レベルを上げて通販で殴る【リメイク】~スキルが芽生えず、婚約者から見捨てられ、家からも追放。覚醒した俺に帰って来てくれと言ってももう遅い。異世界のモンスターと追放した奴らを買った商品でぶん殴る~

喰寝丸太

第1章 スライム・ダンジョン編

第1話 聖歴152年5月8日、裏切られてトラップの生贄になった

 100畳ほどの草原の草が風に揺られてなびく。

 使える物が落ちてないか、穴が開くほど目を凝らして地面を見たが、何にもありゃしない。

 当たり前だ。

 ここはダンジョン。

 モンスターの死骸や人間の糞でも、数分で跡形もなく消える。

 例外は生命と身に着けている物だけだ。


 それと、ダンジョンの地面と壁は消えないな。

 壊せるがその場合はすぐに修復される。


 何でこんなふうに色々と考えを巡らせているかと言えば、それは一時間前にさかのぼる。

 その時の記憶を思い起こした。


 俺はスグリ。

 ポーターをやっている。

 人が二人ぐらい入れそうなリュックを背負っていて、歩くたびにリュックの紐が肩に食い込む。


「ふぅ、しんど」

「ひゃっほー、宝箱だぜ」


 行き止まりに宝箱があったのだ。

 ボイセンが背中の大剣の重さを感じさせない動作で小躍りした。

 俺は恨めしそうにボイセンを睨んだ。

 なぜかと言うと、そんなの決まっている。

 宝箱の中身が、俺の背中に載るからだ。


 要するにリュックが更に肩に食い込んで重くなる。

 そりゃ恨めしくもなるだろう。


「ボイセン、喜ぶのはまだ早い。開けてみない事にはな」


 そう言ったのは斥候のビル。

 腰に付けた短剣や工具がカチャカチャと音を立てる。


「頼むぜ」


 重たい盾をドスンと地面に降ろして盾職のグーズが低い声で言った。


「よっしゃ賭けようぜ。どのくらいの価値の物が出るかでな」


 ボイセンがそう言い。

 魔法使いのアドがやれやれと肩をすくめた。


 リーダーで大剣使いのボイセン。

 斥候のビル。

 盾職のグーズ。

 魔法使いのアド。

 それにポーターの俺を加えた5人が俺達のパーティだ。

 いいや、俺はポーターだからパーティの数には入らない。

 4人がSランクパーティ極光で、全員がスキル持ちだ。


 ビルが工具を使って宝箱開錠に挑む。

 隙間から針金を差し込んで慎重に罠を探る。

 ビルの額からぽたぽたと汗が落ちる。


 俺はリュックを降ろしてリュックの上に座った。

 こうしておけば、俺の魔力がリュックに染み込んで、ダンジョンに吸収されない。


 時間がまだ掛かりそうだ。

 俺は手帳とペンを取り出して、ペン先を舐めた。

 インク壺にペン先を浸してから、日記を付け始めた。


 ええと、聖歴152年5月8日と天候はダンジョンの中で分からない。

 地面は茶色く踏み固められた土で、壁は灰色の砂岩と。

 ダンジョンの地下6階で宝箱を発見。

 中身は? 何だろな。


「開いたぜ」


 ビルが得意げに親指を突き出した。


「おうやったな。お宝は何だ?」


 ボイセンが待ちきれない様子で宝箱の中を覗き込む。


「この形状はスキルオーブしかないだろ」


 そう言ってビルが口笛を吹く。


 スキルオーブはダンジョンのラスボスが稀に落とすという噂だ。

 物凄く貴重なのは言うまでもない。

 スキルオーブは使用するとスキルが覚えられる物だ。

 スキルは100人に一人しか持ってない。


 もっている奴の半数は生まれつきで、もう半数は鍛練で生える。

 20歳まで生えない奴はもう駄目だと言われている。

 俺は20歳、もうスキルは絶望的だ。


 そのスキルがスキルオーブを使えば増えるまたは持てるのだ。

 その価値は計り知れない。

 俺は喉から手が出るほど欲しい。

 これさえあれば、家から追放される事もなかったし、つらいポーターをやる必要もなかった。

 今までの人生の問題が全て解決する。


「嘘だろ。賭けは全員外れか。外れたのがちっとも悔しくない。金貨1万枚のお宝だぜ」

「生きて帰れればな」


 ぼそっとグーズが言った。


「でスキルの種類は何なのさ」


 アドが冷静さを失わない口調で尋ねた。


「聞いて驚け、収納スキルだ」


 興奮冷めやらぬビル。


「この場で使った方がいい」

「そうだなグーズの言う通りだ。アドが使え。負傷する確率がもっとも低いのがアドだ」


 ボイセンがそう決断を下した。

 アドが壊れ物を扱う様に、スキルオーブを胸の位置まで持ってきた。

 アドが目を瞑るとスキルオーブは光になって、アドに吸い込まれた。

 あーあ、使っちまったな。

 俺は羨望の眼差しでアドを見る。


 その時、宝箱が光を放った。


「トラップだ!」


 ビルが叫んだ。

 ボイセンが素早く動き俺の胸倉を掴むと、宝箱に俺を押し付けた。


「何だ。何しやがる」


 俺の手をみると段々と透けてくるのが見えた。

 この現象は知っている転移だ。

 魔法のトラップは犠牲者が出るか、全員が範囲から出るまで止まらない。

 俺を生贄にしやがったな。

 3年の付き合いだってのに。

 苦楽を共にしたあの経験は何だったのか。


「すまんな。収納スキルがあればポーターはもう要らない」


 ボイセンの険しい顔つきが一層険しくなった。


「ボイセン、謝る事はない。ポーターなんざパーティの寄生虫だからな」


 と丸顔で舌なめずりするビル。


「スキルオーブを得た事の口封じにも丁度いい」


 そう四角い顔のグーズ。

 グーズがそう言ったのには訳がある。

 都市伝説だが、スキルオーブを使ってスキルを増やした者を殺せば、スキルが生えるという説だ。

 ある国がスキルオーブを使った罪人を殺しまくって確かめたから、スキルが生えるというのは嘘だと分かっている。

 しかし、信じ込む人間はいるようで、何人ものスキルオーブ使用者が犠牲になっているのが現状だ。

 口封じの意味もそこにある。


「荷物は、責任もって僕が収納スキルを使って運ぶよ」


 そうカエル顔のアドが締めくくった。


「覚えてろよ! 絶対に復讐してやる」


 そして俺はその場から消えたと思う。

 ふわっと一瞬、無重力になってから、背景が変わった。

 草が生い茂った地面。

 ぼうっと光を放つ壁。

 ここは地下何階だろう。

 ダンジョンの中である事は間違いない。

 ここで記憶を思い起こすのを辞めた。

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