第27話 ハロー、ハローワーク!

「月、このコードはどこにもって行けばいいんだ?」

「それはここに置いといて。その代わり壊れたモニター、物置に置いてきて」

私たちは月の部屋で汗水たらしながら働いていた。しかも無賃労働だ。

「実ちゃんこれ何?」

「喋ってないでさっさと働け!」

何故、私たちがこんな労働をしているのかというと・・・・・・


事の始まりは一時間前だった。

「月ちゃーん! 久々に遊びに来たよ!」

私たちは久々に月の部屋へ遊びに来ていた。月はいつも通りパソコンの前に座り作業をしていた。

「久しぶりだね。コーヒー持ってくるから座って待ってて」

「お構いなく」

月が席を外した後、日菜がそわそわし始めた。

「そういえばさ、月ちゃんの部屋って変なものいっぱいあるよね。何に使うんだろ」

「私に聞かれても困るんだが。・・・・・・勝手に漁るな」

日菜はバズーカのようなものを引っ張り出した。・・・・・・いや、本当にバズーカだな。

「おい、そんな物騒なもんさっさと手放せ。怪我でもしたらどうするんだ」

「大丈夫。私最強だから」

「指を絡ませるな。指悪くするぞ」

私の言葉を無視し、日菜はバズーカのトリガーを引く。

「バカっ!」

しかも運の悪いことに、タイミングよく月が帰ってきてしまった。

「お待たせ~。この間届いた王室御用達のコーヒー用意したよ~」

「月逃げろ!」

「はい?」

次の瞬間、私たちの目の前に広がったのは、眩い閃光だった・・・・・・


「・・・・・・で、随分派手にやってくれたね、君たち」

私たちは二人そろって月の前に正座させられていた。何で私まで怒られてるんだよ。

「ご、ごめんなさい! なんでもしますからどうかお命だけは!」

「おい! そんな事言ったら・・・・・・」

「何でもします」っていう言葉は色々よくないことが起きるフラグなんだよ。

その瞬間、月は悪い笑いを浮かべた。

「言ったね? 言質とったよ」


そして今、私たちは部屋の片付け兼、部屋の修理としてタダ働きさせられているのであった。

「実ちゃーん、そっちから釘持ってきて~」

脚立にのぼり、トンカチで壁に釘を打つ日菜。部屋の修理は全部日菜の担当にしておいた。日菜のほうが体力も力もあるからだ。

「ほらよ。壊した分しっかり働けよ」

日菜に釘を手渡す。

「嫌だなぁ・・・・・・」

「お前のせいで私まで働かされてるんだよ! ていうか月も少しは手伝ってくれよ!」

パソコンの前で作業している月に言う。私たちだけ働くなんて不平等だ。

「無理。今『プロテクトロボ』のバージョンアップさせてるから。一台一台手作業だよ」

「別にそこは聞いてない。そしてこれ以上パワーアップするのか」

プロテクトロボの詳細は、前回の話をチェックしてね。

「いや~、実はあのロボの中に欠陥品が見つかってね。本当なら殺さないはずなんだけど、欠陥ロボは、敵味方問わずに殺そうと襲い掛かってくるからね。ちなみにボクも襲われたよ」

「欠陥どころじゃないだろそれ」

仮にそんな商品が世の中に出回ったら、確実にその会社潰れるな。

「今更欠陥ロボ探すのもめんどくさいしいっそのこと、全部バージョンアップさせたほうが早いなって思った次第です」

「過労死しないことを祈るよ」

こいつの過重労働にツッコんでたらきりが無い。

呆れながら私は月の作業している背中を見つめるばかりだった。

「月ちゃん、この肥料と種? どこに持って行けばいいの?」

てこてこと幼女のように農家が使うコンテナを持ちながら、日菜が駆け寄ってきた。見た目と持っている物のギャップがえげつない。

「何だそれ」

中をのぞくと大量の肥料と、・・・・・・何の植物の種だこれ?

「それは地下の植物園に持っていって」

「これ以上の地下があるのか!?」

「そりゃあまだまだあるよ。大体、こんなところで実験とか作業が出来るわけないでしょ」

月はこんなところと言ったが、部屋中に電子機器・難しそうな本・自作の論文などが散らかっており、片付ければ余裕でパーティ開けるぐらいの広さはある。

「地下に行く方法分からないから一緒に来て?」

「しょうがないな。今回で覚えてよ」

日菜と月は二人で横に並んで地下へ向かった。

何だろう・・・・・・。日菜と月が並ぶと、どう見ても小学校低学年の女子生徒が仲良く登下校しているようにしか見えないんだよな。

そして私は完全に不審者にしか見えないし。


地下の植物園

「何じゃこりゃ・・・・・・」

私たちの目の前にあるのは、見たことの無い謎の植物が多い茂っていた。この部屋を例えるなら、『ファンタジー世界に出てくる、幻想的な森』といったところだ。

「あ! 実ちゃん、ちょうちょがいるよ!」

日菜は蝶を追いかけて奥へと進んでいった。

「幼稚園生かあいつは」

「ははは。可愛いじゃん」

「まぁ・・・・・・、可愛いとは思うが・・・・・・」

あえて否定しないことを選んだ。

「それで、この謎の植物は一体何なんだ?」

「そうだね。せっかく来たんだし一つずつ順番に説明していこうか」


「これは?」

まず目にしたのは、桃のような見た目をした果実だった。これは普通の桃か?

