偶然からの恋って本当にあるの!?はい、本当にあるらしいです!

かずみやゆうき

第1話 思いつきの旅に出かけてみませんか?

 今、僕は、隣に座る女性をチラ見してはドキドキしている。


 正直、初めて購入した特急の指定席チケット。ちょっと豪華なリクライニングシート。僕は、後ろに座る人に目配せをするとゆっくりと背もたれを倒した。


 最近、様々な鉄道会社では、今まで通常運賃で乗車出来た特急に有料の指定席車両を設けている。通勤に疲れたサラリーマンや、たまに贅沢して楽をしちゃおうというニーズに応えるものらしい。

 


 本当にただの思いつきだった。

 仕事柄、飛行機に乗ることが多い僕は、マイルが溜まっていることに気づき、そのマイルを利用して二泊三日の旅に出ることにしたのだ。

 

 行き先は、福岡に決めた。


 福岡市の中心部である天神から西鉄バスで三十分位かかる静かな街で過ごした僕は、独特な方言だったり、とんこつスープの細麺だったり、電車の中で見知らぬ人に世話をやくおばさんがいたりするこの街を凄く気に入っていた。しかし、僕は、高校を卒業と同時に東京の大学に入学し、結局そのまま東京の会社に就職、そして、一昨年の秋、両親も父のリタイヤと共に、母の故郷である愛媛に移住してしまった……。 

 なので、福岡出身とはいえ僕には帰る場所はなく、それなりに思い出が有る福岡に五年程来てなかったのだ。


 福岡に行く事にしたのは、だいたいそんな理由なのだが、もしかしたら一枚の葉書も少しは関係しているかもしれない。

 それは、高校の同窓会のお知らせだった。これまでは、グループラインで連絡で来ていたのだが、今回はアナログツールである葉書が送られてきたのだ。


『確か、三年おきに開催していると聞いたことがある……。ん?昨年もあったんじゃなかったっけ?』


 前回、欠席した僕は、そんなことを思いながら、その葉書を手に取ると手書き風の文字をじっと見つめる。

 そこには、いつもはクラスでやる同窓会を今年は学年全体でやると書いてあった。僕の年代は五つのクラスがあったが、陰キャラだった僕は友人もそう多くない。せめてクラスなら何とかなりそうだが、学年全体となると正直躊躇する。

 しかし、最近何処にも行ってないし、あれ?マイルが結構あるぞ、、怖いもの見たさではないが、同窓会にも出席してみよう、、、そうだ!福岡へ行こう!となったのだ。


 話を元に戻そう。

 そう、僕はさっきから指定席専用車両の真ん中付近に座る僕の席の横にいる同い年くらいの女性のことが気になっていた。

 


 彼女は、僕が乗車した次の停車駅から乗ってきた。


「あの、すいません……」


 休日の昼前なのに特急の有料指定席は、そこそこ混んでいた。

 ただ、たまたま隣の席が空いていたので、大きなリュックをシートの上に置いていたのだ。


「あっ、ごめんなさい」


 そういうと僕は、すぐに自分のリュックを隣の座席から足元に下ろす。

 彼女は、ペコリとおじぎすると中型の白いキャリーを窮屈そうに足元に滑り込ませた。


 彼女も旅行なのだろうか?

 この電車を使うとなると新宿で山手線に乗り換え品川から新幹線という感じだろうか?

 要らぬ推測をしながらチラッと横を向く。すると、スマホに目を向ける彼女の横顔が見えた。その時から、僕は必要以上に隣の熱量を測るかの如く、彼女を意識し始めたと言うわけだ。

 彼女は春らしい薄手の白っぽい服装だったが、じろじろ見ることもできないので、それがワンピースなのかシャツなのか判らない。ただ、僕が思うにはきっと似合っているのだろうなということだった。


 それから約三十分、ドラマや小説の様に、ちょっとしたきっかけから会話が生まれ、仲良くなるというようなことは勿論起きるはずもなく、電車は予定の時刻に新宿駅へ到着した。


