6


 舞踏会が終わると、クノリスはリーリエを自分の部屋へと呼んだ。


「ミーナには、今夜は俺の部屋へ滞在すると伝えてある。アンドレアも来ない」


「だから婚儀の前には……」


「男女の触れ合いはしない。今夜は君と一緒に話をしてもいいと思ってね。あのような公の場所を使って詰められるくらいなら」


「それは……申し訳ありませんでした」


 確かに、公衆面前で聞くような話題ではなかったと思う。


「君が不安に思っていることなら、なんとなくは分かる。他国から来て不安なところ、反対派だの賛成派だの前王政派閥だの色々出てきているからな。グランドール王国での扱いも、ミーナから報告を受けている」


「ミーナが?」


「安心しろ。彼女は、俺意外には口外していない」


 自分の身の上話をペラペラと噂されているのかと思って一瞬焦ってしまったが、クノリスの言葉で安心する。


「正直……不安です」


「こちらへ」


 手を引かれて、座っているベッドの上でクノリスがリーリエを膝の上に乗せる。


「触れないって言っていたじゃないですか」


「俺が触れているのは、手袋にドレスだ」


 屁理屈を言うクノリスに、リーリエはため息をつく。


「……そういうの、屁理屈って言うんですよ」


「今夜で触れるのも最後になるかと思うと、触れたくなるのだよ。お嬢さん」


「どうして?」


「君は、十数年前のことを覚えているか?」


「十数年前……ですか」


「そうだ」


「大きな出来事なら覚えています……」


 十数年前は、母が奴隷を解放して幽閉されたことをよく覚えている。


 今でもどうしてあの時に母を止めることができなかったのだろうと、後悔の連続だ。


 あの出来事さえなければ、母は死ななかったかもしれない。


 リーリエは、あんなひどい目にグランドール王国であわなかったかもしれない。


 クノリスはジッとリーリエの顔を見つめた後、彼女を立たせて自分も立った。


 そして、上半身にまとっている衣服をおもむろに脱ぎ始める。


「ちょっと……!何を?」


「大丈夫だ。これ以上は脱がない」


 クノリスは上半身に纏っていた衣服をベッドに投げ捨てると、リーリエに向かって背中を向けた。


 その瞬間、リーリエは氷ついた。


「君は知っているだろう。この印を。この国の誰よりも」


「……」


「俺は、君に助けられたグランドール王国の奴隷の一人だ」

 

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