第29話 ドワーフ

(何あれ……誘ってるのかしら?)


 私はその雄々しく茂ったヒゲを見て、そんなことを考えた。


 太く縮れた毛が顔の下半分を覆っている。その先は胸まで伸びていた。


 ヒゲに好感を持つかどうかは人に

よってかなり意見の分かれるところだろうが、私はいいと思う。男らしいし、まさに男性ホルモンの塊といった感じだ。


 思わず『アッチの方も過ごそう』などと妄想させてしまう立派なヒゲは、もはやメスを誘っているとしか思えない。


「召喚士のクウってのはお前さんで合っとるかな?」


 その男性はヒゲに埋もれた口をもぞもぞと動かし、そう尋ねてきた。


 ずんぐりむっくりの小さな種族で、正面から見るとかなりの面積をヒゲが占めている。


 私がネウロイさんの宿の食堂で昼食をとっている時のことだ。


 入り口から入ってきたその人は、席にも座らず私の所へまっすぐ歩いて来た。


「はい、そうですけど」


「ふむ。すぐに見つかってよかったわい。ワシはドワーフのドヴェルグという者じゃ。魔技師をしておる」


(魔技師って……多分だけど魔道具の技師さんのことだよね)


 私はよく分からないなりにそう検討をつけた。


 おそらく魔素を使ったあらゆる便利グッズを作ったり、整備したりしてくれるのだろう。


 ドヴェルグさんは小さな体をペコリと曲げて挨拶をした。


 ちょっと可愛い。ヒゲ萌えとのギャップもあって、すこぶる良い。


 私も頭を下げ返す。


「はじめまして。お仕事の依頼か何かですか?」


「そうじゃ。お前さんにちょっと頼みたい仕事があってな」


「分かりました。よかったらお昼、一緒にどうです?ここ美味しいですよ」


 私はまだ食べ始めたばかりだったこともあり、テーブルの向かいを勧めた。


「そうさせてもらおう。食事中に来てすまなんだ」


 ドヴェルグさんは食堂の隅から背の高い椅子を持って来て腰掛けた。


 この異世界には様々なサイズの種族がいるので、どの食堂にも高さの違った椅子が複数置いてある。


 多様性とかそれに対する気づかいとか、つまりはこういう事かと感心させられることが多かった。ちょっとした備えで多くの人の不便さが減るものだ。


 小柄なドヴェルグさんは椅子に座り、テーブルに対してちょうど良い高さに落ち着いた。そこへこの宿の女将さんであるウェアウルフのルーさんがやってきた。


「いらっしゃいませ。何になさいますか?」


「なんぞお勧めのものがあればそれを。ワシは好き嫌いはないでな」


「お酒は召し上がられます?」


 問われたドヴェルグさんはチラリと私の方を見た。


 私はその意図にすぐに気付いて手の平を差し出した。


「あ、お気になさらず。どうぞ飲んでください」


「すまんな。ワシらドワーフの持病じゃとでも思ってくれ」


 そう言って笑うドヴェルグさんに合わせ、ヒゲも愉快そうにユサユサと揺れた。


 それを見ているとこちらまで愉快な気持ちになり、思わず笑顔になってしまう。


 ドワーフという種族は割と目にすることが多いのだが、食堂で見かけると十中八九お酒を飲んでいる。よほど酒好きな種族らしい。


 ただしアルコールに強い体質なのか、ひどく乱れたところは一度も見たことがなかった。


 仕事の話をするのに飲むのはどうかと思う人もいるだろうが、ことドワーフに関してはあまり心配要らなさそうに思える。


 ドヴェルグさんは出されたエールをいかにも美味しそうにあおり、ウインナーをいい音を立ててかじった。CMに出られそうな飲みっぷり、食べっぷりだ。


「ふぅ……いや、良い店じゃ。お前さんがここに泊まっていてくれたおかげで良い縁に巡り会えた。ワシとお前さんもそうでありたい」


「そうですね。それで、依頼したいお仕事ってどんなものですか?きっと召喚士が必要なものなんですよね?」


「ああ、これなんじゃが……」


 ドヴェルグさんはカバンから小さな指輪を取り出し、テーブルの上に置いた。


 パッと見は何の変哲もない銀色の指輪だったが、よくよく見ると二点不思議なところがある。


 一つは宝石をはめるのであるろう箇所に何も付いていない事、そしてもう一つは指輪の全面にビッシリと複雑な紋様が彫られていることだ。


 紋様はあまりに細かすぎて、じっくり見ないとただの陰影にしか見えなかった。


「なんだか……すごそうな指輪ですね」


 私は価値も分からず、思ったままを口にした。


「もちろんただの指輪ではない。ワシが作った魔道具じゃ。魔石を取り付けて魔素を込めると、その性質を持ち主に付与できる」


「性質を付与……ごめんなさい。私その辺りのことが全然分からなくて」


 具体的にどうなるのかがイマイチよく分からない。


「ふむ……お前さん、本当に記憶喪失なんじゃな。アステリオスから聞いてはおったが」


 ああ、アステリオスさんからの紹介だったのか。


 おそらく『手頃な召喚士はいないか?』とか相談されたアステリオスさんが私のことを話してくれたのだろう。


 実際には記憶喪失ではなく異世界から来ただけなのだが、この世界の常識的な知識がないという点では同じようなものだ。


「すいません、知らないことが多くて説明が大変かもしれませんけど……」


