試験

 "これから試験を始めます。試験時間は15分です。私が「試験開始」の合図をしたら、目の前のプリントを裏返して問題を解き始めてください。…では、試験開始です"


 …?ここはどこだ?俺は何故試験を受けているんだ?ううん…分からない。分からないが、スピーカーのアナウンスに従って、とにかく目の前の問題を解かなくちゃいけない事はわかる。


 「問① 1+1=?」


 なんだこりゃ、簡単すぎるだろう。答えはもちろん「2」だ。さっさと書いて次に行く。


 「問② な姿だ 傍点部を漢字で書きなさい」


 これも簡単だ、「不気味」っと。どうも子供のテストみたいだな。さて次はなんだ?


 「問③ 日本の都道府県の数を答えなさい」


 はいはい、47だ。ん、少し紙を汚しちまった。


 「問④ あなたの家族を書きなさい」


 んん?急に問題のニュアンスが変わったな。家族…家族か。うちは4人家族だけど全員の名前を書く必要もないよな。適当にオヤジの名前でも書こう。…そういえばこの前オヤジと一緒に家で食った肉、美味かったなー。


 「問⑤ あなたは人間ですか?」


 なに当たり前のことを。大きく「はい」と書いてやった。勢いよく書いてやったから、手元がブレちまったけど。片腕で書いてるからそりゃブレるか。…なんで俺は片腕で書いてんだ?あれ、そういえば左腕がうごかせないぞ?


 「問⑥ いま食べたいものはなんですか?」


 うーん、やっぱり肉かなー。さっき家で食った肉のこと思い出したら、また食いたくなってきた。あーニクたべたい。カミに「にく」とかく。にく、おにく。にくにくにくにく…あ、またかみよごしちゃった。なんのよごれだっけこれ、ああ、これ、おれの からだから くさっておちた にく 




 「…博士、やはり新薬の効果は10分ほどです。それを過ぎると、被験者は通常個体と変わらない動きに変化しました。また、被験者は正しい認識が出来ていないようです。部屋を鏡張りにしているのに、自分の姿を疑問に持ちませんでした」


 「ふーむ、左腕の欠損にも?」


 「はい。家族についての問いにも大きな反応は見られません」


 「あらー、彼は父親と共に妹と母親を食い殺してるんだけどねえ。そっか、それでも反応しなかったか…けど、テストを解けるようになったのは大きな成果だね」


 「そうですね」


 「しっかしお偉いさん方は何考えてんだろねえ。『ゾンビ化した人間の意識を戻す新薬の開発』なんてしたところで、姿は元に戻らないのにさぁ。もしそれで完璧に意識が戻っちゃったら、今度は罪の意識やらなんやらで発狂するでしょうに…」

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