第23話 種明かし

 さて、俺はどうやってスワンの町を占領したのか。


 スワンの町を偵察して奇襲を仕掛けることになった俺は、どうしたものかと頭をひねった。まず最初に考えたのは死者の軍団を取り出して町を襲わせることだ。石壁に囲まれたテリブと違い、木の塀しかない駐屯地なら死者の軍団でも壊せるかもしれない。


 しかし兵士も大量にいるし、石の壁がある町の方に逃げ込まれると手も足も出なくなってしまう。しかもリビングデッドマスターたちは体がボロボロだ。リビングデッドマスターは頭がつぶれようが死なないものの、体が壊れれば戦闘力は落ちてしまう。


 やはり真っ向勝負は分が悪い。そうなると戦わずに済ます方法は何かあるだろうか。


 弱くてもやはり死者の軍団の相手を手駒にしてしまう感染力は魅力だ。どうにかしてこれを活かす方が現実的だろうか。


 最初に考えたのはリビングデッドスレイブの肉を食肉として売りつけ、兵士たちに食べさせるという方法だった。しかし自分で想像して気持ち悪すぎてやめた。そもそも捌くのすら嫌である。だが方向性としては悪くない気がする。


 俺はとりあえずクロスボウを使い、森で鹿を狩った。次に考えたのはこの鹿肉をリビングデッドスレイブの血に浸して負の魔力を付与し、敵に食べさせるという方法である。しかしこれもやはり気持ち悪い。


 もういっそのことハッタリで乗り切るか……


 俺は近所に住む猟師という設定で、大きな鹿を狩って食べきれないから格安でいいから飼ってくれとスノーデン兵にもちかけた。粗末な食事に飽き飽きしていたスノーデン兵たちは大喜びであった。俺はなるべくたくさん兵士たちに話しかけ、兵士たちに俺の顔を覚えさせた。


 そして兵士たちが食事を遠くから見守る。


「そろそろ行こうか」


 兵士たちが食事を終えたのを確認して、俺はリッチに声をかけた。


「はい」


 リッチの背後には俺が取り出したリビングデッドマスターと数匹のリビングデッドスレイブを引き連れている。


 俺たちは堂々とスノーデン兵の前に姿を現した。何事かとスノーデン兵が集まってくる。


「おまえは昼間の猟師……ま、待て、なんだその背後のやつらは!?」


 明らかに異質な死者の軍団を見てスノーデン兵はうろたえた。リビングデッドマスターにいたっては人間なら死んでいる傷を負っている。そして死者の軍団たちには国境にいたスノーデン兵からはぎ取った装備を付けさせていた。


 俺は精一杯、怖い顔をして口を開く。


「ひっかかったな。お前たちが食べたのは負の魔力に侵された肉、しかも人肉だ」


「は?」


 スノーデン兵は言われた意味が分からずポカンとする。


「死者の軍団は知っているだろう? その肉は哀れな犠牲者の肉だ。そう、国境を守っていたお前たちのお仲間さ」」


「な、なんだと!?」


 死者の軍団の話は一般兵にも伝わっているし、元々スワンの町に配備されていた兵はルングーザ王国に向けて出陣する死者の軍団を見ている者もいる。スノーデン兵の間に一気に恐怖が広がった。


「このままではお前たちも死者の軍団に変化する。それを防ぐにはこのリッチに呪いを解いてもらうしかない。死者の軍団になりたくなければ言うことを聞け」


 俺はハッタリをかました。スノーデン兵たちが顔を引きつらせながら互いに見合う。果たして騙されてくれるだろうか……


 俺はスノーデン兵の反応を注意深く観察していた。もし彼らが騙されなかったとしたら、目の前の何人かをすぐさま倒し、駐屯地の中に直接、死者の軍団を取り出す予定だった。


「や、いやだ! 俺はあんな化け物になりたくない! 頼む! なんでもするから助けてくれ!」


 しかし俺の心配をよそに一人のスノーデン兵がそう叫ぶと、次々と他のスノーデン兵も降伏していったのである。


 こうして駐屯地を手中に収めた俺は巨大な攻城兵器をどんどん収納した。攻城兵器を収納する所を見られないようにするのも難しかったので、俺は「手をかざしたものを消滅させる能力を持った勇者だ」と名乗っておいた。リビングデッドスレイブは放っておくと人を襲おうとするので早々に収納した。


 いちいち収納するのが面倒な小物類はスノーデン兵に命じて燃やさせた。さすがに千人分ともなるとスゴイ量で、キャンプファイヤーみたいに盛大な感じになってしまった。


「何をしている、どけどけ!」


 そこに怒声が響く。見ると豪華な鎧を着た偉そうなおっさんと数人の兵がこちらへ向かってきていた。


「やばい、ガドラン様だ……!」


 スノーデン兵が小声で言うと、関わり合いになるのを避けるようにそのガドランとやらに道を開けた。


「あれはガドランです。恐らくこの部隊の司令官でしょう。なかなかの剣の使い手だったと思います。気を付けてください」


 リッチが小声で俺に注意を促す。しかし知っての通りこの後、俺はガドランに圧勝し、スワンの町を制圧したのであった。




「お前は何者だ!」


 気絶していたガドランは、目を覚ますなり俺に怒鳴ってきた。


「俺はルングーザ王からの要請でスノーデンの様子を見に来たのさ。スノーデンが魔王軍と手を組んで世界征服をたくらんでると聞いてね」


 俺は縛られ、座らされているガドランの前にしゃがんで目線を合わせた。


「どうしてスノーデンは人間を裏切って魔王軍と手を組んだんだ?」


 俺はガドランに聞いてみた。


「裏切っただと? ふざけるな! ずっと我々にだけ魔王軍と戦わせ、自分たちは好き勝手に暮らしていたのは他の国の人間たちではないか! 我々が命懸けで人類を守っているのに何の感謝も協力しなかったくせに、文句を言われる筋合いはない!」


 ガドランの言葉は積年の恨みや怒りに満ちていた。な、なるほど……いろいろたまってたのね……


「そ、それにしても自分の国の人間まで死者の軍団したあげく、それを使って他国の人間をどんどん死者の軍団にしちゃおうってのは残虐過ぎない?」


 俺は心を引き締めなおし、スノーデンの悪行を責めた。


「戦争に生死は付き物。死にたくなければ戦わずに降伏すればいいのだ!」


 う~ん、こいつは典型的な庶民の犠牲なんて気にしないタイプの軍人か……それなら……


「ということは、あんたは殺されようと何しようと文句は言わないってこと?」


「ふん、煮るなり焼くなり好きにするがいい!」


 俺の言葉にもガドランは強気な態度を崩さなかった。軍人としては勇敢で優秀なのだろう。さすが大国スノーデンの指揮官だ。


「ではありがたく利用させてもらうとするよ」


 俺は振り向き、リッチの方を見た。


「リッチ、良かったね。新しいリビングデッドマスターの素材が手に入ったよ」


「へ?」


 俺の言葉にガドランは呆けた表情になった。


 こうしてスワンの町を陥落させ、新しい戦力も手に入れることができたのであった。スノーデンの一般兵たちは解放してやった。さすがに素手で襲ってきたりはしないだろうし、彼らには死者の軍団が復活して敵に回ったと宣伝してもらおう。

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