第31話「妹族妹科妹類の取り扱い方」
学生の本分は勉強である。
この勉強と言うのは、果たして何を指しているのだろうか。
椅子に座って、ノートと教科書とを広げて、ペンを持って、そうやって知識を取り入れる。
国語とか、数学とか、日本史とか、英語とか……学生、勉強の二つのワードを出されれば真っ先に思い浮かぶのはきっとそんな単語。
学生の本分は勉強である。
この文言は、親が子供にテストでいい点を取るための、いい大学に進学するための、成績上位を目指すための学業を強いる際に使われることが多いのではないだろうか。
だが、しかし、実はそうではなくて、学生が日常的に得られる経験は全て勉強なのではなかろうか。
部活も、バイトも、委員会も、登下校も、たまに家事を手伝ってみるのも、休日に友達と遊ぶのも、家でリラックスして動画を見るのも、兄をからかってみるのも、また勉強である。
つまり、高校生である私は生きているだけでその本分を果たしていると言える。
つまりつまり、テストのために学業に励むなど、もはや高校生として相応しくない行為なのではなかろうか。
――というのが、どうやら怠けたい璃亜の主義主張らしい。
「まあ、お前がそれでいいなら俺はいいけどな」
テスト前だけど、数学がヤバ谷延の無理茶漬けなのでお湯を沸かして卵を割ろうということで、どういうことで? とにかく、璃亜が勉強を教えて欲しいと頼み込んできたのがついさっきのこと。
そして、三十分経った今、早くも愚かなる妹は机に突っ伏して項垂れていた。
ノートにはミミズが這ったような文字。
シャーペンを逆手に持つ璃亜のやる気は皆無。
基礎問題を数問解いたと思ったら、もうスリープモードだ。
「うぅ、蓮くんが冷たいです……もっと励ましてくださいよぉ。甘やかしてくださいよぉ」
「お前が教えてくれって言ったんだろ。もう少し、やる気を見せてくれよ」
「でもでも、そもそも数学ってなんのために勉強するんですか。一番要らないですよこれ。というか、学校の勉強とかほぼ使いませんよ、絶対」
「お前……そんな勉強できないやつの典型みたいなこと言いやがって」
「何が微分ですか、何ですか関数って、使うことあります!? ふざけ腐りやがって、てめえの頭を微分してやろうかってんですよ」
「荒れてんなあ……」
この通り、我が妹は勉強が嫌いである。
今までそんな素振りもなかったので知らなかったが、半分くらいの教科は毎回赤点ギリギリらしい。うちの高校では赤点を取ったものには、特別講習がある。
璃亜としては、どうしてもそれを避けたいようだ。
「蓮くんはテスト前とかいつもどうしてるんですか?」
「どうって……どうもしてないけど」
普通に授業を受けて、バイトして、家事をして。
別にいつもと変わらない日常を過ごしている。
テスト期間中は午前で帰れたりするので、それは嬉しかったりする。
「テスト勉強は?」
「まあ、別にそこまで高得点狙ってるわけじゃないし、授業は毎回集中して聞いてるから、特には」
「うっわ、でましたよ。え? テスト前? 普通に授業聞いてたら焦って勉強する必要なんてないよ奴~~~~~~ッ」
「お前そんな口調だったか……荒れすぎてキャラぶれはじめてるぞ」
「もうやだやだやだやだ~~~~~璃亜ちゃん勉強したくないよぉ、蓮くん代わりにテスト受けてくださいよぉ、人には向き不向きがあるんですよ。私! 勉強アレルギー!!」
うがーっと両腕を上げて、後ろに倒れ込む。
一応危なくないように配慮はしながら、両手両足をバタバタと動かす璃亜。
デパートのおもちゃコーナーで駄々こねる五歳児か、お前は。
「じゃあ、明日から頑張ることにするか?」
「蓮くん! 私を甘やかさないでくださいよ! 明日からやろうって私は明日も言う自信があります。私は甘やかされたら、とことん嫌なことから目を逸らし続けますからね」
さっきと言ってることちげえじゃねえか。
めんどくさい妹め。かわいいけど……うん、めんどくさい。
「自信満々に言うことじゃないなあ……」
「そうだ、提案があります! 私がやる気になるすばらな提案です」
「お、おお。言ってみろ。もう、ここまで来たらできることなら協力するから」
「では――――」
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