第31話 ワイバーンロード討伐戦1

(何あれ……誘ってるのかしら?)


 私はずらりと並んだ男性たちを見て、そんなことを考えた。


 ハーレムだ。逆大奥だ。


 彼らはそれぞれ違う種族ではあったが、一つだけ共通点がある。それは全員が私と面識があるということだ。


 私がこの異世界に来てから出会った男性たちの多くが役所前の広場に集まっていた。


 スライムのサスケ。

 ケンタウロスのケイロンさん。

 スネークピープルのカドゥケウスさん。

 ウェアウルフのネウロイさん。

 エルフのフレイさん。

 ミノタウロスのアステリオスさん。

 ドライアドのダナオスさん。

 ハーピーのハルさん。

 サイクロプスのブロンテスさん。

 マイコニドのピノさん。

 ヴァンパイアのヴラド公。

 サテュロスのパーンさん。

 スキアポデスのモノコリさん。

 ブラウニーのビリーさん。

 クーシーのシバさん。

 ケットシーのキジトラさん。

 ノームのパラケルさん。

 マミーのキノイさん。

 オークのハンプ教官。

 ギルタブルルのオブトさん。

 イエティのズーさん。

 ドワーフのドヴェルグさん。


 一人一人名前を挙げてみると、私は本当に多くの人たちに出会い、そして助けられてきたのだということがよく分かる。


 皆とてもいい人たちだし、とても魅力的な人たちだ。


(本当に魅力的だな……私も何度ドキドキムラムラハァハァしたことか)


 そう思うと、この顔ぶれはもはやメスを誘っているとしか思えない。


↓挿絵です↓

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「あの……何だか意外な人も多いんですけど、皆さんワイバーンロードの討伐で来てるんですか?」


 私の質問に、街の評議長であるエルフのフレイさんが代表して答えてくれた。


「そうですよ。もちろん街の軍が主力ですが、補助戦力として民間人の方にもお手伝いをお願いしています」


 それである程度のことは理解できたが、私の中にはまだ疑問が残った。


(こんな危険な仕事に応じるほどの良いことがあるのかな?ただ報酬が高いってだけじゃ来なさそうな人もいるけど……)


 そんな事を思っているのが分かったのか、サイクロプスのブロンテスさんが相変わらずの優しい笑顔で教えてくれた。


「手伝えば戦利品の素材を分けてもらえることになってるんだべ。大規模な戦いになるらしいからな。レアな素材がガッポガッポだべ」


 その説明に続いて、ブロンテスさんと似たような仕事をしているドワーフのドヴェルグさんがうなずいて補足してくれる。


「こういった場合、民間人のほとんどは素材目的じゃよ。モンスター由来の素材は比較的流通量が少ないからの。金銭を積んでも買えないものも多いから、この機会を逃すまいとする者は多いじゃろう」


 なるほど。めったにないチャンスというわけだ。


 私はその説明に納得はしたものの、それでもちょっと心配な人もいたのでそちらに目を向けた。


「そうですか……でも、戦闘になって大丈夫ですか?」


 私が目を向けたのはドライアドのダナオスさんだ。


 戦闘力の高い人ではないし、何よりこのドジっ子が戦場に出るのはどうかと思う。


 ダナオスさんは意外にも軽い調子で答えた。


「ご心配なく。もちろん僕のような人間は後方支援ですから。アカデミーでは薬学を修めていますし、救護なら役に立てると思います」


「あ、なるほど。そういうお仕事もあるわけですね」


 その辺りのことには気が付かなかった。


 今まで私が戦ってきた環境は自分プラス数人程度だったので、後方支援というものが念頭に浮かばなかったのだ。


 そういった事の専門家であるオークのハンプ教官がさらに教えてくれる。


「軍というものは派手な戦闘に目が行きがちだがその実、労力の多くは後方支援に割かれている。補給がなければ戦などできんし、傷病兵の救護も当然重要だ」


 そのハンプ教官の言葉から、私の意識は話の本筋とは少し違った方向へと向いた。


(『軍』と『兵』か……そうなんだよね。今回はかなり大規模な戦いになるんだ)


 私は改めてそれを認識した。


 ワイバーロードは普通のモンスターと違い、多くの配下を率いている。


 というか、根城にしている山一つのモンスターほぼ全部を支配下に置いているらしい。


 それらに指示を出して動かすことができるんだそうだ。おそらく私の使う隷属魔法のようなものなのだろう。


(山一つのモンスター全部が相手か……)


 もうこうなると、ワイバーロードはモンスターというよりも戦争の敵国といった存在に近い。


 しかも向こうははっきりと侵略の意思を示しており、実際すでに一度攻められているのだ。


 叩いておかないとこちらの身が危うい。


(いつもの戦いとは違うんだ。私も気を引き締めていかないと)