「それは『仙桃』だよ」

「は!?」

説明しよう。

『仙桃』とは、西遊記の話で孫悟空が勝手に盗み食いした桃である。それを食した者は不老不死になるのだ。

「いきなりすごいもの来たな・・・・・・。これ食えるのか?」

「食べられないことは無いけど、普通の人間なら体が負担に耐え切れずに死ぬよ」

「何でこんなもの作ったんだよ・・・・・・」


次に目にしたのはりんごのような果実を付けた植物だ。

「これは『禁断の果実』だよ」

「だから何で作れるんだよ」

禁断の果実とは、『アダム』と『イブ』が食した果実で、これを食した二人は恥ずかしさを覚え服を着るようになったと言われている。

「じ、じゃあこれは?」

私のすぐ横に立っている木(?)を指差す。

「あれは『ユグドラシル』だよ。作るの大変だったなぁ」

「ここにはまともな植物は存在しないのか!?」

ユグドラシルとは、世界樹の名前を持つ木である。

「もちろん普通の植物もあるよ。おいで」

「今度こそまともな植物なんだろうな・・・・・・。日菜、行くぞ!」

「うん! 今行く!」

日菜も私たちの後を追って、部屋の奥へ入っていく。


「あ、本当に普通の植物だ」

部屋の奥には、どこにでもあるような植物が生えていた。

「ここには食べられるものもあるから、自由に食べていいよ」

「いいのか? じゃ遠慮なく」

私はバナナをもぎ取った。日菜はりんごをもいだ。

「ん。美味いな。これは月が育てたのか?」

「ボクしか居ないでしょ。逆にボク以外に誰が育てるの?」

「確かに」

・・・・・・よく考えたら、植物の季節めちゃくちゃになってるな。何で桜と、紅葉が同時にちょうど見頃の状態になってんだよ。その隣には向日葵と椿が同時に咲いてるし。

「あれ? 月ちゃん、奥に扉があるよ?」

「・・・・・・見てみる?」

「いいの? やったぁ!」

「おい月、あまり日菜を甘やかすなよ」

「いいんだよ。君たちには見せてもいいかなって思ってたし」

月は扉の前にあるタッチパネルに手をかざす。すると、頑丈な見た目の扉が大きな音を立てながら開いていく。

「これは・・・・・・、桜?」

もっと意外な植物があるかと思いきや、目の前に生えていたのはどこにでもあるような何の変哲もない桜だった。

「これはね、ボク達家族の思い出の桜なんだ」

「家族?」

日菜が首を傾げる。

「うん。ボクが生まれたときに、父さんと母さんが植えた桜なんだ」

「父親と母親はどこにいるんだ?」

「・・・・・・もういないよ。ボクが5歳のときに、交通事故にあって死んだんだ。運転手が信号無視したせいでね」

「・・・・・・許せねぇ」

自分の事でもないのになぜか怒りがわいてくる。私は拳を握り締めた。

「その後、生徒会長に拾われて永本に育ててもらったんだ。永本がいなかったらボクはとっくに死んでただろうね」

永本のことは14話をチェックしよう。

「ボクがやりたいことはね、父さんと母さんにもう一度会うことなんだ」

「・・・・・・生き返らせるってことか?」

「うん。生き返らせると言っても、父さんと母さんのDNA から父さんと母さんを作り直す方法を研究しているんだ」

「・・・・・・そんなのでいいのか?」

「え?」

「そんなことで会って、本当に嬉しいのか?」

「それはどういう・・・・・・」

「そんなことはあの世の親父もお袋も望んでいないと思うぞ。それに、仮にそんなものを作っても偽物には変わりないんだぞ」

月の気持ちは痛いほど分かる。私も昔、同じことがあったからだ。大事な人を失う気持ちはよく分かる。だからこそ言える。

「実、君なら分かってくれると思ったんだけどなぁ」

「あぁ、よく分かるよ。私も会いたいやつがいるんだよ。でも、もう会えねぇ。今すぐにでも会いたいよ」

「実ちゃん・・・・・・?」

「月、当たり前のことを言うぞ。死んだやつは戻らねぇんだよ。お前が天才を超えた天才だとしても無理なんだよ」

「実・・・・・・、お前・・・・・・!」

「・・・・・・でもな、皆、頑張って生きてるんだよ。辛い悲しみとかを抱えながら、皆一生懸命生きてるんだよ。前を向いて進むしかないんだよ」

「・・・・・・!」

「私にはお前のような親はいなかったから親を大事に思う気持ちは分からないが、大事な人に会いたい気持ちは分かる」

「だったら、どうすればいいんだよ・・・・・・」

「月、今まで頑張ったな。泣いてもいいんだ。吐いてもいい。嫌になったら暴れてもいい。私たちが全部受け止めてやる。だから・・・・・・、お前は死ぬな」

「・・・・・・実・・・・・・」 

月の深く刻まれた隈のある目から、涙がこぼれている。私は月の目を優しくぬぐった。

「・・・・・・さて、そろそろ休憩も終わりだ。作業の続きをするぞ」

「・・・・・・うん。バンバン働いてもらうよ!」


ボクはまた、扉を閉めた。

「さてと、次の作業は・・・・・・。月ー、行くぞー」

「分かった!」

ボクは扉のほうを向く。

父さん、母さん。昔はボクに友達が全然出来ないって心配してたよね。もう父さんと母さんには会えないけど、今は寂しくないよ。

だって、今は大切な人がたくさんいるからね。

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