 新宿駅に着くと、先に彼女が立ち上がりドアから降りていく。

 僕もそれに続いて降りようとしたが、小さな子供を連れた若い夫婦が乳母車を降ろすのに苦労していたので思わず声をかけて手伝っているうちに、彼女の姿は見えなくなってしまった。


 がっかりしながらも連絡通路を歩き山手線のホームへと向かう。階段をゆっくりと登ると、数え切れない人が電車を待っていた。

 僕は、何度か右左と視線を向けたが、やはり彼女の姿は見えなかった。



 緑の電車はゆっくりと走り出した。

 吊り輪につかまりながら、窓の外をぼんやり眺めていると化粧品の看板だろうか、白いワンピースに黄色い麦わら帽子を被った女の子が僕の方を見ていた。

 口元には艶やかなピンクのルージュが塗られ、形の良い唇が今にも僕に話して来そうな気がした。

 もしかすると、さっきまで僕の隣にいた女の子はもしかしたらこんな感じだったかもしれない……。そんな事を考えていたら、車内アナウンスは、もうすぐ品川に到着すると言っている。

 僕は、荷物で膨らんだリュックを胸側から一旦車両の床に下ろし、背中側にかけ直すと、ドアが開くと同時に京急線の連絡口へと向かった。




 羽田空港第二ターミナルの搭乗口へと向かう長いエスカレーターに乗る。

 ふと上を見上げた僕は、前方に見覚えのある白いキャリーを持った女性がいる事に気づいた。


 心拍数が一気に跳ね上がる……。


「彼女かも知れない!」


 僕は、エスカレーターの右側に移ると、早歩きでエスカレーターを登っていったが、結局その女性に追いつくことはできなかった。

 僕は、エスカレーターを降りると、山手線のホームでやった様に左右を見渡す。だが、休日でごった返すターミナルでは、おぼろげな残像しかない彼女を見つけることなんて出来る訳がなかった。


「はぁー」


 僕は、大きなため息をついた。




 「着陸態勢に入りました。シートベルトは、緩みのないようにしっかりとお締めください」


 約二時間のフライトが終わろうとしている。

 もしかして、同じ飛行機に彼女が乗っているのでは?もしかして、僕の隣の席に座るのでは?など甘い期待をしたものの、僕の隣には、がたいの良いスーツ姿の男性が座っている。そんなに上手く行くわけがない……。


 福岡空港に着いてからのスケジュールは決めてなかったが、飛行機の中でおぼろげに考えていた。

 それは、地下鉄空港線で天神まで行き、西鉄大牟田線に乗り換え、太宰府天満宮に向かうというものだった。

 丁度、梅が満開なこの季節。大学受験の際にお参りに来た以来だが、久しぶりに行くのもいいのではと思っていた。



 飛行機のドアが開いた。

 コロナ禍ということもあり、密を避けるために、三つのグループに分かれて降りるようだ。僕は、後方の席だったので三番目のグループらしい。


 「お待たせいたしました。それでは一番から十五番迄にお座りのお客様はどうぞ飛行機をお降りください」


 指定された一番目のグループの席に座っていた乗客が一斉に立ち上がると上の棚から手荷物を取り出している。

 

 その時だった。


『えっ!もしかして!』


 白い服を着た若い女性が棚から白いキャリーを取り出しているではないか!?僕は、その女性のことを目を凝らして見つめるも他の乗客の姿と被ってしまいよく見えない。近づきたいが、後方の席の僕は、まだ座って待機しなければならない。


