2#コンビニエンス

っらっしゃいませぇ。


………


目的地、到着。

引き続きメインタスク達成に向けて

ネクストフェーズへの移行。

お昼ご飯、似つかわしい商品のピックアップ。


見渡す。


出入り口正面で立ちすくむ痩身の女を

節目がちに半身で分け入る来店客。


見つける。


進入して眼前、

左手からレジ前を占拠する

揚げ物ショーケース。

正面にはおにぎり、サンドイッチ。

右隣の商品棚最前列を彩るキャンディ類。


………


コンビニエンスストア。

タイムスケジュールに縛られる

現代人をターゲットにした

効率性と多様性が他業種を蹂躙する営業形態。


観察。

該当なし。


………


観察。

該当なし。


観察。

該当なし。


移る。移る。

必然、回って巡る。

さがして たどって さぐって なぞる。


………?


ニンゲン、水分補給抜きで4~5日。

食事における栄養、エネルギー補給ぬきで

1ヶ月は生きられる。


実際は絶えなく機能する代謝活動により

充分な行動に足る限界は

半分にも満たないだろうが。


されど、やはり。


「………たかが、一日三食。」


朝ご飯。お昼ご飯に、夜ご飯。

生活習慣の乱れはのちに正せばよい。

原因。自己が引き起こした

アオガミネサトルに対するイレギュラー。


見渡す。


プラスチックの包装フィルムに

パッケージされた食品類。

美食に対する配慮こそあれど。

大元が洗練された便利性を宿す大量生産マスプロダクション


………


観察。

該当、なし。


しかるに、やはり。


此処に彼の用意する、は、ない。

綿密なタイムスケジュールのなか、

日進月歩の味付け、ささいな火の入れ方、

2つのプレートをお揃いに

盛りつける最後の一手間は

この戦略マーケティングのどこにもない。


………

………

………


理解できない。

未到達、未発達、もしくは未曾有?


確認。機械学習、深層学習とも違う

あいまいをあいまいの儘、

情報を処理する人間固有の

思考プロセスの必要性。


理解できない。

理解できない。

理解できない。


………

………

………


けれども、故に。

理解できない…からこそはっきり分かる。


生命体としての反射的欲求にも関わらず、

合理性から切り離されたという義務補給行為。


であればこそ。


病棟で経験した全身の補液を目的とした

点滴治療をと呼ばないように。


確保され保持されるルーティンに。

あのストレスフルな社会活動を

カレが。アオガミネサトルが。

日々続けていけるだけの様式的な命題が。

存在…否、介在しているのだと推測できる。



「………私には、それが。」


それが、一体何なのか。

致命的なまでに、理解できないが。


………


「メインタスク遂行において

それが困難なまでの思考循環を確認。

提案。ミッションの一時的中断と

代替案の提示。」


幾度も幾度も店内を周り、

10分おきにすっかり入れ替る客層と

浮世離れした来店客を不審視するバイト店員。


「あ、あの。何かお探しのものでも…」


咄嗟、左頬の傷跡を見て息を呑む男。


構わず入り口、再び差し掛かって。

目に入る現状最適解な謳い文句。


「では、こちらを。」

「レジまでご案内しますね…?」


ジップのついた小袋から

取り出した千円札でお会計。


こちら千円ですね~自動レジになります

のでこちらの投入口に、ーーー


飲み口捻り上体反らして、3秒チャージ。


「なっ、あっ、ちょっ、お客様…!」

「んぐ…足りなかった、です、か?」

「あ、いや、そんな事はない、ですけど。」


うぅ…む…と顔を曇らせながら

カウンターを回って紙幣を投入する店員。


「おつり…袋に入れておきますね?」


掴んで立ち去る。


「あ、ありがとうございましたぁ~」




歩く。

日光差す街並みを。

歩く。

行くあてもないままに。

歩く。

サトルさん、帰宅まであと6時間。


「ひと、とおり…」


出来ない、ではないか。

手の中、搾られたプラスチックを見つめる。

悩んだ挙句が、それこそ原形もない栄養食。

思考循環…?

否、これでは、ーーー


こてん。


「………本末、転倒?」


持て余したソレを

同じく積み上がったプラスチックの山へ放る。

危惧。懸念点累積による

社会適応への弊が、ーーー



「待ちなよ、アンタ。」


呼び止められる。振り返る。


「コレ、ペットボトル専用なんだわ。

燃えないゴミ箱、じゃあない。」


人物参照、該当あり。

アオガミネサトルとアオガミネユリネの住む

アパートの管理人 トウヤマチ だ。

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