 いつものようにムラムラドキドキハァハァしかけてしまった自分を、厳に戒めた。




****************



「クウさん、ワイバーロードは今も山頂にいますか?」


 フレイさんにそう尋ねられ、私は肩に乗った八咫烏やたがらすのヤタに聞いた。


「どう?」


 ヤタはカァと一言鳴き、私に念話で肯定を伝えてきた。


「山頂にいるそうです」


「ありがとうございます。では作戦通りに」


 フレイさんはうなずいて兵たちの所へ歩いて行った。


 私たちは今、ワイバーロードが支配する山が見える丘の上まで行軍を進めている。


 少し開けた場所があったので、そこで進軍を止めて小休止しているところだ。


 そこで私は改めて八咫烏の便利さを実感していた。


 八咫烏は一度見て覚えた人や場所を忘れず、対象が移動してもそこまで導いてくれるモンスターだ。


 そしてその特殊能力はモンスターに対しても有効で、今回のような討伐戦でもその力はいかんなく発揮された。


 といっても、簡単なことではない。一度ワイバーンロードを見せておく必要があったからだ。


(使役モンスターって、他のモンスターから見たら攻撃対象になるんだよね)


 使役モンスターは体に蔦のような紋様が現れるが、それを見たモンスターたちは敵だと認識するらしい。


 事前にフレイさんから依頼されてヤタをワイバーンロードの棲む山へと飛ばしたのだが、すぐに山中のモンスターから攻撃されてまともに進めなくなった。


 特に空飛ぶドラゴンであるワイバーンがウヨウヨいるものだから、戦闘力の低い八咫烏では偵察するのも難しい。


 悩んだ末、ガルーダのガルと共に強行偵察の形で山中を探索させた。


 ガルーダの成鳥はドラゴンすらエサにするほどなので、ガル付きならば他のモンスターたちが襲いかかってきても撃退しながら進むことができた。


 そして最終的には山頂にいるワイバーンロードを視認できたのだが、私としてはそれよりも他のことが気になった。


(この間ヴラド公があれだけワイバーンを倒したのに、まだものすごい数がいた……ワイバーン以外のモンスターもすごく多かったし。大変な戦いになりそうだな)


 ヤタとガルから念話で状況を聞いた私は、暗澹たる気持ちでそれをフレイさんに報告した。


 この山を正面から攻めるなら本当に戦争に近いような戦いになるだろう。


 そうなれば、きっと犠牲も出るはずだ。


「軍も兵も、こんな時のためにあるのです」


 フレイさんのその回答を聞いて、私はさらに気分を暗くした。ただその一方で、この人は有能な為政者なのだろうとも思った。


 ただし、次の一言で私の認識はまたガラリと変わる。


「そしてこんな時の犠牲を少なくするために、私たちのような立場の人間がいるのです」


 そう言って木漏れ日のように笑うエルフの評議長は、いつにも増して美しい笑顔をしていた。


 そのフレイさんは今、軍の偉い人たちと山を指差しながら何事かを話している。


 その後ろ姿には、不思議とついて行きたくなるような魅力が感じられた。


(フレイさんは有能だけど、それだけの為政者じゃない。有能で、素敵な為政者だ)


 その素敵な為政者は、美しい声で全軍に進発を命じた。




****************




【ウェアウルフ ネウロイの記録】



 私は低い唸り声を上げ、七、八メートル先にいるバイコーンを威嚇した。


 バイコーンは二本角の生えた黒い馬のモンスターだ。その二本の角をこちらへ向け、前足で地面を掻いている。


 どうやら私の威嚇に応じて下がる気はないようだ。


(もちろんその方が嬉しいが……)


 私は嬉々として相手の態度を受け入れた。


 こちらも本気で下がらせようと威嚇したわけではない。ただ自分の野性が抑えられず、身をにじるような思いで声が出てしまっただけだ。


 私はいったん体を低くし、膝と背を曲げた。


 そして体全体のバネを使い、バイコーン向かって跳ねるように駆ける。


 どうやらバイコーンはこちらの動きをほとんど感知できなかったようだ。


 なんの防御もできないまま、私の牙に首の肉を噛み千切られた。


 バイコーンの黒い馬体が、赤い血しぶきを上げながら倒れる。


「……不味い」


 口の中に血と生肉の味が広がり、吐き捨てるようにそうつぶやいた。


 ひどい味だ。生臭く、鉄臭く、口の中からいつまでも消えない。


 もし自分の食堂で出すウィンナーが金だとするならば、そこらの砂利にも満たないような味だ。


 しかしそんな感想とは裏腹に、私は自分の頬が嬉しそうに上がるのを抑えられなかった。


 私の中の野性が、狼男たるウェアウルフの本能が、血と狩りとを求めているのだ。


「満月の日のウェアウルフは凄まじいものでござるな」


「普段とのギャップがすごいのである」


 後ろから声をかけられて振り向くと、私の宿に泊まっているクーシーのシバさんとケットシーのキジトラさんがこちらを見ていた。


(宿泊者には見られたくなかったな)


 私は反射的にそう思った。


 もてなすべき客に、口から血を滴らせながら笑みをこぼす様を見られたのだ。


 が、すぐに思い直す。


(二人とも狩りをする犬、猫がベースの種族だ。しかも、生粋の戦士でもある。私の気持ちも分かるだろう)


