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 数日後、前王政派閥の数名の人間がアダブランカ王国騎士団によって、捕らえられた。


 前王政派閥の人間達が、尋問によって吐いたのは、資金源はグランドール王国からだということだった。


 これによってクノリス王が宣言していた、グランドール王国との開戦は本格的な話となり、反対派の人間達も意見を賛成に変えざる得ない状況となってしまった。 


 グランドール王国出身であるリーリエは、クノリスによって再び王宮の一室に隠されている状態である。


 婚儀の儀式は、次の満月まで延長されることとなってしまった。


 婚儀の儀式が延期になったことで、ダットーリオは国に帰ってしまった。


「大変な状況になってしまいましたが、お気を落とさずにいきましょう」


 メノーラが気を使ってリーリエを励ましてくれた。


 ミーナはまだ復帰をしていない。


 復帰をしたとしても、リーリエを守れなかったという理由で、リーリエの側近になることはクノリスが許さないだろう。


 全てがマイナスの方向へ向かっている。


「メノーラ。私……どうしたらいいか」


「お気持ち分かります」


 メノーラが気持ちに寄り添ってくれたことで、リーリエは、初めて涙をこぼして泣いた。


「泣いても……どうしようもないって分かっているのだけど」


「いいんです。泣いてください!泣いて当然です!私だって悲しいです」


 メノーラの瞳からも大粒の涙が溢れだした。


 母が亡くなって以来、リーリエは初めて声を上げて泣いた。

 一緒に泣くメノーラもあまりに泣くので、声を聞いて慌てたアンドレアが部屋の中に飛び込んでくるほどだった。


 大泣きしているリーリエを見て、アンドレアは気まずそうな表情でリーリエに濡れた顔をハンカチで拭くように促し、一緒に泣いているメノーラに「何があったんですか?」と厳しい表情で尋ねた。


 ひとしきり泣いた後、リーリエとメノーラは、目と鼻を真っ赤にした状態で授業を再開した。


 はたから見たらあまりの情緒不安定さに、見たものは戸惑うほどだった。


「アンドレア。あなたは下がっていてください」


 泣き腫らした目でリーリエが訴えると「ですが……」とアンドレアは困惑している様子だった。


「聞こえませんでしたか?下がっていなさいと言ったんです」 


 珍しく大きな声を出したリーリエの言葉に、アンドレアは頭を下げて部屋を出て行った。


「メノーラ」


「なんですか?」


「お願い。力を貸して。私は、やっぱり戦争は嫌。例えどんなに祖国が憎くても」


「承知しました。考えましょう」


 メノーラは泣き腫らした瞳を袖で拭った後、大きく頷いた。



***



 メノーラがいくら力を貸してくれると言っていても、王宮の講師では出来ることはたかが知れている。


 一番早いのは、大臣であるメノーラの父であるイーデラフト公爵に協力を仰ぐことだった。


「まずは私の方からお父様に話が出来るようにお伝えいたしますわ」


「ありがとう」


「リーリエ様。最終目標を決めましょう。リーリエ様は、どこを目標にいたしますか?クノリス様の目標は、奴隷制度を全土で停止すること。そのために、グランドール王国の権力を戦争によって自分の手中に収めるということです」


 メノーラはアダブランカ王国の現状について詳しく説明し始めた。


 クノリスのしようとしていることは、全部が悪いことではない。


 奴隷制度が撤廃されれば、救われる命は多いだろう。


 戦争が手段だということも分かっている。


 だが、戦争を反対している人間達が国内でいるのにも関わらず、戦争を行うこと。


 そして、グランドール王国との戦でアダブランカ王国が劣勢になり、クノリスが捕まることにでもなれば、クノリスは奴隷として公開処刑されるだろう。


 彼が元奴隷だと知っているのは、ダットーリオとリーリエだけだ。


 元奴隷の王ということがアダブランカ王国に広まれば、これを期に奴隷制度に賛成していた国が、一斉にアダブランカ王国に攻め入るに違いなかった。


「私は、話し合いでの解決を求めたい」


「なるほど。ですが、聞いたところによると、相手側は話し合いの席をもうけようとしていないではありませんか?私たちでは知り得ないグランドール王国の弱点はありませんでしょうか?」


「弱点ってほどではないけれど……」


 リーリエは、モルガナ王妃の日記を取り出してメノーラに手渡した。


 メノーラはその日記を見ると「なんと!」と興奮気味で読み漁っている。


「とんでもないプライベートダイアリーですわ!そういうことだったんですね!納得がいきました!」


「どういうこと?」


「おそらくグランドール王国の件は、グランドール王国第一王妃であるモルガナの故郷であるドルマン王国が裏で操作している形なのでしょう。モルガナ妃の権力が城の中で強かったんじゃないでしょうか?」


「ええ。その通りよ」


「このノルフという男を捕らえられるといいのですが……。私たちだけでは無理ですね。人を使いましょう。ちょうど仕事を失っている男を二人ほど知っていますわ」


 メノーラは、今までに見たことがないほど生き生きとした表情で、リーリエに笑って見せた。

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