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「この荷馬車だったら、問題ないが、身体の調子は大丈夫なのか?」
ラッシュが大きな荷馬車を準備して言った。
「ラッシュさん。ありがとうございます。体調も問題ありません」
「まさか、先日の今日でここにまた来るとは、夢にも思っておりませんでしたよ」
「私もびっくりした!今日もドレス着てないね」
ラッシュに続いて孫娘のマッシュが、リーリエに言った。
「いつかドレス着てくるね」
リーリエがマッシュに言うとマッシュは嬉しそうに笑った。
アンドレアが馬車の中を確認し、野菜を近隣の人々から買い集めている。
人々は快く野菜をアンドレアに売り、中には焼きたてのパンを渡している者もいた。
ラッシュは、荷馬車の料金を受け取るとその額の多さに驚いて、畑になっている真っ赤なジャーツの実をおまけに大量に荷馬車に乗せていた。
荷台の中にリーリエとメノーラが乗るスペースを急遽作り、周りを布で囲った。
「本当に冒険小説みたいですわ!」
大興奮しているメノーラは、馬車の中から持ってきたクッションを荷台の上に敷き詰めながらルンルンとしている。
「この箱をここで固定できますか?急に止まった時にリーリエ様にぶつかってしまっては困りますから」
アンドレアが急遽雇った人々に指示を出し、数時間しないうちにリーリエとメノーラが二人座れるほどの場所がある荷馬車が完成した。
はたから見れば、野菜が大量に積まれている荷馬車にしか見えない。
「ご協力ありがとうございます」
アンドレアが頭を深く下げていたので、リーリエとメノーラも続いて頭を下げた。
「そんな!頭を上げてください。こっちは金をしっかり支払ってもらっているんだから、当然だ。何があるか分からないけど、応援していますよ」
ラッシュの言葉にリーリエは胸が熱くなった。
このまま開戦してしまえば、ラッシュ達のような農民が最初に被害にあうのだ。
「ばいばい。今度はドレス着てきてね」
別れ際にマッシュに言われて、リーリエは「約束するね」と答えた。
***
荷馬車を借りるために国境に続く道よりやや東にそれてしまったので、リーリエ達は慌てるように王国軍を追いかけた。
「馬を飛ばしているでしょうから、少しでも時間を詰めないとまずいですね。スピードをもう少し早めても大丈夫ですか?」
座席に座っているアンドレアが、荷台の上に座っているリーリエとメノーラへと言葉をかけた。
クッションを引いていなかったら、振動が直接届くので腰を痛めてしまっていただろう。
揺れる車体の中で、必死に手をつきながら「大丈夫です」とリーリエは答えた。
「リーリエ様。もう一度ここで城の中に到着した時のおさらいをしましょう」
メノーラが鞄の中から、グランドール王国の城の構造が描かれた羊皮紙を取り出した。
リーリエが覚えている限りのことを書いたのだ。
「最初に目指すのは、使用人たちの洗濯部屋ですね」
「ええ。市民の格好をしていては、怪しまれるというか、あの国は、本当に階級制度が厳しいの。だから城の中は選ばれた人しか入れないのだけど、老朽化も進んでいて抜け道だらけだから、城を知っている人間からすれば侵入はたやすいはず」
「もし、城の侵入経路がだめだったら……」
不安そうな表情を浮かべてメノーラが尋ねた。
冒険小説みたいとはしゃいでいても、実際にメノーラは温室育ちのお嬢様だ。
不安がないはずがない。
「その場合は、考えたくもないけれど……最終的な侵入経路で行くしかないわね」
最終的な侵入経路と聞いて、メノーラは「それだけは避けたいミッションですわね」と眉を潜めた。
リーリエの胸の巻物の中には、モルガナの日記が入っている。
この日記が役立ってくれればいいのだが。
リーリエとメノーラを乗せた荷馬車が、グランドール王国への国境に到着したのはその日の真夜中のことだった。
「おい、そこの馬車止まれ」
国境の門をしている兵士が、アンドレアに声をかけた。
人の出入りが少ないグランドール王国の門には、争った形跡がなかった。
クノリス達は本当にグランドール王国へと向かったのだろうかいうほど、静けさが広がっている。
「野菜を売りに参りました。今年のグランドール王国は寒さにより不作続きと聞きまして」
アンドレアが、落ち着いて答えると「荷物を見せろ」と兵士が厳しい声を出した。
「どうぞ」
アンドレアが答えると、念のためにリーリエとメノーラは麻で出来たシートを自分たちの上にかけ、その上に野菜を乗せた。
バサっと布をめくる音がして、しばらく経つと「本当のようだな」といった兵士の声が聞こえた。
「だから、そう申しております」
「生意気を言うな。さっさと行け」
門を潜り抜けて、荷馬車はグランドール王国へと侵入した。
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