量産型企業戦士サラリーマン(ブラック)

一之三頼

量産型企業戦士サラリーマン(ブラック)

午前四時。

太陽すら顔を出さないその時間に、漆黒のスーツを身に纏い、道を往く男の姿があった。

その男は




『量産型企業戦士・サラリーマン(ブラック)』!




『人材の活用を掲げ、進歩した科学は量産型企業戦士を生み出したのだ!』


「定刻に付き、起動。」


変身ネクタイにより、量産型企業戦士となったその男は迫り来る悪(睡魔)をいとも容易く打ち破り、オフィスへと向かう。


「これより出勤を開始します。」


『改造を施された量産型企業戦士は睡眠時間を短縮する事で、より多くの労働に勤しむことが出来るようになったのだ!』


「150円になります。レジ袋はお付けしますか?」

「いいえ。」


コーヒーを補給し、エネルギーをチャージする。


「(ゴクリゴクリ)」


『量産型企業戦士を運用するにあたってのコストの削減は必須!

突き詰めた経費削減の結果、完全栄養飲料コーヒー(190ml)を補給するだけで一日分の栄養を賄う事が出来るのだ!』


「到着。これより業務を開始します。」


オフィスに到着すると打刻前に業務を開始する量産型企業戦士。

オフィスの清掃、備品の管理、機器のメンテナンス。

やらなくてはならない事は多岐にわたる。


「9時、打刻します。」


『量産型企業戦士に早出は存在せず、8時間以上勤務しない!

人件費削減に貢献する為だ!

勤務時間外の行動は自由であり、愛社精神に基づいて、何物にも恥じない行動する事が社是として推奨されている!』


「部長、おはようございます。」

「おう。D社の資料はどうなっている?」


11時、上司出勤。

上司に90°の角度でお辞儀をして挨拶をする。


「はい、D社に関しては昨日15時に部長が契約否決につき不要となったとおっしゃっていた為、ご用意していません。」

「バカヤロウ!オレは用意しろって言っただろうが!いつ!いらねぇっつったんだ!とっとと用意しろ!この能無しが!」

「申し訳ございません。早急に。」

「ったく、使えねぇな!それからB社の件だが、とっとと契約させちまいてぇから午前中に見積もりをまとめとけよ!それとA社と資料も今日中に仕上げとけよな!C社の資料はいらなくなったから作んねぇで良いぞ!」

「かしこまりました。」


『量産型企業戦士にとって上司の命令は絶対!唯一無二の真実!

例え黒でも、上司が白と言えば白になるのだ!』


「17時、打刻します。」


『量産型企業戦士に残業は存在せず、8時間以上勤務しない!

人件費削減に貢献する為だ!

勤務時間外の行動は自由であり、愛社精神に基づいて、何物にも恥じない行動する事が社是として推奨されている!』


「引き続き、業務を継続します。」


勤務終了後も業務は続く。

緊急で発生した案件の処理、時間不足で完了出来なかったタスクの遂行。

やらなくはならない事は多岐にわたる。


「0時、退勤します。」


『日付が変わる事で量産型企業戦士は帰宅する!

休息時間を短縮し、可能な限り業務を行うのだ!

故に量産型企業戦士の睡眠時間は1時間である!』




街灯の僅かな明かりを頼りに、自身以外誰も存在しない道を歩み、帰路に着く。

こうして量産型企業戦士サラリーマン(ブラック)の1日は終わりを告げる。


『戦え!サラリーマン(ブラック)!

負けるな!サラリーマン(ブラック)!

その命が燃え尽きる(比喩)まで、歩みを止める事は許されないのだ!』

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量産型企業戦士サラリーマン(ブラック) 一之三頼 @hajimemirai

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