第31話 聖歴152年7月12日、まきびし

 ゴブリンとの実戦だ。

 ラズが先頭切って歩き、ジューンが続く。

 俺が一番後方で見守る役だ。


 ラズのスパイクの音は少し問題だな。

 ゴブリンは耳が良い。

 奇襲はまず無理だろう。


 草が生い茂る床も台車を押すのには向かない。

 背負って運ぶより効率が良いが、猫車の方がもっと良いだろう。

 手持ちにはあるが、あるとは言わない。


 ゴブリンが通路をやってくるラズが駆け出した。

 間合いに入った所で吹き矢を吹いた。

 ゴブリンは一瞬気を取られた。

 短剣の間合いに入る。

 短剣で突くとと共にスパイクで足を踏む。


「ぐぎゃあ」


 ゴブリンの絶叫が聞こえた。

 短剣の殺傷力は低いな。

 急所を狙わないと。


 だが、確実にダメージは入った。

 足のダメージはそれほどではないな。

 短剣もだが毒でも塗らない限り殺傷力は上がらないだろう。


 毒は慣れてないと自分自身を傷つけた時が厄介だ。

 とにかく吹き矢はともかくスパイクは今一つだ。


 ジューンが唐辛子爆弾を投げる。

 ラズが目の前にいるのでボウガンは使えない。

 だが、唐辛子爆弾が取り出しやすくなったので、戦力はアップしている。


 ラズがゴブリンを仕留めたようだ。


「足のダメージは駄目ね。それほどでもないわ。足を引きずるぐらいのダメージを与えるには、どうしたら良いかしら」


 ラズが考え始めた。


「うちの方は今のところ問題なしや。リュックではなく木箱の方がええって事ぐらいやな」


「上から攻めるより下からの方が良さそうね。とげの付いた何かを投げれば。私達が怪我を負わないように靴底が丈夫な奴を履かないとね」

「なら、安全靴だな。陸上のスパイクより安い。俺とジューンは既に履いているがな」

「安いのなら、とうぜん貰えるわよね。それと、踏んだら痛いのをお願い」

「まきびしだな。そっちは釘と針金を出してやるから作れ。工具も一通りそろってる」


 俺が見本を一つ作る。

 ラズがそれを元にまきびしを作り始めた。

 物の30分で100個ぐらいが出来上がる。


「今日は安全靴を出せないから自分で踏むなよ」

「そんなへまはしないわ」


 まきびしを触る為に厚手の手袋をラズに装備させる。

 これで準備はオッケーだ。


 ゴブリン4匹の部屋に突入する。

 ラズがまきびしを撒く。

 ゴブリンの動きが悪くなった。

 踏んだら痛いというぐらいの知能はあるんだな。


 床の草がまきびしを見えにくくする。

 意外に使えるな。


 ラズがゴブリンと対峙する。

 ジューンが横に出てボウガンを撃つ。

 3張りあるので、2つが当たったようだ。

 だが致命傷ではない。


 即死にするのは難しい。

 急所に当たらないとな。

 胴体では偶然当たらない限り駄目だ。


 そこをいくと唐辛子爆弾は視界を奪う。

 一時的に戦闘不能にするわけだ。

 どっちの方が良いだろうか。


 それから、傷を負ったゴブリンにラズが止めを刺していく。

 危なげなく4匹には勝てた。

 攻撃のバリエーションが広がったと言えば、戦力アップなのだろう。


 倒し終わってからが忙しい。

 まきびしの回収もしないといけない。

 回収しないでダンジョンに飲み込ませた方が良さそうだ。

 草をかき分けて探すより作った方が早い。

 釘と針金はスライム・ダンジョンの魔力で沢山買ってある。


「どうかな感想は?」

「ボウガンは必殺でもないんやね」

「まあな、当たり所によるって事だな」


「まきびしだっけ、思ったより使えるわ。ゴブリンは靴を履いてないからね。私も軽く踏んじゃったけど、靴のおかげで痛くなかったわ」

「よし、ここでまきびしを量産しよう」


 ジューンが見張りで、俺とラズがまきびしを作る。

 瞬く間に数百個出来た。


 それから実戦を繰り返した。

 着実に強くなっている。

 彼女達のレベルも上がっているのだろう。


 部屋を8つ制覇して今日の探索は終わった。

 この分でいくと彼女達だけでこの階の制覇は達成できそうだ。

 俺もいよいよ覚悟を決めないとな。

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