 実際、二人とも襲いかかるモンスターを斬り伏せ、突き伏せながら話しかけているのだ。


 しかも私と同じように本能的な満足感を覚えているのが感じられる。似たところのある種族だから、そんな事も不思議と分かった。


 私たちは山唯一の山道がある斜面を正面から攻めている。


 当然ながら敵モンスターは多く、それに正攻法で当たっているわけだから激しい戦いになっていた。


(しかし、それがありがたい)


 私は空を見上げた。


 そこには青空に浮かぶ、大きな白い満月がある。


 それが目に入った瞬間、私は反射的に遠吠えを上げていた。


(満月の日には、ウェアウルフの野性が呼び覚まされる)


 それは私にとって歓びであり、同時に苦しみでもあった。


 今日のように見事な満月の日には、宿屋の亭主をしているだけではやり切れない思いになる。


 そんな日には妻を求めるか、山菜採りと称して外に出る。そして山菜を採る合間に狩りをするのだ。


 しかし、今日ほど己の全てを開放して暴れられることは少ない。私は抑圧されることのない野性に満足していた。


 そんな私の遠吠えが体に響いたのか、視界の中で五体のモンスターがその動きを止めた。軽い恐慌状態に陥ったのかもしれない。


 私は間髪入れずに襲いかかり、自分でも気づかないうちに五体の喉笛を噛み千切っていた。


 そしてまた、口中の血の味に辟易とする。


「不味い」


 そう言う私の口には、やはり笑みがこぼれていた。



****************



【スネークピープル カドゥケウスの記録】



「これはまた……上等なテンですね」


 私はその美しい毛の艶を見て、思わず感嘆の声を漏らした。


 黒貂はセーブルとも呼ばれ、その毛皮は衣料品の素材としては最高級に位置づけられる。


 毛が非常に柔らかく、上品な光沢が見る者の心を潤わせる。機能的にも保温性が高く、そのくせ軽いので抜群に着心地が良い。


 しかも目の前にいるのはただの貂ではない。九転貂くてんてんと呼ばれるモンスターで、その毛皮はただの黒貂よりもさらに高級な素材だった。


「貂は九度化けると言いますが、確かにその通りですね」


 九転貂の毛皮は一定の色をしていない。水面に波が立つようにして、色とりどりの色調がその表面を流れていた。


 そしてそれはただ色が変わるだけではなく、耐性を持つ属性が次々に変わっているのだ。


 この能力のせいで、九転貂は非常に仕留めづらいモンスターとして知られている。


 火の魔法を使えば高温耐性を帯び、電撃の魔法を使えば電気耐性を帯びる。


 そして攻めあぐねている間に牙で相手を仕留めるのだ。


 目の前の個体もご多分に漏れず、牙を剥いて襲いかかってきた。


「まぁ、今回はどんな耐性も関係ありませんが」


 私は首にかけたストールに魔素を込めた。するとストールは九転貂へと向かって伸びていく。


 まずは顔の前で布地を広げ、視界を塞ぐように操作した。そして相手の動きが止まった瞬間に、伸ばしたストールでグルグル巻きにする。


 こんな上等な毛皮を傷つけるつもりなど、私には毛頭ない。初めから倒す気がないのだからどんな耐性も意味はないのだ。


「ストールの調子は良好ですね」


 私が武器としているのは、全身を包む衣服の全てだ。


 今日の装いは全て魔道具としての一面を持つ特殊衣料だけでコーディネートしている。


 今、九転貂に使ったのは捕獲専用のストールだ。


 相手にダメージを与えることはできないが、これに包まれたら出るのは難しい。


 絶妙な弾力があり、強力なゴムの布に包まれているようなものだった。


「ゴムノキ種のトレントから作られたストールです。しばらくの間、そこで大人しくしていてください」


 私はストールの端を切り離し、九転貂を木の根本に放置した。


(戦闘が終わったらちゃんと回収に来よう)


