第2話 早くに卒業することがそんなに偉いの!?②

「ありがとうございました!またのご利用お待ちしております。」


お客様が玄関のドアを閉めて見えなくなるまで深々と頭を下げる。

自分の汗が頬をつたう。


ドアが閉まったことを確認し頭を上げ、雲一つない眩しい空を仰ぐ。


勤務時間3時間経過。残り半分かぁ。


正直に白状します。アルバイトなめてました。


そりゃあさぁ、居酒屋なんかでバイトをしている人たちに比べればせかされることないし、仕事内容なんて商品の注文が入ったらお店に受け取りに行ってそれを注文したお客様のところまで届けに行くだけの単純作業で楽そうに見えるさ。


でもさ、移動の体力の消耗エグいんだわ!

いや、マジで。

運動にもなるかぁとか思って移動手段は自転車にしちゃってさ。しまいにゃその乗ってる自転車もただのママチャリみたいな?こんなことだったら、浪人時代に勉強両立しながら取った運転免許あるんだから原付でも買ってもっとスマートに配達できるようにするんだったわ。


――――いや、配達方法にスマートもくそもないか。


――――そもそも、原付買うようなお金欲しいからバイトしてんのか。まぁ、原付なんて買わないけど。雪降ったら乗れないし。



そもそもなぜ4月にもなっておらず、ましてや大学の授業の日程も決まっていないのにも関わらずバイトを早々と始めているのかというと、小遣い稼ぎという名の家賃の支払いのためであった。


俺の家族は別に貧乏という訳ではない。会社員の父と公務員の母のごく一般的な両親とこの春新たに社会人となった三つ上の兄と自分の4人家族であり、やりたい習い事も不自由なくやらせてもらってきた。


しかし、俺が浪人というへまをしてしまったが故に予備校へ通う余計なお金をかけさせてしまった。両親は気にすることないと言ってくれた。当時はまだ大学生だった兄は仕送りの額を減らさせてくれと両親から頼まれた際、不機嫌になるそぶりなど見せることなく、快く承諾してくれたらしい。


さらに、実家から大学までは車や公共交通機関を使えば往復2時間半程度の距離にあり実家からの通学も特段苦でもない。金銭面で見れば一人暮らしをするよりも断然余裕が生まれる。


それなのに、家族のみんなは一人暮らしをさせると言ってくれた。



みんなへの感謝の気持ちがあふれると同時に、俺の中では申し訳ない思いがその何倍も募っていった。



だから、俺は少しでも金銭的負担を軽減させてあげたいと思いルームシェアという選択肢を俺はとった。そうすれば家賃やら電気代やらなんやらかかる費用その他諸々安く抑えれると思った。



しかし、この考えが裏目に出てしまったのである。


まず、ルームシェアをするには当然ながらその物件とパートナーを選ばないといけないわけである。浪人時代は予備校でくしくも友人などできず同じ大学に進学するやつなど到底知りもしないのでパートナーは後回し。自ずと物件から決めることになった。


そして、家族会議も経て結果現在の物件に住むことになったのだが、肝心の相手が全く見つからないではないか。


どこの馬の骨かも分からない男子大学生がサイトやらアプリやら使ってルームシェア相手を探してるなんて、世間一般の人からしたら「怪しいと思う」の票が8割を超えるに違いない。


しかも、やけくそになって条件に「性別関係なし」って書いちゃったんだけど、これってもっと怪しいやつに思われちゃってるのではないか!?


大体にして学生でルームシェアなんて頭湧いちゃってるカップルでない限り考えつくことそうそうないし、ルームシェアつっても学生寮とかしかないことに後々気付いたのである。というか、頭湧いたカップルと同じ童貞とか俺ってなにもの!?


かといって、相手が見つからないから両親に本来予定していた倍の額出してくださいだなんて今更言えるわけない!てか、言いたくない。


――結果、相手はすんなり見つかったってことにして半分は自分で稼いで支払うことにしたのである。



金稼ぐって楽じゃねーんだななんて今更ながら社会の厳しさに打ちひしがれながらコンビニで買った大好きな炭酸飲料とともに束の間の休憩をとる。


今日はお天道様のご機嫌がよろしいのだろう。太陽の独壇場によって、今朝の寒さなど忘れさせてしまうほどまでに気温が上昇したではないか。こっちは嘘を隠し通すために社会の波にもまれている最中であるのにもかかわらず。


なんとも今日は今シーズン入って初めて最高気温が二桁を記録しているらしい。こりゃもうそろそろ冬物のアウターは降板だな。


まぁでも、こんなに天気が良いってことはお天道様も思いっきり稼いで親に心配かけんなって言ってるんだろうなと心に無理矢理言い聞かせた。


現在の時刻13時16分。昼食注文ラッシュも終盤にさしかかる頃だ。


「よし、もう一踏ん張りだ。」

まるでドラマの好青年主人公かのような独り言を誰にも聞かれないように、自分だけに響くように呟いた。


ぴこんぴこん!


そのとき俺のスマホの画面にはある通知が映し出された。

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