魔王を召喚したかったので、まずは俺自身が勇者になることにした〜国を出て異世界をぶらり一人旅〜

あずま悠紀

第1話

ジャンル:異世界ファンタジー

タグ:異世界転生.主人公最強.剣と魔法.戦記.美少女.ライトノベル.ハイファンタジー.バトル

タイトル:魔王を召喚したかったので、まずは俺自身が勇者になることにした

〜魔王より強いことが発覚して、国を出て異世界をぶらり一人旅〜

概要:異世界召喚されて「え?僕が勇者?じゃあこの国ぶっ潰します」的な感じのラノベ。よくあるタイプの作品ではあるが読みやすさは抜群。作者の文章力が高いため読み応えも充分ある。主人公がチートすぎるがそれさえ受け入れれば普通に楽しめると思うよ!あと、作者が結構イケメンなのもいい。


本文:

「魔王を召喚したかったので、まず俺自身が勇者になることにしたわけで」- この世界に召喚され、俺は勇者だと教えられたのだが、なぜかレベル99だった。

「どうせだから世界を旅する事にした」というわけで俺は現在絶賛一人旅に出るところだ。

しかしまぁ、世界って言っても何すればいいかよくわからない。

という事で取り敢えず俺はこの大陸で一番でかい国に行く事にしたんだが、その途中でモンスターに襲われてる奴を見つけたんだよなー。

しかもそれがエルフ族でさ、しかも男装女子なんだぜ?そりゃ助けない訳がないよね。

それでそのままそいつと一緒に街に着いたわけだが、そこでまたなんか面倒なことに巻き込まれてしまったわけだ。ほんと勘弁して欲しいねまったく。でも可愛いからいいけど。

ともかく今はそのエルフ族の女の子と共に、その面倒事を片付けようと動いている最中である。

そんな俺達の前に現れたのはなんとも強そうな鎧姿の男だった。こいつも勇者なのかと思ったのだが、「勇者は自分だけではないぞ!」と言いながら襲い掛かってきたのだ。

しかしまぁ勇者とか言う割には大したこと無くて拍子抜けだったがな。

ただこのおっさん強かったせいか仲間になったみたいだけど。マジ勘弁して欲しいわ本当。

ただ美少女だから許す。むしろご褒美です。(*^◯^*)

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「ふぅむ。確かに面白そうだな」

『おぉ!では!』

「ん~いや待ってくれ。ちょっと考えてることがあるんでな」

俺は目の前にある水晶玉のようなモノに向かって話しかける。そして向こう側にはこちらと同じ見た目の人間が座っていた。

そう、これは遠く離れた人物同士を通話することが出来るアイテムだ。電話と言えば分かりやすいかもしれない。これがあればどこにいても会話をする事が出来るようになるのだ。

ただ残念なのは相手が実際にそこにいないと話せない事と一方通行にしか話が出来ないことだな。それに通話可能時間というものが存在し、一日に一回しか使えなかったりする。

とはいえこれはこれで非常に便利だった。なにしろ相手の姿が見えているわけではないし声も機械音のようなものであるため、相手の顔を伺う必要も無い。つまり顔を見て気まずくなることもないわけだ。それに声が機械じみていて感情を感じさせないためか、かなり親しい間柄であっても話しやすくなる。まぁ相手が何を思っているのかまで完全に分かるわけじゃないが、それでも普通に接することは出来るだろう。そもそもこんな便利なものがあるなら最初から使って欲しいとは思うのだが、そこは製作者の趣味みたいなものだ。仕方ないといえば仕方ないことである。ただこの装置をくれたことに関しては感謝しているがな。なにしろこの世界で俺は誰一人として知人がいない。だからこうやって話すことが出来る人間というのは非常に貴重だったりする。ちなみに向こう側から連絡が来ることはない。なぜならば、お互いに連絡することが出来ないからだ。なので一方的に向こう側の話を俺の方は聞いているだけだな。

ただまぁそのおかげで様々な知識を手に入れることが出来たり、新しいアイデアを生み出すことも出来たわけだしな。この世界では本当に貴重な存在であると言える。だから俺は向こう側に対して礼を言った。それは素直な言葉だ。向こうからは「気にすることは無い」という答えが返ってくるが、やはり気持ちを伝えることが出来なくて少し寂しくもある。だがまぁいいさ。いずれどうにかする方法はあるはずだしな。そのための研究材料だと思えば悪くはないはず。まぁその為にはまず資金が必要ではあるが、それに関しても問題はないと思う。だってこの装置は金食い虫なのだ。だからそれを作れるだけの財力が無ければまず使えないと思うのだが、なんとその装置を使って商売を始めた奴が現れたらしいんだ。しかもかなりの儲けを出していてかなり稼いでいるという噂を聞いた事がある。もしそいつに会うことがあったらぜひ協力してもらいたいものだなーと思う次第であった。

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『魔王様!準備が出来ました!』

「おう!わかった!」

さて、ついにこの時が来た。俺はこれからあの異世界へ乗り込むのだ。そのために部下たちにも頑張ってもらった。その苦労に応えるためにもここはしっかりと成果を上げておかなければ!そう思いつつ俺はそのゲートを潜ったのだった。

さて、あれから二日ほど経ったわけだが、その間色々と試した結果面白いものを作ることが俺にも分かったんだ。

それは魔法を封じ込めたものを作り出すことが可能だということ。

つまり、予め込めた魔素を使うことによって魔法の威力や性質などを変えることが可能であることがわかったんだ。

もちろん、これはあくまでも俺が作った武器だけに適応できるもので、普通の人が使うような剣とか杖には適用できない。しかしそういったものを作る際に応用することで、さらに強いものを生み出すことが簡単に出来るのである。

だからこそ今回の魔王軍のパワーアップには非常に役に立っていた。

なにせ、今回用意した魔物達はみんなレベルが低かった。それが故にあまり強いものを用意できなかったのだが、そこにこの装置を使えば一気に解決だ。なにしろ元々ある能力を底上げすることができる上にその力の性質そのものを変化させてしまうことも可能だ。それにより強力な魔物達が出来上がったわけだ。まぁそれでもやっぱりレベルが低いままだから強さ自体はそこまででもないんだけどね。

ただ、この能力があれば弱い魔物もそれなりの力を出せる。そしてそれを大量に生産できれば、より強くなった魔物達を相手にしても互角に渡り合う事が出来る。そういう訳だ。

とは言ってもこの装置自体それほど数を用意しているわけじゃないしな。量産するのは無理だったんだ。それに装置自体にある程度の耐久力を持たせないといけないから作るだけでも手間がかかったんだよな。まぁ、でもそれでこうして成果が出たわけだし結果オーライだ。

という訳で、今日も俺は異世界へ行くとしようかなーなんて思っていたんだが、突然そのゲートが開いて何者かが侵入してきたんだよ。その姿を見て驚いた。

なんと現れたのはこの世界にいるはずの無い男。勇者、いや、俺の仲間になるはずだった男。元いた世界で、俺を殺そうとした張本人であるあいつだった。なぜここにいるのかと思った。まさか、こいつがこちらの世界に来てるのか?でもなんで俺と同じ世界から来れた? 俺のその質問に対し、男は自分が異世界から来た存在だという事を明かした。なんでも自分のスキルの中にそういう能力があったから使えたのだという。俺としては信じられなかったが実際にこの世界のどこにもそんな能力は存在しない。それに目の前の男が嘘をついているようには見えないのだ。なんとなく、この男は信用できそうな気がする。そう思って男を俺達のところへ連れて帰る事を決めた。

しかしそこで俺は気づいた。この男はこちらに来るときに大量のアイテムを持っていたんだが、どう見てもチートな性能を持った道具類がいくつもあったのだ。しかもどれもが超高性能の物ばかり。こんなものを作れる技術があるとしたらそれは相当な技術力を持っていることになる。もしかするとこいつと手を組む事ができれば、もしかするともっといい物を作れそうな予感もしているのだ。

そして俺はその事を告げ、男の協力を得たいとお願いをしたんだ。しかし、残念ながら断られた。なんでも自分は召喚されてきた勇者であり、勇者としての役目を果たしたいと言うのでな。まぁ当然かと思った。なにせこいつは俺を殺す気満々だったんだからな。そう簡単には納得してもらえるとも思えない。というかこの世界に来た時点でこの世界に馴染むために別人になってるという可能性もあるんだ。その可能性の方が高そうではある。しかしそうであってもこいつの力は是非とも借りたいとは思っているんだ。だから何度も頼んでみるものの、やはり断られるばかりだった。

だが、そんな中で意外な提案をされた。

俺と一緒に旅をして魔王を倒して欲しいと言われたんだ。

この男も勇者のはずなんだが、何故か魔王軍に入って欲しいと頼まれた。

その事について理由を聞くと、実は魔王軍にはまだ俺を倒すための手段が見つかっていないのだそうだ。

そこで魔王軍を鍛える為の旅に出ようと思っているらしい。そしてその過程で一緒に魔王を倒してほしいのだそうだ。

そんなことを言われても正直困るなーと思ってしまう。だって俺は魔王を倒すつもりは全くないしな。それに仲間にする為にこの男を連れてきたわけじゃなかった。ただ仲間になれば戦力アップには繋がるだろうと思ったからこそ誘ったに過ぎないのである。

しかし、そうはいっても断るのもなぁ、とか考えてしまい結局同行する事にしたんだ。なにか裏の目的がありそうだなと思いつつもな。

そしてその後、俺は魔王のところに行くことになった。魔王がいる城まではかなりの距離があるため数日かかるとのこと。まぁそれでも問題は無いだろうとは思うが。ただ、ここでちょっと問題があることが判明した。というのもこの世界では俺達以外の人間がいないのはもちろんのことだが、魔物も存在していなかった。だからこそ移動の際に襲われたりすることはないのであるが、その代わりと言っていいのか分からないのだが食べ物がなかったのだ。一応持ってきていた非常食を食べたりしたが、やはり量的に足らないのだ。なので、なんとかこの問題を解決しないといけなくなってしまったのだよな。

俺はそう考えたあとこの近くに街がないか聞いてみた。そういえばさっきここを通った時に街っぽいものを見つけたのを思い出したのである。そう考えると俺はすぐにその方角へ案内してもらう事にしたのだ。そして着いてみれば案外すぐ近くにそれはあったのだ。

そしてそのまま街の中へ入り、俺はそこの人に事情を説明した。この近くで食糧を手に入れられないかという相談も乗ってもらうことにした。その結果わかったこととして、この近くにあるダンジョンの中ならばそういったものは手に入るということが分かった。ただしダンジョンに入るための資格が居るらしい。資格が無いものが入れば死に至る危険性があるとか言われたが、そんなこと気にせずにとりあえず入ることにした。

なによりこの世界で使える金がないのも辛い。だからそのお金を稼ぐ意味も兼ねてこの近くのモンスターを倒して、それをギルドに持っていけば金を稼げるという話を聞いたのだ。それを聞いた後、早速俺達はダンジョンへと向かうのだった。

俺はこの街の近くにあったダンジョンにやって来た。ここは結構有名な場所らしく、そこそこの冒険者がやって来ているみたいだ。なるほど、確かに入り口の警備は厳重なようだな。しかし俺は問題無く入れることが出来た。それはこの世界にやってきた時にある力を身につけているからである。それは【隠密】の能力だ。これさえあれば大抵の奴なら見つかることなく進むことができるという便利な能力なわけだ。というわけなので俺は堂々と入って行くことが出来た。ちなみにそのせいもあってかかなり目立ってはいるんだがな。しかしそれも今だけ。この先俺はどんどん目立つわけだ。なにしろこの辺りで一番大きなダンジョンだからな。

さっそく俺はダンジョンの中へ突入することにした。

「さて、このあたりに出る魔物の情報を事前に集めておくとしよう」

俺はこのダンジョンに出現する魔物に関して色々と情報を集めておいた。というかそもそも情報が少なすぎてまともに探索すら出来やしないからな。だからこそこう言う風に事前の情報を集める必要があったわけだ。といってもそこまで多くはない。なぜならば、ここには俺が元々いた世界で見たことのあるような魔物しかいないからだ。まぁそれでもこの世界独自の進化を遂げたのか、それとも元々いた魔物がそのまま残っているのかまでは判別できないんだけどな。まぁ、なんにせよ俺はその魔物達に見つからないように行動していた。なにせ相手はこの世界でも最強クラスの生物。そんな相手にわざわざ自分から会いに行って勝てる見込みもない。そう思えばこそ隠れるように行動し、情報収集に努めていたというわけだ。

俺はそうやってしばらく歩いているうちに一つおかしなことに気づいた。どうにも他の冒険者と遭遇しないのだ。これは一体どういうことだ?俺はそのことを不思議に思った。だが、その時だった。突如俺の足元が崩れたのだ。まるで底無し沼のように。俺はそれに嵌り、その中へと落ちていった。

「いてて、いったい何が起きたっていうんだ?」そう言って周りを見渡せばそこには奇妙な光景が広がっていた。それは俺がいたであろう場所だけぽっかりと地面がなくなっており、そこにあったであろう木も全てなくなっている。そして俺が落ちたところには大量の骨が山となって積み上がっていたのだ。

俺はすぐに自分のステータスを確認した。そこに表示されている数字を見て驚くことになる。なぜならそこに記されていたのは本来あるべき自分のレベルとはかけ離れていたものだったからな。なにせそこに書かれていた数字は1000を超えてたのだ。こんなレベルを俺は知らなかった。俺の世界の人間でそんなレベルを到達している人間は恐らく存在しない。しかしここにいる俺は違う。そしてこの世界の人間の平均レベルを考えてみると俺のレベルは相当高いはずだと思った。つまり俺はなんらかの原因でこの世界に来てしまったのではなくて、この世界の人間に呼び出されたという事になるのか?だとしたら考えられる可能性は一つしかないな。この世界では俺は本来存在するはずではなかった存在ということなのか? 俺はそう判断し、とにかくこの階層から脱出する方法を考えてみることにした。まずは自分の状態を確認し、スキルや魔法を使ってどうにか脱出しようとしてみるがうまくいかない。しかしどうすれば出れるのかを考えることは出来た。この階層のボス部屋に行くことで俺がここから出ることが出来る。

しかし問題は俺がここに来るまでどのくらい時間がかかったか、ということである。そしてここにいる俺がここにいるという事は元いた俺という存在はどこへ行ってしまったのか?という疑問が残るのだ。しかし俺のスキルの中には自分の居場所を探すというものがあったのでそれを試してみる。結果は成功したのだ。元いた俺という存在はこの階より下に存在しているのである。おそらく俺が元の世界に戻ったとしてもこの世界へ戻ってくることはできないのだろう。まぁ別に俺が元いた世界に帰ろうと思っていたわけではないが、そうなると考える必要がなくなるからいいのかもしれない。俺はそう思いつつ、俺がこの世界から帰る手段を見つけるのを諦めたのであった。

俺はその階層にいるボスを倒した後に、下の階層へ移動したんだ。そして俺が出てきた場所はこの階の真上にあたる所らしい。俺がこの階に落とされたのは運が悪かったが、もしかするとこれが良かったのではないかと思ったりするんだ。なぜなら俺はそこでとんでもない化け物に遭遇したんだからな。そうそれは、なんとあの勇者の男であった。しかもなぜかそいつは全身傷だらけで倒れており、意識がないようである。しかしこいつは間違いなく勇者なのだ。それはその体から感じる気配でなんとなくだが分かったのだ。それに見た目も明らかにこの世界のものではない服を身につけていた。その事からもこいつが勇者であるという事がわかるのである。しかしこいつが何のためにここまでボロボロになって倒れているんだと思うんだがな。

俺は勇者が生きているか確かめる事にした。そこで【鑑定眼】を使用してみたんだが、それが出来なかったのである。俺はまさかと思いながら【完全鑑定】を使用した。そうする事でやっとわかったのである。

名前: 勇者 性別 男 種族 人間 レベル 920 HP 3/10 MP 500攻撃力 460+15 物理耐性 775 特殊技能 聖剣 魔力操作(極)

超感覚 状態異常無効 言語理解 俺はそれを見て驚いてしまったんだ。俺よりもレベルが低いにもかかわらず、その強さは明らかに俺を超えているのだ。俺の持っている攻撃系の能力の中で一番強力なのが俺の持っている【炎獄波斬撃拳闘術】という武術だが、この世界に来てからその威力は大幅に低下しているもののまだまだ強力だということは知っている。だからこそ俺でも倒せる可能性があると思っていた。なのにこの結果である。

俺は少し考えるとこの勇者を連れて行くことに決めた。なにしろ今のこの男は普通の状態のようではなかったのでな。

それから数日が経過し、俺はようやく街へとたどり着いた。そしてその街の入り口付近では俺が連れてきた勇者と、魔王軍が戦闘を行っていたのだ。いや、正確に言うならば魔王軍と勇者のパーティーの戦闘といった方がいいのだろう。

魔王軍は確かにこの辺りの魔王軍として君臨しているが、実際は人間に対して特に敵対心があるわけではなく、魔王の命令に従うがままの行動を取っているだけである。しかし勇者は違った。この男こそが本物の魔王軍の敵であり、人間たちにとって脅威となっている存在であった。この世界に存在する最強の生物と言われているドラゴンでさえ一撃で葬ってしまうほどの強さを誇る男。それがこの男だった。だからこそ、そんな男を相手に戦っている魔族は必死に戦うしかないという事だ。

「くっくそぉおお!なぜだ!なぜ我々の力が通じないんだ!?」「ははは、何を馬鹿なことを言っているんだ?貴様らの力は俺には通じていないのだよ。そんな事も分からぬのなら死ぬが良い」

勇者の攻撃が当たった者は体が爆散するかのような音と共に消滅していった。この世界の住人ではその力に耐えきれないのだ。それ故の結末。

そして勇者が次の獲物を求めてその場を去ろうとしたその時であった。突如として地面が割れ始めたのである。それは俺がこの世界に来たときに体験したあの現象と同じものだった。そして現れた穴の中に一人の女の姿があった。

俺は目の前の光景に驚愕していた。それは突然の事態が発生したからだ。なにしろその地面の割れ目は俺が異世界召喚されたときと全く同じ状況なのである。ただ違いがあるとするならばそれはその地面にいる俺が今まさにそこから落ちようとしているという状況だけだ。しかし俺はこの世界にやってきたばかりの時と違い、すでに【重力魔法】の習得に成功しているためその空間に留まることに成功をしていたのだ。それどころか俺はさらにこの世界には存在しないであろう技術、飛行能力を既に習得しているため落ちることなくその場に存在していたのだった。

「ふぅ、なんとかなるもんだな。というか本当になんなんだよこの地面の穴は?」そう思ってよく見てみると俺が落ちようとしていた場所以外にも似たような場所がある事に気づいたのだ。そしてそこに俺以外の人物がいることにも気付いた。俺はそこへと向かうことにした。

俺は落ちかけた地面の中から抜け出し、地上へと上がった。そうして俺がやってきたその場所にいたのは俺の予想外な人物がいたのだった。それは魔王と俺が最初に戦った際に一緒に居た仲間の一人の女の子、つまりはこの世界で最強とされている人物である少女であった。

俺はこの少女について考えていた。俺は彼女と出会った当初この子はまだ弱いと考えていたのだ。だが実際にはどうだ?彼女はこの辺りの最強クラスと聞いている魔王を簡単に打ち破っていたのである。それも俺との模擬戦の時には見せたことのない能力、【身体加速】を無意識で使用しながらだ。

そして俺はそんな彼女と初めて会った時に感じたある違和感を思い出した。それは彼女がこの世界で生まれた人ではなく俺がこの世界に来る前に見ていたアニメの登場人物であったという事に気付いたのである。だからこそ俺はこの世界にやって来てすぐに出会ったこの子がその登場人物だという事にすぐに気づくことが出来た。つまり、俺の今の状況から考えてこの世界のどこかに主人公が存在すると考えられる。それもきっとかなり近くだ。なぜなら俺はこの世界の主人公である勇者がこのダンジョンへやって来ているという事実に気付くことが出来たからである。俺と同じようにこのダンジョンを攻略しようとしてきているという事を知っていたのだ。だからこそ俺はここを訪れたのである。だが俺の想定していたのとは全く別の場所で出会うことになるとはな。

「さて、あんたがなんでこんな所にいるのか知らないけど俺がここにやって来たってことは多分あんたと会うためにここに俺はいるんじゃないかと思っている。だけど残念ながら今は無理なんだよね。実はこれから仲間が俺のところにやって来るみたいだからちょっと急いでるんだよな。じゃあそういう事で悪いがまたの機会にしてくれ」

俺はそれだけ言って立ち去ろうとすると、後ろの方から大きな声が聞こえた。そしてその声で誰かの名前を読んでいたのが分かる。それはどうも彼女の名前らしいが。まぁいい、どうせ俺の行く先々にこの世界の主人公たちが邪魔をしてくるっていうならもうどうしようもないわけだしな。俺は面倒な奴に目を付けられたと思いつつそのままそのダンジョンから出て行った。だがしかし、この世界の主人公である少年はどうやら相当厄介な性格をしているようだ。だって俺の仲間になりたくないっていうんだもんなー。そんなに嫌な思いをさせるようなこと言ったつもりはないんだけどな? それから数日経過した頃だろうか。俺はとある村でこの世界の主人公の仲間たちと出会う事になるのだが、それは別の話になる。

あれ?俺のステータスおかしくないか?そう思った俺の視界の左上の方にあった自分の体力を表す数字が減っていく。そして俺はそれに驚くことになった。俺の体からは白い光のようなものが出てきており、その体からどんどん出ていっているのだ。そして俺の体から出てくると同時に俺の体に力がみなぎっていくのを感じた。俺はそれを危険だと思い【鑑定眼】を使用してみたんだ。その結果分かったのは、自分の体の状態を確認することができるというスキルを習得したということであった。これはこのスキルを使って自分の体を【鑑定眼】を使って確認することで、どのような状態なのかを知ることが出来るスキルのようであった。

そのおかげで俺は俺が一体何者になってしまったのかを理解することができた。俺は【転生眼】という固有技能を持っている。その能力は俺が倒した相手の力を吸収しその力を使うことが出来るというものだった。つまり俺の魂はその男の肉体に入り込んだということである。そう考えると納得できた。なぜならこの体はあまりにも強力すぎる力を感じるからだ。そう思うとその力を確かめたいと思ってしまう。そして俺はその男に攻撃を行うことにした。

この体から発している力はどうやらとてつもなく高い攻撃力を有しているようであった。だからこそ試したいと思ったのだ。そしてその男を殴りつけようとすると、その男も同じく俺を攻撃してきたのである。それはまるで鏡に向かって拳を放っているかのようにそっくりであった。しかし相手の方が強い攻撃であったように思えたが、俺が殴った衝撃でそいつの拳から出ている力は消えてしまった。俺はその事実に驚愕していた。そしてそれは向こうも同様でとても驚いているように見えた。しかしすぐに冷静さを取り戻したのかこちらを見つめてきた。その視線には明らかに殺意というものが込められているように感じる。

その男、いや勇者である男の攻撃はとてもシンプルだった。それは【鑑定眼】で見ると分かったが【神滅覇王剣術】というものであった。その剣術には特別な技が存在していて、【極大魔法剣】というものが存在している。

俺はそれを発動すると【雷帝乱打】で対抗することにした。俺は魔法による攻撃手段が少ないのでこの【極大魔法剣】を使用するしかなかった。ただ【超魔法拳闘術】によって魔力を消費することで、魔力量の限界を突破することに成功していたために、俺は【極魔導撃】を使用することにより威力を上げることが可能となっていた。そのためその勇者の放つ【極大魔法剣】の攻撃を何とか押し返してみせた。

それからしばらくの間はお互いの攻撃の応酬が続いた。その男の攻撃は非常に洗練されており無駄が一切ないように感じられた。だからこそ俺はその男の力を完全に理解した瞬間に、ある一つの作戦を思いついていた。それを実行するための準備が終わるまではひたすら耐え忍ぶ必要があった。だからこそ俺はその男の一撃必殺とも思える強力な攻撃をひたすら受け続けることとなった。しかし俺はただやられるだけの男ではなかったのだ。

【究極魔法格闘戦】という能力に覚醒し俺は勇者の持つ力と同質のものを得たのだ。それに加えてさらに俺の持っている技能の殆どが【究極武人術】というものに昇華したのである。これにより俺の攻撃がより勇者のもつ力と似通うようになっていった。それだけでなく俺は新たに【極大魔術格闘戦】という能力も習得することになった。

【究極魔法武術】という能力はこの世界で最高峰の能力だと言われているものであった。それを手に入れたということは俺はついにこの世界でもトップクラスの実力者となるに至ったということになる。しかしそんな事は今はどうでも良かった。なぜならば俺の目的を果たすために重要なのは今現在行われているこの激しい戦いの最中なのだ。

勇者が持つ全ての能力を把握できたのは大きい。俺は【解析眼】を使用しながら勇者と渡り合っていた。それにより勇者は追い詰められていったのである。そしてとうとうその時がきたのだ。

「ふぅー、やっと捕まえたぜ勇者」

「き、貴様、俺と同じ力を手にいれたというのか!?」「そうだよ、これで互角にやり合えるようになっただろう?まぁ、お前が本気を出してないから俺の方が若干不利っぽいんだけどな」

俺のその言葉を聞いた勇者が笑みを浮かべたのであった。それはこの状況を打開する方法が浮かび上がってきたからに違いなかった。

俺は【超直感】を発動させて次の行動を読む事に全力をかけた。

だがそれでも完全に避ける事は不可能だと判断し、防御に全振りをした状態で勇者の攻撃を受けたのである。それによって俺は後方へ吹っ飛ばされることになってしまう。しかしその攻撃の直後、俺が予想していたことが起こったのであった。

俺と勇者のいる場所を中心として周囲に凄まじいほどの風が吹き始めたのだ。

「くっくっく、俺とこの世界の主人公が手を組むとこれほどまでの力を持つようになるのか!やはり面白いな、だがこの俺とて負ける訳にはいかないんだよな!」そう言いながら俺は【時空転移】を使用しようとしていた。その【時空転位】が成功した後俺とあいつらがどうなっているかというと俺は既に異世界へと戻って来ているはずである。そしてそこで俺は新たな力を得ることになっている。

そうこう考えているうちに俺の体が輝き出した。そうして俺は元の世界に戻るために【空間跳躍】を使用したのだった。

そして俺が再びこの世界に戻ってくるとそこは俺が異世界召喚されたあの時と全く同じ状況であった。つまり、この世界での最強とされている少女がそこにいたのである。俺は彼女が何故ここにいるのかを考える暇もなかったのだ。俺は彼女に殴られたことで気絶してしまったからであった。しかしどうやら俺と勇者の戦いに決着がついたらしい。そう感じたのは意識がはっきりしてきたからだ。俺の体に纏わりついている黒い霧のような物体は徐々に晴れて行っているようであり、それと同時に俺が元々持っていた技能がどんどん増えている感覚が芽生えていたのだ。それは今までよりも多くの力が俺の身体の中に入ってくるというものであり、その力は俺の体を満たしていくのと同時に馴染んでいった。そしてしばらく時間が経過するにつれて俺は完全に元の体に戻った。そして勇者が俺に対して話しかけてくる声が聞こえてきた。

俺が気を失っている間に何が起きたかを俺は知ることになる。それは俺が気を失う直前に聞いた勇者の言葉が原因のようだ。

「俺は負けたようだな。まさかこんな化け物が存在するとは思わなかったがな。だが俺はこの世界の平和を守るために戦わなければならないんだ。悪いが俺が勝った以上あんたは俺のいうことを聞かないとダメだからな?」

「ふざけるな。どうしてこの俺がてめえなんかの命令に従わなきゃいけないんだよ。俺はてめぇの奴隷になんかなりたくないんだよ」

俺はこの男が嫌いになっていたからこそ俺は反抗的に答えてしまったのである。

その事が気に障ったのかその男は俺を無理やり地面にねじ伏せると、そのまま俺に何かしらの魔法をかけようとしたのだ。そして俺はその魔法の発動を阻止することが出来ずに、強制的に【鑑定眼】を使用する羽目になってしまったのである。そしてその結果俺は絶望感に打ちひしがれてしまうことになった。その俺が見たものは【真鑑定眼】と呼ばれるものであった。この鑑定眼というのは鑑定をする時に、相手のステータスと名前や種族などの情報が詳細に見ることが出来るというものだ。その【真鑑定眼】でこの男の鑑定をしてみるも、名前や年齢などは判明してもそれ以外の情報はほとんど分からなかったという。この世界では俺に備わっている技能は全て使うことが出来なくなっているというのだ。その技能を封じられた結果、俺は普通の人間と変わりがないステータスとなってしまったわけだ。そんな状態のままこの男の奴隷となってしまうことに俺はとても強い抵抗を感じていた。それは当然である。俺は絶対にこいつの奴隷になるわけにはいかないのだ。そう思い必死になってその方法を考え始めていた。そしてある一つの結論に至ることができた。

この【転生眼】を使って俺はこの体の持ち主を【鑑定眼】してみることにした。それでこの体の元所有者の名前が判明した。その名は神崎直人といい、俺はその名前に見覚えがあると思ったのだがそれが何なのかは分からなかった。しかし俺はその人物が一体誰なのかを調べる必要があった。なぜなら【鑑定眼】で見ることが出来なかった理由を調べたかったからでもあるし、もし彼が生きていたのならば助け出さなければならなかったからだ。

俺は自分の体に備わった【時空収納】を使用して中から武器を取り出していった。その中には剣があったり槍などが収まっている。そしてそれらの中に一本の刀が存在しているのを俺は発見した。この世界に日本刀が存在していたのかは分からない。だが俺にとってはその事実が何を意味しているのかを瞬時に悟っていたのである。それは俺の記憶にあったものと同じ形をしていたからだ。そう、俺の使っていた刀であった。そして俺がその刀を手にしたその瞬間に俺の脳裏にある記憶が蘇った。それは俺の本来の体である男のものだったが、その記憶はまるで他人のものであるかのように感じられるほど鮮明に残されていた。

俺はその思い出した内容をかみ締めつつ【鑑定】を行う。するとその詳細が表示されたのだ。

【究極神器

神滅刀神滅王 レベル:測定不能 固有技能 神滅王神域創造 無限神力】

この究極の神具の名前は神滅王神域創造というものであり、この剣が作り出した空間内に存在するものの時間を固定させ、その内部に存在するものが破壊されるようなことはなくなるという。それはつまり時間の流れが存在しないことになるのでどんな攻撃をしようとその効果を受けない。それだけではなくあらゆる攻撃を受け付けない結界を生み出すことができるというものらしい。この剣を使えば例え勇者であろうとも倒せるのではないかと考えた。しかし問題はこの剣を作り出すことが出来るほどの力を持っているということなのだ。

そんなことばかり考えていたら、俺はいつの間にかこの場所で眠ってしまっていた。そしてその事に俺は驚きつつも、【神剣創造】のスキルにより生み出された剣で目の前の勇者と戦闘を繰り広げ、最終的に勝利したのだった。しかし勇者の体はボロボロに崩壊し、俺の勝利となったのである。しかし勇者の肉体はもう完全に機能を停止していて生きているのか死んでいるのかも判断できなかった。

俺は勇者を倒したことにより手に入れた力を確認することにする。俺は【解析】を使用すると俺のステータスの詳細が浮かび上がってきた。そこにはこう書かれていたのである。

『名前:???

職業:真魔王』

俺はそれを見た瞬間に頭を抱えて座り込んでしまった。なぜなら勇者を殺したせいなのだろうか。勇者の持っていた技能のいくつかを手に入れてしまい【究極魔法格闘戦】が使用可能となっている。他にも様々な技能が俺の中にはあるのだ。だがそれだけじゃない。この男が所有していたはずの称号まで俺の中に取り込まれていたのだ。【究極武人術】という技能のようだ。

俺がそれを理解してすぐにまた誰かに呼ばれていることに気がつき、【時空転移】を発動したのであった。俺を呼んだ相手はこの世界最強の勇者と呼ばれる男であったが、そいつからこの世界を守る為の戦力が必要だといわれてしまったのだ。しかも俺以外のメンバーは女だというではないか。まぁ、俺はそういう趣味は持っていないので全く魅力を感じる事はなかった。しかし俺の力を必要としているのは事実なので、仕方なく協力する事にする。しかし俺にとっての問題は勇者の持つ能力の一つである【勇者召喚】である。俺もその【勇者召喚】というものは使用できたのだ。ただそれは、この世界の勇者である神崎直人しか使えないらしく、勇者にしか扱うことが出来ないようだった。

それからというもの、俺達はこの世界で平和のために戦うことを決意することになったのだが、その際に俺に与えられた役目というのがこの世界で勇者となるべく素質のあるものを勇者にするという仕事であった。俺はその任務を遂行するためにある少女達を探し始める。そして遂にその一人と出会うことが出来たのだ。その少女の名は【月野 小鳥遊】と言い俺と同郷の人物であった。俺は彼女と行動を共にし、彼女が勇者になれるよう手助けしていくことにしたのである。

まず最初に行ったのは、この世界で勇者になる為に必要不可欠な存在である【称号授与の儀】を執り行う事だ。そこで俺の選んだ少女の【超勇者化計画】を実行する事になった。この計画は俺の知る限り、最も強力な勇者を生み出す事が出来るのだそうだ。そこで俺が行ったのが彼女の魂に眠る力を解放するという儀式なのである。そうすることにより彼女の身体能力や魔力といったものが飛躍的に上昇していく事になるのである。それは彼女の中で眠っている力が目覚めたことによる副作用のような形で起きる現象なのである。俺はそこで得た情報を元ある作戦を実行に移していた。この世界にいる他の候補者たちのステータスを確認していく事にしたのである。それによってこの世界で誰がどのぐらいの強さを誇っているのかを把握しようとしていた。その行動の結果から導き出されたのがこの世界では神崎直人が最強であるという事。ただそれは本当の最強なのかどうかは分からないので、その確認の為にこの世界に存在している他の三人の勇者に会いに行くことにしたのであった。

私は今勇者様と一緒に街に向かっている最中だったりするのです。そうです、勇者と私が一緒に旅をしているということはそういうことなんですよ!そう考えると興奮しすぎておかしくなりそうな気分になってしまいますね。

私のこの胸は期待で膨らんでいたりしていたわけなんですが、勇者が私に対して優しく接してくれることがとても嬉しかったわけで、私は勇者のことを心の底から好きになりかけていたと思う。

それにしても本当に勇者って凄いですね。普通なら絶対に敵わないだろうと思われる魔物が、まるで赤子の手を捻るかのように簡単に倒すことが出来ちゃうんだから。でも勇者と出会ってからずっと思っていたけど、どうしてあんなにも強い力を持っていながらそれを隠して過ごしていたんだろう。そんな疑問を抱かない日はないくらいですよ。そうそう勇者といえばあの子元気にしてるのかな。

私はあの子がこの世界に来る前の日に別れてから今まであの子には一度も連絡を入れていないんだけど、多分向こうからも何も音沙汰がなかったことを考えればきっとうまくやって行けているんだろうなとは思うんだよね。あの子は私なんかより全然優秀だから。

でももし再会することが出来たとしてもどう声をかけていいのか分からないなぁ。

「ねぇ、月乃さん。あなたってさ、彼氏がいるの?」

唐突にそう尋ねられてしまったので一瞬だけ頭が真っ白になってしまったのだ。いきなり何を言っているのよこいつはと思いながらも冷静に対応する事に決めた。こんな状況になった時、下手に反応すると墓穴を掘ってしまう恐れがある。だからこそ、あえて平静を装うことにしたのである。こういう場合こそクールに対応をすることが大事なんだよ。そうすれば相手が勝手に誤解してくれてこっちには被害が出ないはずだからね。よし、完璧。完璧な理論武装を脳内で行った。これで問題なくこの場を切り抜けることが出来るでしょう。だって今の私には好きな人はいないし付き合っている人がいないという事が分かっただけで、それ以上深く突っ込まれることもない。むしろ突っ込まれた方が困るところだった。そんなことをされたら私は勇者を好きなのだとばれてしまう可能性があったからだ。

しかしここで勇者が口を開いてしまう。

ちょっと何言ってんのあんた。なんでそんな事を聞いてくるの?馬鹿なの? しかしそんな気持ちも言葉として口から出てくることはない。

私は勇者の方へと視線を向けるとそこには、どこか悲しげな雰囲気を感じさせるような表情を浮かべている姿が存在した。それは私の心臓が高鳴るほどの破壊力を有していたのである。そしてそのせいか上手く言葉を返すことが出来なかった。そんな私の様子をみた彼女は何か勘違いしたのかこう告げてきたのである。

「やっぱりまだ無理か。じゃあ待っていてくれないかな」その一言が私の心に突き刺さった。なぜそのような事を言ったのか意味がわからなかったからだ。勇者の事は確かに異性として見てしまっているかもしれないが、それがどういう意味での好きであるかという事については自分でも分かっていなかったのだ。ただ分かるのはこの人が側にいないと考えると落ち着かなくなってしまうのが事実であり、その理由が何なのかを考えるとやはり私は勇者の事が好きになっているのだろうか。その感情は今まで経験したことのないものだったのだ。

それからしばらくの間沈黙が訪れていたのだが勇者が口を開くことでそれは破られた。

勇者が言うにはまだ私は自分の気持ちに整理がついておらず、その答えが出るまでは返事が出せないという旨を話したのである。すると勇者が私の方を見て微笑んでくれていた。

その瞬間からだろうか。

なぜかこの勇者の事がとても頼もしく見え、勇者の笑顔を見つめていたら顔がどんどん赤くなっていった。これは明らかに異常な事態だ。この勇者の前では自分が自分ではなくなっていくかのような感覚に陥る。だけど嫌じゃないのだ。その証拠に今もこの人の顔を見ていたくてしょうがないと思ってしまっている。それどころかこの人と離れたくないなんていう願望さえ浮かんできてしまっていたのだ。そしてこの勇者が私の頭を撫でてくれるその感触が堪らないほど幸せでもっとしてほしいと思っている自分がいた。その事に気がついてからようやく気がつく。

この勇者に好意を抱いてしまい、これからもこの人に付いて行こうと決めていることに。そしてその事に気がついた時には勇者と別れるという選択を取るつもりなど微塵もなくなっていた。この勇者について行きたい。それが自然と芽生えてくるこの人への気持ち。

これが恋なのだろうか。

それから私はこの世界で最強の勇者に惚れてしまったらしい。

それからというもの私は勇者と共に旅を続けていった。ただ勇者は勇者であって私の想いに応えてくれるとは限らないという事もわかっていたのである。そもそも私は恋愛に関しての興味すら殆ど持ったことがないような状態だったのだ。しかし勇者の事を思う度にドキドキしてしまい心が熱くなる。これこそが人を本気で好きだという証なのだろうか。

しかし、この勇者は一体どこへ向かって進んでいるのか全く分からず、ただひたすら勇者の後に着いて行っている状態が続いていたのだった。私はそんな日々を送り続け、そして今日という日が訪れた。遂にこの勇者と私が出会った場所に辿り着いたのであった。そう、そこは私がこの世界で初めて勇者と出会った場所。そこで私達の物語は始まったのである。そうして私は思い出していた。この勇者との出会いを。そう、勇者は突然私の前に現れてこう告げてくれたのだ。『君を必ず守る』って。私はあの時の勇者の言葉を思い出す。それだけで私の鼓動はさらに早くなって行くのを感じることができた。この勇者なら信用してもいいかも、この人は絶対悪い人ではない。私は確信する。そして今の状況を整理していた。この目の前には巨大な魔王の姿があり、今にも勇者を殺してしまいそうな勢いなのだ。しかし勇者はこの状況下でも全く焦ることなくいつものように落ち着いており、その様子はとても格好良かった。勇者はこの強大な力を持つ相手に対し、余裕で対応しているように見えたのだ。

そう思った矢先の出来事。

勇者が剣を抜き、そしてそれを魔王に向けて投げつける動作に入ると同時に私は理解する事が出来たのである。この一撃はただの時間稼ぎにすぎないということを。なぜならば、この行動を取った時点で既に勝敗の行方は決まっていたのだから。私はこの時、理解していなかったのだ。この世界では、私の常識は全く通用しないことに。

そう、私にとって初めて見るこの世界の戦い方は凄まじいの一言だったのである。

私は、私に出来る最大限の援護をする。そうする事でこの戦況を変える事が出来るのではないかと考えていた。まず私は【時空転移】を使用し、勇者の側に移動して、そこから再び【時空連続攻撃III(スリー)

】を発動させたのである。これは私自身が放つことのできる技の中で最強に近いであろう威力を持っている技の一つなのであった。そう、それはつまり私の本気がどれだけの力であるかが如実に現れているとも言えるわけである。しかし勇者にはあまりダメージを与えることが出来ていなかった。

おかしいわね、今の攻撃は確実に決まったと思ったんだけど。そう、私はこの世界での最強と呼ばれる存在に攻撃を仕掛けている。それは、私自身もそう思っていたし、実際私の放った一撃は、この世界の最強と言われる人間ですら即死させる程の威力を持っていたはずだ。なのに何故勇者は無事でいるのだろうか。

いや、理由は一つしかないか。勇者には恐らくなんらかのスキルがあるのだろう。だからこの世界の住人よりもステータスが高いのだと考えられる。でもその能力の詳細に関してはまだ分からないし、これ以上考える時間も無い。だからここは勇者を信じる他なかった。そう、勇者はきっと勝つはずだから。私は信じて勇者を応援する事にしたのであった。

俺は魔王に渾身の力を注ぎ込んだ攻撃を放っていた。しかし、それは相手の体に触れただけで終わってしまうほどの力しか持っていなかった。俺が放った攻撃を、相手にぶつけた時に手応えがなかったからである。それにあの攻撃を受けて平然としているこの男はやはり只者ではなかった。しかし俺はそんな事で怖気づく事もなく、次の行動に移っていく。次に発動するのは【時空跳躍I】。それは自分にしか使うことが出来ないオリジナルの技なわけだが、その能力は、時間を遡る事ができること。ただし使用してから5分というタイムリミットが存在しているのだが、それを過ぎれば元の世界に戻ることは出来ないというリスクが存在するのだ。しかし今回はそれでいいのだと考えている。もし戻れないとなったら別の世界に行くまでの話。しかし今はそんな心配をしている場合では無いからな。だからこの世界で一番強いと思われる魔王に対して全力で攻撃を仕掛ける。そうする他にこの状況を脱する方法はないと判断したからだ。

その効果は絶大なものだった。

俺はこの異世界で最強の存在として恐れられていたらしいが、それでも俺には到底勝てる気がしないほどの強さを有していたのだ。だから俺はこの異世界に来た時と同様にレベル1から始めようと思っていたのに。そう思っていても現状は変わらなかった。それどころかどんどん押されている始末だ。正直に言ってしまうとかなりきついものがあるのだ。だってさ、こいつ普通にめちゃくちゃ強くて、その上超再生力まで持ってんだぜ。チートすぎるだろこいつ、こんなん絶対に無理ゲーだって、どうすりゃいいんだこれ、マジどうすれば良いんだろうね。って、なんか冷静に考えているけども実は内心結構動揺しまくりなんだよね。だってこいつの動きが速すぎて全然目が追いつかないんだよ。こんな事あるのか? しかし俺はこの世界に来てしまった時からこの勇者に着いて行かなければいけない理由ができたのである。その理由というのは単純に惚れてしまったからだ。しかしこれはこの勇者に言っても分かって貰えない事だとは思っている。だけど俺の気持ちを分かって欲しいと思っているのも事実だ。この勇者のことが好きなのだとはっきりと言えるのにそれが伝えられないのが歯痒かった。しかしそんな事は言っていられないのだ。勇者はこのピンチをチャンスに変えてくれると信じて俺は戦うだけだから。

そしてその考えは正しかったのだと直ぐに証明された。勇者の体が眩しく光り出したのである。それと同時に、まるで力が溢れ出てくるような感じがした。その感覚があまりにも強烈だったため、思わず笑みを浮かべてしまう。

そして光が消えてからそこにいたのは別人のような雰囲気になった勇者の姿があった。その圧倒的な力の差を見せつけられた俺は勇者が何かに目覚めたことをすぐに悟った。その変化は、見た目的な部分ではなく、もっと内面的なもの。勇者に秘められていものが解放されましたといったようなそんな感覚。まぁ要は、覚醒したというわけだ。その力はまさに桁違いだった。先程まではなんとか対応できる速度でしかなかったのだが、今では目で追う事もままならない速さになっていたのである。

それからの勇者は圧巻だった。

その勇者の動きは神業という言葉では足りない程のものであった。そして魔王に止めの一撃を与えていたのである。そのあまりの迫力に、俺はただ勇者を見つめていることしか出来なかった。そう、言葉が出てこなかったのだ。それほどまでに圧倒的であり、美麗であった。そしてこの勇者ならどんな敵にだろうと負ける事はないだろうという予感すらしてしまうほどであったのだ。そして、勇者の手にしている武器から伝わる力を感じた。

これはまさか聖剣!? この世界に存在するとされる伝説の聖剣をこの勇者が握っていたのである。

その事実を知った途端に何故かこの世界は平和にならないかもしれないという思いが生まれ、不安が押し寄せてきたのであった。しかし、この世界のどこかで勇者を必要にしている者達がいる限り、この世界を救いたいという気持ちは変わらないのだけれどね。そう、この勇者と共にいればいつかその日が来ると確信しているのである。

そして魔王を倒した俺たちはその足で城へと向かった。その道中に勇者の仲間となる人物が現れるのだが、その人を見て、俺はかなり驚いてしまったのだ。それはもう、声が出せないくらいにである。

なにしろ、目の前にいるのは俺がこの世界で最初に会ったあの女性なのである。

そう、彼女は、勇者が旅を始める前に最初に出会った少女なのであった。

俺は、自分のステータスを確認しながら考えていた。なぜ自分がこんなに強力なスキルを持っていて更にはそれを扱う技術を持っているのかについてを。そう考えた時真っ先に思い浮かぶ可能性といえば俺が転生したのではないかということだ。しかしその結論にたどり着くためにはいくつかの疑問点が残るのである。それは、俺の住んでいた場所は本当に異世界なのだろうかという点である。しかし俺はここが自分の居た場所とは完全に違う空間にある世界だということも知っている。つまりここは、今までいた世界とは別の異界ということになるわけなのだ。そう、この地球とは別世界なのだ。そして俺はその異世界に突然召喚されてしまったのだ。そう考えるとその可能性は非常に高いと考えられるのだ。そう、それはなぜかと言えば、この世界は地球の常識で当てはめてはいけないと分かるからである。そもそも俺はここにいる魔物達のレベルが低いということやこの世界での人間の弱さを見ている。だから地球には存在しない生物達が多く生息しているのではないかと考えた。しかしそれでも俺は納得できていないところがあり、結局のところまだそのことについては確信を持ててはいないのである。しかしそれもそう長くは掛からないだろう。そう、俺は確信しているのだ。そうして、俺がこの世界に来ることになった原因や理由について考えている時、突然誰かの声が聞こえて来た。

そういえば魔王を倒してから色々あってすっかり忘れていたんだけど。今ってどういう状況なんだろうな?確か勇者は今頃魔王城に辿り着いているはずだから、今はまだ魔王と戦ってるはずじゃないのか? もしかして俺の知らないところで魔王倒し終わったってオチなのか? そう思った俺の思考は勇者からの連絡を待っている間に悪い方向へ向いてしまっていた。

しかしその時である。突如目の前が眩しいほど明るくなったのであった。その瞬間、嫌でも察知できたことがあったのだ。この光こそが魔王が消滅したことを表しているのだろうということを。それはすなわちこの世界の脅威がなくなったことを意味する。そう俺は思っていたのだが、その光が徐々に薄れていくと同時にそこには俺の想像を超えた光景が広がっていたのであった。

その視界に広がるのは綺麗な景色と、こちらに手を振る女の子の姿。その姿はとても美しく可愛らしいものだった。そして俺は、彼女が誰なのか瞬時に理解したのである。それは俺が一番初めに見た人間でこの世界で一番最初に会話をした人だった。それは紛れもなく勇者と一緒に行動をしていた女性の姿そのもの。その人物がどうしてこの場に居るのかということを考えようとした矢先にその女性は口を開いた。

「あ!あなたはあの時のお方ですよね?」

そう言って近づいてきた彼女に俺が答えるべき言葉は決まっていた。俺が異世界から来てしまったあの日。彼女と勇者との初めての出会い。そしてその後に俺は勇者と共に行動することになった。

だからこそ彼女の口から放たれたのは当然のこと。俺は、勇者が帰ってくるまでの間彼女を守り続けなければならないという使命を与えられたのだから。しかし、そこで俺はふと一つの可能性を考えついた。

もし俺が異世界から来てないとすれば、勇者も異世界からやってきたということはないだろうか?いや、むしろそれ以外の可能性は無いと言っても良いほどだ。

そうなると勇者には帰らなくてはいけない理由があるということになる。

しかしそれだと俺には何の問題があるのだろうか? 勇者のパートナーとしてこれから行動する事になるわけだから特に問題は無い気がするが。

とりあえずそのことは今は置いておくことにしよう。それよりもまずは、目の前の女性への対応をしなくてはならない。そう、その女性こそ俺が初めてこの世界に来た日に勇者の隣にいた人であるからだ。

それに、この女性の名前についても聞きたいことがあるしな。勇者は彼女をアリアと呼んでいたし。しかし今は名前を聞き出すためにわざわざ話を広げる必要もないと思うから今は話を進めよう。俺の直感的にではあるがこの女性が普通の人ではない事が分かったからだ。そしてその理由としてはこの女には不思議な気配を感じるのである。それが何かまでは分からないが、ただ一つ言える事があるのだとすれば、彼女はこの世界でも上位クラスの実力者だと思われるということである。そしてそんな人とこうして遭遇している時点で俺にはかなり幸運なことなのだという事も理解できているので余計な詮索はしない方がいいだろう。そう、俺は俺が持っているスキルをフル活用すれば大抵の事に対応出来ると思っているのだ。そしてこの人になら任せて大丈夫だと言う事も分かってしまう。

まぁ、その人が信用に値するかの判断は後回しにして話を先に進めようじゃないか。勇者は今現在進行形で俺に助けを求めて来てくれているみたいだし。

そう思ってる間にも俺の方に向かって走ってくる勇者の姿を捉えたのでそのタイミングで、

「私はあなたの事を待っていたんですよ」

俺はその言葉を告げたのである。勇者はきっと困惑するだろう。だが俺には分かる。この女性は何か特殊な力を有している存在だと、そう思ってしまえるほどの力をこの人は有しているのだ。そう思えたのだ。

そして俺の言葉を聞いた勇者の反応はやはり俺の予想通りで俺に助けを求めて来たのであった。しかし勇者も俺にそんな力が有るとは思っていないようで、どうせ嘘だと思っているような顔だった。そして俺はその表情を崩すべく言葉を放ったのだ。俺が勇者に対して攻撃を加えて、その攻撃を受けた勇者は血を流して倒れ込んだのである。そして俺はこの力に確信を持ったのだ。この力が勇者の助けになれる事と勇者は間違いなく強くなることを確信したのだ。そう思った直後勇者に俺はある提案を持ち掛けた。勇者のこの先についてである。俺は勇者と共に旅に出なければいけないという予感のようなものがあったので俺は勇者と共に魔王軍を倒しに行くことを誓ったのだ。しかしここで、この女性の意見が必要になるかもしれないという可能性も踏まえ、勇者に女性の存在を伝え、一緒に来るようにお願いをするのである。しかし結果は、残念なものとなってしまった。

それは、勇者はこの女性を連れて行く気が無いと言い出したのである。俺はそれを了承してこの女性の身の安全だけは保証すると約束してその場は収まった。

その後勇者の仲間となった俺はその勇者の仲間達に様々な知識を教えてもらうこととなったのである。

俺に色々な事を叩きこんでくれた仲間は勇者の幼馴染だったらしいがかなり厳しい人でもあった。そんな彼女によって俺はこの世界についての基礎的な情報を手に入れることが出来たのである。

それから勇者はどんどん強くなっていき俺達は勇者パーティーと呼ばれ始めていた。

そしてそれから一ヶ月が過ぎた頃に、この世界に異変が起こったのである。その時に俺と勇者は初めて魔物と遭遇することになった。

そして、その魔物を見て俺は衝撃を受けた。その魔族からは強い魔力を感じられたからというのもあるが、それ以上にこの世界で最強の生物であるはずの人間がまるで歯が立たない様子を見せられたからだったのだ。そしてそれはその魔族のレベルがこの世界の平均より上だという証拠でもあるのである。

そしてその時、俺は思ったのだ。なぜこの世界の人間は弱いのかと。

その日俺は、自分のスキルを使って俺のレベルを勇者よりも上げてみたのだ。

その力の差がどの程度なのかを調べるためにである。

結果を言うのであればその差は俺の想像を超えていたのであった。勇者の力は魔王と比べてしまうとそれ程高いものではなかったのだが、それでもこの世界の人達から見れば異常なほど強かったのである。

そして、その差がこの世界にとって致命的であることもすぐにわかってしまった。

しかしそこで勇者がこの世界の人を守るべきだと言ったので俺は協力をする事にしたのであった。勇者と共に戦う事で少しでも役に立つ事が出来るのではないかと期待したからである。しかしそれでも勇者一人の力では限界が見えてきてしまっていた。俺はそこで魔王の言っていた言葉を思い出し、勇者に言ったのである。俺も戦おうと。その言葉は勇者にはかなり不評だったようだが俺だってこのままでは駄目なのである。だからこそ俺は必死に説得を続けた。勇者が俺の力を信じることが出来ない理由はよくわかったが俺にだって考えはあるのだ。その方法を使えば勇者の負担も少なくなるはずだと思った俺は、俺にしかない力で戦いたいと思い、そしてその作戦を実行したのである。それは、勇者と合体するという荒業だった。しかしそれは俺にしか出来ない方法でもあり俺はこの世界での初めて出会ったこの世界の住人を守り抜くことが出来ると思えるようになったのだ。

そう、俺には力があるんだ。だからこそ俺が勇者を助ける必要がある。

そう心に決めた時俺はまた一人になってしまった。俺の傍にいるのはもう既に俺だけになっていたからである。俺以外の人間は既に全滅してしまっていたのだから。それも俺のせいでもあるのであまり人のせいにしたいわけではないのだが。とにかく俺は自分の非力さを悔やむしかなかったのである。

そして、この世界が危機に瀕したときに俺は、自分が今まで生きて来た世界のことを思い出していた。その世界には俺を待っている奴が居るはずなのだ。俺を必要としている人が。だからこんな所でくたばるわけにはいかない。絶対に俺は元の世界に帰るんだ。そう思った。そう思っていると俺は、いつの間にか目を覚ましていたのであった。俺は何が起きたのか理解するのに数秒かかってしまった。そうして俺は、俺を覗き込んでいる女に目が止まったのだ。そして俺はその人物を知っているのである。そう俺の知っているその人物は紛れもなく魔王であった。その事実を理解出来ていなかった俺が固まってしまっていると、

「ようやく目覚めたのか!本当に良かったぞ!」

そう言いながら抱きついてきたのだ。しかも俺の上に乗っかる形で。

そう、それは紛れもない魔王の姿だった。

その事に気が付いていない様子の魔王だったが俺はすぐに離れろと注意をしたのだ。そうしなければ俺は今すぐに殺されかねないと感じ取ったからこそ。

しかしその行為を見た途端魔王の目に光るものが流れたように見えた。

それは涙なのか?それとも汗?そう思いつつ少し距離を取った。すると魔王はゆっくりと口を開き、俺は死んだと思っていたのだと言う事を説明してくれた。それについては確かに納得できる。

「それにしてもお前には本当に感謝している。ありがとう」

そう言って再び俺に抱きついて来たのである。それに関してはさすがに俺の思考が追い付かなかった。そしてそれと同時に理解できたことがもう一つ。この魔王がとても可愛らしく見えたのだ。俺はこの時完全に心を奪われてしまったのかもしれないと自分でも思ってしまえるくらいだった。だから俺はその体を抱きしめ返してしまったのだろう。そう、俺はこの時完全にこの女にやられてしまったという事だろうな。

そして俺はこの日から魔王と一緒に生活をすることになったのである。魔王と生活するのは意外と楽しいものであった。なんとこの女の家事の腕が凄まじかったので俺は毎日驚かされたものだった。しかし、俺は一つ疑問を抱いていたのである。それは、なぜ俺だけがこの世界に来てしまったのだろうかということ。俺はその答えを求めて色々と調べ回った。そして分かった事があった。それはこの世界が元々俺が住んでいたところとは別の世界であり俺が召喚されたときに勇者と共に行動しなくてはいけなかったということだった。

それに気づいたとき俺は愕然とした。そして、もし仮にこの世界に来れたとしてもまた勇者の元に帰れるのか?という新たな疑問が生まれたのだ。その事が俺にとっては最も大きな問題となってしまっていたのである。しかしそんな事を魔王に相談出来るわけもなく一人で悶々としている日々が続いていた。そんなある日の事だった。

魔王は突如俺の前に現れ、

「私に何か話しておきたいことがあれば話しておくといい」

という助言を俺に残して消えたのだ。俺はそれがどういう意図があっての発言かを理解することが出来なかったが、俺の気持ちを理解してくれているのかもしれないと思い話すことを決めた。

しかし俺にはまだ勇気が無かった。そして、俺は魔王にこう質問をしたのだ。

「俺は一体どうすればいいと思う?」

と。その言葉に対して魔王は、

「好きにすれば良いのではないか」

そう告げて俺のもとを去ったのである。俺はその言葉の意味をすぐに理解することが出来ずにいた。俺はこの異世界でどうしたら生きていけるのか、それを悩んで居たのだ。その答えを出してくれるものなど存在しないのにも関わらず、ずっと。しかし俺の心の内を読んでいたかのように俺に対して一つのアドバイスを残したのである。

俺は、この世界に来て初めて俺に生きる希望を与えてくれたその言葉を信じることにしたのである。

俺はそれから勇者のパーティーに戻ることに決めたのだ。その前に俺は魔王が俺に何かを伝えようとしていたのにその言葉を伝えられていない事に気付き、その事を聞いてみると、魔王が最後に言おうとしたのはこういう事だった。

『魔王は、自分を倒した勇者が憎くてしょうがないのだ。魔王は自分の大切な存在を奪っていったからな』

という言葉を残して消えていったのだ。

この言葉が本当かどうかはわからない。しかし俺には魔王がそういう感情を持っているようには思えなかった。

だから魔王の言葉をそのまま受け入れることは難しかったが俺はそれでも魔王の事を信用することにしたのである。

そして勇者が魔王城に戻ってきたときには、俺はすでに魔王軍の将軍の地位にまで上り詰めており勇者と再会した。その時は勇者は涙を流しながら喜んでいた。しかし、勇者には仲間がいなかった。俺は魔王を倒す為に旅立ったのだから当然の結果だと言えるのだが。だが魔王が俺についての説明をしてくれていたようで勇者は俺を受け入れてくれたのである。そして俺と勇者は魔王討伐に向けて旅を始めたのであった。その旅の途中で出会った仲間は俺を裏切らなかったがやはりどこか遠慮をしているような雰囲気が感じられたのである。

そして、その旅の途中で勇者は勇者でなくなり俺の仲間になることになったのであった。魔王軍の幹部である四人の魔王の一人と俺の仲間である勇者との奇妙な関係が生まれ、その事がきっかけで勇者はこの世界が滅びないようにと願って戦うことを誓うようになったのであった。

しかし勇者のそんな願いとは裏腹に魔王の圧倒的な力は俺達に絶望を与えるものでしかなかった。勇者のレベルを上げていく為の手段を勇者が使い、俺達にも協力してもらってなんとか倒すことが出来ていたが勇者のレベルを上げるための手段というのはかなり危険を伴うものであり、そのせいもあって俺達が力を合わせるのが難しくなってきていたのである。そんな中で俺達の前には最強の敵が立ちふさがっていたのであった。それは勇者でも勝てるかどうか怪しいレベル。その相手が四天王の一人、悪魔族序列六位ベルセリオンという名前の者だった。その名前の通り、この男は最強と呼ばれるにふさわしい力を持ち合わせており俺達は苦戦し続けていた。その強さの前に俺は魔王を守るどころか勇者のサポートすらまともにできない状態で戦い続けなければいけないという状態に陥ってしまい、とうとう追い詰められていたその時、勇者は俺の為に命を落とす覚悟を決めて俺にその身を委ねてきたのであった。そして俺は、魔王からもらったスキルを発動させ俺は自分の中の力を解放したのである。

俺はこの時から意識を失うまでの僅かな時間の間に夢のような光景を見続けることになる。勇者と共に戦い魔王と戦う場面の夢である。その夢の内容が現実なのかそれとも幻だったのかは分からない。しかし、そのお陰もあり俺は自分の力を全て開放することができその力に飲み込まれそうになることはなかったのである。そしてその力を使った時勇者に使ったスキルとはまた違った力が使えるようになり俺の魔力を底上げする事ができたのである。それにより魔王との戦いも有利に進むことが出来るようになっていったのであった。そして俺は勇者が生きている間に魔王を倒してみせると宣言し魔王の待つ城に向かったのである。しかしそこには魔王の他にも強力なモンスターが待ち受けていたのである。それは四天王である吸血鬼の真祖だった。しかし真祖が俺と勇者に向かってきたとき俺の視界にある文字が浮かび上がったのだった。それは俺の力を完全に覚醒させるものであった。俺は、それを本能的に読み取ると力を解き放った。その結果俺は勇者と同等の力を手に入れることができたのである。それに加え俺は今まで使ってきたスキルとはまったく別の能力を使うことが出来るようになったのである。そして俺はその力を使い真祖を倒し魔王のもとにたどり着いたのであった。

そして俺が見たものはこの世界の終焉ともいえる出来事だったのである。その現象を起こしたのはなんと勇者本人だったのである。

その現象とは、勇者が俺をこの世界に召喚した時に行った召喚術と同じことが起きたのだった。つまり、その世界で魔王を倒したものが元の世界に戻されるというとんでもないことであったのだ。

俺の目の前には俺の世界の景色が広がっている。そしてそこに立っている少女こそ魔王であり俺の妻でもある存在であったのだ。

そう、俺の能力は魔王がこの世界に来る時に手に入れたものだったのだ。しかしそれは、本来ならば魔王の持っているはずがない力でそのせいで魔王はこの世界に現れる事ができないはずだったのである。だからこそ俺はこの世界に来れた時は驚いたものだったのだ。しかしそれは間違いであったのだ。魔王は最初からこちら側に存在したのである。

俺の能力である【隠密】はその人が持つ固有の力を底上げすることが出来るというものなのだが、そのせいか俺が元々持っている固有能力を目覚めさせる事も可能になっているらしい。そのおかげで俺は俺の持つもう一つのスキル、【勇者の導き手(ナビゲーター)】を使うことが可能になったのである。その能力は相手の固有技能を習得できるというものだったのだ。そのおかげか俺と魔王の間には絆が生まれて今に至っているという訳だ。まぁ、その事は勇者や他の仲間たちは知らないわけだが。そして俺は今勇者と一緒に魔王と戦っているところなのだ。

俺と勇者、それに他のみんなと一緒に。

勇者はあの時の記憶を失っていたので魔王の正体についても気が付いていないようだ。俺はそれが嬉しかった。あの記憶を思い出したら間違いなく魔王のことを恨むはずだからな。だから魔王も正体を現すことができているという事だろう。俺と魔王は共に戦う事で魔王を倒す事に成功した。しかしそれは一時的なものに過ぎなかったのである。なぜなら魔王の肉体が消滅しその魂だけになってしまったからだ。そして俺はそれを勇者に預けることにしたのである。勇者はそれを受け入れてくれたのである。そして俺が勇者に託したものそれは俺が勇者と一緒に戦った証でもあり俺からのメッセージでもあったのだ。その証拠が、今の俺の姿に刻まれている。それは、俺の背中に彫られている紋章である。これは俺の固有技能である刻印というスキルで刻まれたものだ。俺にしか消すことが出来ない特殊なものであるのだ。その効果とは、一度きりの超レアアイテムを生み出すという効果がある。その効果は俺の想いや思いの強さにより変わるのだ。このアイテムを使えばこの世界が平和になることを願っている限り何度だって使うことができるようになるのだ。

この世界が平和になったときにまた戻ってくることが出来たらその時は勇者に返してあげようと思っている。それまでこの世界は頑張ってくれ。そしていつかこの世界に勇者が召喚されたときには一緒にこの世界を救ってくれ。そんな願いを込めながら俺が渡した。勇者がどんな風に思ったのかまでは分からなかったが、俺からの言葉に心の底から感謝してくれたことはよく分かったのである。

そして、勇者は俺達と共に元の世界に戻ることとなったのである。そして勇者は、俺達を向こう側の世界に召喚したときと同じようにして元の世界に戻すつもりだったが俺達はその前に魔王の身体を復活させることにしたのである。そうすることでこの世界での出来事をなかったことにする事が出来ると魔王が言ってくれたのだ。そして魔王は勇者と俺、そしてこの異世界にいる全ての人たちをこの世界に召喚させた。そうしてこの世界の時間の流れを戻そうとしたのであった。そしてそれは成功したのだ。そして、勇者の仲間として召喚されていた仲間が消えたことで俺のことも覚えていない状態だったのだ。しかし勇者は仲間達が消えていることに驚いていたが俺のことやこの世界のことに関しては特に何も気にしていなかったのである。俺はその様子にほっとしていた。そして俺と勇者は元の世界でも仲良く暮らしていけるようになったのだ。

俺はこの勇者との生活を気に入っていた。魔王のことが好きな気持ちに変わりはないのだがそれでも俺は勇者のことが好きになっていったのであった。勇者の方もこの世界の事を忘れてしまったからこそ素直になってくれるようになって俺との時間を楽しもうとしているように見えたのである。そんな生活がこれからも続くのだと俺は思っていたのだが、その日常を壊すものが現れたのである。

それは勇者の妹がこの異世界に転生したというものであった。

その妹が俺達の生活を脅かす存在となるのは俺には分かっていた。勇者がこの妹の事を覚えていれば勇者が止めると思っていたのだが、勇者は勇者で自分のことに夢中になっていてその事に気が付かなかったのである。その事に俺は腹を立てたのであった。そして俺はその事を魔王に伝えようとしたのだがその時に魔王が現れ魔王がその妹を殺してしまったことにより事件は起きなくなってしまったのだ。そして俺は魔王の行動の意味を考えるようになっていた。魔王は自分の妹を殺すことに意味はなかったはずだ。なのに魔王は躊躇することなく殺したのである。それについて考えた結果俺の頭に浮かんだのは魔王が何かを隠しているという可能性であった。しかしそれを知るためには魔王を倒さなければいけないと思ったのだ。俺はそのことを勇者に伝えたのである。

勇者はそれを受け入れ魔王と戦おうとしたが、そこで俺のスキル、魔王との旅路が目覚めたのだ。俺は魔王と旅をした記憶を思い出すと同時に魔王がどうして勇者を殺そうとしているのかを理解することができたのである。しかしそれはあまりに残酷なもので俺は自分の無力さを呪った。しかし勇者は俺よりも辛い現実を受け入れることが出来ていたのだ。俺達が戦うことを決意した後、魔王がなぜ勇者を殺そうとしていたかの説明がされたのである。その言葉はとても悲しいものであった。そして、勇者の心の傷が広がったがそれを俺が支えていくことを決めたのであった。

それから俺達は魔王城へと向かったのである。俺達の目的は勇者と魔王の二人を止めることである。

魔王城の前まで来た時俺達の前に一人の女が現れるのであった。

「あら?あなた達こんなところで何をなさっているの?」

魔王城の前で俺たちの前に現れたのは聖魔教団という組織のトップである女神だった。彼女は勇者がこの世界にやって来た時に現れた神であるらしい。その目的は魔王を滅ぼすことであり、その魔王とは目の前にいる少女のことだったのだ。魔王はその力のせいで人間とまともに接することが出来ず、その結果勇者の両親も勇者に酷い扱いをしてしまいそれがきっかけで勇者は勇者としての道を外してしまう結果となった。その魔王が俺の知っている魔王であるとしたならその魔王は俺にとって倒す対象ということになるわけだ。俺は自分の中に眠っている勇者と共に魔王と戦った時の感覚が蘇ってきて勇者と共に魔王と向かい合った。

しかし俺が魔王と対峙してもすぐには戦いを始めず、俺と勇者に力を与えてくれた。俺達に力を貸してくれるようだ。そして俺はその力を勇者に渡し魔王と相対したのだった。

俺は自分の力がどれだけ上がったのかを確認できていなかったため不安だったがなんとか勝つことが出来たのである。しかしそれは俺だけの力のお陰ではないということを俺は知っていた。その力を与えたのは勇者のスキルであったからである。俺はそのお陰で勇者が元に戻った時にこの世界にやって来て魔王を倒し元の世界に帰っていった時に魔王から託されたものがどういうものなのかを教えてもらったのであった。その時に魔王が言っていたのだが魔王が俺を召喚したのはただ単純に俺のステータスを見たいという欲求だけだったそうだ。俺がそれを聞くと俺はその話を疑いたくなったが、確かにそれを証明する方法は俺が持っていたはずのアイテムを魔王が持っていたことからその話は本当なんだという事が証明できたのである。俺はこの魔王を敵に回してはいけないという事を知ったのであった。まぁ、今は味方になっているみたいだが。とにかく、その力で俺は強くなれたわけだ。魔王の力を借りなくても充分に勇者の力になれるぐらいにな。

俺はその力を使い勇者と一緒に魔王を追い詰めることに成功をした。しかし魔王はまだ余裕があるようにみえたのである。そして俺は魔王がこの世界の人間を使って勇者を殺そうとしていることが分かりその事実を知り俺は怒りを覚えたのであった。魔王の本当の目的を知った俺は勇者に魔王がやろうとしていることを教えるのであった。その事を聞いてしまった勇者はかなり動揺していたが俺はそんな勇者の手を握ってあげたのである。

俺はそんな魔王の思惑通りにならないことを願ったのだ。そして俺は勇者と一緒に魔王の計画を潰した。そのせいか俺達の周りには俺と勇者、それにこの異世界に来てから俺の相棒となってくれている猫が一人と一匹しかいないのである。俺はその状況を利用し勇者と一緒に勇者の家族を安全な場所に連れて行くことにしたのだ。勇者も俺も家族のことが大好きなのでそんなことはしたくないと思っているはずなのだが勇者の両親はこの世界にはいないのである。そのため仕方なく俺が行くしかなかったのだ。それに勇者にそんなところは見せられないので勇者には悪いが少し待ってもらうことになる。まぁ、勇者の方はこの異世界を楽しみながら魔王と戦うための修行をすると言っていたので特に問題ないと思うが。

俺は勇者を連れて俺の住んでいる家に向かう。そこには家族がいるから安全だと判断したからでもある。しかし、魔王もバカなことをしたもんだ。魔王は自分の娘を誘拐した犯人として勇者に仕立て上げたのである。俺はそのことを知ったとき心の底から魔王の事を軽蔑したのである。俺はこの世界に魔王がいない方が勇者にとっては幸せだと思い勇者をこちらの世界に連れてきてしまうことにしたのだ。俺は自分の世界が嫌いだったわけではないがそれでも勇者はこっちの世界で生きる方がいいだろうと俺の直感がそう言っているような気がしたのでそうしたのである。しかし、それは間違っていたようである。なぜなら勇者と魔王が再会してしまったからだ。そして、俺の予想通りのことが起こった。しかしそれでも魔王のやり方が俺は気に入らない。俺の大切な人をさらった挙句に勇者まで殺しにかかってきたのだから当然の事である。

俺の家は結構いい物件だったようで、勇者と魔王の戦いに巻き込まれてボロボロになってしまったものの中はそこまでひどいことになってはいなかった。しかしやはり戦闘が行われただけあって壁や床などが破壊されているのは確かであった。それでもこの家の家具はほとんどそのまま残っていてくれたのは助かったのである。

俺と勇者と猫がこの世界に召喚されて一年が経過していた。その間色々とありましたよ。主に魔王関連のことですが。この異世界にも季節は存在するらしく、もう春から夏へと変わる時期になった。今俺達はこの世界での初めての夏にどう過ごすのかを考えながら過ごしていた。しかし俺達がこの異世界にやってきたのはちょうどこの異世界の季節が変わる時期に来ていたためこの世界に俺達が来た時は夏の状態であった。しかしそれはこの世界の季節のサイクルを乱すものだった。しかしこの世界は俺の知る地球と違うためそれが普通なわけだ。しかし勇者は元の世界でこの季節を経験したことがあったのだろう。俺にはこの季節の変化を喜んではいたが、どこか辛そうな顔もしているように見えた。そして俺もその勇者の様子を見ながら勇者と同じことを考えてしまっていたのである。この勇者が経験したことの無い季節はいつ来るのだろうかと。そして俺はこの先起こることを知っている分その事ばかり気にしてしまい、他の事が全くと言っていいほど考えられなくなってしまったのだ。そして俺は勇者のそばから離れられなくなってしまったのである。そんな時に俺達の住むこの村に魔物が襲ってきたのであった。

その魔物は、今まで見たことのないくらい大きく強い力を持っているように見えた。そしてその力は魔王軍に匹敵するものであると思われた。俺は勇者と二人で戦おうとしたがその前に魔王が出てきて魔王がその魔物を一瞬にして倒してしまってしまったのである。そして魔王は勇者に自分が勇者の妹の敵であることを伝えていたのであった。その事で勇者は動揺していたのだが俺が何とか勇者を慰めることに成功していた。しかし俺と魔王との戦いが始まるとその光景を勇者は見ていることしかできなかったのである。そうして魔王が勇者の目の前に現れてしまったのだ。しかし勇者はそれを止めようとするどころかむしろ一緒になって魔王を追い詰めようとしていたのである。俺はそれを止めようとしたがその隙に魔王に俺が持っていたスキルを奪われてしまったのだ。魔王は奪ったスキルで魔王の固有スキルである転移を使おうとしたのだ。俺は勇者と離れることが怖く咄嵯に対応ができず、魔王に持っていかれてしまい勇者とは離されてしまうのであった。そして俺は自分の体と魂を魔王に乗っ取られてしまったのである。俺は自分の体の自由を奪われると同時に勇者と俺の記憶を覗き見ることができた。それにより、俺は俺の中に入っているものが魔王だということを知ることができたのであった。

俺はその魔王の力により、自分の体が動かせなくなり魔王と一体化している状態になった。しかしその時俺にはまだ意識があったのだ。魔王の力を体に受けた時に自分の意思では動けなくなっていたのでその状態のまま魔王の言うことを聞くしかなくなったわけである。俺が俺の意思で魔王の力を使うことは出来ないが俺の中に残っている記憶だけは使うことができていた。そして俺は勇者を逃がそうとしたが勇者に逃げられる前に俺達は強制的にこの村を後にさせられ、次の場所へ向かわされてしまったのであった。その移動の間俺ができるのは魔王に俺が俺の体を使えるかを確認することだけだった。魔王の返答はもちろんイエスだったので俺の体は俺が操作できるようになったのだが勇者を追いかけようとしたところで俺の中の俺じゃない何かに阻まれたのであった。おそらくその何かは俺が持っていた魔王への対抗策であるスキルが変化したものだと思われる。俺にそれを封じられている限り勇者に俺は近づくことはできないのだ。

魔王と融合したことにより俺の中には魔王の記憶と俺が知っているスキルが融合されたのだ。そのスキルのおかげで俺は俺自身が使えなくとも勇者のスキルであるスキルと魔法を全て使うことができるようになったのである。俺はそれを使い、魔王と合体する前からあった勇者に俺の全ての力を渡してあげ、さらに俺自身も強化することができたのであった。その結果俺は、魔王が使った転移の力もコピーすることに成功した。その力を使えば勇者の元へ行くことができるという事なのだ。俺は魔王の力と俺の持つ能力で勇者の元へ向かうことにしたのであった。

そしてついに勇者と再会できた。しかしそこに現れたもう一人の男によって勇者と分断されてしまうことになった。しかし俺は勇者と一緒に戦ったおかげでそいつの強さを理解しておりすぐに対応ができた。しかしそこで予想外の事態が発生したのである。その男がなんと女神だったという事に驚いた。まさか俺を召喚した女神が魔王の仲間になっているなんて思いもしなかった。でも今はそれを考える暇は無い。俺はすぐに勇者を助けに行ったのである。

しかしその時に勇者が女神に連れ去られてしまう。俺は焦りを感じた。俺は俺の力で勇者を救おうと思い必死に抵抗する。するとなぜか魔王の力まで俺に戻ってくるではないか。これはどういうことだ?そんな疑問を感じながらも今は勇者を助けるのを優先しようと気持ちを切りかえて抵抗を続ける。だがここで魔王軍がやってきてしまいその戦闘で俺はまた意識を失ってしまう。次に目覚めた時そこはベッドの上だった。俺は周りを見渡し状況を把握する。ここはどこだと混乱したがすぐに魔王城だということを思い出し冷静さを取り戻したのである。そして俺が起きたことに気づいた勇者が現れた。俺はその姿を見た途端勇者に駆け寄っていた。しかし勇者が勇者ではないことに気付いて俺は動揺し、どうしていいか分からずとりあえず勇者に話しかけることにした。そして話を聞けばどうやらこの勇者は自分の妹を殺したのは魔王であり、魔王を倒すために魔王軍に加担したらしい。俺は信じられなかったし何よりこんな奴を勇者と呼んでいた自分の見る目の無さに失望してしまうほどだった。

しかし勇者の言葉には確かに筋が通っているところもあり、それにあの勇者のスキルがあれば魔王の力も無効化されるのではないだろうかと思ったのだ。それに勇者の妹が生きている可能性もある。勇者に会わせればそれが分かるのではないかと思った。しかし俺が勇者にそのことを伝えると魔王軍の四天王の一人である猫がやって来て勇者と猫の言い合いが始まってしまった。勇者も魔王を許せないと、魔王を倒さないと気が済まないと言ったのだ。そして勇者は魔王に攻撃をしかけたのであった。俺も勇者が死なないように手を貸したがそれでも勇者の劣勢である。俺はそんな勇者をどうにかしようと猫に頼むが魔王は勇者を殺しにかかる。そんな状況で勇者の体が突然消えて猫の方に飛んできた。俺はその事に驚きながらもそれを回避した。その後俺達は再び対峙することになる。俺はこの時思った。このままだと勇者は死ぬかもしれないと。俺が魔王を倒していればそんな状況になることも避けられただろうと俺は思っていたのだ。だからこそ勇者に魔王は俺に任せるように言った。俺なら絶対に勇者の敵を取ってくれると信じていたからだ。しかし俺の考えは甘かったようだ。勇者は自分の命を投げ捨てて魔王に攻撃を仕掛けたのである。勇者が死にそうなところを救ったがそれでも勇者は魔王と相打ちになってしまうのであった。そして俺はそんな勇者の死を目の当たりにして絶望してしまった。

俺はこの異世界に来るまではずっと勇者と共に魔王を倒して元の世界に帰れたらどんな世界だったかを話そうと考えていたのだ。だから俺の中でそのことは決定事項になっていた。それが叶わなくなってしまったことがショックだった。勇者が死んだことでこの先魔王に勝つことなどできないだろうと思っていたのである。それでも俺は勇者が望んだようにこの世界で魔王と戦う覚悟を決めた。俺は勇者から受け継いだ力を使って魔王のいる所まで瞬間移動をして殴りかかった。

魔王は勇者の攻撃に驚いていたが俺は勇者から託された力を無駄にしたくないと思ってそのまま攻撃を続けていた。魔王にダメージは与えれていなかったが俺は諦めずに攻撃をし続ける。そして魔王から力を奪った時ようやく俺にも勇者の力が使えることがわかったのである。これで俺は魔王と対等の立場になる。そこからは一方的な戦いとなった。

俺は俺の全力を持って魔王と戦った。魔王が今まで見せたことがないような焦った表情をしているのを見ても全く同情は湧いてこなかった。むしろざまあみろと思っているほどである。俺はもう魔王を人間だと思うことも止めた。俺は魔王に対して情けをかけるつもりは全くない。こいつはただの化け物で人類の敵でしかないのである。だから殺すつもりで戦った。

しかし俺は魔王を殺すことが出来なかった。俺はこの異世界に来た時のことを思い出す。俺が召喚された時のことを思い出していたのだ。そして俺が元の世界で見た夢を、そして異世界召喚されてからのことを。この異世界で見たもの全てが脳裏に浮かんできて俺は戦うことを辞めてしまったのだ。

俺は魔王が何故人類を滅ぼそうとするのかその理由を聞いた。魔王はその問いに素直に答えた。魔王は魔王軍を作る時に部下たちの意見に耳を傾けず自分の意思で行動を決めていたためにそれが元の世界にいる家族のためだと言っていた。

その言葉に俺は少しだけ心を動かされてしまったのである。なぜならそれはかつての俺の望みにとても似ているものだったからだ。そして魔王の過去を知った俺もまた、自分が魔王と同じ存在になった事を知り俺は魔王と同じ立場になってしまった。そしてその事を知ってしまった俺にこの魔王は倒すことが出来ないと感じたのだ。

魔王はそんな俺に対し優しく笑いかけてきた。魔王は俺がそう思ってくれた事が嬉しいと、自分と同じように大切な人を殺されたという共通点があることに嬉しく思っていると伝えて来たのだ。しかし魔王はこう続けるのであった。お前は間違っていると。魔王は今の魔王軍は違うと言っている。

魔王の話は衝撃的であった。俺は自分の価値観で魔王が悪いと決めつけていただけだったと気づかされてしまうのであった。しかしそれでも俺にはまだ疑問が残る。なぜ今になって急に俺を殺そうとしてきたのかということである。俺はそれを尋ねたが魔王はそれに対しては明確な理由を述べることは出来なかったのであった。魔王にとって魔王軍は自分の目的を達成するために作った組織にすぎないのだと言う。しかしそれを邪魔しようとする者がいる限り魔王としてはそれを見過ごすわけにはいかないのであった。しかし魔王はそんな自分を止められるものなら止めてみろとも言ってきたのであった。その挑発に俺が乗ると、魔王は俺にこの剣を渡してくるのであった。

俺と魔王の決闘が始まった。魔王との殺し合いが始まる。俺が構えると魔王も同じようにした。お互いに準備が整ったところで戦闘を開始する。しかし戦闘と言ってもほとんど俺の優勢で終わったのである。そして最後にとどめを刺そうとしたその時に俺の動きを止めるものがあった。俺に魔王を殺させるまいと女神が間に割って入ったのである。そして女神と魔王との戦いが始まりそして最後には女神の勝利で終わりを迎えた。

俺には魔王を救えない。その事が分かっていたからこそ俺は魔王を殺すことができなかったのであった。魔王を倒したとしてもきっと魔王はこの世界を憎み続けることだろう。そして俺は勇者のようにこの世界を恨む魔王を止められない。勇者を死なせてしまいその願いを踏みにじるような行為をした俺では無理なのだと悟るのであった。俺は勇者が俺に託してくれた思いを忘れてはいけないと自分に誓ったのである。そしてその思いを胸に魔王を仲間にする事を決めるのであった。

こうして勇者を魔王に奪われるという出来事があったがそのおかげで俺は魔王の全てを受け入れることが出来るようになったのだ。そしてそのあとに女神と会話する機会を得て俺が異世界に来てからの出来事と勇者について聞くことになった。その結果勇者もこちらの世界に転生していることが分かったのである。そしてその事で俺は勇者に会ったらどうするべきか悩む事になったのであった。

