第13話 芭月ちゃん★化計画
極太赤縁眼鏡は火照った湯気で曇っている。頬は赤みを帯び、家に着いた時の青ざめた顔色は無く、どちらかと言えば陽のオーラを感じるぐらいだ。
「七瀬川さん、大丈夫?」
「……はい。ご、ご心配を……お、おかけいたひしました」
クスッ。噛んでるよ七瀬川さん。でも元気になって本当に良かった。流石はラキ姉ぇだ。俺はラキ姉ぇに視線を動かす。
「ラキ姉ぇ、ラキ姉ぇが風呂上がりに服着てて良かったよ」
俺はラキ姉ぇのこめかみがピクッと動いたのを見逃していた……。
「普段、風呂上がりは裸ぞ……」
そこで俺は気が付く。禍々しい陰のオーラを……。
「桐芭君や」
禍々しい微笑みをたたえるラキ姉ぇ。
「…………」
「ラゾ何かなぁ゛ぁ゛ぁ゛」
ラキ姉ぇのニコニコは語っていた。なに話す気だゴラ~!! と。
「……何でも無いです、お姉様」
俺はニコニコ顔のラキ姉ぇの視線に耐えきれず目を叛ける。
「あと久莉彩、何落ち込んでるの!」
「いやぁ、その~」
クリ姉ぇは自分の胸を寄せて上げ、寄せては上げをしていた?
「パワーウェイトレシオで言ったら、私も負けてるんだから気にしないの!」
パワーウェイトレシオ。レーシングカーで同排気量、同馬力の場合、より軽量な車体の方が加速力がある。
つまりラキ姉ぇと同サイズであれば背の小さい七瀬川さんの方が破壊力があるとラキ姉ぇは言っているのか!
「桐芭、何顔赤くしているのよ」
「ホレホレ、青い少年、何か言ってみなさ~い」
「何でもねえよ!」
元気を取り戻したクリ姉ぇが俺をかまってくる。
「な、七瀬川さん、ここに座って」
俺はブラ話しを逸らすかの様に、ソファーに座っている俺の横に七瀬川さんに座ってもらった。
「ラキ姉ぇにクリ姉ぇ、今日は七瀬川さんとお話するのが目的だろ」
「芭月ちゃんとのお話は全て終わりました」
ちゃん?
「久莉彩! 昨夜の小言は全て白紙撤回します!」
はて?
「久莉彩!」
「はい!」
「桐芭!」
「は、はい!?」
「本日、ヒトヒトマルマル時を持って《芭月ちゃん妹化計画》を発令します!!」
はい?
「桐芭は芭月ちゃんとお付き合いしなさい!」
「え?」
「え、じゃないでしょ!」
「で、でも……」
「男は『でも』と『だって』は言わない! 返事は一つよ!!」
「は、はい……」
「久莉彩! 貴女は桐芭と芭月ちゃんの恋路を邪魔する者が現れたら社会的抹殺をする事!」
「イエス、マム!」
クリ姉ぇ、何故に敬礼?
「お姉様、一つ進言が有ります!」
「話す事を許可します」
「私の親友の星野翔子を本作戦に加わる事を承認下さい!」
「生徒会長の星野さんね。承認します!」
「ありがとうございます!」
だから、何故に敬礼?
「本作戦は私、葉月柊が全力でサポートします!
全ては芭月ちゃんの為に!!」
ビシッと右手を上げるラキ姉ぇ?
「全ては芭月ちゃんの為に!!」
クリ姉ぇもビシッと右手を上げる?
ら、ラキ姉ぇ? クリ姉ぇ?
「以上! 質問は認めません!」
葉月家には掟が有る。それは葉月柊の言う事は絶対で有り、反論は認められない。
「芭月ちゃん」
「は、はい、柊さん!」
「ラキ姉ぇって呼んで良いのよ」
「む、む、む、む、無理ですぅぅぅ」
「桐芭の事、宜しくお願いします」
俺はこんなにも優しく柔らかく微笑むラキ姉ぇを見た事が無い……。
「は、はは、は、はい」
「あ~、もうこんな時間! タクシー来ちゃう」
「え?」
「ごめんね、芭月ちゃん。私これから明日の仕事の関係で、博多に飛ばないと行けないの。また今度ゆっくりお話しましょう」
そう言うと二階へと上がって行ってしまった。
「あたしも、もう出ないと! ラキ姉ぇーッ、駅まで乗っけてってーッ」
「いいわよ~」
暫くして、姉たちは慌ただしく玄関先で靴を履き、出て行ってしまった。
と思ったら玄関の扉が開き、クリ姉ぇが顔を出した。
「昼食にピザを頼んであるから、二人で食べてね~。じゃあね~♪」
「「……………………」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます