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 その日の晩は、城でパーティーが開催された。


「アダブランカ王国の繁栄を祈って!」


「繁栄を祈って!」


 人々は、グラスを掲げクノリスに、アダブランカ王国が勝利するように声をかけた。


 その日は、騎士団の人間もパーティーに参加しており、勢いをつけている。


 人々の笑い声が会場の中に響き渡っていた。


 豪華な食事に、きらびやかなドレスを纏った娘たち。 


 誰もが笑顔で笑っていた。


 会場の中で唯一笑っていなかったのは、メノーラ一人だった。

 居心地の悪そうな彼女は、リーリエと目が合うと、「もう帰りたい」とジェスチャーをした。


 時間の少ない中で、メノーラはリーリエの作戦のために尽力してくれた。


 何も知らない夫人やイーデラフト公爵は、きっと事態を知ればリーリエのことを非難するだろう。


 もしかしたら、これがメノーラとの一緒にいることが出来る最後になるかもしれない。


 リーリエは何度も、無理に一緒に来る必要はないと伝えた。

 危険な任務だし、生きて帰れる保証はないと。


 しかし、メノーラは何が何でも一緒に行くと言ってくれたのだ。


「二足歩行の九官鳥と陰口を言われて来た私にとって、リーリエ様ははじめて心から一緒にいたいと思えたお方でしたわ。それに、私一度でいいから冒険小説のようなことをしてみたかったんですの」


 何かあったらリーリエを切り捨ててでも逃げる。ということを条件にリーリエは、メノーラに同行をお願いしたのだ。


「今夜も君は綺麗だな。リーリエ」


 軍服に身を包んだクノリスが、リーリエに向かって微笑んだ。


「私、また怒っているんです」


 リーリエは、クノリスにバレないように演技をしていた。 

 まさかクノリスは、リーリエが後からつけて行こうと思っているなど夢にも思っていないだろう。


「分かっている。すまない」


 クノリスの声は落ち着いていた。

 アダブランカ王国の英雄王。


 だが、グランドール王国に足を一歩でも踏み入れれば、元奴隷の脱走者。


 階級、肩書きを何よりも重視するグランドール王国では、少しのミスが命取りになってしまう。


 クノリスがミスをするとは思えないが、グランドール王国の人間は、必ず卑怯な手を使ってくるはずだ。


 それすらすべてを受け入れて、クノリスはグランドール王国を侵略しに行くのだ。


「謝られたって、私は許しません」


 リーリエはクノリスの手を取って、力を込めた。


「必ず、勝利してくる。約束するから、今夜は機嫌を直してくれないか?」


 クノリスはリーリエの手を握りしめた。


 明日になれば、全てが始まり、そして終わる。

 

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