マダミス HO読み込みフェーズ

 配布されたHOハンドアウトを見て最初に目に飛び込んできたのが『犯人』の2文字。


 うわっ、犯人か……。


 急に気が重くなってきた。


 初めての推理ゲームだしうまくできるかわからないけど……。


 ま、頑張るか……よし!!


 ここから15分間の読み込み時間を使ってキャラクターの深掘りをすることになる。


 あんまり時間はない。


 じゃあ、HOハンドアウトをしっかり読んでみるか……って、うん?


『あなたはこの事件の犯人かもしれない』


 ……


 なんだその中途半端な文言は?


 そう思って、もう少し注意して文章を読んでみると。





ーーーーー

【この事件について】

 あなたはこの事件の犯人かもしれない。

 ただし、あなたが当主を殺害した場所から死体の位置が移動している。

 誰かがあなたを庇っているのか、それともあなたは当主を殺害できていなかったのか。

 屋敷の中を調査し、見極める必要がありそうだ。

ーーーーー





 ……ほぅ。


 なるほどね。


 『当主』とは、今回の事件の被害者でありアキトの実の父親だ。


 ここから読み取れることと言えば、アキトというキャラクターは自分が父親を殺害したと思っている、ということ。


 でも、なぜか死体の位置が変わっている……と。


 つまり『父親を殺害できていなかった』もしくは『アキトの他に誰かが死体の位置をずらした』って考えられる。


 だから犯人っていう表現になるんだね。


 HOを読む前までは3人用のシナリオだから犯人見つけるの簡単そうだと思ってたけど『自分が犯人か、そうでないか』も見極めながら議論を進めないといけないわけだから、意外とそう簡単にはいかないかもしれない。


 はてさて、なぜこの子が実の父親の殺害を決意するに至ったのか。


 次を読んでみよう。





ーーーーー

【人物背景】

 あなたは、生まれつき右目がないため見えない。

 そしてあなたの双子の弟であるカズトは左目がないため見えない。

 片目が見えないこと以外は特に不自由のない自分とは違い、弟は病弱な体質だった。

 『温厚な性格の弟を兄として守ってやらないと』と、あなたはそう思っていた。

 当主である父は薬剤師の資格を持っており、カズトの治療を自作の調合薬で行っていた。

 年々、弟が衰弱していっているように思えたが、父に任せておけば心配はない。

 11年前に何者かに襲われ植物状態となった母もいつか目を覚ますと、そう思っていた。

 1年前に屋敷が全焼した──その日までは。

 この火事で母は死に、カズトは行方不明になった。

 カズトは1年経った今でも発見されていない。

 体が弱く片目が見えないカズトが1人で生きているとは思えない。考えたくはないが、生存している可能性は極めて低いだろう。

 カズトの左目用の眼帯は今も形見として持っている。

 あなたは火事があったその時、偶然3つ年下の妹であるトーカと共に男執事を連れて屋敷の外に出ており無事だった。

 屋敷の中にいた父を救出した女使用人のメイは軽い火傷を負ったが命に別状はなかった。

 屋敷が再建されるまでこの1年間、あなたは男執事、そして父とともに別荘に遭難することになった。

 妹のトーカは生まれつき両目が見えないこともあり女使用人の家で世話になることになった。

 2人の家族を失うことになったあの火事は、あなたの心に深い傷となって残った。


 1年前の火事は、ただの事故だったのだろうか。

 あの日、屋敷にいた父なら火事について何か知っているかもしれないが、何度話を振っても話をしてくれなかった。

 もしかしたら、父が書いている日記になら何か書いてあるかもしれない。

ーーーーー





 いろいろ不穏なことが書いてある。


 まず、メナシ家の子どもたちはみんな目に欠陥があるということ。


 アキトは右目、カズトは左目、トーカは両目が生まれつき見えない。


 メナシ家……目無めなし家ねぇ……。


 そして、10年前に母親が襲われ植物状態になってしまったということ。今回の事件と直接関係はなさそうだが、なにか繋がりがあるのだろうか。この時の犯人が誰なのか、まだわからない。


