第3話 ダブルデート

 立ち喰い蕎麦騒ぎからしばらくたった金曜日の昼休み。学食でいつものリーズナブルなA定食350円を金山と食べていた時だ。金山がニヤニヤしながら話を切り出した。


「桐芭~。明日は暇か?」

「暇だが?」


「遊ばね?」

「構わんが」


「女子二人来るけど?」

「……用事作るわ」

「桐芭ぁぁぁ」


 涙を浮かべて俺に抱きつく金山がうざい。


「泣くな! 女の子いるんなら俺以外に行きたい奴いるだろ!」

「桐芭ご指名なんだよぉぉぉ」


「……。ちょっと前に言ってたお付き合いしたい子がいるってやつか?」

「うん。うん。1組の星野さん。お誘いしたら桐芭も来るならオッケーだって」


 やたらニコニコ顔の金山。


「ん?  星野って学年成績首位の?」

「そ! 学年美人首位の星野さん」


 いや、お前のデレ顔は気持ち悪いからやめてくれるかな。


「よく、お前なんかが誘えたな」

「日頃の行いの賜物だな!」


 自信満々にサムズアップする金山だが、それだけは違うと思うが……。


「大丈夫なのか? ラノベなんかにある、実は俺狙いでした~、何て落ちはヤだぞ」

「おぅ! それは俺も確認した。星野さんは大丈夫だ。ツレの女の子がお前狙いだ!」


 俺狙いってなんだか面倒臭いなぁ。


「桐芭。前にも言ったけど踏み出す勇気がお前には必要なんだ。過去の事は忘れる必要は無いが、次に進まないとダメだろ」


 真剣な顔で俺の目を直視する金山に、俺は頬杖を付きながらジト目で聞いた。


「……で本音は?」

「星野さんとデート出来る!」


「それって完全に俺損じゃね?」

「頼む!」


 マジな顔で俺を拝む金山。過去半年のこいつの交際は告られてからのパッシブ交際だったが、今回はこいつからのアクティブ交際だ。こいつ成りに真剣なんだとは思うが……。


「特ラン……、特別ランチ定食チケット(500円)を3枚で手を打とう」

「お~~~、我が友よ~~~! よっしゃドリンクチケットも付けるぜぇ!」


 こうして明日のダブルデート(金山的)をする事となったのだが……。



 翌日。待ち合わせ場所は葵原駅前。駅までは俺の家から徒歩10分だったので、待ち合わせの10時には、時間を見計らってちょうどいい時間に着く様に家を出た。


 俺が着くと、既に金山と女の子二人がいた。金山が元気にブンブンと手を振っている。いや、分かるから……。


「おはようございます」


 明るく元気に挨拶をしてきたのは肩までのショートカットがよく似合う美人顔の女の子だった。


「こちら星野さん」

「1組の星野朱美です。よろしくお願いします」


「あ、あぁ、葉月です」

「知ってます!」


 元気にハキハキしている星野さん。確かに金山が好きそうなタイプかもしれない。


 そしてもう一人の女の子を見て少し狼狽えてしまった。極太赤縁眼鏡に三つ編みツインテールの小柄な女の子。間違いなく俺にラブレターを渡そうとした女の子だ。


「あ、う、わ、私は……」

「ハズキがんばれ」


 星野さんが「ハズキがんばれ」と応援している。俺?


「わ、私はな、七瀬川……は、芭月です」


 あ、あ~、この子は名前がハズキなんだ。


 クスッ。


「あ、葉月君、今、芭月の事、笑いましたね~」


 や、ヤバッ!


「大丈夫です! 私も笑いましたから!」

「桐芭、大丈夫だ! 電話で星野さんから聞いた時は俺も笑ったから!」


 明るく二人はニコニコしているが、当の七瀬川さんは耳迄真っ赤になっている。

 名前ネタで茶化されるのは、かなり痛いって聞いた事がある。


 俺はこの話題を打ち切る様に、ちょっと声を大きくして挨拶をした。


「葉月桐芭です。七瀬川さん、よろしく。俺の事は葉月だと呼びにくいだろうから、桐芭って呼んでよ」


「!!」


 あれ? 七瀬川さんは更に赤くなって縮こまってしまったよ?


 俺はWhy? と金山に視線を送る。

 金山は俺の顔を見てから星野さんと目を合わせ、そして二人が笑いだした?


 俺が更にすっとんきょうな顔をしていると、星野さんが笑いを堪えて


「わ、私も…クスッ…葉月君の事は桐芭君って呼んでいいかな?」

「あ、ああ。ややこしく無くていいと思うよ」


「待て待て待て待て待てーーーッ!」


 と金山が割り込んで来た。なんだ騒がしい。


「星野さん! じゃあ俺は健流ね! 桐芭が桐芭君で、俺が金山君じゃあバランス悪いっしょ!」


 何焦ってんだ金山は?


「うん。いいよ、健流君」

「オッシャー!」


 金山が何故かのガッツポーズを取っている?


「桐芭~。ありがとな桐芭~」


 金山が俺に肩組みしてグイグイ来るが、何がそんなにありがとうなのだろうか?



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