第2話 西暦2022年?月?日、居酒屋で一杯

「ステータス」


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名前:スグリ LV0(12)

魔力:0(1200)/0(1200)


スキル:

無し


呪い:

弱体化

――――――――――――――


「くそう。転移した上にご丁寧に弱体化の呪いが掛かっている」


 草むらがざわざわと揺れてかき分けられる。

 正体を確かめなくても分かる。

 きっと大蛇のモンスターだ。

 ここはスネーク・ダンジョンだからな。

 ギガントスネークあたりだろう。

 俺は腰のホルダーからメイスを抜いて構えた。



 んっ、来ないな。

 大蛇は俺の三歩手前で迂回うかいしていった。


 いったい何なんだ。

 それから草むらは揺れるがモンスターは襲ってこなかった。

 これが噂で聞く安全地帯か。


 ここから出ると俺なんかモンスターに一飲みなんだろうな。

 何でもいいからスキルが欲しい。


 ボイセンのスキルは斬撃。

 普通の剣で丸太も両断しちまう。


 ビルのスキルは俊足。

 本気で加速すると誰も追いつけない。


 グーズのスキルは盾撃。

 盾の殴打でトラックほどの大きさのモンスターも跳ね飛ばせる。


 アドのスキルは火魔法。

 その炎で全てを焼き尽くす。


 そのどれでもいいから俺にあればな。

 そうすればこの窮地も切り抜けられるのに。


 草をむしって口に入れてみた。

 苦い味が口の中に広がる。

 我慢して飲み込んだ。


 草には毒草があるというのは俺でも知っている。

 だが食料がない現状では仕方ない。

 自殺行為だが、他に出来る事もない。

 さて、後は毒かどうか分かるまで休むだけだ。


 俺はごろりと横になった。

 寝るしかないだろう。


「らっしゃい」


 赤い提灯があってのれんを潜るとテーブルがいくつもある。

 テーブルにはおしぼりが置いてあった。

 俺が座ると向かいに後輩が座る。


 夢だな。

 前世の夢だ。

 異世界で生きる前は日本のサラリーマンだった。

 いわゆる転生という奴で、赤ん坊の時はそれは興奮したものだ。

 絶対にチートがあると疑ってなかったからな。

 それは今はいい、せっかく夢だと分かったのだから楽しもう。


「先輩、何にします?」

「なま。それに寄せ鍋だな」


「注文いいっすか。生二つに、寄せ鍋二人前」


 お通しのきんぴらごぼうが持ってこられた。

 俺はそれに箸をつけた。

 苦い、何だこれは。


 ビールが来て一口。

 苦い。

 そりゃビールは苦いけどさ。

 この苦さは違うだろ。


「先輩、なに難しい顔してるんです。もっと夢を持たないと。俺の夢はボンキュッボンの彼女をもつ事です。先輩はどうです」

「俺は」


 そこから先は言うな。

 言ったらいけない。

 俺は喚こうとしたが声が出ない。


「俺を誰も知らない場所で暮らしたいな」

「外国っすか。いいですね」


 言ってしまった。

 前世でこんな願いを口に出したから、異世界に転生したんじゃないかと転生した時に思った。


「それと通販で生活したいな。物を沢山いれられる収納も欲しいな。金持ちや権力者は気に食わない。ざまぁって言いたいぜ」

「先輩、菊菜が煮えましたよ」

「おう」


 菊菜を口に運ぶ。

 苦い。

 これは味が普通の菊菜だ。

 だが、ポン酢の味がしないな。


 千鳥足になり居酒屋を出て、車に跳ねられたと思ったら、蹴飛ばされた。


「いてて」

「おい、起きたか」

「がはは、人間だぜ」

「ダンジョンで見張りも置かず寝るなんてな」

「俺はその豪胆さが気に入った」

「豪胆じゃなくて馬鹿の間違いだろ」

「ちげえねぇ」


 俺を囲む6人の男達。

 眠りから覚めたらしい。


「もっと優しく起こせよ」

「モンスターの擬態かと思ったぜ」


 蹴飛ばされても仕方ないか。

 剣で斬られなかっただけましだ。


「何で寝ている?」

「パーティにおいていかれた」

「はぐれたのか。ままある事だな。入口まで連れって欲しけりゃ有り金全部だな」

「それでいいのか?」


 俺は財布を投げ渡した。

 男は財布を片手で受け取って中身を覗き込む。


「しけてやがんな。銅貨は残しておいてやる」


 銀貨だけを抜かれ銅貨だけの財布を返された。


「ありがとよ。助かったぜ」


 男達のダンジョンの中での仕事を散々見学して地上に帰る。

 男達は良い奴で、飯時は食事を分けてくれたりもした。

 気まぐれかも知れないがな。

 とにかく助かった。


 ダンジョンの入口から出て一杯に広がる空を見る。

 生きるって素晴らしい。

 涙が出そうになった。

 そして怒りがこみ上げてきた。

 極光の奴ら許せない。

 絶対に殺してやる。

 そう固く心に誓った。

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