「いや、むしろ大変なのはお前さんじゃろう。魔道具のことで分からないことがあったら、遠慮なくワシに聞くといい」


 恐縮する私へ、ドヴェルグさんは人の好い笑顔を向けてくれた。


 人に安心感を与える素敵な笑顔だ。思わず好きになってしまう。


「ありがとうございます」


 頭を下げる私にドヴェルグさんは例を挙げて教えてくれた。


「例えば火山に近い所で採れた魔石は火の性質を持つことが多い。それをこの指輪にそれを取り付ければ、高温を伴う攻撃のダメージを軽減できる」


「すごい!便利ですね」


「ただし、低温に対しては逆にマイナス耐性になる。ダメージは増加するな」


「なるほど……使いどころを考えなきゃいけないってことですか」


「その通りじゃ。それで、ここからがお前さんに依頼したい仕事なんじゃが……」


 ドヴェルグさんはいったん言葉を切り、エールをあおってから先を続けた。


「ワシはカーバンクルをこの指輪に取り付ける実験をしてみたいんじゃよ」


「カーバンクル?」


 私にとってはこれも初耳の単語だった。少なくとも、今までお目にかかったことはない。


「カーバンクルは魔石が命を得て動き出したモンスターじゃ。本体が魔石であるため決まった形はなく、様々な姿をしておる」


「魔石……つまり、そのカーバンクルを召喚状態で指輪にセットしてみたい、ということですか?」


「理解が早くて助かるわい。その通りじゃ。カーバンクルは隷属させれば魔石のみの状態にもできるが、それを使えばどうなるか見てみたいわけじゃな」


 仕事の概要は分かった。


 が、私の使役モンスターの中にカーバンクルはいない。


「まずはそのカーバンクルを隷属させないといけないと思うんですけど、すぐに見つかるものでしょうか?」


「それなら心配要らん。ワシの寝床におるぞ」


「……え?寝床?」


「おう、お前さんにはまずワシの寝床に来てもらおう。急げは今晩には着く」


(そ、そんな……いきなりベッドに誘われるだなんて……しかも今晩……)


 私はドヴェルグさんのたくましい腕やヒゲ、太い指を見て、思わず吐息を熱くしてしまった。


(やっぱりアッチの方もすごそう……)



****************



「す、すごい……」


 私は興奮して無意識にそうつぶやいていた。


 それはドワーフのすごさを見て出た言葉だが、残念ながら見ているのは下の方ではない。手の指先だ。


「ホッホッホ、そうじゃろう。他種族からは、よくこの太い指で繊細な作業ができるものだと呆れられるわい」


 私の横を歩くドヴェルグさんが嬉しそうにヒゲを揺らした。


 私たちの視線の先では、ドワーフたちが宝飾品に彫り物をしていた。


 その太い指先が小さく動くたび、美しい月桂樹の葉が一枚ずつ現れる。まるで熟練の手品でも見ているかのようだった。


 私は今、ドヴェルグさんの寝床兼仕事場にお邪魔している。


 寝床兼仕事場といっても、要は地下深くの坑道の中だ。


 なんでもかなりの数のドワーフがこういった地下で暮らしているらしい。地下坑道はかなり広く掘られており、地図を見せてもらうと小さな村くらいの規模があった。


 当然太陽の光は入らないが、壁や天井には一定間隔で光る魔石が埋め込まれているので視界には困らない程度の明るさがある。


 坑道では鉱石が取れるわけだが、それを加工する工房も坑道内に作ってあった。


 さらにそこに居住空間も併設すれば、これ以上ないほど効率的な仕事環境ができるというわけだ。


(個人的には仕事とプライベートは分けた方がいい気がするけど……)


 私はそう思ったが、種族的な考え方の違いもあるだろう。特にドワーフという種族は仕事好きな人が多いようだ。


「本当に素敵です。置いてあるアクセサリーも、どれも魅力的ですし」


 工房内には見事な出来栄えの宝飾品が所狭しと並べてあった。


 仕事好きだからかもしれないが、私の言葉に工房のドワーフさんたちはみんな顔をほころばせた。ヒゲの奥の笑顔が可愛らしい。


「ありがとよ。ほらお前ら、今日はこんなべっぴんのお嬢さんがやって来てんだ。精を出して働けよ」


 同僚の肩を叩いて励ますドヴェルグさんの後ろで、また別の声が上がった。


「今日はここの経営者である公爵も来ているのだがな」


 部屋の全員がそちらに目を向けると、白い肌をした男性が端正な片頬を上げていた。


 その口元から覗く白い歯は、犬歯だけがやたらと大きい。


「まぁ、若い娘の方が職人のやる気も出るというものか」


 苦笑混じりにそう言った男性はヴァンパイアの始祖、ヴラド公爵だ。私たちと一緒にドワーフの地下坑道へ来ていた。


 ヴラド公は公爵なので結構偉いはずなのだが、ドヴェルグさんはその背中をフランクに叩いた。


「そりゃ仕方ないわい。公爵様もそこの可愛らしいイヤリングなんかが似合うようなら、ワシらもモチベーションが上がるんじゃが」


 そのセリフに他のドワーフたちも遠慮なく笑い声を上げた。


「言ったな。クウよ、どれでも好きなのを持っていってやれ」


「え?いや、でも……」


「遠慮することはない。こやつらは女を喜ばせるために働いているそうだからな。それに、ここは私の城の下だ。地下はドワーフたちに任せている以上できるだけ干渉はしないが、私の領地であるのだから一品くらいはいいだろう」


