第11話 雨

 月曜日は朝から青い空に黒い雲が混ざり、にわか雨の兆しを匂わせる、そんな天気だった。


 俺は家の中の掃除を朝から行い、人生で初めて女の子の友達が家に来るというイベントに、心がソワソワとしていた。


 昨夜の折檻タイムの後に、ラキ姉ぇから七瀬川さんとの今の状況を知りたいとの事で、シーパラの出来事や学校での状況等を話した。


 ラキ姉ぇは俺と七瀬川さんのシーパラでのツーショット写真を見て、「地味さは有るけど、優しそうで、桐芭とは相性良さそうね。この極太赤縁眼鏡と髪型を変えればもっと可愛いと思うけど……」と、まぁまぁの評価だった。


 10時に七瀬川さんを迎えに家を出る。待ち合わせ場所は駅前のバスターミナル。やはり雲行きが怪しいので傘を二本もって家を出た。


 駅前には極太赤縁眼鏡に三つ編みツインテールの女の子が立っていた。


 白いブラウスにグレンチェックのフレアースカート、落ち着いた雰囲気は俺好みだったりする。


 姉達は頑張ってお付き合いしなさいと言っているが、俺の気持ちはまだ踏み出せないでいた。


「七瀬川さん、お待たせ」

「と、桐芭君、お、おはよう……」

「なんか雨降りそうだね」


 空が暗くなって来ている。俺達は少し足早に家に向かうが、道半ばにして冷たい風と共に滝のような雨が降ってきてしまった。


 慌てて傘を差して間もなく、道路に出来た大きな水溜まりをトラックが跳ね上げ、俺も七瀬川さんも頭から足の先までびしょ濡れになってしまった。


「だ、大丈夫……じゃないよね」


 頭から被った雨水は髪の毛を濡らし、濡れた前髪が赤縁眼鏡を隠している。

 衣服も濡れ、白いブラウスは下着に張り付き、ピンクのブラジャーが透けて見えていた。

 俺は慌てて傘をたたみ、着ていたウィンドブレーカーを脱いだ。


「こ、これ……」


 七瀬川さんにウィンドブレーカーを手渡すと、彼女も状況を理解したらしく顔が赤くなる。

 七瀬川さんが持っていた傘を俺が持ち、彼女がこれ以上濡れないように傘を差し、彼女はウィンドブレーカーに袖を通した。

 七瀬川さんの頬を濡らすのは雨水ではなく涙だ。色々な意味で、羞恥心で泣いている。俺はそう思った。


「あの……も…くして…れた…」


 七瀬川さんが呟いた言葉は傘に落ちる雨音で、うまく聞き取れない。


「え、何?」


 七瀬川さんは首を横に振り俯いてしまった。

 俺は差している傘をそのままに、家にいるラキ姉ぇにスマホから電話をする。

 状況を説明して、七瀬川さんの着替えを用意してもらうためだ。


 俺達は一つの傘に二人で入り、家までの道のりをゆっくり歩く。


 俯いたままの七瀬川さんの歩みに元気はなく、倒れるのではないかと思い、そっと肩を抱き支えてあげた。


 七瀬川さんの肩から彼女の震えが伝わってくる。


 そんな七瀬川さんを見ているうちに、二年前にあった女の子の事が脳裏にちらつく。あの女の子もずぶ濡れに濡れていた……。冬の寒い海の中を沖に向かって歩いていた女の子……。


 終始俯いたままの七瀬川さんとの会話は無く、暗い気持ちのまま家にたどり着いた。



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