3
掃除を手分けして終えた後、家の裏手にある墓石にクノリスが持ってきた花を添えた。
他にもいくつもの花が添えてあり、「ザリア」と書かれた名前の人物は随分と慕われているようだった。
「どんなお父様だったんですか?」
墓石をじっと見つめているクノリスに、リーリエは尋ねた。
クノリスがどのような家族に育てられたのか、リーリエは興味があった。
「底抜けに明るくて、お人よしで、馬鹿な人だったよ」
悪口のように言っているが、クノリスの口調があまりにも柔らかかったので、本当に愛していたのだとリーリエは思った。
自分の亡くなった母を愛していたのと同じように、クノリスもこのザリアという男を父親として愛していたのだろう。
「騎士団の皆様も、この方と親交があったんですね」
「ああ。騎士団の団長のマーロは、親父と幼馴染だし、ガルベルは親父の飯で育ったようなもんだ」
家の外に生い茂っているツタの葉を切っているマーロとガルベルを見てクノリスが言った。
「そうだったんですね」
「王族出身じゃなくて申し訳ないが」
「とんでもないです。私……先日のことを謝りたくて」
「謝る?」
「私……身分というものを刷り込まれて育ったので……自分自身では身分なんかただの称号だと分かってはいるんですけど、とっさのこととなると、どうしても義母と父の言葉が脳裏に過ってしまって」
「……」
「本当にクノリス王には、感謝しております。アダブランカ王国で婚前の男女が触れ合うことが普通なのであれば、私……」
「気持ちがないのに、無理はしなくていい」
リーリエの言葉を遮るように、クノリスがぴしゃりと言いのけた。
「え……」
「君が俺に惚れていないのなら、惚れさせるまでだ。今日はその宣言をするために、俺のバックグランドを見せようと思ってな」
「惚れるって……そんなこと……」
「せっかく結婚するんだ。政略結婚でも、恋愛感情は抱いてもらいたいじゃないか」
「どうして、そこまでするんですか?国土の拡大のために、私にまだ利用価値があるからですか?」
「国を大きくすることには、興味があるな」
「はぐらかさないでください」
本当にクノリスは、リーリエと恋愛がしたいのだろうか。
自信満々な王からも、リーリエに惚れているような素振りはあまり見えない。
余裕そうで、皮肉めいたことを言って、本当に肝心なことは心の中に秘めたまま。
確かに、リーリエがクノリスに惚れてしまえば事はスムーズに進むことも多いだろう。
「俺が、君を心から愛していると言っても……今の君は信じないだろうな」
「ええ。何か腹の内があるとしか」
「随分な言われようだな」
クノリスが寂しそうに笑った時だった。
一本の矢がクノリスと、リーリエにめがけて飛んできた。
クノリスは目にもとまらぬ速さで腰に差していた剣を取り出して、弓矢を違う方向へと弾き飛ばした。
「マーロ!ガルベル!」
クノリスがリーリエを自分自身の後ろに隠し、二人の騎士の名前を呼んだ。
「リーリエ姫。こちらへ」
ガルベルが二階の高さから飛び降りてきて、クノリスからリーリエを受け取った。
「クノリス様!」
マーロが数秒遅れてやって来て、同じように剣を抜いて構えた。
「前王政派の人間どものようだ」
クノリスが、落ちた弓矢を拾って、ガルベルとマーロに見せた。
辺りは静まり返っていた。
「ガルベルはリーリエを城へ戻し、援軍を要請しろ。マーロはこのまま俺と待機だ」
「承知しました」
「御意」
二人はクノリスの指示に頭を下げて返事をした。
「前王政派って……?」
突然のことで混乱していたリーリエは、馬車へ向かう途中にガルベルに尋ねた。
「簡単に言うと、前の王様の一派がまだこの国に残っていて、タイミング悪く遭遇って感じ」
「まだ、前の王様の派閥が残っているってこと?」
「まあ、大体始末したはずだから、人数は少ないはずだけどね。とりあえず、馬車に乗って」
「クノリス王は?」
「あの人は、戦闘においては狂人だから大丈夫。大怪我したところ見たことない。とりあえず、おしゃべりはここまで。ドア閉めるよ」
ガルベルが馬車の運転手に指示を出すと、馬車は動き始めた。
混乱している頭のまま、リーリエは遠く離れる古びた家をずっと見つめるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます