閑話 とある配信での一幕

【マイナークラフト】3人コラボ!! お家クラフト対決!!《一円。》

同接:423人


 画面に映るのは、見渡す限りの緑色の地面と真っ青な空。


 ここはすべてがブロックでできた世界。【マイナークラフト】というゲームの世界だ。


 それも、クラフト用共有サーバーのため、無限に続く平坦な地面とサーバーの主が1人で作ったいくつかの人工物のみが存在していた。


 普段1人しかいないこのサーバーには現在、3つの人影があった。


「いちえんじゃないよ、いちまどかだよっ!! というわけで、今日はいつもの3人で【マイナークラフト】やっていくよー!! はいじゃあミサキちゃん、自己紹介どうぞ!!」


 赤髪ポニーテールを模したブロックアバターがハキハキと喋る。


 『一円。』。


 このサーバーの主である。


 普段この共有サーバーを1人で遊んでいる彼女は、最近よく絡むようになった2人の友達を呼ぶことに成功していた。


 マドカはサクッと自分の紹介を済ませると、隣にいる黄色いアバターにバトンを繋ぐ。


「ええ。ワタクシがお嬢様系VTuberの伊崎いざきミサキですわ。今日はまどかさんのワールドに招待されて【マイナークラフト】をやっていきますわ。なにやらお家を作って誰が一番かを競うみたいですけれど、まぁ、ワタクシが勝つのは間違いないですわね。それでは井川さん、次はあなたの番ですわ」


 金髪ドリルツインテールを模したブロックアバターが朗々とした口調で話す。


 『伊崎ミサキ』。


 普段は人狼系のゲームを中心に配信している彼女は、つい先ほど【マイナークラフト】をダウンロードしたばかり。


 操作が覚束おぼつかないながらも、自信だけはあるようだった。


 そんな彼女も自己紹介を済ませ、最後の1人にたすきを繋ぐ。


「……ゲーム配信用アンドロイド井川#111。今日は戦車じゃなくてクラフトゲームやる。……ポンコツ2人には負けない自信がある」


 青髪ショートカットを模したブロックアバターが、中性的な、抑揚のない声で淡々と喋る。


 『井川#111』。


 普段配信では戦車のゲームばかりをやっている彼(?)はしかし、このゲームをプレイしたことがあるようで、2人の前で空を縦横無尽に駆け回っていた。


 クリエイトモード。


 マップ移動は歩きで、アイテム0所持から始まるサバイバルモードとは違い、空を自由に飛び回りどんなアイテムも最初から所持し、かつ無限生成できる特殊なモードで、生き残ることよりも自由に創作することを目的としたモードだ。


「ポンコツじゃないやい!!」

「……なぜワタクシまでポンコツ扱いなんですの?」


 開幕いきなりポンコツ認定された2人が納得がいかないとばかりに抗議の声をあげる……が、そこに怒りのニュアンスは全くなく、この気兼ねないやり取りから3人の仲の良さが見てとれる。


 そんな彼女たちの様子をマドカの視聴者たちは感慨深げに眺めていた。



コメント:遂にこのワールドに。以外の人がっ!!

コメント:ずっとぼっちだったからなぁ

コメント:。も成長したなぁ

コメント:。が本体定期

コメント:ゆーて最近よく見る2人やん

コメント:この3人の組み合わせすき

コメント:井川くんはすごい家作りそう

コメント:え?井川って『くん』なのか……女の子だと勝手に思ってたわ……

コメント:ん?アンドロイドに性別なんてないよ?

コメント:あ、はい

コメント:お嬢は美的センス(笑)だからなぁ

コメント:本気で分かってなさそう

コメント:お嬢様、人狼ゲーム以外だいたいポツコンだからそのギャップがまたいいわ



「はい、じゃあ今日は3人でそれぞれマイハウスを作って勝負するよ!! 制限時間は1時間!! どこにどんな家を作ってもいいけど、未完成でも1時間で完成したところまでだからね!! いい? 2人とも?」

「ええ、ワタクシは準備できていますわ」

「……だいじょぶ」

「OK? それじゃあ始めるよ? レディ……ゴー!!」



◇◇◇



コメント:そろそろ3人のユニット名とか決めないの?



「『3人のユニット名決めないの?』だってさ」


 しばらくして、3人で雑談しながらそれぞれ自分の家を作っている最中、マドカが自配信のコメントを話題にあげた。


「ユニット名……ですか?」

「……必要?」

「必要だよぉ。だってさ、動画タイトルに『3人コラボ』って書くよりも『◯◯◯』ってこの3人のユニット名書く方がカッコいいじゃん?」

「カッコいいかどうかはさておき、ワタクシたち3人を的確に表現する名称があれば、覚えてもらいやすい、つまり売り込みやすいということですわね」

「いやそこまで考えてはないんだけどさ……」



コメント:あった方がいいんじゃない?

コメント:こっちも検索しやすいしね

コメント:。は相変わらず何も考えてなくて草



「ユニット名ってどうやって決めたらいいのかな?」

「……よくあるのは、それぞれの名前の頭文字を組み合わせるとか」

「あー、確かにそういうの結構多いかも」

「メンバーの頭文字を組み合わせるやり方は逆もそうですが『ユニット名』から『メンバーの名前』を連想できますからね。覚えてもらいやすいという点では非常に優秀ですわね。ただ、欠点としては変な名前になってしまうことが多々ある、ということですわね」

「……この3人なら『いいい』」

「あっはは!! なんかダサいね!!」


 あーじゃないかこーじゃないかと話を続けていると、ふと、こんなコメントが流れてきた。



コメント:「いいい」は流石にセンスないからちょっと捻って「iアイ」の3乗で「アイキューブ」ってのはどう?