 そう、ドヴェルグさんたちの寝床兼仕事場は、なんとヴラド公爵城の地下だったのだ。


 私はドヴェルグさんの馬車から降りて、その既視感にびっくりした。


 どうやらそういった背景もあったから、アステリオスさんは多少縁のある私を紹介したらしい。


(そういえば、この城の地下は魔素の集まる地脈が走ってるって言ってたな。それで魔石が採れるんだとか、それを狙ったモンスターがよく襲ってくるんだとか聞いたような気が……)


 以前、それが原因で巨大な飛竜、ワイバーンロードが襲って来たことがあったのだ。


 辛くも撃退したが、あのモンスターはもはや完全に怪獣だ。ヴラド公とガルーダでも仕留め切れはしなかった。


(考えてもみると、城の地下が坑道になってるのは当たり前だよね。魔石を採るには掘らないといけないんだから)


 それでドワーフの一団に採掘、加工などが委託されているということだった。


「えっと……どうしようかな」


 私は作業台に転がったアクセサリーの数々を見て、少し困ってしまった。


 ドワーフさんたちの顔から察するに、どうやら本当にもらっていいみたいだ。


 しかしあまりに数が多すぎるし、どれもあまりに素敵過ぎて逆に選べない。


 迷う私にドヴェルグさんが尋ねてきた。


「お前さん、恋人はおるのか?」


「……いえ、残念ながら」


 本当に残念ながら、私は年齢=彼氏いない歴の人だ。


 この異世界に来て唯一目の前のヴラド公から求婚されたが、それを受け入れるにはいったん死んでヴァンパイアになる覚悟が要る。


「じゃあ仲のいい女友達はおるか?」


「あ、はい。それなら二人います」


 私はケイロンさんの奥さんであるカリクローさんと、サスケの妹であるリンちゃんを思い浮かべた。


 この二人とは結構仲良しで、実はよく三人で集まって女子会を開催している。


 お茶とお菓子を囲みながらくっちゃべるだけなのだが、これがすこぶる楽しい。


 異世界なんてところへ飛ばされてモンスターと戦いながら、つい殺伐としてしまう心をこの二人が癒やしてくれる。


 気づけばかけがえのない友人になっていた。


「お前さんと合わせて三人か。なら、このブローチはどうじゃ?ちょうど三点一組じゃぞ」


 ドヴェルグさんは銀白色のブローチを私の前に並べてくれた。全てに女性の姿が彫られている。


「わぁ……お洒落ですけど、なんだか神々しい感じもしますね」


「そりゃそうじゃろう。彫られておるのは運命と時の女神たちじゃからな。ウルド、ヴェルダンディ、スクルドの三姉妹じゃ」


 私もなんとなく聞いたことがある名前だ。三姉妹の女神様だったのか。


「つい先日、串団子みたいに三つ子になってる魔石が掘り出されてな。珍しいからワシが三姉妹の女神を彫ってみたんじゃ。元は一つの魔石じゃから、何かのきっかけで共鳴して良い効果をもたらすこともある。友人同士で持っておるといい」


「ありがとうございます。一点じゃなくて三点になっちゃいますけど」


「構わんよ。その分、働いてくれたらいい」


「頑張ります」


 気合を入れてうなずく私の肩に、ヴラド公の手が置かれた。


「カーバンクルが出るのは坑道のかなり下層だが、最近その辺りに妙な魔素を感じることがある。気をつけることだ」


「はい」


「もし危なくなれば私を召喚すればいいぞ。大抵のことはそれで何とかなるはずだ」


「……最悪の場合だけにします」


「遠慮せず気軽に喚べ。私は今日、城で事務仕事の予定しかないからな。いつでも歓迎だ」


 ヴラド公はそう言って笑ったが、召喚には代償を伴う契約になっている。


 一度目は血を吸われ、二度目は唇を奪われる。三度目は操を奪われ、四度目は死ぬまで血を吸われてヴァンパイアの眷属にされてしまう。


(気軽に喚べるわけないじゃん)


 私は改めてそのことを意識しつつ、坑道の奥へと歩き始めたドヴェルグさんの後を追った。



****************



「本当に深い坑道ですね。もうかなり下りた気がしますけど……」


 私は長い階段を下りながら、先を行くドヴェルグさんの背中に声をかけた。


 ドヴェルグさんは柄の長い戦斧を肩に担いで階段を下りていく。かなり重そうな武器だが、先ほど片手で軽々と持ち上げていた。


「確かにもう地上から百メートルは下っておるじゃろうな」


「百メートルもですか!?……でも、まぁそうか。この坑道はもう何百年も掘り進めてるんだから、広くもなりますよね」


 ヴラド公がまだヒューマンだった頃から魔石は採れていたという話なので、相当な年月採掘されているはずだ。


 しかしドヴェルグさんは首を横に振った。


「確かに何百年も掘られてはおるが、ほとんど広げられてはおらんぞ」


「え?」


 私は意味が分からず首を傾げた。どういうことだろう?掘ってはいるが、広げられてはいない?


