使用済・記名済・毀損済

目々

使用済・記名済・毀損済

 塾の帰りにようやく買えた、楽しみにしていた漫画の新刊本。その表紙を引き毟る。

 自分のものを他人に奪われるのが嫌だった。大切にしていた絵本を幼稚園に寄付され、手をつけずにいた袋菓子を客に出され、兄は同級生の友人と出かけてしまった。


 価値あるものは奪われる。世界は俺の手から大事なものを尽く取り上げる。だから俺は考えた──ならば奪われる理由、その価値を毀損してしまえばいいのだと。


 中古品ではまだ価値がある、傷物までいってようやくだろう。全く世間は欲深い。

 だから俺は大事なものを傷つける。表紙を剥ぎ、外装を破り、不可逆な痕を刻む。価値を損っても、存在だけは失われない。どれほど世間に無価値だとされても構わない。俺の手元にあるだけで、その存在には十分な価値があるのだ。


「またやってるのか、それ」


 背後から聞き慣れた声がする。俺はゆっくり振り返る。

 読み終わったら貸してくれよ、と火傷痕に攣れた右目を細めて兄が笑った。

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使用済・記名済・毀損済 目々 @meme2mason

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