第26話 昨日の友は今日の敵

「日菜、おにぎり買って来たぞ」

「わぁ! ありがとう!」

日菜におにぎりを手渡し、そのおにぎりを日菜はほうばる。今日は少し早く食べることにした。なぜなら腹が減ってるからだ。

「早弁とはいい度胸ですね。お二人さん」

「げ、委員長・・・・・・」

委員長ににらみつけられる。だって仕方ないだろ。腹減ってるんだから。

それとも腹が減った状態で勉強しろとでも? 日菜のただでさえ悪い成績がもっと下がるだろうな。

これ以上下がらないほど酷い成績だけどな。

「まぁいいでしょう。今回は許します」

良いんだ。

「お二人さんは本当に仲が良いのですね。幼少期からの仲ですか?」

「いや、つい最近会話を交わした仲だな」

「何でしょう・・・・・・、実さんがお姉さんで日菜さんが妹みたいな感じですね」

私一応妹なんだけど? (実には姉がいる。十六話参照)

「日菜さんが実さんに甘えて、それに耐え切れない実さんが甘やかしてしまうといったパターンですね。実に可愛らしいですね」

「実ちゃんがお姉ちゃんだったら私嬉しいかも!」

「お前みたいな妹がいたら体力ゲージいくらあっても足りないぞ」

完全なるゲーム廃人の思考である。

「でも、実ちゃんと仲がいいっていうのは正しいと思うよ? 絶対に喧嘩しないよ!」

「喧嘩ねぇ・・・・・・」

私も小学校時代、男子どもと喧嘩したことはあったが、返り討ちにしてやったな。懐かしい思い出だ。

日菜と喧嘩したら絶対に勝てないな。絶対に!

「大丈夫だ。日菜とは喧嘩しない」

「ふふ。お二人の仲の良さには尊敬します」


次の日

「どっか行け、日菜!」

「実ちゃんこそ離れてよ!」

二人ともいがみ合いながら登校していた。

「おい委員長、あれは一体どういうことだ?」

「優香さん。実はあの二人が珍しく喧嘩したようでして・・・・・・」

「あの二人が喧嘩!? 一体どんなことで喧嘩したんだよ?」

「猫が可愛いか、犬が可愛いかで揉めているそうです」

「しょうもねぇ!」

委員長と優香が会話していると、日菜と実が駆け寄ってきた。

「おい優香! お前は猫のほうが可愛いと思うよな!?」

「委員長! 絶対に犬のほうが可愛いよね!?」

優香には実が、委員長には日菜が駆け寄ってきた。

「えぇ・・・・・・。あたしは猫派だけど」

「私は犬派ですね」

「「は?」」


※ ここから視点が替わります。

突然だが、俺の名前は山田哲郎。57歳。天地学園の教師だ。

今日も今日とて自分の担当しているクラスに向かう。俺の担当しているクラスには、超問題児がいる。しかも三人もだ。

それは、秋雨実・神楽日菜・八重桜優香だ。

あの三人には本当に骨が折れる。実は居眠りの常習犯。日菜は成績が悪い。

そしてなかでも優香は上の二人が霞むレベルだ。いくら止めろと言っても、タバコは吸うわ、ピアスを空けるわの問題児だ。

今日は問題を起こしていないといいのだがな・・・・・・。


ん? 中庭が騒がしいな・・・・・・。行ってみるか。

「お前たち! 何をしている!」

「先生逃げて!」

男子生徒が顔を真っ青にして警告してくる。

何を言ってるんだこいつらは。教師の私に向かって脅しをかけようたってそうはいかないぞ。

「お前たち・・・・・・ってえぇ!?」

目の前から瓦礫が飛んできた。

「実&優香対、日菜&委員長で何か喧嘩してるんです!」

「本当に何をしてるんだお前たちは!?」

地面にはひびが入り、壁が崩壊したりと、どんどん中庭が廃墟と化していく。

「ちょっ、お前たちやめなさい・・・・・・ゴフッ!」

顔面に瓦礫が直撃し、俺は遙か彼方の空へ飛ばされた。

「センセーイ!」

お前たち・・・・・・、死ぬんじゃないぞ・・・・・・!