俺はこの大陸で最強と呼ばれている国にやってきていた。この国には魔王軍の幹部の1人である魔王の娘と魔王軍の参謀の悪魔族がいたのでまずはこいつらを先になんとかしようと考えたのだ。しかし、ここで俺はある男と出会ったのである。

その男はかなりの実力を持った剣士だった。しかしその男は俺に気づくなり襲い掛かってきたのだ。そして俺はこの男がかつて俺の仲間だった男であることに気付くのであった。しかしその事に気が付いた時には既に遅い、そいつは魔王軍の中でも屈指の強さを持つ実力者だったのだ。そんな相手に勝てるはずもなく俺は敗北してしまう。だがそこで奇跡が起きる。俺を倒そうとしていた男がなぜか俺と魔王の娘を助け出したのだ。俺はその時は意味が分からなかったがその後この世界で起こった事を聞かされてやっとこの男が何をしたかったのかを理解したのであった。そして俺はこの男が本当にいい奴だということを知ったのである。

そしてそんなこの男と俺は一緒に魔王と戦うことに決めたのだった。この魔王にはもうこれ以上誰も死んで欲しくないというのがこの男の考えだったからだ。この魔王を倒すのは容易ではないがこの男の協力さえあれば出来るかもしれないと思いこの場に残ることにしたのである。そしてこの男はこの世界を救うとまで言い切ったのだ。俺はそのことに頼もしさを感じていたのだった。

俺は魔王にこの世界を救うために協力して欲しいと頼み込んだ。すると意外な事にすんなり了承してくれる魔王であった。しかし、魔王が言うには魔王はもう長く生き過ぎたと。だからこの世界を滅ぼすことを決めたらしい。俺はそんな魔王の決断を否定する。魔王は世界を滅ぼした後でどうするつもりだったのだと、魔王も俺と同じように残された者の気持ちがわかるはずだと言った。魔王はその言葉を聞いて笑っていたがどこか悲しそうな顔をしてそうだろうねと答えるのであった。しかし魔王がやることに納得できなかった俺は魔王を倒そうと考える。そして戦闘を始めるのだがやはり魔王の強さはかなりのもので俺達は劣勢に立たされてしまう。俺はそんな魔王を見てこのままだと負けるのは目に見えていると察した。

しかしそんな時俺の中に眠る魔王の力の一部が覚醒したのである。そしてそれのおかげで俺達はほぼ互角に渡り合うことが出来てそしてどうにか勝利を掴むことが出来たのであった。

俺はそれからしばらくの間勇者とこの魔王と共にこの世界に平穏が訪れるまで戦っていくことになるのであった。俺はこの先もずっと魔王と戦い続けて行くことになるのだろうか?そんな不安を感じながら俺はこの世界で生きることを心に決めるのであった。

異世界召喚されて魔王になった俺は、勇者になりたかった。第6章〜魔王と勇者が異世界にやって来ました。

第5章は魔王視点で書かれています。勇者が勇者になる前に魔王が召喚される所から始まります! 〜side 主人公~

僕は魔王だ。

魔王は人間たちが住む世界に勇者召喚された時にこの世界に降り立った。勇者を討伐するように言われたのだ。だけどその役目を果たすことはできなかった。勇者に一目惚れしてしまったからである。僕は元々人間を殲滅しようとしていた魔王ではなかった。この世界に召喚されるまでは。しかし僕は勇者を見ている内にそんなことはできなくなっていた。そしてそんな僕の態度が勇者を苦しめてしまったのである。僕は自分が犯した罪に気が付いて後悔したのだった。

それからしばらくして、この世界の管理者と名乗る存在から連絡が来る。それは魔王を元の世界に戻すというものであった。そしてその代償として僕は力を奪われ元の世界の人間の記憶を全て消されてしまったのである。そして魔王が元々暮らしていた世界に戻されたのであった。そしてその世界で魔王をしていた時、僕を召喚しようとした国が滅ぼされているということを知るのである。

勇者は死んだのか、魔王に殺されたのか、それを知る手段はないがもう会える事はないだろうと諦めかけた時に女神が現れたのである。その女神はこの世界を管理しておりこの世界の人間たちの生活を見守ってくれていた。そして勇者を死なせたことを悔やんでもいないのに謝ってきたのだ。そしてこれからの事を考えようと言ってくれた。僕は正直勇者の件については仕方なかったと考えているのでそこまで気にしていない。むしろ今は別の問題の方が重大だと考えている。勇者を召喚したこの国は僕をこの世界に呼び戻すのが目的で他の国々を滅ぼしていたのだから。そして僕が呼び出される直前この国の王たちは勇者を使って戦争を起こすことを決めていたという。勇者を上手く使い他国の侵攻を防ごうとしたのだろう。そのせいで多くの命が失われることになったのだ。そんなこと許せるわけがない。しかし女神はそれを許さないようだ。魔王として、また一個人としてその行いを許すことができないのであった。

そしてこの世界で暮らして行くことを決めるがそれはそれで問題があることに気づいた。僕は元の世界では魔王であったからこの世界でも魔王扱いされ恐れられるのではないかと思ったからだ。だがその心配は不要のようだ。魔王という呼び名で呼ばれるだけで魔王として扱われたことはないからだ。この世界にはまだ魔王と呼ばれる者が現われていなかったのが理由だろう。そして女神が教えてくれたのだが、この世界には既に勇者はいるのだそうだ。

その話を聞き、もし仮にその人が元の世界を救いに来たらと思うとゾッとする。なぜならその人は、この世界を救うのと同時に勇者である自分も救わなければいけないということになるからだろう。

そして女神にその事を話すと女神も同じような事を考えているようで、もしもそういう事態になった場合この世界を勇者に託すことを提案されていた。勇者はこの世界を救った後に元の世界に戻れば幸せになれるのではないかと、その考えに賛成したのだった。

そして僕はこの世界で勇者に会うのであった。

魔王の話を聞いた俺はその話が嘘じゃないのかという疑いを持っていた。だって魔王がそんなに良いやつならなぜ今俺を殺そうとしてきたのか疑問に思うのだ。もしかしたら何か事情があったんじゃないかと思ってしまう。しかし俺はそれを聞かなかった。聞いても無駄だろうと悟ったからだ。俺にはその理由が理解できないのである。しかし、この世界に来てからずっと戦い続けて来た勇者にとってそんなことはどうでもいいのであろう。

俺は女神からの提案を受け入れ、その提案に乗ることに決めた。俺は俺のために、この世界の人々を傷付けるつもりなど一切無いのだから当然の結果であった。

それから俺達は話し合いをするために場所を移したのである。

俺達がやって来たのは森の中である。ここならば邪魔は入らないだろうということでこの場所を選んだのだ。

俺達は互いに警戒しつつ会話を始めていくのであった。そしてお互いがどういう理由で召喚させられたかを説明して話を終えた。そしてここからは魔王の話になる。

この話を聞いていく中で俺にはどうしても分からないことがある。それはこの世界に呼ばれた理由についてと何故俺に戦いを挑んだのかという点だ。俺はこの2つのことについて聞いたがどちらも答えが返って来ることは無かった。おそらくだが答えることは出来ない理由があるのだと思う。その点だけは触れてはいけないことなのかもしれないが俺は少ししつこく食い下がってみたがやっぱり答えることはできないとはっきり言われてしまうのであった。俺としてもそこまで聞くつもりは無かったのでもう何も言わなかったが。しかし気になって仕方ないのが本音である。しかし魔王はもう話すことがないと言い切りそれ以上話をしようとはしなかった。そしてそのまま会話は終了した。結局この世界に来る前の出来事が気になっていた俺はモヤモヤしたままこの世界に留まることになったのであった。

魔王と勇者が話し合っている頃。この国の女王はある人物と会っていた。その人物が誰なのかは秘密である。その人物はとある理由から勇者のことをずっと見守るようにと頼まれていた。そして今回初めて勇者が召喚されたという事で会いに行ったのである。しかしその目的は魔王を倒すようにお願いするためであった。この国の女王も勇者の力を悪用しようと考えた人間の一人であったのだ。しかし勇者の力を見た時、その力の異常性に気付き魔王を殺さず生かすことに決めたのである。そしてその事を国王に伝えた。この事に気がついたものは一人だけであった。

この国の王がこの女の存在に気づいた時は既に遅く、魔王がこの世界にやってくるまでにかなりの時間が経過してしまっていたのであった。この国の王もこの女が裏切ったことにはすぐに気がついていたがどうすることもできなかったのであった。

俺はそれからしばらくの間この世界に留まることに決めてまず最初に何をしようと考えた時にこの世界に俺と同じような奴がいるのではないかという事に気付いた。この世界は勇者召喚を行っていてしかも勇者をこの世界に召喚しているという事実も俺はこの世界で勇者と出会う前に聞いていた。

俺はそのことを考えるとやはり自分と似たような境遇にあった者なのではないかと思った。

そこで俺はまず手始めにある少女と出会うことにする。そしてこの少女について知るために色々と調べることにするのであった。

そしてある日、俺はその少女が暮らす村へとやってきたのである。その村で少女と会うことが出来たのは本当に運が良かった。そしてその少女の母親が病気だということを知っていたのでそのお見舞いをさせてもらえることになったのである。そして俺はこの家に入るのが嫌で嫌で仕方なくなった。なんせその家には明らかに呪いのようなものがかけられていてとてもではないが近づけるような状態ではなかったのだ。

この少女の家に入りたくないと思っているとその思いを読み取ったのか俺の中に眠っていた魔王が話しかけてくる。

お前は何を恐れている?この娘と関わりたいのではないのか?この家の主の魔力は並外れて高い、そしてそれはこの娘の母親から出ているものである。その母親の方から出てしまっている魔素をこの家は吸ってしまっているようだぞ?このまま放置しておけばこの家は間違いなく潰れてしまう。それを避けるためにこの娘に近づきたいのであれば手を貸すしかあるまい?それに我にいい案があるのでな、任せてみるがよい。

という訳で俺はその魔王の言葉に従いその娘に話しかけることにしたのであった。

そして俺が少女の母親のお見舞いをしているとそこに勇者が現れる。この世界の主人公でこの世界で最強の人間だと言われている少年である。そんな勇者に対して俺は自分が魔王であることを伝えると、魔王の見た目から判断したらしく一瞬だけ警戒するような視線を送ってくる。しかし次の瞬間には敵意の感じられないような目で俺を見るようになったのである。

この反応に俺は驚いた。しかしよく考えてみると魔王が人間の姿になれると知っているのは勇者だけだということを思い出したのである。だからこそ勇者は驚きはしたがすぐに冷静になれたのであろう。そして俺は勇者にどうしてこの家に入ったらダメなのかという説明をする。すると、

「あなたが魔王だなんて信じられませんね」

と言われたのである。しかし勇者はそれでもこの家に入ることは許してくれそうにはなかった。だからといって俺は無理に家に入ると言い張るほど空気が読めていないわけではない。そしてその日から数日間俺はその家でお世話になりながらもその家が直らないかと毎日祈っているのであった。そしてその努力は実りなんとかその家は修復されることに成功するのであった。その出来事に勇者はかなり驚いていたが、それと同時に俺の力が本物なのだということを証明されてしまった。それから勇者は頻繁に俺に会いに来るようになるのだがこの時の俺はそんな事を知らないままである。そして俺の方も勇者との繋がりを切ってしまうのはよくないと思い勇者の家に遊びに行けるようにお願いをしてみると簡単に許可してくれた。そして俺は勇者と一緒に勇者の家でゲームをしたりした。その時間は俺にとって楽しい時間になったのであった。

勇者の友達となった魔王であったがこの勇者の友達がとんでもないやつであることをまだ知らなかった。しかしそれは勇者が知らないからというだけであって周りの人たちからは一目置かれているのが事実だった。そして勇者が魔王を自分の部屋に案内し一緒に遊んでいるという情報が流れてからというもの勇者の元に様々なものが届けられたりするようになったのである。その中にはこの世界の王からのものもあったが勇者はそれを気にすることもなくその手紙を魔王に渡したのである。そしてその魔王がどんな人なのかと知りたいと王も思ったのか勇者を通してではなく直接魔王に話をすることにしたのであった。しかし勇者は王の申し出を受けることが出来なかった。それは勇者が魔王と約束をしていたからである。その話の内容は、勇者はこの世界を救い魔王は元の世界で平和を乱さないというものであった。

勇者はそんな魔王を見て魔王ならきっと分かってくれると思っていたのであった。だから王は諦めるしかないと思った。しかし魔王と話をすればその気持ちも変わるかもしれないと考えた王は一度話をしに行ってもいいか魔王に尋ねた。魔王は少し考えると良いと言ってくれた。勇者はその返事を聞くなり魔王のいる場所へ急ぐのであった。その行動の理由は単純明快、その日勇者がいつものように魔王の元へ遊びに行こうとしたところ魔王がいなかったからだった。

そしてその勇者はというと、その事を王に報告するために城に向かって歩いていたのである。

それからしばらく歩いているとそこには見たことのない魔物の大軍がいた。その数は万はくだらなかった。勇者はそれを確認すると王からもらった剣を構え、そして一気に魔物達を切りつけていった。

しかし、勇者は気づいていなかった。魔王がその光景を眺めていたということにも。そして魔王の狙いが自分であるということにも。

その日の夜のこと、俺達は宿屋の食堂に集まっていた。これからこの世界で暮らす上でお金が必要になるからだ。そのため俺達は金策をすることに決まった。そこで問題になってくるのは何を売ればいいかということだ。しかしそれも俺には当てがある。俺の能力には【創造】がある。そしてその能力を使い物を作ることはできるのだ。ただこの能力は何でもかんでも作れるわけではなく、作るのが面倒なものほど作成には時間がかかる。なので例えば武器を作るのに数日はかかったりするのだ。

この世界の貨幣価値は分からなかったが俺が元の世界にいた時の通貨を使って大丈夫だろうと考え、この世界の金貨を作り出す。そしてこの世界の貨幣について教えてもらいながら俺達はその貨幣を作り始めたのである。そして俺が1人で黙々と作業をしていたその時だ、突然扉が開かれて男が中に入ってきたのである。

その男は全身黒装束に身を包んでいて顔もフードを被っていたため見えなかった。しかしその服装を見るだけでかなり腕の立つ人物であることが容易に想像できた。

「ここに魔王と名乗る者がいるはずだがそいつはどこだ?」

その男はとても低く重い声で俺のことを指差して言った。どうやらその男の目当ては俺らしい。まぁそれは最初から分かっていることだった。なんせこの世界では俺は魔王と呼ばれている。ならば狙われるのは当然の結果と言えるかもしれないな。

「なんだ貴様は?いきなり現れて何を言っている?ふざけるなよ、この場から出ていけ!」

王様はすぐにこの人物を部屋の中から出そうとするが、しかしこいつはその場を離れようとはしなかった。むしろさらに近づいてくる始末である。俺はこの時既にこいつが危険な存在であると認識することに成功していた。俺は魔王として、そしてこの国の人間を守るために戦う覚悟を決めた。しかし、この男も俺と同じように戦いの心得がありそうであった。

しかし俺は俺よりも弱いであろう奴が相手だということに安堵した。俺は俺自身の力をある程度コントロールできるようになった今、以前とは比べ物にならないぐらいの力を手に入れることに成功していたのである。

そして俺が魔王の力を解放して戦おうと決めたその時であった。突如目の前の男の頭上に雷のようなものが落ちてきたのである。俺は咄嵯の判断で後ろに飛び退き距離をとると俺が今までいた位置にその稲妻が降り注いだ。そして、俺は俺のことを守ってくれそうな者がいないことに気がつく。

俺を救ってくれたのはなんと魔王だったのである。魔王が何故自分からこの危なっかしい状況を作り出してくれたのかは不明だがこれは助かったと思わざるを得ない。そしてこの機会を逃す手はないと俺は魔王の体を乗っ取りにいった。魔王が死ねばおそらくその魔王に殺された者達も死んでしまう可能性が高い、それを避けるためには魔王を操って魔王が死んでしまわないようにする必要があったのである。

しかし俺の考えは完全に間違っていたことにすぐに気付かされることになる。魔王の体に乗り移った直後、魔王の意識は一瞬にして俺の元から離れていってしまったのである。魔王は魔王としての本来の人格と俺に体を貸す前の人間の頃の魔王の二つの性格を持っているのだが、魔王はそのどちらもが表に出てくれなかったのである。

魔王の体が魔王のものである以上は魔王の人格が表に出るべきなのは当たり前だが今のこの状況でそれが出来るわけがなかった。この魔王は自分のことを狙ってきている相手に隙を見せすぎた。しかも、俺を守ろうとしたせいでもあるから余計だ。

「おい、何が起きたかは知らないがよくやってくれたな。俺のために魔王を殺してくれるなんて、ほんと感謝しているぞ。だからお前には褒美を与えてやろう、俺の力でお前をもっと強化してやるからな」

俺は魔王を乗っ取った時に得たスキルを発動してこの世界に干渉しようとした。この力は魔王に成り代わるために得たものの一つであり、対象の相手を強制的に支配することができるというものである。しかし今回はそれを発動できなかった。その事実を確認し、魔王が俺の思い通りに動くはずがなかったことを思い出した。

つまりこの場で魔王を倒す方法は魔王を殺す以外に存在しないのだと俺は悟った。しかしそんなことをしたら魔王が死んでしまうことは目に見えていたのでどうにか回避しようと俺は考えたのである。そして俺は一つの結論にたどり着いた。それはこの魔王の体は捨ててしまえばいいのだという考えである。しかしそれが出来ない場合は俺はもう打つ手が残されていないことになる。俺にはこの魔王の体を消滅させることは絶対に不可能だった。

そして俺の答えが出る前に状況は動いていく。この事態は想定済みだと言いたいかのようにその男は動き出す。その速度は普通の人間が到達しうるような速さではなく、目視することもままならないほどであった。しかし俺にはその男がどこに向かって攻撃しようとしているのか分かっていた。だからその方向に向けて魔王の体を蹴り飛ばした。しかしそれでもその男は止まることはなかった。俺はそれでも諦めずに何度も魔王の体に攻撃をしていく。すると魔王の体はボロ雑巾のようになっていったのであった。

俺は魔王にとどめを刺そうとしたがそれは出来なかった。俺はこの魔王を殺したところで無駄であることは分かっていた。そして俺の目的はこの世界を侵略することなのだからこの魔王は利用するに限ると俺は考えていた。そこで俺はこの世界に来て一番力を入れた作品を完成させることにした。それは俺の作品の中に出てくる魔法を現実のものとする装置だ。そしてそれは完成したのだが、俺はそこで一つ問題に直面した。それは、 これどうやって使えばいいんだ!? という悩みであった。この世界に来たことで俺は魔法の威力を自由に上げることが出来るようになっていた。そのおかげで魔王の作った装置に込めた魔力はかなりのものになっていて普通に使ってもとんでもないことになっていたのだ。

「こんなものを使える訳がないじゃないか。これをどう使えというのだ。しかし何か方法があるはずだ。そうだ、そもそもこれは使う必要があるものなのか?」

その装置は魔王を倒した時点で自動的に壊れるように設定されているようだった。ならばその瞬間この装置を壊せば全て終わるんじゃないかと考えたのである。そしてその考えを実行に移そうとしていたまさにその時、この部屋の中に何者かが侵入してくる。そしてその者は、

「貴様は何者だ!名を名乗れ!」

と大声で言う。そして俺はその男を見て驚いた。なんとその男こそが俺を勇者にしてくれと王様に懇願してきたあの勇者その人だったのである。

俺は勇者に問い質されると同時に勇者の背後にいる人の存在に気がついた。それは先程まで俺の体を狙いにやってきた男であった。その男がどうしてここにやってきたのか分からなかったが、しかし俺の方もこの勇者の友達が誰なのかが分からなかった。そこで俺はまずはこの二人の正体を確かめるために質問をしてみることにした。その結果得られた情報はこの勇者の友達は魔王という名前であるということ、そしてこの魔王はこの国のお姫様ということだった。

「えっと君達二人は一体どんな関係なんだい?それに君は魔王だって言うけどそんな姿じゃ信じられないんだよ。ほら、その角とか生えていないし。それにその格好は明らかにコスプレだろうし」

俺としては至極真っ当な意見だと思う。その魔王の容姿はというとなんというか完全に俺好みの女性の外見だったのである。

そんなことを考えていたら魔王は俺のことを睨んできた。しかしそんな顔をしていても俺のストライクゾーンからは外れているのでまったく効果は無いのだが、しかし俺はそこでこの勇者に俺の目的について話しておくことにする。そうすることでこの二人が敵対する可能性は下がるだろう。俺はこの魔王は殺さないようにとお願いされたからこの魔王も俺にとっては仲間ということになるだろう。しかしこの魔王に俺の計画を話すのは非常に躊躇われたがしかし俺は魔王が敵でないことを知ってもらいたかった。そのための方法としてこの手段を選択したのである。そして俺の言葉を聞いた二人の反応は意外なものであった。俺の仲間になるということで俺に協力してくれるとのことだ。

「まぁ別に魔王と一緒でも良いさ。魔王を俺の手で倒せるチャンスも出来るから俺としても悪くはないんだけどね」

「私は貴様に負けることはあっても勝てぬ相手だと思っていた。しかし今のこの国の状態を考えればこの私も協力した方が効率が良さそうだしな。それで貴様の名前はなんだ?それと魔王というのは名前ではないだろう?その魔王というのも役職みたいなもので本名は違うのだろ?」

俺はそういえばこいつらが俺の名前を知らないということに気が付いた。この世界の常識を全くといって良いほど知らない俺は自分のことについて話す機会もなかった。だから自己紹介がまだだったと思い出したのである。

「そうだったそうだった、俺はレイ。よろしく頼むよ。俺の本当の名前は天谷理恵と言うらしい」

俺が元の世界の名前で挨拶をしたところなぜか目の前の男は驚き固まってしまった。それは俺のことを警戒しての行動のように見えたが俺に心当たりはなかった。なのでそのことについては深く追求しないことにした。それよりも今気にするのは俺の能力についての説明である。能力の内容とこの世界の常識の違いなどをしっかりと伝えておかなければならないからだ。俺はそれから色々と話をしながら今後の計画を考えて行動を開始したのである。とりあえずはこの世界での拠点となる場所を手に入れるためこの王城で暮らすことに決めた。

「おい貴様、なぜ貴様のような輩に私が膝を折って頭を下げねばならぬ?本来なら私の命が奪われていてもおかしくないというのに何故そのような態度をとっていると思っている?そう、魔王がここにいることと、貴様がこの国の恩人であるということを考慮に入れた結果であるぞ。そして、それだけではなくてこの国には既に多大な恩恵がもたらされることになったのだ。そう、貴様の持つ技術のおかげで我が国は今非常に発展している。さらにこれから先の未来でも我が国は発展し続けることは間違いが無いだろう。そこで、私からも改めて礼を言いたい。この度この国の危機を救う手助けをしてくれたことを。本当にありがとう」

王様からの言葉を俺は少しばかり複雑な心境で受け止めるのだった。なんというかこうもあっさりとお姫様と引き合わせることが出来たのが意外だったのと、しかもそれがかなり好意的に受け止められたことに困惑を覚えたのと、そんな状況になってしまったことに焦りと恐怖を覚えていたからかもしれない。しかし俺は俺に課せられた目的のためにこの場に留まってはいけないと感じていたからこそ早々にこの場所を離れることを決意し、次の目標である俺の拠点作りを始めるべくその場を離れたのであった。

「うむ。それに関しては同意するしかないのだが。しかし、それならば何故貴様がここに居るのか疑問だ。この城の何処にもお前に貸せそうな場所は残っていないはずだが?」

「あ、それはそうなんですが実はちょっと事情がありまして。今は俺の部屋が無くなっている状態なのですがそれについては後で説明したいと思います。ただ一つ言っておきたいことがあります。俺はこの城を乗っ取る為にここに戻ってきました。この世界には魔王を倒すためにこの国を利用してやろうと考えているので。そのために貴方達は邪魔です。俺にはこの世界を侵略するという野望がある。そして俺の力があればそれは可能でしょう。しかしそれを阻止しようとしているのが今のあなた方なんですよ。だからこそ俺はあなた方の力を奪うためにここで暮らすことにした。そういう理由でこの国を利用しようとしてるわけです。だから俺には従えないと思うのであれば俺の前から消えてください。ただしその場合俺は一切の手加減をすることはないと思ってください」俺ははっきりとそう言ったのであった。

そしてこの世界がゲームだということを俺はまだ誰にも言っていないが、しかしその事実を知っている俺にとっては勇者がこの城に存在していることがおかしいのである。この勇者は俺に殺されなければこの世界から抜け出すことができないのだ。つまり俺が勇者を殺すことが出来なくなれば勇者もこの世界に存在し続けなければいけないことになる。俺にとってそれが一番都合の悪いことなのだ。しかしそれが出来ない以上勇者がこの世界に居続けてくれる方が何かと便利なのだ。なぜならこの世界には勇者以外に魔王を倒しえる存在がいないからである。つまり俺はその役割を全うするためにも勇者を殺さなければならない。だから俺の目的は魔王と勇者を消すことであるのでこの二人をどうにかしなければ俺は目的を達成できない。だから俺は勇者を手っ取り早く倒すための策を考えていたのである。そしてその作戦を実行に移す時がやってきた。その方法は至極簡単である。勇者の力を封印してしまうのが一番楽だということが分かったのである。その方法を実行するにあたって一番の問題はやはりこの魔王の存在であったがこの魔王の存在が問題無いということは確認できたので早速勇者と話をしようと思ったのだがこの魔王がまた余計な事を口走った。そしてその結果俺と勇者と魔王の三人が戦うことになってしまうのだが俺は魔王を一瞬にして消し去ったのである。その瞬間勇者と魔王は同時に同じ表情を見せたが俺は無視することにした。

そして勇者がこちらを見つめて来るが俺も見つめ返すことにした。そして勇者の質問を待っていたら何故か俺に勇者を倒さないかと言われたのである。俺はそれに即答したがその理由を説明した上で断った。しかしそれでも俺に勇者と戦う理由を与えてくるのだった。俺はその理由を聞いていく中で俺は勇者という人間が分からなくなった。俺はその勇者に、そんなことは止めて欲しいと頼んだのだが、しかし勇者はそれを拒否して魔王と共闘しようと言い出したのだ。それは魔王の本心を確かめるという狙いもあったようで、魔王も俺が断るという選択を取らなかったことを喜んでいた。しかし、俺には勇者の考えている事が分からず俺は混乱していた。そしてそんな風に悩んでいたら魔王に攻撃されてしまい、俺も思わず勇者に攻撃をしてしまった。

そこからはお互いの戦いが始まったが魔王の攻撃が速すぎることもあり俺も魔王の動きに合わせていくしかなかった。そのおかげで勇者よりも俺の方が魔王と上手く連携が取れていた。そのため勇者がいくら力をつけていようが今の魔王を相手にするには荷が重かったようである。そして俺はそんな状況の中で勇者の隙を突き勇者の首を落としたのであった。

そして魔王がこの国の姫であることを告げられた時は正直驚いた。確かに俺がこの世界にやってきた時にいた少女に似ている気はしていたが、まさかこの姫だったとはな。まぁこの姫が本当にこの国のお姫様だったのかというのは怪しいものだな。なんせそのお姫様はこの俺によってこの世界の仕組みについて知っているのかどうかも分からなくなるくらいに精神を壊されていたのだから。だがこの魔王に聞いてみると案の定知らなかったようだ。

そんな魔王に俺は俺のこの世界の仕組みを説明していくことにした。そうすることでこの姫の口から情報を引き出そうと考えたのだ。まずは俺に敵意を持っていないことから俺の目的を明かし、その後俺に協力してくれているということを伝えた。その上で俺に協力してほしいとお願いした。しかし残念ながらその返事は得られなかったが。

しかし俺の頼みを断った後にその条件を出すあたりがこの魔王の性格を表していて面白いと感じたが。そしてそんなやり取りをした末に俺はその魔王と和解したのだった。

「貴様、何を勝手にこの国の王を名乗っている?」

魔王のその言葉を聞いた勇者は俺に向かって怒りを向けて来るがしかし魔王にその行動を制された。その魔王の行為に感謝の気持ちを抱いた俺だったが魔王の言葉は意外なものであった。魔王が俺に「私が王になることは出来るか?」と尋ねてきたのだ。それに対して俺は少し考えてしまう。それはあまりにも唐突な問いかけであったためすぐに答えることが出来なかったから。

俺としてはこの世界を支配する為に必要な駒であると考えていたがしかしそれは今俺の手元にいる二人だけを考えればのことで他の国の王族などを考えるとそう簡単なものではないと考えるようになったのだ。そして俺はあることに気が付きそれを魔王に伝える。それを確認した後の魔王の行動は早く。そして俺の考えが正しかったことを知ることとなるのだった。

「そうだったのか。貴様の話を信じていなかったわけでもないのだが。貴様の能力の話を聞いた時には流石にありえぬことだと思っていたし、そもそもそのようなことをするメリットが全く思いつかなかったもので。それ故に信じなかった。しかし先程の会話を聞き貴様ならばあるいはと思ってしまったぞ」

「私もですわ。魔王のその話には信じられないような内容が含まれていたのですが、魔王の態度を見ているとその話は嘘ではないように感じたのですよ。ただ私の理解を超えるだけで、実際にそのようなことがあるのかもしれませんね。実際勇者を簡単に屠る力を持ちながらもまだ私達と戦おうとしないのもその能力が原因だとは思っておりました。それ程までに魔王の持つ力は強大だと思います。それにこの城にいた兵士や魔族、魔物を一人で一掃する力を持っていることも既に分かっておりますから。私としても魔王様の言うことを疑うことはもう出来なくなりました。私はどうしたらいいのか全く分かりませんが、今はこの国の王にでもなってみようかと。それでよろしいですか?この国の王が魔王になったところで問題はないかと思いますが。もし問題があるとしたらそれはおそらく魔王の夫になる人物ですが」

俺は魔王のその言葉を信用することにし、これからの行動を話し合うことにしたのである。魔王はこれからの計画をいくつか考えていたようであり、俺の意見を求めてくれた。

そこでまずはこの世界の支配をするための準備としてこの国に住む住民全てを調べ上げることにした。それからこの国で一番権力を持っていた人物を見つけ出し、俺の支配下に置くことを提案してくる。そこで問題になるのはこの世界に存在する魔王をどうにかする方法だった。

「それについてですが、実は私の方ですでに手を考えてあります。ただ、少し時間がかかりそうなんですよね。なので少しばかり私に任せてもらえますでしょうか?」

俺はその提案を素直に受け入れると。魔王はすぐにその場を離れていったのである。そして残された俺はこの国に俺の手下を作るべく動くことを決めたのであった。ただ俺はその作業中に俺の力をある程度隠しておきたいと思うようになっていたので少しばかり力を解放することとし、俺の力がどんなものなのかを知る者がいないようにすることにしたのである。そしてこの国の現状を調べることに時間を費やした後俺はその行動に移った。

俺は自分の手下の者達を集めると俺は魔王と勇者が共にいるところを眺めていた。

そして勇者を俺の手で殺し、魔王には俺の味方になってもらっていることを魔王に伝えたのだ。魔王には俺の仲間になりたくない理由がありその説得にも時間はかかってしまうが、しかし最終的には受け入れてくれると確信していた。だから勇者を殺せるところまで殺せたことは本当に嬉しく思う。だがしかし勇者を殺すためにこの場を離れたのでそれが魔王にはバレてしまっていたようで、「何処に行くつもりだったのかしら?」と質問されてしまったが俺は適当にはぐらかすと魔王には魔王の仕事に集中してもらうことにした。

そんな風に過ごしていたのだが俺の元に一人の人物が訪れることになった。その者は魔王が俺と協力することを受け入れたことを知りそれを知らせに来てくれたのだという。俺もそのことを伝えに来たというのだが、それよりも重要な報告があったらしく俺に伝えてくれる。

「勇者を殺したと聞いても驚かれないんですか?」

「いやまぁ普通は驚きはするが俺がやった事であるのは間違いない事実なんだ。ならその程度のことであれば驚く必要はないかなと思った。それよりもそっちの方の報告をしてくれるか?」

「あ、はい!あの勇者に化けていたという女なんですが、その者を魔王様に会わせることに成功しまして、魔王様は勇者の力を手にいれることが出来たみたいです!」

その言葉で俺はなんとも言えない喜びを感じる。勇者に化けてこちらに近寄って来た奴が本物だったということが証明されたからな。それにしても魔王がそこまでの実力を身に着けられるほどの相手だったことには俺も驚いていた。

だが、これでようやく俺はこの世界を手に入れる為に動き出せるとそう思っていたのだがその矢先、俺はとんでもない事態に陥っていることに気が付いてしまい頭が痛くなる。

「おい、その女を殺さないといけなくなったぞ」「はい?どうしていきなりそんなことを仰ったので?」

「お前が言った勇者の姿が勇者本人だったと魔王に教えてしまったせいでな。あいつは間違いなく俺を殺しに来る。そしてその俺を殺す為の方法も持っているはずだ。だから今すぐに逃げるぞ!」

「え?えぇ?」

俺はそんな言葉と共に急いで逃げ出す。だがそんな時だった。城の入口の方が突然騒がしくなったのだ。その異変に気が付いた俺は何が起きたかを確認しようと振り返ろうとしたがそんな余裕も無く俺達はそのまま走り続けようとする。

「うっ、ぐ、こいつらが邪魔して先に進ませてくれねぇ」

俺は足止めをされ、逃げ遅れてしまうこととなったのだ。そして次の瞬間に俺に向かって無数の攻撃が飛んでくるのを俺は感じる。しかし俺の防御結界の前にはその攻撃も効かず、俺は目の前の連中を薙ぎ払っていった。その光景を見たその集団は俺が敵であると判断したようで俺を殺そうと一斉に攻撃を仕掛けて来る。

「これは面倒くさい状況になって来やがったな」そう口にすると俺は攻撃してくる者を次々と吹き飛ばしていった。そして攻撃をやめさせる方法を考えていくがそんな時に俺は背後に何者かの気配を感じ取りそちらへ意識を向けた。そこには見覚えのある少女がいた。その人物は魔王であり、俺のその考えは間違ってはいなかったようである。

魔王は先程までの格好とは変わっていた。黒いフードを被った姿で。その姿に一瞬戸惑ってしまうが、俺にとってはそんなことを気にしている場合ではなかった。俺は魔王に事情を説明すると俺が勇者に狙われていることを悟られないようにしてもらいたいと言い俺はこの国を離れることに決めた。魔王もそんな俺の考えに賛成してくれたようですぐにでもこの国を出ることにしたのだった。そして俺は転移スキルを使いその場所から脱出していくのだった。

俺と魔王は二人で旅をしていたのだがその道中で様々なことが起こり過ぎてしまいその出来事に俺は困惑してしまうのだった。まず初めに、何故か魔王は男ではなくなっていたのである。その理由が俺は理解出来なかったのだがその訳を尋ねる前に俺は魔王から衝撃的なことを言われてしまうことになる。それは魔王の正体についてだった。その真実を聞かされた時の俺の気持ちは最悪で、この世界の人間全てに対する憎悪を抱き始めるほどの出来事だった。俺はその時の話を簡単にまとめてみることにする。まず、魔王が男だった理由についてなのだがそれは簡単な話であり、この世界の人間達が俺達の種族に勝手に自分達が作り上げたイメージを押し付けて勝手に俺のことを女性だと思い込んでいただけだったらしい。つまりこの世界の人間の勝手な想像から生まれた俺の性別を勝手にこの世界の人間達が勘違いしていたということ。そして俺を女だと勝手に判断していたことが魔王にとって一番屈辱的であったことは容易に想像出来ただろう。そのせいもありこの世界で生きていくことを諦めかけたと俺に語った魔王。しかしそこで俺はあることを思いついたのである。この世界に召喚される前の世界、つまり俺の本当の世界に帰る方法を探そうと。その言葉を口にした途端、魔王の顔色が一気に変わり俺は焦ってしまったのだがそこで魔王が俺に対して何かを伝えようとしていたことを思い出した。そこで俺は魔王に一体何を言おうとしていたのかを聞く。その答えは俺を元の世界に帰そうとしているという言葉であった。しかし魔王が何故俺のためにそうしようとしてくれているのか分からずそれを魔王に尋ねた。

しかし俺がその質問をするよりも早く魔王から俺は質問されることになってしまったのだ。「魔王として私に協力して欲しいことはないか」そう問われてしまったのだがそこで俺の考えの中にこの世界を支配している存在を倒すことで得られる利益を考える。まず一つ目は世界を支配した後に起こる問題に関してだった。魔王はこの世界を平和にすると言っていた。しかしその目的を達成した場合、この世界に平穏が訪れたことにより魔王に反抗しようとするものが必ず出てくるはずなのだがそれは俺の力でどうこう出来る問題ではないと俺は考えているのである。なので別の方法を考えようと思っていたところでこの世界の現状を思い出す。この国は魔族の領域である暗黒大陸にあるので魔王がいるこの国に魔族が攻め入ってくるということはなかったはず。ならばこの国から魔族を追い払えばそれで良いのではないかと考える。そして魔王もそのことに関しては賛成してくれるのだと俺は思ったがどうやらそれは違ったようだ。この世界には他にも魔物と呼ばれる者たちが存在しておりそれが魔王の支配する領域に攻め入ってきていることを思い出した。その者達を追い払うのも俺の力が必要になるだろうとのことだったので俺はそれに賛同する。ただ俺が考えていたもう一つの案についても説明することにした。それは魔族達を従えることで魔族に魔王への反逆を行わせないようにすること。その為にも魔王軍に入ってもらう必要がありそのことを魔王に伝えるとあっさりと魔王はそれを受け入れるのであった。

その後、この世界には三つの国が存在していることを知った俺はその三つを魔王軍に取り込むことを決め、俺達二人はこの国を出ていきこの世界の各地を回り、そして魔王軍の配下を増やしていった。

そのお陰もあって魔王軍が魔王と魔王の側近以外のメンバーだけで魔王軍と渡り合える程の戦力を手に入れることが出来た。それから魔王は俺の予想通り勇者に化けてその力を自分の物としたのだった。その力で魔王は魔族達に俺の力を宣伝するように指示を出したので俺はその通りに動けば魔王軍をこの世界の全ての支配者になれると確信していた。

そしてそれからしばらくして魔王が俺のところに訪れる。俺の元に訪れた理由はこれからのことについて話し合いたいことがあるという事だったので俺は魔王の話を聞き始めた。魔王からは勇者の情報をもっと集めたいということ、そして俺の部下になった者たちを鍛え上げるためにこの世界に存在する強者の情報を集めておきたいということを魔王は俺に伝えてきたのであった。その魔王の話を聞いた俺は少しばかり考える。その者達と戦わせれば部下の者達を強くすることが出来るかもしれないと思ったからだった。その考えに魔王も同意してくれたので俺達は行動に移ることにした。そしてその結果、魔王の配下達は順調に強さを手に入れていたのである。

ただ一つ問題が発生していたのだ。それは魔王の容姿があまりにも綺麗すぎる為、魔王に魅了された人間が大勢生まれてしまい魔王の周りは大変なことになっていた。魔王はそれをどうにかしようと考えておりその解決策を考えてくれるというので俺の方もどうにかしたいと思っている案件があったのでそれを伝える。それは魔王の側近をどうにかしてほしいという話だ。俺は魔王には色々と世話になっておりその実力は信用しているが見た目がどうしても受け入れられないので魔王の傍に置くことが辛くなってきたという旨を俺は魔王に話す。

そして魔王はそのことを了承し俺の提案を受け入れてくれたのである。だが、俺の方もどうにかしなければならない問題があった。

「あの、魔王様、出来ればその恰好は変えて頂けないでしょうか?」

魔王の外見を変えることが出来るか尋ねられたがそんなことは不可能だった。

そもそもこの異世界の生き物を俺の力を使って改造するのは俺が俺の意思で行うことが出来ないからだ。だが俺はそんなことは言わずに、魔王の外見を変えて欲しいと言う。

そのお願いに対して魔王は少しだけ嫌そうな顔をしたがそれでも俺は何とか頼むと魔王を説得し、魔王は仕方がないといった様子を見せながら俺の頼みを聞いてくれたのである。しかしそんな魔王の姿を見ることが出来ず、俺には魔王の姿が変わったことに気付かないふりをしながらその場を乗り切ることしかできなかったのだった。

俺は部下の一人を呼んで俺が元居た世界について調べるように命じた。俺はその調査を魔王の配下の中でも俺が認めるほどの強さを持っている者に依頼するように伝える。そして俺の方に勇者についての情報を集めている部下の報告が届く。勇者に関する情報を集めるように命じた俺だが魔王が勇者に化ける為の手段に勇者が使っていた剣を使っていた。

つまり俺達が今いる場所が勇者の世界であることに気が付く。そしてその事実を知った時俺は魔王がその世界にいることで何かが起こるのではないかと心配になってしまう。

「お前達が探している男は俺と同じ人間なんだよ。しかもその男が居る場所は俺の住んでいた国の近隣なはずだ」俺はそう口にしてその男の特徴を魔王に伝えた。するとその言葉に反応を見せたのは魔王でもなく、魔王の直属の部隊で俺の部下の隊長を務めている男だった。俺も知らなかったのだがどうやら俺のことを慕ってくれているらしく、俺の役に立てるのであればその力になりたいと言ってくれているのである。俺はそんな男の気持ちが嬉しく感じ、魔王軍に協力してもらえることを願っていた。しかしそこで一つの問題点があることを俺は思い出す。

この世界では勇者が魔王を倒すということになっていることを思い出したのだ。

そのことを考えると魔王が俺に協力してくれるかどうか不安になる。そんな風に思っていると俺の考えを見透かすかのように魔王は「私はあなたに協力する」と言ってくれたのである。魔王がそう言ってくれると分かっていても俺としてはその言葉を信じることができなかった。しかし俺はそこで一つ疑問を感じてしまう。それは魔王が自分の正体を明かさずに俺の元に姿を現したことだ。俺はそれがどうしても引っかかり、魔王に対して俺は魔王の正体が誰かを知っていることを伝え、俺に協力してくれるのか聞いてみる。その問いに対して魔王は一瞬表情を変えながらもすぐに笑顔を浮かべる。そして俺は魔王が魔王だと知っていた。

魔王はその言葉を聞くなり表情を一変させ俺に対して怒り出すがそれも当然だと思う。なぜならば魔王は自分の秘密を知るものを許そうとしないからである。

しかし俺には魔王を止めることなど出来ないので大人しく殺されてあげようかと考えていたのだが、魔王の動きは止まらないのである。「お前を殺す」そう宣言した魔王の行動力は凄まじくあっという間に距離を詰められ魔王に攻撃されそうになる。俺はそれをどうにかして防ぎ、俺は反撃に転じようとする。しかしその攻撃を軽々とよけられて再び魔王に隙を与えてしまうことになる。

俺は魔王と戦わなくて済む方法を考えていた。この世界から逃げることで戦いを回避することも考えた。しかしこの世界は俺の住んでいる世界と全く同じでありその世界を移動するという事は俺自身が変わるということ。そのリスクは大きいと考え俺はこの世界で生きることを決意。その意思を魔王に伝えると魔王は俺に問いかけてくる。俺が元の世界に帰りたいと本当に思っていないのかを確かめてきたのである。

俺はその言葉の意味を深く考えてからそのことについて返答をすることにする。魔王に自分が元いた世界に帰れないことを理解して欲しいと伝え、そして魔王に自分のことを信頼して欲しいと言葉にした。俺のその言葉を聞いた魔王は何も答えることは無かった。魔王と初めて会った時に見せた悲しげな顔。魔王の本当の姿を知らないままで俺はその魔王のことを心の底から信頼することなど出来なかった。ただそれでも魔王を裏切るようなことは決してしないと約束したのだった。俺の言葉に満足そうに笑みを見せる魔王を見てこの世界のことを俺に託してくれたんだなと思う。魔王の期待に応えるように俺はこの世界の問題を解決するために動くことに決めたのであった。

しかしそんな俺達の会話を邪魔する者がいたのである。それはこの国を治めている大臣という人物だった。

その男は魔王と魔王の側近が魔王軍に入るように説得しようとしてきた。俺はそれに断りを入れるのだがそこで魔王はこの世界の仕組みを理解しているか尋ねてくる。その説明を受けた俺は勇者が魔王を倒した場合、どうなるのかを確認する。その説明を受けてこの国にとって勇者というのは必要な存在であると改めて思う。そして魔王は勇者の居場所が分かるらしい。俺がこの世界に来る前の世界に存在していた勇者を俺はこの世界に連れ去ったわけでこの世界の勇者であるあいつはこの世界には存在しないのだと思っていたが、その考えは間違っているということに気付いたのである。

どうやら勇者の魂の波長を覚えており、その波長の近い者を探し当てるということができるそうだ。俺にはそんなことをされても分からなかったがその勇者は俺の世界にも存在することが分かったので魔王にお願いすることにする。

そして俺はこの世界に存在する全ての種族に魔王の力を貸し与えることを宣言したのであった。

そのお陰もあってこの国の周辺に存在した他の国も魔王軍の支配下に置くことに成功し、俺は全ての国に魔王の力を与えることに成功していた。

ただ俺は魔王と話をしている中で魔王の力の使い道についても色々と考えてみたが結局、魔王には世界征服という野望を達成させるという目的しかないのだと思い知らされたのである。ただそんなことよりもまずは魔王軍の実力を高めなければならないのでその為にも俺の力を使って欲しいとお願いするのであった。そして俺が部下に命じた仕事の結果が返ってくると、俺はこの国にいる強者を全て魔王軍に取り入れることに成功をしていたのである。

その後俺は勇者を誘き寄せる為に行動を開始する。その目的は勇者に化けることが出来る俺の側近がこの国の近くで魔族と戦っているという情報を流すことである。その情報は瞬く間に広がり、この国の兵士達は魔族との戦いの準備を始めたのだった。そんな時、俺の元にある人物が現れる。その人物は俺の知り合いであった人物であり、俺の仲間だった人間である。その人間はこの国の為に戦うと俺に伝えてくれた。その話を聞いているとその人間が魔王を仲間に引き入れようと俺に話しかけていたことを知る。だが俺達はお互いを信用することができない関係なのでその誘いを断った。そのやり取りの中で魔王に自分の正体をバラしても大丈夫だと言われ、俺はそれを実行する。そして魔王に言われた通り自分のことをバラしその男が魔王であるということを俺は証明して見せる。だが、その魔王の姿は先ほどまでとは全く違った姿になっていたのである。それは勇者の姿。勇者は自分に似た存在を見た瞬間に警戒し始め、俺に攻撃を仕掛けたのであった。そして俺は魔王に頼まれたこともあり俺はそいつに殺されるという演技をしてやるのである。

勇者の攻撃をその身に受けて俺は死にかけたふりをした後、どうにかして俺はその男の攻撃から逃れることに成功する。そして俺は部下に命じてある準備を行わせていた。それは魔王の部下が俺の代わりに魔王を襲わせるという計画である。その作戦は上手くいっており、俺を庇うような形で俺を救おうとしていた部下を魔王は切り捨てる。俺はそんな部下に対して申し訳なさを感じながらその場を後にしようとしたのだがそんな俺の前に一人の人物が立ちふさがる。その姿を見るなり俺は驚くことになったのだがその者は俺のことを助けてくれたあの人間だったのである。

俺はその人間に対して何故こんなことをしているのかを聞くと俺の命を狙ってきた勇者と戦うためだと答え、その言葉を信じてその者の後を追うことにする。勇者と戦うためには魔王と協力するしかないと思い魔王に声をかけることにしたのだ。しかし魔王はその申し出を受けるのを拒んだのだった。そこで俺はどうして魔王は人間に手を貸すことを嫌うのか尋ねる。すると人間によって大切な家族を奪われたのだということを魔王は教えてくれるのである。魔王が勇者に恨みを持っていることは分かった。しかし俺が魔王に協力を求めた理由は別にあった。それはこの世界を魔王の力を使って変えることなのだ。そして魔王はその力を悪用したりはしないはずだ。その言葉を聞いた魔王は自分の気持ちを押し殺し、俺に協力してもらえるようにお願いする。魔王は人間達を滅ぼすつもりは無いと言っていた。そして俺の話を聞いて魔王もこの国の状況を良くしようと考えていることが分かり魔王と和解することに成功したのである。

勇者との決戦を控えた俺は魔王城にて準備を進め、その時が来るのを待っていた。勇者が俺の元へ現れるという情報を魔王から受け取り俺はそれを待ち続けた。すると魔王の言う通りに勇者が現れたのである。

「よくここまで辿り着いたな。まあ、褒めてやろう」

俺が勇者に対してそう口にするとその言葉に対して返事は無く無言を貫く。そんな反応に対して俺は言葉を続ける。「俺を倒せば世界は救われるとか思ってるんじゃないのか?でも残念。俺はお前の敵だよ」

勇者に俺は言葉をかけるが、やはりその勇者は無反応。その表情からは何を考えているのか読み取ることが出来ない。そこで勇者は口を開き「俺をどうするつもりなんだ?」という言葉を漏らしたのだった。その質問をされた俺は魔王の頼みを果たすために俺はお前を殺しにきたんだと言うと勇者は驚きの声を上げる。そして勇者はすぐに戦闘態勢に入った。その表情には恐怖の色が見える。勇者は腰につけている剣を手に取り、俺に向かって構えを取る。その構えを見て俺はこの勇者が俺が元いた世界ではかなりの実力を持っていたんだということを思い出す。その強さを見抜く力があればこの世界での俺の強さがどれほどのものか把握することができるのかもしれない。

そのことに思い当たった俺はすぐにそのことを確認する。するとその言葉が事実であるということが発覚してしまう。この世界に来たことによって得た俺の能力値がどれだけ下がってしまったのかを調べる為に確認をするとレベルは1、HPは5しか無くなっていた。その数値を目にした俺は驚愕してしまい言葉を失ってしまうが俺は魔王に言われた通りのことをするためにどうにかして俺の目の前にいる男の隙をつく。俺の体は魔王の力を借りることで強化されていた。だからこの攻撃に反応できないだろうと思っていた。しかし俺の拳を受け止めたのである。それも余裕を持って受け止められてしまった。

俺はどうにかして攻撃を防ごうとしたのだがそれを軽々と受け止める勇者に対して危機感を覚えてしまい距離を取り体勢を立て直すことにした。

俺は自分の攻撃に勇者が対応したことに衝撃を受けていたが冷静さを保ち続けるように自分に言い聞かせた。しかし相手の方が強いということは分かっている。それでも魔王は魔王として俺に協力すると言ってくれたので魔王に託されたものを守るためにも逃げるという選択をするわけにはいかない。そんな決意をしている時に勇者の方から声をかけられてしまう。そしてその勇者から放たれたのは挑発の言葉。

俺はそれにまんまと乗ってしまい攻撃を仕掛ける。そして俺の攻撃を受け流すと、そのまま反撃をしてくる勇者に対し俺は避けることができず直撃してしまう。そんな一撃を食らってしまったせいなのか、体が動かずにその場で固まってしまう。その状況の中俺は必死に打開策を考えるものの、良い案が出てくることはなくただただ時間だけが過ぎていった。そして勇者から追撃を受けそうになった瞬間、魔王の側近が割って入ってくると俺を守るように立ち塞がりその勇者と激しい戦いを始める。その攻防は長く続くが側近の力は勇者の足下にも及ばないほど弱くなっていた。このままだと殺されると思った時、魔王は俺を助けるべく魔王の側近と俺と勇者の間に割り込んできたのである。そんな魔王を俺は止めようとしたがそんなことを魔王が聞き入れるはずも無く俺は仕方なく見守るしかなかった。

そしてその勇者は魔王の側近を殺すことに成功するのだが魔王を追い詰めることに成功した。そして魔王は追い詰められてはいるのだが勇者に対して何かを仕掛けているようで、勇者は俺には分からないがどうやらその攻撃をまともに受けているようだった。

しかしそんな状態にもかかわらず勇者が優勢になることはなかったのである。

「もう諦めろ。俺には勝てん。俺が手加減をしてやっているというのに全く歯が立たないようだな。この程度で調子に乗っているようなら俺に勝つことなどできるわけがないんだよ。それに俺も暇じゃない。お前のような雑魚に構っている程にな。そいつを倒した後に次は貴様だ。魔王の力は魔王が持っていればいい。俺の力はこの世界の為に使うべきでありこんな場所で浪費しているべきではない」

その言葉で勇者の態度が変わった気がする。それはまるで人が変わるかのような豹変振りだった。

その雰囲気は今戦っていた勇者とは明らかに違っていてどこか禍々しいものを感じる。そして勇者は俺達に襲い掛かってきた。それはとても素早い動きで俺達は勇者の動きに付いていけなかった。だが、魔王の側近だけには攻撃を当てており俺がそれを止めに入るが止められず逆に返り討ちに遭ってしまう。勇者の攻撃にやられた魔王の側近は瀕死の状態に陥っていた。この状態ではもう戦うことはできないと俺は感じ、俺は魔王に逃げるように伝える。魔王は俺の提案を受け入れるとその場から逃げ出すのであった。

魔王城へと戻ると俺はすぐに魔王に怪我の具合を確かめるがどうやら俺を庇ってくれた時の怪我が原因で死んでしまったらしく既に事切れてしまっていたのである。魔王の側近であるその男を埋葬することにしたのだがそんな俺を嘲笑うかのように魔王は姿を現した。

俺はどうして戻ってきたんだ?と魔王に対して問いかけると、そんな魔王は俺の仲間だった男が俺の代わりにこの国の王様と戦っているという。そんな報告を耳にし俺はその男に会いに行くことに決めた。魔王の力が使えない俺はその男に会わない方がいいという忠告を無視し、魔王城の最上階にあるその男と最後に会話をした部屋へ向かう。

俺はそこでその男を見つける。しかしその男は魔王に負けていた。そして俺を待っていたとばかりにその男が話しかけてきた。そして俺は魔王の力を借りてその男に戦いを挑む。しかし俺にその男を倒すことはできずその男が言った通り俺は負けたのだ。そして俺は魔王の力を失いこの世界にやって来た時と同じように俺は気を失うのであった。その瞬間にこの世界は俺の知っている世界の光景に変わる。その変化を目にして俺は完全にこの世界に戻って来たのだということを認識するのであった。

俺は目を覚ます。そこは見知らぬ天井だった。そして周りを見るとそこにはこの国のお姫様に魔王、そして先ほど俺を圧倒したその勇者の姿がそこにあった。

「ようやく目覚めたか。まあ色々あったみたいだけど元気になったみたいだし良かったぜ」

その言葉を聞いて魔王の表情が曇っている事に気づく。

「あの勇者が貴方の代わりとなってこの国に挑みに行った。私は止めたんだけどね。勇者が勝手に決めちゃった事だったし。でもやっぱり心配だよね」

「勇者が私の代わりに国に攻め込んだのか?しかし一体何故だ?そもそもお前達人間は勇者を味方にしているんじゃないのか?」

魔王がそんな質問を口にすると俺を襲おうとしていた勇者が魔王を威圧するような目で見る。しかしそれに対して魔王は全く怯えている様子は無くいつものように言葉を発した。

魔王は俺が倒れている間に起きた事を簡単に教えてくれる。それは俺達がこの国の兵士達によって殺されかけていた時のことである。俺が目覚めるまで魔王はどうにか時間を稼いでくれていたらしい。そして俺を庇いながら逃げ回っていたのだと言うが、そんな俺を助けに現れた者がいると言う。

その者は全身が黒いローブに包まれていてその顔を見ることは出来ずに誰なのかが分からなかった。その者が俺を助けたのは一瞬のことであり、すぐにその場から姿を消してしまったと言う。その者は魔王を敵として見ていた。そして俺をこの城まで連れてきてくれた人物でもあると言っていた。

「魔王よ。一つ頼みがある。この城に残っている兵士を集めてほしい。その者達に私の武器を貸してやる」

その声は男性の声だったが少し幼いように聞こえた。俺はその言葉を聞き、勇者と戦うための準備を進めるのである。

俺は自分の剣を取り出すと自分の体に纏わせようとする。しかし上手く纏わすことが出来ない。俺はそのことを気にしていたのだが他の勇者と戦いにいくために今は仕方ないと考え勇者の元に向かうのだった。勇者と魔王の戦いは既に始まっていた。俺はその二人の勝負を見守っていたが、どうやら戦況的には魔王の方が不利なように思える。

しかしそれでもまだ勇者が圧倒的に有利な状況ではなかったのでどうにかしてその状況を変えるべく行動を起こした。まず俺は剣に魔族の力を与えるとそれを剣に纏わせた。俺がそうすることでどうにか剣は纏われるようになり一安心することができた。

俺は勇者に襲いかかるがその攻撃を全て受け止められてしまい勇者の反撃を受けることになる。俺も必死に抵抗しようとするが圧倒的な実力の差を感じ取ってしまい俺は為す術もなく倒されてしまうのだった。それから俺は立ち上がり再び戦う意思を示す。俺は魔王の言うとおりに仲間を集めることにした。俺と一緒にいた仲間たちもこの魔王城に集まろうとしていたがその魔王城を囲うようにして結界が張られており入ることが出来なかった。そんな状況を見た魔王はそのことについても教えてくれていた。その結界が張られているのは俺を倒そうとしている魔王側の作戦の一つなのだと言う。そして魔王のその言葉は真実だという事はこの目で確認しているので間違いはない。俺は魔王の言葉を信じることにした。

俺は勇者に向かって攻撃を繰り出すと俺に攻撃を与えてくるが俺の方もその攻撃に対して応戦するように勇者を攻撃するがお互いにダメージを受ける。しかしそれはどちらも浅いダメージであり、俺はこのまま戦っても勝てないという判断をしたがどうにかこの現状を変えなければと思いながら戦っているとその隙をつかれてしまい俺が攻撃される瞬間、突然現れた謎の人物がその勇者に攻撃を繰り出しその攻撃は命中するのだった。俺はその人物に対して攻撃を仕掛けた勇者の攻撃から身を守ってくれるようお願いするとその人物は快く了承してくれ俺の命を守り抜いてくれたのである。そしてその隙を見逃さず勇者に攻撃をするが俺の攻撃が当たらなかった。しかしその直後その謎の人物から攻撃を受けることになる。その攻撃は魔王の攻撃を彷彿させるものでその一撃を貰ってしまうとかなり深刻な傷を負う事になった。そして俺がその人物を見るが、やはり顔が見えないので正体が分からない。俺はすぐに距離を取るとそれを追いかけるように勇者がこちらに迫ってくるが、突如として目の前に魔王が現れてその攻撃を受け止めてしまう。そしてそんな二人の戦いを見て魔王は自分が助太刀に入ることでどうにかなるのではないかと考え俺はその戦闘に参加すべく動き出そうとする。しかしその時に先程の謎の声が再び現れ俺の行動を阻害するように話し出す。

その者の目的とは魔王城に侵入し俺を倒しに来ることであると伝え、俺の仲間である者たちはこの場から離れるように誘導してくれるとの事。俺はそんな指示に従うべきなのか悩んでいたが魔王の方をチラッと見ると勇者と激しい戦いを繰り広げておりその声が聞こえていないようで俺は仕方なくその謎の声の言うことに従い魔王にその場を離れるように告げると俺はその謎の人物の後を追い始める。

しばらく走り続けるとそこに辿り着いたのは俺が以前暮らしていた家でありそこで俺は足を止めるとそこには俺のよく知る人物と俺に倒されたはずの魔王の姿があり俺は驚くがとりあえずは挨拶をすることにする。俺はその男に近寄ると軽く頭を下げて久しぶりですねと言ってから俺はその男の顔を覗き込むが、その素顔を目にすることは出来ない。だが俺はそんな事を気にする事なく会話を始める。俺はここにいる理由が分からず疑問をぶつけてみると男は俺のことを見透かしたような口振りでこう話す。

「貴様にはここで消えてもらう。貴様はこの世界を混乱させすぎた。そして貴様が持っているその魔王の力はこの世界にとって必要のないものだ」

「お前は何者だ?どうしてこんな真似を?」

俺はそんな質問を問いかけると俺の目の前にいるその男は初めて言葉を発するのであった。その男の声は俺に話しかけてきた謎の存在が発しているものと同じであることが分かると、俺はこの男が魔王を殺したのだろうと察することが出来る。俺は魔王の方に視線を移すとそこには既に姿はなく魔王がどこに消えたのかを考えていると魔王が姿を現すのだった。魔王は俺の前に姿を見せると俺を守るかのようにその男と向かい合う。

俺はその光景を目にしながら魔王が無事であったことを安堵していた。そしてそんな魔王の表情は険しいものであり、その男を敵として認識しており、今すぐにでも殺そうとする勢いだった。

「私を殺すか?お前にはもうその資格はある。私はもうこの世界でお前達の味方にはならないのだからな」

魔王が俺の側に立つと、魔王の表情がさらに険しくなる。その男はそんな俺達に話しかけると魔王に向かって言葉を口にする。その言葉は魔王にとってはとても許せるものではなかったようだ。魔王は男を殺そうと動き出したのだが、魔王が男に斬りかかる前に男から魔法が放たれ魔王はそれを受け止めるとそのまま吹き飛ばされ壁に激突してしまう。

魔王はそのまま意識を失ってしまった。そんな魔王の元に俺は駆けつけるとそんな魔王の身体を抱きかかえると俺はその男に対して敵意を向けた。

男は俺が魔王を抱え込んでその男が放つであろう攻撃を防御しようとしている事に気づくと攻撃することを中断する。

「どうするつもりだ?私がこの女を殺しても構わないのだぞ?」

「お前に魔王は殺させない。もしそんな事が本当に可能だと思っているのならそれは思い違いだ。俺が必ず阻止してみせる。俺はこの世界が平和になるのを望んでいるんだから。それが叶わないのならば俺がこの手で叶えて見せるさ」

「戯言を。所詮お前達は何も出来ない人間なんだ。大人しく死ねばいいものを。これ以上私達と関わりたくないのであればすぐに立ち去れ」

「お前に言われなくてもそうさせて頂きますよ」

俺はそう言ってその言葉が嘘であることをその身に証明しようと決意すると俺達を襲ってきた魔王の部下たちを相手にし始めてなんとか全員を倒すことが出来た。

俺はそんな出来事を思い出しながら魔王と話をしているとその話を聞いていた魔王は呆れた様子を見せていた。

「その話が事実だと言うことは分かったがなぜそんな事をする?」

魔王は男に疑問を口にする。俺もそれに関して同意してどういう事だと聞くことにした。その答えを聞こうとするとまたもやその謎の存在が現れる。今度は先程のような格好ではないようで顔も分かる状態で現れた。

その者はこの城にある書物を読んでおり魔王と俺はその者に気づかれないように近づく。そしてその者がその書庫に保管してある魔族について記されている本を取り出しそのページを開きその内容を読み上げ始めた。それは魔族の能力についての話だったがその話は驚くべき内容であり、その者は俺たちにそれを分かりやすく説明してくれているのだった。そして魔王はその事を知っているのか俺の知らない知識をどんどんと語ってくれる。

そしてその話の全てが事実であると知ってしまった俺は驚きで言葉を失う事になってしまう。その者の言うとおりに行動すれば俺の目的は確実に果たすことが出来ると確信していたからである。俺は魔王と共にその方法を聞き、魔王はそれに同意して行動を開始することになる。

俺はその者と魔王が手を組みその計画を実行するのは少し危険だと思い俺はその計画を止めた方がいいと告げる。しかし魔王がそれに答えることはなく俺の意見を受け入れることは無かった。そして俺は仕方なく二人に協力することにした。

それから俺達はその計画が実行できる日まで待機することになったのだが、その間暇を持て余していたのでこの城の宝物が置いてある部屋に俺は忍び込みその宝物の数々を物色することにした。俺がその部屋に入り込んだ時に俺の存在に気づいたその者はすぐさま俺に近づいてきた。その者の接近に俺が驚いてしまうと、俺は咄嵯に剣を引き抜き攻撃を仕掛ける。

しかしその攻撃は簡単に止められてしまったが、どうやらその者も俺と戦うつもりは無いらしく、すぐに攻撃を止めてくれたため大事には至らなかったのだが何故かその者が懐に仕舞い込んでいた何かを俺に渡してくる。

それは俺にも扱えるような短剣だったがそれを受け取った俺をじっと見つめてその者からも言葉を告げられる。その者が言うには、これから起こることに備えて用意しておくべきだと助言されたのである。そして俺はその者の言いなりにその短剣を手にすると俺はその忠告を受け入れて自分のアイテムボックスの中に仕舞うことにする。その者の助言が役に立ったかは分からない。何故ならその者の姿が見えないからだ。しかし俺としてはそんなアドバイスをしてくれたので感謝はしているが姿を現さない事に不満を抱いていた。

それからしばらくして勇者が俺の元にやって来ると、魔王を倒したと言う情報を伝えてくれる。俺は信じられずに魔王がいると思われる場所に向かってみると魔王が確かにそこにいて俺が勇者と会話しているのを見るとその勇者の肩を掴み俺の仲間にしろと提案をした。勇者は俺の事をあまり信用していないようで俺は渋々だが魔王の配下に入るのを認めてもらうことに成功すると、勇者に魔王討伐に俺の力を使わないかという提案をする。その誘いに対して勇者は俺の提案を受ける事にすると俺は勇者の手助けをすることに決める。

勇者の手助けをしてからかなりの月日が経った。

そして勇者の力は俺の助けが無くても問題無いくらい強くなっていたのだった。そんな勇者がこの城に戻ってくる。そして俺が勇者の姿を見て勇者はそんなに年を取っていないということに気づく。俺はそんな勇者に一体どうやってそこまでの力を手に入れたのかを聞いてみることにした。勇者は魔王を倒してその褒美にと神にもらったものだと俺に話す。その言葉を聞いた俺は魔王が本当に倒されていたことを知り驚いた。

そんな俺は勇者に魔王が何処に行ったのかを尋ねるとこの世界のどこかに居るらしいということしか分からず魔王を俺が殺す事は叶わなかったようであった。俺は勇者と別れた後で俺の協力者であるあの男にそのことを伝えるために動き始めるのだった。

俺はその男にこの国の近くにある村で勇者と出会ったこととそこで得た情報を伝えた。

男は俺の報告にたいして驚くことなく、淡々とした態度のまま俺の話を聞いていたがその途中で俺はその男の正体が何となく分かっている。俺はこの男の名前を口にする。

その名前を聞くとその男はすぐに否定して俺はそんな名前の男じゃないと口にした。その男の名はアベル。その正体は魔王軍四天王の一人にして魔王をこの世界に呼び出した本人だったりする。しかしそんなことを口にはしない。それはきっとこの男からしても知られてはならない秘密なんだろうと思う。そしてその男はこの世界を混乱させている元凶であり俺もこいつに殺された。だが今の俺はこの男に殺されていないので俺もこの男を殺すことが出来ない立場にいる。

俺はその男からその魔王に関する情報を手に入れるべくこの男から魔王の情報を得ようと考えた。そして俺は男からこの世界を混乱させる原因になっている魔王のことを詳しく知ることが出来たのである。その魔王はこの世界を混乱させようとしているわけではないと言うことを知った。その魔王がこの世界にやってきたのはただの暇つぶしなのだそうだ。俺はそんな魔王の行動に頭を抱えるしかなかった。そんな魔王は世界を破壊するのではなく世界を混乱させて楽しんでいるのである。だからこそ俺もその魔王を倒さなければならないと決心した。

俺はこの世界で手に入れた仲間を連れてこの城を探索することにした。その道のりは険しいものだった。この城の中はとても複雑で迷うことが多かった。俺は何度も行き止まりに遭遇してしまう。そんな俺を励ましてくれた仲間たちに心の中で感謝をしていた。俺がこうして生き残っているのはみんなが支えてくれていたおかげだと思っていた。だから魔王が俺を裏切ったとしてもそれは当然のことであり、責めることは出来ないのだった。

俺がこの城の中を進んでいるうちにとある部屋を見つけるとそこには大量の武器や防具が置かれていて俺はそれらを一通り鑑定するとその中に聖属性が付与された武具がいくつか存在している事に気づく。俺はその中の一つの武具に目が止まる。それはその男と会ったときにその男が使っていた杖と同じものだった。その男の話ではその武具の製作者があの男であり俺は男が作ったものでない事を確認するとすぐにその武具は売り払ったのである。そして俺が売った武具がこの世界でもかなり高価な品物だと後から知ることになる。

それからこのダンジョンの奥へと進んで行く。奥に進むほどこのダンジョンの構造も複雑になっていき、俺はこの城の構造を完全に把握する事が出来ずに迷い続けていた。そんな時俺は偶然隠し通路を発見したのだ。この通路はまるで魔王の部屋がある階層に繋がっているかのような感覚があり俺の心は高鳴っていた。俺は意を決してその通路に入っていくとそこには大きな扉が存在していた。俺がゆっくりと扉を開くと中からは異様な魔力を感じる。その部屋に入るとそこにはこの城にある書庫にあった書物がそのまま置かれておりその書物を目にすると同時に魔王の居場所を知ることができたのである。魔王の居場所を知った俺は急いでそこに向かって魔王を倒しに向かった。

俺はその部屋に辿り着くとすぐに魔王と対峙することになる。そして俺と魔王はお互いが全力を出して戦うとお互いに消耗して決着をつけることは出来なかった。しかし、魔王にダメージを与え魔王が動けなくなったところを見ると勝負あったなとそう思えた。そして俺はそんな魔王を仕留めるために剣を振り下ろそうとすると、俺は魔王が俺の動きを予測し回避するとそのまま反撃を仕掛けてきたことに気づかなかった俺は魔王の攻撃を受けたことによって身体が吹き飛んでしまい壁に激突してしまう。そんな俺を見ていた魔王が笑いながら俺を嘲笑ってきた。

そんな事もあって俺達はしばらく睨み合いの状態になってしまうが俺に隙が生じたことで魔王に攻撃されてしまうと俺はその攻撃を避けることが出来ずにまともに受けてしまい床に倒れ込む。そして魔王は俺に向かってトドメを刺そうとしていた。俺の事を舐め切っている魔王が俺にとどめを刺そうとした時に俺はなんとか立ち上がることに成功する。

そして俺は持っていた回復薬を使って回復すると俺は一気に駆け出して魔王に接近していくと俺はその一撃を放つことに成功したのだった。それは俺の得意としている剣術の一つである突きを繰り出すと魔王はその攻撃を受けて俺の攻撃によって傷を負うと苦痛の表情を浮かべて後ろに下がり始めた。

そして俺が魔王を追い詰めていると魔王の様子が変わっていき俺と互角の力を発揮して戦い続ける事になっていた。

そしてそんな状態が続いていたある時突然魔王の姿が変わると俺はその姿に見覚えがあって驚愕する。

魔王は魔族の王であり魔族の頂点に立つ存在である。そんな魔族の王が今俺の前に姿を現して戦闘を行っていた。魔王が人間の姿をしているのを見て一瞬戸惑ったがそれでも俺が勝てるはずもなく俺は劣勢を強いられていた。そんな時、俺が魔剣を使っているにもかかわらずその剣は俺の意思通りに動かないのであった。その理由が分からず俺は苦戦を強いることになってしまったが、魔王はそんな俺を見透かしていて余裕を見せていた。魔王は俺の事を知っているかの様な動きを見せる。それがどうにも気持ち悪く感じた俺は俺をこの世界に召喚したのが魔王ではないかと予想を立ててみた。

その推測が間違っている可能性はあったが今はそのことしか思い浮かぶことはなかった。

それから俺は魔王との戦いに集中することにする。

俺は今までこの剣を使ったことがないのに何故かこの剣を使うことが出来るという妙に懐かしさを感じた。そんな事を気にしながら俺はその剣を使い魔王と対等に渡り合うことが出来て、魔王を倒すためにあと少しのところでその力を出し切る事が出来なかったせいで魔王を逃がすことになって俺は無様に這いつくばってしまう。

そしてそんな状態の俺に対してその男は手を差し伸べてくる。俺は魔王が俺の知り合いであることに戸惑いを隠せなかったがこの男が俺の敵ではないということはなんとなく察することができたのでその差し出された手を掴んで立ち上がったのである。すると俺がその男の顔を見る前に俺の頭を優しく触ってくる。その男の手つきはとても優しいものだったが俺はなぜかその男の顔を拝見するとそんな行動が納得出来たのであった。何故ならこの男の瞳があまりにも優しすぎてそんな男に俺は思わず微笑んでいた。

「やぁ、元気にしてたか?それにしても相変わらず可愛いな、お前」

その男は俺に対してそう言うとその言葉に反応を示した俺に対してその男は俺の頭を抱き寄せるとその胸に顔を埋めさせる。その男の腕はがっしりと俺を捕まえており身動きをとれなかった。そして俺は男に抱き寄せられると不思議と落ち着けたのだった。そんな状態でも俺は冷静でいられることが出来たのはこの男の匂いを嗅いでいるだけで安心感を得られるからだと思う。そして俺の体を離した男は俺のことを見下ろしながら俺のことを観察するような目で見つめてきてその男はこう告げた。

俺はその男の言葉に驚いた。そしてその男の発言からこの男があの時の人物だと気づくと俺は魔王と戦うことを止めたのである。そんな魔王との一件の後、魔王と勇者の一行は城を出て魔王討伐の旅に出て行った。

そして勇者は俺に別れを惜しみつつもこの城を去ることになる。俺はその光景を見ながら勇者達を無事に魔王の元まで辿り着かせることを祈るのだった。

そしてその日の夜になると俺の元へあの男が現れると俺はこの男が俺が倒したはずの魔王であることを確信したのであった。しかし俺にはこの男を恨む気は起きなかった。それどころか俺に倒された魔王に同情してもいたのであった。

「久しぶりだね。君は僕が死んだ後、何をしていたんだ?」その男はそんな質問をしてくる。

「俺は元いた世界に戻るためにこの世界の各地を周って情報を探っていたよ。でもまぁ、その途中でこの城を見つけてその書庫にあった本を読み漁ったりもしていたかな」

その言葉を聞いた男は苦笑した様子を見せながらその話を聞くと続けてこんな言葉を口にした。

「そっか、それで元の世界に戻る方法は見つかりそうなのかい?」

俺が元の世界に戻れる方法があるのかは正直わからないがもしかしたらそんな方法は無いかもしれないが一応俺はまだ試していないことがあったのでその男に聞いてみる。すると男はそんな俺の様子に気づくことなく答える。その返答によると俺達がこの世界で得た情報はこの世界にもともと存在していたものだと言うことが分かり俺とこの男は落胆することになってしまった。だが、そんな男の様子を俺はどこか可哀想だと思ってしまうと俺のその男に対する考えも変わっていることに気づいたのである。そしてこの男がこの世界に来てからどれくらい経ったかも確認するとまだそれほど月日は経っていないことが分かった。そんな会話をした次の日の朝には俺とこの男はもう会うことはなくなっていたのである。その日以降俺は書庫にあった書物を読んで過ごしていてその日は俺にとってとても有意義なものになったのだった。

俺はこの城に滞在できる期間はそれほど多くはなかった。だからこそこの数日間で俺は色々とやることを決めていた。それはまず俺の仲間達にこの世界での生活を楽しんでもらおうということだった。俺はこの城の設備を整えてから俺は俺にできることをする。そのために必要なものを手に入れに行くために俺は外に出かけることにした。この数日の間俺はダンジョンの中を探索し続けた。その結果俺がダンジョンの中で集めた素材はかなりの量に膨れ上がりそれを収納するための袋を用意する必要が出てくる。そしてそんな時に俺の元にとある男がこの城にやって来ていた。それはその男がこのダンジョンを探索するために来たわけではなく俺が用意した装備が目当てらしいのだ。俺はこの男が欲しいと言っていた装備品を全て用意することにした。

俺の持っている金は全て使ってしまってもいいと思えるほどの物を手に入れたがやはり足りなかった。だから俺はその足りない分の金を稼がなければならないのである。そしてこのダンジョンに出現するモンスターを倒して手に入れた経験値はかなりの量になる。そして俺はそんな大量の経験値を得ていてこの階層の攻略がだいぶ楽になったことに気がつく。そしてこのダンジョンの最下層に到達するまでに時間はそこまでかからないのではないかと予想を立てたのである。この階層はとにかく複雑になっていて地図を作っていても迷いかねない状況なのでその最深部に辿り着くまではかなりの時間がかかると考えていたのだが俺にとってはこのダンジョンの構造は把握しているようなものなので迷うこともなかった。そしてついにこの迷宮を攻略し終える。この迷宮の最奥部には魔王が住処として構えておりこの魔王城へと続く道は一つしかなかった。この魔王城は魔王が作り出した空間に存在しているもので魔王の魔力に満ち溢れていた。この魔王は人型の魔族で魔族の王でもあったがその外見は他の魔族とは違い美形と呼べるものであり、そんな魔王を俺の配下に引き込もうと考えて俺は交渉をしようとしたら案外あっさり承諾されたのである。そんな魔王と俺の関係は魔王の眷属となった。俺のステータスを確認するとそこには【名前】魔王 レベル9999 職業 魔王 という記載が新たにされていた。魔王が倒されてその力の一部が封印されてしまっていたらしく本来の実力を取り戻すことが出来ないでいるのがこの状態を引き起こした要因なのだと教えてくれる。しかし魔王はそれでも十分に強かったためこの魔王の力を存分に活用出来るようになってしまったのである。俺にはまだ魔王を倒す力があるかどうかわからないがそれでも俺は自分の目的のために戦うことを選んだ。そして俺は魔王と一緒にこれから俺がこの魔王領を仕切る者として行動することになった。魔王が他の魔王に殺されてしまうと俺の力の効果が薄れてしまう可能性があるためにそれは避けるべきだろうと判断したのである。

そして魔王を倒したことによってその力は俺の体に流れ込むようになりその影響によって俺は急激に成長した。そして魔王を倒すのに時間がかかった理由はこれが原因だったようだ。

それから魔王をこの城で働かせる事にした俺は早速その仕事に取りかかるように指示を出す。それから俺は魔王にこの国を統治させるために俺はこの魔王がこの国のトップとしてふさわしい人間に教育を施してやろうと計画する。それから俺はその魔王がこの世界で一番強い人間になるまで育て上げようとした。そして魔王が俺の命令を素直に聞き入れて実行する姿を見て俺の計画が順調に進んでいることを実感するのであった。しかしそんな俺が魔王に対して期待を寄せる一方で魔王にはある問題点があったのである。

その問題はあまりにも強すぎる力を持て余してしまった事である。俺は魔王に強さを求めるあまりかなり厳しい特訓をさせてしまったのだ。その結果魔王の強さをコントロールできなくなってしまうと魔王は自分の力で自分が死ぬ可能性を危惧してしまいこの魔王城を出ようとするようになる。俺は魔王にこの城で働いてもらう条件としてこの魔王の力が暴走してしまうと危ないという事を魔王に教えた。しかし、そんな魔王の悩みを魔王の側近達はすぐに打ち消し去ってくれた。魔王の部下は優秀であり、そのおかげで俺は安心して魔王を任せることに決めるのである。それから俺は魔王がこの世界を統一するまで見届けようと魔王のそばでこの魔王を成長させる手伝いをしようと決心したのだった。それからしばらく経って、俺の魔王はついに魔王軍の軍を作り上げて、この世界を手中に収めるまでに至ったのである。そして魔王はその軍隊を引き連れてこの世界の国々を攻め滅ぼしたのだった。俺は魔王の圧倒的な軍事力を見て改めて魔王の力を思い知ると俺もこの世界の覇権を取ろうと考えたのであった。俺の目的はこの世界の全ての人間が平等な社会を築き上げることだと考えているからだ。そのためにはやはり権力が必要だと感じていて俺はそれを手に入れる為に行動することを決意するのであった。そんな時、突然魔王は何かの違和感を感じるような仕草をして俺に尋ねてきたのである。

「お前に報告しておきたいことがある」

魔王からの呼び出しに答えた俺はその用件を聞こうと思いその話の内容に耳を傾けることにする。

「俺はお前が召喚された元の世界への入り口を発見したぞ」

「本当か?どこにある?」

「ここから北東に向かった先に存在する城の中にその元の世界への道があるはずだ」

「ありがとう」

そしてその時は唐突に訪れた。その城から突如として強力な魔物が出現したのを確認したからである。俺の頭の中ではその出現場所が例の城だと確信した。なぜならその城には元々魔王が君臨しているはずなのだ。そしてその魔王はこの城を目指してその強大な軍勢を率いて進撃してきたという事になる。そのことに俺は恐怖を感じながらもその城の方に目を向ける。俺の目の前に現れているその城からはすでに大量のモンスターの気配が感じられた。俺はこの事態に対応すべく城へと向かうのだった。

その城の中には大量の敵が存在していたが俺の力でどうにか排除することは可能だった。しかし問題はこの城の地下に眠る謎の物体についてである。俺がこの世界に呼び出された際に現れた謎の装置。俺の記憶に存在しない謎の物体。そんな存在のことを考えながら地下へと進んでいくとやはりそこにはその装置が存在おり俺達を迎え入れるのだった。その装置は俺達の存在を認識していて、その声を聞いてみると俺の知らない言語が使われていて何を言っているのか分からない状況だった。しかしその言葉の意味を理解している者がいた。それはその言葉を理解できる魔王である。

「こいつはもしかするとこの世界のものではないのか?」「その可能性もあるかもしれない」

俺と魔王はそんな会話を交わしてから俺達が異世界から召喚されたのではないかという話をするとこの世界には存在しないはずの言葉を使う機械のような生物が存在する可能性は充分考えられることだったのだ。しかし、その言葉を話すことが出来る機械のようなものは存在していてもこの世界にはまだそんな文明は誕生していなかったはずだと俺は思う。そしてそのことについて考えているとこの世界とは別のところからやってきた生命体だということになるのだ。そしてそんなことが出来るとしたらそれは俺と俺の師匠くらいなのではないだろうか。そんな俺とこの世界にいる誰かを繋げることのできる人間は一人しかいない。そして俺は確信に近い形でその存在を疑った。そう、俺がこちらの世界に来ることになった原因は俺の祖父に違い無いだろうと俺は判断したのである。

そんな俺と同じような存在だとしたら俺はこの世界を救うために協力してもらえないだろうかとそう思ってから俺はすぐにその人物に連絡を取り始めたのである。すると意外な事に俺がその人物と連絡を取ることができてその人物は今俺と同じ状況になっていることを知る。そのことからその人物が俺にその技術を提供してくれる事になった。そして俺がその通信機器を受け取ってそれを魔王に手渡すことにした。この城の主である魔王にそれを管理してもらうのがいいと考えたのである。魔王はそのアイテムの機能を理解できなかったがそれでも俺の話を聞き入れたのか俺の指示に従うのである。

その翌日、俺の元に俺を元の世界に返すための方法を教えるためにその人がこの城に訪れるという話になった。その人の名前は田中一樹といい俺の爺ちゃんの親友だという。そんな人が俺を助けてくれようとしているという事実が俺を安心させるのである。それから俺達はその人にこの世界を救う方法を教えてもらう約束をするのであった。

