第8話「早坂さんと雑談」
武田はエクセルの勉強を頑張っていた。学校での模擬試験でも、まだ全問は時間が足りなくてできないものの、ギリギリで合格ラインには入っていた。
「武田さん、最近調子いいんじゃない? キーボードの動きが速くなってきたよ」
隣りの席の早坂さんである。
「はい、ありがとうございます。もう少しで制限時間内に全問できるんですよ」
「試験まで、もう少しあるから間に合うんじゃない?」
「はい、なんとかまにあわせようと家に帰ってもパソコンをやってます」
「あんまり、頑張り過ぎるのもよくないけどね。体が壊れちゃうよ」
「大丈夫です。私、高校時代は柔道部で鍛えてましたから」
「そう、柔道やってたの、そういえば体ががっちりしてるね。大会とかも出てたんですか?」
「あっ、まあ、地方の大会は出てましたが……大きな大会までは行けませんでした」
「若い内に体を鍛えておくのはいいですよ。私は病弱で何にもしませんでした」
「早坂さんは、お元気そうに見えますけど……」
「50歳の頃に自称仙人という人に会いましてね、いろんな技を教えてもらったことがあるんですよ」
「仙人ですか、それは、なんとも……」
「自称ですからね。しかし、仙道というのは実在しているようです。中国から韓国、台湾あたりには今もあるようです。しかし、仙道というのは、あまり人に教えないというルールのようなものがあるようで、現代でもあまり知られてません」
「私も、ヨガなら聞いたことはありますけど仙道は知りません」
「少林寺なんかの拳法も昔は秘伝で、あまり人には教えなかったようですけど、映画が大ヒットして世界中に知れ渡ったようです」
「ブルース・リーですか? カッコよかったですね。私も拳法にあこがれて“
「蟷螂拳ですか?」
「知りませんか? カマキリ拳法です」
「あっ、あれは本当にあるんですか? コメディアンが冗談でやってるのかと思ってましたよ」
「テレビでふざけてやってましたね。しかし、蟷螂拳は実在します。私、高校を卒業して自衛隊に入りましてね。上司が蟷螂拳を使えたんですよ、それで私も教わって一緒にやってました」
「自衛隊に勤めていたんですか、それは大変だったんじゃありませんか?」
「私は自衛隊が性に合っていたようで、楽しかったですよ。そんなに体を酷使する部隊じゃなかったってのもありますけどね」
「自衛隊の中でもいろいろ部隊が別れるんですか、私の時代は戦争に行くので、皆んな陸軍が良いとか海軍がいいとか言ってましたが、武田さんはどっちです?」
「私は陸上自衛隊です。もう陸軍ではなかったですけどね」
「ああ、陸上ですか、わたしもね戦争に行くなら陸軍がいいなと思っていたんですよ。海軍だと船が沈んだらどうにもなりませんからね、しかし、話しでは陸軍は食事がひどかったらしいですけどね」
「早坂さんは戦争には行ってないんですか?」
「はい、戦争に行く手前で終戦でした」
「失礼ですけど、戦後はどのように暮らしていたのですか?」
「私の家は新聞屋でしてね、幸い家は焼けなかったのでそのまま新聞を配っていました。ついこの間まで配達していたんですよ」
「新聞配達ですか、大変そうですね」
「雨が降らなければ、どってことはないんですが、最近はパソコンの普及のせいか部数が減り続けてます」
「そうですね、私も昔は新聞を必ず読んでたんですが、今は取ってません……テレビの番組表が新聞を見なくてもテレビ画面で見れるようになってからですね」
「そうなんです。テレビのデジタル放送が始まったあたりから新聞を見ない人が増えた気がしますね」
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