第5話 1度目の休憩

—1—


 あれから、警察側が追ってくることはなかった。

 俺たちは、警戒と緊張感を常に持ち逃亡を続けたが、警察の誰とも接触することはなかった。


 正午から始まったどろけいも今では3時になろうとしている。ゲームは約3時間続いていた。

 こころと桃は疲れたのか道路脇のブロックに腰を下ろしている。

 敵の姿を校庭以来見ていないので完全に油断しきっている。無防備だ。


 ブーブーブー、ブーブーブー。


【今から17時まで休憩と致します。それぞれご自由にお過ごし下さい】


「やっと、休憩だー!」


「はやとくん、こころちゃん。水飲みに行こう、水!」


「そうだな。水飲んだら俊介と合流しよう」


『「うん!」』


 2人共、なんて元気のいい返事だ。

 敵が襲ってくる恐怖心がないため、リラックスして近くにある公園で水を飲んだ。 


 後は俊介と合流するだけだ。

 俊介に電話をかける。


「もしもし。どこで待ち合わせる?」


『あー、今そっちに向かってる所だ』


「そっか。俺たち、公園にいるから公園で待ち合わせる?」


『分かった! もう着くぞ』


 電話が切れた。


「あッ! みんな来たよ!」


 こころが俊介たちに手を振る。


「おう俊介!」


「悪かったな、はやと。俺と行動してた剛が捕まっちまって」


「おい、俊介、違ぇーだろ! 剛は俺らのグループじゃなかったし、気づくのが遅かったのは、実際剛のグループの責任だろ」


「浩也。まあそう言うな。俺が悪かったんだ」


 俊介が浩也を止める。


「3時間前が遠い昔のことのように感じるな」


 俊介が上を向き3時間前を振り返っている。


「そうだな。あれっ? 雅人と勤、翔子はどうしたんだ?」


「あぁ、あいつらに電話したんだけど、今は行けないって言われた」


「なんだ? 行けないって」


 雅人と勤、翔子は、作戦会議の時、何も意見を出さずに後ろの方でヒソヒソと話しをしていた。

 今度は話し合いにも参加しないのかよ。この前半の重要な場面で単独行動か。


「残ったのは13人で、ここに来ていない3人を抜かすと10人か」


 俺が公園に散らばっているみんなの人数を数える。


「2人捕まったからルール通り2人脱落だな。まだ、誰が脱落か知らせてこないことから、今日のゲームが終わってからになるだろう」


「俊介のその予想で合ってるな」


「問題は今日のゲームが終わるまでだろ」


 浩也が俺と俊介に強く当たる。

 だが、浩也の言う通りだ。開始20分くらいでいとも簡単に2人が捕まってしまったのだ。それほど警察側の作戦がしっかりしているのだろう。


 明日香と桜が組んでしまった。警察から逃げるのは非常に困難だろう。

 だけど、俺たちはその警察から5日間も逃げなくてはならない。具体的に作戦を練らなくては。


「どうする、俊介?」


「グループで行動するのは継続しよう。後は相手がどう動いてくるかによる所が大きいな」


「3人の会話をずっと聞いてたんだけど、それじゃあさっきまでと何も変わってないじゃん。剛は助けないの?」


 剛と同じグループの安藤里菜あんどうりなが詰め寄る。


「里菜、剛のことは、絶対に助ける。だけどもう少し待ってくれ。ゲーム自体を理解するのも、敵の作戦や考えていることを理解するのにも、まだ時間がかかるんだ」


 俊介が里菜を説得する。


「絶対だからね!」


「うん。約束だ」


「結論は、今までと同じでいいんだよな?」


「あぁ。これ以上、捕まらないで今日を乗り越えよう」


「それなら、時間まで休むぞ俊介」


「そうだな」


 俊介と浩也が公園の中にあるベンチに向かった。

 さて、こころと桃はどこに行ったんだ?


 砂場に目をやると俊介のグループの夏帆とまなみと一緒に砂いじりをしていた。こんな状況だというのに呑気なことだ。


「何作ってるの?」


「あっ、はやと! トンネル掘ってたの!」


 桃がトンネルに水をかけて掘りやすくしていた。4人共、手がドロドロだ。


「普通、女子ってこういうの嫌いなもんじゃないの?」


「私は平気だよ」


「夏帆はー、馬鹿だからはやととか話してること難しくて分かんないしー、やることないからこころと桃が何やってるのか気になってー、みたいな。泥とか全然平気ー」


 やり始めたのは、こころだったのか。

 それにしても、今の女子高校生はやることがないとトンネルを掘るのか。摩訶不思議だ。


「5時からまた始まるから休んでおけよ!」


「うん。はやとくん」


 桃だけが返事をした。


「やった! 繋がった!」


「トンネル開通ー」


 やれやれだ。俺もベンチに座って休むとしよう。

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