぞ?」


『黙れ、クズ勇者。お前の問いに答える義理はない』


ああ、こいつと話しているとイライラする。時空を超える前、こいつには手こずらされた。殺したと思ったら「不死」の魔王の力を使って蘇ってくるんだからな。


だが、今は違う。前の自分とは違うのだ。


『死ね』


上級階梯魔術、「虚構異空間イマジナリーディメンション」。周囲を真っ黒な空間が包み込む。


「はっ……結界か。だがなぁ、それごときで俺を止められねえんだよお!!」


斧を振り上げ、再び先程と同じ攻撃をしようとする。


やれやれ、こいつは何も気づいていない。この結界の恐ろしさを。


『この結界は、自身以外の魔法を無効化する』


「っ!?」


先程と同じように攻撃が……来ることは無い。ただただ地面に斧がぶつけられただけだった。魔力も斧に集まっていない。


「そ、そんな魔法が……あって……たまるかよぉぉぉぉ!!」


斧を構えてこちらに突進してくる。だが、今の状況ではそれはただの鉄の塊に過ぎない。


だが、もう少しだけ遊んでやろう。

獲物はじわりじわりと殺す。じゃなきゃ、復讐の意味が無いからな。


「時空」の魔王専用の剣である、魔剣「グラム」を出現させると鉄の塊を受け止める。


「おらぁぁぁぁぁ!!」


鉄の塊をブンブン我に向かって振り回すも、それは全部受け流す。


『哀れだな、人間よ。もう少し楽しめると思ったのに』


ため息をつくと、魔法を近距離で発動させる。この結界の中で発動するのはたとえ中級階梯魔術でも、凄まじい効果を誇る。


暗明雷電フラッシュスパーク


奴の視界を奪う。


「な、何だ、何も見えねぇぞ!?」


やつの周りに雷の槍を大量に生成する。


『さて、どうやって殺されたい?』

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