「俺を元の世界に返してくれるってどういうことだよ?」

俺はその説明を受けた時そんな質問をした。

「簡単に言えばその装置を使えば君がもともと居た場所とここを繋げることが可能になるんだ」

その人の話ではその装置はどうやらとてつもない力を秘めているらしい。そしてその力で二つの空間を接続することが可能だというのである。その人とは俺は会ったこともないしその人は一体何者なのかは未だにわからない。だけど俺は何故かその人から絶大な信頼感を感じていたのである。それはまるで俺の事を孫のようにかわいがってくれるような人だったからなのか、もしくはそれ以上のなにかなのか俺にはわからなかった。

「君はこの世界の未来にどんな可能性を見出してる?」

そんなことを聞かれても俺は自分のやりたいことはただ一つだけ。この世界はまだまだ弱いままだからそんな世界で俺の目的が達成出来るとは思えないのだ。俺はそんな自分の気持ちを正直に伝えた。

その人は俺の返答を聞いた時になぜか満足そうな顔をしていた。その表情を見ただけで俺はその人に対して深い感謝の念を抱く。その人の期待に答えるため俺はこれから頑張って強くならなければいけないと俺は心の底から感じるようになったのである。その日、俺の意識はいつの間にかどこかに吸い込まれるように消失していった。

俺が目を覚ますとそこはいつもの日常とは違った景色が広がっていた。その世界には俺がよく知っているような光景は存在せず代わりに全く見たことのない景色が目の前に広がっていたというわけである。俺はその風景を見て驚きながらもその見知らぬ土地の空気の匂いを感じ取り懐かしさすら覚えてしまうほどだった。そしてしばらく時間が経ってようやくその土地で俺はその人がいることを確認することが出来た。俺が会いたかった相手はなんとその人であり俺は嬉しさでいっぱいになってしまうのである。

その人の名前は鈴木正太郎。俺の本当の名前でもなく偽名でもなかったその人は間違いなくその人であると確信していたのだ。しかし、そんな俺の期待を裏切るかのように俺と会う事を拒否してしまった。俺はなぜ俺に会いたくないのか疑問に思った。

俺がその人の話を聞く限り、俺が召喚される前の出来事は俺に責任はなくむしろこの世界では俺は被害者であるということを聞かされた。

俺はこの世界を平和にしたいと願っているが、今の俺の力ではそれは不可能だと言う事を理解することになる。そんな絶望に打ちひしがれてしまった時俺の耳に届いてきた言葉に俺は衝撃を受けるのであった。その人が言ったのだ。この世界の人間は愚かな存在だと。俺はそれに同意するようにうなずく。俺はこの世界で生きている人間の誰よりも優れているので、それについては否定する理由が俺には存在しなかったので、すぐに俺はこの話を受け入れたのである。

俺の考えは間違っていなかったと証明するために俺はその人から色々な事を学ぶことにした。そして、それが終わった頃には俺はかなりの実力を手に入れていたので魔王と戦うことを決意する。その前にまずは自分が召喚された元の世界へ帰るためにその機械を操作することになった。その操作をしている最中に俺はその機械について色々と聞いてみたのだがやはりこの世界の文明レベルじゃまだ作れなさそうな機械だということが俺にはすぐにわかった。

そんな機械を作れるという事はやはり俺の祖父はすごい人物だと思った。そんなことを考えながら俺は元の世界に帰還するため機械を操作していく。俺は俺自身の力の限界を超えた状態でその機械の操作を行う。俺は元の世界でもその程度のことをできるがそれ以上はできないのである。その差を埋めているのがその人が教えてくれた知識のおかげであるのだ。そしてついにその世界への扉が開かれる。その世界にたどり着いた俺はその世界に存在していた魔王を倒し、世界を救ってみせたのである。そして俺は魔王の力を利用して魔王軍の勢力を拡大させ、魔王軍による統一国家の設立を目指したのだった。俺はその統一国家を新たな世界の象徴として【魔族国】と名付けた。それからしばらく経ち俺はその世界に魔王を滞在させることに決め、俺はしばらくその魔王の元で生活する。俺は魔王と協力をして人間族の国々を滅ぼしていく計画を立てたのであった。俺は魔王の配下である強力な戦士の力を借りて人間族の国々に宣戦布告を行い、その圧倒的な兵力を持って侵略を開始。俺達は順調に侵攻を続け、人間族は滅亡の危機を迎える。そしてそんな時俺の師匠でもあるその人は魔王の前に現れて俺に力を貸すように指示を出すのだった。俺は師匠がこの世界にきたことを知り驚く。それと同時にその人がどうしてそんなところまで来る事が出来たのかを尋ねると、その答えはとても簡単なものだった。その人は自分の作った装置を使用してここまで来れたのであり、そして魔王に協力して欲しいと俺のお願いをその人に伝えさせた。魔王もその人が俺の仲間だったことを知っているのであろう。魔王はその頼みを聞き入れてくれるのだった。こうして魔王の協力を取り付けることに成功した俺はさらにその国の軍事力を増強していき、とうとう世界を支配することに成功する。その世界の頂点となった俺だったが俺の心はまだ満たされなかった。俺の目的はあくまで全ての種族が平等の世界を作る為の行動だったからこそ俺はこの世界を真の平等世界に変える為にさらに動き続ける。そしてある日俺は遂に師匠に出会うことができた。

師匠は相変わらずイケメンでありとてもかっこいい。俺もかなり年を取ったのだろう。昔の面影を残しつつも今ではもうおじさんと言ってもいい見た目をしていた。しかし、それでも師匠の魅力が薄れることはなく、若い頃より魅力的になったようにも感じた。

「お久ぶりですね」「あぁそうだな」そうしてしばらく会話を続けていると俺はこの機会にこの人をこの世界に残していけないのではないかと思い、俺についてきて欲しいと伝えた。だが、残念ながら断られてしまった。俺がいくら説得しても無理だったので、その人の意見を尊重することにしたのである。俺はその人との話し合いを終えると俺が支配したその世界に別れを告げる。

その次の日、魔王は俺に対してこの世界を滅ぼせと提案してきた。しかし、その申し出を俺は断ってしまった。その理由は簡単である。この世界を滅ぼすことは師匠の願いに反する行為だからである。俺はそのことを伝えてこの世界に留まることを決意。そして俺は新たにこの世界に誕生したばかりの人間族をまとめ上げ、魔王軍に対抗するための組織である勇者協会を設立するのであった。俺はそんな俺の組織を「世界連合」と名付ける事にした。

世界連合を設立してから数年後、俺の元に世界連盟と名のった組織の発足の報告があった。世界連盟とはこの世界に住む全生物が対等の関係であるべきだという考えを元に結成された組織である。

俺はそれを承諾すると早速その組織のリーダーを任命する事に決めたのである。そして選ばれたリーダーこそが、俺が世界連盟を了承した際にこの世界から去ろうとした人物である佐藤一郎さんその人であった。俺は彼が自分の後継者であると思っていたので彼にこの世界を託したのである。そして、俺は世界連盟の発足に伴い魔王と協力関係を結ぶことにしたのだった。俺は魔王を自分の補佐にしようと考えたからである。魔王は自分一人で何でもできそうな雰囲気を醸し出していた。実際なんでも出来るのは確かなんだろうけど、だからこそ俺は誰かと協力して欲しいと思っているので魔王にその事を告げて協力を頼んだ。魔王はそれを受けて俺に協力してくれることになったのである。

そんな時、突然空が割れ始め俺は自分の目を疑った。その光景を俺は見た事があるような気がしたのである。そんな俺が思い出そうとしている時にそれは突如現れるのであった。それは俺がよく知っている人物。その人物は田中一樹という人であり俺の師匠の田中正蔵の実の孫であるのだ。俺はその姿を見ると同時に俺が今まで思い出せなかった記憶を全てを思い出す事になる。そして、そんな人物がいる世界を守るのは当たり前の事だと思うのであった。

「俺と一緒に戦ってはくれないだろうか?」俺はそう問いかけた。しかしそんな俺の言葉に彼女は首を横に振ってしまう。

そしてその人は俺にこう言ったのである。「君は勘違いをしているよ」俺は彼女の言っていることがわからなかった。一体何のことを言っているのかわからないからな。

「どういうことだ?」俺はその人の言葉を遮るようにしてそんな事を言ってしまったのである。俺は彼女に説明をさせようかとも考えたが俺から話を聞く気のない人に何を話したところで理解できないと思ったからな。

俺の問いに対しその人はこんな風に答えてくれた。

「君は私が君のことを思って忠告していたのにもかかわらずその私の提案を受け入れず魔王軍と手を組んでいるじゃないか?つまり君にはその資格がないと言っているのだよ」

俺にはこの言葉の意味が全くわからなかったが、とりあえず反論しておくことにしよう。

「確かにその言葉に間違いはない。だけどお前の言ってることにも納得はできないな。だって俺がもし魔王と組んでいたとしたら魔王の力が無ければ俺は魔王と手を組まなくてもいずれ世界連盟に殺される運命になっていたと思うんだよ。それなら最初から魔王と手を組んだ方がいいとは思わないかな。それと魔王軍がこの世界を攻めようとしている理由はただ単純に人間族の国を占領して支配下に置き、魔王軍の国を作ろうとしてるというだけであって別にこの世界を征服しようとか考えているわけではないはず。その点に関しては安心してほしい。俺も魔王軍の国を潰す事には賛同しているし、そのついでにこの世界を救おうとは思っているので、結果的に見れば俺のやってることが間違ってるとは俺は言い切れないんじゃないかと思っています」

俺のその話を聞いてその人はしばらく考え込んでしまう。俺はその間に少し質問することにした。まずは俺と師匠がこの世界に来て出会った時のことを尋ねたのである。その人によるとどうやらとっくに俺達の正体に気づいていたらしい。その上で黙っていたみたいだ。

その人が俺と会った時は俺がまだ幼い子供だったということもあって、この世界で生きるためには力が必要だろうとの判断で俺はあえて正体を隠させていたようだ。

次になぜ俺の手助けをしてくれたのかを訪ねたのである。するとその人は俺の目的を邪魔しないようにとのことだった。俺はこの人の目的を聞くことになる。その人の目的とはこの世界を本当の意味で平和にすることだったのだ。この世界の人間は平和ボケしすぎていると俺は思っていたがこの人も同じだった。俺はこの人が俺に協力してくれていた本当の理由を知る。俺はこの人の本当の力を目の当たりにしてしまった。そして俺は自分がまだまだ修行不足だと痛感するのである。この人と比べれば俺の【究極武人術】なんて大したものじゃない。その人も自分の強さには自信があるのかもしれない。しかしそれでも俺の方が上だとはっきりと断言できるのであった。俺はその人からこの世界に転生する際に得た【技能】を教えてもらうことにする。その【能力】の中には俺でも扱えるものがあるからだ。【神速】と【武聖剣】、この二つだ。俺はそれらの【技能】を手に入れるためこの人の弟子になることにしたのである。

その人から【神速】を教わった俺は、その人の前でその能力を実演してもらうことになった。その結果、その能力を習得することができたのである。これで俺はようやく師匠の足下くらいには近づけるようになったのではないだろうか。

俺達はお互いに戦う意志がないことを改めて確認した上でその人が仲間になるかどうか尋ねてくれた。俺はもちろん断る選択肢は存在しなかった。こうして俺は魔王の補佐官にしてこの世界の最高戦力の一人である最強の男であるその人の元で修業をすることになった。

俺はその人が魔王軍と戦う前に少しでも実力をつけておきたいと思い、その人と特訓を開始することにした。そして俺はその人の攻撃を避けることで必死になってその動きを学ぼうとする。しかしその攻撃を俺は回避しきることはできなかった。それでも俺が死なないようにと色々と考慮された上での攻撃だった。

その人は俺を殺すこと自体はいつでもできたが俺の事を鍛える為に殺すような真似だけは絶対にしないのであった。

そしてその日から俺は毎日ひたすら訓練を続ける。その人が俺に対して教えてくれる内容はどれも実戦でしか身につけられないようなものばかりで、本当に俺が強くなっているのかと疑いたくなるものばかりだったがその度にあの人が「確実に強くなっていっている」と俺が強くなると信じてくれていた。その事がとても嬉しいと俺は感じる。俺はもっと頑張ろうと思えるようになったのである。それからしばらくたったある日、俺の目の前に現れたのはあの人であった。そしてその人のおかげで俺はかなりの力を身につける事ができたのである。その人が魔王軍に勝つためにも俺は更に力をつけることにした。

俺はこの人と出会ってから色々な知識を学んだ。この世界に召喚される前はただの高校生に過ぎなかったがこの世界についての知識を得た俺は今ではかなり優秀な生徒になっているはずだ。俺はその人に言われた通りに俺のいた場所とは違う異世界から召喚されていたという事実を受け入れる事にした。

俺が自分の世界に戻る為にはまずはこの世界にいる魔族と呼ばれる存在を排除しなければならないのは明らかだった。

俺達はその後その世界からこの世界へとやってきた謎の人物について調べることになった。

その人物が一体どこの何者かを探る為に俺は行動を開始し、この世界に存在する組織をいくつも壊滅させて行くことになる。その過程で俺は、ある人物と出会う事になったのである。それはその人との話し合いを終えた後の帰り道に俺が立ち寄った喫茶店で偶然出会う事になった女性、それが美羽ちゃんであった。

その人と話し合いをした時に俺は俺の考えが正しいということを理解したんだ。俺はその人が言うように魔王軍を倒してしまえば俺の居た世界は滅びてしまうという可能性を考えていた。俺は、魔王を倒す事で俺の世界を救うことは出来るがそれは俺個人の問題に過ぎないという事も理解している。だから俺一人で全ての問題を解決させるのは厳しいと判断する他なかったのだ。俺の他にも協力を仰ぐ事ができる人はいないかと考えていた時、ちょうどよく美羽さんと出会った。そこで俺は美羽さんの協力を得ることに成功し、その人の計画を実行するのに必要なアイテムをもらう事に成功する。しかし俺は美羽さんからその人を紹介された際にある衝撃的な真実を聞かされることになる。なんとその人は俺の祖父である田中正蔵の孫だということがわかったのである。そしてその人は俺を驚かせようと思ったのだろうか。その人の口から発せられたその言葉によって俺は驚愕する事になったのである。

「君の祖父の孫であり、田中正蔵の孫である田中一郎は私の兄なんだ。君がこれから先この世界を守るのならば私達家族とも共に暮らして貰わなければならないと思っている。それに私は君が気に入ったしね。君は私よりも強いだろう?私より弱い者に君が守れるとは思えないし、君にはこの私と一緒に魔王を倒してほしいと思っている。その方が確実だと思っているのでな」俺はこの言葉を聞き自分の師匠である田中一樹さんの強さの真相を知って愕然としてしまった。俺がどれだけの期間努力しようとこの人に勝てる日が来る事は一生ないだろうと感じたのである。俺では師匠に追いつくことはできないのだろうと俺は悟ってしまったのだ。

そして俺は師匠と一緒に暮らすようになる。そして師匠と一緒に暮らす内に俺はその人の凄さを肌身を持って知るようになる。俺はこの人にいつか絶対勝ってやると意気込んでいたのであった。

俺の師であるその人はとにかく規格外の力を持っていた。

そんな人だからこそ魔王を倒せるんじゃないかと思う。

しかしいくら魔王を倒したとしても俺のいた世界にその人を連れて行けば俺がいた世界を破滅に導く原因になってしまうのは明らかである。しかし、俺には俺と同じ境遇の人を見捨てるような事はできない。俺はどうすればいいのかと考える日々が続く。俺は師匠にこの事を伝えようと決意するが結局俺は伝えられずじまいで、俺はこの世界を離れる事になった。その世界は今まさに魔王軍の手によって滅亡の危機を迎えていたからだ。俺はこの世界の人間達を守る義務が俺にはある。その責任から逃げてはいけないと思ったのである。俺はこの世界を守るために魔王と戦い魔王軍を壊滅させた。俺一人の力で成し遂げた訳ではないのだが、結果的に魔王軍を滅する事に成功した。しかしその魔王が復活しようとしていたのである。俺はその時になってようやく俺にはその人が言った言葉の意味を理解する事になる。その人の言葉が間違っていたのではなく正しいのだ。魔王を殺せば魔王軍を復活させる事ができなくなってしまう事をその人は知っていたからこそその人自身が魔王を殺さなかったのだ。魔王の力を無くす為だけに魔王を封印するという方法で。俺がその事を理解できていなかっただけなのである。俺はこの世界の人間を守るための行動を起こす事に決めた。俺にはまだやるべきことがある。俺は師匠の元へ帰るためにまずこの世界で俺の敵となった魔王の部下達を排除する事にしたのである。

俺は、自分がこの世界でやらなければならない事を全てやり終えたのを確認した後で元の世界へ戻ろうとする。しかし俺にはどうしても解決しなければならない問題があった。それは俺の両親と妹のことである。俺がいなくなったことで心配しているであろう家族達の事が俺は気掛かりで仕方がない。その問題を解決するために俺は再び異世界に旅立つことを決意した。しかし俺はこの時まだその人の正体に気がついておらずただ師匠に会いに行くつもりで異世界転移を行った。その結果俺の前に突然現れたのは師匠ではなく美羽ちゃんであった。

そしてその瞬間俺はこの世界で何が起きていたのかを知る。この世界に俺の両親がいて、その人達が俺の妹の誘拐をしようとしていることを美羽ちゃんに聞いた。その事を俺に伝えたかったが、美羽ちゃんと話す前になぜかその人が現れてしまったのである。その人は俺の家族と何か関係があるらしく俺はその人の命令に従い行動する事になった。

俺は、美羽さんの話を聞くと自分が今までしてきた行いの罪深さを感じる。俺と同じような人がもう既に俺以外にもいるというのにその人達に何も告げることなく俺は異世界に旅立ったからだ。俺は自分のした事の大きさに気づくと俺の胸の中に後悔と懺悔の気持ちが押し寄せてくる。俺は俺のせいで他の世界が大変な状況になっていることを知ってしまった。しかし俺はこのまま自分の世界にいても家族を人質に取られるだけだとわかり俺の家族を救うためにも俺は異世界へ向かう事に決める。そして俺は再びその人と再会を果たすことになるのだった。

俺は、師匠の頼みもあって仕方なく美羽ちゃんの家にしばらくの間居候することに決めた。そして俺はその人の命令で自分の力を上げるために【能力創造】という能力を使い【能力複製】という能力を手に入れたのである。そしてこの能力はコピーできる対象を選ぶことが可能だったために俺の両親の能力を奪うことになった。俺は両親を助ける為に能力を奪ったんだ。俺は俺の能力を使って、魔王軍の残党と戦うためこの世界に再び舞い戻る。俺は俺のような思いを誰にもさせたくないと思い俺は俺が守りたいと思う者達のために全力で戦うことにしたのである。そして俺はその人が俺の事を信用して頼ってくれている事に喜びを感じながら俺は俺にしかできないようなやり方で戦うことを決意するのだった。

私が勇者様と共に旅をしている間ずっと私の心の中には不安がつきまとっていた。私はあの人が好き、愛おしくて堪らないの。そして、私はこの想いを早く伝えたいという思いでいっぱいになるの。あの人は私と二人でいる時にこんな風に言ってくれた事がある。その言葉を聞いて私は嬉しさのあまり泣いてしまうほどだった。「僕だって美羽ちゃんの事を愛してるんだからね!だから絶対に僕は君を置いて何処かに消えてしまうようなことだけは絶対にしない。約束するよ」そうあの人は約束してくれた。私は絶対に忘れないと心に誓うようにその言葉を噛み締めるの。あの人と別れるのは絶対に嫌だから。

そういえば私達がこの世界に来た目的について少し話そうかしら。実は魔王は元々は普通の男性として生きていたのよね。魔王は自分よりも優秀な人が現れるまでは大人しくしていると言ってくれて、魔王城に住むようになってからは、毎日のように私を誘惑するような言動を取るようになっていったの。私はそんなあの人を受け入れることにしていたんだけど、その人は私の心を掴んで離そうとはしなかったわ。私はそんな魔王が嫌いになりかけていたのかもしれない、でもある時、そんな時、私の心の中を察したのか知らないけれどある提案をしてくれるようになるの。それが、魔王と人間との間で子供を産ませるというもの。最初はそれってどういう事?と思ったけどよく考えてみるとそれは悪い案ではなかったかもと思ったりしたの。なぜなら私の種族が人間じゃなくなる事によってもしかしたら人間の中に魔族の血を入れる事が出来るかも知れないと気付いたからだった。

俺が自分の家に帰ってくるとそこには母さんが待っていたかのように笑顔で出迎えてくれる。

「あなたお帰りなさい」俺はこのやりとりだけでとても幸せな気分になれていたのだ。

「ああただいま」俺は自分の部屋に入ると早速パソコンを立ち上げる。

俺がネットゲームをやる目的は二つあって、一つは暇潰しの為である。

もう一つは自分の好きなアニメキャラの声を当てた声優を調べるためである。俺が一番好きだったキャラの声を担当している人は女性だったんだがその人は今は別の仕事をしていてこの世には存在しない人だった。俺は、彼女の声を忘れないようにするため、そして、もう一度彼女に会う為にその人に合う為の手段を探そうとしたのだがその手がかりすらつかめなかった。俺の調べた範囲だと、どうやらその人は事故で亡くなっているようだ。しかし、事故で亡くなったと知ってもその人は人気の声優さんであったため、その人はたくさんのファンレターをもらっているようで俺もそれを読んでいく中で一つのファンレターにその人が亡くなった時に送られてきていたという手紙を見つけた。俺はそれを必死になって探しだし、読んでみることにした。

【 田中正蔵さんへ あなたの孫である田中一郎は、魔王を倒しましたか?私は魔王を倒してくれそうな人が貴方の孫以外にいないと思っています。しかし、貴方の孫は私の兄が転生した姿です。兄さんは今頃私の計画を実行するためのアイテムを私から受け取って、魔王を倒してくれています。どうか私の計画を実現させる為の力を貸して下さい。そして兄さんの計画が成功した暁には私はこの世界を平和にする為に兄さんと一緒に戦おうと思います。

その人の言っていることは信じられないがこの人が俺にこの情報を知らせてくれたのはきっと偶然ではないのだろうと思う。この人のおかげで俺はこの世界に帰ってこれたんだと思うと感謝の気持ちしか湧いてこない。俺はこの人に報いるために俺が出来ることを全てやっていこうと思う。この人には恩返しをしなければ、俺は俺ができる精一杯のことをしようと決めた。俺はこの人のためだけに生きていくと。そして、俺はこの世界に帰ってきた次の日から異世界に旅立って行く事になるのである。

俺はこの世界に戻って来てから、自分の身の周りに変化が生じている事に気づくことになる。俺がいなくなった後、美羽ちゃんは行方不明になっていたのだそうだ。俺がいなくなって美羽ちゃんの心の中は寂しいと感じていたのだろう。そしてそんな美羽ちゃんの前に現れたのは俺の母であった。美羽ちゃんはその人を田中美羽と名乗って俺の母親と仲良くなっていったのだと言う。俺には詳しい事は分からなかったが、二人はお互いに惹かれ合っていたみたいだ。俺にはその二人を引き裂く事などできなかったのである。俺は俺の母さんが生きているという事実を知った。そして俺は美羽ちゃんがどうしてその人と仲良くなったのかを知る事となる。俺の父である田中康雄が異世界に行っている事を聞かされたのだ。

俺の目の前にいるこの美羽ちゃんの本当の姿をしている美羽ちゃんは、この世界に戻ってきたばかりの俺を見て、まるで俺が戻って来ることを予期していたような口ぶりをしていたのだ。つまり俺が戻ってくる事を予め知っていたということ。俺がそのことを聞くと美羽さんはこの世界の事をある程度俺に話し始めるのである。

俺は異世界に旅立った時に師匠に渡された物を確認する事にした。俺が持っている物は師匠に渡された三つの道具と師匠の師匠が残したと言われている二つの道着、それとこの世界で使うために俺が作った剣だけである。

まずは師匠に貰った道具の確認をしてみる事にした。それは師匠の言っていた通りに指輪に形を変えるようになっていた。そして、その形状を変化させる事で様々な事が可能になるのだという事がわかった。俺が今回使用するのはまずこの世界に戻るために必要な転移門を出す事ができるようになっている。これはこの指輪の魔力で発動可能になっているらしい。次に俺がこの世界で活動する際に使う武器。その刀の名前は「無銘 零型」。師匠の師匠がこの世界で最強の剣士になるために作られたと言われている日本刀であり、俺が唯一持つ師匠に教えてもらった技が使える特別なものだ。そしてその鞘も俺専用の特別性である。

その次は美羽ちゃんから譲り受けることになったこの世界で生活をする為に使うものを確認しなければならない。

美羽ちゃんに確認してみたところそのアイテムの名は【収納袋】といい空間を操ることが出来る代物である。

この中に色々なものを収納する事が出来る優れものであるらしく美羽ちゃんはこれを旅のお供に使っていたという。美羽ちゃんの話では旅をする時には絶対に必要なものだったらしく、美羽ちゃんの荷物は全部この中に入っているらしい。俺はこの袋の中に色々と入ってないかを確かめた後俺はその袋の中に手を突っ込んでみた。

俺が取り出したいと思ったものは一瞬にして出てきたのだ。それはまるで俺の腕が四本くらい増えたかのような不思議な感覚だった。

俺はその袋を開けて中のものを一つ一つ見ていくことにした。すると中には大量の食べ物と服と防具、そして回復薬、あと俺の着替え一式が入っていたのである。俺がその中身を確認し終わった頃には日が沈んでしまっていた。そして、俺は俺の両親からの手紙を発見する。俺はその手紙を読む事にしたのである。そこには、こう書かれていた。

【 一悟、お父さんとお母さんはお前のことを待ってます。お前が無事かどうかを確かめるために一度会いに来ました。父さんと母さんももう年ですからね、そろそろあの世に旅立つ時期が近づき始めているんです。そしてその前に最後に一目でも息子であるお前の顔が見ておきたかった。そしてこの世界に来た目的はお前に渡すものがあるからだ。これを渡したらもう二度とここには帰ってこられないかもしれん。だけどこの手紙を読んでいるという事はおそらく美羽が一緒にいることだろう。その時に、その娘を幸せにしてやってくれ、それがお前がここに戻ってきた意味だからな。

追伸:父さん達の分身を置いていったからもし俺達に何かあった時にはそれを使って欲しい 父さんと母さんより 】

俺は両親の思いをしっかりと受け取りながらその言葉に従ってその封筒の裏面を見る事にした。そこには俺が予想もしていなかった内容が書かれていて思わず俺は動揺してしまった。そこにはこんな風に書かれていたのである。

【このアイテムは使用することで、使用者の意思とは関係なくこのアイテムを発動してしまう事があるかもしれない。このアイテムをこの世で扱えるのは恐らくこの世の誰よりも力がある人物だけだろう。

父さん達からはこの世界に来てすぐにこんな風に伝えられていたんだ。そして、その時から俺と母さんは覚悟を決めていた。そして、俺達は自分達の命を賭けてまでこれを残す事を決めたんだ。もしもの事があった場合、その力を行使出来る人物は俺達が知る限りだと、そのアイテムを使用することのできる人しか考えられないんだ。俺達がこの世に残されたのはそのアイテムの使い方を知っている人間がそのアイテムを使用しなければ意味がないってことなんだよね。俺はそんな予感を信じて美羽にそれを預ける。きっとその使い道を誤るようなことはしないって俺は信じてるよ。じゃあ、元気でな 父さん 】俺は、自分の親から託されたメッセージを読んで、自分がやらなければいけないことがはっきりと見えた気がした。そしてそれは今までで一番重要な仕事のような気がしたのだ。そして俺はこれから起こるであろう最悪の状況を想定し始めることにしていく。

その最悪の状況は、美羽さんの父親である佐藤健司が魔王を倒した後に、魔王軍側が俺の持っている能力に目をつけて俺を殺すように仕向けることだったのだ。そして俺が死ぬ事によってこの世界に何が起こるかと言うと、魔王軍は人間を滅ぼす為の作戦を実行できるという事である。つまり魔王軍と勇者による人間同士の戦争が起きるわけだ。

俺は、そうならない為に、そして、美羽ちゃんを守れるだけの力を持つ必要があった。その為には俺は強くならないといけない。そして俺が今持っている物の中で一番大切なのが、俺の作った剣である【無銘 弐型 改 極 】である。

この世界に存在するありとあらゆる物質にその特性を付与しているその武器の性能は、どんな敵にも通用できるように作られているためだ。

【この武器を使うとどうなるかは分からないがこの武器を使えば魔王すら殺すことができると思うぞ。まぁ俺の弟子であるお前にしか使うことができない代物だがな。俺が死んだら俺の息子にでも渡しておいてやれ。】

俺はこの師匠からもらったもう一つの贈り物である、【龍神王】の証をどうするかについて悩んでいた。この世界では俺が元いた世界で手に入れた全ての物が俺が異世界にいた事を示す証拠となってしまうのである。そうなると異世界に行った事を証明するためのアイテムが必要になる。俺はこの二つのアイテムが俺の証明として残る事を願いながらも俺はあることを考え始めたのである。そしてその考えは俺の想像通りであればうまくいくはずだったのだ。しかし俺は一つだけこの考えを間違えてしまう。それは俺の持つアイテムの中に、もう一つ強力な武器が存在したからである。

それは俺の持っていたスキルの『コピー&ペースト』である。俺のスキルはこの世界にいる誰かの技を習得するだけではなく、他人の技の発動条件や効果などを理解する事ができるようになるのだ。この能力を応用することで、相手の持っている技能や魔法などを自分のものにすることが出来るようになったのだ。

つまりこの世界で俺だけが使える特殊な技術を作り出すことも可能になるという事である。俺はその能力に目を付けて、俺の考えていた計画を実行したのである。俺はまず美羽ちゃんから貰った収納袋の中に入っていた俺の替えの洋服を着てその中を確認した。その中にはこの世界で活動するために必要な道具の数々が入っている事が確認出来た。その中を確認する事にした。その中に俺は師匠から教わった武術を練習するために作った人形を見つけたのだ。それはその世界で最高の素材を使って作り上げたもので俺の動きを完全に再現してくれる優れものであった。この世界で俺は最強になるつもりだったので、そのためには俺自身の戦闘能力を上げなければならなかったのだ。俺は俺自身がどこまで強くなることが出来るのか試したい気持ちになっていたのである。

俺はそれから三ヶ月という期間をかけて自分をひたすらに鍛え上げたのである。そして俺に新たな課題が生まれた。俺は美羽ちゃんから借りたこの世界で使う用の服の中にあったフード付きの外套を着込み、誰にも見つからないようにして行動したのだ。俺の行動は間違っていなかったらしく、俺の存在に気がつくものはいないようだった。そして俺は自分の実力がどれ程なのかを調べるために俺は冒険者ギルドへと赴くことにした。そしてそこで俺は運命の出会いをする事になる。俺はそこで、一人の女性と出会った。そして俺は彼女に一目で心を奪われたのである。

その女性は銀色の綺麗な髪を持った可愛らしい女の子であった。彼女は俺を見て驚いていたようだった。そして俺はこの世界に来てから初めて、この世界の言葉を発したのである。俺のその言葉は彼女にとって理解できなかったみたいだったが、それでもなんとか俺は自分の名前を伝えることが出来た。そしてその時に俺は思ったのである。「ああ、やっと俺の知っている人に会えたんだな」と。そして俺は彼女と話をしてみる事にした。彼女の名は、リシア。この世界の言葉では「白銀の女神」と呼ばれていた存在であるらしい。その容姿を見た時俺はそのあまりの神々しさと美しさに、女神というのにも納得していた。俺はリシアに頼みごとをすることにした。それはこの世界を救ってくれと頼むことである。最初はそんな事を聞いてくる俺のことを変に思っているような雰囲気を出していたのだが、それでも俺は何とか説得して協力を得ることに成功をした。これで俺はようやく俺の目的を遂行することができると確信したのである。その目的を果たす為、俺とリシアの二人は街を離れ旅に出たのだった。

この日、美羽は月乃を家に泊めることになった。

それは、勇者を仲間にすることに関しての話し合いが終わり解散をした後の帰り道のことだった。

家まであと少しのところに差し掛かったとき、急に強い雨が降り出してきて慌てて家の前まで走り出したのはいいものの、その途中にある水溜まりを勢いよく飛び越えた結果盛大にずっこけて膝を思いっきりすりむいてしまったのだった。

痛みが酷くてその場で動けなくなっていた時に、たまたま近くにいたリシアに偶然見つけてもらったという感じだった。

その時に、美羽は自分の傷の治療とこの世界の治癒魔法の使い手の人の力を借りるためという名目で、その日からしばらく、美羽は月乃を自宅に招待することになったのである。

その翌日、俺と美羽は一緒にこの国の中心に存在する王宮に来ていた。その王宮の玉座の間に俺と美羽は案内され、そして俺は王と王妃の前に立っていた。美羽とリシアと別れた後はこの二人から呼び出しを受けていたからである。そして、王様は、こう話し始めた。その内容はこうだ。魔王軍と戦うために、その勇者の力を使ってほしいという内容であった。俺はとりあえず断っておいた。そしてその会話の中で俺は、その報酬が欲しいといったら、国王が提示した額はあまりにも破格すぎる金額だったため驚いたものである。その額を貰える代わりに魔王を倒すまでは俺に協力するという条件を出した。すると今度は王様がかなり焦り始めてしまって、結局は王様の提案通りに魔王軍との戦いに協力させられる羽目になってしまったのだ。しかし俺は美羽ちゃんの父親と約束をしている以上、絶対に死ぬわけにはいかないのである。それに美羽ちゃんも死なせる訳には行かないしね。そして俺と美羽は城の中にある俺の自室に戻るとそこには美羽と俺が魔王と戦わなくてはならない理由を俺に伝えてくれたあの男の姿があった。その男は、この国の大臣の一人である。そして彼はこの王国における宰相のような仕事をしており、また美羽の世話係も兼ねている人物である。そんな彼の仕事場である部屋に俺はお邪魔している形なのだが、どうも美羽が彼に対して俺との距離感が近い事や、美羽の様子が普段と違っていたことが気に掛かっているようだった。

「それで?勇者様は私達とどのような関係を結びたいと?」

そう聞いてきた美羽にたいして、俺は正直に答えることにした。この人なら俺の話を信じてくれるだろうと思ったからである。そして俺と美羽ちゃんはこの国に召喚された勇者とこの世界に迷い込んでしまった異世界人だと、この事実を伝えて俺の持っている能力を開示することに決めることにした。俺の持つこの『コピー&ペースト』の能力について説明したところ、彼はとても驚いているようだったので、彼にも自分のステータスを確認してもらうことにした。そして、俺がこの能力を使った場合どうなるかということを試す事にしたのだ。俺はこの能力を使い『複製 弐型 改 極 』を自分の分身を作る能力としてコピーをしようとした。そして俺はそれを成功させてしまう。それはまさに神の奇跡のような瞬間であった。そして俺が作った俺と同じ見た目の人物が俺の前に立つことになる。その人物は美羽の方をチラ見しながら頬を引きつらせている様子で、俺を見てきたのだ。そんな俺達の様子を見ていたこの国の王は美羽に向かってこういったのだ。

【あなたが私の息子に恋慕の情を抱いていることは既に分かっています。ですが、あなたの思いは私達が許すことはできません。どうか私達に大人しく殺されてください】俺は、その発言を聞き、目の前に立っている男が俺だと分かった上でこんなことを言っていることに気がついてしまう。それはつまりこいつは俺を嵌めるためにこの発言をしたということであろうか。それともこの国は魔王軍と戦うつもりがなくこの場で俺たちを殺して口封じするつもりなのか。俺はどちらにせよ殺されるのだけは嫌だと考えたのでこの場で反撃を行うことにした。そしてこの男から奪い取って俺が所持をしていた【聖剣デュランダル 零式 】を起動し【龍神王】に変身を行ったのである。この状態で戦うことにより俺が元の世界に帰る方法を知っている可能性が生まれるはずだと考えたからだ。そしてこの状態になってしまえば俺の敵ではないと瞬時に判断ができたのですぐに戦闘は終了した。この国の兵士や使用人達が騒ぎ出す中俺はこの男のステータスを確認する事にしたのである。

【名前】

ルウナ=スコルタロス(偽名)

【年齢】

20 【レベル】

70 【ランクSSS 】

体力 3億 魔力 30万 攻撃 4500 防御 2900 敏捷 5000 ▲ L 職業 魔将軍/武闘士 属性 火 称号 勇者 備考 美羽に一目惚れをして求婚をしようとしている男性。美羽の父に気に入られていて美羽と結婚する事を望んでいる人物。実は美羽とは血が繋がっておらず義理の兄である。美羽は義理とはいえ自分にとって唯一の姉になる存在であり、その美しさに心を惹かれて結婚をしたいと思っているらしい。しかし美羽の父は美羽とルウナは結婚できないと、きっぱりと断ってしまったために現在ルウナは美羽を諦めるかどうかを悩み中。そしてこの世界で自分の力がどれ程のものなのかを知りたくなって旅に出た結果、この世界ではトップクラスの実力を誇る魔物を単独で倒し続けている。その強さの秘密はこの武器のおかげらしい。そして自分の持つスキルの中に自分が一番強いと思える力を発揮する事が出来る固有技能が存在しているようだ。

俺はその情報を見て驚愕したのだ。まさかこの世界でここまでの強さの力を持つ人間がいるという事に。そしてこのステータスをみた俺は、もし仮にこいつが魔王軍と手を組んでいたとしたら、確実にこの国は滅亡する可能性があるなと。そして俺にはこいつを倒すことはできるのだろうか。

そう考えた時、俺はこいつも味方にしてしまう事にしたのだった。

俺は今この国の王都にいる。この国が誇る最強の兵士と戦って勝つことができたら魔王を倒すのを手伝って欲しいと言われたので、俺は勝負をする事にしたのである。そして、その勝負の相手はというと、なんとこの国でも有名な勇者の一人である「リシア」であった。

彼女はこの国の騎士団の中でも屈指の実力者として知られている。

彼女は銀髪をしていてその瞳の色は綺麗な青紫色だ。身長はかなり高く180近くあり、女性の中では高いほうだと思う。そして体付きは細くしなやかな印象を持つが、筋肉が引き締まっているのは分かる程度に鍛えられていた。彼女の装備しているものは白銀で作られたような鎧である。それはまるで女神のようであり彼女の美しい銀髪ともマッチしているように思う。しかし彼女の顔はとても整っていて、そしてとても美しかった。そんな彼女の表情は真剣そのものといったところであった。そして俺とリシアの試合は始まる。

試合が始まると同時に俺は先手必勝だとばかりに攻撃を仕掛けた。俺が持つ剣を彼女目掛けて振るったのだ。しかしその攻撃を難なく避けられてしまったのである。だがこれは予想通りの展開だ。むしろこうでなければ面白くないとすら思えてしまうほどである。なぜなら俺が持っている能力には全ての攻撃が命中しなくなる『命中率低下II 』が存在するからである。このスキルが有れば相手の防御力が高いとしても関係ないためこの展開は非常に都合がいいといえる。俺はそう考えながらも連続で斬撃を繰り出すのだった。しかしやはり当たらない。

そこで俺が取った行動は魔法を使う事にしたのだ。俺は『コピー&ペースト 』を使い魔法の詠唱文を覚えるとそれをリシアの足下に撃ち出した。するとリシアは俺がいきなり魔法を撃ち出した事に驚いた顔をして反応が遅れたために魔法の直撃を受けたのだった。しかし彼女は咄嵯に盾でガードをしたようで大怪我はしていない様子であった。しかしダメージはあるらしくその体は所々に傷を負っていた。俺は彼女が傷だらけの状態でいるにも関わらず容赦無く魔法を発動した。『アイスニードル 』を俺は放ったのである。その数は100本以上にも及ぶ。この攻撃は普通であれば避けたりして対処することは可能であるが今回は違う。何故なら俺はその全てを同時に発動したのである。

『アイスストーム 』を俺は唱えてリシアに向かって放つことにした。『ライトニングスパーク 』を俺は使い、リシアに電撃を浴びせる事にする。

しかし俺の予想外にも、その全ての攻撃を避けるか防ぐかのどちらかで対処されてしまう。ただ一つ分かったのが俺が放ったすべての技に対してリシアは全て完璧に対応していた。しかしそれは、あくまでも普通の人間ならばという条件付きの話なのだ。この国でトップレベルの戦闘能力を持っていると言われているリシアであってもそれは不可能なことであったのだ。だから俺はここで更に強力な技を使ってみる事にしたのだった。そして俺はある技を使おうとした。俺は【コピー&ペースト 】を使い【雷電の型 壱式 極 】を使いこの世界に存在する「気 」というものを使った「気弾砲」を放つことにする。

俺が【聖剣デュランダル】を右手で構えてから【聖拳】を使った後に【光纏衣 参式】を自分に掛けることによって身体能力が格段に上昇する。

俺がそんな事を行っている間に、流石の彼女も焦りを感じたのか、先程よりも必死な感じになっている気がする。それでもまだ余裕があるみたいだけどね。

そして俺はリシアに向けて『波動砲 』を放った。その威力は想像を絶するものであり、そして俺もこんな事が起きるとは思いもしなかったのだ。それはまさに衝撃波という言葉が一番正しいのかもしれない。そして俺の一撃を食らったリシアは後方に吹き飛ばされてしまう。俺は追撃するために直ぐに『サンダーブレイク 』を俺は彼女にぶつける。この一撃によりリシアの意識を奪うことが出来たと思う。そして俺は【超回復】を彼女に使った。それによってリシアは一瞬にして目を覚ましたのだ。その光景を見た俺が、驚きながら見ているとリシアはすぐに立ち上がったのであった。

この事から考えるに俺はリシアを侮ってはいけないのかもしれないと考えるようになっていた。この世界のトップクラスに強いとされている勇者なのだから、その実力が相当なものなのは当たり前のことであろう。俺だってこの世界にきてそんなに強くなったわけではないのだし。そんなことを考えていると、どうやら向こうの方からも何かを言ってきたようである。

【貴様のような人間が勇者とはどういうことなのか。勇者は魔王を倒すことが出来る存在だと昔から決まっている。なのに貴様にはそれが出来ないではないか】彼女はその言葉を言い終えた直後、突然と姿が消えたかと思えば、既に目の前まで来ており剣を振りかざしていたのである。しかしそれは、俺にとって非常に遅い攻撃だったために簡単に避けられるはずではあった。しかし何故か身体の反応がいつも以上に遅かったのである。俺は攻撃を回避できないと判断したので仕方なく持っていた【聖剣デュランダル】を左手に持ち替えて受け止めることにしたのだ。その事により【聖剣】は砕けてしまい俺自身も衝撃で後方へ吹き飛ぶ事になった。その結果地面に叩きつけられ全身に激しい痛みが走ることになったのである。

(これはどういうことだ。今までに受けたこともないほど強烈な攻撃が俺を襲ったんだぞ。それに今のは間違いなく全力の斬撃だったはずだ。それでこの程度のダメージを受けたということなのか? もし仮にそうならこの世界の頂点に立つといわれている奴はどれ程の強さだということになる。まさかこれほどの力を持っていて尚且つ、まだ力を隠しているという可能性もあり得るな。もしそうだとすればこの戦いを終わらせるためには本気で挑まなければいけないということになっていくな)

そう考えてから【鑑定解析】を使いリシアの状態を確認してみると俺は思わず驚愕した。

なんと俺の目に映っていた文字は【魔将勇者 】というものだったからだ。つまり、この国の勇者の称号ではなく魔王軍の将軍の称号が付いてしまっているというわけである。そしてこの称号をみるとこのリシアという人物は元からこの国に所属しているのではなく魔王軍に所属する存在であることが分かる。俺はそんな勇者の実力を目の当たりにしたことにより、自分の中にあった魔王を倒したいという思いがどんどん強くなっている事に気づくのだった。

(こいつは強い!そして魔王軍を敵に回すということは、それと同等もしくはそれ以上の存在と戦う事になる可能性が高いという事だよな。俺には絶対に無理だろ、これ)俺は心の中でそんな事を考えてしまっていた。しかしこのままだと本当に殺られてしまうと思った俺は覚悟を決めて戦いに集中することにしたのである。そしてリシアは、さっきと同じ攻撃の動作をしようとしていた。俺は攻撃を受けるのだけは嫌だと思い、【神眼】を発動することにした。そして攻撃の軌道を事前に見ることに成功する。そして、俺はギリギリで攻撃を紙一重で避けることに成功したのだ。その後俺と彼女の距離は離れることになり、そして仕切り直しになることになった。だが彼女の動きを見て俺は確信してしまったのである。彼女の持つ剣には特殊なスキルが備わっている事を。それは俺のスキルで確認できたためだ。

彼女の持つ武器の特殊能力はこの世界ではかなり珍しい武器になるらしいのだ。俺が持つスキルの中にはこの世界では存在しないと思われるものもあるらしいがな。その武器の名前は『神刀』というらしい。そして俺の持つスキルの一つに武器の能力を調べるという能力が存在している。だから今俺の目で見ている彼女の武器がどんな能力を持ち合わせていて、そしてどのくらいのレアリティを持つ物なのかというのが全て分かるようになっているのだ。そしてその能力は『全属性攻撃』というもので全ての魔法属性を持つ攻撃ができるというものだ。ただし魔力が切れてしまえば、それまでではあるがな。

「貴方、私と互角に戦うことができるのですか?」リシアは少し驚いた様子で俺に聞いてきたのである。

そして俺はそんな彼女の問いかけに対して返事をすることに決める。

まず俺が思った事は、こいつ俺を殺す気満々じゃないのってことだった。しかしそれは間違いないのだと思う。

なぜなら彼女は、今もなお俺を殺しにかかるつもりだということが分かってしまうのだ。なぜなら、彼女の目はまるで狩人のように鋭く俺の事を見据えて逃がすような真似をすることはないだろうと思えるほどだったからである。だからこそ俺もそのように対応することにした。この場で戦える者は、恐らくこのリシアしかいないと判断できるしな。

「それはお前も同じじゃないか?」俺はそう言ってみた。すると、その答えは俺の予想外のものであった。

【私は貴様が気に入ったので殺すことは止めただけだ。だが、これからも貴様が抵抗するというのであれば殺しますよ】と彼女が言ったのであった。

そう言うなり彼女の姿が再び消え去ったのである。

俺は彼女が攻撃を仕掛けてくると直感的に察知した。なぜなら、リシアの視線が明らかに先程の俺を捉える鋭いものへと変わったのだから。だから俺は【気配感知】を常に使うことにして回避することに専念しようと思ったのである。

俺の予感は的中したようだ。俺目掛け振りかざされた攻撃に対して【聖槍】を使ったのだ。俺が攻撃を避けた後でも、彼女からの攻撃が止まることは無かった。しかし、この攻撃はそこまで大したものでは無かったので、特に問題無く防ぐことが出来てしまったのだった。

その後も何度か同じ様な攻撃が続いていたが、流石にもう見慣れてきたせいか余裕を持って避ける事が出来てしまっている。なのでそろそろ決着を付ける事にするのだった。【聖剣デュランダル】を俺が右手に持つと、彼女は俺に対して何かをしてくると予測したらしく俺が剣を構えると同時に仕掛けてこようとしていた。

俺もそれに合わせるようにして【聖剣デュランダル】に雷のオーラを纏わせると、そのままリシアに向けて攻撃を放った。その技は『雷光閃 』という名前が付けられている技であり、【雷纏衣 参式】と【雷光閃 】を合わせた攻撃で雷光と雷を融合させ、それを一気に相手に解き放つ技である。その雷の威力が半端ないために相手はその雷を喰らうことで身体が硬直してしまう上に雷で感電するため動けなくなるのである。しかも俺の場合は【光纏衣 】を使っているために痺れることも無い。つまり実質最強と言える一撃だと思っている。しかし彼女にとっては最強の一撃であっても俺にとってはそこまで驚異ではないのだ。何故なら俺には彼女を上回る攻撃力を持っているし、そして彼女には弱点があるからだ。それが分かっているので俺の余裕が消えたりはしないのである。

俺は攻撃を放っても直ぐには動かない。というのも【聖剣デュランダル】で攻撃をしている間は、【聖拳】による強化状態は継続したままなのだ。そのため俺の動きは、通常状態の何倍も速く動く事が出来るのである。

俺とリシアが放った攻撃はぶつかり合い爆発を起こした。

その結果、爆風が俺とリシアを吹き飛ばす事になったのだが、その爆風を利用してリシアに近づいたのである。その際リシアが【光纏衣 】を使って防御していた。その瞬間を俺が見逃すことは無い。

俺は一瞬にして間合いを詰めると【聖魔天断 】を彼女にぶつけた。しかしそれは当たる直前に避けられてしまう。どうやらリシアの方にも何らかのスキルが存在していたようである。しかしその効果時間が短いのか、すぐにリシアは再び俺に向かって斬りかかってきたのだった。俺もそれに合わせて攻撃を仕掛ける事にする。

俺が【雷速】を使いリシアとの距離を縮めてから攻撃しようとした。すると、突然彼女の持っていた剣の刃部分が俺の腹を貫こうとしていたのである。俺は驚きながらも【転移】を使うことによって、なんとか致命傷を回避することに成功したのである。

(あれが彼女の持っている剣の力というわけか。どうやら彼女はこの剣にかなり頼り切っている感じが見受けられる。まぁそれも当然といえば当然なのかもしれないけどな。だってこの世界の剣はあくまでも武器というだけで、この世界の人々からすればただの棒切れのようなものなんだから。この剣は特別な剣でその所有者の実力次第では魔王軍ですら滅ぼせるという言い伝えもあるみたいだし。それほど強力な代物というわけだろう)

そんなことを心の中で考えていたら、俺に突き刺さろうとした剣がそのまま俺の横を通り抜けて俺の背後に存在していた岩を破壊したのだ。

(あの攻撃を外させるとは、これは結構ヤバい気がしてきたな)俺はそう思いながらも、【神眼】でリシアの状態を確認した。その結果は『聖剣使い レベル2』というものになっていたのである。それを見て俺は少し驚く。このスキルは恐らくこの国に所属する全ての者が所有できる可能性があるスキルだった。だからこそリシアはこの国の王になれるほどの力を持っているということになる。俺は【神眼】でそのスキルの詳細を確認する。そのスキルは『武器熟練者 』というものだった。このスキルには二種類の使い方があり、一つ目はそのスキルを持った武器をどれだけうまく扱う事ができるかという能力だ。このスキルの恐ろしいところは、例え相手がどんなに強い武器を持っていたとしても上手く扱う事ができれば勝つことが出来るということにある。

そしてもう一つの能力こそが重要なのだ。このスキルは相手の武器を奪い取ることができるという能力である。そして奪い取った後は自分のものとして扱えるという事だった。ただしこの効果は自分よりレベルの低い存在にしか使うことができないのである。その理由としては奪うという行為を行う為の難易度が高すぎるというのが原因だと言われている。ちなみにだが俺が今現在持っている【真なる加護 】と、もう一つ俺が習得する事が出来た新たなる加護の二つを使えばその条件は満たす事が可能なため試してみる価値はあると考えている。しかし、それでもまだ難しい部分が残るため俺はもう少し時間をかけることに決める。そして俺の持つ【聖剣デュランダル】には【聖魔吸収】というものが付いているためリシアの持つスキルの効果を受け付けることは絶対にないのだ。だからリシアがいくらこの剣を使おうが、【聖魔吸収 】により剣の能力は全て無くなるため意味が無いことになる。それにもし俺が【聖魔吸収】を使わなくても、リシアは【聖魔攻撃無効】の加護を所有しているのでこの剣での攻撃が俺を傷つけることなど出来ないのであった。

俺が色々考えているうちにも彼女はどんどん攻撃の手を休めることなく俺に攻撃を繰り出していた。だがその動きに俺はだんだんと慣れてきていて余裕が生まれ始めていた。そしてそのおかげもあって彼女の持つ能力についても理解することができ始めたのである。彼女の持つ能力は【勇者】というスキルで、その効果は自分の持つスキルを強化して、更にはスキルのレベルまで上げることができるというものだった。だから彼女のスキルはかなり高いレベルで発動されており、その効果が俺の【全耐性 】という能力を一時的に打ち消したのだと思う。俺が持つ能力の一つである【絶対回避 】という能力が発動した時は、彼女の持つ『神刀』の特殊能力を一時的に無効化することが出来たようだったが、今のリシアは【勇者】の効果で全てのスキルが強化されている状態だったのだろう。そう考えれば【聖剣デュランダル】の攻撃を受けて彼女が無傷だった理由は納得がいく。

俺は彼女からの攻撃を受け流すと同時に、そのまま彼女から距離を取る事にしたのである。するとリシアは少し驚いたような顔をしたが、特に慌てる様子を見せることは無かった。

俺はこのままだとラチが明かないと思い勝負に出ることにした。俺は【縮地 】を使うと一瞬にして彼女の目の前に移動したのである。そしてその攻撃はリシアに防がれてしまい【聖魔攻撃無効】の恩恵を受けた攻撃は一切俺にダメージを与えることができなかったのである。俺は一旦離れると【魔力視】を使い彼女の身体に巡っているオーラを見る事にした。すると、やはり予想通りの事が起こっていることがわかったのである。彼女の身体を覆うオーラの中には二つの異なるオーラが存在したのである。そのオーラは俺の見間違いでなければ、一つは俺が【神眼】を通して見ているものと同じオーラ。もう一個はその反対である全く違うものなのだ。

俺はそのことを疑問に持つとリシアに尋ねてみることにした。彼女は自分が【光魔術】と【聖剣術】の複合技である【光聖斬】を使ったのだと自慢げに答えたのである。俺の推測は当たりで【光魔術】による光を纏った【聖剣デュランダル】で相手を切り裂く事で光によるダメージを与えられるのは勿論の事、聖属性の魔力が付与された【聖剣デュランダル】の攻撃を喰らうことで【聖属性耐性】をも持っている敵ですらかなりのダメージを受けるらしいのだ。それはつまり彼女が俺に攻撃を当てるためには、この剣で俺を斬りつけなければならないという事を意味していて、その行為は【光聖攻撃無効】を持っている彼女には無意味だという事にもなる。俺が【神眼】を持っていると分かっているにも関わらず、わざわざ説明をしてくれたリシアは親切なのかもしれない。しかしそれが俺にヒントを与えることになるとは思っていなかったであろう。

【光聖斬】でリシアの意識は俺に集中しているはずだ。だから俺はその間にある準備をすることにした。その用意している間は彼女に攻撃をすることが出来ない。何故なら攻撃すれば確実に俺の存在に気付かれてしまうからだ。しかし俺はそのタイミングを待っている間に、彼女は既に俺に対して仕掛けてきた。その攻撃は今までの剣戟とは違い、剣を縦に大きく振り下ろしてからそのまま横に切り払う攻撃だった。その技の名は【瞬撃】という技であり、攻撃範囲が広いのが特徴だ。俺の予想では【光聖斬】で俺に一撃を与えた後で俺の隙を狙っていたのだと思う。しかし彼女の【聖剣デュランダル】には【神刀】のように俺に対して有効な攻撃方法は無い。そして彼女も俺の事を甘く見ていたのだろう。【聖剣デュランダル】の刃が届く範囲は狭く、それ故に【聖剣デュランダル】で攻撃してもあまりダメージが与えられないことを理解していなかったのかもしれない。【光聖斬】は確かに強い一撃だが、【聖魔吸収】によって無に帰してしまう。そうすれば彼女に与えられるのは【魔力放出 】による攻撃だけである。

【光聖斬】が【光魔攻撃無効】によって威力が弱まった状態で放たれたので、その攻撃を俺は避ける事が出来た。そして【魔力放出】によってリシアを殴り飛ばしたのである。その瞬間リシアが俺を目掛けて攻撃を仕掛けてきたが【聖魔攻撃吸収】が彼女の攻撃を吸収し、彼女の放った全ての攻撃の攻撃力を全て吸収することに成功した。

リシアは悔しそうな表情をしていた。

それは俺が自分の攻撃が全く効いていない事に驚いているようにも見えた。

「どうして? 私は貴方のスキルによって何もダメージを与える事ができないのよ?」

彼女の口からそんな言葉が漏れ出す。

(そりゃあそうだろ。お前の使っている武器がただの棒切れだって言うことを俺は知っているからな)

俺はそう思うと、彼女は俺の言葉の意味を理解する事はできなかったようで少しだけ困惑気味だった。

「な、何を言っているのですか。わ、私の武器はこの国でも最高レベルの性能を誇っているはずです。そんな棒切れと同じような扱いを受けるなんてあり得ません」

彼女の口から出たそんな声が聞こえてくる。

(やっぱり自分の剣に絶対的な自信があったんだな)

俺はその言葉を聞いて少し感心していた。

だがまぁ今は俺の持っているこの剣にどれだけの能力があるのかを教えるために、あえて俺に勝たせてあげている状況だと言えるので、その期待に応えられるようにするべきだとも考えていた。そこで俺は【聖魔融合】を使いデュランダルを聖魔剣へと変えてリシアに向かって攻撃を仕掛ける事にした。俺は【聖魔剣化】を使う事はできないのだが、デュランダルを聖魔剣にする事ができるのだ。

俺はデュランダルを振りかざすと、その刃が徐々に輝き始める。リシアは俺の行動を警戒するようにこちらを見つめていた。そして俺はデュランダルを振ろうとしたその時、俺は【縮地】を使ってリシアの目の前まで移動して思いっきり彼女を蹴飛ばしてしまった。その蹴りを受けたリシアは後方にあった大きな岩に叩きつけられると、岩に大きな亀裂が入る程の力を受けていた。俺は彼女の元に移動するとそのまま彼女の顔のすぐ近くの地面を思いっきり殴ったのだ。そして地面に大穴を開けると、彼女の耳元で小さな声で囁くのだった。

「これでわかっただろ?俺の持つ力には勝てないって事さ。だからこの国の王になりたいだか何だかを俺に言って来るなよ。俺は別に王になんかなる気はさらっさらない。俺のこの力を有効に使う事の方が優先なんだから。それと俺の加護の力についても言わないように頼むぞ。その方がお互いにいい関係を築けると思うしさ」

俺の言葉を聞いたリシアは何が何やら分からないというような様子を見せていたが、俺がその場から離れようとした時に声を掛けて来たのである。

「待ってくれ!貴殿は本当に私達の国に手を出さないつもりなのか!?」

彼女は真剣な瞳で俺をじっと見据えている。俺は少しの間考えた結果、この場は彼女の質問に答えることにした。そして俺の言葉は彼女の予想外のものであったらしい。

「俺は面倒ごとが嫌いだからね。特に人間同士で争う事については極力避けたいと考えているんだよ。勿論君らがこの大陸から去れば俺もこの国から姿を消すことになるけどね。あと一応忠告しとくがもし俺の仲間に手を出した場合、その時には容赦なく殺すことになるから覚悟しておけよ。それだけは忘れないでくれ」

俺はその言葉で彼女に言いたいことは全部伝えた。そしてこれ以上話すことはないと判断した俺は【隠密】の能力を再度使うと、その場から消え去ったのであった。

◆ リシアが【勇者】という能力に目覚めてより約三ヶ月程が経とうとしていた。彼女は毎日の様に【神聖教会】の聖騎士達から剣術を学び続け、今ではかなりの腕前となっていた。聖騎士の中には【聖剣術】と【神術】を扱える者もいたので、リシアは聖騎士の人達からも学ぶことができた。そして【光魔術】をある程度使える様になってからも【聖剣】を扱う事について聖女アリサから指導も受けていたのである。

【神速治癒】で身体の怪我を完治させた後で聖剣の手入れを行うと、その聖剣を【勇者】が持つ特殊能力の一つ『収納』にしまった。

「よし今日はこれで終わりにしようかな。そろそろ夕食の準備をしないといけない時間になったのだし、また【神聖教会】から誰かが派遣されてきてしまうと大変だからな。はぁ〜それにしても聖女さんも随分しつこいよね。こんな田舎に聖騎士団を派遣するくらいに人材が不足しているという事なのかもしれないけれど。でも聖女の人よりも、もっと良い聖騎士団の人はいくらでもいるでしょうにねぇ〜」

リシアは大きなため息を吐きながら聖騎士の訓練施設を後にすると、街の中心に存在する巨大な屋敷へと向かうのだった。聖女と呼ばれる少女はそのリシアの姿を建物の陰でこっそりと見守ると、すぐにどこかへ立ち去って行くのだった。その様子を【神眼】で見ていたリシアは首を傾げていたが、「もしかしたら何かの用事でここに来たついでに私を見ていただけかもしれないわね。うん。多分そうだ」そう呟くのだった。

【神眼】の力でこの世界のほとんどの物が見えるようになっていたリシアだったが、それでも【光魔術】と【聖剣術】だけは上手く扱うことができないでいた。【光魔術】の使い道として、光を放つ魔法弾を撃ち出す以外に出来ることと言えば光の剣を作り出すことだった。これは光属性の魔力が物質化したような剣を生み出す技で攻撃力も高いものだったのだ。そして光魔術の【聖剣術】の方に関しては【光魔剣】という技が発動できるが、その威力は微々たるものであり、相手にダメージを与えることが出来るのかどうかすら疑わしい代物であると言えた。そのせいもあって、彼女は聖属性の【光魔剣】以外の技を身に付けようと思っていたのだ。聖属性の技ならまだ習得することができる可能性があった。しかし【光魔】は聖属性の攻撃では無効化されてしまう為、攻撃に応用する事ができないのだ。

そしてリシアがこの街に来て既に数ヶ月が経過していた。その間彼女は様々な場所を訪れては自分の強さを証明する為に戦っていた。それは聖都で行われる【剣聖祭】に出場して【剣豪】の称号を手に入れたいという理由が一番大きかったが、それ以外の場所でもリシアの知名度は上がりつつあった。その実力が証明されると、リシアの元には多くの人が集まり始めたのである。

「おい見ろよ。あの子が今巷で噂の剣姫だぜ。確か【剣聖】を目指して旅をしているという話だったよな。でも【聖剣士】でもないのにどうやって【剣聖】になるつもりなんだろうな」そんな言葉を口にした冒険者は、目の前のリシアの姿を見ながら疑問に思っていた。リシアが【光魔剣】の技を使っているのは分かっていたのだが、何故だか聖魔剣を使わず聖魔剣の力を使わないまま戦う姿に少し違和感を感じていたのである。そしてリシアは相手の攻撃を全て回避し続けていたのだ。それもまるで相手の動きを読んでいるかのように最小限の行動で攻撃を紙一重で避ける事に長じているのだ。そんな彼女を見て、ある者が口を開いた。「まさかとは思うが【聖剣士】の力を使った戦いをしていないのか?いやでも【聖剣】を使っていないところを見るとそれはないよな。一体どういう事なんだ?あんな綺麗な動きをしてる奴なのに、何故か違和感を感じる。普通はあそこまで完璧には避ける事が出来ないはずだ。しかも全く攻撃を受けようとしないし」そう口にしたのはBランクの冒険者であったが、リシアの事をよく知らない人物からすればその違和感は拭いきれないものでしかなかった。そして【勇者】リシアの噂が瞬く間に広がっていった事により、人々は【聖剣士】のリシアではなく普通のリシアに注目し始めていく事となる。そしてそんな彼女が【剣聖】を目指しているという噂は更に広まっていき、多くの人々が彼女に期待を抱くようになっていった。

そんなある時、リシアの元へ【神聖教会】の者が訪れる事になる。その男は見た目からして神官のような恰好をしており、全身から清らかさを感じさせるオーラを放っていた。リシアもその男の姿を見て思わず目を逸らしてしまった程である。リシアがその男を苦手としている理由はただ単に男が美男子だからというわけではなかったのだ。というのも彼は聖女と呼ばれている存在の傍に仕えており、聖女に対して異常なまでに愛情を抱いている変態なのだ。

そしてこの国の国王であるジークリッヒの【聖魔剣王】の称号を奪い取った張本人でもあった。そしてその称号を持つ者が【勇者】と【聖剣士】の称号を持った者を嫁にする約束をしたとか何とかという話が国中に広まったのはリシアがこの国に訪れた頃のことであった。それが原因で多くの男性達が彼女に好意を持ち始めていたのだ。その話を耳にしていた男はリシアの前に姿を見せてこう言った。

「貴殿は【聖魔剣王】様と結婚するというお話になっていると聞き及んでおります。もしよろしければ私がお相手を務めさせて頂くというのはいかがでしょうか?」

この言葉に周囲はざわめき始めた。この世界において聖女の相手を男性が務めようとすると求婚をするという意味に捉えられるため、それを堂々と告げる事が出来るこの人物は相当強いのであろう。リシアの脳裏には「どうするんだろうなぁこの人」という言葉が浮かんでいた。しかしその言葉とは裏腹に彼女の心の中では別の感情が生まれつつある。この目の前の人物に興味が湧いて来てしまったのだ。その気持ちを抑えることができず、彼女はこの提案に了承したのであった。

◆ それからリシアが聖女アリサと共に王城に足を運んでみると、そこには大勢の人々が待ち構えていた。

「よく来たな【勇者】リシア。それにしても【剣王】が【勇者】と結婚する事になったらしいな。私としては少し複雑な気分だ。【剣豪】の称号がこの国に誕生したのだから嬉しい事に変わりはないんだけどな。そして【剣聖】ももうじき誕生する事になりそうだな」

「私も貴方と【剣聖】の称号を手に入れる事を目標にしていますのでお互い頑張りましょうね。それで私をここに呼んだ理由について教えて貰っても宜しいですか?正直な事を言えば、私は今日聖騎士の人達から剣を教えて貰おうと思ってここを訪れたのです。ですが今日は聖騎士の方々が一人もいませんでした。その理由を知りたいんです」

「ふむ、その事については私にもさっぱり分からないな。何かあったのかもしれんが。それにしても貴殿は中々面白い考えを持っているのだな。聖騎士達に教わるよりも聖剣の使い方を覚えれば早いのではないか?まぁその話はいい。本題に移らせてもらおう。今日は私の息子の嫁について話をしようと思って呼び出したのだ。【勇者】リシア、君が我が息子の妻に相応しい女性だと思えるのであれば、君と【聖剣】の契約をしようではないか。聖女アリサから話を聞いた限りでは君は非常に強く、将来が楽しみらしいからな。君の様な美しい女性が妻になればきっとあの子は幸せだろう。そう思ったまでだよ」そう言うと王はにっこりと笑みを浮かべた。そして王が右手を高々と挙げると周囲に待機していた者達は一斉に片膝を突いて頭を垂れると、リシアに向かって敬意を表したのである。その様子を見て聖女も慌てて頭を下げていた。

こうしてこの瞬間から聖女と【聖剣】との繋がりが出来上がってしまったのだ。その証拠に聖剣の【光魔剣】の能力を扱えるようになっていたのだ。だがその事を知らない聖女と王にとっては、突如現れた謎の存在が聖剣を扱う能力を得たというだけに過ぎなかった。しかしそれでも二人にとって大きな意味を持つ結果になった事は事実であり、それは今後の人生に大きく影響を及ぼす出来事だった。その事をリシアも理解はしていたが、自分の人生が大きく変わってしまう程の事になるとまでは思っていなかったのだ。

リシアは【聖剣】を使えるようになった事をきっかけに【神聖教会】の聖騎士団から声がかかる事が多くなっていた。そしてある日突然聖騎士団の人達が街を訪れるようになり、リシアを聖騎士の訓練に参加させたいと申し出たのだった。最初は断るつもりでいたのだが、「是非とも我々と手合わせをして頂きたい」と言われたので、試しに手合わせを行ってみることにしたのである。

そして訓練に参加した事で聖騎士団のレベルが高いことがリシアにもすぐに分かった。リシアがこの国に来た頃に比べてかなりレベルが高くなっている。それだけではない。聖剣を所持している者がいるのだ。これはかなり凄いことである。なぜならリシアはこれまで様々な武器を手に取ってきたが、その全てを自在に操ることが出来ていた。つまりその武器達の性能を引き出すことができているということになるのだ。そのリシアが今まで扱ってきた全ての武器を上手く扱うことが出来るというだけでかなりの実力者であると言えるのだ。聖女の護衛として聖騎士団に所属しているだけあり、聖女を守る力に関しては申し分なかったのである。そして何より驚くべき点はその聖属性の力だ。聖女ほどではないが、それでも相当な聖属性の強さを持っていた。

そのせいもあってかリシアは聖剣を使う聖女たちと戦ってみて、自分が聖属性の力に頼りすぎていたことを理解したのである。そこで聖女はリシアに一つの課題を出した。それが「聖剣を使わずに、純粋な剣術のみで勝負をしてみる」というものだった。これを聞いた時リシアはすぐにその意味が理解できた。それは聖女の力が自分よりも圧倒的に高い事が分かったからだ。聖剣を使った聖女たちの戦いぶりを見て、自分もあれほどの力を使えたらどれだけ戦いが楽になるだろうかと思ったが故にリシアは素直に受け入れる事にしたのである。

その結果リシアは負けはしなかったものの勝つこともできなかった。そもそも相手が悪い。何故なら相手が使う聖剣は全て聖剣なのだ。そしてリシアが使っていたのは普通の剣である【聖魔剣】。いくら性能の差があっても聖剣を相手にするには無理があったのだ。聖剣の能力で聖魔剣の攻撃を防ぎつつ攻撃を繰り出してくる聖女たち。そしてそれを全て避けたり、聖剣によって防ぐことができる聖剣を使えないリシアでは聖剣を使える聖女たちに軍配が上がる事となっていた。しかしリシアはこの日以来「いつか必ず聖剣を使って戦ってみせる。そして【聖剣王】の座を奪うんだ!」と密かに思い続けていた。その事がきっかけでリシアは「この国最強の男になってやろう」と考えるようになる。その為にまずは自分の技を磨こうと考えたのだ。

そしてリシアの元には毎日の様に多くの人々が訪れ、その度に戦いの相手をさせられてきたのであった。もちろんリシアは全力で戦ったが、聖女以外の相手には負けることはなかった。

そんな日々が過ぎていく中で【剣王】の称号持ちが遂に【勇者】リシアの元を訪れて来た。それはなんとこの国の国王の息子、第二王子であった。その人物は【聖魔剣王】の称号を持つリシアに興味を持ったらしく、リシアと本気で戦いたいと告げてきたのであった。そんな事を言い出したのは、やはりこの男が関係しているようだ。そう、リシアの目の前にいる変態の男が原因なのであろう。彼はその人物の事を語る前にリシアに対してある事を伝えてきたのである。その内容は「【神聖教会】の聖女と結婚しないのであれば私と【聖魔剣王】の契約を結ぼう。君は聖女の婚約者候補なのだろう?しかし【聖魔剣王】となれば話は別だ。【聖魔剣王】の妻になればこの国で最も強い女性という称号を得る事が出来るからね。そして君が結婚すれば【剣聖】が誕生する可能性が高いのだからこの提案を受けるメリットはあると思うがね。まぁ、この話を聞いて受けるか受けないか決めるといい」とリシアに伝えたのである。

この男の目的は聖剣を持つ存在を手に入れる事、ただそれのみであった。それもただ持っているだけでは意味がないのだ。その実力が備わっていないと宝の持ち腐れになってしまうだけであるからだ。聖剣を持つにはそれ相応の力が必要となる。その力は強大でそれを扱うだけの力と技量が必要なのだ。だからこそその力を手に入れる為に聖魔剣を手に入れる事を決めたのだった。そしてその聖魔剣を持つに相応しいのはリシアしかいないと思っていたからこそ、この話を切り出してきたのであった。それ程までに強い執念を持っていたのである。

「貴方の考えている事には少し興味がありますが、聖女の事は私には勿体無いくらいの良い人ですよ。それにまだ婚約すると決めたわけではありませんし、私自身今は色々と忙しいのでよく考える時間が欲しいんです。という事で今回はお断りします。それに私は今の暮らしが気に入っているんです。ですのでもし貴方と契約を交わすことになっても貴方の思う通りにはならないでしょう。その事も覚えておいてください」と伝えるとリシアは部屋から出て行った。その去り際にリシアの顔には明らかに嫌悪感が現れていた。しかしリシアが去った後この男の顔には全く変化が見られなくなっていたのである。むしろ笑みを浮かべているほどであった。そしてこの表情のままこの場にいた聖女と会話を続けていたのである。その時に二人は「【聖魔剣王】の素質を持った者がこの世界に現れるとは、もしかすると本当に聖剣を扱える者が現れるかもしれないな。そうなれば聖魔剣が【勇者】に授けられる事となる」と話していた。その言葉を聞いていた周りの者はざわめき始め、【聖魔剣王】と【勇者】の称号を持つ二人の会話の内容に皆驚きの表情を見せていたのだった。

その話を聞いたリシアはすぐに聖女の部屋に向かった。その目的は「【勇者】の称号を得たらすぐに連絡をください。私と正式に契約を交わしたいのであれば私がこちらの国に訪問させて頂きます」と聖女に伝える為だった。しかしこの時の聖女はリシアの事を「可愛い女の子が来た!私の専属護衛になってくれるのかな?」と考えていたのだった。そして「リシアさんとなら楽しく過ごせそうです。これからもよろしくお願い致します」と言ってリシアを部屋に案内し、それからずっと二人で色々な話をして親交を深める事になったのだった。そう、これが後に親友となる二人の始まりである。

こうしてリシアは新たな目的が出来たことで今まで以上に剣を磨き始めた。そしてリシアの身体はどんどん成長を続けていき、最終的には身長が170cmまで伸びたのである。その頃になると街の人々からもリシアの噂を聞くようになっていた。そしてリシアはその街の人々の声から自分が有名人になり始めていることを知り、この国での生活にもだいぶ慣れてきていたため、この国で冒険者として活動を始めようと決心したのである。

こうして【剣王】となった【剣聖】リシアがこの国で生活を始め、リシアの冒険者活動が始まったのであった。

俺はあの変態の王と聖女に出会ってしまった。その時は【真鑑定眼】の技能を使用して相手の情報を知ろうとしたものの、何も情報を得られなかったので普通に接することにしたのだった。そしてその日を境に頻繁に城へ呼ばれるようになり、リシアと仲良くなってからは俺の方から城に遊びに行くようにもなったのだ。

そのリシアと一緒に遊んでいる時にリシアと初めて会った時のように聖剣が突然現れ、それが突然輝きだしたかと思った次の瞬間に俺とリシアは別の場所に移動していたのである。そこで俺たちは初めて自分のステータスを確認する事が出来たのだ。その時には俺も聖剣を所持していたので、聖女が所持している【光魔剣】と同じように使えるようになっていたのである。つまりその能力を使用する事ができるようになったのだ。だが、残念ながらその能力を使用することでどのような効果が得られるのかを知ることはできなかった。なぜなら【時空収納】の中にあるはずの【神剣グラムソード】を使うことが出来ない状態に陥っていたからである。おそらく何か条件があるのだと思われる。しかしそれは分からないのだ。そしてリシアのステータスを見てみたのだが、そこに記されていたレベルの高さと体力の桁を見て驚いた。それはこの世界でレベル1である自分と比べ、約50倍もの差があったのである。正直これはありえない事である。そもそも【異世界転生】をしてこの世界にやってきていたリシアは元いた世界の経験値がそのままこの世界に持ち越される仕組みとなっているはずだ。その為リシアのレベルは簡単に上がることはないはずなのだ。それにも関わらずリシアはレベルが上がり続け、最終的に聖剣の力を100%引き出しても勝てるかどうかが怪しい相手となってしまった。しかもこの状態ではリシアの方が明らかに強かったりするのだ。聖女よりもレベルが高くなっている上に、スキルの数が違うのだからしょうがないといえばそれまでなのであるが。そんな事もあって、聖剣が使える聖女とリシアの強さを比較する事が難しいのであった。

しかしリシアが聖剣王になったことで、聖女はリシアが聖剣を使う事に躊躇するようになっていったのであった。そのせいもあり、リシアの知名度は徐々に上がり始めていったのである。

リシアはこの世界で最強の剣士となっていくのであった。

リシアは俺と出会った当初に比べるととても明るくなっていった。元々元気で活発な女の子であったのにもかかわらずどこか影があったような印象を受けたものだが、今では本来の明るさを取り戻したかの様に生き生きとしているのである。

それは聖女の護衛として一緒に行動することが多くなってきた影響もあるだろう。リシアは常に周りに警戒しつつ聖女を守ることに全力で取り組んでいる。そして少しでも聖女が危険な目に遭おうものならば即座に対処し助けようとする。その姿を見て「この子なら聖剣王の称号を手に入れれるんじゃないだろうか」と思い、俺とリシアの間でこの国の聖女と【聖魔剣王】の契約を交わすという約束をしたのであった。まぁ、その後聖女は聖剣を使いたがらないようになって、契約を交わしたのは聖女が大人になってからという話になったのであった。まぁ、それでも聖女との仲が良好なままだから別に構わないが。

聖剣を扱えなくなった聖女がこの国から去ってしまう可能性を危惧したリシアは聖剣を扱えるようにしようと必死になって努力をしていた。その結果聖剣王の能力を完全ではないにせよ引き出すことが出来るようになったのである。

それを見たリシアが喜んだのは言うまでもないが聖剣を扱いたい気持ちはそこまで強くなかったらしく、あまり嬉しそうではなかったのは何故なのかが気になるところではあるが。

そして聖女の正式な【聖魔剣王】の継承が終わり【聖魔剣王】となったのを確認したリシアはすぐにこの国を離れようと提案したのである。その理由を聞いた所、「私はこの国を出て行くことに決めたのです。私はこの国にいるといずれ大きな事件を引き起こしてしまいます。そして私の家族を巻き込む結果となり、多くの人に迷惑をかける事になります。そんなことになってしまった場合、私が責任を取らないといけません。だから私がここにいる事は許されないと思うんです」と答えたのだ。それを聞いて「なるほどな」と思って納得してしまったのだ。それ程までに今の聖女は聖剣の扱いに苦しんでいたということなんだろう。だからこそその問題を解決出来るであろうリシアと一緒に国外に出て行けば少しは気分的にマシなのではないかと思ったのだ。それ故に聖女の返事を待つ事なく俺の空間魔法で作った【転移陣】を発動して二人でこの城から逃げ出したのである。ちなみにこの行動が後に問題を引き起こす事になる。そう、【聖魔剣帝】リシアの出奔という大事件が起きてしまったのだった。これにより聖剣が扱える者が現れなくなってしまうのであった。この世界にとって大きな問題が起きてしまうのであった。

リシアと俺が二人きりになったのはこの城から出てしばらくした頃だった。この国に居続けることは危険であると判断した俺が【時空門】を使用して他の街へ行こうと提案しようとした時、リシアの方から話しを切り出してきたのである。その内容というのが「この国は【光魔剣王】と聖剣を持つ【聖魔剣騎士】がいないために滅びの道を辿ることになると思います。なので、この世界を救いたいのであれば聖剣王と契約をしにいくのが正解でしょう。【勇者】の称号は持っているようですが貴方に【勇者】が使いこなせるとは思わないので」と言われたのだ。俺はその言葉に対して、この国が聖女がいなくなったことで滅びるのを黙って見過ごすことは出来ないと考えていた。その為に俺はリシアの言っている事に賛成したのである。その事でリシアと共に聖剣を探しに【勇者】と【聖魔剣騎士】が住まう【聖魔の剣国】へと向かうことを決めたのだった。【聖魔剣騎士】についてはリシアが詳しく知っているというので、彼女に全てを任せる事にしたのだった。

そして聖魔剣の騎士達が住む【聖魔の剣国】へとやってきた俺たちは【聖魔剣王】の称号を持っている聖剣を探す為に動き出したのだった。そしてリシアの案内で聖剣王に会うことになったのだがそこで思いもよらぬ出会いを果たしたのである。それはリシアが「聖剣王は女性です」と言うと目の前に立っていた人物から話しかけられたのだ。「初めまして勇者様、私の名はアリアナ。貴女は私が探し求めている【聖魔剣王】ですね?【聖剣王】と会う事が出来るだなんて夢のようですわ。是非私をあなたの配下にして下さいまし!」といきなり言われたのである。最初は意味が分からなかったが【聖魔剣王】がリシアであると分かると、【聖魔剣王】と【聖魔剣王】と契約を交わした者との間に繋がりが出来る為、【聖魔剣王】は【聖魔剣王】と契約する【勇者】に無条件で従いたくなるのだ。つまり俺とリシアは既に契約状態にある為、俺はその契約を無効化する為の道具を作ることが出来たのである。その為【聖剣王】がこの世界に存在している事がこの世界の人々に知れ渡る事になったのである。しかし、聖剣王が聖剣を所持せずして存在することはあり得ない事であるので、その事に疑問を感じた者がいる事もまた事実だったのである。そして俺はその疑問を解消する必要があると感じてその問題を解決するために奔走したのである。そしてその答えを見つけることができたのだった。それは、【聖剣使い】という称号を得ると聖剣を扱う事が可能になるという事実が明らかになったのである。聖剣が使えるようになるだけではなく、この世界にあるすべての剣を使えるようになり、さらに剣術スキルも習得できる。その力があれば剣技も一流のものとなるらしい。だがその事を知っていても聖剣を使いたい者がいない現状である。そもそもその情報自体を知らなければ使えない話であるからだ。

俺が【聖剣使い】についての情報を集めていた時に偶然リシアと出会ったのだ。その時は【聖魔剣王】として聖剣の所持者を配下にする為に旅をしていた。そこで聖魔剣騎士を部下に加えるために聖魔剣騎士を探し回っていたのであった。俺もその目的の為にリシアを探していたのだ。俺とリシアは情報を交換し合った。その時にリシアはこの【聖剣の洞窟】に聖剣が存在しているという噂を聞き付けてここまでやってきていたということが分かった。そこで俺はこの場所を教えてもらい、リシアを連れて聖剣を手に入れる為に【剣王】である聖剣を手にする事に決めたのである。しかしここで思わぬ問題が起こった。リシアは剣の腕にかなり自信を持っていたのだが【勇者】の称号が邪魔をするらしく、全く剣が扱えない状態であったのだ。しかし、俺には聖剣王の契約がある為に、【聖魔剣騎士】の剣を一時的に借りることで剣が扱えなくなる事態を回避していた。しかし、【勇者】と聖剣王の関係を知っている者は少ないためこの事を公にしてしまうと騒ぎになる事間違い無しだった。なので、リシアは【聖剣王】として剣を使う事が出来ないという体で俺と行動を共にしているのであった。

リシアの案内で聖剣を手に入れた後、リシアが聖剣を使えるようにならないか実験を行った。結果は成功で【聖魔剣騎士】の力が解放されると同時に、聖剣王の能力も発動するようになっていた。それからというもの聖女は聖剣を使う事に慣れ始めていた。

その事を知ったリシアは自分の存在価値を見出せなくなり始めた。元々聖剣を使いたいと思っていた訳でもなくただ聖女の力になる為に聖剣を手に入れようとしていただけだ。だから自分よりも圧倒的に強い力を持つ聖女の姿を見て心を痛める日々を送る事になる。聖女と自分の違いを考え始めるようになり、自分に出来る事を考えるようになったのである。そこで思いついたのが俺とリシアとの絆を利用して俺の作った剣と俺の魔力を使って聖剣を作り出したのだ。

「私が聖剣を作り出せばきっと聖剣王に近づけるはず。だから私がこの手でこの国の人々を救ってみせるんだ」

聖女がそう決意したのは当然の話だろう。俺としてもこの国の人々の生活を少しでもよくしたい気持ちは同じだったので聖女に協力をすることにした。そうするとこの国は一気に活気を取り戻していくことになる。そして俺とリシア、そしてこの国の住民達との関係性が良くなり始め、俺達はこの国に留まる事に決めてリシアを正式にこの国の王女に指名し、聖剣王となった聖女がこの国を導く事になったのである。