「十分掘りきった坑道は土魔法でいったん埋めるんじゃよ。そしてまた百年も経てばそこに新たな魔石ができておる。魔素の流れる地脈が集まっておるおかげじゃな」


「資源が枯渇しないってことですか?すごいですね……」


 私は元いた世界のことを思い出していた。そこでは地下資源は有限あり、いつか無くなると言われている。


 それが再生可能だなんて、夢のような話だ。


 ドヴェルグさんは壁を拳でコツコツと叩いた。


「確かにここの地脈はすごいが、だからこそ管理する者に素質が求められる。いったん掘った鉱脈は百年使えないんじゃから、その辺りを考慮した百年単位の持続可能な生産計画が必要じゃ。目先の利益を追うような輩には経営できん。それに、一度立てた計画も需給のバランスなどを見ながら調整せねばならんしな」


「なんだが……地下資源っていうか、林業みたいですね」


「なるほど。確かに石炭や金属資源よりも林業に近いかもしれんな。ただやはり地下資源でもあって、ごくまれに魔素の地脈が変わって魔石が採れなくなることもある。そういった事態への想定と対処も必要じゃ」


 そんなこともあるのか。


 そういえば元の世界でも、炭鉱で栄えていた街が今では廃墟になっているという話を聞いたことがあった。


 ただ聞く分には『時代だな』とか『そんなこともあるのか』くらいにしか思わないが、それを糧にして生きている人、家族を養っている人もたくさんいるわけだ。


 資源が枯渇した後の生活をちゃんと考えておいてあげなければ、社会問題に発展してしまうだろう。


「幸いここを経営するヴラド公はその辺りの事にとても理解があってな。無茶な掘り進め方はしないし、魔石の需給にも常に気を配っておられる。それに、魔石が出なくなった場合のワシらの身の振り方も常時複数案が用意されておるらしい。ワシらは経営者には恵まれておるよ」


「へぇ……ヴラド公って意外とちゃんとしてるんですね。ちょっと見直しました」


 私の言い様に、ドヴェルグさんは声を上げて笑った。


「ホッホッホ!見直した、か。お前さん、公爵様をどんな人だと思っとるんじゃ?」


「うーん……隙あらば私をヴァンパイアのお妾さんにしようとしてる人、ですかね?」


「なるほどな。まぁ、それはそれで幸せな人生じゃとは思うが」


「いったん人生は終わりますけどね」


 私たちがそんな話をしている間に階段は終わり、その先にはかなり広い空間が広がっていた。テニスコート四、五枚分はありそうだ。


 ドヴェルグさんは肩に担いでいた戦斧を下ろし、石突を地面に刺した。


「着いたぞ。ここは特に魔素の濃い部屋で、質の良い魔石が多く採れるんじゃ。しかしその代わりにモンスターが発生しやすい。カーバンクルもよく出るんじゃが……」


 私たちは部屋を見回したが、照明用の光る魔石がいくつかあるだけで他には何も見当たらない。


「今は何もおらんようじゃな。しばらくしたら出てくるかもしれん。待とう」


「分かりました。一応、使役モンスターを出しておきますね」


 私はスライム三匹衆のレッド、ブルー、イエローを召喚した。


 が、すぐにドヴェルグさんから物言いがつく。


「ここではスライムはやめておいた方がいい」


「え?そうなんですか?」


「スライムじゃと、おそらく強い体当たりによる攻撃が主になるじゃろう。しかし壁や天井にぶつかれば坑道自体が崩れてしまう可能性がある。生き埋めになるぞ」


 私は落盤で埋もれる自分を想像してゾッとした。


 坑道もダンジョンと同じようなものだろうと思っていたが、認識を改めなければならないらしい。


「な、なるほど……」


 私はドヴェルグさんの戦斧を見て、ドラゴンハンズのカクさんを召喚した。


 この子なら斧と同じように坑道へ被害を与えずに攻撃できると思ったのだ。


「ふむ……ハンズか。それなら大丈夫じゃろう」


 ドヴェルグさんのOKも出た。


 あとはカーバンクルが出てくるまで待つだけだ。


 私たちは部屋の真ん中あたりまで来て、背中合わせに立った。それぞれ部屋の半分ずつに目を向けて、変化を見逃さないようにするためだ。


「……カーバンクルって、待ってたら出てくるものですか?」


「カーバンクルが出るとは限らんが、小一時間くらい待っておったら普通はモンスターの一匹くらい出てくるな。ゴースト系のモンスターが多いが」


「ゴースト系……って、幽霊のようなものですか?今まで遭遇したことがないんですけど」


「そうじゃな。まぁ要するに幽霊じゃ」


「……すごく出会いたくないです」


「そんな怖いもんじゃない。物理攻撃がやや効きにくい以外は普通のモンスターとさして変わらんよ。カーバンクルも魔石部分以外はゴーストのようなものじゃしな」


 そうなのか。


 とはいえ、やっぱり幽霊を相手にするのはちょっと恐ろしい。私の体は恐怖のせいかブルっと震えた。


 こわごわと部屋のあちこちに目を配ったが、今のところ変わったところはない。


(…………ん?)