 そう思いながら少し進むと、さらに二体の九転貂が現れた。


 私としては大収穫で嬉しかったのだが、一緒に大型のカマキリモンスターであるキラーマンティスがついてきた。


「……申し訳ありませんが、私はあなたのことがあまり好きではありません」


 キラーマンティスはその鎌で布を切ってしまうため私とは相性が悪いし、何より何の服飾品にも使えない。


 一部の虫は染料として使えるため重宝するのだが、残念ながらキラーマンティスはそのようなこともない。


「ササッと片付けましょう」


 私はストールの両端を二体の九転貂へ向けて伸ばしつつ、腰に巻いたベルトを抜いた。そしてそれを振り上げ、しならせながらキラーマンティスへと振り下ろす。


 このベルトもストールと同じように魔素で伸ばすことができる。


 ストールが九転貂たちを拘束し終わる頃、ベルトは鞭となってキラーマンティスを襲っていた。


 小気味よい音が鳴り、キラーマンティスが苦痛に身をよじった。


「痛いでしょう?こちらはシーサーペントの皮で作られたベルトです」


 シーサーペントは巨大な海蛇のモンスターだ。その皮は強く、しなやかで美しい。


 とはいえ、鞭は相手の体を壊す武器としては威力が不十分だ。


 そもそも鞭というものは、相手に致命的な怪我を負わさずに、痛覚の多い皮膚を破って苦痛を与えるための道具なのだから仕方ない。


「ほら、どこかへ逃げた方がいいんじゃありませんか?」


 私は素早く何度もキラーマンティスの体を打った。これで逃げてくれれば魔素の節約になる。


 しかし、残念ながら勇猛なキラーマンティスは引く気はないようだった。


「……仕方ありませんね」


 私は片方の靴を半脱ぎにした。


 そして苦痛でうまく動けなくなったキラーマンティスへ、その片足を振り上げて靴を飛ばした。


 靴は今回の討伐対象であるワイバーロードの羽根の皮で作られている。魔素を込めて飛ばすと弾丸のように相手に突き刺さるのだ。


 が、少々威力が強すぎたらしい。靴はキラーマンティスを安々と貫通した上で、だいぶ遠くまで飛んでしまった。


「しまった、少し魔素を込め過ぎましたね」


 木に当たって落ちた靴を、片足ケンケンで取りに行く。


 その時ふと、子供の頃の事を思い出した。


 洒落者の父が買ってくれた上等な靴を、価値も分からずに靴飛ばしでボロボロにしてしまった記憶だ。


「ふふふ……あの頃は服飾にもお洒落にも何の興味も湧きませんでしたが……やはり蛇の子は蛇でしたよ」


 思えば、今の私の起源は色々な意味であの父親にあるのだろう。


 暖かな旧懐とともに、ある種のありがたみを感じる。


 帰ったら、九転貂の毛皮で年老いた父に帽子でも仕立ててやろうと思った。



****************



【ドワーフ ドヴェルグの記録】



 ワシの武器の名はハルバードという。


 色々な武器が混ざったような形をしておるが、槍の先に斧がついたものじゃと思えばそう間違いはない。


 重く、長く、攻撃部位が多いことから、扱い易い武器とは言えんじゃろう。


 しかし武器を作る側のワシらにとって、これほど面白い武器もそうない。


「ホッ!」


 ワシは軽く声を上げ、飛びついてきた双頭の犬モンスター、オルトロスの体を槍の穂先で突いた。


 ハルバードは斧の部分が目立つ武器じゃが、実際には槍としても有用じゃ。


 特に今回のように飛びついてこられた場合には、上手く構えるだけで大した力もかけずに敵を倒せる。


 穂先はオルトロスの急所に刺さり、一撃で絶命した。


「お次は……ガーゴイルじゃな」


 動く石像、ガーゴイルが硬い拳を振りかぶってくる。重量級の体に物を言わせた重い一撃じゃ。


「刃こぼれは勘弁じゃな……」


 ワシはつぶやき、手元でハルバードを半回転させた。


 両刃のハルバードもあるが、ワシのは片側にだけ斧の刃がついており、反対側はハンマーじゃ。


「ホッ!」


 また軽い気合の声とともに、今度はハルバードを半月に振った。


 ハンマーがガーゴイルの側頭部にぶつかり、粉々に砕け散る。


 実際には魔素を込めて斬ればそうそう刃こぼれすることもないが、切断に向かないものを攻撃する場合にはこちらの方が効率が良い。


 肩にかかったガーゴイルの破片を払っていると、頭上に威圧感を感じた。


 見上げると、ワイバーンの大顎がワシめがけて降ってくるところじゃった。


 ワシはそれを横に飛んで避けた。が、直後に尾の追撃が襲いかかる。


 さすがにそちらは避けられず、まともにくらって飛ばされたワシは木に叩きつけられた。


「ぐっ……」


 軽く声を上げはしたものの、実際にはさほどのダメージは受けておらん。ドワーフの頑丈な体に感謝じゃ。


 身を起こして体勢を立て直すと、ワイバーンは頭上で旋回して再度ワシに狙いを定めておるところじゃった。


 そして先ほどと同じように、大口を開けてワシをかじり殺そうと降りてくる。


 ワシはその牙を身をよじってかわしつつ、首にハルバードの斧を引っ掛けた。そして体を思い切り回転させ、ワイバーンの首をねじる。


 下位種とはいえ、さすがにドラゴンの首はそれで折れたり切れたりするようなことはなかったが、ワイバーンは宙から降りて地に足を着いた。


(やはり、ハルバードは良いな)