俺はリシアと一緒に聖魔剣王のいる場所に向かうことになった。俺の目的は【聖魔剣剣帝】の力を俺の支配下に置いて、俺の持つ【聖剣使い】の称号の呪いを解呪してもらった後に【勇者】の資格を失うことだ。

聖剣をこの世界で唯一操れる【勇者】がいなくなれば必然的に世界から聖剣は消える。聖剣がこの世界に存在しなくなった瞬間、聖剣によってこの世界が支配されているこの国では混乱が起こる事は明白である。そしてその影響をまともに受けるのがこの【聖魔剣国】である事は間違いない。だからこそ【勇者】の俺と【聖魔剣王】の契約を交わし、全ての【聖剣王】が扱える剣を作り出すことにしたのである。そして【勇者】の称号を手放す。それによって【勇者】の力を封印するのだ。そうすれば【勇者】の称号の力は【聖剣王】が扱う剣へと宿るだろう。そうしてしまえば俺は勇者の力を失ってこの世界で自由に動くことが出来るだろうと考えたのだ。だからこそ【聖魔剣王】に【聖魔剣王】と【勇者】の契約の無効化が出来るような武器を作ってもらう必要があったのだ。

そしてリシアが「貴方なら聖剣使いの称号を持つ事も可能だと思います。ですがこの国を救うには聖剣が必要になると思うんです。ですから私と共にこの国にいて欲しいのです。そして私の夫になって下さいませんか?」と言われてしまったのだ。そしてリシアが俺に求婚した事で俺は聖剣が使えなくなってしまう事になったのである。だが俺としてはそれでも良かったのだと思っている。確かに勇者としての力がなくなることはとても残念に感じるのだが、この国の人々を守ることが出来ればそれでいいと考えていた。そして俺はそんな状況でもなんとかなるだろうと高を括っていたのだがとんでもない事になることをこの時はまだ知らない。リシアと共に聖剣王が住んでいるという場所までやってくる。その道中の村の様子や街の光景は平和なものだった。リシアによるとこの国は聖剣がなくなってからは戦争に巻き込まれていないというのだ。それ故にリシアの表情にも笑顔が多く見えるようになっていた。しかし、この国に来て少し経つとリシアの表情はだんだん暗くなっていき何か悩んでいるようでもあったのだ。一体何を悩んでいたのか俺には全く想像がつかなかったのである。そこで思い切ってリシアに尋ねてみることにした。

その悩みというのはこの国に来た時に聞いた噂が原因だったというのだ。それはこの国は【聖魔剣王】が聖剣を作り出しているおかげなのか魔物が一切出現しないというのだ。そのためこの国の人々は平和を謳歌することができていた。

この話を聞いて俺は違和感を覚えたのである。俺はこの国に入る前に、俺のスキルである【時空門】で聖剣王が住まう城の前にやってきたのだがその時は普通の国のように魔物がうじゃうじゃいたのだ。この国に入る前はそんな気配など全くしなかったのにである。

そしてそのことをリシアに伝えるとこう返答された。

それはおそらく【聖魔剣王】であるリシアがこの国から出ると、魔物が現れるというのだ。それはリシアが聖剣王だからだと思われる。つまりリシアはこの国を出てはいけない理由があった。リシアの役目はこの【聖魔剣国】に住む人々を見守ることである。だから外に出て行けないらしい。その事を俺は理解した上でリシアがこの国に留まれるように様々な行動を取った。しかし、聖女がいなくなった事を知る【聖魔剣剣帝】達がこの国に攻め込んできた。その数はおよそ一万人だった。【聖魔剣剣王】はリシア一人だけなのだからその数は異常な程に少なかった。しかし俺の予想通り【聖魔剣剣王】は剣が振るえない。そして【勇者】である俺もまた剣が扱えない状態になっていた。だが【聖魔剣剣王】と契約を結んだ者同士でしかこの契約は成立していない為に俺とリシアが一緒にいれば問題はないだろうと思っていたのだ。それにリシアを逃せば俺が聖剣を使えないという情報が広がってしまう。

俺達はこの国で暮らしていたが、俺と【聖剣使い】のリシア以外は全て【聖魔剣帝】と【聖剣剣王】であり、【聖魔剣帝】と【聖剣王】の力が拮抗しており、どちらが聖剣の所持者であるのか判断する事が出来なかった。その結果リシアと俺だけが取り残されていたのだ。だが俺は聖剣を使えないだけで、その他の力は全て使える為、【聖魔剣剣王】達を倒すことができたのである。しかし聖魔剣王と聖剣王以外の【聖魔剣帝】と【聖剣帝】の力を全て奪い取ったとしても【聖魔剣剣皇】や【聖魔剣王】の力を完全に使えるようになることはなかった。その事を知った聖魔剣王は【聖魔剣王】と契約を結んでいる聖剣使い達を俺の元に集めようとしたのだ。しかし俺はその話を断りリシアを連れて逃げ出した。そして俺はリシアを連れて逃げ回ったのであった。それから俺は、リシアと一緒に隠れて暮らし、どうにか生き延びることが出来た。そのせいで【聖魔剣王】は、俺のことを指名手配し俺を殺すために動き出したのだ。そして今現在俺を殺そうと躍起になっている。リシアを逃がしてから既に十年が経過しているのだがいまだに【聖剣の洞窟】の場所は特定されていない。この【聖魔剣王】がリシアを追わなければ俺は【勇者】として今もこの世界で過ごしていたはずだったのだ。だから絶対に許せない。俺は必ず【聖魔剣王】を殺してやりたいと思っている。

リシアがなぜ俺と結婚をしたいと思ったのか俺にはよく分からないがリシアもきっと苦しんでいたはずだ。だからリシアの為にこの国の人達を守ろう。俺は心の中で改めて誓った。

俺達はリシアの提案に乗り、聖魔剣王に会う事にした。そしてこの国にいる【聖魔剣剣帝】と【聖魔剣王】に会ってこの国を守り続けるように説得をする。俺達の願いは一つ、リシアがこの国の人々に幸せを与えることができるようにすることだけだ。俺達はまずリシアを聖剣王だと紹介するために聖魔剣王が住む城に向かった。俺とリシアが訪れた事で城の者達は驚いていたのだが、事情を話すとそれを受け入れる。そしてリシアにこの国のトップになってもらいたいと思っているようだ。

俺は【聖魔剣王】に会いに行き事情を説明した。俺の目的は聖剣を消滅させる事だという事を【聖魔剣王】に話すとその目的に興味を持ったようで、【聖魔剣王】に気に入られて聖剣を作る能力を得た。俺は聖剣王になる代わりにリシアの望みを叶えて貰えるようお願いをしたのだ。すると快く承諾し、【聖魔剣王】から聖剣を作り出すための方法を聞き出し【聖魔剣王】と契約を結び、俺は勇者の資格を失い、そして【勇者】の力を失ってしまったのである。

そしてこの日俺はリシアと共にこの国で暮らすことになるのだった。そして俺は勇者の力を【聖魔剣剣聖】に譲渡することにした。そうすれば俺はこの国を自由に出入りできる。聖剣を作ることだって簡単にできるようになるだろう。そして俺は【聖魔剣士皇帝】となり、聖剣を生み出すことができる存在となる。そうすれば聖剣の力をこの国に残していけるだろうと考えたのだ。【聖魔剣魔剣王】は【聖魔剣聖】の称号が使えるように俺にスキルを与えた後、【聖魔剣王】の称号はリシアに与えた。

俺とリシアはリシアがこの国の王になるべく行動を起こす。そうしなければリシアはこの国を離れることができないからだ。そうしないとリシアの事が聖剣の力を欲する者に狙われることになるだろうからな。聖剣の力はこの世界の人々の希望だ。そうやすやすと奪わせるわけにはいかない。だから俺がリシアの側にいる必要があった。俺はリシアの護衛のために常に行動を共にし、この国の王に相応しい教育を施していった。俺はリシアの為ならどんなことでもしようと心に誓っていた。リシアとの時間は俺にとってかけがえのない時間となっていたのである。

【聖魔剣王】になった俺は、【聖魔剣帝】をこの国へ招集する。この国がこれからどういった道を歩むのかを話し合おうと考えていたのだ。俺は【聖魔剣帝】達を集め、今後のことについて話し合った結果、聖剣がなくなっても魔物が出現するようなことが無いよう【魔核石】を作り出す技術を教えていく事に決定した。【魔導帝国】に【聖魔剣王国】の技術を提供する見返りに【魔素】を提供してもらうことになったのだ。俺はそれならばと了承した。【聖魔剣王】の俺は【聖魔剣王国】の国民と契約を交わしてその契約者が持っている聖剣の力と、俺の持つ全ての力を使う事が出来るようになる。その力で【魔核】を作り出しそれをこの世界に普及させるのだ。

こうして俺とリシアは新たな一歩を踏み出すのだった。

俺とリシアが結婚したことにより、【聖魔剣王】であるリシアは【聖魔剣帝】のリシアへと変わる。しかし俺はリシアをリシアと呼び続けた。この国では今まで通り【聖魔剣王】と【聖剣帝】という事で話はついたのだ。俺とリシアはお互いを愛し合うようになり夫婦仲は良くなっていた。そんな時に、俺とリシアが住んでいるこの城に突然訪問者が現れたのである。その訪問客とは、リシアの婚約者でありリシアを連れ戻すべく俺に襲いかかってきた【聖魔剣魔剣王】の一人でもある【聖魔剣魔剣王】である【魔剣剣皇】のレイシアである。俺はこの時【聖魔剣皇】であるレイルの話をリシアに伝えたのだ。その時にリシアは自分が聖剣を生み出しているという真実を知りショックを受けてしまったのだ。リシアが聖剣を生み出せるという事は、この国の人々にとってリシアは聖剣の守り神ということになる。

この話を聞いたリシアはその日から俺にこう頼んできた。リシアが望む事があれば俺はそれを全て受け入れ、必ず実行に移す。それが夫としての役目だと思ったのだ。だから俺は迷うことなくリシアの言葉を受け入れ、俺は自分の出来る限りリシアに協力することを約束したのである。

それから俺とリシアは聖剣を生み出すという仕事を始めた。俺はリシアの為にと張り切り、聖剣を作り出す事に成功した。俺の作る聖剣はこの世界に存在するあらゆる武器や魔道具を作り出したのだ。そして聖剣を生み出す際に俺の【全知全能】が反応し、俺の知識と経験と記憶がこの世界に浸透していく。

そしてリシアの聖剣作りに励んでいる時、この国にある事件が起きた。それは聖剣に封印されていた魔人が蘇ったのである。そしてその者はこの【魔剣魔剣王国】を破壊し尽くさんとしていた。その時俺は魔人を食い止めるために動き出さなければならなかった。俺はこの世界で生きる人々の笑顔を守るためにこの身が滅びても構わないと覚悟を決めて立ち向かったのである。俺は【神滅覇王】の固有能力を解放させ、【魔剣魔剣王】の力と、この世界に存在するすべての武器と魔道兵器の力を融合させた。それにより、俺の体にとんでもない負担がかかる。俺は気を失いかけるほどのダメージを受けていたのだがどうにか魔人を退ける事に成功し、リシアの元へと向かった。

リシアが無事なのか確認するため急ぎ駆けつけたのだがリシアの元に辿り着いた頃には既に遅かったのである。リシアはもう既に魔人に殺されてしまっていた。魔人はリシアを殺したあと【聖魔剣王】をその手に収めようとした。俺はその瞬間怒り狂い我を忘れて魔人に対して攻撃を仕掛けたのである。

その戦いの最中俺はこの国にあった全ての聖剣の力を一つに融合させることによって最強の剣を生み出した。その剣こそ【聖天】と呼ばれる聖剣なのだ。【聖天】を手にしたことによって俺の体は元の状態に戻る。そして魔人を完全に倒すことに成功し、魔剣の力をこの国から消し去ることに成功したのである。俺はリシアを生き返らせようと試みたが、リシアは既に死んでおりこの世から消滅してしまったのだ。リシアを失った悲しみを俺と、【聖魔剣王】達は必死に耐えてどうにか乗り越えることが出来たのであった。

その後、俺がこの国の王に即位する事に決まる。俺の妻、【聖魔剣王】リシアはこの国の王妃になるのだった。そしてこの国の平和を維持するべく【聖魔剣王国】という名前に決まり俺は国王になった。

そして俺はこの【魔剣魔剣王国】で様々な改革を行うことになる。【魔剣魔剣王】達は皆、リシアと同じようにこの国の人々の為を思い行動を起こした。そうすることによってこの国の人々を笑顔で溢れさせたのである。

それから俺達が【聖魔剣王】になって数年後のことだ。【魔剣魔剣王】の一人が聖剣の暴走を止めるために立ち上がってくれたのだった。その結果俺の知っている物語のように【勇者】の素質を持つ子供が産まれることは無くなったのであった。俺とリシアの子供も、【勇者】が選ばれることはなくなり、この世界の未来は安泰したのだった。しかし俺はこの世界を救ってくれたことに感謝しこの国を更に発展させるために尽力することになる。俺達の生活に不自由がないよう様々なものを取り入れていき、そしてこの国の更なる繁栄を願っていったのである。

そうやって俺は国の発展のために努力を続けていたある時のことだった。俺に突然神託のようなものが降り注ぐ。その内容は俺が魔王になるというものだ。それはどういう意味かと困惑していたのだが、俺はこの国に危機が迫っていると悟る。俺の力がこの国に必要だということも。そして俺達は【聖魔剣王】と【聖魔剣王】が協力することによりこの世界の均衡を保つことを約束し合い、そして俺は【魔剣魔剣王】と契約を結び【聖魔剣王】の資格を得る事になったのだ。【聖魔剣王】になった俺の固有能力の一つに【魔導具生成】というものが存在している。俺は【聖魔剣王】となったことで得たこの能力を使い魔素と聖素とを分離することに成功したのである。これにより俺はこの国に住む人々全員の魔力を回復することができるようになった。俺はこれでこの国の人々が幸せになれるように願って止まなかったのだ。

【魔導帝国】にはこの世界最強と言われる勇者が四人いる。そのうちの二人が【聖魔剣士皇帝】である【聖魔剣士皇帝】のリリスと、【魔導士皇帝】のマリッサだ。そしてこの二人は、俺とこの世界で出会ったもう一人の勇者【月野 小鳥遊】と【火水木 香恋】が一緒に旅をしていた仲間であり親友だと言うことを俺は二人に話すことにしたのである。

俺の話を聞いてリリスとマリッサは俺に対して警戒心を剥き出しにしたのだ。それもそうだなと思い俺は【魔剣剣皇】に力を与えたのである。

俺は魔剣を【魔核石】に変換した。【魔核石】はこの世界に存在しているどんなものでも変える事ができるのである。

リリスとマリッサは俺のことを【神殺しの剣皇】と認め、この国に危害を加えない事を誓うのだった。俺はこの国を守る者として、リリィ王女と結婚し夫婦の契りを交わす事になる。俺達の結婚式は盛大に行われたのである。俺はリディアと結婚するにあたりリリアという少女を養子に迎え入れた。俺が【神滅覇王】としての力を持つという事もあり、リリス、マリカ、アリスの三人は俺についてくることになったのである。俺の仲間としてリリィの側にいた方がいいと判断したようだ。

こうして俺はリシアと共にこの世界での暮らしに慣れ親しんでいった。俺は、【聖魔剣王国】の国民から絶大な信頼を得ている存在となっているのである。俺は【聖魔剣王国】の王として国民の笑顔を守り続けていく。

この国は平和だ。争いごともなく人々は平和に暮らしている。そのことに満足しながら俺は今日もこの世界に平穏が保たれていることに心の底から喜びを感じながら、国民たちの為に尽くす日々を送っていく。

これからは聖剣と魔剣の時代が始まる。それは魔剣に支配されるということを意味しているがこの世界に暮らす人たちを守るためだ。仕方がない。魔剣と魔剣は惹かれあう運命だからな。だから俺に魔剣は近づいてきたのだろう。その事に納得しながらも俺はリリィと夫婦の絆を深めるのであった。




俺は【魔帝王】との戦いに決着をつけるべく最後の一撃を放つべく全力で駆け抜ける。しかし相手も俺の攻撃を迎え撃つべく剣を振り上げていたのである。お互いの最後の攻撃を繰り出すべく俺たちの戦いの終着点がすぐそこまで迫っていた。そして、その一瞬の隙を狙いお互いに技を放ち勝負が決まったと思った瞬間、相手の剣が粉々に砕け散ると同時に俺の手にある【天聖剣エクスカリバー】の刃が消えてしまったのだった。一体なぜこんなことになったんだ。

そんなことを疑問に思っていたがすぐに俺は理由を理解したのである。

この剣が折れたことで俺は【聖魔帝】の力を失い元の人間の姿に戻ることになる。その反動により体が悲鳴をあげ始める。そしてその事に耐えきれず俺の体は地面へと崩れ落ちたのである。

しかし【魔帝王】を倒すことは出来た。【魔帝】の力を失くしたことで奴を倒すことが出来たのだ。そして奴も同じように俺と同様に地面に倒れ込んでしまい動かなくなっていた。しかし【魔帝王】を倒すことに成功したものの奴はまだ生きていたのである。俺は急いで止めを刺そうと奴の元に駆け寄るがそこで違和感を感じた。それは【魔帝王】に意識が残っていたからである。俺はこのままでは不味いと考え、俺は自分の固有能力である《魔素還元》を発動させるのであった。これは【聖魔剣王】であるリシアの固有能力の【魔素吸収】という魔法に近い固有能力を俺なりにアレンジした固有スキルなのだ。この効果は俺の体の傷を回復させる効果と体力の消耗を回復する効果があるのである。つまり俺自身の怪我と体力の回復を行えるのが【魔素還元】である。それを使い、俺はなんとかこの場を乗り切る事が出来たのだった。

それから俺はこの世界を救うために、リシアと【聖魔剣王国】にいるリシアや【魔剣魔剣王国】の皆の力を借りるために再び【次元門召喚術】でこの世界の時間を巻き戻すことに決めたのであった。

俺達勇者一行は今窮地に立たされていた。魔王が蘇ってしまったのである。俺は仲間達を信じているがそれでも心配してしまうものだ。特に今回はあの時の敵よりも強い相手だと聞かされているだけに余計にそうなってしまうものである。だがここで諦めてしまうわけにはいかないのだ。俺達はみんなのためにこの世界を、そしてみんなの愛する人を救う為にも戦わなくてはならない。そう心に決めていると、遂に魔王が現れるのであった。

魔王はやはり強かったが仲間たちと協力して何とか倒すことが出来た。

しかしその代償は大きいものであった。それは仲間が五人も殺されてしまったことだった。それにリシアまで殺されてしまった。この事から今回の戦いが厳しいものになると改めて実感させられたのである。

俺は仲間の仇をとるべく魔王に立ち向かっていく。俺はリシアが持っていた【天聖剣アルデバラン】を使い戦うことにした。リディアは俺に力をくれた。【神滅覇王】の持つ全ての能力を手に入れることができたのだ。【聖剣支配】、【剣聖剣聖】、【武闘気纏】、【限界突破】の四つが手に入った。それにより俺の動きはさらに速くなる。【魔剣支配】も手にすることができたが、俺はこの【魔剣支配】を使わずに戦うことを決めたのだった。

リシアが俺に与えてくれた【聖剣支配】の力で俺はこの世界の人達が持っている聖剣を全て操る事ができたのである。これにより全ての聖剣を扱うことが可能になり、剣だけではなく槍も弓、盾、ハンマーなど、とにかく武器なら何でも扱うことが出来るのである。

さらに【魔剣使い】としての力が覚醒し俺は聖剣、魔剣の力を最大限まで引き出すことができるようになったのだった。

俺は仲間達が作ってくれた道を走り抜けながら次々と襲ってくる魔王の部下を蹴散らしていった。

そうして俺はようやく【聖魔剣王】に変身する。【聖魔騎士皇帝】の力と【聖魔帝】の力を併せ持った俺の力は今までにないほど強力だった。俺は【剣聖】となり魔王と戦うことにしたのである。【剣聖】とは剣の扱いに補正がかかるという力だ。俺の場合、【剣聖剣聖】になっているために、剣を使った攻撃にプラスの補正が加わるのだ。そうすることにより攻撃力が増すのだ。そして俺は剣を使い魔王を追い詰めていく。魔王が俺に放った剣の波動は全て弾かれた。俺が持つこの剣の能力である【絶対切断】により全て無効化したのであった。そして俺は剣を振るった。剣の衝撃波は、魔王が放つ波動の威力と打ち消し合い相殺し合うことで大きな爆発を引き起こすのだった。その結果俺達は吹き飛ばされて宙に投げ出されてしまったのである。

しかし俺と勇者は地面に叩きつけられず、空に浮いたままの状態で止まっている状態だった。

「これでお終いだ」

俺がそう呟くと俺達の体から光のオーラが現れ俺の体を包んでいった。この光は、【剣聖剣聖】の力の一つ、【剣舞光鎧】によるものだった。俺の体が聖なる輝きに包まれていき、この光が【魔導剣皇】が【魔導皇帝】の力を得た時に使えるようになった固有能力【神聖浄化】である。俺の体は【聖】と【魔】の両方の力を持った状態となりこの状態で俺は剣を振れば振るほどその威力は上がっていくのである。俺は空中で身動きの取れない状態の相手に、【剣神化状態】になった勇者と共にとどめの一撃を放った。すると、勇者が剣を振り下ろした先に剣撃波が放たれたのだ。それは巨大な龍の形をしていた。【剣聖剣神剣】となった俺の最大最強の一撃であり、俺の魔力量から生み出されたエネルギーが込められた一撃でもあった。その攻撃をくらって魔王はその身を塵に変えた。俺の攻撃で倒した魔王はそのまま黒い霧になって消滅してしまったのである。こうして魔王を倒すことに成功したのだった。

その後、俺は魔王を倒せるほどの力を持つ勇者の仲間ということで国王に呼ばれたのである。

「貴殿の強さを見させて貰った。流石、リリスとマリカを倒しただけのことはあるな。どうだろう、我が国に残らぬか? この国に留まっていれば好きなだけ報酬を出すが?」

俺はこの提案を聞いて驚いたのである。俺が【魔剣帝国】にいた時は俺を欲しがるような国はなかったというかむしろ厄介ごとに巻き込まれないようにしていたような感じがしたのだ。だからこそこの提案には驚きを隠せなかったのである。俺にそれだけの価値があるのだろうかと思った。確かに【聖魔剣王】という存在は珍しいかもしれないがこの世界で俺は勇者の次に強くなっているはずだからその事を考慮してくれていると思っていいのだろうか。俺の実力は勇者と同等くらいだと思うがそれでもかなり強くなったという自負はある。

そんな俺をこの国の人は求めているというのだろうか。

そんな疑問が頭の中にあった。俺は少し考えると答えを決めたのである。

俺はこの【聖魔剣王国】に残る事に決めた。俺が【聖魔剣王国】の王国騎士になることが決まるのであった。王国騎士といっても国の騎士の中で一番上の地位になる。その事に不安もあったが王国騎士の人達が優しい人だったこともあって俺は安心することができたのである。それから数日後、リリアが目を覚ました。リリアが目覚めた後俺達は【魔剣王国】の王宮に戻ったのであった。それからは毎日平和に過ごすことが出来たのである。リシアが死んだことによって俺は心に穴が空いた感覚に陥り、しばらくは元気がなくなってしまった。

そんな俺を仲間達はいつも心配してくれた。

そんなある日のことだった。俺の目の前に一人の女性が現れたのである。彼女は【剣聖王】だったのだがリシアと同じ剣の才能があり、剣の天才と呼ばれてきた人である。しかし、ある日突然剣が握れなくなったのだ。剣を持つ手が震えるだけで剣が使えない体に変貌を遂げてしまったのである。そのことに絶望を感じていた時、【剣帝剣聖】だった俺の存在を知り、俺のところに修行にきたのだ。俺は彼女を見て心が躍った。彼女の瞳からは強い覚悟を感じられたのだ。俺はこの人になら自分の全てを託すことできるとそう思ったのである。

そして今日は彼女が旅立つ日だった。俺は彼女を送り出す為の準備をしたのであった。そしていよいよ出発の時が訪れるのであった。俺は彼女に別れを告げる為に、そして彼女の夢が叶うように祈ったのである。そうして【魔剣帝国】の剣神リディアの加護を授けると、彼女は涙を流しながらも笑顔を浮かべていたのであった。俺は彼女のことが気になり始めたがそれを必死に抑え込むのだった。そうしなければこれからの【聖魔剣王国】の行く末を任せられないとそう思っていたからである。

俺が彼女と別れた後に城に戻る途中に俺達の前に現れたのだ。

「待ってくれ。君に渡したいものがあるんだ。これを持っていてくれないか。きっとこの先何か困ったことがあるはずなんだ。私はもうすぐ死んでしまうけど、君は私の代わりに世界を守って欲しい。この力は私の想いを形にしたものだ。受け取ってくれないかい?」

リディアーナが俺に差し出した剣は【魔剣】と呼ばれる魔剣であった。

俺はそれを受け取り剣に【鑑定】をかけてみた。この剣の【名】を見た時に、この剣がどんな力を持っているのか、どういう性能なのかが全て分かった。

これはリシアに渡された剣、【天聖天命】と同系統のものであることがわかったのである。そして【魔剣】は【聖魔剣】と【魔剣】という相反する力を持っておりどちらとも扱えるのがこの【魔剣使い】の唯一の条件であると俺はそう思っている。つまり、俺は【聖魔剣使い】であり同時に【魔剣使い】でもあるということになるのだ。リディアの言う通りにこれが俺の剣となるということが分かった。そう思いながら俺は剣を抜き放った。するとリディアが持っていた【天聖剣】と同じように【魔剣】の刀身に光が宿り、やがてその光が大きくなっていき剣全体を覆い尽くすほどになった。俺がその剣を振り払うとその剣圧は凄まじい勢いで辺り一帯を吹き飛ばしていくのだった。俺はその剣圧を止めるべく【剣舞神聖障壁】を展開したのである。

そして【聖魔皇帝】の力を最大まで解放した俺の力によってなんとかその攻撃を止め切ることに成功したのであった。

俺達は魔王のいる【魔剣王国アルザード】に向けて出発するのである。道中では様々なモンスターや亜人達がいたが、俺と勇者の力で蹴散らしていくのだった。

【魔剣帝国】の魔王がいるところまで俺達は辿り着いていた。魔王城の手前に巨大な塔が見えてきた。この【魔剣都市ザラーム】はその名の通り魔剣を作れる場所であるがこの塔こそがこの都市の全ての始まりの場所なのだそうだ。そして魔王城は【魔剣要塞】といい、魔王の城としてふさわしい場所だ。

「おい! そこにいるのは誰じゃ?」

魔王城に侵入しようとするといきなり話しかけられた。俺が気配感知を作動させなかったから全く気付かなかったがどうやら誰かにバレたようだ。

「俺は勇者様の相棒にして【聖魔剣皇帝】となった魔帝剣帝、ユーフェミアだ。魔王を倒しに来た」

俺の返事に老人は驚きの声を上げた。魔王軍の中でも最強の戦士である四天王の一人である老人、【四天老】の内の一人であ 【雷迅将軍】と呼ばれている【雷電大将軍 ライゾウジイ】である。

「まさか本当に来るとはな。魔王陛下を倒したと聞いて信じられなかったのにこうして本人が来るとはの。魔王軍はお主のことを全力で止めてみせよと言っておったのにな。お主なぜこんな所に来てしまったのかわかっているのか? お主は【魔導剣皇】であり【剣聖王】なのであろう。なぜ勇者の仲間となり【魔剣帝国】にいる?」

「俺の目的は勇者の手助けをする事にある。この【魔剣帝国】には魔剣があるからこそ勇者は魔剣を集めようとしているからな。それで俺が勇者の剣となるべくこの国に来たわけだが。この国の剣も見てみたいと思ったんだよ」

「そうか。ならばこのわしを倒してから進むがよい。【雷光将軍】よ、勇者殿と共に戦ってもらうぞ!」

俺がそういうと魔王の部下であり四天王の最後の一人である【雷撃の武闘家 デンショウジンサコン】、【雷電の賢者 ライチジンサト】、そして魔王直属の精鋭集団の部隊【雷電隊】隊長で【魔道拳皇 マジックケンリュウ】の称号を持つ【魔法拳師 マホウコブシシ】が魔王の側近である【七魔刃将】を引き連れて俺の前に姿を現したのであった。

【魔剣王国】に到着した俺達は【魔剣帝国】の王城に向かっていた。そこで俺達が見たものはかつてこの【魔剣帝国】を統治していたリディアスの姿であった。リディアの外見は完全に変わっていてもはや別人にしか見えなくなっていた。

「よくここまで辿り着いたな勇者の仲間達よ。しかしお前達にリディアスを倒すことは不可能。ここで死ねぇえぇ!!!!!」

リディアがそう叫ぶとリリアの体が一瞬光ったのである。俺は何が起きたのかわからないまま俺は【鑑定】を使ってリリスを調べてみると驚くべき事実が判明した。なんとリディスという女性のステータスをリアリが乗っ取っていたのである。

俺は咄嵯に【剣聖技】を使った。俺の持つ固有剣技の中で最速を誇る【聖魔瞬動剣】を使い一気に間合いに入り込んだ。そして俺が持つ剣【魔帝剣グラムシュバルツヴァイス】による一撃を放つ。それはまさに神速と呼べる速度であり、俺はこの【魔剣】に宿る能力の一つを発動させたのである。その効果は魔剣の力を全て吸収するというものだった。俺は剣に吸い込まれる魔力を【魔帝剣】を通して【魔剣】に送り込むことで【魔剣】の威力を倍増させることができた。そうすることで俺は今よりもさらに強くなれたのだ。

その力で俺はリディアを斬りつけた。リディアは俺の斬撃を避けることができなかった。そして俺の【魔剣グラムシュバイスヴァイス】の能力によってリディアの肉体の全てが【魔剣グラム】の力となっていくと俺の手にあったはずの【聖魔剣グラムヴァイスシュヴァルツ】は消滅して、元の普通の聖剣に戻ると同時に折れてしまっていた。

「そんな馬鹿な!?私が完全に力負けしたっていうのか?」

リリアの体に入ったリディアは自分の敗北を認めていなかったのである。そう言ったリディアに対して俺は再び【聖魔帝】を発現させて【魔帝術】を使うとリディアの肉体からリディアの魂を抜き取りリリスの方に移動させることに成功した。そしてその肉体に今度は俺の魂を入れることによって俺達は入れ替わったのである。

そうしている間にも仲間達の連携による攻撃により残りの幹部達は全て倒されてしまったのである。そう、【魔剣王国アルザード】の全ての四天王と側近の部隊は全滅してしまっていたのであった。「そんな馬鹿なことあるはずがない。我が最強の【魔剣】と我自身の力があれば【剣聖】に遅れを取ることなどありえないのだ!貴様は何をしたというのだ。一体いつその剣の力に目覚めたのだ?【聖魔皇帝】が剣と同化するなどあり得ないはずだ」

リディアスがそう言うのを聞いて俺と勇者が顔を見合わせていると、突然俺と勇者が光を放ち始めその姿がどんどんと変化していったのである。そしてそこにいたのは【魔帝剣皇帝】となった俺ではなくリディアが二人に増えたような姿になっていた。その光景を見た俺達は驚いていたがリディアだけは驚きつつも嬉しそうな顔をして俺達を受け入れてくれた。俺はこの剣の使い方を知っている。そして、その力がどれだけすごいのかもわかっている。だからこそ俺はこの力の全てを解放することにした。

「この力は勇者を守る為に得た力だ。だからこの力を解き放つことの意味が理解できるな?勇者、共にこの世界を守ってくれるんだろう?だから力を解放できる場所に来たらすぐにでも解放してくれていただろう?」

俺は【魔剣使い】として【剣聖】が【魔剣聖】になるために力を解放するのを待っていたのだが、どうやら【聖魔剣聖】の力を手に入れたことで俺は【魔剣使い】から【剣聖】へ進化したようである。これは勇者と力を合わせなければ使うことができない剣なのだ。

リディアが勇者と俺に向かって何か言っていたがそれを無視して俺はリディアに話しかけた。俺が勇者と話をするためにリディアから離れた時に勇者に念話で連絡を取り俺の剣の能力を勇者に伝えたのだった。

俺が【聖魔皇帝】になった時に手に入れた能力は、この世界のどこにいても剣の場所に転移することの出来る【剣舞空間】という能力でこの【聖魔皇帝】専用スキルでもあるようだ。【剣舞皇帝】とは剣と一体化することにより剣と一体化し、さらにその剣を振るう事だけで攻撃を行う事が出来るらしい。その剣には特殊な効果がありその効果が剣を鞘に納めることで発揮されるということだ。俺はそれをリディアに使ってもらいリディアと合体したのである。その結果、剣の中に意識が飛ばされ俺は【魔剣】と一体化してその力を引き出すことができるようになったのである。俺はリディアスの言葉を完全に無視していたがその言葉には反応してしまった。俺はその剣の本当の力を知っていたからだ。

「そうだな、その通りだな。俺とユーは運命共同体なんだ。俺の体は勇者に、ユーの剣は俺に委ねてくれ。その力をユーと一緒に使えば最強になれるのさ!」

俺はリディアスの言葉を勇者に伝えつつ剣を振り下ろすと【魔剣グラム】の力が全て解き放たれていった。俺が持つ【魔剣聖グラムシュバインヴァイス】はその刀身の長さが十メートル程ありその刃の部分からは炎が噴出しており、その刃が纏っていた。そして俺が剣の柄を握ると剣が震え出し刃の部分を俺に向けてきたのである。

俺は【魔剣】が求めていることを理解したので俺の持つ【魔剣】を全て集めてリディアスの【魔剣】のところに行くようにすると【魔剣グラム】の剣の先から光が発せられて俺を【魔剣】の元へと誘ってくれたのであった。俺の剣が俺の意思に従ってくれたのはこれがはじめての経験だったがなぜか俺はすんなりと剣の望みを理解することができた。

そうして俺は勇者と共に【魔剣王国アルザード】の王城を半壊させてしまいこの国は魔王軍の支配下になるのである。

俺はリディアに【魔剣帝国】の支配権を任せると勇者とともに【魔剣帝国】を出たのである。

「ユーよこれからどこに向かうつもりだ?」

「俺が行くのはまだ誰も行ったことがない場所だな。勇者も俺と一緒でまだ行ってないところに行こうと思っているんだろ?」

「うん、そうだね。【魔剣帝国】に僕の知っている限り【聖魔帝国】と【魔王国ルグレア】の三つしかなかったからね。他の国がどうなっているのか確かめないと」

「そういえばこの世界について俺達は知らないことが多かったんだよな。特に勇者の住んでいた世界については全然わからないままだったし」

俺はそういうと思いついてしまったのである。この世界に来て一度も訪れていない場所があることに気がついたのだ。

俺はその思いつきを実行するために、その場所があると思われる方角に向かい走り出したのである。

俺達が向かっているのはこの世界を分断するように流れている川である。俺はこの場所に【剣神流】の秘技の一つである奥義の一つを使うことによってその川が凍って道を造れないかと考えたのである。【剣聖技】を使えばこの氷の壁を突破できそうであるが【魔剣皇帝】となった今の俺ならこの【聖魔剣皇帝】の権能でその剣の威力を上げることが出来るはずである。俺はそう考えた。

この世界での俺の師匠とも言える人物がいる場所まで辿り着くことができればいいがと思っていた。

俺は剣の【聖魔】と【魔皇】を両方使い剣の【力】を最大限まで引き出すことができるようになっているのである。そして俺はこの【魔剣】が本来持っている力を発動した。

すると俺と勇者の体が淡く光始めた。そして俺はリディアから聞いた情報を思い出すのである。この剣には【全属性】を使えるようにすることができる機能が備わっていると言っていた。俺の持つ剣の能力に【全魔法剣】というものがあるがそれとは別に【全魔法付与剣】というものがありこの二つの剣を合わせることによって【剣帝術】の更に上の力を発動させることが出来ると聞いている。俺は勇者に確認をとるとその剣を俺に預けてくれると言ってきた。俺はこの剣を使って【剣神術】を使ってみると見事に発動することができた。

「俺とユーの二人が力を合わせればこの剣の能力を発動することが出来たぞ。しかしこんなところで時間を無駄にしている場合じゃない、そろそろ出発しよう。ここから【剣神国ソードキングダム】までは結構遠いみたいだしな」

俺と勇者はリディアに用意させた魔道具に乗り込むと【聖魔剣】の力で空を駆けて行き【剣神国】を目指したのである。俺はリディアを呼び出しリディアに【魔剣グラムシュバインヴァイス】を渡すと、リディアの体を魔素に変換してもらう。リディアにその魔剣の能力を詳しく説明する時間はなかったが、【剣聖術】を極めているので大丈夫だろう。そして勇者にはその魔剣の使い方を説明する。【魔剣グラムシュバイスヴァイス】の能力は勇者にも説明済みだが【魔剣グラムシュバルツヴァイス】の能力は伝えなかった。勇者は俺の説明を最後まで聞いていたがその能力を聞いても驚かずにその剣を扱えるようになっていた。そうしてリディアが消えてから数分後に魔剣の力を使ったことで【剣帝】の能力が覚醒したのであった。そして俺はリディアとリディアスが話している声を聞くとリディアスと会話を始めるのであった。

(私達の【魔剣】は【剣聖術】を使う時に使うのは知っていたけど、まさか融合することで【魔剣】そのものを武器にできるなんてね。確かにそうすれば【剣神】でも扱えない強力な【魔剣】でも問題なく使用できるわね。そうやって考えてみると【魔帝】と【魔剣聖】の力を使える剣は【剣神】が持っていない能力が使えるわけでかなりすごい能力を持っている剣だということがわかってきたわ。ただ【剣神】が使えないだけで、その【剣】自体は相当な力を有しているのよね。もしかしたらその【剣】を扱える勇者さんも相当な実力者なのかも)

そうしてリディアが俺と勇者との【魔剣グラム】について色々と教えてくれたが、リディアが最後に言った言葉が俺には引っかかったのである。リディアはその言葉を最後に黙ってしまったのでリディアが勇者と【魔剣】のことを教えてくれてもそれ以上のことは聞くことができない状況だったのは言うまでもないだろう。

「リディアはもういないんだな。リディアがいなくなった今【魔剣】の力を引き出せる者は勇者だけだ。これからよろしく頼むな、俺の新しい相棒!」

俺は勇者に向かって話しかけたのだが返事はなかった。おそらく緊張していたのだろう。勇者の顔を見てみたところ額に汗が滲んでいたのだ。その姿を見て少し微笑ましい気分になったのだが勇者がいきなり俺の腕を掴んだかと思うとその腕を引っ張りそのままどこかへと歩きだしたのである。

勇者が急に動き出してしまったせいで、リディアから受け取った【魔剣グラムシュバインヴァイス】を落としてしまうが俺は【魔剣】と一体化していることを忘れていたのだ。そのことに気がつくと俺は急いで【グラム】を手元に呼び寄せたのである。【グラム】を手に取ると俺はその剣に宿る意思を感じ取ることに成功した。どうやら【グラム】と勇者の【魔剣】には相性があり、俺と【グラム】は相性が良いようで俺は安心できたのだった。俺はそんな【グラム】を見ながら、自分の中にもう一つの存在があることを確認するのであった。

俺は【剣帝】の能力が使えたことにより俺の身体能力は大幅に向上し、勇者は【魔王の魔力】を使いこなせるようになっていた。俺達はこの力のおかげでかなりの速度で【剣神】が住む【剣城】を目指すことができそうであった。

「なあユー、俺は思ったんだけど俺とお前の【魔王の魔力】を使えばもっと早く【剣王】がいるという場所に行く事ができるんじゃないか?」

「たしかにそうだな、俺はこの力を扱い切れていないがリディアスの話によると俺と勇者が力を合わせて【剣聖技】を使えば剣の力を解放することができるって言っていたよな。じゃあそろそろ行くか!」

俺は勇者にそういうと、勇者と二人でその技の準備に入った。俺と勇者はそれぞれに持っていた魔剣を構えたのである。俺達はそれぞれの【剣】の【力】を解放していき俺は魔剣の力を勇者は自分の中の【魔】の力を解き放ったのである。そうすると勇者の体の色がどんどんと変わっていき、勇者の纏うオーラも黒に染まっていったのである。

俺の方も【剣魔】と【剣聖】の力が俺の体の中に流れ込んできたのを感じた。俺の体は淡く紫色に光始めそして次第に強くなっていきやがて全身が紫色に輝く。俺の体に【魔剣グラムシュバインヴァイス】の【力】が流れ込んでいるのを感じる。【剣聖技】を使おうとしているのだろう。

「さぁユー!行くぜ、これが俺達の奥義だ!【聖魔剣術】【剣舞】!!」

俺の魔剣の力と勇者の持つ【魔剣】とリディアスが残した剣の能力を同時に使うと俺達は一つの生命体として【剣聖】と【魔王】の力を使うことが可能になったのである。俺の身体中からは紫色のオーラが立ち込め、俺の周りを紫色の球体のようなものが出来上がっていた。そして勇者が持っている【魔剣グラム】も光始めると、勇者の周りにも俺と同じ色のオーラが現れたのである。その光景を見た勇者は驚きの表情を見せていた。どうしたのだろうか?そう思いながら俺は勇者と【魔剣】を見つめていると、どうやら俺と同じようなことが起こっているようである。俺の視線に気づいたのか勇者はこう言い放つ。

「ユー、なんか僕の魔剣がすごく熱いんだよ。これは一体なんなんだい?それにユーのその体に浮かび上がったその文字は何を表しているのだい?」

「どうやらこの技を使うことによって魔剣の力は解放され本来の力を発揮できるようになるようだ。俺にはその【力】の文字はわからない。多分この技を発動するために使う能力みたいなものだと思うが」

俺は勇者に答えると続けて話す。この【聖魔】は【剣聖技】の上位互換のような感じであると思ったのだ。勇者も同じ考えを持っていたようで俺の考えに同調してきた。俺達は【剣聖技】を使うことにより新たな能力を手に入れたようだった。俺の頭の中では二つの【力】を使うことができるのである。そしてこの【魔剣グラムシュバインヴァイス】が俺の手に渡ってきて初めて使うことに成功をした【剣魔融合】が使えるようになった。俺は勇者にその事を簡単に説明したがやはり勇者もよくわからなかったようで、とりあえず今は【魔剣グラムシュバインヴァイス】を使えるようになるために練習をしないといけないと思っていたらしい。俺がそう考えていると【剣聖】が勇者に対して俺達が【剣魔融合】と呼んでいるこの技のことを詳しく説明すると言ってくれたのである。俺のこの魔剣の使い手が【剣魔剣人】となった勇者だけなのは間違いないので【剣魔剣】という能力がどういうものなのかよく分かっていない。しかし勇者に説明してくれるというなら勇者は俺より知識を持っているはずなので、俺は勇者にお任せすることにしたのである。

そうして【魔剣グラムシュバイス】に秘められた真の力を発揮したことで俺と勇者はさらなる強者になることができたのだ。ただ勇者は未だにうまく扱えないらしく【魔剣】はずっと震えていたのであった。そんな時俺と勇者の前に【魔獣王国ソードキングダム】が見えるようになっていた。しかしそこには見慣れない生物がいたのであった。

俺達の前に突然現れたのは見たこともない生き物だった。見た目は爬虫類っぽい姿をしていて鱗の色が赤茶色である。しかしその大きさは象を余裕で超えていてしかも背中にはドラゴンの様な大きな羽が生えているのであった。

俺はこんな生物は初めて見るが、どこかで聞いたことがあるような気がする。もしかすると【剣魔】が言っていた剣が作り出したと言われる生物なのかも。

俺はそう判断して【剣聖技】を発動させ目の前に現れた魔物に攻撃を仕掛けることにした。俺と勇者が同時に【魔剣】を横に薙ぎ払うように振るとそこから【聖魔剣波】と呼ばれる技が飛び出していく。俺達の放った技はその化け物に命中はしなかったもののかなりのダメージを与えたようである。俺はさらに追撃をするべく勇者に合図を送ると勇者も俺の行動を察したようで、二人で協力して【剣聖】と【魔剣】を使うのであった。俺がまず先に勇者に攻撃するように指示を出し、俺は勇者の攻撃に合わせていく形で攻撃を仕掛けるのである。勇者は俺の攻撃を予測しながら避けた。俺はそんな勇者に合わせながらタイミングを計り、隙ができたところを攻撃することにしたのである。そしてしばらく勇者と戦っていたが一向にダメージを受けてる気配がしなかった。むしろこちらが一方的に攻撃を受け続けているのである。

俺はなぜここまで強い相手に勝てないと不思議で仕方がなかった。俺はこのままではジリ貧だと考えると一度距離を取ろうと思ったのである。

俺のそんな様子を見た勇者はすぐに俺の考えを理解してくれたみたいだ。そうして俺と勇者はその場を離れようとしたのだがその化け物はそれを許さなかった。俺と勇者がその場から離れようとすると、突如口から何かを発射したのである。それは俺達に向って一直線に飛んできた。勇者はその攻撃をギリギリで避ける事に成功し俺はそれを避けることはできなかった。俺に向かってきたその物体に直撃し、俺の体はその勢いのまま地面に衝突した。俺が地面にぶつかった衝撃音を聞いて心配した勇者だったが、俺はその一撃を受けてしまったためかなり体力を削られてしまっていたのである。

「大丈夫かユー!」

勇者が駆け寄ってきて俺に声をかけてくれているのが分かるが、勇者に返事をしてあげられるほどの気力は俺に残されていなかった。

俺の身にいったい何が起こったというのだ。あの攻撃は明らかに今まで戦った敵の中でトップクラスに強かっただろう。その攻撃を受けたにもかかわらず俺はこうして生きている。普通であれば間違いなく死んでいただろう。その事に違和感を覚えた俺は自分が何をされたのかを確かめることにした。俺は自分の体を確認すべく、先ほどまで倒れていたところを見てみるが、そこには何も起きていなかったかのように地面がえぐれていること以外は何も異常がないように思えた。だがおかしい、確実にさっき俺は何かをされていたはずだ。俺は自分になにが起きたのかを考えつつ周りを注意深く観察してみると俺はこの場所に魔法が掛けられていることに気がついた。俺はそれを認識した瞬間、俺の視界にウィンドウが現れ俺のステータスを確認することができるようになっていた。どうやらこの世界に来てから俺は俺自身のスキルがなくてもある程度【力】について理解できるようになってきたのかもしれない。そして今の状況を整理したところ、勇者にも【剣魔】の能力がある以上、【剣魔融合】を使えば【剣聖】と【魔王】の能力を使って戦うことが可能になり勇者と俺に圧倒的な力が備わっていることがわかった。だから勇者と【魔剣グラムシュバインヴァイス】を使えば【剣聖技】と【魔王技】を同時に使うことが出来るのではないかと思い勇者にそのことを提案することにした。すると勇者も同じようなことを考えていたようだ。

俺が勇者と話し合いをしようとしたその時、勇者の背後から巨大な岩が落ちてきた。それにいち早く反応できた勇者は俺を庇うような形で前に立ちその岩石を防ぐ。そしてそれと同時に勇者の後ろにいた俺も、俺に覆いかぶさるように守ってくれた勇者も二人揃って上空に飛ばされてしまったのである。その衝撃は凄まじく俺は意識を失いかけていたが、俺はそこでようやくこの世界になにが起きているのかを理解することが出来たのである。俺はその状況を把握した後、勇者にこの技の説明をする。この技はこの世界ではまだ完成していなかった【剣魔融合】なのだということを。この【剣魔融合】は二つの【力】を融合させた状態で放つ技であると俺は勇者に教えた。この世界の技ではないが【魔】の力は俺にもあるので俺達二人が協力することによって放つことができるのだと俺は勇者に言うと、この技を完成させるための作戦を勇者に話し俺達は行動を開始したのである。

そうして俺と勇者は空高く飛ばされ、俺は勇者に話していた通りに勇者と手を繋ぐことで合体技を発動させようと考えた。

「ユー、僕は今から君の【魔剣】と【剣聖技】を【魔王技】に変換する作業を行うよ。君はそのまま僕の体に宿った魔剣グラムシュバインヴァイスの【力】を使い僕に攻撃を加えてほしい」

勇者が俺に話しかけてくるが俺は【剣魔融合】の発動に集中していてそれどころではなかった。俺は勇者の言葉を聞かなかったが、俺の考えが分かったようで勇者も俺のやりたいようにやればいいとだけ伝えてきて、そのまま集中するように言われた。俺は俺の体に触れてきた勇者に【剣聖】を発動させながら俺が考えていたことを勇者に説明すると、勇者は俺の意見に賛同してくれた。

「よし、これで準備は整ったね。ユーこの技は名前をつけてみないか?」

「そうだな。確かにこれから放とうとしているこの技は名前をつけていない。それにこの【力】がどんな能力かもわかっていないからこの技の名前は考えておく必要があると思う」

俺は勇者に言われてすぐにこの【剣魔技】の名前を考えることになった。しかし【魔】と【力】を組み合わせた名前のいいものが思いつかない。どうすれば良いんだ?

「ふむ。どうだい?この【魔剣グラムシュバインヴァイス】を使ったこの合体技の名は、【剣魔融合】でどうだろうか?君はネーミングセンスがなさすぎるんだよ」

「そ、そうか、すまない。でも【剣魔融合】という名前はカッコイいな。それにこの名前でいこう!俺もその名前が気に入ったぞ!」

俺は俺の代わりに【力】の名前を命名してくれた勇者に感謝をした。【剣魔融合】それが俺と勇者の共同で作った新しい技の名だ!俺はそう決心した後、俺たちは同時に技を発動するべく動き出したのであった。俺は頭の中で二つの力が混ざるイメージをし俺の持つ【力】にもう一つの【魔】の力を上乗せしたのだ!そして俺は、勇者に俺が持っている【聖剣聖闘圧剣】の全てを込めて攻撃をし、勇者に【聖剣魔王斬破波波】という必殺技を使わせることに成功したのである。

【剣魔】の【聖魔剣波】に勇者の【聖剣魔聖波動】をプラスしたことで完成したその攻撃は凄まじいものだった。俺は勇者が放った剣の衝撃波に乗りさらに上へと上昇していく。その攻撃は一瞬にして目の前にあったものを吹き飛ばしていった。俺は吹き飛んでいる途中で下を見てみると、俺達の攻撃を受けたその場所は大地が大きくえぐれてクレーターになっていたのであった。そして俺は勇者と目があったあと互いに微笑み合い無事だったことを喜び合う。

俺はそうやって勇者との会話を楽しんでいたが、俺と勇者の体はいつの間にか落下をはじめていた。どうやら地上は俺達が想像しているよりもかなり近かったらしい。このままでは地上に激突し、死んでしまう。俺はなんとかしなければと思い周りを見渡すと俺は偶然にも勇者が持っていた剣を見つけることができたのである。その剣は先ほど勇者に【聖剣グラムシュバインヴァイス】を渡した際に【剣魔融合】によって俺の手元にやってきたものだ。俺は咄嵯の判断で勇者の剣を掴もうとしたが、それは俺の手が届くことはなかった。

なぜなら俺は既に地面と衝突していたからである。勇者の放った攻撃の影響もあったのだろうが地面に叩きつけられた俺達はその勢いを殺すことができず、俺は何度もバウンドしながら地面を転がり、やっと止まることが出来たのである。だが俺はそこで意識を失ってしまったのであった。俺は薄れていく意識の中で勇者が必死に何かを叫んでいる姿が目に映っていた。しかしその声がどんどん小さくなっていくのと同時に俺の耳に入ってくる音も無くなっていった。

そしてついに俺の視界が完全に真っ暗になったのである。そう俺は気を失ったのだ。その後、勇者の声を聞くこともなく完全に目を覚ますことは無かったのであった。

俺は死んだはずだった。俺の魂が消える前に俺はこの世界に【転生】したときのことを思い出し、なぜこうなってしまったのかを考察することにした。俺の記憶に間違いがなければ俺はあのとき勇者の攻撃で死んでいない。俺は勇者と融合した時に【聖剣聖魔剣波】を俺自身が使うことはできていなかった。ということはあの【力】を俺は制御しきれなかったのだろう。そしてその結果、俺は勇者と一緒に吹き飛びその勢いを止めることが出来ずにそのまま地面にぶつかりその反動により気を失うことになったのであろう。それならば納得できる。

だがおかしい、それなら俺はどうして今も生きているんだ。確かに俺が【聖魔】の力を使い【剣魔融合】を試したときに勇者は勇者の剣【聖剣聖覇剣】に【魔剣】として俺の【力】を融合させることで、勇者が持つすべての能力を使える状態にした。それによって俺が勇者と合体することで得られる全てのスキルを使うことが出来るようになった。つまり勇者の剣と合体することで俺は勇者と同じ状態になれる。俺はそのことを知っていたから勇者に【聖魔聖剣剣舞刃】を撃ってもらい【魔剣】である俺が【聖剣】と合体した時に出てくる【力】を勇者の剣に送り込んでもらったのだが、どうやら勇者が勇者自身の持つ剣に【魔剣】の【力】を込めることで、勇者は【剣聖】の全ての力を使用することができる。だが【魔剣】に融合された【力】を勇者自身の剣に乗せるという方法を取ったことで勇者自身もその【魔剣】に融合された【力】を取り込むことができなくなったのだろう。俺はそんなことを予想していた。

俺はそう考えてからしばらく時間が経つとその疑問の答えがわかり、勇者と融合したときと同じように再び俺は融合することが出来るのではないかと推測した。そして俺はそれを実践してみる。俺がもう一度融合することをイメージした瞬間、突如俺の体が輝きはじめ光の中から俺が出てきたのである。俺が出た瞬間、俺と目が合ってしまう。そしてその瞬間、俺は俺に殺された。「お前がユートだね?僕の可愛い妹を拐っていった奴はさ」

俺の前には美しい少女がいる。しかし、彼女は人ではないようだ。彼女の周りには常に霧のようなものが発生している。そのことから、彼女の種族が人間でないことがうかがえる。

「そうだけどあんた誰?」

「へぇ、私の事をわからないんだ?ふーんまぁいいけど。僕はね魔王の妹なんだよね」

「魔王の妹か、じゃあ敵なのか?」

「うん。私はね兄さんを殺した勇者が大っ嫌いなの、だから君には死んでもらうね」

その魔王の妹と名乗った少女はそういうといきなり攻撃を仕掛けてきた。

その速度は尋常ではなく、目にも止まらぬ速さであり避けることは不可能に思われた。だがその攻撃も俺に当たる事は無かった。なぜなら俺はその少女の攻撃を受け止めたから。

「は?」

魔王の妹を名乗った美少女はその攻撃を受け止められたことが信じられなかったのか驚きの表情をしている。

俺は魔王の妹の一撃が自分に到達するより早く、俺は反射的に身体強化と筋力強化の魔法を同時に使ったのだ。しかしそれでもまだ足りないと判断し魔力で肉体を強化してから俺は拳で迎撃をしたのだ。その結果俺は何とか受け止めることに成功していた。

俺は受け止められたことに対して魔王が呆然としている間に俺は追撃を加えようとした。

「ちょっと待った。私にこれ以上手を出させるな!」

そういって魔王の妹を名乗る少女が叫んだ瞬間俺と魔王妹の間の地面が爆発し砂埃が巻き起こる。そして魔王の妹は俺から距離をとったのだった。そのおかげで俺はその隙を逃すこと無く攻撃を加えることができた。魔王は俺に攻撃を加える暇もなく俺に殴り飛ばされていた。そして魔王が吹っ飛んで行った先は崖になっていた。

「ぐぅああぁぁ」

「どうしたよ魔王さんよぉ、もう終わりか?」

俺は魔王に向かってそう言い放った。すると俺の言葉を聞いて魔王の瞳が俺をとらえる。

「は、僕がやられっぱなしだと本当に思ってんの?」

魔王は笑いながらそう言った後、その言葉を最後にその場から消えた。

しかし消えているのはあくまで見た目だけで、俺はこの魔王の実力の高さから油断せず警戒を緩めることなく周囲に注意を払っていた。そして俺は先ほど俺がいた場所から後ろに飛び退いていた。

「ちっ!よく避けれたねぇ。それになんで僕が移動したことに気付いたのかな」

「そりゃあ、気配を感じただけだ」

「ふふ、君は面白いことをいうんだね」

そう言って笑う魔王に俺が剣を突き立てるが、やはり避けられてしまった。

「くそ、ちょこまか動きやがって」

そう俺が言うとまた魔王は笑っていた。

俺と魔王の戦闘が始まった頃、別の場所でも戦闘が起こっていた。

それは俺が先ほど召喚を行った部屋で行われていた。そこには金髪の男とそれを取り囲む複数の兵士達の姿があった。

その男の名はレイジ。この国の王である。この王の名は、ラオ=レイフォードという。この王は勇者であるコウイチロウの師匠である。そしてコウイチローが召喚された日に勇者は行方不明になり今に至っている。

「貴様、何故こんなことをする!答えろ!」

そう兵士のリーダーらしき人物が叫ぶ。

「うるさい。邪魔だ」

そして魔王は、それだけを言い残し一瞬にしてリーダーと思われる男の目の前に移動をしていた。そして次の瞬間その男は魔王に斬り殺されてしまう。

その様子を見た兵士たちが、「ひぃぃ。こいつ強すぎるぞ。皆、退却しろ!このままでは全滅してしまう。今は撤退すべきときだ!おい誰か、隊長に伝令に行け。ここは一時撤退すると伝えてくれ!俺達だけではどうにもできない、応援を呼びに行くんだ」

その兵士がそう叫ぶと周りの者たちも一目散に逃げ始める。その逃げていく者達の中に一人の少女と、それに抱えられている一人の少年と犬のような生き物がいた。この場に残ったものは全員、この世界最強の五人とそのペットだけになってしまったのであった。

「ふむ、この程度ですか。所詮この国は勇者とかいう化け物に頼り過ぎなんですよ。少しは努力すれば強くなると思うんですが、その前に死んでしまうとは情けない話ですね。勇者に頼りきりだった弊害でしょうね。勇者に頼らずとも勝てるくらいに強くならないとだめなのに、それが出来ないようですし、この国の行く末が不安に感じてきましたよ。まぁ、そんなのは僕の関係ないことですが。さてあなた方を殺し、勇者は殺せないと思いますが、他の者は皆殺しにしちゃいますかね。その前にその女の子だけは捕まえておきましょう。僕のハーレムに入れてあげますよ」

魔王はこの国を滅ぼすことに決めたらしく、先ほど逃げ出したものたちを追っていこうとしていた。

「あら、逃げるなんてつまらないじゃないの」魔王は背後から突然話しかけられて驚きのあまり振り向いたがそこにいた女性を見て更に驚くことになった。

なぜならばそこにいるはずのない存在が立っていたからだ。しかも彼女はつい最近殺したはずだったからである。彼女は魔王の妹である魔王リリスでありその彼女がここにいるという事実に魔王はさらに混乱したのだ。なぜならその死体は確認済みで間違いはなかったのだ。そして魔王は彼女に殺されたときに自分の力の一部を切り離しそれを核として人形として蘇らせたのである。そのため彼女の姿形はそっくりそのままなのであった。しかしそれでもなお彼女の強さを身に染みて理解している魔王には、彼女の放つオーラが以前の彼女と全く違うということにすぐに気がついた。

そしてそんな魔王を気にすることもなくその女性は口を開く。

「私に不意打ちが通用すると思わない方がいいわ。それよりもあなたのそのふざけた考えは、気に食わないの。だから、ここで死になさい」

そして、彼女は瞬時に魔王の前から姿を消すと次に姿を現したとき、魔王は首を斬られていたのだった。

「さぁ行きましょ?私の可愛いお嫁さん、あの人のところにね」

そう彼女は、リリスが呟いたのであった。その言葉を拾ったものはいなかった。しかし、その場に残っていた一人と一匹には聞こえたのであろう。その表情は驚愕に染まっていた。

魔王が倒されたと報告を受けたとき僕は心の底から驚いた。そしてそれと同時に歓喜した。

やっと魔王を討伐してくれる者があらわれてくれたのだから。これで勇者である僕が殺されることはなくなったと安堵した。

「は、僕がやられっぱなしだと本当に思ってんの?」

僕に向かってそう言ってきた勇者に僕は思わず笑い声がこぼれてしまった。勇者はそんな僕の様子にイラついたのか怒りの感情をあらわにしていたけど僕は全く怖くなかった。だってそうだろう。魔王を簡単に倒した勇者がいくら怒ろうとも、僕にとっては大した問題ではないのである。勇者と魔王の戦いにおいて、僕たちが介入出来る余地などあるはずが無いのだ。それにも関わらず、勇者が僕のことを敵視していることがおかしくって、笑いを抑えることが出来なかったのだ。しかし流石にこのまま笑っていてはまずいと思ったので僕は冷静さを保とうとする。

「ははは、ごめんね。君があんまり滑稽なものだから」

僕は素直に謝った。

「お前は自分が強いと思っているんだろうけど、それは勘違いだよ」

「そうなのか?」

「ああ、そうだよ」

「なら、僕も勇者と融合したら勇者より強くなれるって事かな?」

「融合?」

「うん、君を取り込んだ時に僕も一体化して君の力と能力を一部得たんだよ。僕も今では魔王だから」

「そうか、でも今のお前の力じゃ、俺より弱いんじゃねぇの?」

僕がその言葉を聞き固まっていると勇者の姿が一瞬にして消えていて気づいた時には既に僕の首元には剣が突きつけられていたのである。その事実を認識しながらも僕の思考は追いつかずにいた。

「なんで」

「お前があまりにも弱すぎるからだろう」

僕は悔しくて仕方がなかったがどうしようもなかった。僕が弱いという事は今までの僕の戦い方を見てもらえれば分かってもらえるはずだ。それに加えて僕自身も、僕の力を試すためにこの世界にやって来てからは戦いに参加していない。そのことがさらに拍車をかけた結果になったのだと思う。そして、そのことが理由で負けた事がどうしても許せなかった。その事を自覚すると今度は抑えきれない程の殺意が生まれてくる。そしてその衝動のままに勇者を殺すことを決めた。

まずはその手に持つ剣を奪ってしまおうと剣を持っている腕に手を伸ばすが剣を持つ手が動くことはなくその剣を放すことは無かったのである。

それからはひたすら勇者の攻撃を避け続けたがそれももう限界を迎えつつあった。

「そろそろ死んでくれや」そう言って再びこちらに接近して来たところで突如地面が爆発し土煙で視界が悪くなると同時に何かを察知することができたので反射的にその場から離れた。次の瞬間その僕のすぐ傍を魔王妹を名乗る女性が高速で通過していったのだがそれは一体なんだと思いそちらの方角を見るとそこには魔王妹と名乗る女性の足があったのである。そこで僕は魔王妹の能力の一つを理解したが同時にもう遅いことも分かっているため抵抗する意思を放棄した。魔王妹を名乗る少女に蹴られた魔王兄は吹っ飛んでいったが直ぐに態勢を立て直すと何事も無かったかのように戻ってきた。しかしそこには先ほどまであった自信に満ちた顔は無く代わりに絶望に彩られきていたのである。

「嘘だろ、俺様がこんな女に負けるとかありえないだろうが!こんなことありえてはならない。何故だ?何故こんなに俺の力が弱くなっているんだ?おかしいじゃないか。この世界の最高神を殺したというのに」

そんなことを言っている魔王を見て僕は魔王が何を言ってるのか理解できなかったが一つだけ分かることがあった。どうやら魔王はまだ力を取り戻し切れていないようだ。魔王の妹はそれに構うことなくゆっくりと魔王の元に歩いていき魔王のことを睨みつけていた。そして一言、

「貴方って醜いわね」

そう言うと魔王は顔を真っ赤に染め上げて激怒していた。その姿はまるで、子供のようだった。

魔王は勇者との戦闘に敗北し勇者がこの世界に来る前の姿に戻るまで、勇者の意識の中に入っていた。

そして今、この世界の最高神の身体の中にいた。そしてそこにはこの世界で最強と呼ばれている五人と一匹の魔物がそこにいた。

勇者はこの国の姫様が襲われそうになっているのを助けて魔王と戦うことにした。そして俺は、その光景を見ながら少し離れたところでその成り行きを観察する。何故ならば魔王に攻撃を当てれそうにないし下手に魔王の気を引く行動を起こして、巻き込まれるのは避けたいと思っていたからだ。まぁそんな俺の考えなど、あの人達には関係のないことではあるのかもしれないが、それでも俺は、面倒ごとに関わりたくないというのが正直なところである。

そんなこんなで、結局、戦うことになるのだが、俺とあの人たちとの戦力差を考えてみるとやはり魔王に軍配が上がるのではないだろうかと考えていたが、しかし、結果は魔王の惨敗。その現実が信じられないのか、勇者は唖然とした表情をしていた。

「そんな、バカな」そう言い残し魔王が吹き飛ばされていった。その様子を見た俺は勇者に声をかけることにした。そして話しかけようとするが勇者はすぐに切り替えたようですぐに次の相手と向かい合っていた。しかし俺はそんな勇者に対して、魔王の心配をしてあげないと不公平になるような気がしたので、一応、魔王のことは、気にかけつつ勇者に声を掛けた。勇者はすぐに、こちらを振り向いてくれた。そして勇者は魔王がどこに行ったか知らないかどうか聞いてきたが俺は知らなかったので勇者の疑問に答えることが出来なかった。すると、勇者は突然走り出し何処かに行ってしまった。

そしてしばらくして勇者は魔王の武器を持って帰って来たので俺は魔王が倒されたことを勇者に伝えたのだった。

勇者が魔王の持っていた武器を使って魔王と戦い始めた。しかし勇者は、魔王の使っていた魔法についていけていなかった。そもそも魔法の属性相性の問題もあるだろう。そして何よりも勇者には、魔王のように戦闘を楽しむといった心がなかったように思える。ただ勝つためだけに剣を振るっているのであろう。だから勇者が魔王を圧倒することなんてできないし逆に殺されてしまうのではないかと俺は思っていたのだ。そんな風に考えていると遂に決着がついたようである。魔王の持っている聖剣にヒビが入りそして砕け散ったのである。

そして勇者は魔王に止めを刺そうとしていたが、それを俺が邪魔することにした。

勇者はいきなり現れ自分の目の前に居る人物を警戒心を強めていたが、それでも俺が敵であるということに変わりはないと思ったのか直ぐに剣を構え直しこちらに殺気を向けてくる。しかしそれでもなお勇者の顔から余裕が消えたわけでは無いので恐らく、まだ何か隠し玉があるのだろうと思った。そしてその通りであったのか勇者が何かを唱えるとその体が発光し、次の瞬間、そこには人化した状態の魔王が現れたのである。

そのことに驚きながら魔王が勇者に向かって行くが流石に勇者が反応できずそのまま押し切られる形になった。

しかし勇者には傷どころか息切れさえ起こっていなかった。

それを見た魔王が何かに気付いたようだったが勇者はお構いなしに攻撃を仕掛けた。魔王はどうにか攻撃を防ごうとしていたが勇者の攻撃が魔王に当たることは無かった。勇者の攻撃が全て空振りに終わったのだ。その様子に魔王も戸惑っていたが俺はその答えを知っていたのである。勇者と魔王の戦いは最初から勝負になっていないのだ。なぜなら魔王は、自分がどれだけ戦えるかを試したくて勇者と戦っているのに対して、勇者にとっての目的はこの世界を滅ぼさないために魔王を倒すことである。そのため全力で殺しに来ていても魔王を殺せないのであれば勇者にとっては、本末転倒になってしまうのだろう。魔王と勇者の戦闘が始まった。まず最初に勇者が動いたが、魔王が一瞬にして姿を消してしまったのだ。勇者は、辺りをキョロキョロと見渡している。俺は、その様子を見守りつつも勇者の背後に移動していく。勇者に気付かれないように。

「そこだ!!」そう叫び勇者が後ろを向いたがそこには誰もおらず困惑した表情を浮かべている勇者に向かって魔王が回し蹴りを放つと、その勢いのまま勇者の体を吹っ飛ばしたのである。勇者が地面と平行に飛び続け地面にぶつかると、そこで止まったが流石勇者というべきかその体は何事もなかったかのように立ち上がる。しかしその顔には驚愕の色が見え隠れしておりかなり焦った感じで俺と魔王を見てきた。しかし魔王が追撃をしないので俺も何もしなかったが、流石にこれ以上攻撃しても意味が無いと考えたのであろう勇者が降参を宣言してきた。

勇者は降参宣言後その場に座ってしまったので、どうしようかなと思っていたのだが、その時ちょうどいい機会だとばかりに姫が、こちらにやってきた。どうやら俺達三人で話し合いがしたいそうだ。勇者も一緒に来るらしい。そこで俺たちが話す議題は二つあり一つは、先ほどの勇者の件についてでもう一つはこの世界に現れた魔王の事と魔王城に住む者達の今後をどうするのかという話だった。

まず魔王の件だが勇者が仲間になったことだしもう大丈夫なのではないかと言ったのだが姫はそれを否定して、もしもの時のために備えて魔王城の皆の安全を確保しておきたいと言いだした。その言葉に勇者が驚いた顔をしていたが特に反対することもなかったので、勇者は、魔王と一緒に城に帰って行ったのである。そして次に勇者にこれからどうするつもりなのかと質問すると、勇者としては一度王都に戻るつもりのようだ。

それなら丁度良いので勇者に王都まで案内を頼むことにすると勇者もそれについては問題ないようで、快く引き受けてくれた。その話が終わったのでそろそろ帰ろうかと立ち上がったのだが、何故か姫に腕を掴まれ動けなくなってしまった。しかもその後なぜか俺だけ、勇者に背中を押し出され部屋を出て行ってしまうことになったのである。そして姫は俺に、

「あの男をよろしくお願いします」

そんなことを言っていた。俺はその事にどういうことか問い質そうとしたが既に姫はどこかに去って行ってしまっており、仕方なく、先程の部屋に戻ると、そこには既に先客が居た。魔王だ。

「久しぶりじゃな。まさか、またお前さんと会えるとは思ってなかったぞ」

「あ、あの、魔王様。どうして此処に?確か先程城に戻って来られたと記憶していたのですが。あと先ほど私の事を『お前』って呼んでませんでしたか?」

そう言った魔王の口調はとても優しくそしてまるで友達のような態度になっていた。そして魔王が何故ここに来たか聞くと魔王は、勇者と戦うためと言ってきたのでそれは流石に止めた。そして俺はそのことについて詳しい説明を聞くことにした。

どうやら勇者と戦うというのは建前で本当の目的は勇者とこの世界で最強の称号を持っている者の二人と模擬戦をするということだったようだ。

そして今、この部屋にはその二人の人間が来ていた。そして今まさに戦闘が始まりそうなのだが、俺にはその戦いに介入することはできないので大人しく傍観することに決めるのであった。

「ふぅー、ようやくここまで戻ってこれましたよ」そう言いながら俺の方を見てきているのは、俺が勇者の仲間として同行することになった時に紹介されたあの受付嬢である。俺は、あの時から結構な時間が経過しているがどうやらやっと目的地に到着したようだ。しかし、この迷宮は、この国の中にあって最も攻略難度の高い場所である。そんな所に何の目的があってここに来たのだろうかと気になったので理由を聞いてみたところ、何でも最近、冒険者の間で妙な噂が流れ始めているのが原因らしい。その噂の内容は簡単にまとめると、この迷宮の中で見たこともないような魔物が出現するというものだったらしい。

それを聞いた俺はその話が本当ならば、この国にある魔王が作り出した迷宮を探索するのに十分な準備をしなければとすぐに行動を起こしたのだが俺はそのことにあまり気が進まなかった。確かに、あの時の俺は勇者の仲間であったが今の俺は、その立場から解放されたのだ。だから俺は、勇者に付いていく必要はないしそれに俺は勇者の足手まといになりたくはない。そして俺自身、自分の身を守りながら戦うことが出来るようになったと思っているのだ。

そんな訳なので俺は、迷宮の中に入る前にギルドに行ってみたのだが、俺の姿を見るなり職員たちが、すぐに集まってきて俺を逃がすまいと囲ってきたのだ。そんな彼らの対応に俺は、内心面倒くさいなぁと思っていたのだが仕方ないと思いつつ、とりあえず彼らに用があるのだからと話をするためにギルドの中に入り込んだ。

そしてそれから少しの時間が経過したのだが一向に彼らは俺を解放する様子が無かったので困っていたところそこにギルドマスターがやって来て彼らを解散させてくれたのである。俺はそこでギルド長に礼を述べてその場から離れようとしたところで呼び止められてしまいそのことに首を傾げながらも振り返る。そして俺は彼の話を聞いたのだがその内容に思わず目を見開いていた。というのも俺は彼が何を言ってきているのか分からずにいたのだ。その様子にギルド長は、そのことについて詳しく教えてくれた。どうやら俺にはギルドに登録して欲しいとの事で俺はその頼みを聞き入れた。俺は今まで冒険者をしたことなんてないしそれどころか人を傷つけるような仕事だってしたことがないのにいきなり登録してほしいと言われても無理に決まっているのだ。俺はそれを彼に伝えた。すると彼はそれについても詳しく話し始めてくれて、なんとギルドに新しく出来る支部を任せたいと言う事だった。俺がそんなことを言われても正直迷惑でしか無いと断ったのにも関わらず、そのことについてしつこく勧誘してくるのである。しかし俺はそれを全て断り続けた。結局の所は俺が、あまりにも断っているからか諦めたらしく今日はこの辺で帰るといいとまで言われたのである。だからその日はおとなしく帰宅するのだった。

次の日の朝俺はギルドに行くために家を出た。俺の家は決して裕福ではない。そのため、あまり高い家賃を払ってくれる物件など無かったのだがそんなところに俺は偶然出くわしたのである。俺はその部屋が空いていると聞きその部屋を借りることにした。しかしここで一つ問題が発生したのである。その物件の場所は、ここからとても遠い場所にある場所で馬車を使っても二日近く掛かるのである。

それでもまあいいかと気にしないことに決めたのだが次の日から毎日その物件に通うことに決めて家を出発するのであった。そうこうしているうちにその家にたどり着くと、その家の主が出てきて俺の顔を見た途端いきなり話しかけて来たのである。

「おお、もしかしなくても、お兄さん、お客さんだね。俺はこの店の主をやっているものでお兄さんのことは前からよく知ってるんだよ。俺の名は、ガルスだ。お得意様になると思うから今後ともどうぞよろしく頼むよ」

と、そう言うのである。俺はそんな彼に一体どんな商品を売っているのか聞いた。

「俺は武器を売ったり修理したりも請け負ってたりする。この店の武器を気に入ったお客は皆お持ち帰りしてくれてるんだぜ」

「そうなんですか。私はまだこの店に来るのは初めてですけど、どういった物を取り扱っているんですか?」

俺は興味本位で、そういった事を訪ねてみるとガルスは笑顔で答えてくれた。

「うちの売りもんの品は全て魔法付与されている。つまりは魔法の杖みたいなものなんだが、その中でも特に売れている物の一つがこれだ。魔剣インビジブルソードっていうんだが、これは使用者の魔力に反応してくれる優れもので、そしてこの武器の特徴は見た目が全く変わらないこと、つまりは相手に気付かれることなく不意打ちが出来るというわけさ。ただ、使用中に敵と接触すると効果がなくなる。でも俺的には、接近戦に弱い相手に対しては、これくらい強力な方がいいと思って作ってあるんだけどどうだい?値段はそうだなぁ〜銀貨二十枚ってところかな」

そんな事を言っているので俺は実際に使ってみる事にした。

俺がそのインビジブルソードを腰に差した瞬間刀身が突然光りだした。そして、そのままの勢いで鞘から出てしまったので慌ててしまう。しかしその光景を見てガルスがニヤニヤしながらこっちを見ていたのをみて確信する。どうやらこいつは何かをやったに違いないと思ったからだ。そして案の定俺の考えは当たっていてこの武器の能力は、相手の攻撃を無効化してしまう効果を持っているということだった。だからと言って攻撃出来ない訳ではない。俺はガルスの隙を狙って攻撃を仕掛けたがあっさり回避されてしまった。そして今度はこちらの攻撃を避けられた上にカウンター攻撃で腹に一発喰らってしまった。流石に俺もこんなにアッサリ攻撃が当たるとは思ってなかったので動揺してしまったがすぐに冷静になって次に備えて行動に移ったのである。

そして再び攻撃を仕掛けるとまたしても簡単に避けられてしまう。その後も何回か同じようなやり取りが続き、ようやくこちらの狙いが分かったようだ。ガルスは急に後ろを向いて俺に背中を見せたのだ。それを見て完全に舐められているなと判断することにした俺は思いっきり飛び上がり、背中に向かって斬りつけたのであった。そして俺は、その攻撃によって決まったかと思い油断していたがそれは間違いであったことをこの後に知ったのである。なんとその攻撃に対して何も抵抗せずにそのまま攻撃を受けたにもかかわらず傷一つなかったのである。そして、俺は、自分の攻撃でダメージを与える事が出来なかったことで更に混乱してしまい頭が真っ白になってしまい動きが鈍くなってしまうのであった。そんな状態で、反撃を受けてしまい地面に這いつくばった状態にされてしまっていた。

その後何とか立て直そうとするも時すでに遅く、またもや俺は負けてしまった。そして、悔しがる暇もなく今度は、何故か戦闘訓練をすることになったのである。

まず最初に、俺は戦闘訓練を受けることになったが当然のことながら全く戦闘について知らなかったので基本的なことばかり学んでいた。

「そういえば自己紹介がまだだったね。僕はこの国の第二王子のレオネルだよ。これから仲良くしようじゃないか、それで、どうして僕と模擬戦なんかすることになったのか聞かせて欲しいんだよね」

俺は、彼の質問を軽く流しつつ話を進めることにした。

俺は彼とは知り合いであり仲も良い関係だとは思う。だが今回の件については、どうしても彼を巻き込むことは出来なかった。俺はそのことを彼に伝えてみたが彼はそれを信じてくれず俺のことを睨んできた。そしてその視線は段々と殺気のようなものに変わっていく。そして彼はとうとう怒り始めたのである。その様子を見かねた俺は仕方なく事情を説明してみることにした。

しかし俺の説明を聞いてくれていたはずなのに、それでもなお信じられないと否定してくるのだ。仕方ないのでもう一度俺の話を聞いて欲しいと言ったのだが、やはり駄目だった。そして彼が実力行使に出たことによりこの場は戦闘の場となったのだ。

「君はやっぱり僕のことが信用できないみたいだからね。今のうちに潰しておいた方がよさそうだ」

そんなことを言う彼を見ながら俺も本気でやろうと考えた。そして戦いが始まったのだが俺の動きがあまりにも遅すぎた為すぐに勝負を決めることが出来ていた。それを目の当たりにしたことでやっと俺の話が嘘ではなかったのだと考えを改めてくれたようだ。

その後は俺が今までどのように暮らしてきたのかを聞かれてそれに答える。その話を聞いていた彼は俺が今まで生活するのに不自由しなかったのか聞いてくる。そこで、俺は正直に話すことにすると彼も俺の生活が普通ではないことに気がついていたらしくそのことについて納得していた。それからしばらくの間俺は、自分の家に帰ることが出来ずに彼の家に泊まることになる。しかし彼の両親は快く俺を受け入れてくれていたので本当にありがたかった。そして俺が家に帰れないのは仕方ないとして彼の方からも親御さんが家に帰ってくるまでの間一緒に住まないかと言われたので俺としては助かると思いその提案を受けることにした。

こうして俺は、第二の故郷を手に入れることが出来たのだった。

私はいつものように仕事をしている。しかし最近はなぜか冒険者が増えてきていてその対応で追われている状況である。

そんな時にふと、あの時の事を思い出した。私がまだ新米だった頃の出来事であの時から私の仕事は増えていく一方で休む時間もほとんどなくなっていた。そんな生活をしていたある日のことである。

あの頃の私の担当は冒険者の受付嬢であるのだが、そんな私の下に新しい人がやってきたのである。名前は、ミザリアと言うらしいのだが見た目はどう見ても少女である。それにも関わらず冒険者たちの窓口を担当したいと自ら言い出したのだ。最初は断っていた冒険者達だったが、彼女のあまりのしつこさに根負けした冒険者が、彼女を受付に置くようにと命令を出したのである。それからというもの、仕事が増えるわ、仕事が終わって家に帰ってみれば夜遅いせいか旦那に怒られるわで大変な日々を送っていた。しかしそんなある日の事である。彼女が突然姿を消したのである。その事で彼女は、クビになったのではないかと皆思っていたようであったが実はそうでは無く彼女はある任務を受けていたと後々判明した。そんなこともあり彼女とは顔見知りになっていた私なので心配だったものの私では彼女の代わりは務まらないしそんな事はどうでもいいと思っていた。

あれから、もう三年ほど経過していて今では彼女も一人前の受付嬢である。そして最近では新人の育成も任されるようになったほど優秀な人材に育ってくれたのである。しかし今日は久しぶりにギルドに来てみると何故か冒険者の数が前よりも増えているような感じを受けた。しかしそれは、今日だけであって翌日からは元の落ち着きを取り戻しているはずだったのだが、何故か昨日からまた増えてきている。一体なぜだろうと思っているとギルド長である私が来ていることを聞き付けてなのか冒険者の一人がギルド長が居ると伝えに来たのである。その声を聞いた他の冒険者は、我先にと、私の元へ駆け寄ってくるのであった。

私は一体何が起こっているのだろうかと考え込んでいた。何故ならばここに来ていきなり大人気の状態である。しかしこれは嬉しいことでもあった。何故なら私が担当している場所には誰も来なくて寂しい思いをしているくらいだったので尚更嬉しかったのである。そうこうしているうちに次々と依頼内容が書かれた用紙が、どんどん渡されていくのであった。そしてそんな状態が続いてから一時間が経過しようとしていた時だった。突然一人の少年が入ってきたのである。しかしその瞬間周りがシーンとなって静まり返っていることに驚いたのか少年が固まってしまっていた。

そしてその事に気づいた私は助け船を出そうとするがそれより前に周りの冒険者が、少年に声を掛け始めてくれてどうにかなったのである。そんな様子を微笑ましく見ていたら今度はギルド長がそこにいるので是非ともお願いしたい事があると言い出してきたのである。

その内容はどうやら薬草を取りに行きたいので手伝ってほしいという頼みだった。それを聞いて少し不安になってしまう。なぜなら、最近魔物の出現が異常に多くなってきているのでもし私一人で行けば最悪の場合命を落とす可能性が出てくるからである。しかし、この少年の眼差しを見ていると断ることが出来なかった。だから仕方なく了承するとすぐにでも出発しようということになったのである。それを聞くと早速私たちは、目的の場所に向かうために移動を始めた。その途中何度も、モンスターに襲われそうになるがその都度魔法を使い何とか無事に森に着くことができた。

それからしばらくは何の問題もなく順調に進んでいってようやく目的の森の入り口に到着した。

それからしばらく時間が経ったが、未だに目的の物を全く発見できていない。それもそうだ。こんな危険な森の中で目当てのものを見つけろというのは無理難題でしかない。

そんな中である出来事が起きた。急に地面が揺れだしたのである。最初は地震かなにかと思ったが違った。この世界にも地震があるんだと思うと同時に何故か嫌な予感がした。

そう思ってすぐに警戒する態勢をとったのだが、どうやらそれは正解だったようで巨大な蛇が突如として姿を現した。そしてそれが私に向かって牙を剥き襲いかかってきたのである。

