11頁~~ワスレナグサ~~

 灰色が広がる空の下では雪がしんしんと降り続けていた。そういえばアイツ……優也と別れたあの日もこんな雪の日だったな。

 優也とは幼い頃からの幼馴染で幼稚園から小学校、中学から高校に至るまでずっと同じ学校に通っていた所謂腐れ縁というやつだった。映画や遊園地、家族ぐるみでバーベキューなど色々とやっていたからか、友人関係というよりかはもはや兄妹のようなものだった。それに加えてもう一人、近所に住んでいた私と違って大人しくて頭の良い女の子。由香里も同じくそんな腐れ縁の仲だ。

 

 どこに遊びに行くのもいつも3人一緒でその時は今のこの関係がいつまでも続くものだと思っていたけど、高校生になってから私は優也に告白をした。理由は今でもよく分かっていない。優也の事は確かに好きではあったけどそれは兄妹として友達として……loveではなくlikeという意味で……とにかくそんな恋愛感情ではない筈だったのになぜだか私は優也にもっと気に止めて貰いたくて告白をした。

 私の告白を受けた優也は最初こそ困惑の表情を浮かべて、これはドッキリかどうかとしきりに疑っていたけど、私の口からその言葉が出てくる気配が無い事を察すると照れくさそうに視線を泳がせながら「おう」と呟きながら首を縦に振った。その日から私と優也は恋人関係になったんだ。

 その事を知った由香里はすごく喜んでくれた。彼女が言うには「夕夏ちゃん、中学の時ぐらいからずっと優也くんの近くにいるとソワソワしてたもんね。これは間違いなく恋に目覚めたなって思ってずっと見てたけど全然告白しないんだもん、なんだかもどかしかったよ」だそうだ。どうやら私以外からすると一目瞭然いちもくりょうぜんのようだったらしい。


 「でもやっと夕夏ちゃんが自分の気持ちを優也くんに伝えられて安心したよ。二人が幸せになるんだったら幼馴染として私も嬉しいよ」


 そう言った由香里の顔はなんだか少し寂しそうにも見えた。

 

 恋人同士になった私と優也だったけど、大して関係に大きな変化は無かった。いつものように私と優也と由香里の3人で過ごす日常は以前と変わらない私が愛した日常そのままだった。

 だけど高校3年の冬。私と優也は別れる事になった。原因は私だったけれど、優也はそれでも別れたくないと言ってくれた。それが私はとても嬉しかったけど、それと同時に申し訳なくて堪らなかった。由香里はそんな私たちを見て自分の事のように悲しんでくれた。それが私にとってはいたたまれなくてしょうがなかった。

 そうして私たち幼馴染3人は遂にバラバラになってそれぞれの道を歩み始めた。あれから数カ月が過ぎた頃、優也と由香里は付き合い始めた。どうやら私と別れてからずっと落ち込んでいた優也の事を由香里がずっと側で支え続け、なし崩しにそんな関係になったらしい。

 その事に私は別に怒りの感情は湧かなかった。どちらかと言えば嬉しいという感情で満たされた。由香里が以前に私に言ってくれたように私も幼馴染たちの幸せを願っている。だからどうか私が掴めなかった幸せを二人にはちゃんと掴んで欲しい。私は二人の幸せを見守る事ができればそれでよかった。


 今でも二人は時々私に会いに来る。正直、二人の姿を見るとなんだか羨ましくなってしまうから私の事なんか忘れて二人だけの道を歩いて行って欲しかったけど、それでもやっぱり二人に会えるのは嬉しかった。私の大好きだったイチゴと勿忘草わすれなぐさの花を私のお墓の前に供えてくれるその姿を見て、私はまだ二人の心の中に居られるのだと安心する。


 もう私は二人に触れる事はできないけれど、心はいつまでも二人と一緒にいるよ。

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