第1話 ラブレター
「は、は、葉月君……。これを……」
放課後の樹木茂る校舎外れ。ベンチ脇にはまだ背の低いコスモスが、残暑の風を受けて小さく揺れている。
俺の前には小柄な女子生徒が俯きながら立っていた。白いブラウスの首元に巻かれたタイの色は俺と同じ水色で、今年、
極太赤縁眼鏡に三つ編みツインテールの小柄な女子生徒。俺はこの子の名前も知らない。
長めのブラウスの袖で少し隠れる小さな両手が一通の手紙を持っている。女の子は震える小さな声で、俺に手紙を受け取って欲しいと頭を下げてきた。
「ごめん。それは受け取れない」
俺は断りの言葉を告げてその場を立ち去る。その時に、女の子の肩が震えていたのが見えて、俺はいたたまれなくなり、胃が痛くなるのを感じた。
はぁ〜、と溜め息が出るが、これは仕方がないことなんだ。
◆
校門を出た所で友達の
「愛の告白か? どうした? どうなった?」
金山は半年前の入学式から仲良くしている俺の数少ない友達だ。恋多き少年で、この半年間に出会いと別れを3回繰り返し、今はフリーだ。
金山はモテる。お
金山よ、俺はお前の恋のレポートは全くもって要らないんだけどな。
「断ってきたよ」
「はぁ~? だってお前、彼女いない歴=年齢だろ? 何でだ?」
「知らない子だよ? 受け取って責任取れないだろ?」
「責任ってお前……、堅すぎだよ、
「お前みたいに軽くないんでね」
「しゃべってみないと分からない事の方が沢山あるぞ! お互いに語って語って語り尽くして、それでもまだまだ語れるか、語れないかだ。桐芭みたいに見切り&悟りで女の子見てたらオッサンになっちまうぞ」
「うぐっ」
金山の言う事も一理ある。人を知るにはお互いが話しをしない事には、お互いを知る事は出来ない。
だからと言って、見知らぬ女の子のラブレターを受け取る事と同義である筈もなく。
「はぁ~。桐芭は無駄にカッコいいだけに勿体無いよな~」
「お前の方が全然カッコいいよ!」
「そりゃ、そうだけどさ~」
肯定かよ。
「ヤッパ、夏に聞いたアレか?」
「い、いいだろ、別に!」
「はぁ~、初恋の君ね~。で君の名は?」
「知らない」
「スマホ持ってタイムスリップ出来る訳じゃ無いんだからさ~、2年も前の事は忘れろよ」
「…………」
2年前の冬、海で出会った女の子、話したのは数分、でも俺はあの子の儚い微笑みを忘れられない……。あの子は今……生きているのだろうか……。
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