止めかける




「隼瀬!あんた大丈夫や?」



「冬未、別に俺はなんなかけん」



 隼瀬の名を聞いた周りの少女達は、『あーあれが冬未の許嫁か』と、初めて見る彼に興味津々といった感じで二人の会話を見つめる。



「(”俺”?)あんたの大丈夫なあんま信用でき「君が隼瀬ちゃん?!うわ、実在したんだ!」



 隼瀬を心配する冬未に被さるように恵美が、初めて見る噂の冬未の幼なじみに興奮気味に叫ぶ。



「あ、はい。はじめまして、冬未の御学友の方ですか?」



「恵美!隼瀬が怖がりよっどが!」



「いや、お・・・(そういえば俺って言ったら変なリアクションしたな、姉ちゃんもだったし)僕は別に」



「か弱い男ん子にいきなり・・・怖かったね、よしよし」



 未だこの逆転世界に馴染んだ様子のない隼瀬が否定するが、冬未は隼瀬が心配になると止まらなくなり、ナチュラルに頭を撫でる。それは暁美の教育の賜物であるとも言えた。



「恵美さん・・・?本当に大丈夫ですよ」



 冬未に頭を撫でられ、赤面しながらフォローする隼瀬に、恵美も内心ドキッと来るものがある。



「可愛い・・・・・・」



「だろ。あ、ばってんこの子な私が婿に貰うとだけん手ぇ出すとでけんばい!」



「大丈夫よ、そぎゃんしたら冬未に殺されそうだし。てか冬未、お前こぎゃん大勢の前で何言いよっとや」



 先程から周りで立ち止まって会話を聞いていた観衆の少女達は、こっちが恥ずかしいわ等と声を漏らす。



「冬未、その事ばってんね」



 隼瀬も、もうここまで来たら言うしかないと、元の世界では伝えられずにいた想いを冬未に伝える決心をする。



「なんや?あ、あんたまさか・・・か、彼女どんでけたとか・・・・・・私以外の女と?!」



「ん、んねたい(違うよ)」



 冬未が最も恐れている事を漏らし、隼瀬もたじろぎながら否定する。



「よかった~、あんたに彼女できたとか聞いたら私、心臓ば止めかけるとこだった・・・・・・」



「止まりそうじゃなくて止むっとね」



 恵美の問いかけにニッコリ微笑んだままじっと見つめてくる冬未が怖く、隼瀬は生まれたての子鹿のように、足がぶるぶると震え出す。



「冬未、幼稚園の頃に僕が言うたん覚えとる?」



 それはこの逆転世界での隼瀬の記憶。彼は、それを“思い出して”いた。



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