 いや、よくよく目を凝らすと壁や天井、床が所々光っているように見えた。


 照明の魔石とはまた違った雰囲気の光のような気がする。


「もしかして、あちこちで光ってるように見えるのが魔石ですか?」


「ふむ……お前さんには分かるかね。ドワーフでも慣れないとすぐに視認できるものではないんじゃが、お前さんには才能があるらしい」


「そうなんですか?ちょっと光ってるような感じがしますし、その光もだんだん強くなってますし……」


「何?強く?」


 ドヴェルグさんは目を細めて近くの魔石を凝視した。


「確かに強くなってきとるな……というか……これは……異常な速さじゃが……」


 ドヴェルグさんがつぶやいている間にも光はどんどん強くなっていった。部屋中の壁や床、天井が点々と明るくなる。


 そしてそれらの光は次々と臨界を迎えたようで、あちこちでカメラのフラッシュが焚かれた時のような光が弾けた。


 普通の光とはちょっと違うものだったが、それでも軽く目の眩むような思いがする。


 そして気づけば部屋中のあちこちに、赤く光った魔石が浮いていた。


「……カ、カーバンクルが大発生しおった!!」


 ドヴェルグさんはそう叫んだが、正直なところ私にはいまいちピンとこなかった。


(小さな赤い魔石が宙に浮いているだけで、全然モンスターっぽくないけど……)


 そう思ったが、その印象はすぐに塗り替えられることになる。


 どの魔石からもユラユラとしたオーラのようなものが立ち登り、それが次第に形を得ていったのだ。


 それらは様々な形をしていたが、多くが蛇やドラゴンによく似たシルエットになった。


「これがカーバンクル……」


 綺麗だ。


 私はモンスターを相手に、ついそんなことを考えてしまった。


 ほの暗い坑道に赤く光る魔石が浮き、発光する流体が美しい生き物を形作っている。


 それはどこか神秘的であり、思わず見惚れてしまうほど綺麗だった。


「来るぞ!!」


 私はドヴェルグさんの叫びで我に返った。


 近くに発生した数体のカーバンクルが飛んでくる。私に向かって来たのは三体だ。


 そのうちの二体をカクさんが爪で引き裂いた。が、もう一体には届かない。


 ドラゴンの様な形をしたカーバンクルの口が、私の肩に噛みつこうと大口を開けた。


 その攻撃は、もし私が見惚れたりしなければ盾で防げていたタイミングだっただろう。しかしもう間に合いそうにない。


 私は魔素による身体強化を行いつつ、痛みに備えた。


 が、カーバンクルに噛みつかれたのは私ではなかった。


 ドヴェルグさんが右手で私の肩を引き、左手でカーバンクルの攻撃を受け止めてくれた。


「ドヴェルグさん!!」


 私は尻もちをつきながら叫んだが、ドヴェルグさんはすぐに腕を振ってカーバンクルを剥がした。


 そして宙に舞ったカーバンクルに戦斧を振り下ろす。


 真っ二つにされたカーバンクルは発光するドラゴンのような部分が消え、ただの魔石になって地面に落ちた。


「だ、大丈夫ですか!?」


「ワシらドワーフは丈夫にできておる!このくらいどうという事はない!」


 腕から多少の血が流れてはいたが、本当に大したことはないらしい。ドヴェルグさんは噛まれた腕を使って戦斧を縦横無尽に振り回した。


 相当な重さであろう戦斧が、まるで羽根でも生えたかのように飛び回る。


 一閃するごとにカーバンクルたちが断ち斬られていった。


 カーバンクル自体が弱いというわけではないはずだ。その証拠に、外れた尻尾の一撃が地面を大きくえぐっていた。


(ドワーフって、頑丈で力が強いんだ。まるで戦車みたい)


 私はドヴェルグさんを見て、頼もしさと共にそんな感想を持った。


 私のカクさんも負けずに奮闘している。鋭い爪が一振りごとにカーバンクルたちを引き裂いた。


 カーバンクルの本体は魔石だということだったが、発光体の部分を壊すだけでも十分なダメージを与えられるらしい。


 そして一定以上ダメージを受けたカーバンクルはただの魔石へと戻るようだ。


 ドヴェルグさんとカクさんの攻撃で、私たちの周りには元カーバンクルの魔石が大量に転がった。


 しかし、それでも敵はまだ何十体といる。


「一体一体は十分相手できるが……この数相手ではジリ貧じゃ。実験はいったん諦めて逃げるぞ!!」


「は、はい!!」


 私たちはカーバンクルを捌きつつ、入り口に向かって走った。


 が、カーバンクルは私たちの意図を察したのか、その多くが入り口前に集まってきて逃げ道を塞いだ。


「な……なんじゃこいつらは!?こんなにまとまった意志を持つカーバンクルなど、普通はおらんぞ!!」


 足を止めざるを得なくなったドヴェルグさんの前に、一際大きいカーバンクルが飛んできた。


 その一体は明らかに他よりも重い威圧感を放っており、魔石の輝きも強かった。姿としてはドラゴンというよりも蛇に似ている。


 白く光る大蛇の額で、菱形の魔石が怪しく光った。


「この個体も普通じゃない……まずいぞ」


 確かに普通の個体ではなさそうだ。


 というか、なぜか私にはこの白蛇の個体が全ての元凶であるように感じられた。そして、それを肯定するような事態が目の前で起こることになる。


 突如として白蛇のカーバンクルの額が眩しいほどに輝き、その直後に部屋中の床、天井、壁から新たなカーバンクルが発生した。


 すでに数十体のカーバンクルに囲まれているのに、それでさらに数十体が追加されたのだ。計百体は超えているだろう。


「これは……ちょっと絶望的な展開になってきておるな……」


 歯噛みするドヴェルグさんに私も同意だった。


 何よりもキツイのは、坑道の崩落を考慮すると大規模な攻撃ができないことだ。小規模な攻撃では数の暴力に抑え込まれてしまう。


 もし大規模攻撃が可能ならスライムたちを暴れさせたり、ガルーダのゴッドバードを使ってもいいかもしれない。


 しかしそれはできないのだ。他の攻撃方法を考えなければならない。


 理想としては、ある程度の威力を範囲限定で、しかも大量かつ同時に出せる攻撃がいい。


 そして、私にはその理想に心当たりがあった。


(本当はあんまり喚びたくないんだけど……)