(哲郎の出番終了。)


力尽きた私たちは、地面に倒れこんだ。

「絶対に・・・・・・、猫の方が可愛いんだ・・・・・・!」

「わんちゃんの方が・・・・・・可愛いんだもん・・・・・・!」

あの後、生徒会の必死の戦闘と月の戦闘兵器によって喧嘩は収まったのだった。

「もう! 喧嘩しちゃダメでしょ! 皆仲良くしなきゃ!」

体育委員長は腰に手を当てて話す。

「いや、もうこれ喧嘩じゃなくて天○一武道会じゃないですか・・・・・・」

手錠を持ちながら呆れ気味に話す風紀委員長。ちなみに戦闘したのはほとんどが自分の部下である。

「さて、まず破損した窓ガラスが50枚。巻き添えを喰らった生徒が73名。学園の設備の修理代。合計で80億です」

携帯型ゲーム機で遊びながら、会計・経費委員長は淡々と読み上げる。

「は!? そんなにすんの!?」

そんなに払えるわけ無いだろ! サラリーマンの生涯年収約3億だぞ!? (諸説あり)

「きっちり払ってもらいますからね?」

や、ヤベェ・・・・・・。優香なんて泡吐いてるし。

「・・・・・・あら? 実と日菜じゃない。どうしたの?」

木刀を持ったエヴァが近づいてきた。これから稽古を始めるのだろう。

「ショウグン! (エヴァのあだ名。実が勝手に命名)助けてくれ! 実はかくかくしかじかで・・・・・・」


「ふーん。ちなみに修理費はいくらなの?」

「・・・・・・80億」

「たった80億なの? 私の今週の娯楽代じゃない」

たった80億って・・・・・・。女子高生の言うセリフじゃない。お前は一体何者なんだ?

「払ってくれるのか!?」

「いいわよ別に。友達なんだし、友達のピンチに駆けつけない友達がどこにいるってのよ」

そう言うと、エヴァは指を鳴らした。

「え?」

その瞬間、上空にヘリコプターが現れた。そこから黒いスーツを着た人たちがぞろぞろと出てくる。

「エヴァお嬢様。代金はこれでよろしいでしょうか」

スーツを着た人達がアタッシュケースを持ち、エヴァに確認を取る。

「えぇ。あの人たちに渡して頂戴」

「本当に何者なんだお前は!?」

何か怖くなってきたんだが・・・・・・。まさかどこかの国の姫とかじゃないよな?

「78億・・・・・・、79億・・・・・・、80億・・・・・・。確認終わりました。80億あります」

「ご苦労」

「た、助かった・・・・・・。本気で今月の家のローン払えなくなるかと思った・・・・・・」

本来なら大人が払うものなのだがな。ウチの親がそんなことするはずも無いから全額私が払ってやってんだよ。


放課後、私たち4人と、体育委員長、風紀委員長で話し合いをすることになった。

「で、何でそこまで猫と犬にこだわるんですか? 別にどっちでもいいでしょう」

風紀室 (風紀委員会専用の部屋)で椅子に着席させられた私たちは、取調べ (?)を受けていた。

「だって・・・・・・、実ちゃんなら、私と好きなものが一緒だって思ってたんだもん」

そんなわけ無いだろ。

「ちなみに私はウサギが好きだよ!」

「貴方は黙っててください」

「は~い。水星ちゃんも、これが終わったら、また美味しいカフェ行こうね!」

「ちょっと・・・・・・! それは二人だけの秘密って言ったはずでしょう!」

裏では意外と仲良かったんだな。

「とにかく、喧嘩は両成敗です。今回は払ったのは他人ですが、修理費用なども納めましたし、あまり深く罰しません。ですが、次このような問題を起こした際は、本気で罰しますので覚悟して置いてくださいね」