 ワシは改めてそのことを感じた。


 このように『突く・叩く・引っ掛ける』といった様々な攻撃方法を取ることができる。


 特に『引っ掛ける』は地味なようで非常に使い勝手が良く、とりわけ騎乗した場合には戦術の幅がグッと広がる。


「しかし、一番気持ちいいのはやはり『斬る』じゃな」


 ワシは地に落ちたワイバーンの頭めがけて、ハルバードの斧を思い切り振り下ろした。


 叩き潰すように斬る斧の一撃は、これ以上ないほどの爽快感を与えてくれる。


 当然のことながら、ワイバーンは即死した。頭が真っ二つになっても死なない生物はそうそうおらんじゃろう。


「はぁ〜……そりゃまた見事なハルバードだべな」


 その声に振り向くと、サイクロプスの若者がワシのハルバードに大きな単眼を向けておった。


 召喚士のクウから鍛冶師のブロンテスじゃと紹介を受けたが、それ以前から名前だけは聞き知っておった。


 若手鍛冶師の中でも期待の新星という話じゃ。


「なぁ、ちょっとだけ手に取って見せてもらってもいいだか?」


 ブロンテスはそう言いつつ、自身の持った大金槌を横に振った。そちらからガーゴイルが襲いかかって来ていたからじゃ。


 そのガーゴイルは大金槌の一撃で、まるで脆いガラスのように簡単に砕けた。


(見事な一撃じゃ。大金槌の使い方をよく分かっておる)


 長年色々なものを作り続けたワシの目には、腕の振り一つでそんなことまでよく分かった。


 武器のことをよく分かっておれば、それを使う方法も自ずと分かるものじゃ。


(そして、大金槌の出来栄えも素晴らしい)


 実は街で初めて見た時からずっとそう思っておった。


 その時ワシのハルバードにはカバーがしてあったから、向こうがこちらを見たのは今が初めてじゃが。


 大金槌はおそらく自分でこさえた物じゃろうが、武器というものがよく分かっておる鍛冶師の作品じゃ。


 特に手先の器用なドワーフに多いが、よく武器を芸術か何かと勘違いしておる輩が見受けられる。


 武器というものは効率的に相手を倒せれば良いのであり、無意味な細工や無用なこだわりはそれを阻むことが多い。


 しかしブロンテスが打った大金槌は、武器の真理が感じられる一品じゃった。


(ワシもその大金槌を手に取って見たい)


 本音ではそう言いたかったのじゃが、さすがに齢を重ねておる分だけワシの方が冷静じゃった。


「時と場所を考えんか。ほれ、上からワイバーンが降ってくるぞい」


 ブロンテスの頭上から、ワイバーンが稲妻のように襲い掛かってきた。


 ブロンテスは大きな瞳でそれを認めると、大金槌を振ってその横面を殴りつけた。


 強烈な一撃を食らったワイバーンはワシの方へと飛ばされてくる。


 ワシはハルバードを一閃し、先ほどと同じようにその頭を斬り潰した。


 ブロンテスはそれを眺め、屈託のない笑顔を向けてた。


「ドヴェルグさんの言う通りだべ。今はそんな時じゃねぇな。失礼した」


 ワシはその爽やかな態度を見て、このサイクロプスの若者に強い好感を抱いた。


 そしてこちらからも笑みを返す。


「戦いが終わったら、いくらでも見れば良い。ついでにうちの工房に来て色々見学してみてはどうじゃ?ワシもお前さんの鍛冶場を見てみたいしの」


 言われたブロンテスは一度その単眼を丸くし、そしてまた人好きのする笑顔を見せた。


「ありがてぇ。そうやってお互いが磨かれて、いいもんが作れんだべな」


(やはり、この若者はよく分かっておる)


 ワシは改めてそう思った。


 職人の研鑽はただひたすらに深い縦穴を掘るようなものじゃ。


 しかしたまに横穴を掘ってみて隣りの縦穴と繋げると、思いもよらぬ発見をすることが多い。それが目覚ましい発展をもたらすのじゃ。


(こういう若者が『神器』を作り出すのかもしれんな)


 ワシはふと、直感的にそんなことを考えた。


 この世界には『神器』と呼ばれる伝説級の道具がいくつかある。


 全ての職人にとってそう呼ばれる作品を生み出すことは夢ではあるが、ワシのようにそれなりの齢を経れば、嫌でも己の限界が見えてくる。


 だからこそ、ブロンテスの若者らしい輝きがワシにとっては眩しく映ったのかもしれん。


「お前さん、酒はイケる口か?」


 この若者と飲む酒は、きっと旨かろうと思った。



****************



【マミー キノイの記録】



 結婚とはお金がかかるものだ。


 結婚式を挙げれば当然その費用がかかるし、新居を構えるのにもお金がかかる。


 家具を新たに揃えればさらにお金がかかるし、何より子供が産まれた後の養育費など、選択次第では青天井だ。


(もちろん、どれも安く済まそうと思えば済ませられるけど……)


