第5話 それでも覚えていてほしい

 母と娘が待っている。


「緊張するとめっちゃ喋るし、せっかちだね」

「はいはい、うるさいのね」

「うちもそうだよ、やっぱり親子だね」

「あんたはゆっくりおっとりでしょ?」

「緊張したり焦ったりすると、そんな感じになる」

「みたことないよ」

「家じゃ…ああヒステリックになるか」

「そうね、おばあさんもそうだった」

「そうだったの?初めて聞く気がする」



 ここは病院の待合室、あと10分といわれて待っている。5分ほどで立ち上がった母を止める娘。祖母の入院後の病状説明に来ている。


「おばあさん、母親らしくない人だった」

「そうなの?全然そんな感じじゃないと思ってた」

「料理とか掃除とかできなくて」

「お母さんやってたって言ってたもんね」

「覚えてんじゃない、話したの」

「でも母親らしくないってのは初めて聞いたよ」



 待合室の窓は少し開いていて、換気中。春の風と日差しが差し込んでいる。


「お母さんはお母さんらしいよ」

「…そう?」

「すごいなっていつも思うよ、料理全然できないもん、うち」

「やっていくうちに馴れるから」

「味付けがわかんないんだよね…お母さんいつもケチ臭いとか入れすぎとかばっかで」

「それこそなんとなく常識で考えたらわかるでしょ」

「わかんないよ、」

「もっとやる気を出してやんないと…あんたは昔から…」


「◯◯さーん」


「「はーい!!」」


 母と娘は笑っている。


この後すぐ暗くなるが、また晩ご飯の話で笑い出す。そうして日々を繰り返している。

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さよならを忘れて 新吉 @bottiti

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