 この際、背に腹は変えられない。


 私は左手の人差し指と親指で輪を作り、その人の名前を念じた。


 すると一瞬だけ輪が赤い輝きを帯び、直後に召喚が成立した。


↓挿絵です↓

https://kakuyomu.jp/users/bokushou/news/16817139559029197624


「おお。ついに喚んでくれたな、クウよ」


 状況的には明らかにピンチなのだが、ヴラド公は嬉々とした笑みを見せた。ホント嬉しそうだ。


 そして、その姿はドヴェルグさんを大いに安心させた。


「ホッ、串刺し公を喚びおったか!ならもう安心じゃわい。ワシらは横になって昼寝でもしとろうか」


「ああ、そうしていろ!!」


 ヴラド公はざっと周囲を見回すと、地面に向かって手をかざした。その動作でカーバンクルたちの下の地面に血のような染みが広がる。


 そしてヴラド公が腕を振り上げるのと同時に、血の色をした槍が天井へ向かって伸び上がった。


 その血槍にカーバンクルたちは一体残らず貫かれた。


 それからその姿を一瞬揺らめかせた後、ただの魔石となって落ちていく。


 魔石と地面とがぶつかるカラカラという音がいくつも重なった。


 一撃だ。ほんの一撃で百体以上いたカーバンクルたちは全て仕留められた。


 やはり串刺し公の名は伊達ではない。


(やっぱり召喚契約しておいて良かった)


 私はそう思ったものの、もちろん代償のことも忘れてはいない。


 そして、それはヴラド公も同じだった。


「クウよ、契約通り一回目の代償を……」


「あっ!!一体だけまだ生きてるカーバンクルがいますよ!!」


 私は目ざとくそれを見つけて即座に飛びついた。なんとか代償をごまかせないかと期待してのことだ。


 まだ生きているカーバンクルは、例の一際大きな白蛇の個体だった。


 その発光体はすでにきちんとした形を維持できないほどに消耗していたが、この個体だけまだ魔石になりきっていない。


 こいつがカーバンクル大発生の元凶のように思えたが、実際のところはどうなのだろう。


 もしそれができるだけの力があるのなら、強い個体である可能性が高い。


「セルウス・リートゥス」


 呪文とともに私の人差し指が青く光り、魔石へと差し込まれていく。


 隷属魔法を成立させるには私が相手を屈服させないといけないが、私の召喚したヴラド公の攻撃でやっつけたのだ。


 それは即ち、私が屈服させたのと同じだという認識で間違いないらしい。


 カーバンクルの赤い魔石が一瞬だけ青く光り、その表面に蔦のような紋様が浮かび上がった。隷属魔法の完了だ。


 隷属魔法が完了したモンスターは受けていたダメージが完全回復する。


 カーバンクルは再び白蛇のような姿に戻ったが、そこにも蔦状の紋様が浮かんでいた。


「よしっ、隷属完了。君の名前は……バンクルだ!!バンクルには実験のお手伝いをしてもらうからね」


 私はヴラド公に発言のタイミングを与えないようにするために、すぐにドヴェルグさんの方へと向き直った。


「ラッキーなことに実験はできそうですよ。どうしたらいいですか?」


 ドヴェルグさんはヒゲを撫でながら教えてくれた。


「ふむ。では、まず魔石のみの姿になるよう命じてくれ。できるはずじゃ」


 言われた通りに念話でそれを伝えると、バンクルは指示通り菱形の魔石のみの姿になった。


「よし。次にワシの渡した指輪にセットするんじゃ」


「セット……でも指輪よりも魔石の方がかなり大きいんですが」


「指輪に魔素を送り、それから魔石を近づけてみろ」


 言われた通りにすると、指輪のすぐそばに魔石が浮いた状態で固定された。


 指輪を動かすと魔石もついて来る。


「これで準備は完了じゃ。あとはそのカーバンクルの魔石に魔素を込めればいい」


「えっと……こうですか?」


 私がバンクルに意識を集中すると、少し光が強くなったように見えた。魔素を込めることには成功しているのだろう。


「でも……特に何か起こったような感じがしないんですけど……」


 私は自分の体を見下ろし、さらに背中や足の裏までチェックしたが、やはり何も変化は見つけられなかった。


 ドヴェルグさんはまたヒゲを撫でながら尋ねてきた。


「ふむ……見た目の変化ではなく、何かしらの能力の違いなどは感じないか?」


 私は身体強化で体を動かしたり、スライム三匹衆を召喚して動かしてみた。


 が、やはり特段の変化は感じられない。


「やっぱり変わりないみたいです」


「ふむ……残念ながら、ワシの立てていた『仮説.二』が正しかったようじゃな」


「仮説.二?」


「そうじゃ。ワシはこの実験を考えるに当たり、二つの結果を仮定した。その指輪は魔石の属性を装着者に付与するが、召喚状態のカーバンクルは術者の魔素で活動している。だから付与される属性は術者自身のものじゃ」