 それはちゃんと分かっているのだ。


 別に結婚式は挙げなくてもいいし、挙げても小さく安く済ますこともできる。


 新居はこれまでの家に二人で住めばいいし、家具だってわざわざ新調する必要はない。


 子供のことも色々な社会制度があるし、必ずしもすごい金額になるとは限らない。


 さらに言えば、ありがたいことに新妻のムナイさんは『出来るだけお金をかけないようにしよう』と言ってくれている。


「でも、僕は彼女のために色々してあげたいんだ」


 僕はつぶやいて、前方に向けて片腕を伸ばした。その手の先から包帯が伸びていく。


 包帯は一角ウサギのモンスター、アルミラージに巻き付いた。


 僕はその包帯を操り、アルミラージを持ち上げた。そして一度高く上げてから、思い切り下へと振り下ろす。


 その先には火鼠がいた。


 アルミラージの角はその背中に突き刺さり、火鼠は血を吐いて動かなくなった。


 僕はさらにアルミラージを振り回し、次は二本角の馬モンスター、バイコーンへと向かわせた。


 しかし、バイコーンはすでに火鼠を突き刺したのを目にしている。


 馬は賢い生き物だというが、それで攻撃のパターンを学んでいたらしい。軌道を予測して角を構えていた。


 アルミラージの角がバイコーンに突き刺さる前に、バイコーンの角がアルミラージに突き刺さった。


「引っかかったね」


 僕は自分の作戦が上手くハマったことに満足しつつ、もう片方の腕から伸ばしていた包帯をバイコーンの首へと巻きつけた。


 アルミラージを向かわせるのと同時に、こっそり放っていたのだ。


 包帯はバイコーンの首を強く締め付ける。


 満足に酸素を得られなくなった脳はすぐに機能を停止し、大きな馬体は音を立てて地面に倒れた。


「ふぅ……結構倒したから、それなりの報酬額になってるよな」


 僕は腰に下げた小さな記録球を軽く叩いた。


 これが僕の倒したモンスターを記録しており、それに応じて報酬の金銭が支払われることになっているのだ。


 この戦いにおける民間人の雇用契約は大きく分けて二通りあり、金銭で報酬を受けるか、戦利品の素材をもらうかを選べる。


 多くの民間人は素材を選択するが、僕は金銭の報酬を選択していた。


 理由は、思っていたよりも新婚生活にお金がかかっているからだ。


 素材を選んで売るのもいいかもしれないが、得られる素材の質と量は戦いが終わるまで分からない。


 しかも民間人の参加者が多ければ多いほど割当は減るので、報酬としては不安定だ。だから金銭を選んだ。


「彼女のために色々してあげたい、か……」


 僕は先ほど自分が口にした言葉を繰り返し、なんだか自分がとんでもない愚か者に思えて自嘲した。


(『彼女のため』なんかじゃないだろう。僕自身の、自己満足のためにやっているだけだ)


 本当は自分でも分かっている。


 ムナイさんはあまりお金のかかるようなことは喜ばないし、今回の戦いも僕の身を案じて止めてくれた。


 いくら彼女を幸せにしたいと思ってやっていることでも、本人がそれを望んでいるかどうかを無視してしまっては何にもならないのだ。


 僕の頭の中に、出掛けにムナイさんがかけてくれた言葉が蘇ってきた。


『私にとってはお金なんかよりも、キノイさんが無事に帰ってきてくれることの方がずっと大切なんですよ。もし危ない時、無理しそうな時があったら思い出してください。私が……』


 ムナイさんの言葉がそこまで再生されたところで、僕の周囲がフッと暗くなった。何か大きな物の影がかかったのだ。


 頭上を見上げると、そこにはワイバーンがいた。


 すでに僕を攻撃対象に定め、急降下を開始している。


 僕はあえて動かず、その代わりに片腕の包帯を少し離れた木へと伸ばした。


 そしてワイバーンの牙が僕に襲いかかる直前、包帯を急速に縮めて水平方向に飛んだ。


 マミーはこうやって包帯を操って移動することができる。この方が自分の足で走るよりもずっと速く動けるのだ。


 僕はワイバーンの牙をかわしつつ、もう片方の腕の包帯をワイバーンの体へと伸ばした。


 狙いは両翼の付け根だ。


「……よしっ」


 包帯はうまくそこへ巻き付いた。


 そしてそれを絞りあげると、ワイバーンの両翼は背中側に向かって反り返っていく。


 翼の関節は完全に極められ、背中で固定されて動かせなくなった。


 当然そんな状態では空を飛べないので、ワイバーンの巨体は墜落して胴体で地面をえぐった。


「やった!ワイバーンは高報酬だからな」


 僕はそのことに喜びつつ、空を見上げた。


 ワイバーンは複数体が共に動くことも多いため、他にもお金になりそうな対象がいないか探したのだ。


(もう一体いる。でも……少し遠いかな?包帯を伸ばせば届くけど、高度の高いのワイバーンを狙うのは危険だな……)


 もし判断を間違えて引っ張り上げられでもしたら不利だ。空中戦では向こうに分があるだろう。


(報酬は魅力的だし、ちょっと無理してみるか?)