 1年前の火事もそうだ。誰が火を点けたのか。普通に考えれば行方不明になった弟のカズトなんだろうけど。


 この火事で母親が亡くなった。弟もいなくなった。アキトはこの火事にある種のトラウマを抱いているのかもしれない。


 ここまで読んでまだ、アキトが父親を殺害する動機が見えてこない。


 人物背景的には家族思いの子なんだろうとは読み取った。


 行方不明になった弟を兄として守ってやらないと、って思っていたり。描写はないが、両目の見えない妹に腕を貸して庭を散歩している兄貴としての姿が容易に想像できた。


 母親については、この子はどう思っていたのだろうか。


 アキトが何歳なのかは書いていないが、母親が10年前から寝たきりということは、あまり母親との思い出がないのかもしれない。


 父親には、ある一定の信頼を置いている様にも思える。


 まだわからないことがいっぱいだ。


 次。




ーーーーー

【事件前日】

 あなたは再建された屋敷に当主である父と男執事と共に最初に着いた。

 後から来たのは2人の女性。女使用人と見知らぬ少女だ。

 少女はスバルと名乗り、女使用人の1人娘で、使用人見習いとしてトーカの世話をするという。今日は荷運びのためトーカは明日屋敷に来るそうだ。

 挨拶を済ませ、新しい屋敷を見て回る。

 どうやら屋敷の間取りは1年前と変わらないようだ。

 明日、父の日記を探してみよう。

ーーーーー




 使用人見習いの少女、スバルと出会ったのはどうやら事件の前日が初めてらしい。


 だから、会ってからまだ1~2日しか経っていない。


 彼女が一体何者なのか、屋敷再建までの1年間スバルと一緒に暮らしていたトーカなら詳しいかもしれない。


 アキト関連でキーとなるのは人物背景にもあったように『父の日記』だろう。


 殺害の動機は、これかもしれない。


 次。





ーーーーー

【事件後の所持品】

 1、右目用の眼帯

   アキトが普段から使用している片目用の眼帯。

   動物のかわでできており、光を全く通さない。

   現在、右目に着けている。

 2、左目用の眼帯

   カズトが使用していた片目用の眼帯。

   動物のかわでできており、光を全く通さない。 

ーーーーー





 『右目用の眼帯』は自分の物。『左目用の眼帯』は弟のカズトの形見だっけか。


 この情報を開示するタイミングがあるのかわからないが、バレたところで、という気がする。


 どうだろう。


 次は、ミッションか。





ーーーーー

【あなたのミッション】

 1、自分が犯人として投票されない

  →真犯人が自分以外にいた場合、その人に投票する

  →+5点


2、11年前、母に何が起きたのかを明らかにする

 →エンディングまでに証拠となるアイテムを回収する

 →+5点


3、1年前の火事の真相を明らかにする

 →エンディングまでに証拠となるアイテムを回収する

 →+5点

ーーーーー





 ふむふむ。


 個人ミッションの内容は意外とシンプルかな。


 1つ目のミッションは自分が犯人だった場合は逃げ切る、犯人じゃなかった場合は犯人に投票する。


 これは分かりやすい。


 2つ目のミッションは11年前、母に何が起きたのかについて。この文面を見る限り、真相がわかるアイテムがあるみたいだ。それをエンディングフェーズまでに回収できれば達成だ。