『いつも何故?ほんとに運が悪すぎる!』


 飛行機と言う小さな空間に一緒にいたのに近付くことができない……。

 僕はこれまで以上にヤキモキしていた。ただ、ただ時間が長く感じる。

 客室乗務員からグループ二番目の乗客は、手荷物を降ろして良いという指示があった。僕の前の席に座っていた男性が勢いよく立ち上がる。



 もう、彼女の姿は全く見えなくなっていた。




 到着ロビーから地下鉄空港線の改札まで続く長いエスカレーターに乗る。

 改札を抜けると丁度ホームには駅始発の電車が待っていた。七人がけの席の一番端に座った僕は、リュックのポケットからスマホを取り出すと飛行機モードを解除する。


『同窓会、楽しみにしとるけん絶対来いよ!』


 高校三年の時に同じクラスだった柿谷雄介からのメッセージだった。

 雄介も派手なタイプでは無いが、陰キャラではない。そんな彼と仲良く連む様になったきっかけは、お互いが猫好きということだった。

 雄介は、高校二年の夏から、捨て猫の保護活動をボランティアでやっていたらしく、僕の家に三匹の猫がいると言う話をどこからか聞いた雄介が、僕に話しかけてきたのがきっかけだった。雄介に負けず劣らず猫好きな僕は、雄介がやっているボランティアグループに入れてもらうと、雄介と一緒に、ほぼ全ての休日をその活動に費やした。

 僕は東京の大学に行く事になり、そのボランティアを抜ける事になったのだが、雄介は地元の大学に通いながらまだ活動を頑張っている様だ。



 『久しぶりにグループのみんなにも会いたいな。明日、同窓会が始まるのって午後一時だっけ?午前中、いつもの公園に行くよ!』

『おう!みんな喜ぶぞ!今は八匹のノラを世話してるけど増えていってる。家で飼われていた様な品種の猫が捨て猫になってる。詳しいことは明日』


 僕は、『了解!』と入力すると、電車の心地よい振動でいつのまにか眠ってしまった。



 太宰府の駅に着いた僕は、リュックからカメラだけ取り出すとコインロッカーに入れ、四百円を投入し鍵を閉める。

 なんだか急に自由になった様な気がした僕は、両手を上げて深呼吸する。そして、ゆっくりと歩き出した。


 右左に並ぶお土産屋。そのほとんどが、店内で梅ヶ枝餅を作って店頭販売している。機械で作っている店も多く、その工程がガラス越しに見えるから面白い。

美味しそうな匂いの誘惑にめげずに僕は天満宮へと歩いて行った。


 池にかかる風情のある橋を渡り、神社の正面に続く列の最後方に並ぶ。

 十分ほど待っただろうか、いよいよ僕の番だ。

 お賽銭を力強く投げ込み、二礼二拍手した後、僕と家族の健康と幸せを祈りつつ、ちゃっかりあの彼女にもう一度会えますようにと願いを呟き一礼をした。


 なんだか気持ちも晴れ晴れとした僕は、さらに奥に進んでいく。

 目指すのは、『峠の茶屋』と呼ばれる古くからあるお食事処だ。


 太宰府天満宮が誇る梅園の中を通り、その茶屋を目指す。

 一足早い春の陽気を受け、色とりどりの梅の花が丁度満開だった。メジロもその甘い蜜を吸うのに一生懸命動き回っている。

 僕は、白い梅の花にピントを合わせると静かにシャッターを押す。最初は二、三枚と思っていたが撮り出すとやめられず、結局ここで三十分ほど時間を使ってしまった。

 

 時計を見ると、十一時半になっていた。


 峠の茶屋が見えてきた。

 食事待ちの列を見て驚く。十人以上はいるだろうか……。僕は写真撮影に夢中になったことを後悔しつつも、その列に並んだ。


 そんなに広くないこの店は、昔から客の回転がそんなに良いわけがなく、待っている時間はどんどん過ぎていった。しかし、ここのなんとも優しい味の田舎うどんと、手作りの梅ヶ枝餅を炭火でカリッと焼き上げてくれる一品を食べるためにはじっと我慢するしかない。


 『ここが一番美味しいけんね』


 それは、子供の頃に母から聞いた言葉だ。僕ら家族は、太宰府天満宮に来ると必ずこの峠の茶屋でお昼を食べた。店の数は数えきれないほどあると思うが、母の言葉通り、僕もここで食べるうどんや梅ヶ枝餅が一番だと思っていた。