 僕がそう悩んでいる時、突然ムナイさんの言葉の続きが頭の中で再生された。


『私があなたを失った時に感じる苦しみは、あなたが私を失った時に感じる苦しみと同じです。だからもし無理をしそうになったら、私を失うことを想像してみてください。その無理で、私にそんな思いをさせるかもしれないんですからね』


 僕はムナイさんを失うことを想像して、伸ばしかけた包帯を止めた。


 そしてその直後、背後からの物音に気づく。


 振り向くと、翼を拘束されたワイバーンが走って僕の方へ突進してくるところだった。


「……っ!!」


 僕は背筋を寒くしつつ、急いで木に包帯を巻きつけてその牙をかわした。完全に紙一重だった。


(もし空中のワイバーンに包帯を伸ばしていたら……死んでいた!)


 ムナイさんが僕のことを守ってくれたのだ。


 そのことに冷えた背筋を暖かくしつつ、ワイバーンの口と足とに包帯を巻きつけた。


 それをきつく締め上げて、今度こそワイバーンの拘束を完全に完了させた。


(……自分が相手を想っているように、相手も自分を想ってくれているんだ)


 そのことに気がつくと、自分の独りよがりな頑張りが急に空々しいものに感じられた。


「僕たちは……二人で幸せになるんだ」


 帰ったら、ムナイさんと今後の生活やお金についてもう一度話し合ってみようと思った。



****************



【イエティ ズーの記録】



「……山の空気が淀んでるな」


 俺はワイバーンロードに支配された山を登りながら、やり切れない気持ちでそうつぶやいた。


 本来、山の空気とは澄んでいるものだ。


 山それぞれでその香りは違うものの、どの山でも澄んだ空気が肺の奥まで洗ってくれる。俺はその感覚が好きだった。


 だからこんなふうに淀んだ空気の山を歩くと、やり切れない気持ちになる。


「業突く張りの住む山だな。どうもワイバーンロードって奴は好きになれそうもねぇ」


 俺はそのワイバーンロードを見たことはないが、それでも大体の想像はつく。


 自分の欲望に際限がなく、環境との共存を考えない奴だ。そういった存在が山に住み着くと、こんな空気になってしまう。


 多くの場合、山をこんなふうにしてしまうのは人間だ。人間が己の都合で山を搾取する時に起こる。


「俺はな、山に住むことは否定しねえよ。俺も山で産まれて、山で暮らしてるからな。開発も否定しねえ。生きる上で環境を住みやすく変えていくのは当たり前のことだ。でもな、その時に環境のことを全く考えねえってのは無しだ。生き物と環境ってのは、共生関係にあるんだよ」


