第2話 引きこもり、学生になる。

「はい! というわけで今日は入学試験でございます!」

「うるさい、やかましい。今何時だと思ってるんだ」

朝の6時。

私はたった今、日菜にト○ロのメイみたいに馬乗りになって起こされた。他人に起こされたのなんて何年ぶりだろうか。

「そして人が寝ているときに人に馬乗りになるのはやめろ。寝苦しいだろ」

「・・・・・・それ遠まわしに私のことデブって言ってる?」

「お前はデブの180度逆の体型だろうが。健康的でよろしい」

「ゴホン・・・・・・そんなことはおいといて。とりあえず、試験は8時から開始だからそれに間に合うように・・・・・・」

「ゲームをすればいいんだな!」

私はパソコンの画面に向き合い、電源を付ける。

ついでに、ブルーライトカット眼鏡も装着する。これつけないと目が疲れるんだよねー。

「うんうん。じゃあ私もやろうかな~・・・・・・って違う!」

おぉ、なかなかのキレのよさ。大阪で芸人になってきな。

「ちっ、だまされなかったか」

「いや、朝からゲームするってすごいね!? どういう家庭環境で過ごしてきたの!?」

「こんな家庭環境ですよ。触れてほしくなかったけど・・・・・・」

「・・・・・・ごめん」

「別に良いけどさ。じゃあ準備するか。何が必要なんだ?」

「鉛筆と、消しゴムと、300円分のお菓子と・・・・・・」

「約1つ余計なものが混じってるな」

「食べる?」

黒く細長い物体を差し出してきた。

「酢昆布って・・・・・・お前なかなか渋いな」

日菜の手から酢昆布を受け取り、口に放り込む。

「美味いな」

「ほかにもいろんなお菓子があるから、好きなだけ食べてね」

そう言って、日菜はリュックサックの中から大量のお菓子を取り出した。もはやここで駄菓子屋を開けるんじゃないかってぐらいの数を。

「お前それ、300円どころか300000円レベルの数だろうが」

「実家からたまに送られてくるんだ」

「普通、野菜とか米とか、洗剤とか渡すものだろう・・・・・・」

ぐぅ~・・・・・・

「・・・・・・腹減ったのか?」

「うん。朝から何も食べてなくて・・・・・・」

「「焼きそばドカーン」と「焼きそばUSO」あるけどどっち食いたい?」

正直に言うとどっちも美味いんだけどな。私なら両方食べたいけど。

「朝からカップ焼きそばって・・・・・・不摂生にもほどがあるよ・・・・・・」

「そうか? 私はいつもこんな感じだが」

「そんなんだからいつも不健康って言われるんだよ!? 小学校のときとか中学校のときの採血とかお医者さんにめっちゃびっくりされたでしょ! まぁ、体型と歯だけは健康だからまだ良い方だけど・・・・・・」

「お前は私の妻か」

「なれるものならなりたいよ?」

日菜はグイっと顔を近づけてきた。

「なっ・・・・・・! てか顔近い・・・・・・」

こういうところを恥ずかしげもなくスッと言えてしまうところが、たまにずるい。こいつの心はどこまでも純粋で澄み切ってるよ。

「実ちゃん? 顔真っ赤だよ?」

「~~! と、とにかく! さっさと朝飯食べよう!」

「カップ焼きそばは無しでね?」

「じゃあ、私の得意料理でもてなしてあげよう。絶対びっくりするぞ?」

「実ちゃんが作った料理なら何でも食べたいよ」

「はいはい。じゃあ30分ほど待ってろ」

朝だから時間かけてられないからな・・・・・・

そう思い、台所に向かおうと部屋を出た瞬間、日菜は私のズボンのすそを引っ張ってきた。

「あ、私も手伝うよ」

「いや、余計なことはするな。お前の料理の腕前はひどいからな。おとなしく部屋でゆっくりしていろ」

「そんなぁ~・・・・・・実ちゃんひどい!」

「お前の料理の腕前のほうがひどいわ!」

説明しよう! 神楽日菜、彼女の料理の腕前は食べた者は確実に食中毒になるレベルなのだ! 今まで彼女の料理を食べて、病院送りになった者は数知れず・・・・・・おそろしや・・・・・・

「しょうがない・・・・・・じゃあ部屋で待ってるね」

不満そうな顔をしながらも、きちんと正座するところは素直でよろしい。

「あぁ。そうしてくれ。犠牲者を出さないためにも」

私は心の中でそっと犠牲者の追悼をした。


30分経ちました。

「ほい、ラーメン一丁」

「結局麺なのかい!」

「だってラーメン美味いし。腹にたまるし、食いやすいし」

「まさか、麺から自分で作ったの・・・・・・?」

「あぁ。少し前にラーメンを1から作るのにハマってな。作りすぎて消費に困っていたところだ。ちなみにスープも私特製だ」

「すごいです、オヤジ!」

「私、女なんだけど。あとまだ若いし」

一発顔面にヘアービンタくらわせてやろうか? 何年間も髪を切らずに伸ばし続けた髪の長さなめるなよ? おかげで髪を下ろした状態だとふくらはぎまで届くようになってしまったよ。

