第7話 笑って欲しいから


 ここ何日か、寝る前は長閑さんとインターネットの電話?をするのが日課になっていた。

 小学生の頃は転校することが多かったから、ちゃんとした友達とかよく分からないけれど……

 皆、こんな風に学外で交流しているのだろうか?

 まぁ気晴らしになるし……長閑さんが嬉しそうな顔で話してるからいいけど。


「アンナさん、おはよう♪」

「おはよ…………なんでここにいるの?」

「ふふっ、アンナさんと登校したくて。だ、駄目だった?」

「……ほら、信号変わったよ」


 私達の通学路が交わる場所に立っていた長閑さん。

 いつから待っていたのだろうか……


 今朝食べた物、宿題、好きな色、空の色。

 他愛もない話をしていると、やけに早く学校に着いた感覚がした。

 いつもと同じ時間なのに……変なの。


 ◇  ◇  ◇  ◇


「ねぇアンナさん、今日の給食何だろなゲームしない?」

「さっき献立見ちゃったから私の勝ちだけど……」

「じゃあ私一人でやるね。んーとね……」


 一人でゲームになるのだろうかと考えていたけど、楽しそうに悩んでいる長閑さんを見て思考を断ち切った。

 因みに竜田揚げや春巻きなんて名前を述べているけど、正解は鮭のホイル焼き。


「当たってるかなー。給食楽しみだね♪」

「いや……その……うん」


 彼女のようにもう少し社交的になれば、世の見え方も変わってくるのだろうか。

 少なくとも長閑さんは私よりも幾倍も人生を楽しんでいるように見えた。


 ◇  ◇  ◇  ◇


 で、いよいよお待ちかねの時間。

 銀色のアルミホイルに包まれたそれを見て、長閑さんは少しだけ引きつっていた。


「あの中に竜田揚げがある可能性も……」

「残念だけど鮭と玉ねぎとしめじだよ」


 私が言い終わると、少し俯き苦笑いをする長閑さん。それはいつも明るい彼女が見せたことのない暗い表情。

 …………半日楽しみにしていたんだし、もう少し優しく言ったほうが良かったのかな……どうしよう……


「私ね、しめじだけはどうしても食べられないの……頑張って口に入れても……何回も何回も吐き出しちゃって……」


 箸でしめじを突きながらから笑いする長閑さん。

 成る程……嫌いな食べ物だったんだ。

 家とか部屋とか見る限り長閑さん育ち良さそうだし、残すっていう選択肢は無いのだろう。


「私が食べるから。だからその……そんな顔しないでよ」

  「でも口の付いた箸で突いちゃったし……間接キスになっちゃうよ……?」


 彼女の笑顔は私を狂わせる筈なのに……

 彼女が笑顔で無いと、余計に狂ってしまう。

 

「……いいから頂戴」

「い、いいの? はい、あーん……」

「じ、自分で食べるから!!!」

「…………ふふっ。アンナさん頬張り過ぎだよ」    


 ……やっぱり笑ってる方がいいじゃん。

 

 ◇  ◇  ◇  ◇


『そういえば思ったんだけど、アンナさん無理して食べなくても私が残せば良かったよね』 

「そ、それで良かったの!?」

『ふふっ、でも嬉しかった。ありがと、アンナさん』


 ……ホント、調子狂うんだから。

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