「『同じ属性だから何も変わらない』、というのが仮説.二ですか。じゃあ、仮説.一はどんなものだったんです?」


「仮説.一は『その者の持つ性質、特殊能力や才能が重ね塗りされて強化される』というものじゃ。しかし、やはり強化はされないということじゃな」


「そうですか……」


 私の特殊能力や才能というと、この異世界に飛ばされた時にあのおじいさんから付与された召喚士としての才能だろうが、それも全く変わった感じがしない。


 結果は結果としてどうしようもないが、要は実験はスカだったわけだ。


 何だか申し訳ない気持ちになった。


 そんな私の肩をドヴェルグさんが優しく叩いた。


「そんなに残念そうな顔をするな。実験というのはこういうネガティブな結果を基にして少しずつ進歩していくものじゃ。それにこの結果は大方予想通りじゃった。性質付与は、普通の魔石を使った場合でもその魔石のポテンシャル以上の能力は付与できん。召喚されたカーバンクルを使っても同じだったということじゃ」


 なるほど。


 普通の強化なら魔素を込めれば込めるほど強くなるが、性質の場合はそうではないということだろう。


 納得している私のもう片方の肩を、今度はヴラド公が叩いた。


「お前たちヒューマンは結果を急ぎ過ぎる。私は短命な種族こそゆったりと生きるべきだと思うぞ。でなければ人生の楽しみなど分からんものだ」


「はぁ……そういうものですか」


「そういうものだ。私のような長命種は否応なくゆったり生きるからな。で、今回の召喚の代償だが……」


 げげっ


 ちゃんと覚えてたか……


 このままスルーできないかと淡い期待を抱いていたのだが、やはり無理らしい。


 私はヴラド公の口から覗く白い牙に目をやった。


 血を吸うための牙なのでもちろん怖いといえば怖いのだが、吸血されるのは凄まじく気持ちいい。


 それを体験してしまっている私の体は無意識に熱を帯びてきた。


 ただし、あまりに気持ちが良すぎて体が壊れそうになるのだ。


 普通の人ならすごく気持ちいい、くらいで済むような快楽も、この異世界に来て発情体質になってしまった私にとっては精神崩壊の恐怖を伴うほどの強過ぎる快楽になる。


(でも……仕方ないよね。約束だから)


 私は自分自身に言い訳するようにそう思い、シャツをずらしてうなじと肩を露出させた。


 体が熱くなり、自分でも肌が紅潮しているのがよく分かる。


 約束だから仕方ない。さぁ、バッチこーい。


「どうぞ……」


「いや、今日血を吸うのはやめておこう」


 え?


 私はちょっぴりの期待があった分、変に肩透かしを食ったような気分になった。


「や、やめるんですか?」


 そうなの?なんだか安心したような、残念なような……


「もちろん全くの無しにするつもりはない。今日はやめておくだけだ」


「じゃあ、いつ……?」


 ヴラド公は私の質問に質問を返した。


「クウよ、先日撃退したワイバーンロードを覚えているか?」


 覚えているっていうか、忘れられるはずがない。


 私が今まで見た中でも、ピカイチに危険なモンスターだった。


「それはもう、もちろん」


「そのワイバーンロードを討伐する遠征隊が組まれることになった。私もその一員だが、クウの名前も挙がっている。その時にクウの上質な血が飲めれば最高の補給に……」


「ちょ、ちょっと待ってください!!」


 寝耳に水な話に、私は慌ててヴラド公の言葉を遮った。


「そんなの聞いてません!!私行く気ありませんし!!」


 私は全力で拒否をした。


 当然だ。あんな怪獣を相手にしていたら命がいくつあっても足りない。


 私がモンスターを相手にすることもある仕事をしているのは、今後起こりうる事態に備えたトレーニングのためだ。


 この異世界に飛ばされるに当たり、お爺さんから『召喚士として世界を救え』と言われている。


 世界を救うのが何をどうする事なのかは一向に分からないままだが、その時に召喚士としての能力が求められる可能性は高いだろう。だから不本意ながら戦っている。


 しかし、あのワイバーンロードの相手は完全に別枠だ。


 獅子は子供を千尋の谷に突き落とすというが、現実でトレーニングのために死ぬかもしれない谷に落ちたりはしないだろう。


 っていうか、ライオンはそんなことしないし。実は子煩悩らしいし。


 ヴラド公ですら先日戦った時にはかなりの深手を負っている。


 首をブンブンと横に振る私へ、ヴラド公はにこやかな笑顔を見せた。


「そうか?しかし評議長のフレイはクウの参加に関し、既定路線のようなことを言ってたぞ?」


 何!?あのイケメンエルフめ……


 人を勝手に死地に送り込まないでほしい。


「そんな、いくら偉い人に言われたって……」


「なんでもサスケというスライムと、ケンタウロスの賢者ケイロンも参加するという話だ。この二人が来るならクウは間違いなく来るだろうという話だったが」


「……え?」


 私がこの異世界に来て一番お世話になっている二人が?