「『アイキューブ』?」

「どうかしましたの? マドカさん」

「いまコメントで『アイの3乗でアイキューブはどう?』って流れてきたんだけど……どういうこと?」

「英語で2乗はスクウェア、3乗はキューブ。だからiアイの3乗でアイキューブってことですわね」

「……むぅ。いいセンスしてる」



コメント:天才か?

コメント:ちょっと待って俺も理解が追い付いてないんだが

コメント:i × i × i ってことかな

コメント:ほほぅ

コメント:まてまて。アイキューブで検索したらめっちゃヒットしたわ


「……いま調べてみたけど、アイキューブって検索すると似たようなやついっぱい出てくる」

「コメントでもそんなこと書いてる人いるね」

「検索かぶりは避けたいですわね」

「うーん……あ!! それならさ、アイキューブのお尻の『ブ』を部活動の『部』にして『アイキュー部』ってのはどう?」

「……それなら、ヒットしない」

「いいですわね。それに、部活動みたいで少し可愛いらしくなりましたわ」

「決まりだね!! はい、じゃあ、あたしたち3人のユニット名は『アイキュー部』で決定だね!!」



コメント:おー!!

コメント:アイキュー部、覚えた!!

コメント:全員頭文字が『い』っていうのだけ分かった

コメント:いいんじゃない?



◇◇◇



「はい!! それじゃあ1時間経ったから、皆の家を見ていこっか!! 誰からいく?」

「わ、ワタクシは後にしますわ」

「……なら、ボクから」

「了解!! じゃあ、見ていく順番は『シャーくん』→『ミサキちゃん』→『あたし』で!!」


コメント:視点の端でチラチラ見えた限り、お嬢……

コメント:楽しみだ!!

コメント:シャーくんって誰?

コメント:#(シャープ)くん = 井川くん

コメント:あー?

コメント:呼び方独特すぎるw


 井川が案内する先にあったのは、3階建ての一軒家。


 シンメトリーな外観と統一感のある色は、アンドロイドの正確さを物語っているようだった。


「おー、なんかA型って感じの家だね」

「い、1時間でここまで作れるんですの?」

「ほえー、中も綺麗だね」

「そ、外だけじゃなく中までこんなにしっかり……」

「……えっへん」


コメント:すげぇ

コメント:家具とかめっちゃ丁寧だね

コメント:お嬢様?

コメント:これはマドカ負けたな



「じゃあ次はミサキちゃんのお家だね!!」

「え、ええ……」

「……?」


 やや落ち込んだ様子のミサキが案内する先には、広い敷地に公園の水飲み場のような建造物、そして中央には犬小屋のようなものが建っていた。


「ミサキちゃん、あの犬小屋みたいなちっちゃいお家ってもしかして?」

「ワタクシのお屋敷ですの」

「……ミサキ、この公園の水飲み場みたいなやつは?」

「噴水ですの」

「ミサキちゃん……」

「……ミサキ……」

「い、いいじゃないですか!! 初めてだったんです!! 時間がなかったんですのよ!!」


コメント:先に噴水の方を作ろうとするから……

コメント:噴水だったんだこれ

コメント:犬小屋の方は最後の3分くらいで作ってたろwww

コメント:センス……

コメント:初めてだからね、仕方ないね

コメント:なんかあれだね、虚栄心だけ一丁前の小金持ちみたいな……


「わ、ワタクシのお屋敷はもういいでしょう。最後はマドカさんですわ」

「……楽しみ」

「ふっふー。それじゃあ諸君、ついてきたまえ!!」


 自信満々のマドカが案内するその先には、ごくごく普通の一軒家があった。


 ドラマのワンシーンの隅っこに映るような、漫画の背景に描かれるような、そんな自己主張のない普通のお家がそこにはあった。


「……」

「……」

「シンプルイズベスト!! 変に自己主張とかしなくていいの!! 基本が一番!!」

「優勝は井川さんで決まりですわね」

「……うん。ありがとう」

「ええーー!? なんでよー!? コメントの皆は!?」


コメント:まぁ井川くんかな

コメント:流石にお嬢様よりは上だけど1位ではない

コメント:普通すぎて評価できんわ

コメント:最下位あるぞこれ


「ええーー!?」



◇◇◇



「はい、という訳でね、厳正な審査の結果、今回の優勝はあたしに決まりました!! パチパチーー!!」

「……」

「……」

「あ、うん。優勝はシャーくんです。おめでとー」

「おめでとうございますわ」

「……ありがと」

「くっ、次こそは必ずあたしが勝つっ!!」


コメント:おめでとう!!

コメント:今日も楽しかった!!

コメント:もう終わりか、早いな


「じゃあ時間もいい感じだから、配信終わりにしよっかなって思うんだけど、告知ある人いる?」

「……ない。明日もいつもと同じ時間に戦車やる」

「シャーくんとマッチングしたい人はその時間にやってみるといいかもね。ただ配信見ながらやっちゃだめだからね!!」



コメント:ちょっと見てみるか

コメント:たまには今日みたいに戦車ゲー以外やってほしいけどな

コメント:G行為はやっちゃだめよ



「ミサキちゃんは? 何か告知ある?」

「ワタクシもいつもと同じ時間にアミアス配信があるくらいですわね……あ、そう言えばお2人に聞きたいことがあったんですの」


 マドカがミサキに話を振ると、ふと思い出したのか逆にミサキが2人に質問をした。




「お2人はマーダーミステリーってご存知ですか?」



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