第6話 脱落者

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 しばしの間休憩を取り、休憩が終わる5時に近づいていた。

 砂場でトンネルを掘っていたこころと桃たちもベンチで休憩をしている。

 トンネルの上には大きな城らしきものが建っていた。それも、向かい合うように2つだ。


 今頃、誠は何をしているのだろうか?

 警察側で上手くやれているだろうか?

 こんなことを考えている余裕は実際ないのだが、朝まで普通に話していた誠のことが気になっていた。


 ブーブーブー、ブーブーブー。


【17時になりました。ゲームを再開します。ゲームスタートです!】


「みんな! メールは見たか?」


 ベンチに座っていた全員が立ち上がり頷く。


「よしっ! 逃げるぞ、はやと! 俺らはここら辺をグルグル逃げるけど、はやとたちはどうする?」


「俊介が北地区に残るなら俺たちは西地区に行くよ。逃げられそうな場所を探したいし」


「分かった。浩也、夏帆、まなみ! 行くぞ!」


 俊介のグループが公園から出て行った。

 公園には俺たちのグループと捕まった剛のグループ(今では里菜がリーダーをやっているらしい)が残った。


「こころ、桃、行こう」


「うん! 行こう!!」


 こころがスキップをしながら公園から出る。

 まったく、こころは選別ゲームを遊びや何かと勘違いしているのか。


「待って、こころちゃーん」


 桃がこころを追いかけて走る。


「桃! 無駄な体力使うなよ」


「うん。はやとくんも早く早く」


 桃が手招きする。


 俺たちは迅速に行動し、西地区までやってきた。

 西地区は一面、畑、畑、畑でビニールハウスもちらほらとはあるが殺風景だった。見晴らしがいい。

 ここで見つかったら結構やばいな。剛が捕まったことも頷ける。


「はやと、あそこなんかいいんじゃない?」


「あぁ、いいかもな!」


 こころが指をさした場所には民家とビニールハウス、それから道路が繋がっていた。

 入り組んでいるし、逃げる時に使えそうだ。


「万が一の時、あそこに逃げ込むのもありだね」


 桃が民家の方に向かう。


「桃!! 戻れ!!」


 民家の影から警察チームの翼の姿が見えたのだ。


「あっ!」


 桃が急いでUターンして戻ってくる。

 翼は桃に気が付いたが追っては来なかった。サッカー部の翼の足なら楽勝で追いつけるはずなのに。


「翼、なんで追いかけて来ないんだよー?」


 翼に話しかけてみた。


「なんだよ、はやと。追いかけて欲しいのか?」


「いや、そうじゃないけど」


「いいんだよこれで。こっちには、こっちのやり方があるんだよ」


「なんだよ、そっちのやり方って?」


「教える訳ないだろ馬鹿か」


 翼の言う通りだ。

 何も考えないで疑問に思ったことをそのまま聞いていた。自分のチームの作戦をぺラペラと教えてくれるはずがない。


「それもそうだな。じゃあな」


 敵である翼に別れを告げ、俺たち3人は西地区の探索を続けた。

 探索の途中、警察側の奴らに何人も出くわしたが、誰1人として追ってくることはなかった。


 嵐の前の静けさとでも言うのだろうか。

 でも、そのおかげでいくつか逃げ道に使えそうな場所を把握することはできた。


 ブーブーブー、ブーブーブー。


【本日のゲームは、只今を持ちまして終了です。お疲れ様でした】


 午後7時、1日目のどろけいの終了を知らせるメールが届いた。

 今回は2時間で終わったな。どうやって時間を決めてるんだか。


 ブーブーブー、ブーブーブー。


【ルールに従い、泥棒チームの以下2名を脱落とする。和田浩也わだひろや遠藤勤えんどうつとむ。泥棒チーム残り11人】


「浩也が」


 泥棒側でリーダーをしている俊介と同じくリーダーシップを発揮していた浩也。

 休憩の時に公園で話したばっかりだ。


 パンッ! パンッ!

 銃声!? 乾いた銃声が2発、聞こえた。


 ブーブーブー、ブーブーブー。


「もしもし」


『はやと。ひ……浩也が……浩也が……』


「俊介! 浩也がどうかしたのか?」


『メールが、届いてから……銃で撃ち抜かれて』


「浩也は? 浩也は、大丈夫なのか?」


『心臓を打たれて……政府関係者に連れて行かれた』


「そう、なのか」


 さっきの銃声は浩也と勤を撃った音だったようだ。


「俊介なんだって? 浩也は大丈夫なの?」


 こころが浩也の安否を心配する。


「銃で撃たれたらしい。もう」


 俺はこころと桃に首を振る。

 選別ゲームで、死者が出るのか?


 脱落としか聞いてなかったから命まで奪われると思っていなかった。

 それに噂で聞いたこととも異なっていた。

 奴隷にされると聞いていたが間違っていたのか。所詮、噂は噂ということか。


 俺たちの心の中にこれは遊びではないと深く刻まれた。

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