第6話 踏んだり蹴ったり

 ◇◇◇◇◇


 それから1ヶ月経った頃、事件は起こった。


「橘くん!ちょっといいかな?」


「はい、なんですか?」


「うん、ちょっと。ここでは話せないから。」


 会社の上司に呼ばれて誰もいない会議室に。



「そこに座ってくれ。」



「なんですか?」



「明日から来なくていい。」


「へ?」


「籍は残しておく。その間、働かなくても給料は出る。社長も了承済みだ。もし、辞めるなら、1年分の給料を出すそうだ。」


「どういうことですか?」


「お前、急にまた有名になっただろ。そのせいで会社のみんなの私生活に影響が出ている。もう抑えきれん。」


「あ!…… そうですか。すいません。」


「いや、お前には申し訳ないと思ってる。だが、これが精一杯だった。」




「はい………会社辞めます。」



「そうか…… 助かる。処理は全てこちらでやっておく。これに一筆書いてくれるか?」


 サラサラ。


「また、機会があれば、飲みにでも行こう。」


「はい、3年間ありがとうございました……。」



 ◇◇◇◇◇



 みんなに軽く挨拶してから、リュックを担いで会社を出た。

 涙で曇って、前が見えましぇーん!


 ゴーン!


 柱にぶつかった。


 ドッシャー!


 段差に蹴つまづいて、ダイビングヘッド。


 ドッカーン!バキ!


「こらー!前見て歩けやー!」


 自転車に衝突された。吹っ飛んで壁に激突!


 くそー、痛ってー!

 これは腕折れてるわ。肋骨もいってるかも。


 颯は、ぐちゃぐちゃのドロドロのバキバキ状態で、あまりのひどさに、ギャラリーも引く。



 あー、痛いけど、動きたくない……。

 このまま、白い部屋に行って、白いおじいちゃんに会うのかなぁ?

 もし会ったら、テイマーにしてもらおう。



「ヒール!ヒール!ヒール!

 もう、颯!何してるのよ!」


「あれ、静!ありがとう……。 元気?」


「もう!元気?じゃないわよ!

 馬鹿じゃないの!?

 柱にぶつかって、ダイビングヘッドして、自転車に撥ねられて、どこ行くつもりよ!」



「うちに帰るところ……さっき会社辞めた。」



「え?」



「ショックで頭がボーッとしてた。ありがとう。でも、もう大丈夫。」



「そうなんだ。ふーん。

 心配だから、うちまで送るよ。」


「へー、男前だな!あ!女前か!」


「しょーもな!ほら、立って!」


「おう。サンキュ。」


「なんか、話するのひさしぶりだね。」


「そうだな。大丈夫か?俺と喋ってて。」


「大丈夫。そっちこそ、ずっと、避けてたでしょ。」


「はぁ?逆だろ。ん?まあ、いっか。」


「そうだね。そういえば、D級に上がったんだってね。」


「メツベ情報?」


「ツッタカ情報(笑)」


「そう。上がったよ。でも、まだ自信ないけどね。」


「やらないの?」


「そうだな。もう仕事ないし。どうしよっかなー?」


「やりなよ。もしやるなら、一緒に行くよ。」


「あいつらどうすんの?」


「朱美はともかく、この前、颯と会ってから、男2人とはちょっといろいろあってね。

 今は、あんましなんだよね。」


「へー。俺がらみとか?」


「まあ、そう。」


「そっか〜。悪かったな。」


「別に〜(笑)」


 他愛のない話でも嬉しかった。

 やっぱり静は女前のいい奴だ。



 ◇◇◇◇◇



 ゴロゴロ〜。ゴロゴロ〜。


「お兄ちゃん!ゴロゴロしすぎ。」


「そうなんだよね。」


「会社辞めてから10日も経つんだから、家の中ばかりじゃダメだよ。」


「そうなんだよね。」


「メツべで静姐と熱愛発覚って出てたけど、ほんとなの?」


「そうなんだよね。」


「へぇー、そうなんだ。良かったね。」


「え?あ、ちがう、ちがう。うちまで送ってもらっただけだから。そんなわけないでしょ!

 向こうは、ミス桜蘭高校なんだし。相手にされるわけないっしょ!」


「そんなの関係ないと思うけど。私もミス桜蘭だよ。」


「え?そうなの?」


「そうだよ。大したことないし。」


 いえいえ、大したことあるから。

 マンモス校である桜蘭高校で年1回行われるミスコンテストは、全校生徒の投票で行われる行事で、3年生の女子全員の中から選ばれる名誉ある称号である。

 男子女子ともに人気がないと選ばれない。

 ちなみに、俺の世代の準ミスが朱美だったりするから、美しさが勝ってるんだと思うけど。

 そういう意味では、静も朱美もアイドル並みに可愛い。

 桜がミス桜蘭だったのは、びっくりしたが、兄弟の贔屓目抜きにしても、可愛い。

 兄として、誇らしいぞ。このやろう!


「それじゃ、行ってくるから、ゴロゴロしてちゃだめだよ!」


「あー、いってら。」



 うーん、そろそろどうするか?決めないといけないね。


 ステータスオープン!


〈ステータス〉

 橘 颯 25歳 探索者LV4

 生命力:48

 魔法力:40

 戦闘力:20

 防御力:20

 瞬発力:20

〈スキル〉

 なし

〈隠しスキル〉

 マイ・ダンジョンLV2

  →ルームLV1

  →デイリー〈経験値〉LV1


 あれ?スキルレベルが上がってる。

 いつ上がったんやろ?

 しまった!急に上がるんかい!

 ゴロゴロしてて、全然見てなかったからわからんかった!


 デイリー〈経験値〉ってなんやろ?

 ぱっと見、分からんもんばっかやね!


 まあ、いっか。

 やることないし、とりあえず、試してみよ。


 これは、チートの予感がぷんぷんしてますね!悪いことがあるといいこともあるもんです。


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