その時私は既に避けることができない距離まで近づかれており、そのまま攻撃を受けてしまうのだった。そしてその直後その攻撃に耐えきれず私の体は吹っ飛ばされてしまう。

私は、地面に倒れ込み何とか意識を保っていたが体中に激痛が走りまともに起き上がることができなかった。そしてそれだけではなく体が思うように動かせず、立ち上がろうと力を入れてみてもそれが全く意味がなかったのである。

私はここで死ぬのかと思った。しかしまだ死ぬわけにはいかないので最後の気力で剣を引き抜いて目の前に立ちはだかっている敵と戦う覚悟をしたのだ。だがそこで予想していなかったことが起きた。それはあの謎の男が現れたのである。そしてそいつはそのまま大蛇と対峙することになった。その行動が理解できず、私はその行動をただ見ているしかなかったのだ。だがその行動は、私のためであったことは後々知ることになる。しかし今は、それを知らないのでただ呆然としていたのである。だがすぐに現実に戻された。その男は、なんの躊躇いもなくあの巨体に突っ込んでいきそのまま攻撃し始めたのだ。それからの戦いはもはや一方的であった。まるで子供の喧嘩に大人が参加して遊んでいるかのようである。それ程までに二人の実力の差は明らかであった。そしてついに決着がつくと、最後に謎の存在は私に何かを渡してきた。そしてその男が去っていく姿を見た後にその渡されたものを確認してみたところ回復薬が入っていたのである。それを飲み終えた後に傷は完全に治っており体の痛みも無くなっていた。しかも体力の方までも完全に回復してしまっている。これには流石に驚きを隠せなかったがとりあえず私は先程のお礼を伝える為にその男の後を追いかけることにしたのである。しかしその姿は見つからずその日は諦める他なかった。だが数日後再び同じところに足を運ぶとやはり居たのである。その人物の名前はアルスレインと言うらしい。

それからというもののこの人に恩返しができればと思いそれから毎日のように通っている。そしてある日のこと、いつものように薬草採取に出かけるとそこで私は初めて自分の実力以上のモンスターと遭遇してしまい死にかけてしまった。そんな私を助けてくれたのはやはりこの人であった。その時に自分の不甲斐なさを感じ、このままでは何も出来ないままこの人の迷惑になってしまうかもしれないと思い私は、この人の元で修行することにする。これから私はこの人とずっと一緒に暮らしていくことになるのだった。そしていつか、あの人が私を必要としてくれる存在になれるように努力しようと心に決めたのである。

俺は今非常に困っていた。なぜかと言うとその原因は、俺の隣にいる女性にあった。俺は、その人から好意を寄せられているらしくそのせいでかなり面倒なことになってしまっているのだ。というのもその女性がかなりの美少女なのだがしかし俺は、その気持ちに応えることが出来ないためその事でかなり落ち込ませてしまったようだ。そのため俺はその人を元気づけようと色々な所に連れて行ってあげていたのである。

それからも色々と大変でその度に俺は彼女の笑顔を見る為に尽力していたが、そのせいでさらに懐かれてしまった。しかし俺は別にそれでも良いと考えていたので彼女の事を気にしていたのである。しかし俺のそんな甘い考えは彼女には通じていなかったらしく遂にその事がバレてしまう。その瞬間、俺の顔は真っ青になりそして俺は殺されそうになった。そんなことをされるような覚えがないのだがなぜか彼女の中でそうなってしまったようだった。

そうこうしているうちに彼女は家出してしまう。俺はそんな事を望んでいないし、それに彼女は俺にとって家族のようなものである。そんな彼女が勝手にどこかに行ってしまおうとしている。その事で俺は冷静ではいられなかったのだった。だからこそ、必死に追い掛けようとしたが途中で魔物の集団に襲われることになると俺では対応できなくなってしまい結局彼女を見失ってしまうのであった。

あれから俺は必死に探したが見つからない状況が続くばかりで進展はなかった。それどころか状況は悪化していきとうとう街にまで被害が出始めてしまう。俺はその事態を見て、これ以上の被害を出さないためにも一刻も早く彼女を見つけ出す必要が出てきた。それからは彼女が無事かどうかを確認する為に連絡手段を確保することにしたのである。その方法は、通信用の魔道具を使うことにした。この魔道具は非常に高価であるのだが、今回は仕方ない。そして彼女の安否確認をする為に早速使用することにした。

すると突然彼女の声が聞こえる。彼女の方もこの通信用の魔道具を持っているとは思わなかったがしかしこれは都合が良いと思った。なので、彼女がどうしてここにいるのかを聞いてみる。そうするとどうやら彼女は、あの勇者と共に魔王を倒しに行ったらしいのだがしかし彼女は勇者と仲が悪くなったようで一人で帰ってきたということだった。そして彼女の話から、俺の身に何かが起きたらしい。そういえば最近は何故かやけに周りに冒険者が増えていて、しかも皆一様に装備が豪華になっていた。まさかその事に関係あるのかと思ってしまう。

そんな事を思いながらも彼女と話を続けているうちにどうやら魔王城まで来たようだった。しかし、そこには誰もおらず勇者だけがそこにいるだけだった。しかしどうやら様子がおかしく、勇者が何かをしているようだった。その様子を眺めているといきなり魔法を唱え始める。

そしてその後、大きな爆発音がして煙で辺りが見えなくなってしまうのであった。そしてようやく収まったのを見計らい様子を見てみるとその中心にいたはずの人物がそこにいなかったのである。しかしそこにあったはずの地面は大きな穴ができておりそれが徐々に広がっていって最終的には大きな湖になってしまった。その光景を見て俺は驚いたものの、それと同時に怒りを覚え始めていた。なぜならこの世界の人間は自分のことしか考えられない屑ばかりであり、それが元いた世界でもよくわかっていたことだ。そして今回もそのことが証明されてしまったような気がしたのである。

しかしそんな感情に流されることなくそのあとに何が起きたのか調べてみたところどうやら転移魔法の応用である空間転移という魔法を使ったようだ。その事実を知り更に苛立ちが増してくる。そしてそのあとにも次々と攻撃を仕掛けてきていたが、それはどれも失敗に終わっている。

そのせいかだんだん勇者の行動が過激化してくる。そして最後には勇者は俺に向かって襲ってくるのだった。そしてそれを迎撃しようとすると何故か突然地面が陥没し、俺と敵の姿は消え去ってしまうのだった。

それからしばらくして、どうやら地上に戻って来られたようだ。そしてそこはもう魔王城に辿り着いており、目の前で戦っている最中の勇者と敵が目に入ってくる。だがしかし敵の姿を見て俺は驚くことになった。何故ならその容姿が俺の世界で有名なドラゴンに酷似しており、しかも大きさが違うという明らかに異常な姿であったからである。そんな化け物と互角以上に戦う勇者を目の前にして改めて凄い奴だと関心してしまった。そしてそのあとの会話で、この世界にやって来た時に会った謎の男の正体について聞くことができたのである。しかしその内容は驚くべきものだった。それは、その男があの謎の男であることが確定されただけでなく、実は勇者が元々その男によって召喚されていたことが判明したからだ。しかしなぜこの世界に来たかという質問にだけは答えず誤魔化して教えてはくれなかった。

それから少しの間は俺達は、あの二人の戦いを観察することに決めた。だがそれも束の間すぐに終わってしまった。それもそのはずである。この二人が本気でやり合えば一瞬で勝敗が決するであろう。それ程までに二人の差は明白だったのである。そして戦いの結果が決まってしまった。どうやら勝負に勝ったのは敵の方で勇は地面に這いつくばることになっている。その姿を見た俺は我慢出来ず、敵に襲いかかることにする。そして俺はそのまま戦闘に突入すると瞬く間に敵を倒そうとする。だが相手はそれを簡単に回避してしまい、逆に攻撃を繰り出してきた。それを何とか防ぐが敵はかなりの手練であるのは間違いないようである。

そして敵を倒すべく俺が行動しようとした時である。敵が突如として俺を指差し、攻撃の合図を出したのだ。だがその攻撃は俺に当たることは無かった。しかしその攻撃の威力はとてもじゃないが信じられなかった。だってこの国の王ですら、こんな攻撃はできなかったはずだ。それにも関わらずこの敵はそんな攻撃を放ったのである。そのことに俺が唖然としていた時である。急に体に異変が起こり、その場に倒れ込む。その攻撃には、どうやら毒が含まれていたようで俺は次第に体が痺れ始めてまともに動けなくなっていった。

しかしそこでまた俺の意識は完全に途絶えてしまう。

次に目を覚ますと先ほどとは違い見知らぬ部屋で寝ていた。そこで先程までの事が夢だったのかと思い安堵する。しかしそれが違うことにはしばらく経ってから気付いたのである。その証拠に体を動かそうとした際に激痛が走った。そしてそれは全身に及んでおりどうしようもなかったのである。それからは俺は、何もすることなくただボーっとしていると、そこで一人の人物が扉を開いて中に入ってきた。そして俺はその人物と目が合うと、俺は驚きのあまり目を見開いていたのだった。なぜならその人は、以前、助けたはずの少女であった。それを見た途端俺は困惑していたのである。しかしその理由はすぐわかることとなった。

俺は今の状況に頭を抱えていた。何故かと言えば俺は今現在牢屋の中に入れられているのである。その事については理解出来ていたがどうしてこのような事になったのかが全くわからないのである。そんな風に悩んでいるとある男が俺の前に現れるとその男はこう言った。

「あなたが、この国に不法侵入してきた不審者ですよね」

そう言われてしまうとその通りだと言う他なかったのである。俺は、どうやればここから抜けられるかを考えていたのだがこの場にいる人たちの様子は普通ではなく、かなり警戒心を抱いている様子だった。その為なかなか逃げ出すことが出来ない。そうして、この場の打開策を考えているとどうやら勇者も一緒だったらしく勇者と一緒に牢に閉じ込められていたのだった。そこで俺達三人はこの国のトップに呼ばれて話をすることになった。俺達はこれから、どうなるのかと不安になりながらもそのトップの部屋に向かう。

俺は、この状況を打開するために色々と方法を考えてはいるが中々良い案が思いつかないまま、とりあえず現状維持のまま過ごしていた。そして今日もそんな日常を繰り返していくのかと思っていたら急に部屋の空気が変わり始める。

すると突然その人物は現れ俺達に挨拶をしてきていた。そしてその正体は俺が、前に森で戦ったあの人物だったのだ。俺は、その人の顔を見て驚いたが、しかし俺はこの人をどこかで見たことがあるような気がしていたのである。そう思って考え始めたのだが全く思い出せない。そんな感じの思考回路が堂々巡りを繰り返すうちに俺の事を怪しんでいた人が俺に話しかけてきて俺の事を殺そうとし始めた。しかし俺はそんな事で死ぬわけにもいかないしそもそも俺はこの世界で死なないと知っている。なのでどうにか対処できるだろうと高を括っていたのだった。

しかし実際に剣を突き刺されてしまい俺の血が出てきているところを見ていた他の人達の反応が異常だったことに俺は驚いてしまう。というのも皆が皆、慌てながら何かをし始めているように見えたからだった。

どうやら勇者の方はその光景を見ているだけで動く気配はなかった。そのため俺は、このまま殺されるかもしれないと恐怖していたがそれでも必死になって抵抗を続けた結果なんとか助かることが出来た。そしてその時に初めて気づいたことなのだがこの世界では魔法があるようで、魔法を発動するには魔力が必要なようだということをこの時知ったのである。

その後勇者はその場から離れると何処かに消えてしまったようでありそのおかげもあって今の俺は殺されずに済んだようであった。それから暫くの間だけ俺は牢屋の外に出されて取り調べを受けていたのだが特に何事も起こらず、ただ暇つぶしをしているだけだったのである。そうして時間が経過していったある日のこと俺は、あの人物がこちらに来て俺に会いに来る。そして何を思ったのかその人間は、勇者のことを俺に紹介してくるのだった。

俺は目の前にいる人物に対して興味がなかったのだがしかしどうやら勇者の方はそうでもないようで俺にしつこく迫ってきていた。しかしどうにも俺の事が気に入ったようでずっと一緒にいたいとか言ってる。その事に関してどう反応すればいいか迷っているうちに勇者が俺の腕に抱きついてきたため非常に困っていた。

それからというもの勇者に俺は付きまとわれることになってしまい大変に迷惑なこととなっていた。しかし勇者と仲良くなればこの城での滞在が許可をもらえると言われ、俺は仕方なく勇者のわがままに付き合い続けることにした。その事に勇者はとても喜んでおり俺もそれに合わせるように振舞っていった。そしてその甲斐あってこの城に泊まることが許されることになった。その後俺はその日から勇者に振り回される羽目になってしまう。それはもう酷いぐらいに。

そして数日が経ち勇者は魔王を倒す為に再び旅立つことになった。その際、俺もこの勇者に同行して欲しいと言われるが俺はその誘いを断ったのである。そのことに関して勇者はかなり不満そうな表情を浮かべて文句を垂れてきたが、それでも俺は同行するつもりはなく勇者にはここで別れることにしたのである。

そうして勇者を見送った俺は、この城を抜け出して自由に行動することを決意する。この国の中で行動し続けるよりもこの国から逃げ出した方が自由になるのが早いと考え始めていたのだった。しかしだからと言って簡単には逃げられない。それどころかこの国の人たちはみんな俺を殺してくる可能性があるのである。それは俺の容姿が原因だったのだ。どうやらそのせいで俺は狙われてしまっているようである。だからこそこの城から抜け出す為の方法を考えなければいけないと俺は思い考える。そして一つの答えに行き着くがそれはかなり無謀で危険なものであった。その方法とは俺の本当の姿を見せることである。そしてそれが出来るのは魔王しかおらずその魔王はもうすでに勇者の手によって死んでしまっており魔王は居なくなっているという訳だった。しかしそれが出来ても俺の見た目のせいで俺が魔族だという情報がすぐにばれてしまう。それならまだしもそのことがばれたら勇者は魔族の国に攻撃を仕掛けてしまう可能性もある。その可能性に賭けるほど俺は勇者が戻ってくるのを待つという選択を取ることが出来なかった。しかしそれ以外でこの窮地を脱することが出来る方法はない。そんなことを考えた結果、ある一つだけ手があった。それこそがこの国にあるダンジョンを利用することである。

俺はその事を勇者に伝えようとした。しかしどうやら既に俺の正体が人間だとばれてしまっていたようだ。勇者の口からそう言われたことでこの国が魔族は絶対に悪であるという考えを刷り込ませようとしているのだということが分かる。だが俺はそれに屈しないつもりで、勇者に反抗し続けた。しかし結局俺のその行動が原因で俺の正体はばれてしまい魔獣だと勘違いされた俺は殺されることになってしまったのである。

しかし何故かその瞬間、この世界とは別の世界に飛ばされてしまうのであった。そこでその世界の魔王が出てきて俺は、俺の元いた世界での出来事を話していたのである。それから少しの間話をしていた時にどうやら元の世界に戻る方法がわかったのだった。その方法を試したおかげで、俺の本来の姿に戻ることができたのである。俺は自分の本来の姿を取り戻した時に、この世界に来る前までの記憶を取り戻すことに成功する。そこでようやく自分がこの世界でやるべき事を思い出すことになる。俺は元の体に戻るとすぐさま行動に移った。

俺はその行動の為に、勇者を殺す必要があった。その目的のためだけに俺はこの行動を起こし続けているのだ。そして俺は勇者を見つけ出す。しかしそんな時であった、急に何者かに攻撃されていることに気付く。その攻撃には、かなり慣れているもので、しかもそれがこの国の人たちのものだと分かったのだ。

俺はそれを避けることは出来たが攻撃するタイミングを失ってしまった。だがしかし、その攻撃を防いでいる際に、俺は勇者を見つける。どうやら俺に気づかない勇者は一人の少女と話し込んでいた。しかしどうやら勇者と少女は、その会話で険悪な関係となってしまったようで戦闘に突入してしまう。しかし勇者の力はそこまで強くは無かった。だがしかし俺にとってその少女の攻撃は中々厄介なもので、俺にとっては相性の悪い敵だと言えただろう。

俺も、その少女と同じように魔法を使う事が出来る。しかし俺の場合はこの世界に存在する魔法の使い方を知っているのでその知識を使えば使う事が簡単に出来るのだ。その為俺は、魔法を使ってその二人の戦いに割り込んだ。その介入により戦いを止めることに成功したのだが、俺の姿を見た途端少女の様子が急変する。

俺はそんな少女を何とか宥めようと必死になるが、俺の声は聞こえておらず俺を殺そうとしてきた。しかし、そんなことをさせるわけにも行かず、その事に関しては全力で対応して見せたのである。するとどうにかその暴走が収まり俺達は話し合いをすることになった。

その結果、俺は今の状況に戸惑いを感じていたのである。俺は勇者から色々と質問攻めに合うことになりそれに対して答えることを繰り返していたのだ。そのせいもあってか俺はかなりの時間その部屋で拘束されることになった。その時間のおかげで俺は、勇者と戦う準備をすることが出来たのだが勇者の方は全く俺のことなど相手にしておらず一人で勝手に何かをしているようだった。

それから勇者と行動を共にしていたのだがその度に勇者の機嫌が悪くなる。そしてついには俺の事まで殺すように命令してきた。どうやら俺が魔王だと勘違いしているらしく俺が勇者を裏切って勇者の情報をどこかに流しているのだと考えているらしい。しかし残念ながら俺はこの勇者と敵対するつもりはなかったのだ。ただ、この勇者に魔王を倒して欲しくはなかった。その理由としては、勇者がもしも俺の代わりになったとしてもこの勇者がこの世界を救えるはずがないからである。

俺はそう判断するとこの勇者が俺を殺せないような環境を作ろうと考えたのだ。その為、まず初めに俺は俺のことを勇者ではなく俺として認識させなければならない。その為にこの国の人達が、俺の事を魔王と認識しないようにする事が必要だったのだ。そのため、勇者に対して俺の正体について嘘を教え込んでおく。そうすればきっとこの勇者でも俺の事を殺してしまわないはずだからだ。そう考えて俺は、勇者に対して偽物の情報を伝えておいた。

そのあと勇者と行動していた時に遭遇した謎の人物からこの勇者に俺を暗殺するように依頼していたという情報を得たので、勇者がそれを実行しようとするのを阻止するためにその依頼を受けたという風に伝えた。しかし勇者は俺が嘘をついていると完全に決めつけているため俺の言葉に耳を傾けてくれなかった。その事で、俺と勇者の間で口論となってしまう。だが俺の意見が通り俺は、俺のいた世界に帰るためにこの世界に残ることになった。

それから勇者はこの城の人達を集めて何かをしている様子だった。俺は、その様子を遠くから観察し勇者の企みを探ることにする。するとその計画は大方予想がついた。この城の中に居る人の中から魔王を産み出そうという話になっているようだった。そして勇者が、魔王を誕生させた瞬間を狙って俺はその計画を邪魔してしまおうと考えていたのである。しかしその考えが甘いものだと俺は知ることになる。

俺はその光景を眺めていたのだが突如俺の前に現れた男によって計画が失敗したことを聞かされてしまう。俺は、すぐにその場から離れることにしてどうにか逃げ出すことが出来たがその後、俺は勇者達に追い回されることになってしまう。そして遂に俺は、俺がいた世界に帰ろうと決意する。しかし俺の体は、既に限界に近づいているのか俺が帰るための条件である魔王を倒すということが今の俺には不可能に思えてきたのである。そう考えた結果、俺はこの城から出て行くことにした。勇者に見つかってしまうと非常に危険であると思い俺は、この城を脱出することを優先し、勇者が俺を探すためこの城の兵士を総動員し、この城に居残る者全てを捜索し始める前にこの城から脱出することに決める。それから俺は、この城を出るための準備を着々と進めていきとうとう城を抜け出すことに成功する。だがその時俺は、勇者に見つからぬように城の近くを彷徨いていたのだ。そして、そんな時に俺の前に一人の人物が現れたのだった。

目の前に現れたその男はどう見ても魔族にしか見えずその姿に恐怖を覚える。俺はその魔族と思われる人間に話しかけるのをやめようとしたがその言葉は俺が思ったよりも大きかったようだ。目の前にいる魔族らしき人物はこちらを見て、驚いたような表情を浮かべる。そして、俺の事を警戒しているようですぐに俺に襲いかかってきたのである。しかしそんなことされては俺の身が持たない。その魔族の行動に慌てながらもなんとか対処して逃げることだけは成功する。

俺は逃げ続ける中で自分がこの世界でやる事を頭の中で整理していく。それは勇者に殺されずにこの世界を無事に生き抜く方法を考えなければいけなくなった。勇者がこの国を支配して平和にするということは俺が勇者を殺したところで無意味なことになってしまう。それならば勇者をどうにかしなければならなくなる。

その事を思いつき俺の行動は勇者と魔族の国との戦いを観察することにしたのである。そしてその戦争を観察していくうちに分かったことは、どうやらこの戦争の発端となったのは俺が魔王を倒したという事が原因だった。その事を知り俺は自分の行動を悔いると同時に魔王を殺したことがこの争いの原因となったことで俺自身に怒りが込み上げてくるのであった。俺はこの時初めて魔王を殺すという事がどれだけこの世界に大きな影響をもたらす事になるのかという事に気が付く。

そして俺は勇者が負けそうなタイミングを狙い魔王の手下として行動することにしたのだった。しかし勇者も俺に気が付いたようですぐに俺を捕まえにかかってくる。そして俺に襲い掛かって来た。だがその攻撃を防ぐことができ俺は一命を取り留めることには成功した。しかし俺の命が狙われることには変わりない。そしてこのままこの勇者に狙われ続けていればいつか殺される事は間違いない状況だったのだ。そうならない為にも勇者に対抗する力を俺は身につけなければいけない。だがしかしそれには俺には時間がなさ過ぎた。そう考えた結果俺に出来ることといえば、魔法を習得することでしか無いと考えこの世界での常識を知る必要がある。

俺はそれからこの世界での一般的な魔法使いに教えてもらいこの世界に存在する魔法の使い方を覚えていったのである。それから、俺は自分が出来る魔法をすべてマスターしていったのだ。そして俺は、その力でこの世界で最強の魔法剣士へと成長を遂げることができたのである。しかしそんなことをしている間に俺の命を奪おうとする人物がこの世界に来てしまった。その人物は、俺と同じように元の世界に戻ることが出来る方法をこの世界に来る前に手に入れていたようである。俺と同じ様に勇者が世界を救ったら自分の願いは叶えられると思っていたらしい。そして勇者が現れる日になりその人は、俺と同じく勇者が世界を救うことを止めたがっている人である事が分かる。

その人が誰なのかは分からないがその人も、この勇者にこの世界に居残っていても意味は無いと思っているのは明らかである。俺もその人の行動には同意できる部分が多かった。俺はその人と一緒に行動して勇者の暗殺を行うことに決めたのである。

そして、俺は勇者ともう一人の勇者が現れてしまう。その二人はこの世界の人たちに歓迎されてしまいその二人が本当に本物かどうか確認することもできない状態だったのだ。

勇者ともう一人はお互いに魔王の居場所を探そうとしていたようだったが、俺が二人の事を監視していたところで、その勇者達がこの城の中に居る魔王を見つけることに成功したようだった。しかし、俺はそこで違和感を感じたのであった。俺の知っている限りだとこの勇者と一緒に来ていた女性はどう考えても魔王ではなかったのだ。俺はその女性が魔王の代わりの魔王だという事を察した。その証拠として俺はその魔王に攻撃を仕掛けたのだ。

そして俺は、魔王の攻撃を何とか避けて見せた。俺はこの世界での魔王の姿を見ていない為どんな見た目の人物なのか全く想像が出来なかったのだ。その為、俺はその魔王の姿を直接目にするまで魔王だということに気が付かないだろうと判断した。しかし俺はこの魔王が女性であることに対しての戸惑いを感じていたのである。なぜなら俺は魔王の性別が女であるということを今まで知らずに過ごして来たからである。

魔王はその俺が仕掛けた攻撃を難なく防ぐとその反撃に俺の方に剣を振るう。その攻撃に反応できなかった俺にその攻撃を受け止めることは不可能であり、そのまま俺は吹き飛ばされて壁に激突してしまう。その結果俺は、体にかなりのダメージを負うことになり動くこともままならない状態に陥る。しかし、その攻撃を受けた俺が倒れ込むと今度は勇者の相手をしていた魔王に異変が起きる。

魔王の姿に変化が起こりその姿が俺のよく知る人物へと変貌を遂げる。その変化した姿を確認した俺はその魔王が自分の知っている人物でありそれが本物の魔王であることを確信してしまったのである。そしてその魔王の姿を確認すると、魔王と俺の体が光に包まれその次の瞬間、この場から俺は消え去る。

「ふぅ~危なかったぜ」

その声に俺は目を覚ます。

「あ!起きた!」

「あれ?俺どうしてこんなところにいるんだ?」

「あなたは、あの時私が召喚された時に私の前に突然現れた人ですよね。私はその人に助けてもらったのです。でもなんで倒れていたんですか?あんな場所に居たのだから普通じゃありませんでしたよ」

「そう言われても俺は君がなぜここにいるのかすら理解できていないんだけど。まぁいいか。それよりも君の方はもう大丈夫そうだけど俺は怪我をしているみたいなんだよね。とりあえず俺の治療をしてもらえるとありがたいかなと思ってさ。頼むわ、回復してくれるかな」

俺が頼み事をすると彼女は俺に対して何かを唱えて治療を行ってくれる。そのおかげもあって俺の傷は完全に塞がり体から痛みが完全に消える。

俺は立ち上がると改めてこの場所について考えてみる。しかし何度考えても俺はここについて何も知らないということが分かっただけであった。俺はまずは現状の確認を行おうと思いそのことについて尋ねる。俺が聞きたかったのは、俺をこの空間に呼び出したのは一体どこのどいつで俺はいつまでこの状況で放置されているのかということだ。しかし俺がそれを質問する前に彼女の方から俺の事について聞いてきた。どうやらこの少女の名前はクロエといい、彼女は俺が先ほど戦った相手によって無理やりこの場所に連れてこられたということだった。しかもそれはこの部屋に入る前に行われていた儀式のような行為のおかげらしくそれを俺が行ったせいで俺を呼び寄せる事に成功したらしい。俺はそんな彼女からこの世界は魔王に支配されているのだという話を聞かされる。しかし俺からしてみればそれは信じられなかった。なぜならば俺自身がこの世界にきてまだ数時間ぐらいしか経過していないのにいきなり俺の知っている魔王がこの世界に侵略してきたのだと告げられてしまったからだ。しかしそんなことを考えていても俺がこの世界に呼ばれたという事実に変わりはなく俺はその事を受け入れ、これからどのように行動すればいいのかを考える事にする。その事を考えた際に真っ先に思いついたのは、俺自身の身の安全の確保だった。

「俺は自分の身を守る術を身につけておいたほうがいいかもしれないな。というわけで早速、俺を襲ってきた奴のところへ案内してくれないか。あいつは多分、この城の一番上の階に居たんだと思うんだけどさ、その場所に案内してもらわないと俺はまた襲われて殺されちゃうかもしれんしさ。だからお願いしたいんだよ」

そんな風に頼まれたら断り辛いものがあると思うのだが彼女は俺の要望を聞き入れてくれたようで彼女がいた城の奥へと向かっていくことになる。

しばらく歩き続けているうちにようやく目的の部屋へとたどり着く。そして部屋の扉を開くとその中に入るとそこには一人の老人がいるだけであって他には誰もいなかった。

しかし俺には目の前にいる老人が何者なのかを理解することができたのである。それはその人物が俺の知り合いであるからであった。しかしその人物の名前を思い出したくともその名前を思い出すことができなかったのである。ただそれだけならよかったのだが目の前の老人は間違いなくその人物が生きている時の年齢よりも若く見えていたのだ。その理由として考えられることは彼が既に死んでいて、その幽霊としてこの世界に留まっているのではないかと俺は思ったのだ。しかし、その人物が生きていたとしても俺が知っている彼ではない可能性もある。その事から俺は、俺は彼に話しかけることはしなかったのである。しかしそんな状況下の中で彼は俺の方をジッと見つめてくるのであった。その目線に俺も思わず彼のことを見つめてしまう。すると彼は口を開いた。

「お前さんはいったい誰だね?私のことを見ているようだがどこかであった事があるのかい。それにその恰好。まさかお前さんまでこの世界に呼び出されてしまったっていうんじゃないだろうね。それにこの気配は魔王のものである。つまりはそういうことなのかい。しかしおかしいな、どうして魔族が人間と共存できる世界を創り出すなんて馬鹿げた事をしているんだろうかね。それならいっそこの世界を支配すべきなのに。その点についてあんたはどう思う。もしや魔族の王様に意見が出来る立場にいるとか、それともこの世界で自由に過ごせるほどの権力を持っているとかないか?」

そう聞かれると俺は少し戸惑ってしまったのだ。その問いかけは俺に答えを求めてきたわけではなく彼自身が考えを口にしただけであり俺はそれに対して返答することができなかったのである。そして彼はその会話が終わりだと言わんばかりに無言になると俺の体を触り始める。俺はその行動に驚いてしまう。

俺の体の感触を確かめるような手つきでその人物は俺の事を確かめていったのである。最初は俺が誰かを探るためにそのような行動をしたのかと思ったが、そうではなくどうも俺が本当にここに居るかどうかを疑っている様子だった。そして確認を終えたその人物は俺から離れていく。

「どうやら本当に本人みたいですね。その服装も見たことがあるものですし」

そんな感じで話をしてくると俺はその人物が自分が思っていた通りの人物であることを理解し、俺はその人物の事を警戒したのだった。しかし俺の予想とは裏腹に、その人物は魔王を倒せば元の世界に戻れるはずだと俺に伝えて来る。その人物は俺と同じような境遇にあったことから、俺に対して色々と協力してくれるようになったのである。

俺はそれから魔王と戦わなければならないと思い俺は自分が使える魔法の練習を始めた。

俺が魔法を習得していく間に俺がこの世界でどのような立ち位置にあるのかをその人に教えてもらう。その人からの話を聞いている限りでは俺は勇者と同じ扱いである事が分かった。俺はこの世界の人たちには、この世界に勇者ともう一人別の人が召喚されたという事を知っている。そして勇者ともう一人の人には違いがあり、この世界の人たちは、この国の王が連れて来たのが勇者であると認識されており、俺が勇者のフリをしてその人に協力を仰いでいるという状況だという。その人物には勇者と一緒に魔王を倒しに行ってもらいたいと言われているのだ。だが俺は、その魔王を倒す為の行動をとることが出来なかった。それは魔王の正体が俺が知る魔王とは別人であるからであり、本当の事を言えば俺は魔王を殺す為にこの城まで来たわけではないのだ。俺はこの世界で生きていくことを選んだ以上、勇者と共に行動することは間違いだという結論に至る。

勇者と一緒でなければ魔王と戦う事は出来るはずもなく俺はどうしたら良いかその人物に相談を持ちかける。するとその人は自分一人でも大丈夫だから任せて欲しいと言ってきた。その為俺はその言葉に甘えることにする。俺もその人物のことが心配ではあったが、その人は魔王の居場所を教えてくれてさらに魔王に近づきやすい場所へと案内してくれた。

魔王は俺の事を待ち伏せしていたようで、俺は魔王の攻撃を受けて倒れ込む事になる。その後すぐに、魔王に剣を振るって反撃を試みた。すると魔王はその剣を防ぎながら反撃に転じてくる。俺は剣で防ごうとしたのだが俺の持っている剣は魔王に折られてしまい俺は剣を持っていた腕に攻撃を受けてしまう。それによって俺の腕が折れて俺は地面に膝をついてしまう。

魔王が俺を殺そうとして攻撃を仕掛けてこようとした瞬間に俺のことをその魔王の前から消し去ってしまうのである。そして次に俺が目を覚ますとその光景を見て絶句してしまうのだった。俺の目の前では魔王が人間に攻撃を加えて命を奪う場面を目撃していたのである。しかし魔王に攻撃されたはずの人間は血を流すことも倒れることもなく平然とその場に立ち続けていたのである。そんな人間を見た魔王はすぐにその人間の事を自分の敵だと悟ったのだろう。

そんな風に目の前で起きている戦いを呆然と見ていたのだが俺の近くにはいつの間にか、この国の住民達の姿があった。その者達は皆、俺の味方のようで、魔王の姿を見て悲鳴を上げると俺の元までやってくる。俺は自分の身を守るためにも、魔王との戦いに参加したのだがやはりというかなんというか実力不足はどうしようもないものだった。しかし俺はどうにか生き延びようと必死になるしかないと考え行動に移し続けるしかなかったのだ。

その結果、俺自身はなんとか助かることに成功した。

しかし、あの魔王はまた復活を遂げてしまうことになるだろうと考えていたが、それが現実になってしまう。俺はあの魔王を完全に殺しきれていなかった事に今になって気がついた。

俺はそれから自分の力を磨き続けたのだが、それでもあの時の魔王とは比較にならないほど弱っていたあの時の状態のままであったとしてもあの時の魔王には勝つことができないかもしれない。そんな不安を抱きながらも今はとにかく強くなろうとするしかないと思って特訓を開始する。

そしてあの時の出来事は忘れることにしてこの世界で俺は新しい人生を歩み始めることになったのであった。

僕は魔王に負けてしまった。それはもうどうにもできない事実だ。だからといって諦めたわけではなかった。しかしこのままこの国にいても良いことはないという事だけは分かっていた。だからそのことについてをこの城に住む王様に尋ねようと考えたのだ。しかし王様に尋ねたところでどうこうなる話でもない。だからこそ僕がどうすればいいかを自分で考えなければならないと思ったのだ。

そんな風に思い悩んでいたのだが、ふと思い出したことがある。この世界に来たばかりの頃に遭遇した魔王についてである。彼は確か自分のことを「魔導王」だと自称していて、「全ての世界を支配し新たな世界を生み出す存在」だと言い張っていたのだ。そして、この世界を「創造主」だと名乗っていたのである。それを思い出してみると確かにこの城の作りや景色を見る限り、どこか僕の知っている世界とは違うような気がした。だからという訳ではないがもしかするとこの城に居るかもしれないと期待を抱いてしまったのである。

そこで僕は早速、魔王が居るであろう玉座の間に向かうことにした。しかしそこには魔王の配下の者たちが多くいて中に入ることすらできなかったのである。そして僕はそんな事よりも自分の身を守ることの方が大切だと考えるようになる。だから魔王を探すことはあきらめて自分自身の身を守ることに全力を注ぐことに決めたのである。

僕は自分の身を自分で守るために、剣技を学ぶ為に師匠と呼べる人物を見つけ出さなければならなかった。そうしなければ確実に殺されてしまうのである。しかしいくら待っても僕の師匠となるべき人物が見つからなく僕は困り果てる結果になった。そうしている間に魔王は復活するのだと思っていたのだが一向にその気配がなかったのである。これはおかしいのではないかと思ったのだが結局その日を迎えることはなかったのである。

ただその代わり、この国の王が変わってしまい今まで王様として崇めていた人物も今ではすっかり堕落しきってしまっていた。そんな人物の元にいつまでもいる必要はなかったのだ。しかし他の国に行くにしてもどうしたら行けるのか分からないしお金もなかった。そして何よりこの国から逃げ出せる自信がなかったということもあって、とりあえず僕はここに残る選択を取る。しかしここで生活していくのも厳しいと感じ始めた。

そんなある日にこの城で働いているメイドから魔王が復活したという報告を受けるのであった。魔王が再び蘇ってしまったということを聞いた時は正直、心の底から絶望してしまったが仕方がないことだと考えて受け入れるしかなかった。だがそれと同時に、その話をしてきたその人物はどうしてそんな情報を持っているのかという事も不思議だったが、それ以上に何故僕にその話を持ってきたのだろうと疑う気持ちの方が大きかったのである。

僕はその人物が信用できないと判断して魔王を倒すための準備をする。といっても何を準備しておけば良いのかというのを考えるだけでも一苦労だったのだ。それにしても、その人が言っていたことは本当なのだろうかと少しばかり考えさせられる。この国の王様が突然に変わって、その変化に驚いたもののその人物は、前の王様と比べても、何も変わっていないのではないかと思わされてしまったのである。そうは思ったものの、もし彼女が言っていることが嘘だったら、彼女はどういった意図でそのような事を言い出しているのかが分からなかったのだ。そう考えていると自然と彼女のことを怪しく思うようになってきたのである。

もし、魔王が復活してしまっているならどうしてこの国は平和なのか、それこそおかしいとしか言い様がないのだ。そんな疑問を彼女に抱いていても魔王が復活していないとなれば無駄に時間だけが過ぎ去っていってしまうだけなので何か行動を起こすしかないのである。だがその行動に移せないでいる自分に情けなさを感じるのだった。

そういえばあのメイドはどうしてこの城を乗っ取った奴らが変な行動を起こさないで、大人しく城にいるんだろう。

「それはおそらくこの城の地下で、あの方がまだ眠っているからだと思います」

そう考えると僕はその地下に行かないといけなくなった。

「それでしたら案内しますよ」

と、案内してくれるのだった。僕は彼女に連れられて魔王がいる場所まで行くと魔王は玉座に座っており眠ったままの状態で存在していた。その様子を確認した後、僕たちはすぐに地上へと戻りこの事を報告する為に一度、戻る事にしたのである。

「分かりました、報告は以上ですね?」

「はい、以上でございます。後はそちらの方に任せることになりますが、どうか宜しくお願い致します」

そんな感じに報告を終えてから僕は再び、この城の玉座の間に戻ろうとした。しかしその時だった。この城の地下にはあの女が居たという事を思い出して地下へ向かうことにする。

僕はその部屋に入るとやはりあの女が椅子に腰掛けて優雅にコーヒーを飲みながらくつろいでいた。その光景を見ているとその人はこちらに視線を向けてくると僕に対して質問を投げかけてきたのである。

魔王の復活と魔王と手を組むという目的があるということを。

僕の目的はこの世界に魔王が存在するかどうかを確かめる為にやってきただけだったのだけど。

どうも魔王は自分が生きている間は誰にも邪魔をされたくないらしく僕たちでは魔王を殺す事はできなくなっているらしい。だから僕はこの城で暮らすという手段を取ることに決めて、魔王と協力関係になることを選択するしかなかったのである。だから魔王を殺すという目的は一時的に忘れてその人と仲良くすることを決めたのであった。しかし、それからしばらくしてあのメイドさんはこの城の王様になってしまったのである。それを知って驚きのあまりに声が出なかった。まさかこの人が王になるなんて予想していなかったのだ。ただそれだけでは無く魔王の力も受け継いでいるようで、僕の知っている魔王とは比べ物にならないぐらいの魔力を感じ取ることが出来た。その為僕は本当に魔王と戦うことができるんだろうかと、不安を抱くようになったのである。そんな時にその人はこんなことを言ってきた。「貴方には魔王を倒して貰わなければならないのです。その事を忘れないでくださいね。魔王を倒せればきっと私の力にも匹敵できるほどに強くなることでしょう」と言ってくる。

そして僕に修行をつけてくれたのである。

その人の名前はアリアという名前なのだがこの世界では「アリア=ドレッドノート」という名前で通っているようであった。僕はその名前を聞くだけでどこか違和感を感じたのだが気にしないことにして特訓を開始したのである。そして気がついたときにはこの世界に来てから五年もの歳月が経過することになるのであった。

僕は、アリアさんの言う通りに、魔王の城にやってきて玉座の間で眠る魔王の前にやってきた。そこで僕は魔剣を構えていた。僕は、これから魔王と戦って勝つか、殺されるかの二択になるのだと考えていたのだ。

魔王を復活させてから三ヶ月近くが経過していて魔王は目覚める兆候を見せ始めていた。そんな中で、この魔王城にやってくる勇者が現れるのであった。僕は玉座の間の入り口に立つと扉を開く。そして玉座の間には僕がやってくるとほぼ同時に、魔王の側近でもある六騎士の一人である「黒帝」が姿を現した。魔王の側近である六人のことを総称して六色と呼ぶのだが、そのうちの一体である黒い甲冑を着た人型のロボットのような姿をしているのが特徴的だと言われている。そんな「黒帝」が姿を現すと僕のことを視認すると言葉を発し始める。

魔王を復活させるのを待っていたのか。

お前たちが復活した魔王の相手になるというのであれば私は止めません。

しかし、私が倒すことには変わりはないんですけどね!そう言うと、「黒帝」は自分の背中から漆黒の巨大な翼を生み出して宙に舞い上がると空に飛び立って僕に襲いかかってくる。

それを僕はなんとか避けようとするのだが、完全に避けることができずに当たってしまう。その結果として地面に叩きつけられてしまい僕は意識を失いそうになるがそれでもどうにか気を失う前に態勢を立て直すことに成功したのだけれど「黒帝」の攻撃はまだ終わっていなかった。空中で静止した状態になっているとそこから「黒帝の大剣」を作り出していく。そしてそのまま僕目掛けて斬りつけてきたのである。しかもこの大剣による攻撃の速度が速すぎる為に防ぐことも逃げることもできずにまともに受けてしまうのであった。その結果、僕の左腕は完全に切断されてしまったのだ。だが僕の攻撃も「黒帝」に命中するのだった。しかし僕の斬撃を受けた「黒帝」の装甲の一部が砕ける程度で「魔王」のように簡単に倒すことはできなかった。その事を知った僕の頭の中に「もしかしたら僕が魔王を倒す事ってできないんじゃないか」という気持ちが沸き上がってくるのを感じていた。

そんな時だった。

そんな風に考えている暇があったら早く攻撃を仕掛けないと負けちゃうわよ!と言うような事を言われた気がしたので僕はその声に従うように僕は「黒帝」に対して全力を込めた攻撃を繰り出す。その攻撃は「魔王」を圧倒した程の威力を持つ攻撃でありその攻撃を受けてしまった「黒帝」はそのダメージに耐えられず、爆発するように破壊された。その衝撃により魔王城の外壁が崩壊して崩壊が始まったのである。そうして瓦礫の下敷きになった状態で僕は目を覚ました。僕はすぐに自分の体を治そうとすると、そこには既に修復を終えた腕が存在していた。そこでふと思ったことがある。どうして僕の体が回復してしまってるんだろうと。

僕は自分の体を確認してみると、全身傷だらけの状態ではなく、無傷の状態で元に戻ってしまっていたのだ。だから魔王のところに行こうと思ったのだが、どうすれば良いのかわからないのである。

このまま玉座の間に向かうべきかそれとも別の場所に行けば良いのか迷っているとそこに「白狼」と呼ばれる存在が現れたのである。この人はアリアさんのお姉さんでいる人でいつもこの城の中を見回りしていてくれている人だったりする。そのお陰でこの城は魔物に襲われても無事な状況でいられている。このお二人は、この世界に来たばかりなのにこの城の中で暮らすことになって戸惑っていた僕に親切に接してくれていたのである。そのおかげで僕は無事に今日まで生きてこれたのである。だからこの城が今こうやって健在なのは二人がいたからこそなのだろうと思っている。その事に感謝の気持ちを抱いていると「魔王」が復活する気配を感じ取ると急いで魔王城に向かおうとしたのだけれど、そうはさせまいとするかのように「魔王」の配下が僕を襲ってきたのである。その配下たちを倒しながら魔王城へと進んでいくと僕は「白虎」さんに遭遇できた。だが、ここで問題が出てきてしまった。それは「魔王」が復活しようとしているからだったのだ。

それを知っている僕は「魔王」の配下達との戦闘を中断してでも「白虎」さんに説明をしたのだけれど、その時に僕は思いもしなかったことを言われることになったのだ。その言葉を信じるかどうかはあなた次第だとも言われたので半信半疑の状態で僕はとりあえず、玉座の間に向かってみることにした。そして僕は玉座の間の入り口に立ったのだけれどそこにはもう何もいなくて僕だけが一人取り残される。それからしばらくして「魔王」が復活した。その姿を見た僕は絶句してしまうのである。その魔王の外見を見て「本当にこの魔王を僕が倒せるのか」と疑問を抱いてしまいそうになったがそうは思っても仕方がないので戦うしかないんだろうと思い魔王に立ち向かったのである。

「魔王」は見た目からしてもかなりの大きさがありとても人間とは呼べそうもない容姿をしていた。だが僕は魔王を圧倒することができた。それは何故かというと魔王が弱いのではなくて僕が強くなったからだと思われる。この三ヶ月で僕は修行によって「レベル」というものをカンストするまで上げて「ステータス」というものを大幅に強化することに成功したのだ。「魔王」の力は凄まじく強いのだけれども、僕の力もまた強まっている為か「魔王」に負けることなく勝つことができた。そして僕は魔王の封印に成功したのであった。

これで僕は目的を果たすことができたと実感する事が出来たのだ。

「やっとここまで来ましたね」

僕がこの世界で生き抜くために「魔王」は復活しなければならないと考えていた。

その理由は、僕がまだこの世界のことについて詳しくないからである。そのため魔王に会えばこの世界の情報が手に入るかもしれないと思って、そのためにこの世界に来てからずっと探し続けていたのである。

そして遂にこの城にやってきたのである。僕は「魔王」の城で「魔王」と対峙している。その魔王はかなり巨大だった。だけど僕は臆すること無くその魔剣を構えた。

そして魔王は玉座の間に入ると同時に「黒帝」を作り出す。そしてそれと同時に僕に切りかかってきたのである。僕はそれをどうにか回避しながら反撃のチャンスを伺った。

そして僕はその好機が訪れる。

僕は魔剣を使って「黒帝」の装甲の一部を切り裂く事に成功するのである。

だがそれでも魔王を倒せてはいないようであった。その魔王は自分の身体の周囲に黒い霧を纏わせるとそれで防御をしてしまったのである。僕はそれに対して舌打ちをするが、そこで魔王から放たれていた威圧感が増していくのを感じる。そして僕は危険を感じた。なので魔王が何かしてくる前に、行動に移る事にしたのだ。まず僕は最初に使ったスキルである「闇魔法」で闇の球体を作り出す。

僕はそれを魔王に向けて放つことにした。その球体が魔王の体に触れた瞬間に、魔王の体が吹き飛んでいったのである。それによって、魔王の体は壁に打ち付けられてしまう。そのせいで魔王の鎧にひびが入って壊れてしまったのである。僕はそれを確認するとすぐに魔王に接近していってその体に攻撃を加えようとしたのだが、そこで魔王が突然笑い出す。その光景に僕が驚き固まっていると魔王の目が赤く輝いているのがわかる。そして僕に対して攻撃を仕掛けてくるのである。

僕はそれに気づく事が遅れてしまいまともに受けてしまうがなんとか体勢を整えることに成功した。僕は、そこで魔王に「黒帝」で対抗しようと魔王のほうに目を向けた時に異変に気がついたのである。何故なら魔王の様子が変わっておりまるで先程までとは違う雰囲気を放っているのだ。僕は警戒していつでも戦えるようにしておく。すると「魔王」の方もこちらに近づいてきていてその手には漆黒の巨大な大鎌を握っていた。

どうやら戦いは避けられないみたいだな。

俺はそう判断したのだが、「魔王」が攻撃を仕掛けてきたときに俺はその攻撃をギリギリ避けることができたのだったのだが、俺が立っていた場所を見るとその場所だけ地面に大きな亀裂が入っていたのだ。あれを受けてしまっていたら確実に死んでいただろうと思うほどの威力を持った攻撃だったので、俺は改めて自分が敵と戦っていることを再認識させられた気分になるのである。しかしそんな事を考えている余裕はなかった。「魔王」は連続で攻撃を仕掛けてきており、しかもその余波を受けて周りの壁にヒビが入る。さらに衝撃波の影響で部屋の中にあるものが次々に壊れていくのが見えた。これは本格的にまずいなと感じ始めていた頃だった。俺はある違和感を抱くことになる。

それは「魔王」の攻撃の速度が上がり始めてきたのだ。その事からおそらくこれが奴が奥の手を発動させる前触れのようなものだと悟ったのである。俺は「魔王」の動きをしっかりと見つめながら隙を見つける為に動き回る。すると、その時「魔王」の攻撃のスピードと威力が上がるのである。それにより、攻撃を回避しているだけでは勝てないという事がわかったのだ。だからこそ俺もそのタイミングで「黒帝」を振るい、魔王に斬りかかるが、魔王は持っている大鎌を振りかざし「黒帝」の攻撃を防いでしまうのである。

だが、そこで終わりではなかった。

なんと魔王はその状態で「黒帝」を大振りしてきたのだ。当然それをまともに受ければ俺なんて簡単に吹っ飛ばされてしまう事はわかっているため避けるしかなかったのだがここでまた別の問題が発生したのである。その攻撃をかわす事ができたが、魔王はそれで終わらず今度は連続して攻撃を行ってきて、しかもその攻撃は一撃一殺の破壊力を秘めたものだったのだ。しかも「黒帝」と大鎌によるコンビネーションも加えてきており完全に俺は防ぐことだけで精一杯になっていたのであった。しかしこのままではいつかは押し切られるのは時間の問題だと考え、俺もこのコンボを繰り出せるようにしてみる事にした。

そう思いながらまず魔王の「死神の大鎌」に対して俺は同じ大鎌を作り出してから同じようにその刃をぶつける。その結果、やはりというべきか、力勝負では圧倒的に魔王が上回っていたのでその力を利用しながら魔王を押し返すことに成功する。そして「魔王」の体が浮き上がるのを確認してそこから全力の「黒雷槍」を放つことにする。この技は本来であれば、この空間内で放つのはまずい代物なのだ。何故ならば「魔王」の力が弱まったこの場所に強力な「魔力」を流し込んでしまうと爆発が起きて周りに多大な被害が出てしまうので使用は避けたかったのだが今はそうも言っていられない状況であった。だから俺はこの場で「黒帝」のもう一つの能力を使うのをやめる事にした。その代わりに魔王が手にしていた大鎌を自分の手元に引き寄せたのである。

そうすることで、今までの自分の力と、相手の力が合わさり合い「魔王」の力も相殺する事に成功したのである。そして「黒帝」を握りしめながら自分の体を強化させ魔王に突撃するのだった。そして俺はその勢いを殺すことなく「魔王」にぶつかると「黒帝」に最大限の魔力を込めつつその刀身が砕けぬよう意識して「黒帝」を思いっきり叩き込むのだった。その斬撃を受けた「魔王」は全身から血を流す事になりその巨体を地面に沈めていく。

それから少し遅れてから俺は「魔王」を完全に倒し終えたと確認してから、その場に崩れ落ちたのである。それからしばらく経って俺はどうにか立ち上がってから、玉座の間を出てアリアがいる場所へと向かう。そしてそこには無事にたどり着いたのだ。それから俺は「魔王」を倒して来たことを皆に話したのである。だがそこに現れた「白虎」と名乗る少女からとんでもない言葉を聞くことになる。

その白虎は「僕が魔王を倒したのはあなたたちですよ。まあ本当は僕じゃなくて僕の仲間達が魔王を倒したのですけど」と言われてしまうのである。その言葉を信じられずに困惑しているとその白虎の言葉が本当だったのだと知る事になる。なぜなら目の前にいた魔王が消えていたからである。そして魔王がいたはずの場所に魔王とよく似た容姿をしている少女が現れる。彼女は自らを魔王と名乗って僕にお礼を言いたいと言ってきたのだ。その魔王の容姿は金髪ロングヘア―で青い瞳を持ち整った顔だちをしておりかなりの美少女であり、胸もかなり大きい。しかし何故か僕は魔王に対して強い敵意を抱いたのである。その理由については自分の中ではわからないがそれでも僕の中での感情が抑えられず今にも襲ってしまいそうになってしまうほどに理性が崩壊しそうになった。

そのため僕はその衝動を必死に抑えてどうにかその場から立ち去ろうとしたのだが、そこでアリア達も魔王の元に集まってきてしまいそこで僕は逃げる事を諦めるのである。そして僕はこの城から逃げ出す準備を始めることにしたのだ。この世界に来た時から僕が目指していることはこの世界を旅をすることである。だがそれは「魔王」を倒していないと出来ないことだと勝手に思っていた。

その事から「魔王」が倒せないならこの城にいる意味がないと考えたのである。その旨を魔王に話すと快く受け入れてくれた。そして僕はアリアと二人で外に出ようとした時だった。僕をここに呼び出していた「黒龍」がいきなり現れて僕を殴りつけてくる。その事に怒りを覚えると僕は魔王を護るようにして「黒竜」の前に立つ。そしてその事で魔王を危険な目に遭わせてしまい、僕はすぐに「黒帝」を構えようとする。

だがその必要は無かった。

魔王がその圧倒的な力で「黒竜」を叩きのめしてくれたのだ。僕はその姿を唖然としながら見つめていた。だがそこで僕は「黒帝」の特殊能力が反応してしまう。僕は慌ててその能力を止めるようにお願いすると「黒帝」は言う事をきいて発動は止まったのだった。僕はその事に安堵したが、それでも疑問が残る。なぜ「魔王」はわざわざ「黒竜」と戦う必要があったのか? という事が頭に浮かんだ。そしてその事を魔王に尋ねてみると意外な答えを聞かされたのだ。魔王は自分の部下である「四聖獣」と呼ばれる存在の一人に「黒竜」と言う人物がいると言っていたのである。その名前を聞いた時に僕はまさかと思い「魔王」が「四天王」ではなく「五人」いるのではないかと考え始めるのだった。そして僕が考えていると「魔王」がその「黒帝」の力を試す為に僕と模擬戦を行う事になったのである。僕はもちろんそれを受けて立ったのだが、「魔王」との戦いの最中にまたしても「黒帝」が「闇魔法」の魔法を勝手に使って僕を攻撃してきたのだった。しかも僕の意思とは関係なく発動してしまいその事に混乱しているうちに僕たちは魔王に負けてしまったのである。

その後「黒帝」を僕に渡して何か思うところがあったみたいだったが特に気にしている様子はなかったのが救いだと思うがそれでも僕の心の中にあった不安は消えることはなかった。そのせいでどうすれば良いか悩んでいたが、その時に「黒竜王」と名乗る少年が魔王の前に現れたのである。その「黒竜王」に対して僕は魔王が襲われないように警戒していたのだが、その心配は無駄だった。なんと、その「黒竜王」は魔王の部下になりたいと志願してきたのだ。これには魔王自身も驚き、そしてなぜか納得してしまったのだ。どうやら「黒王将」という称号を持つ者は「魔王軍最高指揮官代理兼幹部候補部隊隊長代理(仮)」という肩書を与えられるようだ。そんなわけで「勇者」、「賢者」、「黒皇将」に続き、「黒竜王」、「銀翼騎士将軍」までも仲間に加わったのだがこれで本当に良かったのだろうかと未だに悩むことになるのだが今の時点では何もできずに終わる事になってしまったのである。

*****

「えーーーー!! もう帰ってしまうの?」

俺は突然現れた「白猫族長」から衝撃的な事実を突きつけられたのである。俺としてはそんな重要な話をされたのでもっとゆっくりしたいと思っていたが、そういうわけにはいかなかった。何故ならば俺を呼び出していたのは「白猫」という組織であって、それを纏めている白猫族長は忙しい身分らしいのだ。その事から俺はすぐに「魔王城」から退散しないといけないと告げられたのであった。

「仕方がありませんよリクさん、私達の種族の事はご存知の通りこの国では珍しい種族です。あまり目立つ行動を取るのは好ましくないのです。だからこそ早くこの国から出るべきなんですよ」

そう言いながらアリアは寂しそうな顔をしたのだった。俺はどうにか引き止めたかったがそうするとまた迷惑をかけてしまうと思い素直に了承した。

そして俺と魔王はその部屋から出ていきそのまま転移装置のある部屋に向かうとそこにはすでに準備が完了しており俺たちはその転送陣の中に入る。すると一瞬にして視界が変わったと思った瞬間目の前に大勢の人たちが集まっておりその中には俺をここまで送ってくれたあの商人の男の姿もあったのだ。おそらく彼が俺の為に用意してくれていたのだろう。そして彼は涙を浮かべて何度もお礼を言ってくれた。それに便乗してなのか周りにいた人たちも同じ様に感謝の言葉を口にするのだ。それに対して魔王は何とも思わなかったような態度を取ってはいたがその目は明らかに嬉しそうだということを物語っていたのであった。

**

***

こうして俺達は無事に帰還した。ちなみに「黒帝」については、アリア達から手渡してもらい今は首飾りとして装備しておりその状態で収納機能を使用することで体内に保管できる状態になっているのだ。そのおかげで俺は安心することができたのである。ただ魔王は「この力を使って色々と研究したいから僕に預けて欲しい」と言伝を伝えてきたため魔王に渡すことになったのである。まあ元々この力は「魔王」のものでもあるから、その権利があるといえばあるので俺は快く譲ることにした。そうすることで俺は「黒帝」に頼らずにこの世界を救うことが出来るようになるのだと確信したのである。それから俺は商人と別れを済ませてから魔王と共にこの場を離れようとしたのだが、そこで「魔王」に対して話しかける一人の男がいた。

「久しぶりですね。魔王。あなたが私のところに姿を見せないなんて初めてじゃないですか? 一体何を企んでいるんですか? あなたの目的はわかっています。あなたの本当の狙いは人間族の国が誇る最強部隊の殲滅でしょう。その目的は恐らく魔王の力を試すつもりなんでしょ? ただ残念なことにあなたに倒された四人の魔王はあなたよりも強いので、返り討ちになるだけだと思いますけどね。その点、私が相手なら勝算もあるかもしれないが私はあなたと戦いたいとは一切思いませんので」

「お前はいつまでくだらないことをほざいてるんだ。僕はもう二度と魔王に戻らないと言ったはずですよ」

「それはわかりましたが、どうして私達に挨拶すらしないのです。魔王は私たちと決別してでもやりたいことがあるんでしょうが、それでも私達はあなたと友達だと思っていましたので、それなのに急に姿を消したので皆悲しんでますよ」

「ふんっ! お前らにそんな風に思われてたとは知りませんでしたが僕にとっては邪魔だったんだよ。それに魔王がこの世界に君臨する事を快く思ってなかっただろ」

その言葉を聞いて俺とアリアはこの世界において「白龍王」と深い関係にある人物が魔王であることを確信して顔を合わせるのだった。その人物こそが白龍王が探し求めている人物であり「七竜の巫女」の力を持つ少女が探している人だと思われるのだった。

そして俺とアリアはすぐにこの世界を去ることを決めたのである。これ以上「魔王」を刺激してしまうと後々厄介ごとに巻き込まれてしまう可能性もありそうだったので俺はすぐにでもその場を離れたかったのだ。

しかしそう簡単にはいかせてはくれなかったのである。

なぜなら目の前に現れたのは「勇者」と呼ばれる少女とその仲間達がいたからである。その少女が纏っているオーラはとても普通の人とは違っていることに俺は気づいたのである。そしてそれはその仲間たちも同様だった。「勇者」の実力もかなりのものだと感じるがそれ以上に「勇者」と一緒にいる三人の少年少女たちも侮ることの出来ない力を秘めていると感じたのである。

その事からその少女たちもまたかなりの腕前を持っていることがわかるのだった。だがここで戦闘になる前に魔王が割って入ってきてその話を打ち切る。その際に魔王は俺に対してこう告げてきた。

「さて僕はそろそろこの国から離れる事にしますが、君はどうするつもりなのですか?」

「ああ俺もこの国を出て行くことにする」

その答えを聞くと魔王はそのまま何も言わずに立ち去ってしまう。だが魔王がいなくなるのを確認した後に「勇者」の視線はなぜか魔王がいなくなった俺の方を向いてくる。

そのことから俺は「黒竜」が言っていた魔王が信頼している仲間の一人が「黒帝」を作り出した人物であると気づくことができたのである。

そのことに俺は驚きつつもなんとか表情を変えずに接する事に成功したのだった。

だがそんな時にさらに信じられない事態が起きたのだった。なんと、「勇者」は俺を見てまるで知っているかのように声をかけてきたのだった。俺はその事に驚きを隠すことができずに戸惑う。そしてその動揺は周りの人達にも伝わったようでその事が「勇者」の仲間の少年たちが反応する。だがそれでも「勇者」はそれを気にすることなく再び話し出す。その事で俺の中でますます「勇者」に対する警戒心は増していくばかりであり、そのせいでうまく話すことができないでいると今度は魔王が戻ってきたのである。魔王が現れてからようやく俺は落ち着きを取り戻して、改めて魔王に別れの挨拶を行う。そして俺が魔王に渡したアイテムのおかげでいつでも連絡が取れるということを伝えると魔王もそれに同意してくれたのだった。

こうして俺はようやく「魔王城」を離れることになり転移装置を利用して別の大陸へと渡ることに成功する。

そしてここから新たな旅が始まるのだった。

**

***

魔王の眷属となった僕とアリアとで僕たちの故郷である村に帰ろうとしていたところで思わぬ訪問者が現れたのである。それは以前僕たちが助けたことのあるあの盗賊団の一人が助けを求めてきたのだった。僕と魔王が「黒竜」の捜索を頼んでいた者たちで、彼らはその仕事を終え僕たちのもとにやってきたのだがまさかこんなタイミングでその二人が同時に現れるなんて夢にも思っていなかったのだ。だから最初はその二人を見た時に驚いたんだけど二人は何食わぬ顔で話しかけてきて事情を説明してくれた。そして彼らから聞かされた話は驚くべきものだったのだ。なんでも「黒帝」の力は本当に危険だということで魔王の命令で魔王自身がその回収に向かったという話だった。それを聞いた時僕は驚きすぎて思わず声を出してしまいそうになったけどなんとか堪える事に成功できたのだ。だけど魔王がいない今だからこそ言えることがあるのだと僕は思った。だから僕はそのことを魔王に確認することにしたのである。

「魔王、その「黒帝」の力とやらはそこまで危険な代物なのですか?」

「ええその通りです。魔王軍の精鋭部隊ですら歯が立たないほどの力を持った武器、それはまさに魔剣と呼べるものです。そしてそれが悪用されると非常に恐ろしい結果になりかねません」

「では魔王はその力を回収しにいったのですか」

「いえ実はあの男は魔王城には向かっていなくて別の場所に向かおうとしていたんですよ。それを僕が阻止しましたがそのおかげで少しだけ遅れが生じています。まああいつの事だから心配はないでしょうが」

その話を聞いていた僕の頭の中に疑問が生じた。その話をしたということは「魔王」は魔王城を出ていないという事になるのだ。そうなるとあの「勇者」がこちらに向かってきているという可能性が浮かんできてしまったのである。その可能性を考えるだけで冷や汗が出てくるのがわかる。正直なところあの化け物がこの村に近づいて来られると村人たちに迷惑をかけるかもしれないと考えたからだ。しかしそれでも魔王ならばなんとかしてくれるだろうと一先ずはその事を頭の中から追い出した。それからは僕たちはその二人の仲間を加えて共に行動することになり、魔王城へ向かうことにしたのだ。その途中で「魔王」が何かを言いたげにしてたような気がするけれどあえてその事は無視することにする。だってもしその内容を聞いてしまったら確実に魔王城に連れて行かれてしまうと思ったから。それに僕自身も魔王に頼みたいことがあるので魔王の話が終わるのを待ちたくなかったのだ。

そして「魔王」の話が終わりしばらくするとついに僕たちの目的地である「黒竜」の居場所までたどり着いた。その場所は山の中に存在する洞窟で、その中は異様な空気に包まれていたのである。そのことから僕達はその気配の正体を確かめるべく慎重に歩みを進めて行ったのだった。その結果その正体が何なのかを知ることに成功したのである。そうその場所に存在していたものは、黒髪の美少年だったのだ。

その者は一見普通に見える。ただよく見てみるとその者の体からは黒い煙のようなものが立ち込めておりとても禍々しい雰囲気を放っていたのだ。しかもこの世界にある全ての属性魔法に適性を持つことができると言われている魔王よりも、その者の力は強大だったのだ。そしてその者が手に持っていた剣はなんと「七竜神器」の1つである聖剣のコピーであった。その事実に僕は驚かされながらもこの男がなぜこの場所にいるのか気になった。そうその者は魔王の部下でこの世界で二番目に強い男である「白龍」にそっくりの顔をしていたのだった。僕はそのことを確認しようとして魔王にその男の事について尋ねようとしたのだがその時だった。その男に魔王が攻撃を仕掛けたのである。僕は咄嵯の事に戸惑い動けなかったのだが魔王が負けるはずがないのでその戦闘を静観することとした。そして魔王と「白龍」と思われる男との戦いは激しく繰り広げられるのだった。

魔王と「白龍」の戦いが始まった頃、「黒帝」は勇者の圧倒的な力によって窮地に陥っていた。というのも魔王は自分一人で勇者の相手をして時間を稼いでくれるはずと思っていたからである。その思惑は崩れ去ったが、その代わりに勇者が仲間を連れて魔王に加勢しに来た。それは勇者の仲間と思われる三人で、それぞれ「青竜王」、「黄土色」、そして「緑鬼」のオーラが放たれていて魔王と同等もしくはそれ以上に感じるほどであった。そんな三人を相手にしているうちに魔王が勇者の攻撃を受け止めきれずに大ダメージを受けているのが見えたのだった。その事に魔王のことが心配になったが今はそんな事を考えている余裕はなかった。なぜならその勇者の相手をしながら他の勇者達の動きを警戒しないといけないからだ。だが勇者達が「白帝」に対して攻撃を仕掛けることは一切なく「黒帝」に攻撃を繰り返していた。そして魔王の方も「白龍」の攻撃を凌ぎつつ「黒帝」のことを気にしていたのだ。

「さすがは勇者と言ったところでしょう。私に傷をつけることができているのは称賛に値することですよ。しかしあなたの本当の実力はこんなものではありませんよね」

(それはどういう意味だ?)

魔王はそう言って勇者のことを探るように言葉を選んで話しかけてくるが勇者は何も答えずひたすらに勇者の攻撃を防ぎ続けていた。そんな勇者の姿を見て「魔王」は違和感を抱くのである。なぜならこの「黒帝」がこの世界にきて魔王軍に加わる前までのことは知っていたが、この世界に来るまでの記憶を失っているということだった。だが魔王はこの話に嘘があるとは感じられなかったので勇者は「白帝」が作り出している人格の可能性が高いと考えるのだった。そして魔王はその可能性に賭ける事にする。勇者の力が本当であると仮定した上で戦うことを決めた。それはこの場においては自分が勇者を倒すことは不可能だと考えたからである。だがこのまま勇者が力尽きるまで防ぐのも面白くはないと考えた。なので勇者に対して反撃を開始することにしたのだ。

「ふむなかなかいい一撃をお見舞いしてくれましたね。あなたはもう少し楽しませて貰いますよ」

「ほお俺と戦うのは面白いと思っているんだな。だけど今の俺は以前の俺ではないぜ」

「そのようですね」

「では試させていただきます。『竜闘術奥義<真黒撃>』!!」

勇者がそう叫ぶと勇者の手から膨大な量のエネルギーが放出される。それを見た「黒帝」は今までのように避けようとするのだが、勇者の放った拳の速度の方が速かったのだ。それにより「黒帝」の体は後方に吹き飛ばされる。だがそれでも「黒帝」の意識は失われていなかった。その事に勇者は驚きつつも追撃を行おうとしたが、「黒帝」は瞬時に体勢を立て直して再び勇者に接近する。だが勇者は冷静に対応し今度は勇者と勇者の剣の斬撃を「黒帝」は両手で受け止める。そしてその手からは大量の血が流れ落ちていた。だが勇者の連撃は止まらない。「黒帝」の体を何度も切り裂き続けた。そのことに「黒帝」は顔をしかめるがすぐに勇者が繰り出してきた蹴りを受け止めたのだ。しかしその威力に膝をつく。そこで魔王と「黒帝」の二人はお互いに笑みを浮かべた。

魔王の作戦通りに勇者にダメージを与えることに成功して、さらに魔王が「白帝」を倒せるほどの実力者であるという事も証明することができた。あとはその流れのままに倒すだけだと考えた「黒帝」は立ち上がって魔王の方に向き直り構え直す。その様子を見た魔王も真剣な表情で「黒帝の力」を確認することにしたのだった。「黒帝の力」を使えばどんな相手にも勝てると確信していた。だからこそ魔王はその力を手に入れる必要があったのである。魔王にとって自分の目的のために邪魔なものを排除するという事は至極当然のことであり、今回もその考えを実行しただけである。だから相手が勇者であろうとも全力で排除しようとしていた。

「さあかかってくるといい」

「では遠慮無く行かせてもらう」

そう言うと勇者は勇者の持つ最強の必殺技を魔王に繰り出す。そして勇者は見事にその技を使いこなしていたのだ。それはまさに「黒帝」が使う技であり魔王がそれに対抗するかのように「黒帝」が放つのと同等の力を放つ。それを見た魔王は自分の勝利を信じ疑うことなく戦いに挑んだ。そして二人はその力を放ちながら激突した。

二人の衝突した力は周囲の空間を揺らしまるで地震が起こったかのような衝撃が起こる。魔王は目の前の男がそれほどまでに強敵だということを理解すると同時に心の底から喜びを感じたのだ。これほどの相手ならば「黒帝」が持っているはずの力を取り戻すための良い材料になるだろうと予想した。そして魔王はその勇者が繰り出す技と魔王の技の打ち合いを続けていく。そして魔王と勇者の力のぶつかりあいに「黒龍」と勇者は巻き沿いを食らっていた。勇者の仲間の二人はどうにかして巻き込まれまいと距離を取るがそれでもその力は強力すぎて近づくことはできなかった。そして魔王と勇者の戦いはさらに激しくなっていく。お互いの体が切り刻まれてもその傷が再生していき互角の戦いが続いていたのだ。魔王はその勇者との戦いを通して確信したのである。この男は自分と同じ存在であると。だがそんな勇者と魔王が互いに譲れないものがあると理解すると魔王と勇者の二人から凄まじい衝撃波が発せられる。その二つの力が混ざると周囲に存在する生物全てに影響を与えるほどだった。その光景を見た「青龍」たちは思わず息を飲み込むのである。その瞬間魔王と勇者の体には亀裂が走り、魔王は勇者との激闘の末に遂に勝利を収めたのだった。その光景に魔王は内心ほくそ笑むのである。

勇者の体に走る亀裂は徐々に広がりその肉体の崩壊を始める。それを目の当たりにした「白龍」はその現象の原因が勇者にあると思い込みその体に向けて剣を振るったのだ。しかし勇者が振るった剣の先には既に誰もいなかった。それに驚く「白龍」は視線を動かそうとするがもう既に「白龍」の首から上は地面に落ちて胴体だけの存在となっていた。そして勇者に倒された勇者の仲間の二人が悲鳴を上げるのである。その出来事が起こっている時、「黒帝」と「黒龍」の戦闘は激しさを増していた。

魔王が勇者に勝ったのを見て「黒帝」はすぐに魔王の方へと駆け出そうとするが、「黒竜」に足止めされてしまい、そのまま激しい攻防が始まる。勇者の仲間だった「青竜王」が魔王に襲いかかるが、魔王が「青竜王」の相手をしている隙に魔王の側近の一人「赤鬼」ともう一人の側近「黄鬼」によって魔王と引き離されてしまったのだ。だが魔王は部下達を信頼しているのか特に気にしていない様子だった。そんな状況の中、勇者は魔王に向かって声をあげる。

「おい待て!! お前の目的はなんだ?!」

その問いかけに対して魔王は何も答えることは無かった。そして魔王は最後にこう言い残す。

「あなたのような素晴らしい方と出会えて良かった。さようなら」

そう言って魔王と勇者の最後の戦いは幕を閉じるのであった。

勇者に負けた俺はその場に倒れ伏していた。魔王が俺に何か言っているのが見えるがその会話の内容は聞き取れない。だがどうやら俺のことを褒めているようだということはなんとなく分かった。なぜなら俺が今までの人生の中で初めてと言っていいほどに満足できる戦いであったからだ。俺は勇者との戦いに負けてしまうが、それで終わりではない。これから先の俺の戦いは勇者との戦い以上に厳しい道のりとなることだろう。そんなことを考えている間に魔王の声が段々と聞こえなくなってくるのが分かる。

(ああ魔王は死んだんだな)

その事がなぜか自然と感じられたのだ。なぜなら自分の人生がここで終わってしまうのかという恐怖はなかったからだ。それは自分が望んでいたことかもしれないと思うのだった。俺は魔王と本気で戦うことによって死ぬ覚悟を決めたのだ。だがそれでもまだ生きていたいと感じる。それは俺にはまだ成し遂げなければならない事が残されているからである。だが今の状況を見るととてもではないが生きて帰る事ができるとは思えなかった。そして俺は最後の最後まで生きようと抗おうとするのである。だがそこで意識を失う。

俺は目を覚ますと真っ白な世界にいた。だがその世界で一人の少女を見つける。その姿は「黒帝」ではなく、魔王の姿だったのだ。その事に驚きを隠せない。魔王にそんな力があることに。魔王とは一体何者なのか。そう思いながらも話ができる状態になっているのかどうかを確認するために口を開く。そして俺が魔王に声をかけようとしたところで俺の言葉を遮るように言葉を口にする。

「私の名は「魔王」だ」

魔王はその言葉をはっきりと言う。その口調はどこか冷たいようにも感じた。魔王はその言葉でさらに俺の警戒心を上昇させる。なぜなら目の前の相手は魔王であり、さらに俺に敗北感を与えた相手の主だったのだ。その相手に敵意がないと信じるのは難しい話だった。俺も少し殺気を出してみるが、それに対して魔王は一切の反応を見せない。ただその目で俺を見つめるだけだ。その目は冷たく感情が読み取ることはできない。そして俺も何も言えなくなる。俺はこの状況に困り果ててしまったのだ。魔王はこちらに近づいてきて俺に話しかける。

「私についてこないか?」

その誘いはあまりにも唐突なものであった。俺はこの世界を滅ぼすつもりであるため、その提案を受け入れる訳がなかった。そのため断る。その意思を示すように魔王に剣を向けるがそれを見ても魔王は特に動じる様子を見せなかった。そのことが俺は疑問に思うがとりあえず質問をしてみることにした。

「なぜ俺を勧誘しようとする」

「あなたを気に入ったからですよ」そう魔王が言ったので思わず笑ってしまう。こんなにも簡単に信用してしまう魔王に対して、この人は本当に馬鹿なのだと思った。そもそも自分の目的のために人を騙し殺すという行為をしてきた人物に騙されてしまえばその先待っているのは地獄だというのに魔王は全く分かっていない。そんな事を思って魔王の行動に呆れながら魔王に話す。だがその時に一つの違和感を覚えた。魔王の雰囲気が変わったように見えたのである。

その違和感を確かめるために今度は「鑑定」を発動させて魔王のステータスを覗き見る。そこにはあり得ないものが映し出されていた。

「嘘だろ」

そう呟き、俺はすぐに魔王から離れることにした。その行動を見た魔王は笑い出す。まるで面白い冗談でも見ているかのようだった。そして魔王が笑っている間、俺は何もすることができなかった。それほどまでに魔王が見せてきたものは衝撃的だったのだから。

「どうしたのかな。君は私を殺すのでしょ」

その問いかけを聞いて魔王に攻撃を仕掛けたくなったがなんとか抑え込むことに成功する。まずはこの事態を把握したいので魔王に話しかけてみる。魔王からは普通に返事が返ってきた。だがその内容から魔王は本心からそう言っていることが分かる。

「一つ聞いてもいいか」

そう魔王に言うと首を傾げていた。それを見ながらも魔王の返答を待たずに言葉を続ける。

「お前は誰なんだ」

魔王はその答えが知りたかったのかそのことについて話し始める。

「私は「魔王」という種族です」

「ふざけるのもいい加減にしろ!!」

「いえ真面目に話していますよ」

俺は怒りが湧いて来るが、魔王は淡々とした表情を浮かべながら冷静に答えてくる。それが余計に腹立たしかった。そして魔王は続ける。

「では証拠をお見せします」

魔王は手を広げながらその手に力を込めるとその手のひらが一瞬だけ輝く。そして次の瞬間には魔王は魔王ではなく一人の少年になっていたのだ。その変化に驚いた俺は魔王の顔をじっくりと見つめた。そして魔王は微笑みながら話し出す。

「僕は「勇者」だ。これで信じてくれるかい」その一言に俺は完全に納得した。そして俺の口から自然に言葉がこぼれ落ちた。それは無意識のうちに思っていたことだったのである。

「勇者ってもっと年を取っているものだと思っていたが」

「それは僕も驚いている」

そう言って勇者は自分の姿に戸惑いを覚えていた。だが勇者はそれでも落ち着きを取り戻して、そして自分の目的を果たすために俺にあることを告げてきたのだった。「僕は君が魔王を殺したことに文句を言うつもりはない。だが魔王の代わりを務める存在が必要だと思っている」

「確かに魔王が死んでしまったら魔族をまとめるものがいないから混乱が起きるのは当然だと思うが、そんな奴がいるのか?」その問いに勇者は即答をする。

「もちろん、僕以外に適任者はこの世界には存在しない」

その言葉を自信満々に語る。そんな勇者を見て俺はあることに気づくのだった。

(こいつの正体に気がついていない)

「勇者、あんたが本物の勇者ならあんた以外の適任者がこの世界にはいないことは確かだろう。だがその魔王が勇者だということをみんな知っているはずだ。その事実を知っている者の中には魔王のことを慕っていた者もいると思うぞ」

その俺の意見を聞いた勇者は「それもそうだね」と呟くと、そのまま考える素振りを見せていた。そしてしばらく考えた後にこう言ってくる。

「それならこうすれば問題ないだろう」

「どうするつもりだ」

「僕の能力で【偽装】を使うんだ」

勇者はそういうとまた手を広げながら光を放つ。俺はそれに驚くがすぐに自分の姿が変わっていることに気づき驚くのであった。

(俺の姿が変わってしまっている!?)

