第28話 聖歴152年7月11日、プチモンスターハウス

 ゴブリンが8匹いる部屋に突入する。

 プチモンスターハウスと言ったところだろうか。

 おまけに弓を持ったゴブリンがいる。

 魔法使いや盾使いがいないのでまだ良いが、種類が増えると相手の攻撃が多彩になる。


「射手を倒すぞ」

「そんな事言ったって、一番遠い所にいる。どうするのよ」

「こうする」


 俺は鉄アレイで作ったボーラを投げた。

 弓を構えていたゴブリンは反応が遅れ、ロープにからめとられた。

 ジューンが唐辛子爆弾を投げまくる。


 俺とラズでゴブリンを着実に減らしていく。

 ラズの悲鳴が上がった。

 見るとラズは足を取られて転がされた。


 前衛が欠けた所でジューンにゴブリンが殺到する。

 2匹のゴブリンが唐辛子爆弾に目をやられたが、後の残りは無事だ。


 ゴブリンの射手はロープを解きそうだ。

 俺が2匹倒して、ラズが1匹倒したから、残りは3匹だ。


 唐辛子爆弾に目をやられた奴もかきむしってはいない。

 目から涙を盛大にこぼしていたが、戦線に復帰しそうだ。

 そうなると残り5匹だ。

 ラズは棍棒で叩かれまくって地面を転がって避けている。


 俺はどうにか1匹を仕留めた。

 残り4匹だ。

 射手にボーラはもう効かないだろう。


 俺は腹に力を込めた。


「うおおおおお」


 気合を入れて大声を出した。

 チンピラなんかは大声を上げられると一瞬ひるむ。

 ゴブリンに効くか分からなかったがやってみた。

 ゴブリンがびくっと一瞬固まる。

 ラズが起き上がった。

 ジューンは腰のメイスを手に取って必死に防御している。


 ジューンが引きつけてくれたおかげで、挟み撃ちにして次々にゴブリンを討ち取る事ができた。

 気がついたら立って居るゴブリンはいなかった。

 ラズの負傷が酷い。

 太腿に矢も食らっていた。

 鎧の隙間から血がにじんでいる。


「抜くぞ」

「一気にやって」


 俺はラズに声を掛けて刺さった矢に手を添えた。

 力を込めて一気に抜く。


「うっ」


 ラズの太腿から血が噴き出す。

 ラズは2本のポーションをポーチから抜き取ると1本は飲んで、もう1本は足に振りかけた。


「8匹は多すぎたな。だが、このくらいはこなさないとやっていけない」

「私が悪かったわよ。ドジって転がされたから」

「うちも、焦って唐辛子爆弾の命中率が下がった」


「たぶん、だが。俺のペースに引きずられていると思う。二人だけだったら、8匹に突っ込んだりしなかったろう」

「そうね」


「よし、決めた。これからは俺は極力手を出さない。二人で討伐しろ。判断も二人でするんだ。作戦も二人で立てろ」

「分かったやってみる」

「うちも頑張る」


「二人がこの階層のザコに問題がなくなったら、ボスに挑戦しよう」

「そうね。それぐらい出来ないと、ボス戦はおぼつかない」

「なんや、もう少しでどうにかなりそうなんやけど」


「打開策はゆっくり考えたら良い。今日はここまでにしよう」


 ダンジョンを引き上げる。

 ラズの足取りは重い。

 負傷したからな。

 ミスは誰にでもあるが、冒険者にとっては命取りだ。


 ジューンとラズは何か考えているようだった。

 言葉少なにダンジョンを出た。


 俺には改善策が幾つも浮かんだ。

 だが、成長を促すと言い訳して言わないでいる。


 宿の帰りに治療師の所に寄る。


「すいません。仲間がゴブリンの矢を受けまして」

「そうですか。見せて下さい。女性の患者なので、男性は出て行って下さい」


 俺は診察室を出た。

 しばらく経って包帯を巻いたラズが出て来た。


「何だって」

「熱がでるかもだって」

「うちが起きてついているさかい。心配せんでもええ」


「ジューン、頼む」


 宿の部屋に二人を送ってから、俺は一人中庭に出る。

 無心でメイスを振るい、型を繰り返す。


 俺はいったいどうしたいんだ。

 二人を応援したいのか、ザコに敵わずに挫折する二人を見て、討伐の諦めを決断したいのか。


 俺も男だ。

 二人がザコを問題なく倒せるようになったら、ボスに挑戦しよう。

 それが決意だ。


 他人にそれも女に人生の選択を賭けるなんて、なんて俺は弱いんだ。

 だが、弱さを知っている。

 知っていると言う事は強くなれるって事だ。

 そうでも思わないとやってられない。

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