「な、何で二人が?」


「それは分からんが、ワイバーンロードは険しい山の上に住み、多くのモンスターを従えているからな。ワイバーンロードにたどり着くまでに、何かしらの役割があるのかもしれん」


 うーん……


 サスケとケイロンさんの事情は分からないものの、二人が行くなら私も無視するわけにはいかない気がする。


 ヴラド公も的確にそこを突いた指摘をしてきた。


「もちろんクウがいれば二人の危険は相当減るだろうな。ケイロンなど、私と同じく召喚契約を結んでいるというではないか。召喚状態なら死ぬこともない。それに非力なスライムも、クウなら守ってやれるだろう」


 最近のサスケはヴラド公が思っているほど非力ではないが、確かに二人だけを危険な討伐に向かわせるのは気が引けた。


「……まさかですけど、私を引っ張り出すためにフレイさんが悪知恵を働かせたんじゃないですよね?」


「さて。それは分からんが、クウは討伐対象のワイバーンロードとの戦闘経験がある。なんとかして引っ張り出したいと言うのが本音ではあるだろうな」


「……もしかして、ヴラド公も推薦したんじゃないですか?」


 先ほどの妙ににこやかな笑顔が私の心に引っかかっていた。


「さてさて。どうだかな?」


(これ絶対二人が悪巧みしたやつだ!!)


 いっそうにこやかな表情になったヴラド公を見て、私はそう確信した。


(まったく……ヴラド公もフレイさんも!!)


 二人とも権力者であり、世間では色んなことが許されてしまうほどのイケメンだ。


 しかし、だからといって私は許してあげるつもりはない。


(何か腹いせをしないと気がすまないな……)


 私はちょっと考えた末、今晩セルフケアの時に二人の綺麗な顔をめちゃくちゃにしてやろうと心に決めた。



***************



☆元ネタ&雑学コーナー☆


 ここから先は筆者が話の元ネタなどを気の向くままに書き記しているコーナーです。


 本編のストーリーとは関係ないので興味ない方は読み飛ばしてください。



〈ドワーフとドヴェルグ〉


 ドワーフといえば小さい、頑丈、力が強い、エルフと仲が悪い、地下に住む、手先が器用……など種々の定型化されたイメージがあるかと思います。


 そのあまりに多い設定からも推察できますが、単一の起源ではありません。


 神話や多くの民間伝承が元になり、そこからファンタジーの祖『指輪物語』などで描かれたドワーフの設定が現代ファンタジーにおけるドワーフの共通認識になっているようです。


 そして『ドヴェルグ』はその起源の一つとされる、北欧神話に登場する闇の妖精です。


 地下に住み、武器や宝物を作るのが上手いということなので確かにドワーフっぽいですよね。


 でもこのドヴェルグ、太陽の光を浴びると石になるとか、体が弾けて死ぬとか言われています。


 ちょっとそのままだとファンタジー世界の一種族としては使いづらいですね……


 ちなみに民話だと『白雪姫と七人の小人』に登場する『小人』もドワーフです。


 英題だと『Snow White and the Seven Dwarfs』ですし、筆者が子供の頃に見た絵本の中にはちゃんと『白雪姫と七人のドワーフ』という題名になってるものもありました。



〈カーバンクル〉


 割と多くの作品に出てくる幻想生物ですが、その元ネタはかなり曖昧なものです。


 初出は十七世紀の書物にある目撃談で、


『燃える石炭のように輝く鏡を頭にのせた小動物』


とだけ書いてあるそうです。


 つまりどんな形をした生き物なのか、さっぱり分からないんですね。


 しかもカーバンクルといったら『宝石とセット』がほぼ当たり前になってるのに、元ネタでは『鏡』なんですよ。


 どうも後の民間伝承で宝石と結び付けられ、『その宝石を手にすれば富と名声を得られる』という噂で盛り上がったみたいです。


 筆者は名作ダンジョンRPG『魔導物語』に出てくる『カーくん』がミステリアスで好きなのですが、まさか元ネタまで超ミステリアスとは思いませんでした。



〈地下資源〉


 石油、石炭、天然ガスなどの地下資源は当然のことながら有限であり、いつかなくなります。


 ではいつなくなるのでしょうか?


 筆者は父親が石油コンビナートで働いていたこともあり、小学生の頃(二十年以上前)に『石油はあと四十年くらい』という話をよく聞かされていました。


 では二十年以上経った今、あと何年と言われているのか?


 なんとこれが『四十年以上』なのです。


 計算が合いませんが、新しい油田が発見されたり、採掘技術が向上したりで延命を続けられているそうです。


 ただあくまでそれは延命措置であり、やはりいつかはなくなるのです。


 枯渇後の世界に最も寄与するものは、個人的には『科学技術の発展』だと思っています。


 とはいえ『消費者の意識』も無駄ではないでしょう。


 意識高い系とか正直苦手なのですが、できる範囲でできることをするのは悪いことではないと思います。


 ……と書きながら、つい先日ソーラーパネルの営業さんにお断りを伝えたばかりなんですけどね(汗)



***************



お読みいただき、ありがとうございました。

気が向いたらブクマ、評価、レビュー、感想等よろしくお願いします。

それと誤字脱字など指摘してくださる方々、めっちゃ助かってます。m(_ _)m

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