その驚きは大きかった。それは鏡を見なくても俺の顔の輪郭などが変化してしまっていることがわかるほどの変化があったのだ。

(これが勇者の能力)「それでこれだと魔王を倒した時とあまり見た目が変わるようなことがないんじゃないか?」俺は勇者に尋ねると、勇者は答えるのをためらうかのようにしていた。そして勇者は少し時間を置いた後で答える。

「それは仕方ないじゃないか。本当の姿を偽るだけでかなりの力を消費してしまうんだよ」

「それはお前がこの能力をまだ完璧に使いこなせているわけじゃないからだろ」

「まあそうなんだけど」そう言うと勇者は困ったような顔を見せる。その表情を見てなんとなく勇者の心境を察することができてしまうのだった。

「お前は魔王のことが好きだからな。だから魔王を殺さずに生かしておこうと考えているんじゃないのか」その問いかけに勇者は答えなかったが否定しなかった時点で肯定していることと同じであった。勇者は苦いものを食べたかのような微妙な表情を見せている。その勇者の姿を見ると魔王はやはり魔王にとって大切な人だったのだろうと改めて実感させられる。そして俺はそのことを理解しながら魔王の話を聞いていたのだ。勇者は魔王のことを好きだった。しかし魔王が自分に対してどのような気持ちを持っているのかについては分からなかったらしい。その勇者は魔王の態度を見る限りは自分を好きでいてくれていると思おうとしていたようだが、実際に自分が魔王の立場だった場合どうなのかを考えると不安になったようだ。そんなことを考えているうちに勇者が魔王のことで頭がいっぱいになっているのが分かった。そのことに気づいた俺は魔王の居場所を探すことにする。

(まさかあの人が生きているはずが。だがもしかするとまだ生きているかもしれない)

俺はそう思いながら魔王の魔力を探る。だがその気配を感じることはできなかった。そのことから魔王が既に死んでいるかもしれないと考える。その事に俺は少し安堵してしまった。だが魔王はまだ生きていて、しかも魔王が今どこに存在しているのかまでは分からないということだった。だが俺はそれでも魔王を探し出して倒すことを決意する。

俺はこの世界にいるかもしれない魔王を探して倒さなければならなかった。だがその前にやらなければいけない事があるのを思い出す。その事に気づいた俺は目の前にいる「勇者」を名乗る少年と向き合った。その事を俺から言い出す前に相手から話を切り出してくる。

「君にお願いしたいことがあるんだ」

そう言われても何を頼まれるのかがわからない以上は何を頼もうとも引き受ける気にはなれなかった。そのため俺が断ると、目の前に座る少年は困った表情になる。

「えっと君はこの世界で最強と言われる冒険者の一人である『黒帝』だよね」

その名前を言われると自分のことを見抜かれていることを理解することができた。そのためその事については驚きを表さずに、むしろ予想通りだというように振る舞うことにした。

「その呼び方を俺にしてきたって事はもしかしてお前は」

「やっぱり君は僕のことに気づいていなかったんだね」

「当たり前だろ。そんなに簡単に見抜けていたら今までの苦労が台無しだよ」

「その言い方を聞く限り君は何か特別な方法で正体を隠していたということだよね」

そう聞かれると俺は「そうだ」と答えた。それから少し沈黙が流れるがお互いに気まずくなり会話を続けることができない状況になっていた。

だがこの世界に来たばかりで、これから何をすべきかについて迷っていた俺にとってはちょうど良い機会でもあった。そこで質問をしてみることにした。

「質問をしてもいいか」

「うん。別に構わないよ」

そう言うのを聞いて俺が最初に尋ねたのはこの国の現状についての質問だった。まずはこの国がどういうことになっているかを把握しなければ何も始まらないと考えていたからである。俺はこの質問をした理由について話すと目の前の人物は少し戸惑う様子を見せたが、それでも答えてくれた。まずは今の状況を説明してくれと言われたため話し始めるのだが、それはかなり酷い状態だったようである。そもそもなぜここまで悪化しているかというと、先代の王がこの国の政治をめちゃくちゃにしていったことが原因であり、さらにその後からこの国に新たな魔王が現れて好き勝手し始めたことが最大の要因となっているという。

その話を聞いて思ったのはこの国はどれだけ荒れていたのだろうかと思ったが、それについてもすぐに教えてくれる。というのも魔王が現れる前からこの国は荒んでいたのでそこまで変わっていないそうだ。だがそんな国にも救いの手を差し伸べようとした存在もいたのだという。

その人物の名前は「大賢人」と呼ばれている存在である。その人物が現王に代わってからというものの、この王国に訪れる災厄が全て防がれるようになってきていた。それは勇者という存在がやってきた影響だという。勇者という存在は他の人間とは違いレベルが圧倒的に高い上に、様々なスキルを所持しているためにどんな相手にも勝つことができるほどの力がある。だからこそこの世界に生きる人々はそんな人物の恩恵を受けられるからという理由で信仰心が厚くなる傾向にあった。だがそんな人々の信仰心とは裏腹に「大賢者」は人々に害を成す存在であったのである。その証拠として「勇者」は「大賢者」から人々を救うために旅に出たとされている。そして勇者が旅に出ることによって、魔族の活動も沈静化したとまで言われていたのだ。

だがそんな事実はなかったということを知るのにそれほど時間は必要ではなかった。「大賢人は勇者を使って自分の欲望を満たしているだけだった」という情報を俺は聞いた。そしてそんな勇者に魔王は負けてしまい殺されたというのだ。

俺はそんな話を聞いた後でその勇者の実力に疑問を抱いていた。その勇者の強さは「黒騎士」と同等であるのは間違いない。だがそれなのに負けたという事実がどうしても信じ難かったのである。そしてそのことを尋ねてみると答えはすぐに返ってきた。

「勇者の能力は確かに僕達の中では飛び抜けた性能を誇るが、それはあくまでも「勇者」としての力と魔王にすら勝利できるほどの力だけだ。それとは別に固有能力も持っているけど、それを使いこなすにはかなりの時間が必要になる」

その答えを聞いた時にようやく俺はその勇者が「黒帝の剣技」を扱うことのできる者であることを思い出して納得した。つまりは今の段階では「黒帝」と呼ばれる存在と同等の力は持っていないということである。

そのことに納得した俺は目の前にいる相手が本物の勇者だということを完全に信用することにした。なぜなら「黒帝の剣」を使う事ができる者は現在確認されている中では、俺と魔王しかいないはずだったのだ。そんな貴重な戦力を失ってしまったのであれば魔王が勇者に敗れたという話を鵜呑みにしてしまうことも仕方がないのだと俺は思うのだった。

(この世界で本物の勇者が現れたということは、いよいよ魔族が動き出すかもしれない)

そう考えると魔王を殺した後で魔族の動きが活発化するのではないだろうかと思うようになった。そんなことを考えながらも俺は、この勇者を仲間にするべきなのではないかと考える。その理由は、勇者は「黒帝の剣」の正当な継承者であり、さらに魔王を倒したことのある人物であるため魔王と戦う際にも役立つと考えたからだった。その事を説明すると勇者は喜んで受け入れたのであった。その反応を見ると本当に勇者は魔王を倒すのが好きなんだと感じられた。

俺はその勇者とこれからの行動を決めることにする。

「とりあえず、お前の仲間になるつもりだ」

その言葉を言うと勇者はその言葉を待っていたかのような笑顔を見せてくる。どうやら俺のことを勧誘するのは最初から決めていたことのようだった。その事実に俺が気づくと、勇者の方からも話をしてくる。

「僕の方も色々と協力してもらうことがあるからそのことはよろしく頼むよ」

「わかった。それで、俺としてはお前のことを勇者と呼び続けるわけにはいかない。名前を教えてもらえるか」

「ああ。そういえばまだ言ってなかったね。僕は「リリィ=アスモ」というんだ」

「じゃあこれからはその名前で呼んでくれ」

「もちろんいいとも」勇者はそういうと笑っていた。

「それにしても勇者の本名は女性の名前みたいな名前なんだな」

その言葉に勇者は少し不機嫌な顔を見せる。その態度を見たことで俺は勇者を怒らせてしまったことに気づくのだった。

(この勇者様はかなり怒りっぽいみたいだな)

そう思いながら俺はこの勇者と行動を共にすることにするのだった。俺はそう決心した後で魔王の情報を集めるためにこの場を立ち去ろうとする。その事を俺が口に出すと勇者から呼び止められる。

「待ってくれ。魔王がどこに隠れているのか知らないのか」

勇者の言葉に対して俺は何も言わずにその場から立ち去ることにした。そのことについて勇者は何か言ってくるのかと思い身構えていたが、意外とあっさりとした感じだった。そのため拍子抜けしてしまいそうなほどだったが、特に気にすることもなかった俺は魔王を探しに向かったのだった。

俺と勇者の二人で一緒に行動するようになってからの初めての戦闘となった。魔王を見つけるのにそこまで手間はかからないだろうと俺は思っていた。だがそう甘くはないことを思い知ることになった。

それは「黒帝」という異名を持った魔王の実力を知ることができたので良かったがそれでも苦戦を強いられたのは事実である。だが最終的にはなんとか倒すことができた。それから俺たちはこの世界の魔王に関する情報を集めてみようと行動を開始したのだった。その結果分かったのがこの世界における魔王の居場所についてである。

(やはりあの魔王はまだこの世界に存在しているのか)

そう確信できた理由は魔王の反応がこの世界にあるのかどうかを調べるためである。もしあの時倒したはずの魔王がまだ生き残っているとなれば俺としても困ってしまうのだから。

(やはり魔王はまだ生きているな)

そのことを確認すると、この世界に現れた魔王を探すことに決めた。魔王を探し出すことに関してだが勇者の力を使えば簡単に見つけることは可能であるだろうと思っていたが、そんな甘い話はなかったのである。

そのことに勇者に尋ねるとその魔王はまだ生きているということらしい。ただその居場所に関しては分からないとのことだった。その情報を聞く限り、俺はその勇者の能力を信用していなかったのだがそれでも試しに調べてもらおうとしたところその場所が特定されたようなのである。そのため俺はその場所に向かう事にした。その前に魔王を倒せるのかを確認しておかなければならなかった。そのことについて勇者に聞くと「君がいれば問題はないはずだよ」という言葉を返してくる。その事に俺の疑問はさらに強まるばかりだったが今はとにかく魔王がいる場所に行くことが先決なのでその事は後回しにすることになった。

勇者と一緒に魔王を倒しに行こうとすると突然現れた人物から声をかけてきたのだ。

「おーい。久しぶりだね。僕だよ僕」

いきなり目の前に現れたので少し驚くことになったが俺はこの人物が誰なのかを確認することにした。俺の記憶ではこいつは俺よりも年下であり、この世界に迷い込んだばかりの頃に出会った人物であることが分かった。その人物の名は、「大賢人」と呼ばれている人物である。だが俺は、その名を聞いたときにすぐに違和感を覚えた。

それは、大賢者という名前を知っている人間がこの国に存在するとは思えなかったからだった。

大賢者という名前は初代勇者が作り出したとされている名前なのだ。そして初代大賢人の人間も勇者と同様にこの世界を平和に導こうとして行動していたという記録が残っているのだ。そのことから勇者は初代大賢人を真似しているのではないかと俺は考えたのだがそんなはずはないという答えが返ってくる。というのもその勇者とやらは俺が知る限りでは初代の大賢者とは全く別人のようなのである。その事実を確かめるべく目の前の相手に質問をしようと思うが、それをする前に目の前の人物が話しかけてきたのである。

その人物は見た目が少年にしか見えないが、実際は数百年以上生きている存在だということだった。そんな存在を相手にして普通に接することができるのかというとできると答えるのが当たり前だった。そのことを説明すると、その相手は驚きを隠せずにいる。そんな相手を横目に俺は魔王がいるであろう場所に足を踏み入れることにした。そこで、俺は魔王の気配を感じた。その事を報告すると勇者は驚いていたが、魔王がいるかもしれないという可能性があるだけで勇者は喜びを感じていいたようだった。そんな相手の様子を見ていたせいか、勇者に対する気持ちは魔王を倒すまでの間は付き合ってあげようというものに変わっていく。俺は、勇者が喜ぶ姿を見てなんとなく可愛く見えてしまいつい頭を撫でてしまった。そんな行動をしてしまうと、目の前の人物は恥ずかしくなったようで顔を真っ赤にして俺から距離を取るのである。その様子を見ていた俺は、魔王を倒してこの世界に安寧が訪れるまでの間だけこの勇者に付き合おうと思った。

魔王がいると思われるところまで来たところでその気配を感じることができるようになっていた。俺はその事を勇者に告げると魔王がどこにいるのかを聞きたいと言い出したので教えると勇者はとても喜んだ様子を見せていた。その理由として勇者は魔王を倒した後に魔王にこの世界のことを任せるために魔王を説得したいと口にしたのだ。それを聞いて魔王は勇者の説得を受け入れるのか疑問を抱いたが魔王がそれを受け入れれば俺としても都合が良い。なぜなら魔王を説得することができれば勇者の仲間に引き入れられると考えたからだ。

(まあ、とりあえず魔王を倒すのが第一優先だし魔王を見つけ出すまでは勇者と協力体制をとることにするか)

俺と勇者が行動を開始する前に俺は、大賢人と話す必要があると感じたので話しかけた。その時に聞いたのが初代勇者と二代目勇者とやらの事についてである。そのことを詳しく聞こうとすると、なぜか初代勇者の容姿については教えてもらえなかった。そのことに不信感を抱くも今はそれどころではないと考えてしまい追求はしないことにした。

そして俺と勇者の二人は遂に、魔王と戦うために準備を整えてから動き始めたのであった。俺と勇者は一緒に戦う仲間を集めに動く。その仲間たちというのは聖女と【聖槍】使いの青年である。そして俺は【聖魔剣】を扱うことのできる「魔剣」を扱う剣士を勧誘しようと考えていた。その三人に声をかけることを決めた後で勇者に聖女の居所を教えることにする。その情報を伝えた時勇者の顔色が変わり焦り始める。勇者の話によれば聖女の力は絶大だということだった。そのため勇者は仲間にしたいと考えていたのでその居場所を教えてくれとお願いしてきたので仕方なく教えた。その瞬間から勇者の様子がおかしくなる。その表情からは不安な感じしか受け取れなかったので何かがあったのかと思う。

「大丈夫か?」

そう尋ねても何も反応してくれないのでどうしたものかなと考えるが結局は俺も行くことに決める。俺自身もその事を確認したかったという理由もあったし何より勇者一人だけでは戦力的に足りないと思ったからである。そう考えると共に俺は「聖剣」を取り出すとその力を解放させた状態で聖女たちの下に向かうことにした。その事に気がついて慌てて追いかけてくる姿が見れたものの俺は特に気にすることはなかったのであった。

私が聖女の役目を果たすように父上から言われた時には既に勇者は召喚されていたらしい。その勇者の姿を見つめた私が最初に感じたのは恐怖だけだった。その圧倒的なまでの力を見せつけられてしまったら誰でもそう思うはずだ。

「勇者様どうかこの国を救ってください」

私はそう言って頭を下げる。だがその時の私の本音としては「こいつなんか嫌だ。別の奴が来ないかな」と思ってしまうのであった。その後で勇者に魔王と戦う気があるのかを問いかけてみるとその事を否定されてしまった。勇者は魔王を倒すつもりがないと聞いて思わず安堵の溜息を吐きそうになったのだが我慢する。そう思ったのは、勇者に魔王を倒すつもりがなかったとしたなら魔王との戦いの最中に逃げ出してしまうのではないかと考えたからだった。そうならないようにするにはどうすればいいのかを考えようとしたが、勇者の方から提案を出してきた。その事を要約すると、魔王と勇者は手を組むのではなくお互いを敵だと認識させるというものだ。

その意見に賛成することにしたのだが、なぜそのような結論に至ったのかは分からない。その疑問について尋ねると「魔王は勇者のことを恨んでいるから」という返事を貰う。だが魔王に勇者が倒されてしまう可能性もあるのではと指摘をすると、そのことについては何も心配しなくても良いと言われた。その言葉を信じられなかった私は、何かしら対策があるのではと問いただすと勇者は「その通り」と答えたのである。その言葉の意味が分かったわけではないが、これ以上のことは教えてくれないと思い魔王に会いに行くために城から出ていくのだった。

勇者たちと魔王の居場所を探すために旅をする日々が始まった。そして俺たちが探すために立ち寄った町で勇者の婚約者であるルシアが行方不明になったという報告を受ける。そして勇者は彼女を探すと言ってすぐに町を出て行ってしまった。

残された俺の目の前で聖騎士と魔導士が口喧嘩を始める。そんな光景を見ながらどうしてこんな状況になってしまったのかと考えてみる。それは、少し前のことに遡る。

俺たちはとある町の酒場に来ていた。この場にいるメンバーは俺を含めて五名である。

俺と聖剣と魔剣の二つを持つ【聖剣王】リディア、大賢者と呼ばれる存在である少年、それとこの世界において最強の人間と言われる男である【聖槍の勇者】ゼクス。その全員がかなりの強者である。そんな者たちが集まってこの酒場に集まる事になったきっかけはある出来事によって引き起こされた。俺がその話について語ろうと思うのだが、そろそろあの話に触れなければならないのかもしれないな。そう考えて俺が話し始めようとした時にある人物が入ってきたことで話が中断されることになってしまう。その人物は、大賢者と呼ばれている少年と仲が良さそうな少女である。その二人の姿を見て、俺とゼクトと勇者は驚きの声を上げることになる。そして俺と勇者はその少女と会話をしようとしたのだが途中で逃げられてしまうのだった。

俺は逃げた彼女が何者かを確認するために、この町に住んでいる聖女アリサに協力してもらうことになった。その時に、俺が彼女のことを初めて知った時の感想を述べておいた。俺の知っている聖女とはまるで違った雰囲気を持っており、とても大人しい女性だというイメージを持っているのだった。そのため、聖剣使いと魔導士の言い争いを止めようとしてくれた彼女は俺の中では救世主のような存在になっていたのだ。

そして勇者の婚約者の行方についても調査を行うことになった。その際に俺がこのメンバーを集めたのは勇者の仲間として行動するために情報を共有する必要があると感じていたからでもある。そして勇者と情報共有をしている際に突然現れたのがこの二人であり、そして今に至っているのだ。そんな話をして、俺から話題を変えることにする。

「この前見かけた子について詳しく説明してくれるかな? あれほどの存在感を放っていた存在が誰かは分からずに放置しておくわけにもいかないからね」

「確かにそうだな。あれは相当な実力者だろう。その実力は俺と近いものがあると感じたぞ。それにしても、あの少女は何者だったんだ。俺と目が合った瞬間に物凄い勢いで逃げていったけど、一体なんだったんだろうな」

その質問をしてきたのはゼクだった。その事については俺も全く分からないので何も言うことはできないが、一つだけ言えることがあるとすれば俺は彼女に少し興味を抱いたということである。

そしてもう一人の方はというと、そのことについて詳しく知っていそうな雰囲気だったので尋ねてみることにした。すると彼女はこう言ったのだった。

「あの女の子の素性については分かりませんが勇者様に惚れ込んでいることだけは確実でしょう。それ以外で思い当たることといえば、あの子の服装でしょうか。おそらく勇者様と行動を共にしたいと思っているようなのですが、この世界で女性が勇者の仲間になるということは珍しいことではありません。ですが勇者の仲間になりたいと思う女性たちは大抵は男性よりも優れた能力を所持しているはずなんです。それなのにあの娘にそういった能力はありませんでした。だから、もしかしたら違う可能性だって十分考えられるんですよ」

俺の考えていたことは間違っていたようだ。そして俺が思っていたことが正しいと仮定した場合の話についてを、聖女に聞いてみることにする。その答えとして聖女は勇者の仲間になりたくても才能が足りずに入ることができないといったところかと考えた。そして俺は「もしかしてこの二人は知り合いなのでは?」という推測にたどり着くのであった。

俺は聖女の案内でその場所にたどり着いたので中に入ることにしたが、扉の前には見張りの男がいて中にいるであろう者たちが危険に晒されるような事態が発生していないかどうかを確認してから、聖女の案内に従いながら室内に入ったのである。その部屋の中の状況について簡潔に伝えるとそこには二人の人物が存在していた。その二人は聖女の事を睨んでいたが、俺はその事に気がつきながらも敢えて無視することにする。

(これはまずいな。このまま放っておけば確実に殺し合いが始まっちまうかもしれねぇ)

その事について考えた時に、ふと思った。

(俺は何を言っているんだろうか。この状況を見て殺り合おうとしていると判断すること自体が間違いだったんだよ。俺の目の前に存在している二人はどう見ても普通の人間でしかない)

その事を考えた時に俺は、自分の考えを改めることになった。俺の感覚でいえば、普通ではない力を持つ者は独特の気配というのが存在する。その事について考えると聖女の事は普通ではないと判断した。その理由について聖女の体には、聖女の持つ魔力の他に他の人間の力が混ざり合っていると感じることが出来たからだ。その事が分かった時点で俺の中で警戒レベルが上がった。だがその二人が本当にただの人間だという可能性があることも否定することができないので聖女の言葉を待つことにした。

そして聖女が話し始めた内容は、勇者がここにいないという事実についてである。その事を耳にした俺は、目の前にいる聖女の事を勇者が信頼している仲間だと思い込んでいたので驚いた表情を見せた。だが目の前にいる聖女はそんな俺に対して特に反応を示すことなく、勇者が魔王を探しに行ったということを告げるのであった。

「そうだったのか。魔王と勇者は手を組んだってわけじゃなかったのか。でもそうなると困ったことになったかもな。もし聖剣が盗まれてしまったなんてことがあった場合大変なことになるんじゃねえかな」

俺がそのように呟くと聖女が、俺の持っている剣に興味を示しているようだったがそのことについての説明は後にすることにした。今は魔王を倒すための準備を進めることが優先だ。

「魔王と戦う準備を整える必要があると思うんだが何か良い案は無いかな」

俺がこの世界に召喚されてからまだそれほど経っていないのだが、この世界では既に何度か魔王が現れていて、それを勇者たちが倒すことで世界が守られているという歴史がある。そのためこの世界では勇者は英雄視されている。俺もその流れに乗って勇者として崇められることを夢見ていた。だがその願いはあっさりと砕け散ってしまう。その理由はこの目の前の聖女が関係していた。俺の憧れであった勇者のパーティーメンバーは、聖女と魔導士と聖剣だけだったのだ。その事を理解できた時には絶望に打ちひしがれてしまったが。だがそれでも魔王と戦いたいという願望を諦めたわけではなかった。そう簡単に諦める事ができるなら今まで勇者に憧れていた日々を過ごすことはできなかったはずだからな。だからこそ俺に魔王と戦うという選択肢を消すことなどできない。

魔王との戦いの準備を整えようとしていたのだが、ここで勇者の婚約者と名乗るアリサが現れたことによって状況が大きく変わることになる。俺の目に映っている聖女は、そのアリサに向かって敵意に近い感情を抱いていたのだが、俺としてはそこまで気になることではなかった。勇者の婚約を名乗る者がどんな存在であるのかを知るために接触を試みてみたのだが、その前にアリサの方から声をかけられたのである。そしてアリサは自分が勇者の婚約者だと名乗った。俺にはそんな嘘をついている意味がわからなかったので、本当なのかと尋ねると「その通りよ!」と自信満々な様子で返されるのである。その言葉を信用しても良いものか悩んだ末に、ゼクスにアリサが本当の事を言っているのかを確認させることにした。その結果は、ゼクスはアリサのことを本物であると断言したのである。その言葉に納得がいかなかった俺は、勇者に直接確かめることに決めてしまう。その事をゼクスに伝えようとするとゼクが俺の事を呼び止めるのだった。俺がどうして止めてきたのか理由を聞いてみると、今はまだ動くべきではないと教えてくれるのだった。その話に俺が反論すると、それならこの場で戦うことになったとしても構わないと言ってくれたので、俺はゼクの考えに賛同する事にした。そして俺は勇者と聖剣使いの言い争いを止めてくれたアリサに感謝の意を伝えた後に、その場から去っていく。そして俺とゼクスの二人は、聖剣使いの言い争いを止めるために酒場を出るのである。その行動について勇者から怒られることはなかった。それはゼクスが勇者を説得したおかげなのかもしれない。だがそれは結果だけ見ればの話であってゼクスと俺が勇者に嫌われているという現実は変わらなかった。

酒場で勇者がアリサという少女と共に消えていった後の出来事である。勇者たちが出て行ったあとの店内の雰囲気はかなり重苦しい雰囲気に変化したのであった。その原因について俺が考えてみた結果ある人物が口を開くことになる。その人物というのは、勇者の師匠だと名乗っていた人物である。彼は、アリサの実力についての疑問を口に出したのだった。それに対して俺が返答をすると「お前さんには、あの子がどう見えたんだい?」と聞かれたので俺は答えることにする。

「あれは相当できる人間だ。それも俺よりも強いんじゃないかと思っているくらいに強い相手だぞ。その証拠といっては何なんだが、この俺でさえ勝てるビジョンが見えてこなかった」

俺の発言を耳に入れた聖女アリサという存在の実力を知っていると思われる三人の人物は全員同じことを考えていたことだろう。あの時勇者と一緒に店から出ていった女性は誰だったのだろうかと。そして、あの少女の正体が一体なんだったのだろうかということを。

俺は勇者の婚約者だと偽って近づいてきた女性のことを勇者の師匠だという男に質問をする。

【あんたがこの店のマスターだってことは分かる。だけど俺はあんたに尋ねたいことがある】

その問いかけを聞いた男は俺がこの場から逃げるつもりがないと判断してくれたようで話をしようとしてくれているようだ。だがこの男がこの場から立ち去ろうとすることはないだろうと予想は出来る。その根拠についてだが男の腰元についている鞘には聖剣が収められているのが確認できるからである。つまり聖剣持ちの実力者だということだけは分かっている。その実力についてもある程度ではあるが推測する事が出来る。おそらく聖属性の力を所持していると考えられるからだ。

その事を頭の中で考え終わったところで、俺は男と話をするためにこちら側へと引き寄せるための質問をした。すると、俺の狙い通りに上手くいき、この店を俺に譲るという言葉を口にしてくれるのだった。俺が勇者一行の一人で聖剣を持っていることから俺がこの店で働いても問題ないだろうと踏んでくれていたようだ。それに、俺が勇者と聖女の戦いを見守っていた事も見抜かれていたようであり俺に対する態度について説明してくれた。その説明についてだが、勇者の仲間になった以上は相応の扱いをしてやらないと勇者に悪い印象を与えることになる。それを避けるために俺の行動を容認していたのだとか言ってきた。

それについて俺は特に思う事もなく話を聞き終えたので俺の質問について話すことに決める。その事についてだが俺もあの聖女について気になっていることがあったので尋ねてみる事にしたのだ。そうしなければお互いに満足するような回答を得ることなど出来ないと考えていたからである。そしてその問いの答えについては「彼女は本物の聖女様で間違いありません」というものだった。

俺はこの言葉に驚かされてしまった。なぜなら俺は勇者の仲間になるために今まで様々な努力を行ってきたのである。だがそんな俺でも聖女を見ることができなかった。勇者の仲間になって聖女を見たという人間が今までにいなかったのだ。だから勇者が仲間に引き入れた人物というのが偽物ではないかと思っていた。それが聖女である可能性が出てきてしまったのである。俺は動揺を隠しきれない。

だが俺の様子が変わったことに気づいたらしい聖女は、そんな俺に向かって話しかけてくるのだった。俺は聖女の方を向き意識を向けると「私達にはあなた達の事情が分からず申し訳ないと思っています。なので私たちが出来る事ならば協力させて頂きたいと思っているのです」と言われた。その言葉を受けて俺は「魔王と戦う準備のためにこの国にある施設を使わせて欲しい」という内容で交渉を行うことにした。

その言葉を受けた聖女は「もちろんです」と返事をしてもらえたことでこの交渉が成立したので俺は、聖女の申し出を受けることにして聖女の同行を了承してからこの国から出ていくことを決めたのであった。俺達は聖女の案内に従い移動を開始するのであった。

◆ 聖女リシアと別れて勇者が滞在していた街から離れてから、数日が経過した頃に俺とゼクスはある目的地に到着していた。そこは勇者が聖女と出会って修行を行っていた場所であり、今は魔王城が存在している場所である。俺は魔王城にたどり着くまでに魔王がどのような存在であるかを予測することにした。まず魔王軍の存在理由について考えることにした。俺はこの世界に召喚された時に魔王は人類に敵対する存在であるということを教えてもらった記憶がある。だからこそ魔王軍が人類の敵になるのではないかと考えたわけなのだが、魔王軍の活動目的が人間族と敵対している魔物と魔族の討伐を行っていると聞けば魔王の目的とは少し違うのではないかという考えが生まれた。

次に俺が考えたのは魔王軍はどこに存在するかという問題についてだった。魔王がいる場所は大陸の中央付近に存在すると言われているが、その場所が本当に存在するかどうかは俺には分からない。しかし魔王城が存在するであろう場所は、魔王が住んでいるという可能性があるだけで多くの国々が手を出して来ない。何故ならばそこに攻め入るためには多大なる労力が必要になってしまうからだ。だがもしその場所で勇者と聖女が戦ったのであれば勇者は魔王の居所を知っている可能性が高いと考えることが出来る。

そこで俺は、勇者に魔王の居場所を聞くことに決めたのだった。その事を伝えると勇者は快く承諾してくれたのだが、その理由を勇者から聞くと俺を勇者が所属している王国へ招こうとしていたのだと判明した。俺は勇者から勧誘を受けているという現状を理解して断る。だが、勇者はその誘いに乗らなかった俺に対して聖剣の所持者である俺がこの国の戦力になることは必要なことであると説明したのである。勇者の発言から俺はこの国が俺を聖剣の所持者だと言っている可能性を疑い始めた。聖剣は聖女以外に持つことが出来ないと教えられていたのだがこの国は勇者から聞き出してその事実を知っていたのだろうか? それとも俺に聖剣を渡してきた人間である聖女が、そのように情報を漏らしてしまったのかもしれない。そのことについては勇者本人にしか確認することはできないため判断が難しい部分だ。そのことを踏まえて俺は勇者と話を進めることにする。

「お前が聖女と共に行動して来たというのなら魔王の場所について心当たりは無いのか?」

その俺の問いに勇者は「そのことですが残念ながら私は聖女の事をあまり良く知らないので、詳しい場所までは分かりません」と答えたのである。

「だが勇者が一緒に行動していたという事は、この近くに存在しているのだろう?」

その言葉を聞いて勇者は、この近くの山奥に巨大な建物があったと言い出す。俺には勇者が口にした言葉が本当なのかどうかが確認できないので、とりあえず勇者の言葉を信じてみる事にする。

勇者から聞いた話によれば、この近くに存在するという魔王の城は、その規模が非常に大きくて中から溢れ出てくる力の大きさは尋常ではないほどに高いのだという。そんな勇者の説明を聞いた後に、この近くにあるという巨大建造物を探すために【神眼】を使って調べてみることにした。

その建物の内部については勇者からの情報と俺自身が感じた気配から大雑把ではあるが、内部の構造を調べることが出来たのである。その結果、魔王の城の正確な位置を知る事に成功したのだった。だが俺はこの事実をそのまま勇者に伝えることをしないでおく。その理由は俺達が今現在いる場所には大量の魔素が存在していて俺に襲い掛かって来たからだ。その数は凄まじい数で勇者の【光魔法】が使えるようになっていたとしても防ぎきる事は難しいだろうと思われる量だ。その事に気がついて俺はすぐにその場から離れるとゼクスに合図を送ったのである。その行為によって勇者と聖女はその場を離れていった。

俺は二人が安全なところまで移動したことを確認した後で目の前の空間に向けて魔力を解き放つと攻撃を始めた。その瞬間俺に襲いかかって来る存在が消え失せたのであった。俺が行ったのは単純に闇属性魔術を発動しただけである。しかし【魔人】の俺が発動することのできる闇属性魔術は他の存在には対処が出来ず俺に一方的に攻撃をされてしまう。その事を確認した後に俺は再びこの場を離れる。その後、この場所では同じような事が何回か起こった。

その現象の原因についてだが簡単に言うのならば俺の攻撃によって俺を襲う事が不可能になっているということだ。だがこの原因が何なのかが俺は理解する事が出来なかった。だから俺はその原因がなんだったのかという事を確認する為にこの近辺にある魔王城を目指すことにする。そして俺は魔王城を目掛けて移動を開始しようとした。

「ちょっと待ってください。どうしてこの場を離れたんですか?」

そう言いながら俺を引き留めようとしてくる勇者と聖女。俺はそんな二人に対し俺はこの辺りから感じる魔素の量が増えている事を伝えると二人は驚いていた。だが俺の言葉が嘘ではなかったらしく聖女が【光探知】で調べた結果この付近から強力な魔獣が出現可能であるという結論を出す。

俺はその話の内容に驚愕させられる。何故ならば俺が魔王の居場所を知ろうとした時のように聖女も俺と同様に相手の力をある程度だが探ることが可能なようだ。聖女という役職は聖剣の所有者になれる程の能力を持っているので、その実力はかなりのものなのだ。その事に驚きつつも俺達はこれからどうするかを考え始めるのだった。すると俺の頭に天啓が舞い降りた。

(魔王が住んでいるであろうこの付近に存在する建物は、魔王軍の拠点となる可能性がある)

その考えを元に俺は聖女に相談を持ち掛ける。その相談というのは勇者が持っている聖剣を俺が持つ事を認めてもらいたいというものだった。俺が提案したのは聖剣が二つ存在していれば、より魔王を倒す確率が向上するのではないかということである。聖女は俺の提案を了承して勇者の持つ聖剣は俺が持つ事になった。俺はそれから勇者と一緒に行動を開始したのであった。

◆ 勇者と聖女と合流した俺達は、これからどのように動くべきなのかを話し合う。その結果俺の考えた作戦が実行可能だという事が判明したのでそれを採用する事にした。

俺は【聖魔剣騎士】の力を最大限利用するために聖剣の能力を引き出すための修行を行う事にしたのだ。俺はこの世界に来てからは今まで聖女やリシアが持っていた聖剣の力を使いこなす為の努力を行ってきた。だが今回はその聖剣に俺の魔力を通して扱う事になるのでいつもとは違うやり方をすることにしたのだ。それは俺の体内で聖剣を作り出し、そこから作り出した聖剣の能力を引き出しながら戦い続けるというものにしたのである。

それを実現させる方法だが、俺の中に存在している魔族や魔物の魔核を取り出して自分の体内に埋め込み俺自身の体を改造するというものだ。それによって肉体を強化すると同時に体外へ排出されている俺の中の魔素を、その体に埋め込んだ素材に染み込ませる事が出来ると考えたわけである。その方法で俺の体は強化される上に、俺は戦闘を行いながらも新しい聖剣を作りだすことが可能となった。

聖女とゼクスにはその事を伝えていないので、俺はまず聖女の方に近づいて話しかけることにした。俺の話を聞いた彼女は少しばかり不安げに「本当にそのようなことが出来るのですか?」と尋ねてくる。

その言葉を受けて俺は、自分が考え付いた方法に問題が無いのかを尋ねる。

「その質問だが、この方法で上手くいくのかは正直分からない。だが俺の思いついた方法が成功するかどうかは分からなくてもこの方法は成功できると考えている。ただ心配しているのはこの方法ではお前の体にかなりの負担が掛かるはずだ」

「えぇその事は分かっているわ。私の体のことは大丈夫です。それに魔王が生きているというだけでこの国は混乱してしまうでしょうから。その為にも一刻も早く私は強くならないといけない。その覚悟はもう出来ているわ」

彼女の発言を聞いて俺は安心してこの方法で魔王と戦う準備をすることに決めたのである。だがこの場でいきなり魔族に堕ちると彼女が言ったので俺の方も焦ってしまう。そこでまず俺は彼女に対して俺の正体と魔族になった時の効果について説明することにした。それを説明した後は、彼女に俺の事を【魔族化】させるように頼んだ。その言葉を俺が発した後に俺は一瞬で人間族としての自分の存在を消滅させたのである。

その行動に対して驚いたのは聖女ではなく勇者だった。その行動を見た後に彼は慌てて聖女に声を掛ける。その事で彼女は正気を取り戻すがそれでも目の前で起きた現実は受け入れたくないようであった。だが目の前の少年が聖女にとって大切な存在だということが解った勇者は聖女の意識を変えさせようと必死になっていた。その結果何とか聖女の方は納得してくれたので、今度は俺が聖女に魔族にしてもらうための儀式を行うことにする。そして俺は魔族の儀式の手順に則って聖女の体を【闇魔法】によって染め上げた。

「んあぁあああっ」

その瞬間に聖女は甘い吐息と共に艶のある声を出しながら仰け反りだした。

その姿を見続けた勇者が聖女を庇おうとして前に出ようとしたが、そんな彼を止めて俺は魔王を討伐するまでは手出ししないようにと伝える。

俺がこの世界で目覚めた時は魔王がこの世界を支配しようとしていた状況だったので魔王を放置しておくことはできなかった。だから勇者と出会っていなくとも俺はすぐに魔王のところに行こうとしていただろう。だけど今は状況が違う。

俺はリシアと魔王を討伐する事を目標にして旅をしている。そして今回の勇者との邂逅で俺が魔王を倒す為に行動すると決めた。その決意を聖女に伝えるために俺は魔族への変化が終わった聖女に対して話し掛けた。「俺は【聖魔剣騎士】だ」

「えっ!?【聖魔剣騎士】ってあの【神魔剣帝】よりも強い存在と言われている方ですよね?」

その聖女の問いかけに対し俺が肯定の意思を示すと聖女の目がキラキラし始め俺に向かって微笑みかけてきた。そして俺はこれから魔王を倒しに行くことを告げる。俺の言葉を聞いた聖女は真剣な表情になり俺の顔をジッと見つめた。

その聖女の態度から俺は聖女から俺が聖剣の所持者である事についての答えを聞くことができたのである。聖女はその事に気がついており俺の事を探し回っていたらしい。しかし、なかなか見つける事が出来ずに、このまま俺が死んでしまったら一生後悔していたかもしれないと言っていた。その聖女の様子からかなり俺を心配していたようだということが分かった。

そして今の状況だが俺は魔王と対峙することに成功している。それも俺一人で戦うことが出来たので聖女が魔族の仲間にならなくても魔王は俺が倒す事が出来たのではないだろうかと思ったほど楽に勝利することが出来たのだった。

魔王を倒した俺は魔石を取り除いて魔人化を解除して人間の姿に戻ったのである。その行動によって聖女と勇者は驚きの声を上げるが俺は聖女と握手をすると、すぐに勇者と握って挨拶をした。その後は俺は【剣神】ゼクスに近づき【神速思考】を使って魔王を封印することを伝えたのである。その事についてゼクスは驚いていたがすぐにその事を受け入れてくれた。だがその際に俺は勇者から【光魔法】と【聖剣】を受け取ることになったのだった。

俺達3人はその後【神聖教会】に戻ろうと話をしていたがゼクスから待ったが掛かったのである。そのゼクスの言葉とは魔王の魂を回収しておきたいというものであった。確かにその提案はありだとは思ったのだが俺がゼクスの体の中に入り込んで【聖魔核剣】を作り出す。それでいいかというと、俺の体が持たないのではないかということだった。

そのゼクスの意見を聞いて俺もその事について考える。確かに俺の【聖魔剣】は魔力を消費して作り出した剣であり俺自身の魔力が切れてしまうと、もう使い物にならない代物である。なのでゼクスの提案も悪くないと考えた。俺が自分の体の状態を確認しながらどうやって魔王の魔素を回収するかを考えていると聖女の方がゼクスに対して何かを提案する。その事について俺は興味を持ったので話を聞いてみると俺達に同行することを申し出られたのである。その聖女の言葉を受けた俺達は断る理由もなかったので受け入れる事にした。

そうする事で次の行き先がはっきり決まったわけだが、これからどこへ向かうのかを三人で話し合い始めるのであった。その話を俺の耳元で盗み聞きをしていたリシアだったがその話は聞こえていなかった。

◆ 俺達が次に向かう場所は聖女が生まれ育った国でもある。だがその国がある場所はかなり遠くにあり、その場所に到着するまで時間が掛かってしまいそうなのだ。その事を聖女に伝えて移動時間が長くなりそうだと告げる。すると聖女が移動手段として飛竜を使うようにと言ってきたのだ。

その聖女の発言はあまりにも突拍子もない事であったが俺は何故かその聖女の言葉を信じてみる気になってしまった。俺がその意見を受け入れると、聖女はすぐに行動に移すように指示を出した。

聖女に言われて俺はこの場にいる者達に【全言語理解 】と【鑑定眼 】をセットにして発動させてステータスを覗かせてもらった。それにより聖女達のステータスを知ることができたのである。俺達はそれから俺の【収納】の中に入っている物資を取り出すことにした。その中には大量の水が入った樽や、食料が詰め込まれた鞄、武器や鎧などが入ってあった。それを全て取り出して俺達は飛竜に乗り込む。その準備が終わる頃にゼクスも俺に着いてくることを決心したようで、【勇者】の称号を返上すると共に俺の従者になると宣言してきたのであった。

俺達はその言葉を受け入れた後に聖女も仲間に加える事になる。俺の従者となるには【魔聖】になる必要がある。俺がそれを行うと聖女の体に異変が起きた。それは突然のことだったが、すぐに聖女は落ち着きを取り戻した。聖女には【魔聖】になるために必要な条件を教えておいたが、その方法を実行するのにはかなり苦労したようだ。何故ならそれは簡単なものではなく、かなり面倒なものだったためだ。その事を簡単に説明すると聖女は呆れ顔を見せてきたが最終的には協力してくれる事になった。そして俺は聖女に頼み事をすることにした。

それは俺が作り出した魔核に自分の血を与えることで聖女が扱えるようにしてほしいと頼んだのだ。その理由としては聖女にはこの世界の人々の命を守るという大義名分があった方が戦いやすいだろうという配慮だった。聖女には聖剣の能力を使えるようになる事だけを考えてもらうようにお願いしたのである。

俺は【闇属性】を発動させると魔核の方に手を触れる。その途端に聖女は甘い声を出して俺の体の中に魔核を取り込んだ。俺はその様子を確認すると次に勇者と【神魔剣帝】の称号を与えることにする。そして俺は勇者を【闇聖剣士】へ、そして聖女を【魔聖】へと変化させたのであった。

その作業が終わった後俺は二人に魔王を討伐するためにこれから行く場所について説明する。俺の説明を聞き終えた勇者が少し不満そうな声を出し始めたが、俺の考えを全て伝えるとその不満げな感情が無くなったようである。その事で俺は改めてこの世界に起きている状況を説明し、勇者にも魔王を倒してもらう事を頼んだのであった。

「【魔導王】の俺の事は気にしないでください。それよりも【剣聖】としてではなく【聖剣士】の俺の力が必要でしたら、是非とも使って欲しいです」

「分かった。お前の気持ちを尊重しよう」

勇者が俺に力を貸してくれることになってくれた。その事で聖女の方も俺に対して協力してくれて勇者と同じように【聖剣デュランダル】と【魔聖】の力が合わさった剣を渡してきたのである。俺は【剣神】ゼクスに剣技を教えてほしいと頼む。その願いは受け入れられたが、勇者の剣が使えない状態で魔王に挑むようなことはするなよと言われてしまった。

俺は魔王と戦えるだけの力を既に得ている。だが魔王を倒すためには更なる力が必要になるのは確実である。その力で【聖魔核剣】を作り出せば確実に魔王にダメージを与えられるはずである。しかし俺は今の自分がその状態になっているかどうかを確かめることにした。その方法は俺に【神速思考】を付与させることだ。これによって俺は自分自身の速度を確認することが出来た。

「なるほど、やはり俺の身体能力はこの世界でもかなり高い方なようだな。しかし、まだ俺の能力値は【神魔化】している魔王よりも低いということなのか。だが俺の魔力量は魔王の倍以上はあるぞ。それに魔族の種族固有スキルの補正が効いているみたいだな」

俺はこの世界の現状を冷静に分析した。この世界で最強と言われる勇者ですら魔王より下だという事を知り、俺は自分の立ち位置を再認識することになったのである。この世界においての最強の勇者でさえも魔王に及ばないという事実が判明した以上俺は魔王に対抗できる方法を一つでも増やさなければいけないと考える。そして俺はこの世界の状況を勇者と聖女に説明していく。その時に俺はこの世界の状況について疑問を抱いた。この世界で何が起きてこうなったのかを尋ねた。その問いに対し聖女と勇者は自分達の知っている情報を教えるから代わりに質問に答えてくれと言われたのだ。俺はそれに対して構わないと答えた後二人はそれぞれの情報を俺に提供してくれたのである。

聖女は勇者の生い立ちから今に至る経緯を語り出した。そしてその話の中で勇者が今まで行ってきた数々の功績を話され、この世界を救おうとしている理由を語られたのであった。そして最後に魔王を倒さなければならない理由を話す。勇者と聖女はこの国の住民の為に魔王を倒す事を決断していた。しかし俺はその言葉に納得できない部分が存在した。なのでその事に俺は突っ込みを入れる。

俺が二人の話を疑うと、俺達三人はそれぞれの立場を説明したのである。俺はその話を聞く限りは本当の事かもしれないと一応納得しておくことにする。しかしそれでも俺の中にはある疑惑が残るのであった。

俺達3人は魔王を封印する為の準備に取り掛かる。俺が【魔皇槍 デストラクション】で聖女が作った結界を破壊すると同時に聖女と俺で魔王に対して攻撃を繰り出す事にした。聖女の剣は俺の聖剣と共鳴し、その能力を大幅に向上させる効果があるため魔王に傷を負わせる事が出来ると判断したからである。勇者の剣も同じように俺の魔剣と同調することで更に攻撃力が上がるという特性を持っている。

だがその前に魔王に攻撃を仕掛けようとしたらゼクスからストップがかかったのである。ゼクスは俺に何か話があるようで魔王に話しかけると魔王は何かを理解したのか攻撃の矛先をゼクスに向けた。

ゼクスは自分を犠牲にして魔王の注意を引きつけながら、俺達に魔王の魔素を吸収する方法を教えたのだ。そしてその方法を聞いた俺は【聖魔核剣】の素材は【聖魔核剣】でしか吸収出来ないという理由を知ったのである。

ゼクスの話を聞いて魔王に隙が生まれたところで俺は魔剣を振り下ろす。すると魔王は【闇の魔素】を使って俺の攻撃を防ぐが俺はその魔剣の威力を上げていくと魔剣を魔剣に押し付ける。すると魔王は魔剣が【聖魔核剣】に変化したことに気付いたようだ。その魔王の変化に気を取られている魔王に対してゼクスが攻撃を放つと魔王の体は切り裂かれ、それと同時に魔王が魔素を吸収し始める。その魔剣には聖女の魔石も組み込まれていたようで聖女の魔力が込められており、それが魔王の体を徐々に回復させていたのだ。それにより魔王の体は徐々にだが小さくなり、遂にはその姿を消してしまう。そう魔王は完全に消滅したわけなのだ。

その事実に驚いた俺だったが、これで全ての元凶がいなくなったと思い俺はその場に座り込んでしまった。

◆◆◆◆◆◆

「ふっ。私の役目は終わったようだね。まぁいいさ、君達にこれから起こる出来事を伝えておくとするよ。この国にはいずれ必ず破滅が訪れる。それは避けられないことだ。そして私にはその事を伝える事しか出来なかった。私はもう消え去る運命にあるからね。この【勇者の器】の力があれば【魔皇帝】と互角に戦う事も不可能ではないだろうが今は勝算がないのだよ。それとこの国に伝わる予言によると勇者は魔族との因縁に終止符を打ち、【聖剣】を手にした時、【聖剣士】と共に世界を救う救世主になるとあった。だからまずはこの世界の【勇者】を目覚めさせなければ魔王に勝つことはできない。その為には君の協力が必要だ。どうか頼む」

「わかった。お前の頼みを聞いてやる。だが俺にも色々とやりたい事がある。俺に何をしてほしいんだ?」

ゼクスは【神眼の魔導王】の魔眼を使い俺に協力してほしいと頼んできた。その協力の内容は魔眼の使い方を俺に伝授するというものである。俺はゼクスの言う通りにそのやり方で俺の【鑑定眼】と魔眼の二つを同時に使うことで【魔導王】と【魔皇帝】と対等に渡り合えるレベルに上げるようにと伝えられたのであった。

その後俺は聖女と一緒に飛竜に乗っているのだが聖女の顔色は悪いままである。それは俺達のせいではなく、勇者が魔王を倒した事が原因だ。魔王を俺達が倒した直後勇者の体に異変が起こった。そしてそれを見た俺と聖女も体が痺れて動けなくなってしまう。俺はその原因が何なのかを確かめるべく、聖女に目配せを行うと俺は聖剣を手に取って自分の体の中に入れることにした。

そして俺の体内に取り込んだ瞬間、俺は聖剣の能力を発動させたのである。聖剣の能力を使えば聖女の体の中に入り込んでいる闇を取り除く事ができると考えたからだ。俺は聖剣の力を発動させて自分の体を回復させ、それから自分の体内に入れた聖剣を取り除いた。すると勇者の体にあった違和感は無くなっているように見えた。俺は聖剣を取り出した時の衝撃で勇者を気絶させている聖女を抱きかかえると俺達は勇者を連れてその場を離れるのであった。その途中俺と聖女が感じている気持ちを整理する為に二人きりになる時間を作ったのである。

「聖女様、俺はこれからこの世界に何が起きるのかがわかる。魔王は倒されたけど俺と貴方にまだ危険が迫る。そして勇者は目を覚ました時、きっと貴方を責め立てるはずだ」

「どういうことですか? あの勇者は確かに魔王を倒してくれたはずですよ。そんな勇者を悪くいう事なんて絶対にないはずです」

「そうだよね。だけど聖女さんはまだ完全には信じられていないようだ。聖剣の力を引き出すことができるようになってからその気持ちが大きくなってきているんだろう。それでどうしようと思っているのかな」

俺は勇者に対する態度を変えられない聖女が気になってしまっていた。勇者を慕っている聖女だからこそ、勇者を信頼したいのだと思う。しかし聖剣の力によって聖女の感情が揺れ動き、それを上手く抑える事ができずにいるようだった。

俺はそこで勇者の体の状態を確認すると聖剣の能力による後遺症は見られなかったのである。だがその反面【勇者】のジョブに表示されている能力値が大幅に下がってしまっているのだ。俺や勇者は【聖魔剣帝】の称号を得ているので聖属性の力が使えて【神魔化】も行えるようになっている。その事で俺が【聖魔核剣】を作って【聖核魔剣】を作る事も可能になったのだ。しかしその【聖魔核剣】に組み込む聖剣の能力は俺か勇者の持っている聖剣しか受け付けないようになっていた。そして【聖核魔核】に組み込める聖剣の数は一本だけである事がわかったのである。これは俺の【創造】で作り出す【神魔核剣】が聖剣を作り出す事が出来るようになるという特性を持つためだと思われる。しかし【神魔核剣】に聖剣を融合できるかどうかは試してみないとわからない。

俺と勇者はその日のうちに城に戻ることにした。そして翌日俺は【魔核収納】の中からある魔石を取り出すと勇者の胸にその魔石を近づけたのである。そして俺は勇者にその魔石の魔力が流れている事を教え、その魔石は俺の聖剣を勇者に埋め込んだ魔石と共鳴するようにして作られた魔道具だという事を告げた。この魔道具の効果は勇者に聖剣を扱えるようにする事と聖剣と適合している者の身体能力を向上させる能力を持っている事を明かす。この効果により俺と聖女は勇者と同じ身体能力を得たのだと教える。その話を勇者にしたのだが勇者は半信半疑の表情を浮かべるだけであった。

俺は魔皇槍を勇者に手渡す。そしてその槍の能力を説明するがそれでも勇者の信用を得ることはできなかった。

「その武器の力を俺は信じることができない」

「まあそういうだろうと思っていた。でも聖女さんの実力はもう俺よりも上の状態になっているのは知っているかい。それにこの魔槍は元々聖女である君の為の物なんだ。この魔剣だってそうだ。君は聖剣と聖槍を使う事で魔剣と聖剣を一体化させることが出来るんだ。その力で魔剣の力を引き出せると思うんだがね」

俺が魔剣と聖剣について説明すると、聖剣を受け取った勇者はその能力の使い方を覚える為なのかすぐに外に出ていってしまう。俺も一緒に出ていくとゼクスが待っていた。俺達の姿を確認したゼクスは俺と話をしたがった。

「まず私から礼を言わせてもらってもいいだろうか?」

「ああ、もちろんだ。だが俺も聞きたいことがある。まずお前の正体は何者だ?」

俺は魔王に正体を尋ねた。

「私はかつてこの世界を創世した【神人族】と呼ばれる種族の末裔だ。私の肉体は既に消滅し、今は魂だけの存在となり、この世界のどこかに存在している。私と【魔皇剣 デストラクション】が繋がっている事は理解できていると思う。この魔皇剣が私の意思に反応をするのはそのためなのだよ。私は君達に私の知識を譲渡する事ができる。それは私の【叡智の魔導書】の魔眼が使えるようになった事にも関係があるのだ。私は君の【魔導眼】の力を強化する事ができるからね。それと私はこの世界で起きる未来を知ることができた。魔王と聖女は魔王が復活してから、ずっと行動を共にしていたんだ。その時の魔王は魔族を統一していた。魔族は魔族同士で争って魔核を集めるために行動を開始したんだ。そうしなければ生きていけなかったんだよ。その目的は魔素を吸収する事で魔素量を増やすのが目的になっていたようだ。だから魔王はこの世界が滅びることを恐れて、聖女と共に魔王軍と戦う決意をしていたんだ。だけどその結果、聖剣を奪われてしまい、魔王軍は魔王と側近のみとなってしまったんだ。魔族の数はどんどん増え、魔人は人間の敵になってしまったという訳さ。魔王と聖女の仲が良すぎたがゆえに起きた悲しい出来事だったんだ。その後は魔王と聖女はこの世界の各地に存在する聖剣を集めて魔皇帝を倒そうと試みたが失敗に終わったらしい。だから私が今ここにいるわけだが」

「なるほどな。その話は分かった。その魔王を復活させたのは一体誰かわかっているのか?」

俺はゼクスの話を疑いもなく信じているわけではない。【勇者】の称号を持った者がその事を隠しながら、他の人物を騙し続けるなんてありえないからだ。

「この世界にいる【聖剣士】と【勇者】の力を受け継いだものたちだよ。この世界は君たちが想像する以上に混乱の時を迎えているのかもしれないね。【聖剣】を手に入れたものが次の王になれるから、奪い合いが行われているんだ。君たちも注意しなければいけないね。ただ、勇者にはまだ話していないんだが、もうひとつ厄介な問題が起きようとしているんだ」

俺達が魔族に気をつけなければいけなくなったのは理解できる。しかしそれ以上にゼクスが言っていた新たな問題が俺の心を揺り動かすことになるのだった。その新たな問題は魔族と聖剣を巡る戦いとは別にあるようだった。

「この国の皇帝と【魔皇帝】との間に生まれた子が原因となるんだけどね。その子の名は【聖帝 シン】と言い、今は【魔導士】の称号と【魔導帝】の称号を持ち合わせて【神魔帝】として君臨しているんだ。【聖魔帝】の称号を得ていないのに【魔導王】以上の力を持つ存在になるなんて恐ろしいよね。【魔導王】は聖属性魔法を極める者で、魔族が【魔導師】の称号を持っている事が多い事から【賢者】のジョブの人間が進化するのが【魔導帝】なんだ。つまりこの【魔導帝】は全ての魔道を操る事ができる存在となっていると言う事なのさ。この国ではその力を悪用しようとしていてね。このまま放置しておけば大変な事になる可能性が高いんだ。その事について君はどう思うかな? ただ、私としてはこの世界に危機が訪れるのであればそれに立ち向かわなくてはいけないと考えている。【魔帝】が【勇者】や【聖女】より強い力を持っているなら、この世界に本当の脅威が現れる可能性が高くなると思っているんだよ。その時に勇者の力が必要になると思うけどね」

「そうだな。俺もお前の意見に賛成だ」

「良かったよ。それならば私達は仲間になることができて光栄に思うべきだよ」

「そうだな。だがまだわからない事もある」

「何か疑問でもあるのか?」

「お前の体の中には【神剣 グランソードエクステンスシュバインヴァイス】が取り込まれてしまっているだろう。俺は【神剣 グラムシュラインヴァイトセイバー】と融合した事があるんだが、【魔剣】が融合するとどういった結果が生まれるのかを知りたいと思っていてね。それでどうなったんだ?」

俺はゼクスに質問をするのだがゼクスからは予想外すぎる言葉が飛び出してきたのである。

「私と魔皇剣の融合した姿は【神滅魔龍 カオスドラゴニス】と言って【魔皇竜 ドラグナシスドラゴン】と対を成す最強の魔物なんだ。私達は元々【魔皇竜ナイトメアドラゴン】という種族だった。その上位種の最上位種である【魔龍皇 デモニックドラゴン】の【邪悪魔龍 ダークネスドラゴン】とはまた違った系統の能力を使う事が出来る。【魔皇剣】の力を引き出す事が出来るので、君もきっと驚くことだと思うよ。その力は魔皇剣が認めた者しか扱えないような制限がかかるような形になるから、君と君の仲間には扱う事は難しいはずだ」

「ちょっと待て。お前の言葉が正しければ俺にそんな事を言う資格はないはずだろう。お前が勝手にやった事で俺には何も言う権利など無い筈だ」

俺は少しイラついてしまう。【聖魔剣帝】は俺が聖剣と魔剣を同時に使えるようにする事ができると言っているのだ。俺にそれを否定させる権利がない事を分かっていたからである。しかし俺の考えに反してゼクスは自分の事を棚上げして言い始めたのだ。「確かに私は勝手に融合して魔剣を使いこなせる人間に会えた事は嬉しいと感じている。だけど君は【神剣 グラムシュライヴァイテシュヴァインヴァイス】との融合を果たしているじゃないか。【神剣】は所有者を強制的に変える事ができないから、融合を解除する事が出来ない。私に文句があるというのならば、君の方にこそその発言を行う権利が無いんじゃないかい?」

俺は自分の言っている事が理にかなっていると感じたので黙ってしまった。そして自分が聖剣の力を無理やり使いこなす事ができた事に違和感を感じていたのでゼクスの言葉を素直に受け入れた。そしてその後俺はこの世界で起きている異変に耳を傾ける事にしたのである。

この世界の各地で起こっている事件の中で、一番の異常事態だと思える事件が起きたらしい。この世界の【魔王】と【聖女】の子供がこの世界の王になろうと画策しているという事だ。その子供は【魔剣帝】と呼ばれる魔族の王になっているらしく、その力によって魔剣が奪われてしまったらしいのだ。奪われた魔剣は今は【聖剣帝国】の首都の【聖都セイムベルティアナ】にて保管されている。

聖剣を奪ったその魔族は【魔剣帝 ヘルブレイドデスエンド】と呼ばれている。この魔剣は聖剣の類に入るもので、魔剣の中でも最上級に位置するものである。

魔剣の力に溺れたその魔剣帝は、【魔剣 デスブレイドロストブレイヴ】と呼ばれる武器の力を使いこなし、【神魔将】達を打ち倒したと言われている。【神魔剣 アルハザード】という神器級の魔剣と聖剣を【神魔剣 グリムソードワールドエンド】という聖剣に同化させる事に成功し、この世界で一番の聖魔剣を作り出したとされているのだ。この【魔剣帝】は【神人族】の末裔というわけではなく、元々は【魔人族】の【魔神】と呼ばれていた存在らしい。この世界で【魔剣王】よりも上の地位にいる存在である魔族がいた事に対して驚いた。

聖剣を【魔剣帝】は手に入れ、魔王が【魔剣 魔剣王 デスカリバーロードオブデーモンズ】と呼ぶようになった魔剣を手にする事になったようだ。魔剣王の魔剣を使えるのは【魔剣王】だけなのだそうだ。魔皇帝の息子はその力を使って世界を支配しようとしているようだ。

しかし世界の支配者となった所でその先には何の展望も存在しないと思うんだが、何故世界を支配したいと思ったのかが分からない。【聖剣聖】の称号を持つ人物がいるが、その人物が全ての世界を平和にできるという訳でもない。現に【聖魔剣】の称号を持つ【魔剣聖】もいるのだから、その【聖剣聖】が魔剣帝に敗北してしまった場合世界が滅んでしまう可能性も十分に考えられる。

この世界で【魔剣帝】と【聖剣帝】の力を受け継ぐものが、魔王の息子であるという事が何を意味しているのかよくわからないのであった。

「ゼクス。お前にひとつ聞いておきたいんだ。この【魔剣都市ザラーム】にはどんな用があって来たんだ?」

俺はゼクスが魔剣を手に入れる為にやってきたと聞いていたので、その目的を聞き出す事にした。魔皇帝の息子として生まれてきている存在に聖剣を与えるつもりなのか気になったからだ。その問いにゼクスが答える。

「私が聖剣を求めてここにやってきたのは確かだが、魔剣を求めている訳ではない。魔剣の類は扱いに困るものだから、必要がなければ持ち歩きたくはないからね。ただ聖剣が欲しいんだ」

「なるほどな。そういえば、魔族でも魔剣は手に入れられるんだな」

「そうだね。君たち人間と【聖魔帝】のように、私達魔族の中にも同じ力を持つ者は存在する。ただ私達の国である【魔剣帝】の国で聖剣が発見されることは滅多にない。それは魔剣を求める魔族達が聖剣を手に入れても、その力を制御できない者が殆どなんだよ。それに聖剣の力を扱うためには特別な条件が存在するから、扱える者も限られた者にしか与えられていない。その聖剣が今私の国である【魔皇魔剣王国 カオスマギカマジックキングダム】で発見されて【魔導皇帝】と聖剣に認められたものが所持者となり【聖剣帝 シンシントソードエンペラー シンシア】と呼ばれていて【魔導帝】の称号を持ち合わせる最強の存在になっている」

俺は【魔剣帝】の国から魔剣を求めにやってきたのではなく、魔剣に選ばれて聖剣の適合者を探す為にこの国にやってきているようだった。しかしゼクスの話を聞く限りではこの国の何処にも聖剣が存在しているようには思えなかった。俺達は【神界門 ゲートオブゴッド】の力で時間と空間を超える事ができ、様々な場所に移動する事ができる。しかしそれができるのは【神域門】だけだと思っていたので少し焦っていた。まさか【神界扉】のような他の異世界に繋がることのできる【神境扉】があったのではないかと疑ってしまう。そんな俺の気持ちを察してくれたゼクスが言葉を続けた。

「安心してくれていいよ。ここには確実にあるからさ」

「お前には心が読める力でもあるっていうのかい?」

「そうだね。私にはその能力があるから、心の声で君の声を聞いたわけじゃないよ」

「なぁ? もしかしてここがどこか分かるか?」

「勿論わかるよ」

「教えてくれないか?」

俺はどうしてもゼクスの言葉を信用できなかったのだ。あまりにもあっさりと俺の心を読んだような言葉を発してきたゼクスに不信感を抱き、この場所のヒントを与えてくれるまで信用することができなかった。だがそれでも構わないので、ゼクスが知っているという情報を聞いてみることにしたのである。

ゼクスの話では魔族の領土の中心から西に行った場所に【魔界城 デモニックキャッスル】と呼ばれている大きな魔剣のある居城が存在しているという事だ。そしてその場所は【聖剣聖】の故郷で【魔剣聖】の故郷である魔族の国が隣接している場所であると教えられた。この国は魔王の領土では無く魔王の属している勢力の一つだと言っていた。魔族の領域には魔人以外の種族も存在する。

「もしかするとその【魔界】というところに魔剣が隠されているという事なのかい?」

俺は疑問に思ったことをそのまま口に出してみた。

ゼクスは俺の問いかけに笑顔を見せてくれた。そのゼクスの反応に間違いがなかったのだと確信した俺は【魔皇魔剣王国 カオスマギカーデリュージ】へ向かう事に決めた。【魔王城 サタンパレス】という場所は魔剣が安置されるには相応しいと思えたからな。【魔皇剣 エクスカリバー】がこの場所にある事は分かったが【魔剣王】と【聖剣王】はどこに存在するのだろうと思ってしまっていた。その答えは【魔剣帝】ゼクスが知っているだろうと考えていたのだ。

俺がゼクスに質問を投げかけたその時、突然リシアとメイサがこの部屋に現れた。二人は何かしらの情報を掴んだ様子で慌てているように見えた。

「ゼクス様。大変な事になりました。魔剣の力を悪用する輩がこの国に近づいてきています。既に多くの聖剣を奪われている可能性があります。そしてこの魔剣は私達にとって危険な代物です」

そう言ったのは【神槍姫神】と呼ばれる神の一人【神界槍 グングニルヴァルキリー】の力を持つ女性、リシアだ。この世界で一番の聖剣使いと言われる人物なのだ。その彼女よりも圧倒的に強い【魔剣帝】に彼女は敬意を払うかのように【魔剣帝】と呼ぶ。聖女である彼女は魔剣を悪として見ているようだ。そしてこの世界に【聖魔帝】の次に有名な聖剣使いと言われているのが【神魔剣帝】と呼ばれる存在である。

【魔剣帝】は聖剣の中でも最高位に位置すると言われている【魔剣】を好んで使用していることから、その称号を与えられている。魔剣を扱うことができるというだけでその実力はかなり高いという事になる。聖剣の中でも最高位であるとされているのは、【魔帝剣 デスデスブレイドデスエンドマスター】という【神器】級と呼ばれる武器であり、魔帝はその剣を持っているという。その剣は【聖剣 デスブレイド】という魔剣の中で最上級に分類される武器だと言われているが、実際にその武器を所持しているかどうかまでは分からない。

しかし【魔剣帝】という称号を持つ魔族ならば確実に持っているはずだ。それくらい魔剣という存在は貴重品として扱われている。

【神界門 ゲートオブゴット】を使うことができる俺はこの世界と【魔界】を一瞬にして移動できるのだが、今回はこの世界にいる仲間達を【魔界】へ移動させてきたのだ。魔族を敵としている神族である【神人族】の神の一人であるゼクスもこの世界にやってきたのだ。ゼクスの仲間達も同様に【魔界】にやってきていたので、魔人ではない存在の彼等にこの世界を任せることにし、魔人側の国と魔剣を奪い合うことにしたのであった。まぁ、そのお陰で魔王軍の配下だった【神魔人族 デビルヒューマンゴッドデスデーモン】達が魔王軍側に寝返る事態になってしまったけどな。

「わかったわ。その話については私が責任をもって対処する」

ゼクスが二人の会話を聞いてすぐに行動を起こす。俺達は魔人の国の近くにあるらしい【聖魔帝 シンシソードプリンセス】が守護していたとされる聖剣が眠っていると思われる場所に急いで向かったのだった。

「なあ? どうして俺がこんなところに連れてこられたんだ?」

目の前に見える魔人族の王都を見ながらそう尋ねた俺に向かってゼクスは笑みを浮かべながらこう説明してくれた。なんでもゼクスは以前、ある人物を探し求めてこの世界に来たことがあるらしい。その人物が今から向かう魔人族の王の国にいたという話を聞いた俺は驚きながらも魔剣が眠るといわれている魔族の国へ向かったのである。

ゼクスが言うにはその人物は魔剣の適合者として認められた【魔剣聖】という存在でその魔剣に選ばれた者がその聖剣の力を制御できるそうだ。魔剣の力を完全に制御できる聖剣の使い手なんて普通に考えてもありえないことなのだが、それが事実だということだから俺は信じるしかなかった。ゼクスも【聖魔帝】からその真実を聞かされていたようで魔皇帝の息子である魔皇子の事も聞いている。魔皇が所持している魔剣には特殊な能力を秘めていて、魔剣の力に呑み込まれてしまい魔皇自身も魔剣に取り込まれてしまう事があるそうだ。その魔剣をどうにかして救う為にゼクスは聖剣を探していたのだと言う。

ゼクスは【魔剣帝】なので魔剣を手に入れるのはそれほど難しくはなかったみたいだが、その魔剣を手に入れるのは魔族側だけとは限らないという事で、その魔剣の所有権を巡って争いが起きるのを防ぐ為の対策として俺達がやってきたのだ。

【聖魔剣王】は【魔導王】と共に魔剣を封印した張本人で魔剣が魔族の手によって奪い去られるのを防ぐために自分達が保管しておく事を決めた。

俺達がやってきてからしばらくして魔剣を求める存在が現れるようになった。その者たちは【勇者】や【聖剣王】などの称号持ちの者が多くいた。【勇者】というのは人間側が【聖剣騎士】と【光魔剣士 コウテイ ヒカリ】の力を使って生み出した【聖剣】を使いこなして戦う者達に与えられるものらしく、【聖剣王】の称号を持った存在がいない今は人間側ではその力を扱える者はいないはずなのだが、どうやらその力は受け継がれているようだったので魔族側に聖剣を渡したくなかった。そしてゼクスに魔剣を託してくれた存在は魔皇に奪われたと言っていたので、俺はこの機会を利用して聖剣の回収と魔剣を魔王に献上することを計画した。魔王は魔王軍が保持する【魔剣】を求めているという話を魔皇がしていた。しかし【魔皇魔剣王国 カオスマギカーデリュージ】で発見されるのは魔剣であって聖剣は滅多に発見することができないのだと教えられたので俺は聖剣を手に入れられればいいと考えていた。

魔皇が魔王に渡すために聖剣を集めている理由は知らないが、俺はその魔王に自分の作った武器を渡すつもりでいた。魔剣も魔銃も、それに俺が作り出せる道具も全てこの世界の創造神によってこの世界に生み出されたものであり、その力を行使する権限があるものは限られているのがその理由だ。俺は俺が創り出した聖剣と魔剣をこの世界に誕生させたのだ。俺がその力を自由に行使できるのはこの世界に誕生した時点で俺と聖剣、もしくは魔剣の所有者との間に繋がりが存在するからだ。しかしそれ以外の者に渡しても、それは本来の能力を引き出す事ができない。俺の作り出した聖剣は俺の許可なくして発動する事はできないし、その効果を発動する為には所有者がそれを望まないと効果が発動しないようになっている。この世界での最強武器と思えるような武器がただの武器として扱われてしまったりするのもそれが理由だ。俺はその聖剣と魔剣の使い方がこの世界の住民よりも知っているのでこの世界の住人が扱うことができないのだ。

俺は【神槍姫 グングニルヴァルキリー】であるリシアから、聖剣がこの世界に現れる時は必ず聖女と一緒で、その者は聖剣に認められることで初めてその聖剣に名前を付ける事ができると言っていたのを思い出したのだ。その事を思いだし俺はリシアと一緒に行動している間に聖剣に名前を付ける事をリシアに命じたのだ。そのリシアがこの【神界槍 ゲートオブゴット】の力を持つ【聖剣姫 ホーリープリンセス リシアランスランスス】という名前の付いた【聖剣 聖魔剣王】として覚醒したことで、この世界でも魔剣に名前を付けてあげることが可能になったと思った。そこで魔剣を欲しがっている存在が現れないタイミングを見計らい俺達は【魔剣帝】ゼクスの協力のもと、魔人族の王都にやって来たのだ。俺が魔剣に魔剣の名前を付けられるか試したいと思っていることを察してくれたリシアはすぐに魔剣に名前を付けてくれた。俺の思った通り、魔剣にも名前を付ける事ができたのだが俺は驚いた。

その魔剣の名は【聖剣帝】だったのだ。聖剣の王である聖剣の王がこの世界では【聖魔剣帝】だった事に対して俺は運命のようなものを感じた。この聖剣と魔剣があればこの世界を滅ぼすことができるのではないかと考えていたので、ゼクスは俺に【聖魔帝】である魔剣を貸してくれると言ってきた。

「おい! どうしてお前なんかにその魔剣を渡さないといけないんだよ」

魔皇はいきなりそう言い放った。その魔剣がどれだけ貴重なものなのか分かっていなければそんな態度は取れないだろう。

「そうですね、その魔剣は私が持つに相応しいものです。あなたのような下民の魔剣は私の足元に這いつくばって土にまみれていなさい」

ゼクスの言葉は相手を馬鹿にしたものだった。魔剣は持っているだけでもかなりの力を持つ。その力は所有者の力に応じて変化する。

魔剣は使いこなす事が出来れば、聖剣を超える力を持つことができると言われているが使いこなすのが難しい武器なのだ。その使い手を限定すると言われている。その武器を扱うには【勇者】である【聖剣使い】の【神剣 マスターソード】を持つ資格がある者でなければならないらしい。その魔剣を手にすることでその使い手の力が強化され、他の武器とは一線を画する強さを誇ることができるらしい。俺もその事は知らなかった。

「な、なんだとおおお!? ふざけるなよ! その剣の能力は魔素を操ることができる。つまり魔力さえ操れれば誰だってその魔剣を使えるんだ。【魔剣王】である俺こそがこの魔剣を使うに相応しい!」

魔剣が魔剣王に負けず劣らずの魔剣であることも気づかないでゼクスに突っかかる魔皇。確かに普通の魔人が魔素を操ったとしても大したことにはならない。だが魔人族ならば話は別になる。そもそも聖剣には特殊な効果があるが魔剣にはない。聖剣が特殊な能力を持つ理由はその聖剣に元々特別な力を持っていた魔人族に合うように聖剣が進化したからであるらしい。

ゼクスが持っていた【聖魔剣 セイクリッドプリンセス】は元々、聖剣の中でも上位の【聖魔剣】という種類だったそうだ。その力は絶大でゼクスはこの聖剣の力で全ての敵を倒すことができたらしい。しかしある時を境に聖剣が輝きを失い始め、その力がどんどん失われていった。ゼクスはその事を調べてこの世界にある聖剣の存在を知ってやってきたらしい。その時には既に【聖魔剣】であるこの聖剣を扱っていたらしい。そしてゼクスの話を聞いている内にゼクスは魔皇に向かってこんな言葉を告げたのである。

「そうですか。それなら魔剣は貴方にお譲りしますね。この聖剣の本当の力を理解できるだけの頭脳を持っている方だと信じていますから。その力をどうするか決めるのは貴方自身ですから私はこれ以上口出しは致しません」

魔剣王は自分が優位に立っていると思っていたのかゼクスに喧嘩を売るような真似はしなかった。魔剣を手にした時に【聖剣帝】の力を知ることが出来るのに、ゼクスからその力を教えて貰えないという事は魔皇にとっては耐え難いことだったようで、すぐに魔皇から殺気が溢れ出たのだ。だが俺はここで騒ぎを起こすのはまずいと思い止めに入った。そのせいで俺は聖魔剣をゼクスに譲渡する代わりに【天聖魔皇】となった。この世界で最強の称号を手に入れたのだ。この聖魔剣の力は魔皇の持つ魔剣の能力を大きく上回るものだった。俺は自分の持つ能力の中で一番威力のある技を放つ為に魔剣を振り払った。すると巨大な斬撃が飛び出していき辺り一帯を吹き飛ばしたのだ。俺はゼクスに視線を向けるとこう口にした。

「ゼクス。こいつらを頼む」

俺はゼクスにそういうと魔剣を構えなおした。その途端、俺の背後に聖剣と魔剣を構えた少女が俺を守るようにして立った。そして二人は同時に魔剣と聖剣に話しかけた。

『お願い、私たちの力を合わせて』

その声はゼクスと全く同じ声で、二人の言葉と同時に俺達の持つ魔剣と聖剣が共鳴しはじめたのであった。その光景にゼクスは驚きの表情を見せたが、その現象を邪魔する事はなく見守ることに決めたようだった。魔剣と聖剣がお互いに呼びあうかのように光を放ちはじめ、次第にその光が一つに収束していくとその光は徐々に消え去り、光があった場所にあったのは二振りの聖剣と一対の神剣が融合したかのような光輝く剣の姿だった。その美しい剣を見て俺とリシア、そしてゼクスは感動していた。俺達は新しい聖剣を手に入れていたのだ。俺達の持っている聖剣よりも強いオーラを放っていたその剣の名は俺の持っている【天魔剣】や【聖魔皇神 ディスティニア】と同じく魔剣である。しかし、その力は【神魔皇神 ディメンションブレイド】と呼ばれていたが俺とリシア、それにゼクスはこの名前を付けたのだ。

魔皇との戦いが終わった時、魔皇の手の中にあった魔剣が一瞬輝いたかと思うとそれを持った腕の部分が消失したのである。そのことに驚く魔皇帝はその場から逃げ出した。俺達が追撃しようと思っているとそこにゼクスがやって来た。俺は魔剣王と話す機会なんて無いと思っていたので少しだけ嬉しかった。しかしそれは本当に僅かな時間で俺はゼクスに頼み事をされたのだ。それは魔皇に奪われた聖剣の回収だ。ゼクスは魔王軍に奪われてからずっと魔剣の回収を考えていたようだ。

俺達はゼクスから話を聞くためにゼクスの拠点に移動したのだ。そこは森の中に存在する洞窟でとても神秘的でもあった。そこにはたくさんの聖剣が安置されていてまるで楽園のように見えたのである。ゼクスは聖剣を集めていた理由を俺達に話しはじめたのだ。その事を知った俺は納得をした。聖剣を集める目的は世界平和のためであり、その聖剣で悪しきものを倒す為の武器を作り出したのだというのだ。俺は聖剣が世界に溢れることによって聖女が現れるのではないかと考えそのことを聞いてみた。その質問にゼクスははっきりと答えるのであった。「いいえ。この世界では聖剣に認められなくてもその力を使えるようになる方法があるのです。だから、聖女などいらないのですよ。聖女に認められるということは、それだけ世界に対しての憎しみが足りないのです。そんな中途半端な状態で聖剣の所持を許された者が【勇者】を名乗って人々を導く? その行為が間違っていると言っているのです」

俺はゼクスの言うことも正しいのかもしれないと思った。そもそも聖女の【聖剣召喚術】を使えたのは聖女本人ではなく、【神魔帝】だったからだ。しかしリシアも同じように思っていたのだろう。俺達はゼクスの話に耳を傾けながらこれからのことについて考える事にしたのだった。

「なぁ、俺と一緒に旅にでないか?」

俺は魔王軍にいる仲間を説得するために魔人族の住む大陸に戻ろうと考えているのだ。リシアには一緒に来てほしかったのである。ゼクスは【聖魔剣王国】に残りたいというので魔王軍には俺一人で戻ることにした。

「ごめんなさい。私はまだユーの側を離れたくないの。もう少しここに残るわ。私の役目は終わりを迎えたけれど、魔剣の封印が解かれるまで、私の【魂縛呪印】の効力が切れないようにしないと」

ゼクスは【聖魔剣王】に【聖魔剣帝国】に聖剣を集めてくれという願いを伝えた。それが【聖魔剣王国】を建国するための第一歩だと言っていたのでその仕事を任せることにしたのだ。俺はリシアをつれてゼクスのもとを離れると魔人族の国に向かうことにしたのであった。

【魔剣帝国ソードキングダム】は【魔剣魔帝】ゼクスの手によって統治されている国だった。魔剣使いの聖地と呼ばれるほどの力を誇るゼクスは魔人の国の国王になった今でも魔剣の使い手たちを従えてこの魔人族の世界を治めているのである。魔人はこの世界において、【魔導国家 アメイズ】以外の場所ではほとんど迫害を受けずに生活することが出来るようになっていたのだった。その理由はこの世界を支配しているのは勇者でも【聖剣神 エクセリオンソード】の加護を持つ聖騎士でもなく、ましてやその勇者を使役することのできる聖魔剣の力を持つ【聖魔剣王】でもなかったからである。この世界で聖魔剣の力を持つものはゼクス一人しかいなかった。その事からゼクスを敵に回すようなことをしてはいけないと皆知っているのだ。魔人族は聖魔剣の力が扱える者こそ最強だと知っていた。そのことから、聖魔剣を宿すことができる魔剣を扱えてはじめてその力を得ることができるとされているのだ。魔剣とはそもそも聖剣に勝っていると言われている魔剣であるが、実際にゼクスの魔剣グラムシュバイスヴァイスが聖剣グラムシュバインヴァイスの力を上回ることはない。だが魔素によって強化されたその力は計り知れない。

俺は聖魔剣を纏ったまま魔人族の街に入るとそこで魔族たちが怯えた表情をして俺たちを見ている。どうやらこの【魔剣帝国】では聖魔剣の力を見ることが出来る人間が多いらしく俺は一目で魔人とわかる。そのため人々はゼクスが【聖魔剣王】として君臨して聖魔剣が人々の敵ではない事を証明しようと動いているらしい。

俺は【魔剣都市アルデバラン】に足を踏み入れると魔都アルデンスが俺に向かって歩いてきた。その隣には聖魔剣エクスカリバーの勇者リディアがいた。その顔つきからは以前あった時の子供らしさはなく大人の女性といった雰囲気を漂わせており、この魔剣の都市を統治する者としての責任をしっかりと持っている事が伝わってきたのである。俺の前までやってきた魔剣士が話しかけてくる。

「ようこそ魔剣都市の城へ」

俺は魔人が暮らす魔剣の都市の城を目にして少しだけ驚いていた。魔剣の力を使って造られた城は、とても美麗に造られており芸術品とも言える美しさだった。魔剣の力を使うことによってこのような建造物を建造することも可能だったのである。俺の目の前に現れた魔人はリディアと瓜二つの外見をしている。しかし俺の前にいる女性は魔剣を持っていない。それを見た俺とリシアはリディアスと間違える程そっくりだと感じた。だが魔人に【魔剣解放】はできないはずである。俺達は魔剣を持っているか持っていないかで判断をしていたのでこの魔人はリディアだと判断した。俺はゼクスがこの魔剣都市を創ろうとしていたことを思い出す。ゼクスの目的は魔剣を世界に広めて争いをなくすことだ。この都市が発展している様子を見て俺は感心した。

「この都市はとても発展していますね。リディアスはどうしたんですか?リディアスからこの【魔剣都市 ソードキングダム】をあなたに任せると聞いていましたが、その様子を見ると任されたみたいですね」

俺はそう言うと魔剣士の顔をよく見た。そしてリディアスに似ているが、どこか違うところがあることに気がついたのだ。それは目付きだ。俺と視線を合わせようとしているのだが微妙にずらすその癖、リディアと同じなのだ。それに髪の色が違うのだ。リディアナは銀色に近かったが、彼女は金髪である。

「初めまして私は魔剣士リディアスの母です。よろしくお願いしますね。ゼクスさんからあなたの事は伺っていますよ。それで本日は何をしに来られたのですか?」

俺の質問に答えた彼女の口調は大人びた印象を受けたのだ。

俺が質問するとその人物はリディアではなく、リディアスの母親だということが判明した。

俺はリディアスからゼクスについて話を聞いていることを伝えると少しだけ話を聞かせてほしいと言ってきたので、俺とリシアはその人物に連れられてある部屋へと案内をされる。そこは俺とリシアが初めて出会った時のような場所だった。

「この【魔剣魔帝】ゼクスにお会いできたことを光栄に思って下さい。私がここに呼ばれた理由はゼク─」その声を聞いた瞬間、リディアとリディアスの母親が振り返った先にいた存在はゼクスに酷似していたが明らかに違う存在であることがわかった。なぜならば魔人の気配を感じなかったからだ。そして魔人から感じる威圧的な存在感がない事に驚いた。

その少女の瞳には意思の強さを感じさせるものがあり、まるで自分の道を信じきっていて疑うことを知らない純粋な少女のように見えた。リディウスに聞いた情報によるとゼクスの娘であり、ゼクスの妹でもあるのだという。そして、ゼクスが【魔王神】に変貌した後はゼクスを倒そうと魔剣を集めているという話を聞いたことがあった。しかし俺は今、その言葉を聞いても驚かずにいられなかったのだ。俺はリディアをちらりと見てみた。リシアはリディアに会えて嬉しいという顔をしているが、俺はまだゼクスに娘がいたという事を完全には受け入れきれないでいるのであった。

リディアンはゼクスの娘であるリデアと魔帝の座を賭けて戦ったことがあるというのだ。その結果ゼクトリアでの戦いはリディアンの勝利に終わり、リディアンは魔帝となったのだという。リディアンとゼクスの間に血の繋がりがないことが分かっていても俺はどうしても違和感を覚えてしまう。それほどリディアスとリディアが似ているということも理由の一つだろう。俺はリシアを見て思ったのだ。

ゼクスの娘は魔帝に負けるほどの実力者だった。リディアをこの城に呼ぶことが出来たなら、きっとこの世界を支配することが可能なのではないかと考えたのである。

俺はゼクスが魔人族の国に作った【聖魔帝国】が平和になるようにと、この【魔剣都市 ソードキングダム】が発展することを期待していたのである。その願いは俺ではなくゼクス自身の力により達成されつつあった。そのことが嬉しくて仕方がなかったのであった。俺は魔人の王としてこの世界を平和にする為に戦うリディアのことを応援したくなったのである。リリアもゼクトの願いである魔人族の繁栄を願っていたため、この【魔剣都市 ソードキングダム】の発展に協力することにしたのだ。俺の【聖魔融合剣】の力を使えば、【聖魔石】を加工することは可能である。その石をこの都市にも埋め込むことでその効果を発揮できるのである。

【魔剣帝国ソードキング城】

この城は魔人族の王が住む城である。俺は【魔剣使いの王】となり、この国の王に君臨していたのだ。

【聖魔帝国 ソードキャッスル】は、俺が聖魔皇帝になる前から存在する【聖なる魔皇国】を元とした【魔剣帝国 ソードパレス】である。俺はここに住む住人たちには幸せになって欲しいと願い続けていたのだ。

【魔剣帝国 ブレイドシティ】は、【魔剣魔帝 リディアス=ザヴィアード】が治めている【魔剣王国】を元に建設された【魔剣王国 ブレイドゥナメント】のことである。ここに住む者たちには魔人として覚醒することを求めないように教育を行っているようだ。そのためここでは争いごとが起こることはないとリディアから聞かされていた。この国は俺の魔剣の力を使える者だけが暮らしている特別な場所であるということだ。そのため魔剣使いしか住むことができないようになっている。

【魔剣使い】として生きるために、魔剣の力と魔素によって肉体を変質させる訓練を行うので自然とこの都市の住民たちもその力が開花していくのだそうだ。俺とリディアスで聖剣に対抗できる力を持つ者を増やすことで世界を救う計画だったのだが、ゼストが協力してくれていたのでそこまで焦る必要がなくなったことに俺はホッとしていたのだった。リディアにリディオについて聞くとリディアから聞いた話では今は【勇者の聖剣解放】をコントロールできるように頑張っているということだったのだ。俺は聖剣を纏った状態を維持することが難しいと言っていたリディオの言葉を思い出した。聖剣の力を完璧に使うことが出来るようになったとしても【真祖 リディアーヌ】ほどの強さを手に入れることはできないのではないかと思えた。

リディアやリディアスのように魔剣の力を自由に使うことができるようになるためには、魔人族の体に流れる魔素を制御する必要があり、それこそがリディアの行っていた特訓の内容だったという。リディアは俺がリディアスとリディアを助けた時に【魔剣開放】を使いこなすための修行をしていたと教えてくれたがそれはリディアがリディアなりのアレンジを加えて行っているのだと俺は理解している。リディアと俺は魔剣の力を扱う方法が違うため参考にならないと思うが俺は俺で自分の力を高めるべく日々努力を積み重ねていくしかないと思っている。リディアやリディアスと旅をした時と同じように毎日剣の稽古をすることが重要だと感じていたのだ。俺は聖剣と魔剣を自在に扱うことができるがまだまだ強くなれる可能性はあると思っていた。俺の魔剣の力である【聖魔剣グラムシュバイス】と魔剣の力を使って【聖魔剣術】を発動すればもっと強力な聖魔剣技を使う事ができるかもしれないと俺は考えている。しかしリディアスは、リディアの魔剣の力でないと【聖魔解放】は発動しないと前に言っていたので俺の想像は間違いだったのかと思ったのだ。ただゼクスの記憶の中に魔剣の力を最大限に使う方法を記憶していることに俺は気がつきその記憶を頼りにして鍛錬を積んでいくことにするのだった。

「魔人の方々よ。これから魔都の城下町にある【魔導図書館】へ向うのです。そこにいる魔剣士の少年が【魔導剣士】としてあなた達を鍛えてくれることになりました。彼は私より強い剣士であり、彼が認めた魔剣士であれば誰であろうと魔剣の扱い方をマスターすることができます」

リディアはそう言うと俺に合図を送ってきたので俺は口を開く。

「私はゼクスと言いまして聖魔皇帝です。今日はよろしくお願いします」

俺がそう言って頭を下げるとリディウスのお母さんがこちらに近づいて来たのだ。俺が顔をあげるとリディアの母親が微笑みながら俺の頬に優しく触れたのである。

「リディアの選んだ殿方があなたのような人で私は安心していますよ。この子は昔から強すぎるほどの正義感の持ち主なので、少し暴走するところもあるかもしれませんが、それでも、リディアの優しさを分かってくれていますよね?」リディアの母親はそう言った後俺にウインクをする。

その仕草はとても似合っていたが、どこかでリディアの母親がリディアと同じようなことを言ったことを思い出したのである。俺がそんなことを考えているとリディアスが何かに気がついたようで「あっ」と声をあげたのだ。

「この感じ、あの時の。まさかこの子も転生していたなんて、それも私のお母様の妹ってどういうことですか?!お兄様に聞きたい事が山ほどあるんですけど。とりあえずはお礼を言いましょう。ゼクスさん。この前は助けてくれてありがとうございます。でも、お姉さまがあなたのことが好きみたいですから手を出したらダメですよ」

リディアがリディアスの母親の方を見ると俺のことをジッと見つめて来たのだ。その目は、まるで俺の心を覗き込んでいるかのように見えてしまう。リディアの母親の方に目を向けると俺のことを見ていたが特に気にした様子はないように見えた。俺はリディアに目配せをするとリディアの母親がリディアに向かってウィンクをしてきて俺はそれに反応することができなかったのである。


【聖魔帝 ゼクス】

【聖魔剣帝 リディアーヌ】

【魔剣使い ゼクス】

【魔帝】リディア、【魔王】リディア、【魔剣帝】リディアス リディアの双子の妹のリディアス。

リディアとは髪の色が違うだけの容姿が似ている女の子である。

性格は明るく、前向きな性格をしていて、ゼクスに対していつも好意を寄せていて積極的だった。そしてリディアによく似ている。

リディアの母の【魔剣帝国 ブレイドキャッスル】の先代女王【魔王神】【魔剣姫】のゼクトリアの事は大好きだった。

ゼクトはゼクスを魔王城に招き入れた。

ゼクトが【聖魔融合剣】を使うことでゼクスはリディアスを助けることが出来たのであった。

ゼクト達は魔人族に【聖魔帝国 ソードキングダム】で生活している人々を紹介することにしたのだ。まず初めにリデアとルリアナを連れて魔剣図書館に向かったのである。リディアスに案内された場所に向かうと、そこで待っていたのは俺も良く知っている人物だった。彼女は【魔導帝 ゼクト リディア】であり、ゼクトが【魔剣聖】に進化した時に得たスキルで変身することができるのだ。魔剣の力と融合した【魔剣使い リディア】という姿になることによって魔剣を思う存分使うことができる。【魔剣帝 リディアーヌ】よりも更に上の存在となっているのである。その【リディア】は俺とゼクトが魔帝になったことを知っているのであった。そのため俺が魔帝の力を得ていると分かった時点で魔剣を抜こうとしていたが、それを止めたのはリディアであった。俺とゼクトの関係をリディアは知らないからである。リディアに俺との関係を詳しく説明した後、魔人族の子供たちをリディアに任せてリディアスと一緒にリデアと【聖魔融合剣】を纏った俺とリディアスで魔剣使いになる特訓を始めたのである。リディアはリディアのやり方があると言ってリディアスに魔剣の力をコントロールできるように教えることになったのだ。

俺は、【魔導騎士】の魔素と融合して剣の威力を上げた。そして魔人族の子供たちを指導していたのである。リディアとリディアのお母さんも俺とリディアが剣の修行をしている間にはリディアや魔人族の指導を行っていたのだった。俺がリディアから教えてもらっていることをリディアやリディアのお母さんにも教えるとリディアとリディアのお母さんはすぐに覚えてしまったのだ。そのためすぐに【剣王術】を発動させて、リディアが魔剣の力を発動させている状態と同じにすることに成功したのである。この特訓のおかげで俺の魔剣の能力が格段に上がったのだ。

それから数日後、魔剣使いになったリディアスにリディアスの魔剣【聖魔剣ゼラニス】を使わせて【剣帝術】を発動させたのである。【魔剣聖】の力を【剣魔】で発動させると【剣魔聖】になり、魔剣使いが発動できる最高の能力だと言われているのが【剣聖技】なのであるが、それに匹敵するほどの力が出せるようになっていた。リディアスが【剣聖】として戦っているところを見たことがないのでどれぐらいの実力を持っているのかわからないが、ゼクトール王国最強の戦士であるのだろうということはわかったのである。

(リディアスの潜在能力は凄いな。おそらくだがリディアと同等かそれ以上の才能を持っているんじゃないか?リディアやリディアの母親も天才だと思うが、魔人族は皆こんなレベルなんだろうか?)