「実ちゃんは髪の色はきれいなのに・・・・・・そんな薄いカフェオレみたいな色なんだから、もっと丁寧に手入れしなきゃだめだよ」

「薄いカフェオレって・・・・・・それ褒めてるのか?」

「味じゃなくて色のことだよ。かわいい色なのに・・・・・・」

「だったらお前もその髪の色すごいと思うのだが」

髪の色薄ピンクって・・・・・・まぁ深く触れないでおこう・・・・・・

「お前にはロングヘアーも似合うと思うぞ」

「ロングだと髪の手入れがめんどくさいの。実ちゃんは全然手入れしてないのにいいにおいするよね」

「そのセリフ、お前が男だったら確実にこの部屋の窓から放り出していたからな?」

「ここ2階だよ!?」

「どうでもいいけど、ラーメン伸びるぞ」

「確かに。いただきまーす!」

「はいどうぞ」

ズゾゾゾ

「実ちゃんの料理はやっぱりおいしいね!」

「それはなにより。でも本当のラーメン屋のラーメンのほうが美味いと思うけどな」

「ズゾゾゾ」

うん、聞いてないな。

でも、こんなに美味そうにラーメン食う人なんて初めて見たな・・・・・・

今までは、料理を作っても自分ひとりで食ってたから、他人の感想が分からなかったな。

たまには誰かと一緒に食事をするのもいいかもしれない。

「・・・・・・食うか」


「ごちそうさまでした!」

「お粗末さまでした。じゃあ食器片付けたら試験行くぞ」

「じゃあ食器は私が!」

「やめろ、(多分)世界で一番調理実習で皿を割った女。ギ○ス世界記録に登録してもらえ。」

「世界で一番って・・・・・・まだ60皿しか割ってないよ!」

日菜は腕を組みながら自信満々に言う。

「多分お前がファミレスの皿洗い担当したら、2秒でクビになるだろうな」

あぁ・・・・・・ファミレスで日菜が店長に土下座している姿が目に見える・・・・・・


「皿洗い終了・・・・・・お前何やってんの?」

「え? ゲームやってみたかったから」

「ちょっと待て、お前負けまくったか・・・・・・?」

「うん。それがどうかした?」

私は急いでゲームの画面を確認する。

「ランク・・・・・・下がっとる・・・・・・!」

最悪だ・・・・・・

「いや、お前に怒ってもきりがない。諦めるか・・・・・・」

「諦めるな・・・・・・諦めるな!」

「今すぐお前の左足切断してやろうか?」

「ごめん、謝るからスプラッターショーをするのはやめて」

「ところで今何時?」

「あー・・・・・・」

腕時計で時間を確認する。

「7時半・・・・・・」

「・・・・・・タクシー呼ぶ?」

「頼むわ」


タクシー内

「外に出たなんて、何年ぶりなんだか・・・・・・」

窓を見つめながら言う。今の季節は冬。通りで寒かったわけだ。

「じゃあ外に出た記念に、今度遊びに行こうか!」

「やめてくれ、物事には順序ってものがある」

「そう・・・・・・」

だぁぁ~~! そんな悲しそうな顔をするな! 罪悪感でおぼれてしまうから!

「分かった、いつか行こう! な?」

スーパーでお菓子をねだる子供をなだめるように日菜をなだめる。

「あ、着いたよ」

オイ。

「・・・・・・広いな・・・・・・私の想像以上だ・・・・・・」

学園都市・・・・・・いや、そんな言葉ではぜんぜん足りない。

もはや小さな国家といってもいいレベルの大きさだ。

「おぉ、学園内をタクシーが走ってる・・・・・・」

「この学園は「天地学園」。何でもある、何でも出来る。そういう学園だよ。ちなみに、学園内を移動するには専用の学園内専用のタクシーとかバス、電車や新幹線もあるからね?」

「それは後で聞くけど、試験は?」

「第8校舎・50階だよ。がんばってね」

50って何だよ・・・・・・東京ス○イツリーの階数、29だぞ?

「あ、言い忘れたけど、試験まで残り時間10分だよ」

「それを早く言えよぉーーーー!!」

力の限り走る。信じられているから走るのだ。気のいいことなど言ってられぬ! 走れ!実!


3時間後

「お疲れ様。試験の結果発表は、30分後だよ。合格発表と同時に、制服の採寸もして、当日に受け取るからね。そして次の日から登校だよ」

「早いな」

とは言っても、さっき朝飯食ったばっかりだから、腹減ってないんだよな・・・・・・

「野原で昼寝でもする?」

「いいなそれ」


野原

「きれいな緑が広がってるな。現代社会にこんなきれいな野原があるなんてな」

「へへーん! もっと褒めてくれてもいいんだよ?」

お前の学校ではない。

野原に寝転がり、手を後ろに組む。草の感触がとても気持ちいい。部屋の中では決して味わえなかった感触だ。

・・・・・・うん、だが寒い。雪が降ってなかっただけまだましか・・・・・・

「どう?」

横にスッと日菜が体操座りをする。

「・・・・・・気持ちいい」

「・・・・・・日菜・・・・・・」

ぷるるるる

タイミング悪すぎだろ。何でこのタイミングでくるわけ?

とかい言いつつも電話に出ないのは失礼なのできちんと電話には出る。

「はい、秋雨です。・・・・・・はい。はい。ありがとうございます。ではまた」

「どうだった?」

「ん? 合格。首席」

「首席!?」

日菜が勢いよく立ち上がる。

一瞬パンツが見えたが言わないでおいてやろう。

「首席だから、2次試験も、面接もパスだって。だからこのまま入学決定」

「あいかわらずすごい頭脳だね・・・・・・でも、制服と教科書買えば、完了だね」

「首席だから教科書代と制服代は免除。ラッキー」

心の中でそっとガッツポーズをする。

「実ちゃん、まずはおめでとう」

「あぁ。ありがとな・・・・・・おわっ!」

日菜がいきなり抱きついてきた。

「おい・・・・・・皆見てるから。やるなら家でやってくれ!」

「うん! 約束だよ?」

私たちは小指を絡ませ、小さな約束をした。


その後、制服の採寸をし、教科書を受け取り、私たちは帰路についたのだった。


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