 そんな昔のことを懐かしんでいたら、古びたドアが音を立てながら開いた。もう、八十歳を過ぎているだろうか?腰を曲げたおばあちゃんが僕に話しかけてきた。


「お待たせやったね。ごめんやけど相席でいいかね?」

「はい。いいですよ」


 僕は畳の上のテーブルに座る。

 前の席にいる人は、丁度食べ終えたらしく、静かに両手を合わせるとご馳走様と言った。


「えっ!?」


 思わず声が出てしまった僕はハッとしてしまう。


 前の席の女性が僕の方を見る。


「えっ!?」

「「えっ!!」」


 しばらくお互いが固まった状態で、お互いが何を話すべきかと考えているようだった。




「えっと、ここの店は、炭火で焼いた梅ヶ枝餅がとても美味しいんですよ」


 沈黙に負けたのは僕だった。

 まずは当たり障りの無い事を彼女に投げてみる。


「あっ、えっと、それ、も、、頼んでます。おうどん食べ終わった頃に持ってきてくれるって、、」

「あっ、そうなんだ。知ったかぶりでごめん。でも、ここ美味しいよね」

「はい。私も昔から太宰府に来たら必ずここで食べてます」

「あー、、、僕も一緒!」

「「ふふふ」」


 お互い、自己紹介もせずにこの店の話をしている。

 だけど、不思議だ。僕はなんだかとても暖かい気持ちになっていた。


 彼女は、僕の想像以上に可愛い人だった。

 同年代?もしくは、僕よりちょっと下かもしれない。

 

 僕は、また見とれていた……。

 その身なりから発する柔らかい雰囲気、そして、何より笑顔がとても素敵なのだ。



 沈黙が続いてしまう。

 今度は彼女がたまらず言葉を発した。


 「あの、、今日、京王ライナーでお隣だった方ですよね!?」


 彼女が少し耳を赤くしながら話しかけてきた。


「あっ、そうです。で、第二ターミナルとか飛行機でも、もしかして君かなと言う後ろ姿を見かけたんですが、まさかこんなところで会えるとは、、、。いやっ、、僕はストーカーじゃないからね、、って、何言ってんだろう」


 今度は僕が顔を真っ赤にする。


「実は、京王ライナーでお隣になった際に見えたその黒いリュックに付いてる猫のキーホルダー、、可愛いなあと思ってたんです。私も凄く猫が好きなので。あの、、、えっと、福岡へは?」


 彼女が尋ねる。


「もう実家はないんだけど、高校三年まで福岡に住んでたんでちょっと懐かしくてね。あと、そうそう、それと、明日、同窓会があるんだ」

「そうなんですね。えっ?同窓会?奇遇ですね。私も有るんですよ。明日の十三時だったっけ。今回の帰省はその為なんです」


「・・・・・・・」


 うーん、会話が続かない。

 正直、女性に慣れてない僕は、頭をフル回転して考えても洒落た言葉なんて出てくることはなかった。


「注文は決まったと?」


 知らない間に僕らに近づいて来ていた店のお婆さんのお陰でなんとか微妙な空気を払うことができた。


「えっと、肉うどんと梅ヶ枝餅を二つください」

「はい。ありがとうね。そちらのお嬢さんの梅ヶ枝餅はもう持ってきていいかい?」

「いえ、この方と同じで結構ですよ」

「はいはい。わかりました。じゃあ、ちょっと待っとってね」


 僕は、驚いた顔で彼女を見つめる。


「あの、、そのキーホルダー、何処で手に入るかとか、、、もう少しお話しをさせて貰ってもいいですか?」



 今、僕らの恋が始まった。




 


 終わり



- - - - - - -


如何だったでしょうか?

同じ路線に住んでいるお互い一人暮らしの二人。

猫が好きで、もしかすると高校の同級生かもしれない……。

これで恋が始まらないわけがないですね。


会えそうで、会えない前半のやきもきした気分。

そして、太宰府天満宮の小さな茶屋で相席になるという凄い偶然に胸躍る僕。


こんな素敵な偶然があったらいいな〜。



是非、作者をフォローいただき、作品に評価をいただければ幸いです。

引き続きよろしくお願い致します。



 

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