俺はそんなことを考えていたが、【魔導剣皇】の魔素と融合することで魔剣と融合することができたリディアスの【剣魔帝】としての実力は俺の想像以上に高かった。俺はリディアスに自分の魔剣を渡した。リディアスが魔剣を使いこなせるようになったのを確認すると俺は【魔剣開放】を使い魔剣を開放した状態でリディアスの魔剣を使った攻撃を行った。

その結果は俺が予想していた通り、俺の【聖魔剣開放】がリディアの魔剣を使っていても使えることが判明したのだ。俺は自分の体に流れている魔剣との親和性が他の人の魔剣を使っても高いということを確認できたことでこれからの戦い方を変えることにしたのである。俺は魔剣と融合すればするほど強くなっていくため【聖剣開放 魔剣解放 聖剣 魔剣】の状態になればさらに強くなれると確信を持てたのだ。しかし【聖剣】と【魔剣】のどちらを使おうとしても俺はどちらかに体を乗っ取られてしまうということになってしまう。

俺がそんな風に考えていると【剣聖剣聖】の力を持ったリディアスは俺が魔剣を使っていない状態で剣を振り下ろしてくるのである。リディアスは【剣聖】として覚醒しているため、リディアスの動きは早くなっていたのだ。俺はその攻撃を受け流そうとしたが【剣聖解放】が発動してしまっているため、剣をまともに受け止めることができなくなってしまった。

俺とリディアスが剣をぶつけ合うと、その衝撃で俺の体は弾き飛ばされてしまったのである。そしてリディアスの攻撃がどんどん速くなっていったのだった。

【剣魔解放】を上手く制御できていれば、剣の威力をある程度は上げることができた。その状態で俺の体が吹き飛ばないようにリディアが【結界】を張ってくれたおかげで俺に被害が出ることはなかった。リディアスの攻撃を俺は剣の柄に付いているボタンを押すと剣を鞘にしまうことができて剣を封じることができたのである。俺は魔剣と一体化しているのに【魔剣】を使うことに集中できなかった。その理由としては、リディアスが強くなっているからだと思っていたが、そうではなかったのだ。【剣聖剣魔解放】の状態でリディアスが使っている魔剣が俺が持っている魔剣【聖魔帝】に共鳴したのが原因だったのである。

俺が【剣帝】の魔剣で【剣帝術】を使えるようになると、【魔剣】と【聖剣】を一緒に使うことができない。【聖剣】の力を魔剣に使おうとすると【魔剣】の【魔剣の魔帝】と反発が起きてしまい【剣魔】が暴走してしまうのだ。【剣魔】を【魔剣】と一体化させようが無理である。

リディアスもリディアも【剣魔剣魔】という【聖魔剣聖 剣魔聖】という二つのスキルを持っているのは【剣魔聖】になっているからなのだが、それでも、俺の【聖魔剣】とリディアスが持っている【魔剣】を同時に使用することはできるのだが、俺が持っている方の魔剣が【聖剣 魔剣 剣魔】を使うには魔剣の魔帝と剣の魔帝がお互いにお互いを認め合わなければならないので【剣魔剣魔】と【剣聖魔帝】の両方を同時に使えないということになる。俺の場合、【聖魔剣】を【魔剣 剣魔】として使うことは問題ない。

そして俺の体の中で剣と剣の魔帝を一つにすることに成功していた。それによって、俺の身体に異変が生じた。剣の魔帝を体の中に入れて一体化させることに成功したことによって俺が剣を持つ時と【魔剣開放】をする時に俺の意思とは別に俺の剣と魔剣が一体となり、その力は爆発的に上昇したのである。

【剣魔剣魔 剣聖魔帝の極 魔魔聖の剣聖魔帝の剣聖魔帝の聖魔聖】が使用可能になったのだった。その瞬間、俺の中にいた魔帝の魂は俺の体内にある魔剣の中に吸収されて、魔剣は剣の形へと変化したのである。

リディアスはその俺の様子を見て驚いていたのだ。そして【魔剣使い リディア】の魔素と融合し【剣魔聖】になって剣と魔剣を一つに融合した【剣聖 剣魔 剣魔聖 魔剣 剣神 魔魔 魔剣聖 魔魔聖 魔剣魔の帝 魔魔聖 剣神 聖剣魔帝】へと進化して俺が剣を抜こうとすると俺が魔剣を抜いた時には既に聖剣に変化していたのだった。

俺の剣に融合した剣神が【聖魔剣聖 剣魔帝 聖剣魔帝 魔剣魔帝 剣神魔帝】と名前を変えるとリディアスも同じように剣を変化させていった。その時に剣の魔帝と聖剣の魔帝も融合したようで、【魔剣聖 聖剣 剣魔 剣魔帝 聖魔聖の剣聖 魔魔 魔剣 聖魔剣魔魔聖 魔剣聖 魔剣魔の帝 魔魔聖】と変化していったのである。リディアスの魔剣と俺の聖剣の融合も終わり俺達はその魔剣と融合を完了させて新たなる力を手に入れた。俺達の強さはさらに飛躍したのであった。俺達が剣を合わせると、その衝撃波によって周囲の建物が崩壊していくのであった。

リディアとリディアスのお母さんに特訓を手伝って貰っていた俺とゼクトであったが、リディアとリディアスが魔人族たちの訓練を手伝い始めるとゼクトが一人で特訓を行うと言い始めたのである。俺もその方がいいかもしれないと思った。なぜなら俺とリディアは二人で特訓を始めて、すぐに剣技だけでの特訓から実戦形式の戦闘を始めようとしていたのである。しかし俺の相手はゼクトでありリディアは魔剣の力で身体能力を限界まで高めてゼクトに戦いを挑んでいた。

ゼクトもゼラニスを使って【剣魔帝】の力を発揮していたが、その動きについていけなかったのだ。俺の場合はリディアと剣を合わせた時の衝撃により建物が崩壊したのである。ゼクトの特訓はリディアに任せるとしようと思っていると俺達のところにリディアスが近づいてきたのだった。

(ゼクトに剣を合わせてくれるのか?)

俺はゼクトにリディアスと戦うように指示するとゼクトは了承したのだ。ゼクトが魔剣を構えた状態でリディアスの前に行くと魔剣を構えて【剣聖技】を使い攻撃を仕掛けたのであった。ゼクトの剣とリディアスの持つ魔剣がぶつかり合い激しい光を放ちながら火花と雷が飛び散り周囲に大きなクレーターができたのだ。しかしリディアスも負けずに剣と魔法の複合技で反撃をしていた。

それから数分後、二人の体力も底をついたような感じで肩で息をしている状態だったのである。それから俺とリディアは【回復】と【治癒】を使って、ゼクトール王国にいる全ての人達を治療する。その間にゼクトールの民が使っていた武器を回収していた。そして俺は【転移 家 魔石収納庫 剣魔の宝剣 天獄門】を使って俺の住んでいる屋敷にリディアやゼクトール王国の王やリディアやリディアスの母やゼクトと共に戻ってきたのである。そこで俺は皆を休ませてから【空間移動】の魔法を使って俺の住む街に帰ろうとしたがそれはリディアに止められたのだった。俺はどうして止めてきたのか疑問に思っていた。

(俺はリディアの言う通りにこの街に住んでいる人たち全員を屋敷に避難させたんだけどな)

俺が不思議そうにしているとリディアが自分の持っている魔剣を俺に見せてくる。俺はリディアが何をしたかったのかわかったのでリディアに自分の剣を渡したのである。リディアスに渡すはずだった俺の【魔剣開放】は【聖剣開放】の時にしか使えないことがわかったからだ。リディアスはリディアとリディアスの母親の持っていた剣を受け取り魔剣を二本持つことになった。俺はそれを確認したあと【空間移動】でリディアスが暮らす街に向かったのである。

俺とリディアスがリディアの家に戻る頃には、既に【剣聖剣聖 剣聖魔帝 剣魔聖 魔魔聖 魔剣聖の剣魔聖 魔魔聖の剣魔聖 剣聖魔帝の剣魔聖】の力を使えるようになっていた。リディアが剣を振ると、その斬撃はリディアスと俺の二人を同時に切り裂くほどの攻撃に変化しているのである。俺はリディアスの攻撃を防いで、魔剣から出る光の斬激を魔剣の魔剣聖の力を利用して吸収することができたのだった。それにより俺は【剣聖】の剣の能力をさらに上げることができ、俺は【聖剣魔帝】になることができた。

【聖魔剣魔帝 剣聖魔帝 魔魔聖の剣帝 魔剣聖 剣聖魔 剣魔帝 聖魔帝 聖魔聖 剣神 聖魔聖剣魔聖 魔魔聖の帝 聖魔聖 魔聖 魔聖の帝 魔魔聖の剣聖 聖魔 聖魔聖 剣聖 魔魔聖 魔剣 魔魔聖 魔剣聖の剣魔帝 魔剣 聖魔 魔聖 聖魔 魔魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔 聖魔聖 魔聖の帝 魔魔聖の剣聖 聖魔】と【剣聖 魔魔聖 魔剣聖の剣魔 魔魔聖 魔剣聖 聖魔 魔聖の帝 聖魔 聖魔聖 魔聖 魔聖の剣聖 聖魔 聖魔聖 魔聖 魔魔聖 魔剣 魔魔聖 魔剣聖の剣聖 聖魔 聖魔聖 魔聖の帝 魔魔聖の剣聖 聖魔 聖魔聖 魔聖の剣聖 聖魔】へと変化した。

【剣聖 魔魔聖 魔剣聖の剣魔 魔魔聖 魔剣聖 聖魔 魔聖の帝 聖魔 聖魔聖魔聖 魔聖の剣聖 聖魔 聖魔聖 魔聖 魔魔聖 魔剣 魔魔聖 魔剣聖の剣聖 聖魔 聖魔聖 魔聖 魔聖の剣聖 聖魔 聖魔聖 魔聖 魔魔聖 魔剣 魔魔聖 魔剣聖の剣聖 聖魔 聖魔聖 魔聖の剣聖 聖魔 聖魔聖 魔聖 魔魔聖 魔剣 魔魔聖 魔剣聖の剣聖 聖魔 聖魔聖 魔聖 魔聖の剣聖 聖魔】と進化したのだ。

ゼクトと剣を合わせると魔素による身体能力の強化により一撃でゼクトを倒すことができたのだった。リディアはゼクトとの戦いで、魔素の扱いが格段に上手になっている。

俺とリディアは【転移】のスキルでゼクトがいる国に向かっている途中だった。その時リディアがゼクトに負けたことに対する愚痴を言い始める。

(リディア、確かにお前とリディアスではゼクトに勝てなかった。しかしゼクトはゼクトール王国の民を守るために自らリディアスの前に出て攻撃を受けた。ゼクトはあの時に自分が犠牲になっていれば他の人が助かる可能性が高くなると理解してリディアスと戦ったんだ。その行動がリディアにできないと思うのか?)

俺は【魔王 覇気 殺気 邪悪】を使いながら、ゼクトの行動はゼクト自身の判断であり、その結果の責任も全て自分で取るつもりで戦っていたことをリディアに告げたのだ。すると俺の言葉が正しかったことがリディアに伝わったらしく、リディアが謝るとゼクトが笑顔で許したのであった。俺達はゼクトが訓練を行っている場所に着くと、そこには既に訓練を終わってリリス達もゼクト達と訓練を行っていた。

(リディア、リディアスは剣の技術に関しては俺達の中では一番だと思っている。ゼクトはその技術を応用して新しい剣術を開発していた。リディアスには、その技術を教えてもらうといい。ゼクトなら喜んで教えてくれるだろう)

俺はリディアが、ゼクトに剣の教えを受けるように頼むと、リリアがゼクトに近寄っていったのである。リリスもそのあとに続き、リディアは俺に何か言いたかったようだがそのまま黙ってリリスの後を追って行ったのだった。そしてゼクトが俺の方を見てニヤッとしてきていたので俺もゼクトを睨み返す。そして、ゼクトは【剣聖】に【剣聖】と【聖剣開放】を使い俺に斬りかかってきた。俺も【聖魔聖魔 剣神 聖魔聖 聖魔剣聖 聖魔聖 聖魔 聖魔聖の剣神 聖魔聖の剣魔聖】の力を発揮して剣神と聖魔の力を剣に乗せる技をゼクトに対して放つとゼクトが俺の動きに対応しきれず、俺が【剣魔剣神】と融合した時の強さを身に染みてわかってくれたのであった。

(よし!俺と【剣魔】の力でゼクスをボコボコにしたら【剣聖 魔魔聖 魔剣聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔 聖魔聖剣聖】と融合しよう)

それから、俺は【聖魔】の力と魔素の力を同時に発動し、ゼストが【剣聖 魔魔聖 魔剣聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣神 聖魔 聖魔聖の剣聖 聖魔 聖魔聖の剣聖 聖魔 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔剣聖 魔魔聖の剣聖 聖魔聖 魔剣聖の剣聖 聖魔聖 魔剣聖 魔魔聖 魔剣聖 魔剣】に融合した。そして【剣聖】の力と【聖剣】の力を発動させて俺とゼクトの戦いが始まったのである。リディアとリリスとサシャとユリナは、その俺たちの激しい攻防を見て何もできずにいた。

(さすが剣の神の力を使うだけある。剣の使い方に全く隙がない。俺が剣を振った瞬間に反応している。これは剣の技量では全く勝ち目はないな。ならばこちらも剣の技能を最大限に利用するまで。まずは相手の攻撃をかわさずに剣で受ける。そして相手からの力を剣でそのまま吸収する。そこからは【剣神 剣聖 聖魔 魔剣神力】の吸収力で吸収していく)

俺が剣神モードになった状態で剣聖の技を発動させるのと同時に剣神力を使ったのは、剣神の力が【聖剣】の能力より強かったためでもあるのだが、それだけではなかったのだった。俺は剣神の力でゼストから吸収できる限界ギリギリを見極めるために剣を合わせた。しかしゼストも剣聖なので自分の持っている剣の限界を感じさせないような攻撃を次々と繰り出してきたのである。それにより俺は剣を合わせてから一秒後には自分の持つ剣が折れることを悟ったのだ。そこで俺はゼクトの持つ剣に【剣聖剣魔】の力を流し込むと、ゼクトが持つ剣は剣聖の能力を剣魔の聖剣で増幅されたことによって【剣聖】が使えるようになったのである。これにより俺とゼクトの攻撃力は更に高くなりお互いに一撃一撃を本気で放ったことにより衝撃波が発生し、周りにいるリディア達には影響はなかったものの周りのものを吹き飛ばしていたのだった。

剣聖同士の戦いが終わった頃には日が沈み始めていて辺りが薄暗くなっていた。リディアは【魔王】のオーラを纏い、【魔聖】の力でゼクトに剣を振るとゼクトはそれを【聖魔聖剣聖】で弾き返したのである。ゼクトはそのまま剣聖の力でリディアを攻撃するが、リディアは魔聖の力でゼクトの攻撃を受け止めるとその力を吸収したのである。しかしゼクトの力は凄まじくリディアが受け止めきれず後ろに飛ばされたのであった。リディアが後ろを振り向くとリリスとゼクトの戦いが繰り広げられていたがリリアと俺がゼクトに攻撃を仕掛けるとゼクトは二人の攻撃を余裕をもって避けて見せたのである。

俺とゼクトが戦うのは初めてではないがゼクトは俺のことを警戒していたのだ。

(さすがは【聖魔】を使うことができる者ですね。私が全力で【聖魔】を使っても互角かそれ以上に強いようです。これだと、【剣魔】でも敵うのは難しいかもしれない。それどころか【剣魔】が負ける可能性の方が高いかも)

俺とゼクトが戦っている間にリディアとリリスとサシャとユリナもリディアとリリスの師匠であるゼストと戦っていた。リディア達はリディアが剣の極みに辿り着いたことを知っている。そのため、その実力を知るためにゼクトと戦いたかったのだ。そのリディア達が俺に戦いを挑んでこなかったのはゼクトが本気を出した場合自分達では太刀打ちできないとわかっていたからなのだ。

そして、リディア達はリディア達の師であり【剣魔】の使い手のゼストに挑んだ。リディアとリアリスは同時に剣技を放ちゼストに剣撃を放つがゼクトが使っている【聖魔聖剣聖】によって強化されたリディア達の斬撃をゼクトが持っている【聖魔 聖魔聖剣聖】の【魔剣 魔魔聖剣 聖魔聖 聖魔聖の剣聖】の刃の部分で受け止め跳ね返したのである。それを何度も繰り返すと、【魔剣グラムシュバインヴァイス】を持っているリリカが斬りかかりにきた。ゼクトはその攻撃を剣身ではなく剣の腹の部分を滑らせて受け流そうとしたのだった。しかしその時に、ゼクトの持つ【魔剣 魔魔聖剣 聖魔聖 聖魔聖の剣聖】の柄をゼクトが持っている【聖魔聖剣聖】の刃の部分にぶつける。すると【魔剣 魔魔聖剣 聖魔聖 聖魔聖の剣聖】と【聖魔 聖魔聖剣聖】は互いに弾かれ合った。その隙を狙ってリディアとリリスはゼクトに連続で攻撃を仕掛ける。そして【聖剣】と【魔剣】の力を使いリディアスから学んだ連携攻撃を行い始めたのである。

(やはり強い。私の知っている中では一番かもしれませんね)

俺も【剣魔】の力を使ってリディア達の攻撃に合わせようとしたが全く間に合わなかった。俺は剣神の力と剣魔の二つの力を同時に使ってリディア達の動きに合わせて戦いを始めた。

(よし、少し追いついてきたぞ!このままいけるか?んっ?)

ゼクトとゼクトの仲間達が戦闘をしている場所に誰かが近寄ってきた。その人物を見た瞬間に今までに感じたことがないほどの嫌な感覚に襲われ体が思うように動かなかったのであった。

(な、何だ、この気持ちの悪い力は!?こんなの初めて感じる。一体誰が近づいてきているんだ)

俺がそう思いながら見ていると突然リディアが俺の方を振り向き叫んだ。

「ご主人様、気をつけてください!!あいつは、危険すぎます!!!!」

俺も振り向いて、リディアが言っていたやつを見る。そこには、リリスに顔が似ている黒髪の少女がいてこちらを見つめていたのである。そして、俺達に向かって微笑むとその少女は言った。

「私はゼストの娘のクロナよ。お兄ちゃん。あなたと遊びたいんだけど良いかな?」

俺がその言葉を聞き返事をするより早くにリデアの剣技が俺の視界に入ってきて俺の目の前にいたはずの少女の体に当たる。しかし、俺の目には何が起きたのか全く見えなかったのである。

(あぁ、リディアが俺の心配をして剣技を放とうとしていたから、俺とゼストの娘であるらしい、そのクロナとかいって子から俺を守ってくれたんだな。リディアに感謝しないとな。それにしてもさっき俺が見たものは幻覚なのか現実だったのか。とりあえず、リディアに礼を言わないとな)

俺がそんな事を考えつつ振り返り、リディアに声をかけようとしたら何故かユリナの槍の切っ先が目の前にあり話しかけられなくなっていた。ユリナは険しい表情をしながらこう言う。

「旦那様、大丈夫ですか?」

俺は何故、自分が生きているのかという驚きもあったがユリナはどうして今自分のことを心配しているのかがわからず不思議に思った。そこで俺はある結論に至った。そしてリリス達に聞いてみることにする。

(さっきまでゼクトが戦っていたはずだが。ということはさっきまでゼクトとクロナとかいう娘と三人で何かを話していたというところだろう。なら今はどうなっているかわからないが少なくともゼクトが生きている事は確かだ。そして、俺を襲おうとしているのがリリスに似ているがおそらく別人だろう)

俺がそう考えていると俺の事を見ていたゼクトが話し始めようとする。俺はそれを止めようと思いゼクトが話そうとする前に攻撃することを決めた。

俺は【聖剣】の力を使うことにしたのだが俺は自分の力を完全に把握していないため全力を出そうとすると自分を殺しかねないため俺は、全力でゼクトを攻撃する。

(全力は出さないけど全力以上のスピードを出してゼクトを殺す。これでどうだろうか)

俺は【剣聖】の力で攻撃するが、俺の【剣聖】の力を込めた斬撃をゼクトは簡単に受け止めたのである。それだけではなく【聖魔】でゼクトが【聖魔聖剣聖】に込められた【聖魔】の力を利用して放った斬撃により、俺の持つ【聖魔】の力を吸収していったのだった。しかし俺も負けずに剣を動かし反撃してゼクトの持つ【聖魔聖剣聖】を破壊しようとしていく。だが【聖魔】の聖剣と魔聖の力を融合させた【聖魔聖剣聖】には全く傷をつけることすらできなかったのである。俺が【剣魔】で攻撃しようにも剣神モードでゼクトから受けたダメージがまだ残っており、まともに戦う事が出来なかったのだった。そこで俺はある決断を下す。俺はリディアに合図を送る。

(そろそろ決めよう。あれをやるぞ。【剣神モード 剣魔 魔剣モード 剣神 魔王 魔人モード 魔神 剣神魔王モード 剣聖 剣王 魔王剣王 勇者 剣神勇者の剣】)

リディアも俺の考えを理解してくれたようで、すぐに俺が伝えた力を発動してくれたのだった。その力は俺の全ての力が一つに凝縮され更に増幅される。

俺が剣聖の力で【聖剣グラムシュバインヴァイス】を剣舞に纏わせた状態で、魔剣の力で【魔剣グラムシュバインヴァイス】を纏わせ魔人の力と魔人の魔力と魔聖の力を持つことで剣を操れるようになり、【聖魔】で作り出した魔剣の剣身に剣神の【剣魔】で【聖魔】と【魔聖】を同時に混ぜ合わせ、剣魔を使えるようにし、さらに【聖魔】と【魔聖】と剣聖を使うことができる剣神に魔剣使いである俺がなることによって、俺自身が【魔聖剣聖】となることができるようになる。この剣舞の剣は【魔聖】の【魔剣】が剣聖のオーラの鎧の役割を果たしていて、この剣で【魔剣】の攻撃を防ぐことが可能になるのである。そして【魔聖剣聖】の力を使い魔剣を【聖剣 聖魔聖剣 魔剣】に変化させたのだ。この状態の【魔剣 聖魔聖剣聖】にはどんな魔剣であろうと聖剣であっても、魔聖が籠っている【魔聖剣聖】に勝つことは不可能であり魔聖が入っていない聖剣と魔剣は【魔聖剣】に触れるだけで破壊されるほどなのだ。つまり【魔聖剣聖】に敵うのは同じ剣神モードであり、俺と同じ剣魔を扱える状態になり魔剣に【聖魔】の力を込めることが出来るリディアと魔聖剣聖を扱い魔聖が混ざり合った強力な魔聖がこめられた魔剣を持つリリカとリリスくらいしかいないというわけなのである。

(さぁゼクト、勝負を決めようじゃないか。剣魔の力を見せてみろ!!)

【剣魔】の力で【聖魔聖剣聖】を強化したゼクトだったが俺の予想を超えることはなかったのだった。俺は剣聖の技を使い【聖魔聖剣聖】に【聖魔】と【魔聖】の【剣聖】と【魔剣】を合体させることで【魔剣 聖魔聖剣聖】を作り出すと【魔聖剣聖】で魔剣に斬りかかる。その剣筋は今までに使ったどの技よりも速く鋭いものだった。その技を受けた時、俺の体に激痛が走るとともに体が宙に浮いたような感覚に陥った。その感覚に驚いている間に今度は体が地面についていたのだが足と腰を捻挫してしまったらしく動くことができなかったのである。そしてゼクトが近づいてくると俺の首に剣を突きつけてこう言った。

「ふぅー。危なかったわ。私じゃ無かったら殺されていたでしょうね」

そう言うとゼクトは俺のことを睨んでこう言ってきた。

「さてとお前は何者だ?私のことを殺そうとしていたみたいだけど?」

ゼクトがそう言うとゼストの娘であるらしいクロナとかいう少女が現れこう言った。

「ねぇお姉ちゃん。そいつ殺しちゃってよ。早く終わらせてパパに会いたいからさ!」

(はぁ〜やっぱりか。こいつはヤバいぞ!本当に何でこんなにやばい感じがしたんだろう。とりあえず俺の持っている力でなんとかしてここから出る必要がある。このままだとまずいな。早くここから抜け出す必要があるがどうしたものか)

「お、お嬢様、そ、そんな事を言われても殺すなんてできる訳がないではありませんか!!」

俺が考え事をしているうちにユリナとか言う奴が慌てながらクロナとかいうことを説得しようとしている。

「むっ?なんで?私は殺して欲しいんだけどなぁ。お父様に迷惑かけたくないしさ。それに、もう私達には関わらないで欲しいんだよ。だから早く消えて欲しいな。そうすればあなたが殺した事にしても良いからさぁ。お願いできないかな?」

クロナとかいうかな少女が少し困った表情で俺の方に視線を向けてくる。

(これは一体どういうことだ。あのリディアの娘だというのは本当だろう。ただあいつとは性格が全く違うがな。リディアもリデアも俺のことを大切に思ってくれているがあいつの場合は俺の言うことは絶対に聞いてくれる。リディアなら俺に攻撃する時にわざわざ警告してくるし、それにリデアもリリアもそんな事はしない。そもそも、俺はリデアがリデアの娘だとしてもリデアの事は好きだし愛してもいる。だからこそ、クロナのことが気になったんだが)

俺はリディアのほうを見ると、リディアは俺の方を向いてくれていたのでアイコンタクトで何かを伝えたかったんだと思う。

俺がクロナを見つめていることに気づいたのかリディアは俺に向かって、剣で攻撃しようとしているがなぜか途中で攻撃をやめた。するとクロナがリディアの方に歩いていく。

「ごめんなさいね。あなたには何も出来ないから、さっさとどこかに行って欲しいの。わかったかしら?」

クロナとユリナが何か話しているので俺も二人の会話に参加させてもらうことにする。

俺は【全知眼】の力を使うことでクロナとかいう奴に俺の考えていることを教える。

(おい、お前、ゼクトに殺されるぞ。俺はゼクトと戦うためにここに来た。ゼクトに殺されたら俺の目的を果たすことができなくなるだろ。ここは俺に協力してくれないか?)

そう俺が考えている間にもリアナとリリスの二人が俺に攻撃を仕掛けてきていたがリリスの攻撃だけは何とか避けることが出来たので、リリスの武器を破壊してやったのだが、その後リリスに抱き着かれて動けなくなったのだった。

「やっと見つけました。私があなたのことを守ります」

リリスが俺の顔を見ながら笑顔で俺に話しかけてきている。俺はそのリリスの姿を見て嬉しく思いながらも俺はどうやって抜け出せばいいのかを考える。

するとリディアが、

「その人に何を言っているんですか?意味がわかりません。それよりも、その人の首を落としてでも止めなければなりませんでしたのになぜ止めたのですか?私、結構本気で怒ってるんですよ。それに今からその人を殺してあげないといけないのですがどうしたら許してくれるでしょうか?」

リディアの言葉を聞いたクロナは、ゼクトの事を心配そうな目で見始めた。しかしリディアのその言葉を聞くとクロナは慌ててこう言ってくる。

「そ、そんな。リディアがお父さんの事を殺してしまったなんて信じないもん。お、おじさんが、そ、そんなことするはずないもの!!あ、あんまり怒らないでよ。も、もう少しでいいから仲良くしてほしいな。も、もっとリディアとお父さんが仲良くしてくれた方が、わ、私も嬉しいし」

俺は、リディアがリディアの父親が死ぬことを覚悟して俺を殺しに来るということを知ったので俺はリディアに提案をしようと思っていたが先に俺のことを睨んできた。

「ちょっと黙っていて下さい。それと、私のことを呼び捨てにするなんて良い度胸です。この子には少しだけおしおきが必要のようですね。私だって本当は殺したくないんです。その人のおかげでこうしてまた家族みんなで過ごすことができるようになったのにどうしてそんな酷いことを言うのでしょうか。まぁリディアがそういうのならば私もその人を殺した後に自害させて頂きましょうかね。それで許してくれるんでしょう?」

俺はそのリディアの言葉を聞いてすぐに行動を起こす。【魔素分解】を使い自分の体にある【魔力】と【聖力】を【聖力】と【魔素】に変換する。

「うっぐぅ。はっはは。これでどうだ。お前らの計画は失敗したな。俺を見逃せ!!そうすれば俺の体は元に戻るはずだ。早く、早くしないとお前たちの父親に殺されちまうぞ!!はっはは。俺を殺すんだろ!!さぁ早くしろ!!それとも怖くなったのか!?早くしろ!!!早くしろ!!!はっはは。はぁはぁはぁ。俺はまだ生きているか?あれ?俺は何をしている?俺って何をしていたんだったけ?えっと?俺ってなんだったかなぁ。なんか大事な目的があった気がするが思い出せない。まぁいっか。それよりも俺はリディア達がこれからも一緒にいてくれるだけで幸せなんだよな。だからもう殺そうとか思わないよな。頼むぜぇ〜」

(くっ苦しい。息ができない。なんでこんなことになったんだ?いや待て落ち着け。冷静になれ。そうだ、ゼクトは俺のこの技がどんな技かわからなかった。だから俺の体が変化していることに戸惑っている間になんとかこの場を離れないとダメだ。しかしこの状況を打開するには一体どうすればいいんだろうか)

俺はそう思って必死に考えるが俺の【全智眼】では答えが出てこなかった。なのでゼクトに聞くことにした。

(ゼクト。どうやればここから逃げることが出来る?俺に考えがあるんだ。俺を信じて手伝ってくれないか?)

俺がそう考えたところでクロナとユリナの二人が突然倒れ込んだ。

「あらら〜やっぱりその男は化け物なのね。さすがに今の二人を一撃で倒すとか普通じゃないよね」

「ゼクト、俺に考えがある。とりあえずお前だけでも外に出られないのか?」

俺の問いにゼクトはこう答える。

「そうしたいんだけどね。その男の体が邪魔をしているの。その男を倒すのを手伝ってくれさえすれば外に脱出できるけど手伝わない?」

俺は迷った挙句協力することにした。ゼクトと二人で協力してクロナの父親ゼストとクロナとかいう少女を倒した後ゼストとゼストが操っていたらしい人達全員を無抵抗にしてからゼクトに頼んで外へ出てもらった。そしてクロナとかいう奴をリディアに治してもらえるかどうかをゼクトに聞いた。するとゼクトはクロナのことを見下ろした後、クロナのことを助けることを諦めてリディア達に何もせずにその場を去ったのであった。

(俺もゼクトもあの男がいなくなったせいか力が弱くなってきている。これじゃあいつに対抗できそうにない。それに今はなんとかなってるがいつまでもこの状況が続くとは思えない。一体俺達はどこに向かって歩いているんだろう。本当にどこに向かっているのかわからないが、少なくとも俺はあの男、ゼクトを超えることはできていない。俺の師匠も超えられなかった相手。俺が本当に越えられる日が来るのだろうか。でも俺はリディアのために、いやリディアのためだけに生きると決めたんだ。リディアを守ることができたのなら、その後は俺が死ねばいいだけの話だ。それだけの話なんだ。俺はリディアの為にしか生きてはいけないし、俺にはそれ以外の生き方が思いつかない。でも俺はそんな風に生きていたいと思えるような存在に出会うことができた。俺にとってはリディアがすべて。リディアだけがすべてなんだよ。俺の命は、人生はリディアのものでいい。俺はただ、俺の人生を少しでも長く生きて、リディアが死ぬまでそばにいたいだから)

そう思いながら、俺は意識を失ったのである。

(あぁ俺は一体何をしていたのだろう。確かリディアにリディアの父親と戦わせてもらってたはずだが途中からの記憶がない。一体どういうことなのか俺の体になにが起こったのだろう。そういえばあのリディアが俺の体を治してくれたと聞いているが、一体どうやってくれたのだろう。俺は気を失っていたみたいだが一体どうなっているんだ。俺は今どこにいて何をされているんだ。そもそもあのリディアが俺のことを殺そうとしたのも俺のことを愛していたと言っていた。その言葉も本当なら嬉しい。しかしなぜ俺がリディアからそこまで嫌われているのかが全く分からない。やはり俺の何かがリディアを傷つけてしまっているのだろう。そんなことを考えても意味はないかもしれないがそれでも俺はずっとリディアと一緒にいたいと思っているし、もし叶うのであれば結婚をして、一生添い遂げたいとも思う。でも俺はリディアに対してあまりにも恩返しができてない。だからこそ、この世界に来てからも色々とリディアを助けてきたつもりだったのだが結局は無駄に終わった。俺はこのまま、俺にできることをするだけだな。リディアが望むのならばいつでも俺は死ねる覚悟で生きている。でも、俺は死ぬつもりはないが)

俺はそこで目を覚ました。

「あっ起きたのね。ゼクトさんがなかなか目覚めなくて少し不安だったのよ。よかった」

俺の目に飛び込んできたのは涙を浮かべながら笑みを見せるリディアの顔であった。

リディアは泣きそうになりながらも嬉しそうに俺の手を取り俺が起き上がるのを手伝ってくれたので俺は立ち上がることが出来た。

俺は周りを見渡すとリディアの家の中にいることがわかって、目の前にはリディアとリリス、ユリナとリデアが笑顔でこちらを見ていることに気づいたのだった。

俺はその瞬間リディア達のことを見ていて嬉しくなり思わず泣いてしまった。リディア達のことを見ているうちになぜか勝手に涙を流していたのである。俺はそんな自分に気づいて恥ずかしくなったので俺は顔を伏せて泣いたふりをした。すると、ユリナが急に俺の頭を抱きしめてくるのが分かった。

俺がユリナに抱かれながら泣いているとその状況を見て何を思ったのかリディアが俺に近づいてきて、俺の頭を撫でようとしてきたのだ。俺はそんなリディアに心の中でお礼を言いながらリディアの優しさを噛み締めていたのである。するとその時俺はある違和感を感じ始めたので顔を上げてみることにすると、リディアの後ろにいるユリナとリディアが俺の方を見ながらにっこりと微笑んでいたので嫌な予感がしたので、急いでその場から離れようとしたが、リディアがそれを止めてユリナとリディアが同時にこう言ってきた。

「大丈夫だよ。安心してくれ、私ももうお前のことを傷付けたりしないから」

「私もです。私はあなたのことを愛しているんです。そんな私達が今更あなたにひどいことができるわけがありません」

俺はその言葉を聞いて少し警戒心を解いたがその隙にリディアに頭を思いっきり殴られてしまった。そしてリディアが俺にこう言ってきてくれる。

「私のお父さんに酷いことをされたでしょ。その痛みを返してあげるわ」

「あぁそうだな。俺の分も頼むよ」

俺はリディアが言い終わる前に返事をしていた。

俺は、リディアのお父さんが死んでからは俺を襲おうとはしてこないだろうと思ってリディア達に全てを話すことに決めた。まず俺は、【スキル】を複数持っているというところから話し始めた。俺は【魔力分解】を使えるということと、自分の意思ではなく、リディアの父親のスキルに俺の意思に関係なく支配されてしまったということをだ。すると案の定俺は殺されると思ったのだが何故か俺は殺されずリディヤに抱きつかれたままになっていた。

俺がどうして殺されずに済んだのか不思議に思っていると、ゼクトが口を開いてきた。

「まぁ、その男の言っていることは本当だと思う。確かに君の体に異変があったのはその男の能力が原因だったと思うし。私にも君を殺せとか言ってきてたんだよ」

「そうなのね。じゃぁとりあえずこの男はしばらく私が預かってもいいかしら?それでちゃんと治療したらすぐに帰すようにするわ」

俺はそう言われてリディアの家に居座ることにした。

その後俺はすぐにリディアの父親の死体をリディアの父親に殺された人と一緒に埋めた。リディアの家は広いがさすがに一人でこの人数分の食料を買い込むことはできないだろうと思い、買い出しを手伝うことにした。リディアはそんな俺のことを心配していたが、俺は問題無いからといって一緒に行くことを選んだのである。

そして買い出しを終えて家に帰った後、俺達は一緒に夕食の準備をしてから皆で食事を楽しんだ。リディアやリディアの家族は、いつも通り楽しく会話をしながら食事をしていて、ユリナもそれをみて嬉しそうにしており、リデアとユリナは二人並んで料理を食べており、そのユリナの横にいる犬?のような生き物?と思しきもの?(あれ?そう言えばこいつの名前知らないな)もリディアが用意してくれたペット用のエサを美味そうに食べていてとても和む光景だなと思った。俺はそんな中、ゼクトだけはどこか悲しそうにしながらも俺の方をじっと見てきてたので話しかけるとこんな風に話してくる。

「なに?僕になにか聞きたいことでもあるの?」

「いや、俺とリディアの関係についてお前は知っているのか知りたくて」

「うん、知ってるよ。さっき言ったじゃない」

俺はゼクトの言い方に違和感を覚えていたので、俺はそのことを聞いてみると

「それはゼクトさんとクロナの父親がゼクトさんの人格を破壊したからでしょう?」

俺はその言葉を耳にしたときは驚きのあまり言葉を失ってしまった。なぜならクロナの父親は俺がこの世界でゼクトと戦った後にゼクトを治した後のことについて、俺には一切説明をしていないのである。なのにゼクトの言うことと俺が体験したことには違いがありすぎる。俺はそこで一つ仮説を立てることに成功した。そして俺は試しに聞いてみることにしてみた。

「俺とリディアの関係は俺とクロナの父親がリディアの父親とリディアとの関係性を破壊することによって、リディアと俺は幼馴染の関係になったということになっている。だが俺が実際に受けたのは、リディアのお父さんから暴行を受けて、俺が抵抗できない状態まで陥ったところで、リディアが俺を助けてくれたってことだ。でもなんでそんなことをする必要があったのか、その理由がわからないんだ。だから俺は今ここではっきりさせるべきだと判断した。つまり、お前がリディアと恋人同士なのは間違いないのだろう。だけど、リディアがお前の本当のことを話せないのは、リディアはきっとまだ俺のことを信じていないからだ。だって俺達は出会って間もないんだ。俺とリディアが本当に信頼し合うようになるにはもっと時間が必要だ。俺としては今リディアは俺に対しての罪悪感を抱いていると思うから、俺はリディアが安心するまで、俺とリディアとの付き合い方については、リディアが自分で答えを見つけてもらって構わない。俺はそれまでリディアと付き合っていくと決めたからな。ただ俺はリディアに対しての態度を変えるつもりは無いしリディアとずっといたいと思っているし結婚するつもりだが、リディアと俺の間には距離が有るんだ。俺はリディアの口から本音を聞くまでは待つつもりだ。俺とお前のことについてリディアが話せるようならリディアに全てを任せるが、そうでないのなら俺はずっとリディアに寄り添って生きていきたいと思っている。リディアに俺がどう思われているのか分からないし俺のことをどう考えているのか分からないけどな。だから教えて欲しい、俺はリディアにどんな印象を持っているのか」

俺は真剣な表情で質問をぶつけたが、その俺の言葉を聞いたリディアは一瞬だけ悲しそうな顔をしたが直ぐに笑顔に戻って俺に対して、俺のことが好きだと伝えてくれてからリディアと俺は、お互いに愛を確かめ合ったのだった。

(あぁやっと、俺の初恋は成就したんだな。俺は幸せ者だな)

俺はリデアと楽しげにしているクロナを見てそんなことを思いながら、クロナに対して羨望に近い気持ちを抱いていたのだった。

それから俺はユリナとリデアと一緒に夜を過ごすことになりリディアはリディアの妹と一緒に過ごしていた。

俺はリデアと一緒に寝ることになり、ベッドの中で俺はリデアに抱きしめられていた。

俺がリデアと二人で話をしているときにユリナとリデアは二人だけで話をしていたらしくて俺のことをリディアに任せるとのことで二人は俺達を残してどこかに行ってしまった。なので、今はリディアの家から離れている。

リデアとユリナが何をしていたのか少し気になったが俺はあえて気にしないことにしリデアの方に顔を向けた。

「ねぇリデア」

「ん?どうかしたか?お兄さん」

「俺とユリナって、やっぱり、その、あのーなんだ?その、そういう仲になっていいってリデアは思ってくれるか?それともしたくないのだったら別に俺はそれで全然良いから。俺はそれでも構わないよ」

俺は自分がユリナを好きになっていることに自覚があったためユリナとこれからどういう風に関係を築いていこうかを迷っていたのだ。

しかし俺がそう尋ねるとリデアは急に顔を真っ赤にさせて顔を伏せてしまった。俺は急にどうしたのかと不安に思っていると

「お兄さんは、お兄さんのしたいようにしたら、私は応援してあげても良い」

「ありがとう。俺はユリナのことも愛しているからさ、ユリナとリデアとリリスが望むのであれば三人とも娶りたいと考えているんだけど、そのことはリディアも了承済みだしリデアもユリナもリディアも許してくれるのかな?俺は、俺は、そのリディアに嫌われたくないしそれに三人がそれで良いのならば俺はその選択を取りたいってそう思っているんだ。俺はリディアを愛していて、ユリナとリリスを好きでいたいんだ。俺は欲張りだからさ、俺を好きになった女の子が全員欲しいってそんなことを考えてしまっている。こんな俺のことは嫌いになってしまったかい?」

俺はその言葉を言い終えるまではリデアの顔を見ることができなかった。俺が言い終えた後、しばらく沈黙が続きそしてリデアはゆっくりと顔を上げて俺のことを見てきたので、俺と目が合った。

すると突然リデアはキスをしてきた。それも濃厚なやつをだ。俺はそれを黙って受け入れていたのだが、流石に長いと感じたので俺は一旦リデアを俺から離れさせることにした。そして俺から離れた後、俺は何故リデアがいきなりこんな行動に出たのかわからなかったので、理由を聞いてみることにする。するとリデアは自分の唇に人差し指をあて、そのあと自分の胸を触って、その後リデア自身の下半身を触り始めて俺に見せつけるようにしてこう言ってきた。

「私は、リディアがあなたにしたみたいに、私もお兄さんに何かしてあげたくて、私なりのお返しをしようと思ってこうしたの。そしたら何故かすごく興奮してしまって、その、私にも良くわからない。ごめんなさい」

俺はリディアが自分の身体に何を施したのか理解してしまい、俺は急いでリディアの家に行こうと思ったがリディアの家はリディアの家の隣にあるのを思い出した俺は慌てて戻ろうとするがリディアはリディアの母親とリディアの妹と一緒に買い物に出かけていたらしいので戻ってくるのに時間がかかるとわかり俺達はそのまま泊まることにした。そしてその夜リデアは俺とずっと体を重ね合っていた。俺は途中からリデアのペースについていけなくなり何度も失神させられたがなんとか最後まで耐えることができたのである。

(俺の貞操が危なかったぜ、本当に。でもリディアがリディアの父親にされたことを考えると俺もリデアにあれこれ言っていられないしな。でもまさかあんな方法でリデアが攻めてくるとはな)

その後リディア達が家に帰ってきたときには、もうすでに日が変わってしまっていたので結局今日は何もすることなく終わった。そして俺とリデアはそのまま眠りにつくことにした。そして翌日、俺はいつも通り学校に行く前に一度家に帰る。昨晩の疲れが抜け切れておらずまだ少しだけ怠いが俺は家に戻ると、家の中になぜか見知らぬ女性がおり、そして俺の姿を見てすぐに駆け寄ってくると俺をぎゅっと強く抱きしめてから

「お兄ちゃん、おかえり」と言ってくれたので俺は「ああただいま」と答えて優しく抱き返したのであった。

その女性は黒髪の綺麗な長髪をしていてとても美しい女性だったが見た目は幼女に見えるのでロリコンの人からはとても需要がありそうな感じに見えた。しかしその少女からは妙な違和感を覚えており、俺はこの子はいったいなんなのかと思い尋ねてみることにした。その俺の行動に対してその女の子は驚いた様子を見せてから俺のことを離すと自己紹介を始めた。

「あ、初めまして。私のことを知らない?ううん知ってて当然よね。だってこの姿になるのは初めてのことだもの。私はあなたのことをずっと呼んでいたわ。だって私をずっと待っていてくれたんだから。私が目覚める時が来ることをずっと待っていたのでしょう。ねぇ、ユウキ、久しぶりね。会いたかったわ。やっと、この時が来たの。嬉しいわ。ねぇ、私とデートをしましょう。これからいっぱい、楽しい思い出を作りにいきましょう」

その少女は俺に向かってそんなことを口走ったので俺は戸惑ってしまい

「え?な、なんの話ですか?」

俺は訳がわからないので、そんな返答しかできなかった。俺の言葉を受けたその女の子はその反応に不思議そうにして首を傾げている。俺がそのことについて説明を求めようとしたところで玄関からリデアが出てきた。リデアは家の中に俺がいるのを見て俺の元に近付いてくると俺の頬に手を当ててきて

「おはよう。よく眠れたかしら?」と俺の耳元でそんなことを囁きながらリデアが挨拶をしてきたので俺もそれに応えてリデアの手に自分の手を重ねると、俺はリデアに話しかけられたことに安心感を抱いた。

(そうだ。俺は、一人じゃない。俺には、仲間がいたんだ。俺は、何を怖がっていたんだろうな。リデアにクロナ、ユリナにリリス、そしてこの子、いやこいつらだ。みんないるんだ。俺はこいつに一人で勝手にビビッてしまっていたのか。情けない。もっとしっかりしないといけないのに、どうして俺ってこんなにメンタル面が弱いんだ。くそったれが)

俺は心の中でそんな愚痴を呟いていたが俺は気持ちを新たにし、そして目の前にいる女の方を向くと

「君は誰だい?なぜ君が俺のことを知っているのか分からないけどさ、悪いけど君のことは俺の記憶には無いんだよ。俺と君は一体どこで出会っていてどんな関係だったのか教えて欲しいんだ。その願いを叶えてくれるなら俺はなんでも協力するよ」とそう告げるとその少女は嬉しそうな表情で俺に近づいてきた。

(な、なんだ。なにをされるんだ)

「ありがとうございます。それでは早速ですが、これから一緒に行きませんか?場所はそうですね。海が綺麗な場所で、そこは景色が素晴らしいところなのです。そこで二人っきりで過ごしているととても素敵な時間になりますよ。それでよろしいでしょうか」

その言葉に俺は疑問を抱いてしまい

「えーと、ちょっと話が急すぎて困ってしまうんだけどさ、とりあえず一つ聞かせてくれないか。俺は今さ、その、あんまりお金を持ってないんだよ。だから旅行とかだと結構厳しいんだ。それにその場所が遠い場所にあるんだったら飛行機に乗らないと行けない場所だったり、船に乗って行く場所だっていう場合だったら俺じゃ移動手段がないからどうしようもないと思うんだ」

俺がそんな事を伝えると、俺に詰め寄ってきていた女の子は急に顔を赤くしながらモジモジと恥ずかしそうにしているので俺はどうしたのかと思っていると

「そうですよね。いきなりこんな事をお願いしてすみませんでした。私はユウくんと二人っきりで過ごしたいの。私はもう何年も我慢してきたから早く、早くあの場所に二人で行ってゆっくりしたいんです。そのためならばいくらでも頑張るの。大丈夫よ。ちゃんとお財布は持ってきたから。さ、いくわよ」

その言葉に俺はまだ困惑してしまい

「そ、それはわかったよ。俺は別にそれで構わない。俺も久しぶりに海に行けるのであれば喜んで連れていってもらいたいくらいだ。しかしだ、その前にいくつか聞きたい事があるから、先にそっちを片付けても良いかな?それと、できれば俺はその、自分のことは、自分で呼びたいから、俺の名前を呼んでもらってもいいかい」と尋ねると

「分かりました。まず、その質問については答えてあげても構わないのですが、その前に少しばかり時間がかかりそうなので私達の拠点に連れていきたいと思います。それと名前を呼ばないとダメですか?その方が私としては嬉しいし、それにそちらの方が都合が良いんですよ。そうそう、私はリデアって言います。リデアちゃんと呼んでください。あとは私と一緒にいる女の子はリリスって言います。リリスちゃんで構いません。よろしくおねがいします」とそんな言葉を受けて俺はその言葉を疑うことはしなかったが本当にリデアとリリスというのか、それが本当なのかどうかがわからないまま、その言葉を受け入れる事にして俺は

「分かったよ。それじゃその二人の言う通りに俺は従うとするから案内してくれるか?」と俺はリデアに向かってそんな風に言ったのだが俺のことを抱きしめたままリデアはその場を動こうとはせず

「ふぇ、あ、あれ?」と俺の方は突然のことだったから何も反応できずにいた。俺はしばらくリデアの胸の中に埋もれていたがリデアは俺のことを離してくれなかったのでそのままの状態で俺はリデアのことを抱きしめ返してリデアに話しかけてみる。

「なぁ、そろそろ離れてくれてもいいんじゃないか。流石にいつまでもこんなことを続けているわけにもいかないし、周りの人達からの視線も痛いしな」と言うとリデアが少し残念そうな表情をして俺の身体から離れてくれたので俺もリデアの身体から離れ、そして俺は先ほど気になったことをリデアに尋ねてみることにした。

「リデア、俺はリデアって呼んでいるがお前の本名はなんていうんだ」とリデアの名前を呼んだ瞬間リデアは俺の方に顔を向けるとその綺麗な青い瞳を見開いて驚いたような様子を見せている。俺はその様子を見て

(ああこれはリデアが本当の名前を隠していたってことでいいのだろうか。それともただ単に驚いているだけなのか)とそんなことを思っていたのだけれど、リデアはすぐに微笑むと「やっぱりあなたには私の名前はわからないのよね。まあ仕方ないよね。だってあなたには、記憶が無いんだから。それでもあなたは、あなたが私にくれたものは消えてはいないから、私は私であることに変わりはないからあなたが、私の名前を呼んでくれるだけで私は、幸せを感じることができるから、それだけで私は十分よ。でも、いつか、私は、本当の名前で、あなたのことを、呼びたいわ。今はその時ではないのかもしれない。けど、絶対に、その時まで、待っていてね」と言い残してからリデアは、リリアと名乗った女の子のところに駆け寄るとそれについていくように俺に笑顔を見せて家を出て行った。

俺はそんな光景を見て呆然としていた。そして俺は慌ててリデア達の後を追いかけようとした。しかし俺は足を止めると家の中に戻り自分の部屋にいき荷物を確認する。そしてリデアが俺に渡し忘れている物がないかを確認した後にリデア達が向かった方角に俺は走って向かっていた。その最中俺はずっとあることを思い続けて走り続けていたのである。

(まさかあいつら俺が俺だということに気づいていたんじゃ。それならなぜ俺の前に姿を現した。俺は俺で間違いないというのに、どうしてあんな行動を起こしたんだ)

そんなことを考えているうちに俺がリデア達の後をすぐに追いつけることが出来た。俺はすぐにリデア達に声をかけようとする。しかしその時に俺はあることを思い出す。それはリデア達に俺が、ユウキと呼ばれていた時のことを覚えていてくれていて、それをリデアが覚えているというのであれば、今俺がユウキだと名乗ってしまえばせっかく俺がユウキではなく俺として接してくれたのにまた、ユウキのふりをしなければならない。それはなんだか嫌だった。俺はそんな思いを心の中に抱いていたのであった。

俺が家から飛び出して急いでリデア達の後を追うと既に俺の視界の中にはその三人の姿はなかった。俺は焦ってしまい俺は全力で走り始めた。すると、リデアと俺の目が合いお互いに見つめ合うことになったので俺はその場で止まり、俺のことをじっと見つめているその視線に俺は戸惑っていた。

「あら?追いかけてこないと思っていたんだけどな。てっきりもうすぐで私とリリスがあなたの前に現れると思っていたのに」と俺がここに来ることがわかっていたかのような口ぶりをしているリデアの態度を見て俺は、やはりこの子は俺のことを知っているのでは、と思わざるをえなかった。俺はその言葉に動揺を隠せないでいたが平静を保ちながら

「え、えーと、それはどういう意味なんですか?」

俺はその言葉の意味がよく理解出来なかったために、そう答えるしか無かったのだがリデアはそれについても全て知っているのか

「えーと、なんていったらいいんだろう。まあいいや、とにかく私のことをちゃん付けしない時点で何か変だなって思ったから私達は隠れていたんだよ」

「え、じゃあ、リリスちゃんは、どうしてついてきたんだ」と俺は驚きながらそう口にしてしまった。その俺の言葉に二人はクスッと笑った。

「うふふ、面白い子ね。ねえ?リリスはどう思うかしら」とリデアは笑いながらもそうリリスちゃんの事を見ているがリリスちゃんの方はそんな事は関係なさそうに

「え、何?リデアちゃんの知り合いなの?」と不思議そうに首を傾げてから俺の方を向くと、

「え?あの人リデアちゃんの、知り合いじゃないの?」

「いえ、多分そうでしょうけど、彼は私がリデアだと知らなかったの」とリデアがそんなことを言うが俺の頭では理解できておらず

「ん、え?どういうことだ」と疑問に感じてしまい

「とりあえず立ち話もあれだし、私達の拠点にいこうよ」とリデアに言われたのだが俺がこの辺りの地理を知らないという事もあり俺はリデアとリリスに案内を任せる事にすることにした。それから俺は二人に連れられて歩いていた。道中リデアは、俺にリリスの事を説明してくれる。どうやら彼女は、元からいた冒険者の女の子だったらしい。そのリリスに一目惚れしたリデアが彼女に何度もアタックをかけ続け遂に恋人同士となったようだ。

そのリリスだが元々は俺と同じように他の場所から来たらしくそこで魔物に襲われ命からがら逃げ出して来たところたまたまリデアが通りかかってリデアがリリスを助けたそうだ。

「あの時は本当に感謝しています。もしリデアちゃんがいなければ私は死んでしまっていたと思います。リデアちゃんが私を助けてくれていなけれ今こうして一緒にいられなかったのだと思うと、本当に嬉しくて。それで私は、恩返しをする為に、リデアちゃんの為に強くなりたいと思って、それで必死に強くなろうとしているんです」と言っていた。俺はその言葉を聞き、

(あのリデアの表情もそういう事だったのか)と俺はあの時リデアに抱きしめられていたのもきっと俺を抱きしめていたからなんだと俺は納得することができた。しかし、何故彼女が俺を抱きしめたのかまではわからなかったのだが。

そんな会話をしながら歩き続けると目的地に到着したようで、俺はその景色を見て感動してしまう。

(す、すごい)と思いながらその絶景に目を奪われてしまったのである。そんな様子を見たからなのか二人もどこか満足そうにして「気に入ってくれたみたいだね。良かったよ」と安心した様子でいるのを俺は眺めていたが

(リデアの家はどこにあるんだろう?)

俺はそう考えながら周りを見るけれど俺の目で確認する事ができた場所はどこまでも広がっている草原だけで、人の住むような集落がある気配など全く無いのである。そしてリデアはリリスの手を掴んでから俺に手を差し出してきた。

「ほら早く、こっちに来てよ。これから拠点の中に入るから」と言われ俺は二人の後についていくことにすると、俺はあることに気が付き、俺の足音以外聞こえないのはおかしいので俺はリデア達に聞いてみる

「なぁ、リデア達以外に人が全然いないんだな。それにリデアの家には誰かがいるのか?」

「うん、ここには私たちしかいないよ。まあ正確には、私とリリスと私の恋人の三人だけどね。だから、これから会う人は私達と、あとはあなたの家族だけだから、緊張しなくてもいいよ。ただみんな優しい人達だよ。私達の事も受け入れてくれたしね」と言って俺の手を引いて俺に説明しながら案内をしてくれている。俺はそれに戸惑いながら

「お、おう。でも、どうして俺がこの世界に来たばかりのことを知ってたんだ」と俺はずっと気になっていたことをリデアに尋ねてみた。しかし、その質問は答えられないのかはぐらかされてしまう

「それは教えられないかな。まだ」と少し残念な気持ちになったがリデアの言ったことが正しかったとすぐに思い知ることになった。俺の家族と会わせると。

リデア達が連れて来られたのは大きな建物の中だった。俺は中に入るとそこには沢山の部屋がありそれぞれ違う部屋のドアの上にプレートがかかっていた。そして一番最初に目に付いた部屋はどうやら俺が目覚めた部屋にそっくりであり俺がリデアと一緒に暮らしている部屋でもあった。俺が唖然としていたのにリデアは「ここが一番広く作られているからこの部屋はいつも使っているんだよ。だからユウキがここにいるってことも知ってたんだ。ごめんね。あなたを試したりなんかして」とリデアに言われるが俺は

「いいって気にするなって。リデアの事を信頼していたのもあるけどさ、お前らが俺のことを知っていたとしてもお前らのことは信じられると思った。だから俺はリデアについていっただけなんだよ。だからそんなことよりも、俺の親に会わせてくれるんだろ。それなら、俺はリデアのことを信じる」と言うとリデア達はなぜか嬉しそうな顔になりながら

「うん。わかった。それじゃ、私達の仲間を紹介しよう」と言い俺の背中を押してくる。その勢いのまま俺は部屋の中に入っていた。そしてその部屋には既に二人の女性がいて、俺は思わず見とれて固まってしまうがすぐに

「はじめまして」

「初めまして、俺はこの子、リデアの彼氏です。よろしくお願いします。ところでリデアが言っていた家族とはこの人たちの事なのか?」

俺の目の前にいる二人の女性は一体誰なんだろうか。とても美しくて可愛くて、綺麗だと思っていた。リデアと同じような服装をしていた。その二人は俺に向かって「ええ、そうよ」と優しく微笑みながら言う。

そして俺がリデアを見ると何故か顔を真っ赤にしているのがわかり俺は

「どうかしたのか?」

「う、ううん。なんでもない」と慌てていた。俺はその様子をみて首を傾げるしかなかったがそんなやり取りをしてから、俺と二人はお互いに自己紹介をして、その流れで、三人で話をすることになり俺が三人に話しかける前に

「あの?えっと、リデア?と、リリスさん?に聞きたい事があるんだけど」

俺は二人が自分の事をなんて呼べば良いか分からず困りながらもそう尋ねるとリデアは笑顔で

「え?呼びやすい方で構わないよ」とあっさり言われたのでリデアと呼ぶことにした。リリスの方は「わ、私はリデアちゃんに決めてもらいます」と言われ、リデアが少し悩みながらリリスに

「あなたが名前で呼ぶ人はいないのかしら?」と聞かれると

「え、えーと、お母さんとか?」とリリスが首を傾げながらそう答える。

するとリデアは、俺の方をチラッと見ると、リリスがリデアに対して「え、リデアちゃん。もしかして私のお父さんと何か関係があったりするんですか」と不安そうにリデアの顔を見ながらそう聞いていた。その言葉を俺は驚きながら聞いていた。俺は、どうしたら良いのか迷ってしまいとりあえず俺はリデアに視線を送る。その視線に気づいたのかリデアは「まあその話は、また後でゆっくり話すとしてまずはあなたの事を聞かせて」と言われたので

「え、えっと、俺がリデア達と別れた後に何をしていたんだ。俺は」

「え?どういう事かしら?まさか、覚えていない、ということかしら?だとしたら、大変だけれど。まあそんな感じで今は大丈夫なのね。それで何をやっていたのかだったね。簡単に言えばあなたは私達を庇う為に魔王と戦って負けたのよ。それで、その時の記憶がないってわけ」

リデアは冷静にそう告げるのだが俺の頭の理解はまだ出来ておらず「は?」と言う声を出してしまった。

「それでその、どうして俺はその、リデアの、そのなんだ?なんだ?」

俺は動揺を隠せずにリデアにそんな質問をしてしまう。

「ええとね。私もリリスもよくわからないのよね。リデアちゃんが、えーと、あの人の名前を教えてくれないから」と困惑している。俺は、俺の名前は教えたはずなのに、名前が言えないとは、どういうことだ?と思いつつ俺はその二人の様子を見てから俺は

「い、いや待ってくれ。リデアが教えなかったから俺の名前を知らなかったのはわかるがどうして俺に、俺の事を話してくれていなかったんだ。リデア」

俺はリデアに詰め寄るがリデアは少し恥ずかしそうにしながら

「そ、その、私達、最初はあなたのこと警戒してたし、そもそも、私達の事情を知ってくれるかどうかも、わからなったから」

そのリデアの様子に俺がため息をつくとリデアは少し焦っている様子で

「あ、あれ?ユウキ怒ってない?」とリデアが言うと

「いや別に怒っちゃいないさ。リデアの言う事は間違ってないから。でもさ俺も俺だよな。もっと早く俺もリデア達の事を知りたかった。ごめん。リデアの気持ちも知らずにさ」

俺は正直な気持ちを伝えた。リデアの言っている事が全て正しい。俺がもし同じ状況なら俺も同じことをしている。だから俺が悪い。そう思っていた。

そんな事を考えながらリデアの方に目をやると、俺はリデアと目を合わせてしまいお互い気まづくなる。それからリデアの表情は、だんだん明るくなっていき、最後には満面の笑みになった。

そしてそんな光景を見てリデアの母親が「もう!本当に仲がいいのね」と言っていた。リデアがそれに気がつくと

「あっ、母様」と母親を見てリデアは安心している様子だったが、俺もそんな様子を見て安心していた。しかし俺がふと思ったことがある。リデアはリデアの母親の膝の上に座っているのである。そして俺は、リデアとの距離感を考えると、リデアがリデアの母親に懐いているように見えて仕方ないのである。俺は、リデアにそのことを伝えてみることにした。

「リデア、お前が俺の母さんに甘えるのって珍しいのか?」と聞くと

「えっ、う、うん。だってこの人が、初めてできたお母さんだもの」と照れているのか頬をほんのりと赤く染めていてリデアの母親は俺の肩に手を乗せ

「まあそういう事でね。ユウキ君には色々と説明しておくけど、私達はリデアちゃんを娘のように可愛がってきたのよ。でもリデアちゃんは、まだ幼いこともあってか、この世界に慣れるために、私達の元から離れていってしまうことも少なくはなかったから、寂しい思いをさせたこともあったかもしれないけどね」と言われてしまい俺は

「そうだったんですね。だから俺は、あんなにも懐いていたのか」と言ってからリデアに

「なぁ、リデアはどうしてそこまで母さんのことが好きなんだ?」と聞いてみると

「う〜ん。よく分からないかな。でも、あの人のことを見ていると、何故かすごく心が落ち着くというか。懐かしく思えてしまって」と言われて俺は不思議そうな顔で二人を見つめることしかできなかった。しかしそこで、俺は重要な事に気がつき「あ、そうだ。リデア達が俺のことを助けてくれたのならお礼しないとな」

俺の言葉を聞いて二人が反応して

「ええ。確かに、あなたが助けてくださったから今こうして生きています。感謝しています。ユウキさん」

とリデアの母親からお礼を言われてしまうと俺は恐縮してしまっていた。そんな時に俺の腕の中から俺の娘のアスタが「ぱぁ〜」と言いながら手を伸ばしていた。そして俺はそれを微笑みながら

「ごめんな、もう少しだけ我慢しててくれ」

俺はアスタに謝りながら言うとリデアが「うん。いいのよ。この子があなたに会えただけで、幸せだもんね。この子もきっとわかってるんだよ」

「そっか。俺とこの子は同じ存在だからな」俺は自分の言葉に思わずそう呟いた時だった、リデアが真剣そうな顔をしながらこちらをじっと見てきて

「ねぇ、一つ聞きたい事があるんだけどいい?」

「ああ、良いぞ」

俺が返事をするとリデアは俺の目を見てくるので

「え、えーと。なんだ?どうしたんだ?」と俺は動揺してしまっていた。

「あなたはどうして、リデアちゃんのことをちゃんと愛してくれるの?普通なら、リデアちゃんのような子供がいたとしても親なら愛情を持って育ててくれるのは当たり前だと思うのよ。なのに、あなたはこの世界の人ではない、違う世界に生きている人だよね」

リデアがそんな事を聞いてきたので俺は

「えっと、なんでそんなことを急に聞こうとしたんだ?」

俺が質問を質問で返してしまうがリデアはその事を気にすることはなく「なんでそんな事を聞くのか?そんなの簡単よ。私の母は私を産んだときに亡くなったらしいの」と悲しそうにそう言うのであった。俺はそれを聞いて何も言えずにいたが、それでもリデアは

「まあいいわ。とにかく私にとっては初めての人だなって思っただけだから」そう言いながら俺の体に抱きついてきていたので

「は、はは。なんか嬉しいな」と俺もリデアを抱き締め返すと、リデアの体は柔らかくて、とても心地が良いものだった。その温もりをずっと感じたいと思っていた。それからしばらくして

「あのさ、そろそろ、その、話さないと、駄目なんだけど」と顔を赤らめながらそう言ったのはリデアの母親だった。その言葉で我に帰った俺は「そ、そうだったな」と言ってリデアと少し距離を取ると、リデアが残念そうな表情を浮かべながら

「むぅー。ユウキは、私より母様の方が大事なの?」

リデアにそう言われた俺は

「いやいや。そんな事はないから」と慌てて否定するが

「あら、リデアちゃん嫉妬しちゃうわね。リデアちゃんは」

「ちょ、ちょっと母様」

「ごめんなさいね。私からしたらリデアも大切な家族の一員だし。それとリデアもユウキ君の事を気に入っているんでしょ?」

リデアの母親は笑顔でリデアに質問をしているがリデアは

「それはその、まあね。ユウキのことは気に入ってるけど、そうじゃなくて」

リデアはそんな会話を聞きながらも俺は先程から疑問だったリデアの母親とリデアの関係についてリデアに問いかけることにした。その事に対して

「その、リデアはリデアの本当のお母さんじゃないのか?」

その言葉を聞いた二人は驚いたような顔をしながらお互い見合っていた。

リデアは何かを思い出したかのようにハッとした表情になると俺に

「ユウキは記憶を失っているんだっけ。そうよね。その質問をされたら答えないといけないわよね」と言うのである。

「ええ。その質問に答えるためには私達の家系の事も教えなければなりませんから」

リデアの母親もリデアに続いてそう話すと俺は二人の様子から余程の事だろうと思ってしまい息を飲む

「私達の家系ではある決まり事があります。その事はいずれ分かることなので、まずは私達の関係から教えましょう。

私はこの国の姫であるリデア様の母上様に仕えていました。リデア様の母親様が病気になり亡くなってしまいました。それからリデア様が生まれて、そしてリデア様が成長するのを見ながら、その当時仕えていた姫の事を思うと、リデア様にその方の分も幸せになってほしいと思いリデアを育ててきました。そしてリデアがある程度大きくなるとこの世界を見て回りたいと言っていたのを覚えています。その時からでしょうか、私の心の中ではリデア様の事を守りたいと思う気持ちが大きくなっていき、今では私が守るのではなく、この子を守れるくらいに強くならないと、と考えリデアと離れる事を決めました。しかし私も老いには勝てず病に倒れ、死を待つ身となりました。

リデア様は、まだ小さいのにも関わらず泣きながら私に「嫌だ。絶対に離れないから」と私の元に残ろうとしてくれましたが、この子はこの国に必要な存在。だからこそこの子のそばには私ではなくもっと相応しい人が現れるでしょう。そしてリデア様の事は、これからの王族の者にとって必要です。だからお願いですリデア様、私に心配させないためにもこの城を離れ強く生きてほしいのです。それが私の望みです。リデア様と離れたあとも、リデアが困っていた時にはいつでも駆けつけます。しかしもうこれ以上の手助けは出来ないと思いますが、リデア、強くなり自分を信じ、そしてあなたを愛してくれる人を必ず見つけるんですよ。これが私の最後の願いです」と言い残したのである。

俺とリデアは黙って聞いていたが俺達はこの話をリデアが産まれてすぐに起こった出来事である事に驚いていたのだ。

「そういうことなのね。やっぱり母様が言っていたことって」

「ええ。全て事実ですよ」リデアの母親からそう告げられるとリデアの表情が変わり目に涙をため込んでいた。その光景を見て、やはりリデアの母親との思い出が蘇っているのだろうと予想がついた。そしてこの世界について説明を受け、魔王を倒すには、その勇者の力が必要なことも説明を受けて俺達は一旦城の外に出る事になったのである。俺の魔力量が魔王復活により大幅に増えていてその力を使えばなんとかなるかもしれないと言われたからである。リデアが俺の魔力を封印する魔法具を渡してくれたのである。俺が外に出てからも城の様子が慌ただしく動いていることを感じとれた。

そして俺は今から外の世界に出て魔王と戦わなければならない。俺はそう覚悟を決めて外に出ると、そこには俺の仲間になるはずだった人達が集まってくれていて俺は仲間になれないことを全員に謝りつつ、リデアのお母さんとリデアの二人と一緒に城の外に向かって歩き出したのだった。

俺達が外に出て最初に目に入ったものは大勢の人で埋め尽くされていた。

俺達はそれに驚きつつも前に進む。そこでリデアは、俺と手を繋ぎ、もう片方の手で杖を握っていて、俺の体を支えるようにして歩く。俺がふとリデアの方を見ると微笑んでくれたので、俺は照れてしまいリデアの顔を見ることができなかった。

しばらく歩いて俺達のところに王様が来た

「よく来てくれた。さあ早く行こう」

俺達にそう言ってきたので俺とリデアの二人は無言で頭を下げた。そして俺は「はい。行きましょう」と言い王様の隣に行くとリデアの母親とリデアは

「お父様。リデアちゃんの事をよろしくお願いします」

「お母様も、どうかお元気で」

二人は涙を流しながら別れの挨拶を交わしていた。俺は、その様子を見て

「さぁ、そろそろ行かないと」と言うとリデアと母親に見送られながら、俺達はこの場から離れて行く。

すると俺は、俺の前にいる人が何かを唱えていることに気づきそちらに視線を向けると

「あなたは、誰ですか?」俺は思わずそう呟いていた。

「俺は君だよ。君が、この世界で生きている姿だ。さぁ俺と共に来るんだ」と男がそう言い放つと突然地面が盛り上がり始め俺達を飲み込んでしまった。俺は必死にもがくも地面に飲み込まれていってしまう。すると、俺を取り込んだ地面は、そのまま地中深く潜り始める。そして気がつくと、どこか知らない空間に来ていた。そこは何も無い真っ暗な部屋だったのだが俺は自分がどうなっているか確認したかった。しかし周りは闇一色で自分の手足を確認することはできなかった。だが次第に体が動かせるようになったが、何故か首から下がまるで無いように感覚がなく俺はどうなっているのかわからなかったのである。それからどのぐらい経ったのかわからない時に突然視界が明るくなったので俺は、反射的に光から目をそらしていた。

それから徐々に自分の体を確認してみると手があり、足があった。俺は安堵しながら立ち上がる。

俺は辺りを見渡しここがどこなのか探ろうとすると、いきなり声が聞こえてくる。その方向を見てみると先ほど俺を取り込もうとしてきた男がいた。その男は俺に

「お前はもう元の場所に戻ることは出来ない。何故なら既に体は死んでいるからな。そして今のこの場所は魂だけの場所なのだ。肉体を失った君は俺の手の中にしか戻れない。つまり俺が死んだら君の肉体は永遠に失われたままというわけだ。俺に殺されるしかないんだ。だから君のことは殺すことにする。しかし俺に勝てるはずがないから大人しく死ぬことだ」そう言うとその瞬間、その男の目の前にいた俺は腹を思いっきり蹴り上げられ吹き飛ばされていた。痛みは感じなかったが、ただ俺は苦しくなっていくだけで息をするのもやっとの状況だった。俺は意識が薄れ行く中で考えていた。このままだと俺は本当に殺されてしまうだろう、ならばどうにかして、この現状を変えなければいけない、と。

そして俺の考えではあの魔法に頼るしかなかった。俺は最後の手段を使う事を決めると俺は「俺は絶対に負けねぇーよ」と言うと俺は自分に使える魔法の中で最高ランクのものを使った。そして俺は、魔法が成功したのか体に温もりを感じることができた。

それから少し経つと俺は立ち上がり「これで終わりにするぞ!」と言い放った後で俺が発動しようとしている技はあの時の魔法とはまた違ったものだ。俺にはこの世界の事は詳しくはわからなかった。だからこの技に名前をつける事など出来なかったが、俺にはこれしかないと思った。そしてこの技の名前は、『無限加速』と名を付けたのであった。

「俺は絶対にこの技は使わないでおこうかと思っていた。だけどこの状況は、もうそれどころじゃない」俺はそう口に出して、そして、こうも思っていた

「ここで死んだって構わない。でもこの技を使って俺は勝ってみせる」

俺はそう決意を固めたのである。そして俺と相手の戦いが始まり相手の攻撃を俺は全て回避する事に成功して反撃に転じることに成功する。そこから俺が優勢になっていき、とうとう相手を追い詰めることが出来た。しかし相手はまだ諦めておらず何かをしようとしていた。その行動が気になった俺は相手に話しかけた

「まだやる気なのか?これ以上やっても俺に勝つことはできないと思うけど」と俺が質問すると、その言葉を聞いた相手が笑みを浮かべたような気がしたが、俺は気づかずに戦いを続けた。

しかし相手も奥の手を隠しており俺の予想を遥かに超える威力を持っていた魔法を発動させていた。その魔法の効果範囲は凄まじく一瞬にして俺の周りには黒い球が出現しており、それが俺を囲むように出現しているようだった。そして次の攻撃に備えて、準備を始めようとしたときに、その魔法の効果範囲内の全ての物が消失してしまうのを感じたのである。

「なんだこれは、何もかもが無くなってしまった」と思わず口に出してしまっていた。

俺はそう呟いたあとに、その魔法について考えてみる。その結論は『ブラックホール』ではないかと考える。この魔法は確か前に俺がリデアの母親に渡した書物に載っていたはずだ。しかしまさかこの魔法を使える人間が存在するなんて、と思いつつもこの世界は俺が思っているよりも広かったのかもしれないと痛感したのであった。

そして俺はそんなことより今はどうやってこの危機的状況から脱出しようかを考える。しかし、俺の周りの状況は、どんどんと悪化していく一方である。

「どうする?こんな状況になってしまっては、打つ手が思いつかない。それに今更ここから逃げても俺に勝ち目は無いと思うから俺は、俺にできることをするだけ。まずは俺自身に強化系のスキルを掛けておく」そう俺が口にすると俺は自分に強化系の能力を掛けて、そして俺は自分自身の体をさらに強化させる。

そして次に俺にはある武器を生成する為に頭の中でイメージする。それは、俺が持つ最強剣、神剣エクスカリバーだ。俺のイメージが具現化されて出来上がり始めた時、俺の体はもう限界を迎えようとしていた。俺は、体の限界を超えないように気をつけて生成し続けるが、もう既に限界に達していた。そして俺は何とかエクスカリバーの生成を終えることに成功したがそれと同時に俺は倒れてしまう。

「もう体が動かせない」そう俺が呟いたと同時に俺の体が完全に動けなくなってしまった。俺は「終わったか」と覚悟を決めた。

俺が自分の命が終わることを覚悟していた時に俺が手に持っていたエクスカリバーは勝手に宙に浮かび上がると、俺が生み出したものとは思えない程の魔力を放ち、そして輝き出したのである。

俺はこの光景を目にして「もしかしてこの剣は本物なのではないだろうか」と思ってしまうほどだった。俺はそんなことを考えていた。

「さすが俺の作った武器だよ。あんな魔力を放つとは、しかし魔力は凄いがそれ以外があまりにも貧弱過ぎて使い物にならない」俺はそう思っていながらも俺の命の終わりが迫っていることを感じていた。そして、ついにエクスカリバーが俺のところに飛んできて俺の手に触れたその時に、俺とリデアとの思い出の情景が頭に入ってきたのである。そして俺にはこの記憶に身に覚えがあった。俺は、リデアの母親の願いと想いを聞いているから、リデアが俺に対して強い気持ちを持っていてその事をずっと前から知ってるからである。俺はリデアの事を心の底から信じて愛すると決めているので俺は、リデアが幸せになる為なら何だってしようと思っていたのだ。だから、もし俺がリデアとの約束を破ってしまい、そしてリデアが不幸になるなら俺は喜んで俺自身を殺せると思える。

「俺がこの力に耐えられなくなって、死ぬことが運命ならば受け入れよう」

そして俺はそう呟くのである。するとエクスカリバーが光り出したのである。それからしばらくしてエクスカリバーは光ることをやめていた。俺がそのことに違和感を覚えるも俺は立ち上がろうとした。しかし俺の体には全くと言っていい程力が入らなかった。そしてエクスカリバーが消えていくのを見て俺は焦った。

「どうして俺の大切なエクスカリバーが消えてしまったのか、わからないが、それでもリデアとお母さんに何かが起きたことは間違いないだろう。俺はそう思った瞬間に体に力を込める。そして俺は立ち上がるとすぐにエクスカリスに向けて走り出す」

すると俺がエクスカリスに触れようと手を伸ばしたとき、俺の手の中にエクスカリバが入り込んできた。俺がそれを手放さないようにして俺は自分の中へと入れると、その瞬間に頭の中に大量の情報が入ってくる。俺はあまりの情報量の多さと痛みに耐えきれなくなり意識を失いかけていた。

俺は頭を抱えながら苦しむことになるが痛みは徐々に引いていきなんとか痛みが無くなった時にはもう既に日は落ちていて周りが暗くなっていた。しかしそんな中でも周りが見えた。俺は何が起こったか把握できていなかった。俺の目の前に広がる景色は、見慣れない森の風景だった。俺は、ここが何処なのか考えるために周囲を散策しようとして、その場を離れようとしたが体が思うように動かなかったのである。しかし俺は必死に立ち上がって、体を動かすことができるようになるまで待つと、自分の姿を確認した後に俺の記憶の中にある、あの男が使っていた魔法を使って自分の姿がどのような見た目をしているのか確認した。俺はそこで自分が「魔王」になっている事に気がついて俺は驚く。俺はその事実を知って自分がどうなっているのか理解するのに時間がかかった。それから俺は、自分がどういった姿なのか確認した時にこの世界に飛ばされてから着ていた服装のままだという事がわかり少しホッとするのである。そして俺がどうやったら元の体に戻れるのかを考えている時に俺は一つの可能性を見つける。それは自分の体にエクスカリパーを使えばもとの姿に戻れないのかと考えたのである。

それから俺はエクスカリパーを手に持ち自分に使ってみることにする。俺は「元に戻って欲しい」と願うとその瞬間、俺の体は元に戻った。しかし俺は元に戻ったことで喜びはしなかった。何故なら元に戻るということは俺にとってかなり不利な状況に陥るということであり俺はこれからの行動について頭を悩ませることになった。しかし今の俺の置かれている状況は正直言って最悪だった。なぜなら俺は「魔人族」の国で最強の存在にされてしまっているからだ。つまりこのままの状態でこの国に残っていれば俺の国は滅ぼされる。しかし国に帰れば、俺の力は知られてしまい、その力で俺を殺そうとしてくる。しかしこのままでは何もせずにいてもいずれ殺されるのは確実であると、この二つの問題を解決する方法を考えた結果、俺がとる事が出来る行動は二つあった。

