第3話 早くに卒業することがそんなに偉いの!?③
スマホの画面にはギラギラの太陽が反射し非常に見えにくい中、通知の内容を確認しようとパスワードを解く。
新たに注文が入ったようだ。お客様の名前は「レンカ」さん。注文内容は「自家製唐揚げ(しょうゆ味)10っこ入り×1」「自家製唐揚げ(カレー味)10っこ入り×1」の二つ。この辺では唯一の唐揚げ専門店で中々な人気らしい。
お店までの経路を調べたところ今いる場所からは徒歩15分。おそらく自転車であれば10分もかからずにいけるか。
会計もクレジットやら電子マネーやらで支払いは済んでいるようだ。
クレジットか電子マネーかがあやふやなのは、俺が現金主義でだからである。というのも、俺は外面に移る残高の数字など信用していない。インターネットを使いこなせないことを「そんなもの不要だ!」と怒鳴り散らかす迷惑なおっさんと全く同じ思考回路である。
俺の体重にギシギシ耐えてくれている自転車をこぎ出す。
街は明日から始まる新年度への期待であふれていた。靴屋から出てきた少年はその身長にしてはまだ少し大きいくらいの箱を抱えながら母親と車へ荷物を積んでいた。
日本は諸外国とは異なり美しい桜が咲くこの季節に新年度が始まる。そんな日本に生まれて俺は幸せだとその少年を見てふと思った。
7分ほどでお店に到着し、定員さんに注文を確認してもらう。今日いきなり暖かくなりましたね的な世間話をたしなんでいると注文通りの商品が厨房から運ばれてくる。商品を入れた袋からはうまそうな匂いとできたての熱を感じる。ありがとうございましたと一礼しお店を出た。
止めている自転車をまたぎ、出発しようとした時、お届け先が分からないことに気付いた。
それもそう、俺はお届け先の住所を確認し忘れていた。
確認しようとスマホのパスワードを解きもう一度注文内容が書かれてある画面を確認する。
お届け先:○○県××市△△町□の☆――――――
ん、待てよ。この住所俺のアパートのと同じだ!
そんな偶然あるのか。まぁ、あそこ生協の物件じゃないからまさか同じ大学の人と会うこともないだろうとは思うけど。
もし同じ大学の人が住んでても、頭が湧いちゃってるカップルか2人住みの大きな物件を1人で住むボンボンのお坊ちゃま・お嬢様大学生だけだろ。
それより、部屋番号確認しないと。
えっと、コーポ「Blossom」226号室――――――――――
そのとき俺は何度見したのか覚えていない。正確にいうと覚えるほど余裕がなかったのだ。
だって俺と同じ、というかそれは俺が住んでるアパートの部屋番号なのだから。
いやでも、さすがに打ち間違えか勘違いのミスだよな!こんなことよくある間違いじゃないか。でも、部屋番号って結構確認するよな。特にアパート住みなんて他人に迷惑かけちゃうんだし。
まだ頭の中の整理がつかないままサポーターの方と連絡を取ろうとしたとき、注文とは別にもう一通の通知が入っていたことに気がついた。
その通知はルームシェア相手を探すために入れたアプリからだった。
「あなたの掲示に反応した人がいました!」とだけ書かれてある。
おれは恐る恐る通知をタップしアプリへ飛ぶと次のような文面があった。
初めまして小野さん!
私太田恋花と申します。
私の通う大学がそこから近く、なおかつ小野さんがご提示されていた家賃などの条件も踏まえた結果そこに住むことにしました!
急で申し訳ないのですが、今日から物件にお世話になります!
お願いします!
この文章を読み終えた時、俺は自転車をこぎ出していた。商品を丁寧に扱うなど考えもせず、ひたすらこいだ。
こんなこと経験をしたのはおそらく世界で俺一人だけだろう。
「レンカ」と「恋花」――――――――
――――――ってことは女の子と同棲!?
アパートにつくまで俺の頭はこれしか考えられなくなっていた。
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