第2話「職業訓練のお知らせ」

 警備会社をクビになった武田は書類を持ってハローワークに失業保険の手続きに行く。


 ハローワークの玄関の前に、青いベンチコートを着た若い女の子がチラシを配っている。


「職業訓練のご案内です。どうぞ」

 武田は意味も分からずチラシを受け取った。

「ありがとうございます。失業保険を受けている方は、無料でパソコンの職業訓練を受けられますから」

「無料?」

「就職の為の訓練で授業料は国が払ってくれます。資格も取れるんですよ!」

 女の子がチラシに書かれていることを説明してくれる。

 武田は内心、無料でパソコンを覚えられる!? そんなうまい話が本当にあるのかと疑っていた。

 入学したら、あれやこれやと金がかかるんじゃないのか? 最新のパソコンを買えなんて言うかもしれないな……


 そういえば、昔、友達と二人で繁華街に呑みにいったら、女の子がチラシを配っていて、飲み放題で1時間3,000円!て書いてあるスナックがあり、店に入ったらホステスの女の子が4人も付いて、帰りの会計が18万円て言われた事があったな……

 2時間くらい呑んで、店の中ではフルーツとツマミを注文しただけだったのに、1時間3,000円で2時間で6,000円、プラスフルーツとツマミ代で1万円くらい、2人だから会計は2万円あれば十分だと思ったんだよな〜

 店の人に聞いたら、ホステスの女の子達の呑むお酒が別料金だと……そういえば、よく呑んでいた。しかし、銀座なんかの高級店ならいざしらず、場末の小さなスナックで、この値段はないだろう……


 あの時は18万円も持っているはずもなく、免許証を店に預けて明日払いに来ると言うことになったんだっけ、今は法律でそういう営業は禁止されてるからないだろうが、昔はけっこうあったらしい。

 この職業訓練も本物か!?


 疑いながらも武田は、パソコンには興味があった、パソコンができるようになれば、何か生活が変わるような気がしていた。

 パソコンを使う仕事なら、トイレに行くのも楽に行けるのではないか? そんな事も考えていた。


 以前に武田は、友人にノートパソコンをもらい勉強をしたことがある。しかし、独学では何を勉強していいのかもわからず、ノートパソコンはテレビ台の下に置かれたままとなった。


 失業保険の手続きも終わり、帰ろうと思ったが、パソコン教室が気になる。

 

 無料で三ヶ月も勉強できるのか……

 チラシには受講料は無料と書いてある。

 資格も習得できるか……


 話しだけ聞いてみるか!?

 武田はハローワークの受け付けでパソコンの職業訓練について聞くと、訓練課という所がハローワークの中にあり、そこで詳しいことが聞けるとわかり、訓練課に向かった。


 話しを聞くだけだ、パソコンを購入してくれと言われたら帰ればいい。

 ハローワークの中で何かを買わされることもないだろう……

 武田の頭の中で不安と期待が入り混じり妙に緊張していた。


「し、しっれい します……パソコンのし、しょくぎょ う……」

「職業訓練ですか? 失業保険をもらっていますか?」

「はっ、は、はい。今日、手続きをしました」

 武田は、もらったパソコンの職業訓練のチラシを係の人に見せた。


「この職業訓練ですか? 失業保険を受給中なら受けられますよ。職業訓練は初めてですか?」

「は、はい、初めてであります」


「では、受験するのでしたら、必要書類をこちらに提出してください」

「じ、受験!? 試験があるんですか?」

「筆記試験と面接があります」

「パソコンの試験ですか!?」

「パソコンの試験ではなく、一般常識の試験です」

「で、では、パソコンがぜんぜんできなくても受験できるんでか?」

「これは、パソコンが出来ない人が基礎を学ぶコースなので、今は、まだパソコンができなくても受験できますよ」


「本当ですか、受講料も三ヶ月無料なんですか!?」

「はい、無料です」

「パソコンは買わないといけないんですか?」

「パソコンは、教室にあるので買わなくてもいいですよ」

「そうなんですか……」


 武田は、迷っていた。

 俺みたいなオジサンがパソコンって、若い人に笑われるんじゃないだろうか?

 授業についていけなくて先生に怒られるんじゃないか?


 募集期間は、まだ日にちがあるから、少し考えるか……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る