「はい・・・・・・」


「ふぅ。酷い目にあったな・・・・・・」

日菜と並んで下校する私たち。日菜は何も発さない。

やっぱり最近羽目を外し過ぎたか? 新しい環境に置かれると調子に乗るのは私の悪い癖だな。

「日菜、今日どうする? 別に私と居たくないんだったらそれでもいいけど」

流石の日菜も私と距離を取りたい日だってあるよな。今日は一人にしておいてやるか。

・・・・・・何か、また昔に戻った感じだな。

「実ちゃん!」

「ん?」

「今日・・・・・・、ごめんなさい!」

「日菜・・・・・・。お前は何も悪くないぞ。悪いのは私なんだから、もう気にするな」

・・・・・・結局日菜にも頭を下げさせてしまったな。

昔から私はそうだ。

相手は何も悪くないのに、自分の態度や雰囲気ですぐに頭を下げさせてしまう。

悪いのは全部私なのに。原因は全部私だったのに。

せめて、日菜にだけはずっと笑って欲しかったんだが、結局歴史は繰り返すってことか。

「日菜、頼む。頭を上げてくれ」

「ダメだよ。ちゃんと悪かったことは反省しなきゃ!」

「お前は何も悪くない。悪いのは全部私なんだから」

「・・・・・・じゃあお互いに悪いってことでいい?」

・・・・・・え?

「私が犬派ってことを押し付けて殴っちゃったのも悪いし、実ちゃんが猫派ってことを押し付けて殴っちゃったのも悪い。お互いに悪いところはあったんだよ。だからそこはちゃんと謝ろう? だから、ごめんなさい」

「・・・・・・」

日菜は優しいな・・・・・・。純粋で、素直で。一点のにごりも無い。澄み切った心なんだな。私みたいに、汚れきった心じゃない。こんな私でも、見放さないでくれるんだな。

「実ちゃん!? 何で泣いてるの!? また実ちゃんを悲しませちゃった!?」

「・・・・・・はは・・・・・・。何で、私泣いてるんだろうな・・・・・・。自分でも分からねぇや」

止めようと思うと逆らうように涙が出てくる。

「日菜。悪かった。そして、ありがとう」

私は深々と頭を下げた。こんな安い私なんかの謝罪で、許せとは言わないけど、これが私なりの誠意だ。

「気にしないで。じゃあ、もうこの話題はおしまい! さっそく実ちゃんの家で遊ぼう!」

「あぁ。何して遊ぶ?」

「実ちゃんがいつもやってるゲームしたい!」

私たちは、お互いに手を取り、家へ向かった。

この手を今も、これからも離したくない。ずっと日菜と一緒にいたい。

こんな我儘な私を、日菜は許してくれるだろうか。



DETAFILE


プロテクトロボ Ver, 1,0 Ver, 2,0


月が開発した警備ロボット。

完全なる自立型ロボットである。

通常は月が住んでいる地下倉庫の警備・巡回を行っている。

ロボットとはいえ耐久力もあり、並大抵の人間の力では破壊することはおろか、傷一つ付けられない。

Ver, 1,0は、戦国時代の槍兵のような見た目。

Ver 2,0では、ライフル銃を所持し、現代のSF映画に出てくるような兵器型アンドロイドのような見た目になり、耐久力も跳ね上がった。

攻撃対象を確認すると、殺さない程度に攻撃を開始し、戦意喪失まで追い込んでから身柄を拘束。そのまま月の場所まで連行し、そこで月が記憶を消去するというのがいつもの流れ。

ただし、月の身に危険が及ぶと判断した場合は容赦なく殺そうとしてくる。

全てのプロテクトロボは月の管理下に置かれ、全ロボの視界は全て中継で月の部屋のモニターに放送され、月の判断一つで対象のロボを破壊できる。

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