第21話 変わっていく千明の評価(三人称視点)


「最近の橋本君、ちょっとやばくない?」


「うんやばい。めっちゃくちゃイイんですけど」


「もしかしたら、あれが本来の橋本君なのかも……」


 千明のクラスの女子が、本人に聞こえないように内緒話をしている。

 今クラスの話題をかっさらっているのが、橋本 千明だった。

 

 以前は誰とも話さずに無気力な印象だった為、誰も彼と交流をしていなかった。

 しかし、プロゲーマーで注目度ナンバーワンのグラビアアイドルである桜庭 奏がこのクラスに転校してきたことによって、千明は大きく変わった。

 周囲と普通に話すようになったし、意外と勉強も出来るという事が発覚した。

 運動に関しては右手の怪我の後遺症がある為、ほとんどの体育を休んでいるので不明ではあるが、プロゲーマー復帰を目指してネット配信に精力的だ。


 実は千明こと"NEO"の現在の推定年収を予想しているサイトがあるのだが、どうやら高校生ながらにして四百万は越えているというのだ。

 それを偶然目にしたクラスの女子達は、既に会社員並みの稼ぎを手にしている千明に尊敬の視線と、彼女にして欲しいという下心を抱いていた。


 ただ、そんなクラスの女子達に立ちはだかる、大きな壁が存在していた。

 それはまるで某巨人漫画に出てくる壁位強大なもので、超大型の巨人にならないといけないレベルで破壊は困難だった。


 そう、桜庭 奏である。


 高校生と思えない美貌と、Gカップという暴力的な武器をぶら下げておきながらスタイル抜群。

 一般女子であるクラスの女子達が彼女に敵う訳がない。

 そして年収においても既に一般サラリーマンより稼いでおり、ゲーム大会の賞金も含めたら更に額が上がるそうだ。

 もうお手上げである。

 しかも大胆な性格で、公共の場において千明の事が好きだと明言している。しかも千明も満更ではなさそうな様子。

 お手上げどころか、つけ入る隙が全く無いのだ。


 クラスの女子達は、千明と奏を遠くで眺めながら、いいなぁと内心羨ましがる他なかった。

 勿論年収とかもそうだけど、見るからに二人が仲良すぎて、心から羨ましく思うのだった。

 女子の中には既に彼氏持ちもいるのだが、千明と奏ほど仲良くしている自信が全くない。

 休憩中もスマホを見て、ゲーム用語かわからないけど色々と話したりしている。

 肩をくっつけているというドキドキするシチュエーションにも関わらず、この二人は恥ずかしがるどころか真剣に議論をしている。

 例えば「シミーのタイミングが抜群に上手い」とか「この場面だったらVリバ使った方がいいのかなぁ」等。

 休み時間は全てお互いに離れようとしないので、女子達からすればアプローチする隙がないのである。


 そしてそれは男子側も同じだ。

 有名人である奏とどうしてもお近付きになりたい男子達は、何とかして奏にアピールしたいと考えている。

 だが、千明にべったりな彼女にそんな隙は無く、肩を落としているのが現状だ。

 また、容姿に自信がある男子が勇敢にこの二人に突撃していくが、奏に「貴方より容姿がいい人を芸能界で山ほど見てきているから、別に容姿で心は揺らがないです」とバッサリ斬り捨てられて非常にショックを受けていた。

 こんな美人を独占している千明に恨みを持っている人間は少なくないのだが、しかし千明に実害が全くいかないのである。


 それは何故か。

 クラスの男子達が千明を密かに守っているからである。

 今まで誰とも交流していなかった千明は、奏の無罪証明の配信をきっかけに学校中の有名人となる。

 更には奏のおかげで明るさを取り戻した事によって、クラスメイトとも普通に会話するようになったのだ。

 すると千明は意外と話して面白い奴だという事が伝わり、ゲームの相談も気軽に受けてくれた。

 本人も気が付かない内に千明の評価は上がっていて、奏の事で恨みを買っている千明を守るような形を、クラスメイト達は自主的に作ってくれたのだ。

 今男子達は、密かに千明がプロゲーマー復帰が叶う事を応援しており、彼の配信のファンにもなっている。

 中には違うジャンルであれど既に夢に向かって動き出している男子も存在していて、千明の行動を見て自身の原動力にしている者も出てきた。

 

 良くも悪くも学校中の話題をかっさらっている千明と奏だが、最近とある事実が発覚した。

 英語の授業中の出来事である。

 この授業では外国人講師を招く事があるのだが、クラス全員の意見が揃った瞬間があった。


『この二人、めっさ英語ペラペラやん!!』


 そう、千明と奏が外国人講師と普通に英語で会話をしている所を目の当たりにしたのである。

 外国人講師が千明こと"NEO"の大ファンで、彼を見た瞬間にサインを求めた事がきっかけだ。

 早口でまくし立てる外国人講師に対して普通に返せる千明と奏。

 英語の担任教師も蚊帳の外である。


 こうして、着実に千明の評価は良い方向にうなぎ登りしていった。


『元有名プロゲーマーで、怪我の後遺症と戦いながらプロ復帰を頑張っていて、勉強も出来て英語もペラペラで、容姿も案外悪くなくて、面白い奴。でもかなちゃんを独り占めする羨ま死ねな男』


 これがクラスの男子達からの評価である。


『ゲーム配信でお金も結構持っていて勉強も出来て、夢に向かって頑張っている努力家。暗い印象があったけど今は普通に話せるし容姿もあり寄りのあり。奏がいなかったら彼女にして欲しいと思える男子』


 そして女子達からの評価である。

 今は同じクラスの中での評価に留まっているが、本人が知らない所で学校中にじわじわと伝播中である。

 中には本気で"NEO"のファンになり、たまに千明に深々とお辞儀する生徒も出てきている。

 学校中の生徒達が千明と"NEO"の存在を知るのは、もう間近だった。



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「ねぇ、奏」


「どうしたの、千明君?」


「最近、学校の廊下で生徒とすれ違う時さ、知らない人からめっちゃお辞儀されるようになったんだよね……。ぶっちゃけ怖い」


「……まぁ"NEO"さんの存在が広まったから、じゃないかな?」


「それはそれで嬉しいんだけどさ、たまに『俺が代わりに"NEO"様の右腕の痛みを受け止めます!!』とか言って、自分の右腕を思いっきり叩くのさ。めっちゃくちゃ怖い」


「千明君、"NEO"教でも立ち上げたら?」


「冗談でもやめてよ……。マジでうまく行きそうで怖い」


「でも嬉しいなぁ。"トリニティ"を目指している私からしたら、千明君がそうやって評価されるのが嬉しいの」


「カルト的なファンは怖いからやめて欲しいけどね!?」


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