第27話 聖歴152年7月11日、唐辛子爆弾

 ゴブリンが4匹いる部屋に突入。

 ジューンがさっそく唐辛子爆弾を投げる。

 一発目は外れた。

 ふにゃふにゃしてるから投げにくいのだろう。

 俺はゴブリン1匹を瞬殺。


 ラズが1匹と対峙している。

 残りの2匹はジューンを警戒しているようだ。

 一応、飛び道具だからな。


 ジューンが連続で唐辛子爆弾を投げる。

 それでいい。

 狙いなんかつけなくて良いんだ。


 ラズに襲い掛かろうとしたゴブリンは、唐辛子爆弾に気を取られて隙を見せた。

 ラズがゴブリンの喉を突く。

 ごぼごぼという音を発してゴブリンが死んだ。


 ジューンの攻撃が当たったようだ。

 あれだけ投げれば当たるだろう。

 ゴブリンは目に唐辛子とレモン汁を食らって目をかきむしる。

 かいたら余計見えなくなるんだぞ。


 ラズに止めは任せた。

 目の見えないゴブリンなど敵ではない。

 ラズは素早く仕留めた。


「効果絶大ね」

「うちが初めて役に立てた気ぃがするわ」


「やつら、目蓋がないからな。まばたきが隙になるというので、無くなったのだと思うが、こういう時は仇になるな」

「へぇ、そんな事にも理由があるのね」

「まあ、俺の推測だけどな」


「唐辛子爆弾、もっと作らんと」


 ジューンがせっせと唐辛子爆弾を作る。

 出来上がった物を小さめのリュックに入れる。


「あかん、割れてもうた。リュックの中がびしょびしょや」

「割れやすいのが欠点だな。もっとも割れなかったら役に立たないがな」


 ジューンが何やら考え始めた。


「ああん、もう。喉まででかかってるんやけど。上手くいかん」

「改善案が浮かんだのよね」

「そうや。でも上手くいきそうにない。最後のピースがはまらん」


「とりあえずは、リュックの中にビニール袋を入れたらいい。そうしたら割れても背中がびしょ濡れにはならない」


 俺はビニール袋を出した。


「今更だけど、これってどこで売ってたの?」

「俺のスキルで作った」


「ふうん。あんた、商人に向いているんじゃない」

「それを言われるとつらいな」


 俺もそれは散々考えた。

 だが、俺はある疑惑がある。

 父の死についてだ。

 元気だった父さんがいきなり亡くなった。

 脳内での出血とか、心臓の血管が詰まっただとか、ぽっくりいく病はある。

 しかし、父さんは運動はしていたし、予兆みたいな物はなかった。


 まさか、ウスタの野郎がという思いが拭えない。

 拭えないが立証する手立てがない。

 真相が分かるとすれば、一族の統率をおれが取り戻して、ウスタが自暴自棄になった時だけだろう。

 それには俺が勇者になるしかないような気がする。


 今はモンスターを倒す事だけを考えよう。

 雑念は隙を生む。


「次、行くぞ」

「はい」

「さっさと行きましょ」


 次の部屋に突入した。

 ゴブリンは3匹だ。

 俺は手を出さずに眺める事にした。


 ジューンは唐辛子爆弾の扱いに慣れてきたのだろう。

 前より命中率が上がった気がする。


「どうや」


 ラズが目をやられたゴブリンに次々に止めを刺す。

 3匹ぐらいなら楽勝だな。


「油断するのは、全部片づけてからにして」

「すんまへん」

「いや、ダンジョンにいるうちは油断したら駄目だ」


「そうね」

「そうやね」


 俺はジューンの攻撃を改善する手を知っている。

 水でっぽうだ。

 唐辛子の粉が詰まると思うが、バズーカタイプの物もある。

 これを使えば一挙に戦力アップだ。

 だが、言えないでいる。

 ダンジョンを攻略したいが、強敵に会いたくないという二つの思いが、せめぎ合っている。

 俺は臆病者の卑怯者だ。


 ジューンとラズに勇気を分けてもらいたい。

 そんな事は無理なのは分かっている。

 何とかしなくては。

 部屋を一つ攻略する毎にこれ以上進みたくないという思いが強くなる。

 駄目だ。

 俺はなんて駄目なんだ。


 俺の脳裏に父の顔が浮かんだ。

 そうだ。

 父さんの死の真相を掴まないと。

 俺にはその義務がある。

 よし、ホブゴブリンと対峙して俺が固まっても、ジューンとラズの二人で撃破できるぐらいに鍛えるんだ。

 そうしよう。

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