 バランスを考えずに環境を壊すことは、自分で自分の首を絞めるようなものだ。


 それを分からずに一方的な搾取を行えば、山はこうやって空気を淀めて住むものを苦しめる。


「植物が荒れている。モンスターが多い。生態系が崩れている」


 いずれも、ワイバーンロードがやったことの影響だと思った。異常気象などによる、普通の崩れ方ではない。


「魔素の地脈をいじってやがるな」


 恐らくだが、そうだろう。


 どうやってそれをしたのかは分からないが、ワイバーンロードクラスのモンスターになると、そういった事もできると聞いたことがある。


 ドラゴンに限らず、多くのモンスターは強い魔素を求める。


 魔素の強い地を縄張りにしようとするし、魔石など魔素を多く含んだ物を収集する癖のあるものも多い。


 そしてこの山もワイバーンロードによって、山頂に魔素が集まるように作り変えられているようだ。


 本来のバランスを崩した山は、いずれ不毛の地となるだろう。


「そうなったら、ここを捨てて別の山へ行くだけか?ナメくさりやがって」


 俺は吐き捨てるようにそう言った。


 山が好きだ。俺は山が好きなのだ。


 だからそんな事は許せなかった。だからこの討伐戦に参加することにした。


「俺は許す気はねえからな。なぁ?子分さんたちよぉ」


 俺は頭上を舞う二体のワイバーンを睨み上げた。


 その二体も俺のことを睨んでいるだろう。


 しばらく前から同じ所をグルグルと旋回している。すでに俺を攻撃対象に定めているはずだ。


「来やがるな」


 思った通り、二体は縦に並んで急降下してきた。俺から見たら一体にしか見えないような配置だ。


 恐らく地表すれすれを旋回しながら噛みつこうとしてくるはずだ。それがこの手のモンスターの常套手段だった。


 そしてこの二体の並びは、おそらく片方の攻撃をかわした所へもう一体の牙が襲いかかってくるという寸法だろう。


「よく考えちゃあいるが……俺はかわさねえからな!!」


 俺は息を大きく吸い込み、肺から思い切り吹き出した。


 もちろんただの息ではない。冷気のブレスだ。


 急激に凍った空気中の水分で、ブレスの通った空間には白い尾が引いていた。


 タイミング的に、一体目はどうやっても避けられない。正面からモロにブレスを浴びた。


 そして縦に重なって飛んでいたせいで、もう一体のワイバーンもすぐに状況を把握できずによけそこねた。気づいてからすぐに旋回したが、俺はその腹に冷気をぶつけてやった。


 二体は慌てて急上昇しようとした。が、体が上がり切る前に落下に転じ、地面に足を下ろした。


「動きが悪くなったな。ドラゴンもでっかいトカゲだと思えば怖くない」


 トカゲをはじめとする爬虫類は変温動物だ。温度変化に弱く、低温では動きが鈍る。


 実際には変温動物でも体温調節機能はあるし、多くのドラゴンはその辺りも改善されているのだが、ワイバーン程度の下位種ではまだその名残が強い。


 低温系の攻撃に弱いというのはよく知られている事実だった。


 俺たち雪男のイエティは、実は今回の討伐対象と相性がいいのだ。


「山が回復するまで冬眠でもしてろ!!」


 俺は一体目の方にさらなる冷気を浴びせかけ、その力を奪った。


 相当強く食らわせたため、まともに動けないどころか体表は凍っているはずだ。


 しかしもう一体はまだ多少の元気がある。地面を走って襲いかかってきた。


(息を吸ってブレスの準備をする時間がない!)


 そう判断した俺は、肉弾戦に移ることにした。


 体毛を操作し、噛みつこうとするワイバーンの顎を下から叩き上げた。


 そしてその下に滑り込み、胴体にしがみつく。


「……どっせーい!!」


 気合の声とともに、体を捻じりながら足払いをかけた。内掛けだ。


 ワイバーンの体は面白いように横転し、地響きを立てて地面に叩きつけられた。


「ハッハッハ、こりゃ爽快だ!熊相撲ってのはやったことがあるが、龍相撲ってのは初めてだな!」


 俺は倒れたワイバーンに向けて、追い打ちのブレスを放った。


 避けようのない至近距離だ。霜のおりたドラゴンは、先ほどの一体目と同じように動けなくなった。


 これで二体との勝負はついた。俺の白星だ。


「よーし、しっかり働いたら腹ごしらえだ」


 俺は体毛の中から紙袋を取り出した。イエティの体毛は長さも形も操作できるため、収納にも使える。


 紙袋の中身は大好物のクッキーだ。


 ここまでの行軍の道中、召喚士のクウがおやつに持ってきていたのを分けてくれたものだった。イチオシの店のものだという。


「……うん、こりゃいいクッキーだ。香りがいいな。それに、甘みも食感もいい」


 これはリピートしなけりゃならん店のクッキーだ。


 ぜひ自分でも買いに行こう。そして店の商品、全種類制覇だ。


 そこで俺はふと気がついた。


「しまった。店名を聞き忘れてたな……」


 そういえばその辺りの詳細を聞いていない。


 これは戦いが終わったら、是が非でも聞いておかねばならんと思った。


「クウ、絶対に無事でいろよ」


 俺は不思議な魅力のある娘の顔を思い浮かべながら、絶品のクッキーをまた一つ頬張った。



***************



☆元ネタ&雑学コーナー☆


 ここから先は筆者が話の元ネタなどを気の向くままに書き記しているコーナーです。


 本編のストーリーとは関係ないので興味ない方は読み飛ばしてください。



テンの変化〉


 狐がや狸が人間を化かす、という話はよく聞きますが、地域によっては貂も同じように変身能力があると言われているそうです。


 しかも、


「狐七化け、狸八化け、貂九化け」


なんてことを言われていて、狐や狸よりも有能という扱いなのだとか。


 見た目も可愛らしいし、毛並みも良いし、妖怪キャラとしてもっと取り上げられてもいい気がします。



〈変温動物〉


 筆者は子供の頃、『恒温動物』『変温動物』という単語を理科で習った記憶があります。


 ただ、最近ではこれらの単語は科学分野であまり使われなくなってきているのだとか。


 というのも、生物は単純に恒温動物と変温動物に分けられるものではなく、中間的なものが多いからなんだそうです。


 例えば筆者は『哺乳類は恒温動物』というのは半ば常識な話だと思っていましたが、哺乳であるナマケモノは体温調節をあまり行わないことでカロリー消費を抑えています。


 同様に一般的には恒温動物とされる鳥類でも、カッコウなんかは気温にかなり体温を左右されるそうです。


 逆に『魚類や虫は変温動物』というのも必ずしも正しくなく、ミツバチやマグロの体には体温を上げる機能が備わっています。


 もちろん恒温と変温の傾向はある程度ありますが、きっちり分けられるカテゴリーではないようですね。


 ちなみにナマケモノが普通に生きられる体温は二十五〜三十五度くらいなんだそうです。


 幅が上下五度ずつなので、人間だったら三十一度から四十一度くらいが平熱ということになるのでしょうか?


「私って平熱低くてさ〜、三十一度が普通なんだよね〜」


「俺は体温高いから四十一度くらいは熱じゃねぇよ」


 ……いやいやいや、両方とも死ぬ可能性ありますから!!


 そう思うと、やっぱりナマケモノを恒温動物にカテゴライズするのは無理がありそうですね。



***************



お読みいただき、ありがとうございました。

気が向いたらブクマ、評価、レビュー、感想等よろしくお願いします。

それと誤字脱字など指摘してくださる方々、めっちゃ助かってます。m(_ _)m

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