第47話「俺の妹がこんなにバカだとは思わなかった(2)」
駅に着くと、既に陽人と小町先輩がいた。
小町先輩は電話を受けてすぐに出てきてくれたのか、緩い部屋着に薄いジャンパーを羽織っただけの格好だった。
「あ! 後輩くん! 店長さんも!」
そわそわと不安そうに足踏みをする小町先輩は、俺たちの姿を見ると焦ったように声をかけてきた。
「やあやあ、小町ちゃん久しぶりだね。そんで、そっちの陽人くんだったかな……は初めましてだけど、そんな呑気に喋ってる場合じゃなさそうだね」
「はい、そうですね。えっと、それでまずは――――悪かった、申し訳ない!!」
陽人は深く腰を折り、腹から声を出しての謝罪をする。
それに驚いて、嗜めるのは小町先輩だ。
「え、えぇえ、は、陽人くん!? そんな、君のせいじゃないよ。先輩である私も気づけなかったわけだし」
「いや、俺はもっと早い段階から少し怪しいと思ってた。その時に連や小町先輩に相談するべきだった。それに、さっき青柳さんをあっさり取り逃がしちゃったこともいい訳できない。本当に悪かった」
「それは……仕方ないというか、陽人くんだけのせいじゃ……」
そう言う陽人が顔を上げる様子はなかった。
それを見てどうしたらと戸惑う小町先輩は、陽人を見て俺の方を見ておろおろとしていた。
別に陽人を責める気持ちなんて一切ないのだが、俺はそんなに怖い顔をしているのだろうか。
「そうだぞ。別に陽人のせいじゃねえ。ていうか、それで言ったら、兄である俺の責任が一番大きいだろ。一番近くに居て気づけなかった」
「いや、でも……」
陽人が俺に言わなかったのも、最近の俺が少し不安定だったからというのもあるんだろうな。
不確かな情報で余計な不安を与えたくなかった。
それと、俺に絵を描かせる璃亜の計画に一枚噛んでいた負い目もあるのかもしれない。
まったく、俺の周りのやつは自分のことばかり責めて困る。
そんなことでうだうだやってる場合じゃないというのに。
「でもじゃねぇ!!」
俺はらしくない陽人のケツを思いきり蹴り上げた。
「てぇ――っ!?」
黒ひげ危機一発のように飛び上がった陽人は、涙目でこちらを見て抗議する。
「おいお前急に何しやがる!?」
「らしくねえことでうだうだ言ってるからだろ! 時間ないって言っただろうが! いいから持ってる情報全部吐いて早く璃亜を探せ!」
「お、まえ……ほんと容赦ないな。逆に吹っ切れすぎだろ」
「お兄ちゃんだからな。璃亜のことが最優先に決まってるだろ」
「あ~~~もう、そうだな! 言いたいこともろもろはこれが解決した後だ。まずは青柳さんを探さなきゃいけないのはその通り! んで、俺の掴んでる情報としては多分駅の方にいる! 以上!」
いや、だから俺たちは駅に集まったわけで、それは何も知らないということじゃないのか?
「あ?」
思わず詰め寄ると、陽人はケツを抑えて俺から隠した。
宥めるような苦笑いを浮かべる。
「お、おい? こ以上やるってんなら俺のプリティなおけつちゃんは半分に割れちまうぜ、旦那」
「はあ……アホなこと言ってんな。つまり、これ以上のヒントは何もないんだな?」
「あ、ああ……駅の方に向かったのは分かったから、この辺りだとは思うんだけどな」
舞花駅。
ここは俺らが通う舞花高校の最寄り駅でもあり、乗り換えが多く、ここらで一番発展した駅である。
璃亜が出発した地点、俺の家からは三駅ほど離れている場所だ。
初対面との待ち合わせとなれば、わかりやすい駅、場所を使うと思うのだが……。
「わかった、じゃあこっからは虱潰しにするしかないよな」
陽人に投げつけてしまったため、璃亜は携帯を所持していない。
これは本格的に手がかりがないぞ。
「本当に申し訳ない」
「だから、それはいいって言ったろ。どうしてもって言うなら、話は璃亜を連れ戻した後に聞いてやるから」
「そうだよ! まずは璃亜ちゃんを探さないと! 見つけたらまずは先輩としてお説教をします!」
「そうだね、早く見つけてしまおう。そしたら、私も親戚のお姉さんとしてお説教かな」
ふふん、とない胸を張る小町先輩に、にしし、と白い歯を見せて笑う澪さん。
そして、小町先輩は最後にはっぱをかけるように俺の背中を叩くのだった。
「ということで、話を聞いて慰めてあげる係は任せたよ、お兄ちゃん!」
「はい! 絶対に連れ戻してやりましょう!」
こうして、俺たちは手分けをして璃亜を捜索することにした。
効率が悪いのは承知の上。
しかし、時間との勝負でもあるため、璃亜を確実に探し出せる方法をゆっくりと考えている時間もない。
その案にも考えを巡らせながらも、今はとりあえず足を使うしかない。
「頼むから早まったことはしてくれるなよ、璃亜」
人の間を縫うように進む。走る、走る、走る――。
どれくらいの時間が経った? 璃亜は無事だろうか。
既に息は切れ切れで、焦燥感だけが募っていく。
今のところ手がかりは全くない。
それは先輩たちも同じようで、RINEのグループには何の報告も上がっていなかった。
「ん? あれは…………っ」
道端。段差になっているその溝の辺りに、紅色に光る何かを見つけた。
咄嗟にしゃがみ込み、拾い上げるとそれは――アルエットで俺が璃亜に買ったペンダントだった。
――私の誕生日が一月だから、誕生石であるガーネットを選んだというところでしょうか。何か理由づけをするところがぽいです。
そう言って笑う璃亜の姿を思い出す。
もし、このまま璃亜を見つけ出すことができなければ、彼女は今までと同じような笑顔を浮かべることができなくなってしまうだろうか。
「そうだとしたら――それだけは絶対にダメだ」
ペンダントが落ちていた位置のちょうど横に、大通りから外れた少し狭い路地がある。
ふとそこへ視線を向けると、見慣れた少女の後姿が目に入った。
「り、あ……?」
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