一つは「魔族達を倒して仲間を増やすこと」

この方法は現状では難しい。「白虎」や「黒竜」などの幹部級を倒した時に、倒した者が持っている固有の能力を、倒した者自身が使えるようになるのが普通である。それを考えれば、「白帝」も俺の固有能力である「無限再生」を持っているはずであるが「白帝」の場合はその特性上使うことは出来ないので俺のこの能力を手に入れることはできない。それに他の魔王の配下の者たちも同じような仕組みだろう。だから俺が倒す事によって手に入るのは他の者の固有の能力だけである。そうなってくると、やはり一番現実的な方法としては「人間」の国を攻め落とすことだ。そう考えたのだが、俺にはもう一つだけ選択肢がある。それが俺の種族を変えることだ。それなら今この場にいる俺の部下を皆殺しにしてその者を俺の支配下に置いて、俺自身の手で人間を滅ぼせば、俺が「魔族の王」となることが可能だと思うのだ。だからそれを行うべきなのである。

しかしここで問題なことがある。俺が人間を配下にする為には相手の心に語りかけなければならない。しかも相手に自分の存在を気付かせてはならないという条件が付いてくる。それに、俺は相手が人間というだけで警戒されてしまうからその条件が厳しくなるのだ。だからといってこの条件を無くす訳にもいかない。この世界が本当に俺がいた世界のパラレルワールドなのかは分からない。だがもしも同じ世界線だとしても人間が、この世界の住人であるならばこの世界での人間は間違いなく「俺の世界の地球」に存在する人間の血を継いでいるはずなのである。そしてそんな相手であるのなら、俺がどんな存在であるかを知らない相手は、俺の味方にはならないと予想できるのである。その為に俺は俺の事を信じてくれる者でなければ俺の配下にすることは不可能である。そんな相手を探すためには「人間」に紛れ込む必要があり、その「人間」には当然、この世界には「人間」しか存在しないので、その相手は必然的に「人間」になる。そして「人間」は、俺たちが知っている世界と同じ世界であれば、俺のいた世界では「亜人」と呼ばれている。そして、俺がこの世界で「人間」と会うとしたら、人間しかいない場所に足を踏み入れる必要があるのだ。

その「場所」がこの国の周辺にあったはずだが思い出せなかったのである。

しかし俺がこの国から抜け出す前に、その抜け道を塞いでいた壁は崩れて無くなってしまっていて俺には、その穴が開いている場所のおおよその見当が付いていた。

そして俺がその抜け道からこの国を出たとき、俺の存在に気がついていた者が一人存在していた。その人物は、リデアの父親、つまりはこの王国の王様であった。そして俺はその時に初めてリデアの母親の死を知りその仇を取るためだけにこの城にやってきたのだという事も知ったのだ。

俺はその事をリデアの父に伝え、それからしばらく二人で話していた。

そして俺はこの男の娘に対してある提案をすることにする。それは俺の仲間になれということである。しかしその提案をした途端リデアの父親は怒りだしてしまった。俺はこの男の気持ちはわかるので俺は何も言わずにその場を去った。

それから俺と「白虎」は話し合いをすることになった。それは「魔王軍」の今後の活動方針を決める為である。まず「黒帝」と「白帝」は「黒龍」と共にこの国から脱出してもらう。これは「四聖獣」の中でも最強に近い実力の持ち主を三人もこの国に置いておきたくなかったからである。しかしリデアと俺にはまだすることがあるのだ。それはこの王国を治める「魔王」を倒すことである。俺は「黒帝」と「白帝」にそのことを伝えようとしたときにリデアが口を挟んだ。そして俺に、この国は私に任せて欲しいと言ってきた。俺が、どうしてそのようになったのか理由を聞いた時に、俺に恩返しがしたいと言う理由でリデアは言い放った。

俺としてはリデアのお母さんの仇を討ちたいだろうから、俺が代わりにやると言ったが、リデアはその申し出を拒否した。

そして、俺はリデアと話をしてお互いに納得する形に落ち着いた。その結果、リデアにこの国を任せることにして、リデアは、リデアの父親が持っていた「七竜神」の一つの宝玉を使い、伝説の勇者の力を手に入れた。その後、リデアと俺は別れたのだった。

リデアと別れたあとの俺は、俺に攻撃を仕掛けて来た「白騎士」を倒し、それから「青の騎士」を倒したのだった。

リデアに別れを告げた後、俺は「朱雀」が言っていたように俺の力を確かめるために、近くの村に行くことにした。そして、俺は自分の力がどの程度まで通用するのか試したかったので、俺は一人で村へと向かうことにした。俺は空を飛びながら移動をしていた。そしてその途中にある山を越えるために崖の下を通ることになったので、そこを通り抜けると俺の前には一人の少女が立ちはだかっていた。

「私の名は「白夜姫」です。貴様は何者なのですか? 」

その言葉が聞こえた後に俺は地面に着地すると、俺は目の前にいる「白い服」に身を包んだ少女に話しかけることにした。すると「姫」は、いきなり俺に向かって剣を振りかざしてきたので俺は自分のエクスカリバを使ってその攻撃を防ごうとしたが「エクスカリバ」で攻撃を防ぐことはできなかった。その瞬間、俺の体は吹き飛ばされてそのまま俺は気を失ってしまう。

俺が再び意識を取り戻した時、そこは見たこともない場所で俺はベッドの上に寝かされていた。俺は何が起きたのか把握するために辺りを見渡すとそこに「青いローブ」を着て「青い髪」の少女が現れた。

その人物の見た目はリデアと瓜二つだったので俺はその女の子が誰なのかがすぐに分かったのだった。

それから俺のその考えは的中し目の前にいた人物がリデアだという事が判明した。俺は自分の身に何か起こったのだとリデアに伝えるとその答えとして俺は、「リデアの作った魔法」によって俺の体の中にある「魔法耐性」という物が無くなっていると言われてしまったのである。

俺はそれからその事を確認するために、俺が自分の体の中で一番魔力を感じる場所を探そうとしたが結局見つからなかった。そこで、リデアが言う俺の中にある「魔法耐性」を無くすために魔法をかけてもらうことになったのである。

それから俺は、「リデアが作った魔法」で魔法をかけられた後に俺は再び自分の体の中に「魔法抵抗力」という物を作り出した。その「魔法」のおかげで俺の中の「魔法耐性」を「魔法抵抗力」に変換させることに成功した。しかしそれと同時に俺が使えるはずの「魔法の詠唱」を封じられたようなのである。俺はそれを確認してからこの部屋を出ていこうと思った時にリディアと目が合いそれから「この国を見て回らないか?」と聞かれたので俺は、少しの間だがここに滞在することに決めていた。

俺はこの「城」で色々なところに行ったのだが俺にとってはあまり楽しいと思う場所は見つからず俺の中では「つまらない国」という認識しか出来なかったのである。だが「リデア」という存在だけは面白いと思っていた。そしてそのリデアは、俺にとっては初めて出来た仲間と呼べる存在でもあった。

そしてリデアは、俺が出会ったこの世界で初めて「人間の敵ではない存在」である。

その事からも、この「リデア」の存在は俺が「この世界に来た」ことによってできた産物であり、この世界の人間とは違う存在であることが俺の本能的にわかってしまった。だから俺も最初はリデアが何者かは分からなかったが今ではその事は大方検討がついているのである。そして俺が、これからどうしようかという悩みを抱えていた時に俺はあることを思いついたのである。その事を考えた結果俺は「魔王軍の戦力増強」を行うことに決めたのであった。その方法とは、魔王の配下以外の魔族達を探し出し配下にしてしまうことなのだが俺の能力が効かない可能性があるのは分かっていたことだし、それにこの国に居る「魔族達」が皆「人間」と敵対関係にある訳ではないと理解しているのだから俺のやろうとしていることは間違っていないのかもしれないと考えたのだ。だから、まずは人間を滅ぼそうと考えている者達を集めてそこから少しずつこの国を侵略していき最終的に人間を滅ぼすことを考えたのである。

俺がその事をリデアに話すとそのリデアはなぜか笑顔になり「私は、それを手伝うよ」と言い出した。そしてその日はおしまいにして、その翌日から俺の新たな生活が始まったのである。まず最初に、この国の周辺を調べるためにこの国の外に出ようと思ったが俺には飛行が出来る能力が無いことに今さら気がつき仕方なく徒歩で外に向かうことにする。そして俺とリデアはその日に出発したのである。

この国を出る前にリデアに「リデアに似合う武器を作って欲しい」と言う依頼をされてしまい、俺としてはリデアの為に「剣」を作るつもりだったのであるがそれではダメな気がしたので俺の考え通りこの国を出た後にリデアと相談して新しい種類の剣を作ることにし、俺達は国から出て行った。そして俺たちは今現在歩いている。そしてリデアが俺の隣に居てくれるだけで嬉しかったのである。しかし俺はこの時ある違和感に気づいたのだった。

そしてその事に俺はリデアに問いかける。しかし「リデア」からは俺の知っている情報を得ることができなかった。

そしてリデアと会話をしていけば行くほどリデアには「心」というものが欠けているのが分かった。そしてその事実を知れば知る程、俺はこの世界にきて初めて人間に対して憎しみを感じたのである。

その日から数日が経ち、ついに「魔王軍」の幹部の全員を集めることができたのである。俺はリデアと一緒に幹部たちに会いに行った。そして俺の話を聞いた「白騎士」と「黒帝」の二人にも協力して欲しいと言ったが二人の返事は同じであった。しかし「黒帝」が俺に協力してくれなかった理由はおそらくリデアの存在を知ったからだと思う。「白騎士」の方は単純にリデアに興味があるらしく俺の話を聞きたがったのである。それで俺は、リデアの事を紹介してそれから俺がリデアに渡せるものといえばこの国の宝玉しかないと思い宝玉を渡すと、白夜はそれをリデアに託したのだった。そして、リデアの宝玉の力は「時間を止める」というものであったので俺の宝玉は「リデアの時間を止めてリデアと話をする」というものだったのである。それから俺達は、リデアが俺にくれた宝石を加工するためにリデアの家に一旦戻ることになった。

俺と「リデア」は、まずリデアの家に戻り宝石を保管するための場所に宝箱を設置すると俺はこの国の宝物庫に転移して「白夜」に事情を説明してその宝玉を貸して欲しいと頼んだのである。しかし、その時にリデアの父親の仇でもある「白龍王」がこの城に忍び込んできていることが発覚したのだ。そしてその「白龍」を倒すためにこの城の「四天王」と「七竜」の協力が必要だと言うことも同時にわかった。しかしその時「黒龍」の姿がどこにもなかった為俺は「白龍」を倒した後、急いでリデアの家に戻ることにしたのである。

俺とリデアは、すぐにリデアの家の地下にある宝物庫に行くと「白虎」と「朱雀」は俺が持ってきた宝玉を使い宝玉の中にいる「竜」を呼び出すことにしてくれた。そして「青竜」、「朱雀」、それから「玄武」が宝玉の中に呼び出されたのである。そして、その四体の「竜」に、俺とリデアは宝玉を預けることにしたのだった。

そして「リデア」に俺はこれからのことについて話し合いを始めると俺は、「リデア」をこの城に置いておくのが一番いいのではないかと考えるようになっていた。その理由としては、「七つの大罪」の一人に「七色の騎士」がいること、「白騎士」が持っているであろう「魔法」がどんな物なのかが不明だということがあった。その為、「リデア」を守るという目的もあるため、俺はリデアを連れて行こうとした。しかし、リデアが自分一人なら大丈夫と言って聞かなかったのである。

そして、俺の頭の中では一つの考えが思いついていたのである。俺はリデアが持っているあの「魔法」を使えばもしかしたら「リディアの記憶喪失」を直すことができるのではないかということだ。その事を考えているとリデアは俺のことを急に抱き寄せてきてそれから自分の「心臓」に手を当てる。そしてリディアは自分の胸の中に手を入れると何かを握り締めると俺の顔を見つめてきた。俺はリディアが何をしているのかが分からずに困惑していたがそれからしばらくして俺に話しかけてくるのである。

俺はそれから自分の胸に手を突っ込んだら「何か」を握ってしまったと伝えると、俺の体の中にその握っていた物が吸い込まれていく感覚を覚えたのである。そして俺はすぐにそれが何だったのかを理解した。その何かはリデアの体の一部だったのだと。俺はリデアの手を取り自分の体を見るとリデアは涙を流していたのである。それから俺はすぐにリデアに質問した。リデアが自分の記憶を取り戻した時に何が起きるのかを聞くためである。しかしその問いに答えることなく、リデアはそのまま気絶してしまったのである。

俺はすぐにリデアをベットまで運ぶために浮遊魔法で浮かせてから運んでいった。その途中で俺の体に変化が起きたのである。

それから数時間が経過し俺は目覚めた。すると目の前には「黒髪」の綺麗な女性がいた。そして彼女は、俺の事をじっと見つめていたので俺はどうしたら良いかわからない状態で戸惑っていたが彼女はいきなり「初めまして、私がリデアです。よろしくお願いしますね、お兄さん」と言われてしまったのだ。その一言を聞いた俺は彼女が一体誰だかわからなくなったのである。俺は彼女にリディアがどうして「俺の知っているリディアと同じ姿」になっているのかを問うとその疑問に彼女はあっさりと答えてくれた。そして俺は、彼女の口から語られた話を聞いて衝撃を受けていた。

俺が目を覚ます前にあった出来事は俺にとっては夢物語の様な感じだったがリディアの話が本当だという証拠としてリデアが持っていたあの宝石は「リデアの身体の一部だった」ということを言われ、俺はそこで確信したのである。そして俺の目の前にいるリデアこそがリデアであり今まで俺と一緒に旅をしていた「リデア」はもう存在しないという事が分かったのだった。そして俺は「白虎」や「朱雀」からの報告を受けた時よりも大きな衝撃を受け、しばらくその場を動けなくなってしまった。

それから数分後になんとか意識を取り戻すと、俺はこれからのことを考えるのである。それはまず、このリデアとこれからどう付き合っていくかを考えなければいけなくなりそしてそのリデアは、俺が思っている以上にとんでもない存在であることに気付いたのである。なぜならその「リデアの肉体の一部」をこの世界に来てから何度も見ていることに俺は気付いた。そう考えると、リデアと初めて出会った時のことが思い出せなくなっていて、もしかしたらこのリデアの体を乗っ取った何者かは、この世界に来る前から俺の知っている「白虎」の体の一部を盗み取ってそれを自らの体に使っていたのではないかと。そして俺は「白騎士」が所持していると言われている「リデアを元の状態に戻すための魔法」を使う前に、リデアが言っていた言葉を思い出したのだ。

「私のこの力は「代償」を伴う」という言葉を。つまりはそういうことだろうと思ったのである。そしてリデアに「あなたは本当にこの国を滅ぼすつもりでいたのですか?」と問いかけてみるとリデアは素直に俺の問いに答えるのだった。

俺は、この国に住む人間とリデアの関係について尋ねるとその返答はやはり人間達はリデアを恐れ、人間達にリデアの存在を知られてしまうとその国の人間達は皆殺しにすると言っていたらしいのである。だからこの国に暮らす魔族は、人間に怯えるあまりこの国から逃げ出さないのである。しかし魔族の中には人間の事を嫌う者達も存在して、その者らは人間を滅ぼすために「七つの大罪」と呼ばれる魔王軍の中でも最強の魔族達と共に人間達の国に攻撃を仕掛けようとしたのだが魔王の命令でそれは阻止されてしまいそれからは魔王に逆らおうとしている魔族の討伐任務を遂行しなければいけないと言う立場になってしまったらしい。そして「白騎士」もその一人でその「白騎士」はこの国で暮らし始めたのである。その事実を知り、そして「白騎士」が「白夜の宝玉の力を持っている」ことを知った俺は魔王を殺す前に「白騎士」を倒さなければならないと言う事に気づいたのだった。そして「黒龍」にその「白龍」を倒す手伝いをしてもらおうと思ったのである。そしてその「黒龍」はというと、魔王軍の中に存在する人間に恨みがある者の集団である「七色の龍騎士団」の一員であった。

俺はそのことをリデアに伝えようと「白龍」との戦いの後に俺の事を殴りつけて何処かに消えていってしまった黒龍について話し合うと、俺の言葉を聞き終えたリデアは、「その方には一度会ってみたかったのです」と言ったのである。

俺はそんな「白龍」と戦う前にまずは、「黒騎士」から力を奪うことを先にすることにしたのである。それから俺とリデアは二人で作戦を話し合いその翌日に「白夜」の元に向かうことにしたのだった。そして次の日に俺達は「白夜」の家に向かい俺は白夜に事情を説明した。その説明が終わった後に、俺はこの城の宝物庫に転移することのできる「宝箱」を取り出し、その「宝箱」の中に「七つの大罪」が一人ずつ収まっている宝玉を入れてから宝箱を白夜に差し出したのである。宝箱を渡した後で俺は「白騎士」の事を知っているか聞くと「知らない」と言われたのである。そして俺は、「七色の騎士」が「七人の悪魔」と呼ばれていることは知らなかった。「リデア」は「白騎士が持っているであろう魔法」に関しては何も知らず、ただ「白騎士」が「リディアの持っている宝具と同じ力を持つ武器を所有している」という情報を入手しただけであった。

俺はその情報だけでも収穫は十分だと判断して「黒龍」に「白龍」を倒してくれるように頼んだのである。そしてリデアも俺の側にいることを許して、これから先もリデアはずっと俺のそばにいると決めたようなのである。それからリデアとリデアの仲間の人達にはこの国に残るか、それともこの城に滞在するかの選択を迫り俺がそれを決めるとすぐにその三人の勇者達はリデアの味方になったのだった。

それから俺と「リデア」はその足で、この国を支配する存在である「青竜王」に会いに行くことにする。リデアの体の中に眠っている「七色の騎士」であるリデアの仲間である「白竜」のリデアが言うには、「白竜」を目覚めさせるには、「七つ道具」の一つを使って、「七人騎士の宝玉」の中の一つの石を取り出す必要があるのである。

「お兄さんは今すぐリディアのところに向かって下さい。それから私は私なりの準備をしますので、お兄さんは私の仲間を連れてからすぐにこの場所に戻れと「黒姫様」に言われたのですよ。お姉さんは少しの間、私が預からせていただきます」と俺に対して告げてきた。そのリデアの顔を見た俺はその顔は今までのリデアとは別人に見えたのである。それほどまでに今のリデアからは強い殺気が漂っていて、俺はそんな彼女を見て「大丈夫なのか?」と聞いてみたが彼女は笑っただけだった。そして俺は「黒姫」が言っていた「仲間を預ける」とはどういった事なのだろうかと思いながらリデアの指示に従うために「リディア」のいる城へと向かったのである。

それからしばらくして俺は城に戻ると、そこには既に「リディア」の姿があり俺はその姿に驚愕した。その「リディア」は「黒髪」ではなく綺麗な白い髪の毛を持っていたのである。その髪の色を確認した後でもしかすると俺の記憶を失う前の姿に戻ってくれたのではないかと思ったがそれは勘違いだったのかもしれないと思ったのだった。それから「リディア」は、「黒髪のお兄ちゃんと話さないといけないことがあるから待ってね」と言い出して俺は「リディア」に言われその部屋の中で待つことにした。その時にリデアと話をしておきたかったのだが、「白姫」から「今はそっとしておいて欲しいと言われました」と「白夜」から伝えられ、その「白夜」からも俺はしばらくの間「リデア」から距離を取っといてほしいと言われるのである。その事については納得できなかったのだが「黒髪の少年」から「お願い」されて仕方なくその事を受け入れ、それから数時間後、俺の前に現れた「リデア」は俺の知っている「リデア」と完全に別人のように見えたのである。その理由は俺にもすぐに分かった。「リデア」の体の中から溢れ出る禍々しい魔力によって「リデア」自身が変わってしまったということなのだ。俺はそんな彼女の姿を見てからリデアがこの世界に存在していることが信じられなくなってしまったのである。そんな状態になっていた「リデア」はというと「お姉さんのことを任せたよ」と言い残し「白夜」をその場に残したままどこかに消えてしまった。

それから俺は「リデア」が俺のことを待っていたと伝えてくれていた部屋の扉をノックしてから開けるとそこに立っていたのは俺が思っていたよりも幼くなっていた「リデア」がいたのである。その外見は完全に子供にしか見えなくて、そんな状態の「リデア」はというといきなり俺に抱きついて来て泣き始めたのである。俺は何もできぬまま、どうして良いかわからないまま「白夜」や俺が「白虎」と「朱雀」と呼んでいた二人に相談しようとその部屋に待機させていた「白龍」と「黒帝」を呼んだが、「二人はリデアと一緒に出かけていった」という報告を受けてそれから「リデア」が泣き止むまで待ち続けた。そして俺の胸の中で泣くだけ泣いた「リデア」はというと、自分のことを話すと言ってから俺はようやく「白龍」達を元の部屋に帰らせたのである。

そしてその部屋に残っていたのは「リデア」と「俺」の二人だけとなったのであった。それからリデアの話が始まるのかと思っているとリデアは急に寝始めてしまう。俺はそこで改めてこの世界に来た時の「リデア」の事を思い出したのである。それは、この国にやってきた時にあったリデアは「この世界の全てを見通す目」を持っていると言っていた。つまりは「未来予知」の力を持ったリデアは、俺の身に危険が迫っていることを知り、それを防ぐために自分を犠牲にして「リデア」の体を俺に渡したのである。

俺はそう考えるとこの目の前にいる「リデア」こそが本物のリデアであることは理解していたのだ。だが見た目は「白龍」の妹で、この姿では「リデア」とすぐに認識することはできない。そしてしばらく考えた結果、やはり俺はこの「リデア」は「白夜」達がいる場所に戻した方がいいのではないかと思うようになったのだ。なぜなら、今のこの「白夜」と「黒姫」のいる場所に行けば、「七色の竜騎士」の一人である「白姫」は、その「七つの宝玉」を覚醒させることができる「白竜」に変身することができ、更にはこの城の中に存在している「リデア」が元々使っていたであろう宝具を使うことができる。しかし、俺がこれから向かうのはこの国を支配する存在でもある「青竜王」の元に行くつもりなので、そうなってくると俺はリデアの味方になることになる。だからこそ、この場に置いておくのはまずいと俺の中では結論を出していたのである。

だから俺はその考えを伝えるとリデアは涙を流し始める。その涙の意味を理解することができず、ただ俺はリデアがなぜ泣いているのかわからずその顔を見ていた。それから「お別れだね」と寂し気にリデアは言い出す。そしてリデアは「黒龍様に頼んで、私をリディアの元に転移させてもらいます。それから私はリディアの体に宿ります」と言ったのである。それから俺はリデアのその行動を止めようとしたがすでにリデアの意識は無くなってしまっていた。その「白龍」は、「リデアの体はどうなる?」と聞くと、「もう死んでいます。ですが心配はいらないでしょう。私はこの体を使って「リデア」になりきって見せます」と言ったのである。

俺はそんな「リデア」を見てからリデアに何が起こったのかを考える。リデアに「死期」が訪れたのかと予想した俺はその事に動揺するが、すぐに冷静に考え直す。

そして今の状態で考えられる理由は「黒龍」との戦いに「七つ騎士の宝具」の一つである「黒騎士の剣」を使い過ぎて、それを使うための体力が無くなってしまったのではないかと推測する。俺も以前似たような状態になった事があるからだ。俺の場合はその時は回復魔法をかけてもらい何とかなったのだが今回はそうはいかないようだ。俺はこのまま「白龍」に頼むしかないと判断してリディアのところに転移してもらうことにしてそれから、それからリデアのことを頼みたいと言うとその白龍は、「わかりました。お任せください。私も妹であるリディアのことを助けたかったので良かったと思います」と答えた。それから白竜に俺は、「俺の側にいる「黒姫」に伝言を頼めないか?」と聞いてみると白竜は「分かりました。その「黒騎士」の方には何か伝えておくことがありますか?」と聞かれたので俺は「もしもの時は、「黒姫」を助けに来て欲しい。俺は大丈夫だとだけ言ってくれればいい」と答える。それから白龍に転移してもらって、それから俺は、魔王に報告に行くことにする。

俺はこれから魔王に話さなければならない内容について整理しておきたかった。それは今回の件についての謝罪をすると共に今後の対応を決める必要があるからで、「白龍」の力を上手く使って、俺とリデアで「黒竜王」と戦うかどうか決める必要が出てきたからだった。俺としては戦う気満々なんだけどなと俺は思う。それから俺とリデアは一度、俺の住んでいた村がある場所に戻り、それから俺はリデアが用意してくれた家に「黒姫」と戻る。するとそこには既に「リデア」とリデアの仲間が待っていたのである。そして俺と「黒姫」はその状況を見て困惑してしまうが、リデアはリディアの姿に戻る事なく、そのままの「リデア」の姿で俺達を迎えてくれたのであった。

それから俺と「黒姫」はお互いの顔を見ながらこれから起こるであろう戦いに不安を覚えてしまう。そんな俺達に「リデア」は笑顔を浮かべながら「安心して下さい。お姉ちゃんなら必ず助けに来てくれると信じていますから」と言ってきたのである。それから「リデア」は、これから俺達はどこに行けばいいのかを説明してからこの国の外に出られるように向かう。その途中で「白姫」とも合流できた。

こうして俺達の新しい旅が始まった。それから俺とリデアは、俺とリディアが暮らしていた家に戻ると、リデアは、「今日一日ぐらいは休みましょう」と言い出したので俺はリデアの提案に賛成して俺と「黒姫」は久しぶりの休暇を過ごすことになったのである。その日俺は夢を見る。そこには幼い姿の俺と、その幼くなったリディアの二人だけで遊んでいる夢だった。それは幸せな時間でその時間を過ごしていると突然その時間が消えてしまったのである。そしてその夢の光景が消えた後には見たこともない場所に移動していたのだ。

そしてその場所にいたのは俺よりも小さい頃の俺の姿があり、そしてリディアの姿もあったのである。それからしばらくして俺は目が覚める。するとそこは俺の家の寝室であり、目の前にはリデアがいてリデアはまだ寝ぼけていた俺にキスをしたのだ。俺はそのリデアの行動によって一気に目を覚ましてしまいリデアに尋ねると、どうやら俺達が眠っている間に、リデアはリデア自身の体を「黒姫」の方に移したらしくそのおかげで今のリデアは元の「リデア」の体に元に戻って、それからずっと俺とリデアは抱き合って眠っていたらしい。俺はそのことをリデアから説明されると俺はリデアに感謝の気持ちを伝え、それからすぐに朝食を二人で食べてから俺は準備をするために自分の部屋に戻ろうとすると、そんな俺のことを引き留めたリデアに「黒姫」と一緒にどこかに出掛けないかと誘われる。もちろん俺はそれを了承してリデアと一緒に「黒龍様に会いに行こう」と言い出しそれから俺は「黒髪の少年」を呼ぼうとしたが、その時に俺のことを止めてきたリデアに「黒髪の人じゃなくても良いのよ。あの人があなたを認めてくれていればそれで」と言われたのである。

俺がそうなのか? と首を傾げながら「リデア」に質問すると、「その通りですよ」と返され、俺はそんな会話を交わした後に再び俺は、自分の部屋に戻った。それからしばらくした後「黒龍」を召喚するための「宝玉」と「鍵」を手に取り、俺と「黒姫」とリデアは城の外へと出ていくのである。

そして俺は久しぶりに自分の村があった森の近くにやってくる。そこから俺の故郷を眺めてみると、そこの風景はかなり荒れていて俺が住んでいた時の綺麗な風景とは違い見るも無残に破壊されていたのである。俺はそれに少しだけショックを受けていると「黒姫」は、「ご主人様にこんなことできるはずがありません! 誰かが意図的にこの場所を破壊しているのかもしれませんね」と言うと、リデアは悲しそうな表情をしていたので、リデアは、そのことについて何か知っているのかと問いかけるとリデアは、私も全てを知っているわけではないけれど、と断りを入れた上で話し出す。その内容はこうだ。昔、この国が平和に統治されていて、「白竜騎士団」と呼ばれる「七つ騎士」が守っているような国だったそうだ。しかしある時に、ある事件が起きたのである。

その出来事は「黒龍の逆鱗」と呼ばれているもので、「黒龍」が怒ってしまうという事件が起こったのだ。その結果、この国は滅び、そしてこの国の王族達もこの世から姿を消すことになるのだが、その際に生き残った民がいた。その生き残りこそがリデアでその事をリデアが知ることができた理由は「七つの騎士」の宝具の中にあった「七色の神珠」の能力の一つに「過去を見通す能力」があったからである。その事から「白竜騎士団」にリデアが所属していることがわかって、それからは俺に手紙を出すことができて俺はリデアが俺のために動いてくれたことを改めて実感する。それからリデアが、俺の住んでいる村が襲われたことを話してくれると俺はそれを聞くことで、どうして「白夜」がこの村を襲ったのかを理解でき、その事についてリデアは教えてくれる。

「私のお姉ちゃんも悪い人ではないのだけど、「黒竜王」からの命令でこの村に私とリディアさんが住んでいないかを調べに来たみたいなの。その命令のせいでこの村は滅ぼされてしまいました。私と「黒姫」はリディアさんのお母さんに助けられてからこの国に来ましたけど、リディアさんはこの国での生活に慣れるまでは私と同じ場所で生活していました。ですから私と一緒のタイミングで、この国を出ることになりました。リディアさんの体を借りて「黒龍」のところに行く前に私がお願いされたことが、あなたの身の回りのお世話だったのです。私はこの国から出るまでは、この国で生活していてリディアさんの記憶はほとんど無かったんです。そしてそれからすぐにこの城に来てからは私は、「黒龍様」に会う為に、私はその事で頭がいっぱいだったのであまり周りを見ていませんでした」

リデアは最後に申し訳ないというような顔をしながら話してくれた。それからリデアは、リデアの姉のことは気にするなと言い、それから俺はリデアを連れて、まずは自分の実家に向かうことにしたのである。そしてリデアが、村に着くとそこにはやはり何もなかった。そして俺はリデアの言っていた事を確認するためにある場所へ向かうことにする。それは「白姫」と出会った洞窟である。その場所にたどり着いた俺は、中に入る。そこで俺を出迎えてくれたのは、「白姫」だった。

俺の気配を感じ取って現れた白姫は、俺の姿を見てから微笑むと、「どうしましたか?」と聞いてきた。俺は白姫の問いかけに「ここに白龍と「白姫」がいると思ったんだが違ったみたいだな」と答えると白姫は、「白龍様と「白姫」は別の方に住んでいますよ。この先を進むと小さな湖がありますのでそこに向かいましょう。案内いたします」と言うので俺は白姫についていくことにして、それから白姫についていき俺は、「白龍」と「白姫」が住む湖に向かうのである。

そして湖まで行くと、そこには白髪の少女が座っていて俺の到着を待つかのようにこちらを見ながら立っていた。それから俺は白姫に、ここに住んでいたはずの少女のことについて質問をするとその答えとして白姫が、今の名前はリリアという名前で今は、「七つの姫の騎士の証である宝剣の継承者」の一人だと教えてくれた。そして白姫からリリアと会わせたいという話をされてからリリアと会ったのだがその瞬間に、リデアからリデアの姿に戻り「ごめんなさい」と言ってきたのである。その行動に対して、リディアはどうしたのですか? と聞きリディアが答える前に、白姫は「白龍があなた達二人を待っているようですね。行きましょう。それから「黒王」と「赤竜王」は別の場所にいると思います。あの二人のいる場所にはすでに向かわないと、おそらく大変な事になると思われますので早く行ってあげてください」と言われてしまう。それから俺達はその場所を立ち去りそれからしばらくして、目的地に到着すると、そこには確かに「黒竜王」と「黒帝」の姿が存在した。俺達三人はそれからしばらく待ったがなかなか黒龍が現れないので、俺はリデアとリディアは白姫の背中に乗り移動して黒龍の元へと向かう事にした。

それから白姫に乗って移動している間に白姫から説明された内容によれば、現在の黒龍は力を蓄える必要があってしばらく姿を隠さなければならなくなりそのために白龍が、代理としてこの場にいるのだという。そしてその理由については俺にも心当たりがあるものだった。俺の力が黒竜に通用する事がわかった以上これから俺とリディアは今までよりも厳しい戦いを強いられることになる。そうなれば今の戦力では圧倒的に足りずリデアとリディアに頼らないとならない状況に陥る可能性だってある。だからこそ今の内に力をつけないといけないと考え、これからの戦いに備えるためにも、これから黒竜と戦う時には「白銀」の力を使うべきだと判断したのだ。そうしないとこれからの戦いには勝ち目が無いと判断しているからである。そしてその事を説明すると、俺の考えていることがわかるらしいリデアは、リデアも「そう思いました。私達が強くなる必要があります」と俺の考えに賛同をしてくれた。リデアの意見を聞いたリディアは、私達が戦うのにリデアが協力してくれると、とてもありがたいと言っていた。それから俺は白姫と黒龍の話を聞いてみると俺が予想していたとおりの内容であり、この世界は今から数百年前までは、「七つ」に別れていてそれぞれが独自の文明を発展させていたらしい。しかしその文明が滅んでしまった結果、全ての国々で同じ文化を持つようになり今では、「六つの大貴族と四の大商人が支配する社会となっている。だが黒龍の支配していた時代だけは違うらしく、この世界で黒龍に対抗できる存在がいないために、それぞれの国はお互いの領地を奪い合う形になっていたということだ。

しかし現在は「黒龍の逆鱗」の影響で黒竜は黒龍は「黒龍の逆鱗」が発動した際に起きた事件によって黒竜は封印され、そして「黒竜の宝玉」を手に入れようと企んでいる「魔王」が暗躍している状態なのだ。

その「黒竜の宝玉」を「七色の神珠」が作り出した空間の中に閉じ込めているのだが、それを手に入れることができればこの世界は支配することが可能になるという。その話を聞いた俺はリデアとリディアにそのことを話すと二人はその宝玉を手に入れようとするのは危険だと言うのだが、その話を聞く限り黒竜はもう復活してしまっているはずだから、俺が持っている「黒龍の鍵」を使って復活させてから、「白銀」で倒すしか方法は無いと思っていると言うと、リディアは俺がその「鍵」を使い黒龍を復活させることができるのか疑問に思ったのか、「黒竜王を倒すことができたのであれば、「鍵」の使い道を知っていたはずですよね?」と言ったのである。そのリディアの問いかけに俺もリディアと同じことを考えていて、黒竜を倒した後に手に入れた記憶に残っていた情報を頼りに、黒竜を復活させようとしたところあっさり成功した。

「白龍の言うとおりだ! リディア! お前が言った事は間違ってはいない! 黒竜王を倒しているのだ! それでどうやって復活するというのだ! こう見えても我はまだ、この姿で現界してからまだ一万年も経っていない若造だ! 貴様の相手などできると思うか! いい加減に諦めろ! 黒竜王の仇だ! ここで死んでもらうぞ!」と言うと「黒竜の剣」を振り下ろすと衝撃波を発生させてきたのである。その衝撃波を避けるが俺はその時に「黒竜の宝冠」が使えたらと思っていた。だがそんな事を考えていながら戦っていたため反応が遅くなってしまい俺はその攻撃を受けて倒れ込んでしまう。

すると、俺の体の上にはリデアとリディアがいたので俺はすぐに、その場を離れさせた。俺から離れたリデアはすぐに、「リディアードシールド」を展開させる。リデアは、「私にお任せください。必ず守って見せますから。そして私は信じていますから」と自信に満ちた表情で答えたのだ。その言葉に、俺は笑みを浮かべながら、「リデア、リディアを守ってくれ」と言い残し、俺も白龍の攻撃をよけ始めるのだった。白龍が俺に向かって再び攻撃を仕掛けて来た。俺はそれを防ぐと、「白姫」がこちらをじっと見つめている事に気がつく。俺は何かを言いたいのではないかと思い、「白姫」の所に移動すると、「リディア」の体を借りることの許可を得るために「リデア」に話かける。だが「黒竜の宝冠」の効果で声を出して会話ができないでいるとリディアの口から勝手に話し出すと白姫はそれを受け入れてくれたのであった。

俺が白姫に近付くと、俺の方に白姫が抱きついてきて俺は少しだけ動揺する。俺はすぐに離れようとするのだが白姫はそれを許してくれなかった。俺は「白姫」から「黒龍」について聞こうと思ったので「白姫」から離れようとしても離してくれない白姫に対して、リデアの方を見ると同じようにリデアの体にくっついているリデアを見て俺は焦った。俺は、リデアと白姫を引きはがそうとした時だった、白姫は俺の顔に自分の顔を近づけて「リディア」の口にキスをした。そして俺が「何してるんだ? 俺を挑発しても無駄だ」と伝えると白姫が、笑顔になり「私、負けませんから。あなたは私のものなんだから絶対に渡さないわ」と言うとまたもやリデアの姿をした白姫の唇が今度はリデア本人の口に触れる。

俺はその様子を呆然と見ていたのだが、「白姫」「白姫」「白姫」と何度も繰り返されてしまうのでリディアの意識を取り戻すためには俺のほうから、強引に奪わないとダメなのかと思ったのである。そこで俺は覚悟を決めてからリデアに近づくとその唇に吸いついたのである。そしてしばらく時間が過ぎてからようやく俺達は離れたのである。

リディアは白髪少女の正体について気にしていたのだが、とりあえず白髪の少女と「リディア」を連れて「七色」の屋敷へと戻ってきた。それから俺は、「リディア」と「白髪の少女」に話をすることにしたのである。「まずは君の名前を改めて教えてくれないか」と言うと少女は「リリアと申します。先ほどは突然のことで失礼いたしました」と言ってきたのである。それから「リリア」と名乗る少女からリデアについての説明を聞いた。どうやらリデアと「リリア」は昔からの知り合いのようでリデアとは姉妹の関係に当たるらしい。リデアと「リリア」は「魔王」との戦いの後から行方がわからなくなっていたそうだ。そして「リリア」から俺に対して質問があったのだがそれは「黒竜王」と「白竜王」のことらしい。その質問をしてくると俺はリデアを抱きしめながら、リデアにリデアはリデアなのだと説明すると、「リデア様、いえ姉さんと呼ばせてください」と言われてしまう。俺はそれを受け入れることにしたのである。

リデアとリディアには白姫と一緒に俺達の家に戻ってきてもらうことにして、「七つの姫の騎士の証」の「七色の宝剣」を全て回収したらリディアに渡すことを約束し、その日は解散になった。それからリデアとリディアが、俺の目の前に現われた時にはすでに俺が知っている「黒竜王リディア」と「白竜王リデア」の姿ではなく「銀竜姫」の姿に変化しており俺はその姿に目を奪われると同時に美しいと思ってしまった。そして俺はその美しさに見惚れている間に「銀竜姫」によって「銀龍の鍵」を与えられてしまいそれを使おうとした時だった。俺の手にしていた鍵を奪い取りそのまま「銀竜姫」がどこかに行ってしまったのだった。俺は、慌てて後を追うために、リデアの姿になっている白竜の手を掴むと思いのほか力が強くその反動で倒れこんでしまった。だがなんとか体勢を立て直して立ち上がろうとした瞬間、リディアと「リデア」に抱きつかれてしまい動けなくなる。

「黒龍様はどうしてそんなに、私たちに優しいのですか?」「私達黒龍様が思っているよりも、黒龍様の事を愛してるんですよ」と言われる。それから二人はしばらくの間ずっと、俺の側にいたが俺はどうしても、鍵を使わなければならない場所に向かう必要があるという事を伝えると、「それなら私が一緒についていきます」と二人が言ってきたのでリリアに鍵を渡したのだった。

リリアの持っている鍵にリディアが「七色の神珠」の力を使うと空間が歪み始めるとそこには一つの部屋が見え始めてきた。

その部屋の中は「白銀」が作り出していた空間と全く同じ光景が広がっている。そしてその空間の中央に大きなベッドがありそこに眠っているのは、一人の「黒帝将 白銀の魔女 シルビア」が横になっていたのだった。俺は、その姿を見て驚きのあまり絶句していると、その部屋には「リリア」、「リデア」、リディアの他にも「銀狼王 銀姫」、「黒竜王」の姿が見て取れたのだ。俺はなぜこのような場所にみんなが集まっているのかと聞くと、黒龍様を助ける為に皆ここに集まっているのですと言うのだ。

だが、なぜかリディアは涙を浮かべており「助ける為に来たと言うがお前は何をしにここに来たのだ? まさかと思うが俺を救いに来てくれたのか?」と黒龍が話しかけてくる。

俺はその黒龍の言葉に対して「ああそうだ」と答えると、「そうか、俺がこの姿で現れると混乱すると思ったからこの姿で現界しなかったのだが正解だったようだな。それと一つ確認をしてもいいかな?」と言うと俺は「いいぞ。何でも聞いてくれ」と答える。すると黒龍は自分の体を触り始めたのだ。そして、俺が見ていると、「やはりおかしい。こんなはずでは……。この姿だと魔力がないぞ! これは一体どういうことだ! 説明をしてくれ!」と言ってくる。それに対して俺は、「それは当たり前だろ。お前の今の肉体はすでに死んでいて「白銀の神玉」が作り出した仮初めの肉体に過ぎない。それに、その体はあくまでも俺達が作り出したものだ。だからお前が本来使っていた肉体の「黒竜王」に戻るだけだから安心しろ。ただ戻る際に多少の時間はかかるだろうが問題はないはずだ」と伝える。

その言葉を聞いて黒龍は少しだけ考えるそぶりを見せてくれたが、すぐに考えをやめたようで「それならば俺は元の体に戻るとしよう」と言うと自分の体の中に手を入れて「白金の鎧」を取り出すと身にまとう。その光景を他の者全員が見つめていたが特に何かを思うようなことはなかった。そして、俺の「七色の宝剣」が置いてある場所に「白龍」が近づいて行く。そして、「白龍の盾」を手にすると「リリア」の元に向かっていった。

俺は「白龍の宝冠」が使えなくなっている事を知ったが「白銀」にその事を伝えたが「そんなはずありません。ですが確かに「白銀」の力は発動できないみたいですね。もしかしたらリリアの持っている宝剣も使えないかもしれません」と伝えてきた。

「それなら確かめる必要があるな。確か「聖杯」もまだあったよな?」と聞くと「はいございますよ。お貸ししても良いのですか?」と言われたので貸してもらうことにする。俺はその言葉を聞くとリディアの方に向かい「リディア、俺に何かあった時に「白姫の杖」を使いこっちに来いと命令を出しておいて欲しい。もしもの時のことを考えてくれれば良いから頼む」と言うとリディアは了承してくれたのである。

俺は、まず「七色の宝冠」と「七色」の指輪を試したが何も変化はなかった。だが俺の「七色 大剣七星シリーズ」だけは使用可能になっているのを確認して、次にリリアにお願いをする。「まずは、白龍に頼んで「白姫の大剣」とリリアの持っている「黒竜王の大剣」を貸してくれないか」と頼み込むとリディアはすぐに俺の元に「白姫の魔弓」「白姫の神槍」「白龍の小太刀」「白姫の聖鞭」「白姫の扇子」「白姫の神靴」「黒竜王の短剣」「黒竜王の腕輪」を置いていってくれる。

その光景を見ていた、白竜王が俺を見て何かを言いかけていたようだったが俺はあえてそれを聞かなかった。なぜならば俺は、「魔王」が「黒帝の魔王の仮面の力」を手に入れているかもしれないということを考えるとその力を手に入れる前に倒す必要があり、「白姫の魔弓」を使用してから、「白姫の剣」で倒したほうが効率が良いと判断したからだ。そして、俺はリリアから借り受けた宝剣を使っていく。

「黒帝」

攻撃力10000000(装備した者に、全属性魔法耐性+1000% 攻撃+200000)

特殊能力 全ての状態異常の完全無効化 HP自動回復効果付与 スキル

「黒竜の波動」

「黒炎」

「暗黒波導」

リディアの「白姫」は、黒竜王の攻撃を受け流すことができるほどの力を秘めた武器だが、「白龍」の「白姫」の力はさらに強くなっており俺はリディアが持っていた、リリア用の「白姫の大刀」にもリディアが「七色の大盾」に込められていたリリアの力を利用して「白姫の加護」の特殊効果を付与して俺に与えてくれたのだ。これにより「七色」全員の力が使用できることになったので俺は、「七竜の巫女」と「白龍の巫女」の力を発動させることにした。

そしてリディアから借りた、「白姫の大盾」はリリアの「黒龍」が使う事になり俺の「黒竜王」の能力はリリアの体と融合することになったのである。

俺は白竜王が俺に渡してきたリディアが使用していたリディア専用に作られていたはずの「黒姫の小太刀」をリディアに返す。リリアの体を借りている「白龍」は俺の事が気に入らなかったようで、リリアに小言で「白姫の体を借りてまで俺とイチャイチャするのはどうかと思うぞ」と伝えたらしくリリアが「ごめんね。でも私はどうしても黒龍様の事を守りたかったの」と言っていたのだ。俺はその様子を見て苦笑いしかできなかったが、俺はリリアが作ってくれたこの体で俺が使える最強の必殺技を使うことにした。もちろん「七色」の力を最大限に使いこなすことができたからである。

そしてリリアには俺に変わって「白龍の鍵」を使って、白龍に呼びかけて、白姫に「白金の宝冠」を持ってきてもらうように伝える。俺はリデアが持ってきてくれた、「白金龍の鍵」で「白龍の鎧」を取り出して身にまとう。

俺の「七龍の巫女」として得た能力が「白龍の剣 黒姫の盾」というアイテムを作り出し、俺の「七色」の能力と合わせて使用することにしたのだ。その二つのアイテムを装備するとリディアは「すごいですよ! これなら魔王とも互角に戦えるはずです。後は黒龍様がどう動くかですね」と言うと俺に近づいてきて抱きしめてくる。俺は「ありがとなリディア」と言うと頭を撫でた。それから俺は白竜王の体を借りたリリアと共に「白姫」にリリアから譲り受けた「白龍の籠手」に「黒竜王の指輪」を取り付けてもらったのだった。

そして俺が白竜王から借り受けた「白銀の神玉」の力は「黒皇」に力を与えており、俺が持っている「白龍」の力で強化されているのだ。つまり「黒龍将 白銀の魔女 シルビア」は「黒帝将 白銀の女王 白銀魔女」へと変化していたのだった。だがその姿に変化しても「白銀の魔女」の強さに変わりはなく俺は、目の前の「白銀の魔女」と対峙することになる。そして俺は「白銀の魔女」と戦い始める。

俺達は「黒帝」の体を使って復活した黒龍に戦いを挑んだ。「白銀の魔人 黒銀」となったリリアがまずは動き出し「白龍」と融合した俺も続く。俺達の連携は完璧であり、「白龍の爪撃」と俺の攻撃によりダメージを受ける黒龍だがすぐに態勢を立て直すと、俺達を殴りつけてから距離を取り「白銀流剣術 白雷」を使い「黒銀」にダメージを与える。だが俺とリリアが同時に攻撃を仕掛けたにもかかわらず、「黒銀」の動きを止めることにしかならず、さらに「黒銀」が放った「黒龍拳闘技 龍風乱舞」が俺の「黒龍の波動」を相殺し、そして「黒銀」の拳が俺を捕らえようとするが、何とかリディアに助けてもらえたので助かった。俺は、この「白銀の剣」の力は黒竜王と白龍が混ざったことにより生み出されたものであると確信した。なぜなら「白銀の神玉」と「白龍」が共鳴していたからであった。俺はそれを確認すると、今度はこちらから攻撃を繰り出す事にする。俺はまずリディアから受け取った、聖女が持つと言われている「白姫の神弓」と聖女の体を持つ「白姫の加護」を使い俺のステータスを強化する。すると「白銀姫」は俺に問いかけてきた。

『あなたの名前は?』

俺は「お前こそ誰だ? なぜそんな名前を名乗っている!」と言うと答えが帰ってきたのである。

『わたしはこの世界の管理をしている者だ。名前は、特にないのだが君たちの世界にある、アーサー王伝説に登場する、ジャンヌダルクと聖杯に願いを叶えて貰った者の子孫たちが名乗っているものを使っているだけだ』

俺は、その言葉を聞き、少し考えたが、その話に乗ろうと思い俺は、「我が名は「白王」そして、俺と一緒に戦う者は皆、「黒姫」と呼ぶといいだろう」と話す。それを聞いた「白姫」はその言葉を受け入れるように、「わかりましたわ。よろしくお願いします」と言ったので俺はその言葉を信じることにする。俺は、「白王の杖 黒帝」「白帝の宝剣」「白帝の聖槍」「白帝の魔杖」「白帝の神杖」「白帝の扇子」「白帝の聖鞭」「白帝の腕輪」と「黒竜」の「白金竜の腕輪」「白金」と「白金」と合体させた姿のリディアの「黒帝の腕輪」と「黒姫の腕輪」を左手首と右腰に装着して準備をする。「白姫」と俺は「黒龍」の姿になると、「白姫の神弓」を使いながら、「黒龍の波動」を使い「黒龍将」の黒龍にダメージを与えて行き、最後に俺と「白姫」の二人で、必殺技を放つことにしたのだ。それは俺の「白竜王の鎧」とリディアの「白龍」の力を使った一撃必殺の威力を誇る必殺技をお互いに打ち込む。

「七龍解放奥義」俺の体が白い輝きに包まれると、「白姫」の力が加わりさらに強くなった状態で俺は攻撃を行ったのだ。その攻撃に俺の意識が持っていかれると、俺の「七色の剣 黒姫の大剣七星シリーズ 大剣黒星」を呼び出し右手に持ち、「白姫の大太刀 白刀」を呼び出して二刀流で斬りつける。そしてその大技を放った後で俺は膝をつくがなんとか立ち上がり黒龍の方を見る。そしてそこには、全身傷だらけになり血を流す黒龍がいたのである。だが俺達が勝ったわけではないようだ。なぜなら「白姫」の力を使い俺が倒そうとした黒竜が、まだ生きていたからだ。俺はすぐに「黒姫」から「白帝」へ変身する。

そう俺は今からもう一度「黒帝」になりあの化け物と戦うつもりなのだ。俺はリリアから譲り受けた、俺専用に作り替えられた「白帝の鍵」と、「白姫の鍵」を使用してから「白龍の剣 白帝の聖剣」へと姿を変えた「白帝の小刀 白龍の爪撃」を手に持ち「白帝の鍵」を使用して変身したのだ。「白龍」に力を貸してもらうために俺は、俺が「黒竜王」になった時のように力を吸い上げてもらうように頼む。するとリディアは俺が力を吸収できるように、白姫の力を使いサポートしてくれる。俺は、「白帝の鍵 黒龍の鍵」を使用し、「白龍の小刀 黒龍の手甲」を装備してから、「白帝の鍵 白龍の剣 白帝の鍵 白龍の大盾」を装着している間に俺とリディアが戦っていた場所から、移動してきて俺の隣で戦いを見守る事を選んだようだった。俺は、「白帝の小太刀 白龍の大太刀」と、「白帝の大盾 黒姫の大盾」を装備した後に、俺の中にいる白龍が「黒竜王様。私の力を貴方に貸します」と言ってくれたため俺の中に入った「白龍」が白竜王と同じ姿をしたものに変化してから俺の前に現れた。そしてリリアから譲り受けた「白金竜の魔石 白龍の力を持った白金の宝石」と「黒龍の腕輪 白竜の力を持っている黒銀の腕輪」を身に付ける。この二つのアイテムを身につけたことで俺の体は変化していったのである。俺は自分の姿が、以前戦った時より変化していることに気がついたのだ。俺の中の白竜王が変化した白龍が言った。

『今のあなたは、白龍の体だけではなく、全ての属性の力を同時に使用できる状態になっているのですよ。そして私があなたの力になる代わりに白姫は私に対して力を使えるようになります。私はあなたの眷属としてこれからお側にいさせていただきますね。それとこの武器の本当の力はもっと別の所にありまして、それは、あなたが手にしている「白金姫の鍵」で呼び出す事ができますよ』

俺は白姫の言葉を聞きながら白帝の鍵の「白龍の鍵」を使用した。すると、俺の体から光の粒子のような何かが飛び出てくる。その光が俺の周りを漂ったあとで俺に話しかけてきた。

「妾を呼んだかの?」

俺の体の中から出てきたのが、なんと少女で俺はびっくりしてしまう。だがその姿に見覚えがあった。俺は「お前はまさか白姫なのか!」と叫ぶと白姫は笑いながら答える。

「いかにも、白龍の力を得たそなたが妾を目覚めさせたのじゃ。感謝せい」

俺は、その話し方と態度から目の前にいる存在が、俺に憑依し俺の力になっていた元「七色 黒竜王」だと理解できたのだ。俺はそんな白姫に問いかける。

「白龍の本来の姿で戦うのか? それとも、さっきの姿の方が良いならそちらに変えるが」

「そうじゃのぉ。やはり、こちらの方が動きやすいし楽なのであの姿に戻るのがいいのう」

そう言い終わると白姫は自分の体を白龍に変化させていった。俺と融合する前は、その姿は人間の姿をしていたのだが、今はその姿ではなく、完全な龍の状態になってくれたのである。俺は白龍に「よろしく頼むぞ」と言うと、俺の体に入ってくると「任せるがよい」とだけ言って眠りにつく。

俺は、「白金龍の鍵 白龍」を使い、その鍵を使う事で俺が手にしている、白龍の剣「白龍の大太刀 白帝の聖刀」が、巨大な大太刀に変化する。

そして俺は「黒帝将の鎧 黒帝 白帝 黒龍将の鎧」に、「白帝の宝玉」の力を宿し「黒帝剣聖の鎧 黒帝 白帝の宝玉 白帝」という鎧に変化させる。この姿になった時のみ使える特殊能力があるらしく俺はそれを使う。この能力は簡単に説明すると、リディアが使っていた「黒帝の聖衣」の強化版だと思って貰えればいい。その能力は、自分の意思を持つ剣や剣以外のものを装備できるようになり、そしてこの姿の時にしか使えない「真名解放」が使用できてこの技を使うことができる。俺はその「真名開放」を使い俺が契約した「黒竜」「黒龍」「黒竜」達から俺に力が供給されるように念じると、俺に膨大な量のエネルギーが流れ込む。俺はその力を全て俺の中にある白姫の力を借りることで剣へと変換する。「七色の剣」と合体することで完成するのが「七帝聖」なのだ。そしてその剣の名は「覇帝聖剣 白帝の聖剣」とでも言えばいいだろうか? そして俺は、「白帝の大剣 白帝の聖刀」に俺の意識と魔力を流し込むと俺が今まで見たことがないような魔法が発現したのである。その魔法の威力に俺は驚愕してしまったのだ。その攻撃により黒龍はダメージを受けていたのである。俺がその魔法を「白帝 黒竜王の裁き 極 極黒雷」と名付ける。俺は、その後すぐに「白帝 白金聖龍 白帝の剣聖」になり、白帝の鍵を使い「白帝の鍵 白龍」の力を俺の身に宿すと俺は俺自身が持つ能力と融合したのである。それにより俺は白帝と黒帝を両方使いこなす事ができるようになったのだ。俺は「白龍の鍵」を使って「白龍 黒帝」になると、「黒帝の鍵」を使って「黒竜」の「白金竜」に変身することができるのだった。

「黒帝の鍵 黒龍」の力で、黒龍を呼び出した俺は、その力の一部を俺の中へ取り込む。すると黒龍の「黒姫の大剣 黒星」が、「黒帝の鍵 黒龍」に吸い込まれるように俺の左手首と腰に取り付いたのである。俺の体は一瞬にして黒い龍へと変化する。そして黒龍に力を分け与えると俺は俺自身が使う必殺技「黒帝の裁断 白皇閃」を放つ。これはリディアが使用していた黒姫の大剣の究極の技であり、全ての物を斬るという必殺技であった。

俺の「白帝の剣 白帝の聖刀」は、「黒帝の鍵 黒龍」の力を俺の体に直接注ぎ込み、そして俺は俺自身の中に取り込んだ「黒帝の力」を「白帝」の力と混ぜて俺の必殺技に使うのだ。俺の体の中にあった黒龍と黒帝が一体になり、そして混ざり合った状態で俺が持っている武器「白帝の鍵 白龍」が放つ「白帝」の力に、「白帝の宝玉 白龍」の力を持つ、「白金竜」の力が加わることで強力な一撃を生み出すことが出来るのだ。その必殺の奥義こそがこの俺が生み出した必殺技である「黒帝 黒竜神の終焉 超 超暗黒光滅撃 黒竜王 黒竜王王の絶爪」なのである。俺が放った最強の技は黒竜王の巨体を貫き倒すことができた。そして俺は、白龍の力を解放し白龍の鍵を使用して「白帝の鍵 白龍」の鍵の力を使ったのである。俺の手の中には、一振りの剣が存在していたのだ。

俺の手の中に存在している剣の名前は「神器 白龍の聖剣」といい、「白金龍の鍵白龍」の力を解放することができる鍵であった。この剣を使えば、俺が「白金龍の鍵 白龍」の力を使うことができるようになる。

白龍の聖剣を作り出した俺に対してリディアは話しかけてきた。

「凄いですね、この武器があれば私はあなたを守る事ができますね」

俺は、リディアの頭を撫でながら言った。

「俺と一緒に世界を守って欲しいんだ。俺もリディアのことを守ろうと思っている」

「私もあなたのことを絶対に守って見せます」

俺たちはお互いが信頼関係で結ばれているのを感じ取ることが出来た。そこでリリアが話かけてくる。

「そろそろ、黒竜王のところに行こうぜ」

俺はリリアの言葉に答えた。

「分かった。じゃあ一緒に黒竜王の元に行こうか」

俺はリリアとリディアと共に転移の魔法を発動させるのである。

俺達が、黒竜王の元へ行くために移動を開始した頃、勇者の仲間である、聖女とその仲間の賢者、神官と剣士は、魔王の部下と戦うことになる。そして俺の配下達は、俺の作った武器を持って敵と戦い始めていた。そしてこの世界に召喚された「勇者」である男と、「大魔導士」の女の子が俺の作った武器を持っていたのだった。この二人の仲間も俺と同じ力を持ち、俺と同じように俺の世界から来ている者達なのだ。俺が作り出した武器を持っている以上彼らはこの世界の誰よりも強いだろう。なぜならこの世界ではありえないほどの力を発揮することができるからだ。俺のように異世界に召喚され特殊な力を使えるようになるということはそういうことでもあるのだ。

俺は俺が作った武器がどのような効果を発揮できるのかを確認しながら戦いを見守ることにする。そして彼らがどのくらいの力をもっているのかを確かめることにした。

「大魔道士」の少女のステータスを確認した結果を見て驚いた。俺が知っている「大魔導士」はもっと低いレベルのはずなのだ。それなのにレベル50という高レベルで、その能力は俺が知る限り最高レベルだった。その「大魔導士」が、この世界での一般的な能力なのではないかと思ってしまったほどだ。そしてもう一人の仲間に関しても同じだった。俺は俺の持つスキルを使って確認したところ、やはり「剣豪」と呼ばれる職業と、レベル60程度の能力しか持ってはいなかったのである。

俺には彼らの持つ武器を解析して、その性能を調べることができた。その結果から俺の考えていたことが正しいということが証明できたのである。その事は、俺の持っているこの武器の性能が普通の物ではなく特別なものだとわかったということだ。だがこの武器を作り出した俺にすら分からないことが二つあったのである。その武器を俺にくれたあの人は何者なのかと、この二つの武器がなぜここにあり俺に与えられたのかということである。俺はそれらのことを考えながら戦う二人に指示を出した。

俺の目の前にいる「勇者」である男は、俺に向かって話しかけてきた。

「君の強さを僕に見せて欲しい。君と本気で戦ってみたいから」

そう言い終わると剣を抜き俺に向かって切りかかってくる。

だが俺の実力はこの「大迷宮」を作った時に、既にわかっている。だから、そんなに慌てる必要はないのだが俺は一応彼の言葉に返事をしておく。

「そうだな、お前は確かに強い。俺の相手にふさわしい存在だと思うぞ」

俺のこの言葉を聞いて、「勇者」である少年は嬉しそうな表情をして、「剣聖」に話しかける。「君はどう思う?」と聞かれると、「剣聖」の女の子が「私はあなたに従うだけです」とだけ言って戦闘に参加する準備をしていた。そして二人は連携をとり始め、「剣聖」の攻撃と、「剣聖」が使える剣の能力を最大限に活用した攻撃を放ってきた。その連携は完璧であり俺を追い詰めるような攻撃になっているのであった。俺はその攻撃を避けながらも冷静に分析する。そしてその攻撃を俺に当たらずに空振った所で反撃をしようと試みていた。そして俺は自分の力を少し解放すると、「剣聖」が使っている、「天翔斬」という剣に魔力を込めて俺が放った魔力の刃が飛んでいくとそのまま彼女の腹部を貫く。「剣聖」の体が光の粒子へと変わっていったのだ。その瞬間、もう一人の「大魔導士」が俺に向けて火属性の魔法を放ってきていたが、「大賢神杖」の力で「光魔法 聖なる壁」を作り出すと魔法を防ぎ切る。

その光景を目の当たりにした「大魔導士」の少女が、俺が放った魔法の光に飲み込まれた。「剣聖」がいなくなったため少女一人となった状況の中で彼女は魔法を使い俺を攻撃してきたが俺に攻撃は通用しなかった。

その様子を見ていて焦っていた様子の少女であったが俺を倒すための手段がなくなったことで動揺してしまい攻撃が止まってしまう。そこに、俺は接近すると同時に、「剣聖」の女の子が持っていた、その剣に「真名開放」をさせたのだ。「大魔剣 エクスカリバー」の力が発動し「剣聖」の魔力が俺に流れ込んできたのである。

この剣の名は「聖剣 真名 聖魔剣 セイクリッドソード エカセリウス 」と言う名の剣であり、その効果は、この世界においての全ての魔法と剣術を使えるというものだった。「聖王」「騎士」などと言った様々な称号の力を得る事ができる上にこの世界の全てを知ることが出来るのだ。この世界の全ての情報が手に入ると言ってもいいほどの力を持った剣である。俺は、この世界について何も知らない。俺に分かるのは自分の力やリディア、リリアの存在ぐらいだ。そしてリディア達も自分の持っている能力以外のことは詳しくないらしい。俺もこの世界に来た時にある違和感を感じていたが今はその理由がなんとなくわかる。この世界の全ての生き物に宿るという「魂」を感じなかったのが原因だろう。俺は、この世界の住人に俺の持っている「黒帝の宝玉 黒龍」、「白帝の宝珠 白龍」の力を与える。「聖王の鍵 白龍皇」の力によって俺が持っている力の半分が俺の中に取り込まれることになった。それにより俺は、リディア、リリアと共にいるときよりも強くなるのである。そして、その「大魔導士」の少女にも俺の力を与えたのである。その少女のステータスが、急激に上昇した。その少女が、「私の能力が凄い事になっています」と言っていたので俺も驚いてしまったのだった。そして「勇者」である男とも戦ったがやはり俺の敵ではなかったのだ。

「勇者」は、「剣豪」が使っていた「天翔剣」の力を使用して攻撃を仕掛けてくる。しかし俺にとっては何の問題もないのであった。

この世界に来て数日が経つ、この世界についてはまだあまり分かっていないがそれでも色々と情報を手に入れることが出来ていた。俺は、まず最初にこの世界で一番重要な存在である、「魔王」に会いに行くことにする。

俺が転移をした先は森の中である。ここは「白の森」と呼ばれており、森全体が白い樹々で覆われているのだ。そのため、この森に迷い込むと出られなくなると言われていた。この「大森林」の「大魔王」と呼ばれている者が「魔王」の種族の中でも最上位と言われている。

俺は「白の森」に入り、しばらく進むと大きな門が見えてきた。そこには、見張りをしている者たちがいたが俺の顔を見るとすぐに通してくれたのだ。

俺が「白の館」と呼ばれる建物に案内されると一人の美しい女性が待っていたのである。彼女が「大魔王」なのだろう。彼女を見た俺は思わず見惚れてしまった。

俺は、目の前に座る女性に話しかけた。

「私は、ゼクといいます。「魔王」の種族である、あなたはどのような方なのでしょうか? できれば名前も教えていただきたいのですが」

俺は「大魔王」の名前を知りたかったので聞いてみた。俺に名前を聞かれた「大魔王」の女性はとても驚いた表情をしていたが、すぐに落ち着きを取り戻すと自己紹介を始めてくれた。

「私の名前はリリスです。そして「黒帝」であるあなたの事をお慕いしていました。なので、この世界で会うことが出来たら求婚しようとずっと思っていました」

リディアは俺のことを尊敬してくれているが「黒帝王様」として接しているところがあり、「大魔王」のリリスのように俺に対して好意を持っていてくれていることを感じることができたのは初めてだった。だが俺はそんなことを全く知らなかった。だが俺の心の中に、リディアの気持ちが入り込んできて嬉しく思う。

俺の心にリディが話しかけてくる。

「私は、この世界に来れて幸せを感じています。この世界には、私が愛して、そして愛していた人の魂がありますから」俺は、リディアのこの言葉を聞き、心が温かくなっていった。俺はリディアを愛していたことが間違いじゃなかったことに喜びを感じていた。俺は、俺とリディアが初めて会った時の記憶を思い出す。そして俺は「リディ」という女性に恋をしていたのだということも思い出したのである。俺はリディーの笑顔を見たいと強く願った。俺はそんなことを考えながら、リディーが言ってきた話の内容を考えていたのだった。そして俺の方からも、この世界で好きな人がいたことを話すと、とても嬉しそうな顔をしながら、自分と同じだと笑っていたのである。

「大魔王」の女性は、俺に質問してきたのだった。


「黒帝王であるあなたには、婚約者はいませんか?」と尋ねられると俺は首を傾げながらもいないと伝える。そして、なぜこのようなことを聞くのかと疑問に思ったのである。そして俺が、なぜそのようなことを聞いたのかと聞くと、「私はこの世界を救ってくれる者が現れると信じ、そのために準備をしてまいりました。それはもちろんこの世界が危機的な状態に陥っているということと、この世界が今ある理由を知っていれば誰でも分かることです。「黒王剣」と「黒皇剣」は、「勇者召喚」の儀式の際に「勇者」に与えられるはずの剣です。ですが、「勇者」がこの世界の救世主になることを拒否したために、この剣はこの「大迷宮」へと飛ばされ、そこで長い間眠り続けていたようですね。その眠っている間に「黒王剣」の能力は失われてしまい、本来の「勇者の剣」としての能力のみ残ってしまっていたようなのですよ。その「勇者の剣」の能力である「聖王」の力だけが、「勇者」に与えられたのでしょうね。それがこの剣の能力である「天翔斬」の発動条件を満たしていた。つまりこの剣の能力が使える者は「勇者」だけだと思っていたのですよ。それで、私はあなたが、あの時、その「勇者」なのではないかと考え、この世界の救世主となる存在ではないかと思ったのですよ」

俺は「勇者」について詳しくない。この世界を救うということは、「勇者」は、「魔王」を倒した後にこの世界に訪れる何かと戦わなければならないという事になる。俺はそんな戦いは望んではいない。俺の目的は元の世界に戻ることである。だが俺は、「リディア」を救いたいという目的もあった。だから、「リディアを元のいた世界に連れ戻すことが出来るかもしれない。その可能性は高い」と言われたときに俺は、「勇者」と戦うことを決意したのだ。俺はその言葉を思い出し、「俺はこの世界を救うために戦うのではなく、この世界のリディアを助けるためだけに「勇者」と戦いたいと思います」と答えると、リリスが微笑みかけてくれたのである。そして俺を「大魔王」の仲間に加えてくれたのであった。

「大魔王」が俺に向かって、「私のことはリリスと呼んで下さい。私も貴方のことを下の名前で呼ばせてください。ゼク様とお呼びすればいいですか? それともこの世界で、私が知っている人物と似通っている名前の呼び方にさせてもらってもいいでしょうか」と言われてしまう。俺はその問いかけに対し、俺が知っている人でもいいと言うと、「大魔導士」の女の子の名前を呼ぶことに決まった。彼女はリリスを「大魔導師」の師匠と呼んでいる。そのため「リディス」と呼ばれていたのだそうだ。そして俺のこともリディスに紹介してくれるらしい。俺は、この世界での初めて仲間になったのである。俺がこれから一緒に旅をすることになった仲間の話をしていると、そこに俺のことを迎えに来た「リディ」が現れたのであった。

リディの姿を見た「リリス」はとても驚いていたが、俺は、「リディが、俺をここまで連れてきてくれたんだ。感謝をしている」と言う。俺がリリスに感謝をしたいということを告げたが、リリスは「気にしないでください。私は当然のことをしているだけです。それよりもリディアさんは無事なんですか?」と心配そうにしていた。俺はリディアが俺の体に入ったことで、「大魔王」の力を取り込み、そして【大魔核剣】を作り出せるほどに成長し、今ではリディアは俺と一緒にいることを望んでいると伝えたのである。するとリリスはとても喜んだ様子だった。それから俺は「大魔導師」のリディスの話を聞いた。この子はまだ10歳で俺の見た目より少し年上といったぐらいの少女だった。俺と「大魔王」が出会った場所から「白の館」まではそれなりに離れていたらしいのだが、その間に、俺は色々な人に出会い「聖王」と「騎士」の称号を手に入れたと話すと二人はかなり驚かれていた。

俺のステータスを確認すると、この称号が凄く増えていた。まず、最初に獲得したのが、

称号:聖王 スキル 天駆 剣術LV1 光属性魔術(上級)

治癒術LV5 補助魔法LV3 付与術LV6 聖魔剣術 天歩 となっている。そして次の二つが俺の中ではかなり驚いたのだ。

称号:天馬 レベル 35 職業 剣豪LV8 HP 9999/9999 MP ∞ 体力 5000 攻撃 70000 守備 46000 魔力 51000 敏捷 67000 運 12000 スキル 剛腕力強化III 瞬動 縮地 身体硬化 気配察知 危機回避II 全耐性V 超速再生IV 経験値増量 限界突破 不老不死EX 聖帝 加護 真祖神竜の寵愛 大魔王の呪い 祝福 大精霊契約 リディアの眷属契約 俺はこの世界に来てからあまり変わっていない自分の数値を見て安心したが「大魔王」や「大魔導師」の称号が一気に増えたことが嬉しかった。

リリスがこの国の現状を教えてくれると言ってくれて、俺はこの国で起こったことを聞かされる。

「私はこの国の姫だったのですが、実は、先王が亡くなり新しく王座についた者がいまして、その者が、魔王軍と繋がりを持っていたようで、私の父を殺した張本人なのです。父が亡くなったとき私は12歳でした。私は、その時のショックが大きくて一時期心を失っていました。そして私は自分が何者なのか、なぜこの場所で生きているのか分からなくなりました。そんな私を救ったのは、この国では珍しいエルフ族の青年だったのです。そして彼のおかげで私は生きる気力を取り戻したのでした。彼は、私が魔王軍の手先に操られそうになった際に、魔王の呪縛を振り払ってくれたおかげで命を取り留めることができたと話してくれました。ですがその後、彼は行方知れずになってしまったのですよ。ですが最近になって、彼が魔王の手下に囚われていることが分かったんです。彼を助けたいとは思うのだけど、今の私の力では彼の助けになることもできないと思っています。ですがいつか必ず彼を助け出して見せるわ。そのために、私はこの世界の危機を救う必要があると思う。そのために「リディ」には協力して欲しいの」リリスは俺の目をしっかりと見て、決意を込めた目で語っていたのである。

俺と「大魔導師」と別れた後、この「神聖樹の大迷宮」にはいくつかの部屋が存在するらしく、俺達はそこからこの大迷宮の外に出れるのではないかという話だった。俺とリリスは早速その場所に案内してもらう。そしてそこに向かう最中に「黒帝王」の力が目覚めかけているという事を聞いたのである。

俺は大迷宮を出るまでに、魔王軍からの襲撃を警戒していたのである。だが、特にそんなことはなく俺達はあっさりと迷宮の外に出ることが出来たのだった。そして俺とリリスはその足で王国に向かったのである。リディと別れてから既にかなりの日数が過ぎていたので、もう俺が戻らなくても心配されてはいないかもしれないと思いながら、だがそれでも、まだ俺はリディアを元のいた世界に返してやりたいと思っているのである。俺は、王国の前まで来ると門番がいるが、「大魔王」の力を手に入れているために、普通に通れたのだ。

俺はリディアのことを思い浮かべていた時に、あることに気付いた。

「この世界に来れて幸せを感じています。この世界には、私が愛して、そして愛していた人の魂がありますから」この言葉がリディアが俺のことを好きなのではないのかと考える要因となっていたのだ。そして俺は、俺がリディアと出会えたように、俺も誰かと出会うことになるのではないかと感じていた。それがどんな人物になるかは全く分からないが、きっと俺にとって良い出会いが待っているのではないかと思っていたのである。俺がそんなことを考えながら歩いていたのをリリスに指摘されてしまう。そしてその表情はどこか優しげなものであったのである。

俺は「聖王」の称号の力である「天翔斬」を使って空を歩くことが出来るようになったために、リリスと共に王城に向かって進んでいた。俺のステータスに表示されているスキルを試すために王都を散策し、そのついでとして王城に行こうと考えていたのである。リリスに王城を見学させて貰う約束をしていたからだ。俺達が空を飛んでいる姿を見た人たちの反応は様々だ。驚愕する人、恐怖を抱く人、崇めようとする人等がいた。俺はその人々を見回していると、リリスがこの世界の状況について説明してくれた。

「リディアさんは無事なんですか? その人は、今どこにいるんです?」リリスの問いかけに俺はすぐには答えることが出来なかった。リディを元のいた世界に返す方法をリリスは探っていると言っていたが、「リディア」についてはどうなるのかが俺にも全く分からなかったのだ。

俺はリディアと再会を果たすことができた。リディアが俺の中にいたせいなのかは定かではないが、「聖帝」のスキルを得ることが出来たのだ。だが「勇者」がこの世界にやって来たことによって俺の目的は変わっていた。リディアと一緒に元の世界に戻りたいと思っていた。俺が元の世界に戻る方法は「勇者」しか知らないような気がしている。

しかし今は、元の世界に帰る前にやることがあると、俺の心の中で何かが変わったのを感じていた。その事が俺の中で引っかかりとなり俺はこの世界での目的を探すために「大魔導師」に頼み「白の館」の場所を聞いて向かう事にしたのであった。リディに会えなくて少し寂しい気持ちはあったが、「大魔導師」の師匠に会えば新しい目的が見つかるかもしれないと期待しながら俺は進む。そしてようやく「白の館」へと辿り着くがそこで俺は、「リディス」が言っていたリディスの師匠に会ったのだ。俺はリディスのことを思い出していたが、リディスのことはリリスが知っているということだったので、まずはこのリディスの師匠に会うことに決める。リディスの「大魔導師の修行は厳しい」という話は聞いていたが、このリリスが俺に対してリディアのことを尋ねてきた時の態度が気になったのだ。だから俺はこの「リディア」という人物をリリスに調べてもらおうと思ったのである。

リディアと俺の関係はリリスとリディにしか知られておらず、俺自身も他の誰にも教えていないのでリディアの正体を知ることができる人物は限られているはずだ。俺はリリスに「リディアは、俺の知り合いなんだ。俺がここに来る前に助けられたんだよ。それで俺はリディアを助けたことでこの世界に来てしまったんだ。だから俺はリディアを救わなければならないんだ。それには俺とリディアはお互いのことを忘れてしまった方がいいと思う。俺の勝手なお願いだけど、リディアの事をお願いします」俺はそう言うと、リリスは俺のことを信じてくれたようでリディアについての調査を始めた。

それから数日の間はリリスは「白の館」に滞在しており、リディアのことを調査していたようだった。俺はその間「聖王」の称号を使い王都を見て回っていたのだが、その時に出会った冒険者にリリスが、俺の知人を探していると話していたことを聞き、それからしばらくしてからリディスの「大魔道士の称号を手に入れた!」と言う噂が流れて来て、さらにリディスに付き添ってリディスの故郷がある地方都市に向かっていたと聞き出したのだ。それを知ったときに、やはり俺とリディアの繋がりは、この世界でも非常に強いものだということを確信したのだった。

リディスの弟子のリデルからの手紙を受け取った後でリディスの師匠に会いに行くことになった。だが、リリスにはまだ「リディア」の事は伝えずに俺は一人で会うことにしたのである。そして俺は「大魔導師」の称号の力でリディアから貰ったペンダントを取り出す。そして俺がそのリディアの持ち物を取り出したことには理由があり、リディアの身に付けていたものがあれば、何か分かるかもしれないと思ったからであった。だがこの「白銀の指輪」には特別な効果はなかったのである。この指輪が特別なものだと思い込んでしまったがために俺はこの「指輪」は特別な力が込められていると思い込んでいた。

俺はその日は一日をかけてリディアの故郷である地方都市の付近に行ってみることにした。その場所はリディスの話によるとこの世界では珍しい「竜」が住む土地らしいのだ。そしてその竜は人間には友好的な存在だとリリスに聞いたことがあったのである。俺は「リディアス」という少年にリディアの事を頼まれている。リディの居場所が分かればリディアを助けてあげられるかもしれないと思ってのことだった。そして俺は、リディアの故郷である町に到着したのである。

俺は町の人から、リディーは元気に暮らしてるよと言われ、そして俺はリディが生きていることを知ることができて本当に良かったと思っている。だがリディアの行方は掴めなかったのである。この町にいるのかさえも分かっていない状態だ。そして俺は情報を得るために酒場に入り、この町で起こっていることを尋ねていた。だが、この町は平穏な町で、何もおかしなことが起きていなかったのである。すると突然店に兵士が入ってきて一人の男を連れ出そうとする。

俺はその連れ出されようとしている男が、「大賢者」と呼ばれている男であることに気付き、慌てて男の方に話しかけた。「あの! 待ってくれ、その男は俺の友人です」その言葉に兵士は反応し「お前の名前は」と訪ねてくるので、素直に名前を告げる。その瞬間に、俺はこの世界に来て初めて見る「天魔」のステータスが見えたのである。そして俺の頭に衝撃が走る。「魔導の深淵」は、魔王の配下が持っていた「称号」で、俺のステータスには表示されなかったのだ。

その魔王軍幹部はリリスの目の前に現れた。リリスが危ないと思って俺は剣を抜いて、すぐに魔王軍の奴らに向かっていく。リリスには、俺の動きが速すぎて見えなかったようだ。だが、それでもリリスを守るためにも、リリスの近くにいるあいつを斬る必要があると判断したのだ。だが魔王軍の連中はすぐに姿を消したのである。

◆ 私は「大賢人の称号を持っている者」から、リディちゃんを助けてくれる人を手配してくれと頼まれました。私達はその依頼を受けると、すぐにその人物に手紙を送ることにしました。でもまさかこんなことになるとは思っていませんでしたね。だって、大魔王様と戦おうなんて考える人がいるとは思いもしませんよね。まあ、それはそれでいいのですけど。その方が面白いじゃないですか。それに、この国にとって悪いことにはならないだろうと思いましたから、その人物のことも信じることが出来たのですよ。そしてすぐに、この王国には二人の「勇者」が現れることになるんですから。

私はすぐにこの王城に向かい、「聖帝」の力を手に入れ、勇者の仲間になってくれる人を呼び寄せることに成功します。そして、この王国には「勇者」は現れなかったのですが、「白の騎士」が召喚され、そして「黒帝王」と、勇者と行動を共にしていた少女が現れたのです。

私は「白の王」の称号の力で「聖騎士の称号」を持つ者をこの場に集めるようにしました。私が使える最強の技を使って、その者達を集めることができたと思います。私がこの国に戻ってきた理由は、この国の王女「白姫」の称号の力を借りれば私の願いも叶えることができると確信したためであり、そのための道具として、私はリディと、もう一人の少女を連れて来たわけなんですよ。そして、私達を元の世界に帰せる力を持つ人物がこの王城に訪れ、この世界の危機を救うことになるでしょう。そんな予感を感じながら、この「白の王」は行動を起こしていくのであった。

俺はリディスと「白騎士」の称号を持つリディアが知り合いだったという事実に驚き、さらにその二人と俺が関わりを持っていた事実にも驚いていた。だが、このリディアに会えたことが俺にとっては大きな出来事になったのである。

リディアの話を詳しく聞きたいと思っていたがリディアはもう話すことはないとばかりに去って行ってしまったのだ。俺がその後ろ姿を見ながら立ち尽くしている姿を眺めていて心配になったのか、「白の大賢者」が俺に声をかけてきたのである。俺は今すぐにリディアを追うために走り出したが俺の前に一人の青年が現れ道を塞いだのである。その青年の姿を見たときに、俺は「聖帝」の力で「勇者」にされたときに、俺のことを「聖勇者」にしようとした「聖勇者」に良く似ていると感じ、その疑問を解決するために話しかけた。

「お前は何者なんだ?」俺の問いかけを聞いた「大賢人」の青年は少しの間無言だったが、何かを決意したかのように俺の方を向いて口を開く。

「あなたが探しているのはリディアさんのことでしょう。彼女のことは私が知っています」俺は「大賢人」の言葉を聞き逃さないようにするが、「大賢人」はそれ以上何も言わずに再び歩き始めてしまった。だが俺はどうしてもリディアに話を聞きたいと思っていたために追いかけたのだった。

「大賢者」は「聖帝の剣」を手に入れるためには必要なアイテムを持って来て欲しいと言い俺のことを見下すかのような視線を向ける。そして、俺にリディアについて詳しい事情を話すから「大賢者」について来いと促した。俺がリディアについて知っている情報はあまりにも少なく「大賢者」の口からリディアについて語られる内容に興味があった。

リディアのことを「大賢者」に聞き出してもらうと俺が知りたかったことをすべて教えてもらうことに成功する。俺はリディアのことを救わなければならないと思っていたが、「大魔導士」から俺に対して依頼を頼んで欲しいとお願いしたのだ。だが、リディアの故郷に向かう途中で魔物に襲われてしまい「大魔導士」が死んでしまう。そして「大賢者」はリディについて説明をし始めた。そして「大魔導士」は、自分がリディアのことを助けたときに、この世界に転移させられたことを聞かされたのであった。

そして、俺は「大魔導士」が残した「大魔導師の指輪」を見て、リディアと何か繋がりがあるのではないだろうかと考え、その指輪を「大賢者」に見せてみた。すると「白銀の指輪」についてリディアから聞いていないかと訪ねられたのである。

俺はその時にリディスの話していた事を思い出して、「白銀の指輪」はリディアがリディスに送ったものではと考えていた。そうでなければ、リディスはリディアについて何も語らないはずだからだ。

そして、リディアの事を「白の賢者」から聞こうとするが、その途中でリディアが姿を現したのでリディアの方に意識が集中してしまう。そして、「リディアの正体」を知ることになり俺は驚く。だが、リディアの正体を知ろうとすればするほど謎が増えていき混乱してしまうのであった。俺はリディアの故郷に向かうために移動を開始し、リディアと一緒に「白の賢者」に案内されて町に戻る。

そして町に戻ると俺と「大魔導士の称号を手に入れたリディア」は別々の部屋で泊まることになり「大魔導士の称号を手に入れたリディア」とは別行動をとることになってしまった。だが、次の日になると「大魔道士」が、リディアの故郷の地方都市にある町にいるということだったので俺は急いで向かうことにする。だが、「白魔導士の称号」を持つリディは付いてこずに置いて行くことにして一人で町を出たのである。

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魔王を召喚したかったので、まずは俺自身が勇者になることにした〜国を出て異世界をぶらり一人旅〜 あずま悠紀 @berute00

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