第30話 聖歴152年7月12日、模擬戦

「考えたんやけど、うちにメイスは合わへん」

「私も槍がいいかと言えば、自信がないわ」


 今日もダンジョンに出かけようと宿から出る時に二人がそう言った。


「俺は他の人に指導できるような免許皆伝とは違う。二人の思う通りにしたらいい。金はいくらでも出す」


 人工宝石はまだたんまりとある。

 このダンジョンを踏破すれば、多少の出費など取るに足らん。


 投資するつもりでバンバン行こう。

 武器屋に入って二人が武器を眺める。


 ラズは短剣を二つ、ジューンは盾を手に取った。


「私は短剣の双剣でいく事にする」

「うちは盾がええやけど、どれも重い」

「仕方ない。ジューンの盾は俺が出してやる」


 ポリカーボネートの盾を出してやった。

 これは警察なんかもたしか使ってた。

 軽量で丈夫だ。

 スライム・ダンジョンのコアの魔力で買っておいたものだ。


 俺が使おうかと思ったが、予備もいくつかある。

 1万円から3万円で買えるから安いものだ。


「なかなか、ええね」


 ジューンは片手で装備出来る安いのにしたようだ。

 これなら1万円を切る。

 壊しても問題ない。


 そして、ジューンは武器屋のボウガンを手に取った。

 後衛に徹するつもりだな。

 だが、ボウガンは熟練しないと味方に当たる。


「そんな心配そうな目ぇで見んでも、使う時は前に誰もおらへん時を狙う」

「まあいいか」


 背中にボウガンを背負うと唐辛子爆弾の入ったリュックが邪魔だな。

 ジューンはどうするつもりだろう。


「あかん、装備できひん」


 こういう時に使える物を俺は知っている。

 手押しの台車だ。

 かなりの荷物が積める。

 手助けするべきか。

 いいや、もう少し見てみよう。


「ああん、リュックも不満だったんや。背中からやと、取り出し難い。何や便利なもん出してぇや」

「仕方ない。台車だ。売り物にしようかと思ってた。実地試験にちょうどいい」


 ジューンはリュックとボウガン3張りを台車に積んだ。

 そして押してみて、にっこり笑った。


「これなら軽い」

「問題点を挙げるとすれば、積んである武器を敵に奪われる事だな」


「そうやね。気ぃつける」

「ラズは俺と模擬戦するか?」

「ええ、胸を借りるわ」


 武器屋を出て広場でラズと対峙する。

 ラズは木の短剣を両手に持って構える。

 俺は二刀流用の竹刀を構えた。

 これは鍛練用に買っておいた物だ。


 俺は竹刀を振りかぶった。

 ラズがステップを踏みながら隙を伺う。

 ラズが突っ込んで来る。

 俺は竹刀で軽く叩いた。

 ラズは手を打たれた。


 スピードが足りてない。

 女性なので、男性よりリーチが短いので更に踏み込む必要がある。


 それから何度も対戦したが、ラズは俺から一本も取れなかった。


「しょげるなよ。俺のレベルは119だ。技を使わなくても、ラズ程度だと楽々対応できる」

「分かっているわ。戦闘訓練を本格的に受けたわけじゃないし。手ほどきしてくれた人にも、まったく敵わなかった」

「ゴブリンとはたぶん互角より少し上か。だが、確実に負傷するレベルだな」


「どうすれば良いのよ。安易に教えてくれと言っちゃ駄目よね」

「仕方ないな。ジューンに盾と台車を出してやったし、ここは知恵を出してやるか。いいかゴブリンの弱点は靴を履いてないって事だ。鋲のある靴で踏んでやれば隙も生まれるだろう」


 スポーツ用の鋲があるスパイクは1万円以下である。

 一日の魔力で買える。

 仕方ない出してやろう。


 足のサイズを測り、スパイクを出してやった。


「これって動きやすいし、かなり良いんじゃない」

「それと吹き矢を自作しろ。なに、殺傷力など要らない。隙が出来れば良いんだ。口の中に納まるサイズが良いな」


「手と足と口を使うのね」

「そうだ、使える物は使わないとな」


「あなたを少し見直したわ。冷たい男だと思っていたけど、根は優しいのね」

「持ちつ持たれつなだけだ。ラズが強くなれば、俺が助かる」


「もっと早く出しなさいと言いたいところだけど、自分で考えるようにという事ね。今回は頼ってしまったけど、次回からは自分で考えるわ。ありがと」


 お礼を言われ恥ずかしくなった。

 俺は彼女達に強くなってもらいたくないという気持ちと、強くなってもらいたいという気持ちがせめぎ合っているだけだ。

 彼女らに考える事を、自分自身でして欲しいなんて、思っちゃいない。

 あーあ、俺は何をやってるんだろうな。

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