 3つ目のミッションは1年前の火事の真相について。これも2つ目のミッション同様に、真相がわかるアイテムをエンディングまでに回収できれば達成みたいだね。


 15点満点目指して頑張るか。


 次はいよいよ、事件当日の動きだ。


 アキト、キミがどういう経緯で父を殺害するに至ったのか。教えてくれ。





ーーーーー

【事件当日の動き】


【19:20~】

 食堂で全員で食事。

 19:50

 父と同じタイミングで食事を終えた。

 父は食堂を出て風呂場の方面へ向かった。

 いまなら父の部屋に入れるはずだ。



【19:55~】

 父の部屋に入り、机を漁ると父の日記がすぐに見つかった。

 中身を見るとそこには10年前に母に起きた出来事と1年前の火事の真実が記されていた。

 このとき、父に対する殺意が芽生え日記の内容を忘れるほど頭の中が憎しみでいっぱいになった。



【20:10~】

 父の部屋を出て自室に戻る途中、杖を片手に西階段を1人で壁伝いに上ってくる妹のトーカと遭遇した。

 「スバルが過保護だから内緒で屋敷を回りたい」

 そう言ってきたため、2階を自分の部屋から時計回りで案内した。

 20:30

 案内を終え、西階段から降りトーカを部屋へ送った。



【20:32~】

 西階段を上り、そのまま自室には戻らずに電気室へ向かう。

 23時ちょうどに停電になるようブレーカーに細工を施す。

 その後、自室へ戻った。



【21:05~】

 自室に父が来た。

 「私の日記を知らないか」

 そう聞いてきたが「知らない」と嘘をついた。

 「別荘に忘れてきたか、自分の荷物に紛れているかも知れない」と言っておいた。

 これでこの部屋から日記が見つかっても言い訳はできるだろう。

 21:15

 「見つかったら教えてくれ」と言い残し、父は部屋から出ていった。



【21:40~】

 自室で殺人計画を練っていると、床からコンコンと音がした。真下の部屋にいるトーカが杖で天井をつついた音だろう。

この音は昔から、トーカが風呂から上がったという合図だ。

 21:44

 風呂に入る準備を整え部屋を出て西階段を降りると、ちょうど階段を上がろうとするスバルと会った。

「当主の部屋に行く」

 そう言っていた。



【21:46~】

 風呂に入ってしばらくすると、頭上から物音が聞こえてきた。風呂場の頭上だと父の部屋だ。

 日記が見つからなくて怒っているのだろうか。



【22:10~】

 風呂から上がりキッチンへ向かう途中、東階段にある人物画の目が動いた気がしたが気のせいだろう。

 キッチンで殺人に使う包丁を回収し、東階段から2階へ上がる。

 その途中、人物画を近くで注視してみたがやはりなにもおかしくないようだ。



【22:20~】

 ベランダで外部の犯行に見せかけるための準備をする。

 カーテンを二つ繋げてベランダから外に垂らす。

 22:33

 西階段から誰かが上がって書斎の方へ行ったようだ。

 軽快な足音からしてトーカではないはずだ。

 カーテンを伝い玄関に降り、わざと外から鍵をこじ開け、再びカーテンを伝いベランダに戻る。

 22:50

 23時まであと少し。

 停電になった時に動きやすいよう左目をカズトの眼帯で覆い、暗闇に慣らしておこう。



【22:58~】

 誰かが東階段から降りていった音がした。

 この足音は父だ。

 23:00

 時間通り停電になった。

 「私が直します」というスバルの声が1階のキッチン方面から聞こえた。

 眼帯を外し西階段から1階へ降りるとホールにいる父が暗がりの中はっきりと見えた。

 父の背後にそっと近づき、その背中に包丁を突き立てた。

 「うがっ」といううめき声を上げ、父が床に倒れ伏せる。

 動きを止めた父をその場に残し「ガチャッ」と音を立て玄関から外に出て、カーテンを伝いベランダに戻った。



【23:10~】

 垂れ下げたカーテンを元に戻す。

 その途中で停電が直った。

 自分用の眼帯をつけ直す。

 23:18

 ベランダから自室に戻ろうとすると、電気室から出てきたスバルと会った。

 「寝る」と一言告げ、部屋に入りすぐに眠りについた。

 扉を閉める際にチラッとスバルを見た時、吹き抜けから1階のホールを見ている様子だったが何も言わなかった。

ーーーーー





 ……めちゃめちゃ動くじゃん、キミ。ちゃんと犯人してるじゃん……キミ。


 ブレーカーに細工したり、外部の犯行に見せかけるために玄関のカギをぶっ壊したり、ベランダから1階と2階を行き来したり。


 あと、父の背中に包丁を突き刺すっていう結構な致命傷を負わせてる。


 ……うん。キミが犯人だよ。


 いろいろツッコミ所は多いけど、一番は『19:55~』。


 やっぱり、殺害の動機は『父の日記』みたいだね。


 きっと『10年前に母に起きた出来事』と『1年前の火事』のどちらにも父が何らかの形で関わっているのだろう。


 でも、怒りのあまり日記の内容忘れるってどういうこと……。


 メタ的な解釈をすると、今回のミッションで火事の真相を明らかにしなければいけないから、かな、とは思うけどね。


 まぁそこはいいや。ちょっと言い訳が大変そうだけども。


 もし協力者がいるのであれば、トーカかスバルで言えばスバルだろう。


 時系列で言えば最後の『23:18』。吹き抜けから1階のホールを見ているスバルが何も言わなかった点。


 死体はホールにあるはずで、ここで何も言わないスバルが協力者である可能性が高いと思う。


 でも、23:10~23:18の間に死体が移動しているならその限りではないかな。


 その場合は妹のトーカが協力者だろう。


 アキト視点で行動が見えないのはトーカも十分怪しい人物ではある。『20:30』に会って以降の視認はないからね。


 うん。


 わっかんね。


 もう1回読み直して見るか。


 アキト。


 家族思いの長男。


 感情移入はしやすいかな。


 今から俺は指宿アキラじゃなく、メナシアキトだ。



 そうして、何度か反芻しているうちに15分が経過した。




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