4
「君だって、彼の出生くらいは知っているんだろう?」
ダットーリオの顔から笑みが消えた。
嘘はついてはいけないと、リーリエの全細胞が叫んでいた。
「はい……先日背中の刻印を見せていただきました」
「知っているのに、よくものうのうと結婚しようだなんて思えるな」
吐き捨てるような口調だった。
「私は……」
彼を愛している?
本当に愛していると言えるのだろうか。
先日、リーリエは安心できる場所に移動できるのであれば、アダブランカ王国を出ていけると思ったばかりだ。
クノリスの背中の刻印を見て、過去に母親がどうしてあんなことをしたのだろうと思ったことを思い出した。
母親のサーシャが奴隷を解放しなければ、虐待をさえることなんかなかったと。
「私はずいぶんとクノリスに出資してきてね。ようやくここまで来たんだ。君には残念なお知らせかもしれないが、今後我々は全土の奴隷廃止を広めるつもりだ」
「え……」
リーリエは顔を上げる。
アダブランか王国やイタカリーナ王国だけなく、他の諸国を全て巻き込んで、そんなことが可能なのだろうか。
「確かに奴隷生産国のグランドール王国の出身である君は、一見すれば便利だ。だが、全土で見た時に、君の利用価値はあまりに少ない」
ダットーリオの言葉に、リーリエは何も言い返すことが出来なかった。
継母のモルガナにも何度も「この役立たず」と言われてきた。
結局リーリエがいくらアダブランカ王国で努力しようと、何もできないままなのだ。
「これから全土の奴隷を廃止するために、イタカリーナ王国とアダブランカ王国は協力していく予定なんだ。そのために、私の妹とクノリスの結婚は必須なんだよ。両国がしっかり結ばれれば、その分勢いは強くなる。分かってくれるね」
言いたいことを言いたいだけ言うと、ダットーリオはリーリエを温室に残して出て行ってしまった。
ダットーリオが立っていた場所には、彼がちぎり捨てた葉が一枚だけ落ちていた。
***
ダットーリオと話をした後、リーリエは嫌がられると思ったが、クノリスが湯あみに来るのを見計らって真夜中に待ち伏せすることにした。
もう彼の秘密も知っていることだし、来たとしてもルール違反ではないはずだ。
それに、あの晩からリーリエのことを避けていては、リーリエをどうしたいのかも分からない。
「何をしている……」
真夜中の湯あみに来たクノリスが、待ち伏せしているリーリエを発見して、驚いたような表情を浮かべた。
「何をって……待ち伏せです」
「外は見張りがいたはずだ」
「見張りを説得して、今はこの付近を見張っているはずです」
クノリスは「あいつら……」と深いため息をついた。
リーリエが彼らにお願いをしてクノリスが一人になる時間に、一緒に行動してくれないかと言ったところ、ガルベルが一番乗り気になって了承してくれたのだ。
クノリスが踵を返して出て行こうとしたが、リーリエは思い切って腕を掴んだ。
「クノリス王……いいえ、クノリス。私とちゃんと話をしましょう」
「いや、話すことは何もない」
「ですが、私は話したいことがたくさんあります」
「……」
クノリスの動きが止まった。
「私をグランドール王国に連れてきた理由は分かったわ。母と私があなたを助けたから、その御礼に妻にしようと思ったんでしょう?だけれど、あなたの背中の刻印を打ち明けられて、避けられる理由が分からないわ」
思い切って思っていることを、全て伝えた。
ダットーリオのことも気になるが、今はクノリスの気持ちの方が気になった。
その理由が何かは分からないが、とにかくクノリスが今リーリエに対してどのように考えているのか知りたいのだ。
「俺が、君をここに連れてきたのは、俺を助けただけだからじゃない」
「じゃあ、私があの後幽閉生活を強いられて、母が亡くなった後、私が虐待されていたから、不憫に思ったのね」
クノリスは、リーリエを睨みつけた後、彼女の手を引いて思い切り、キスをした。
唇が触れ合った瞬間、リーリエは驚き離れようとしたが、クノリスは離してはくれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます